27日が間に合いそうかどうかはまたここに連絡しに来ます。
「ブラスト! 『ヘル・ブレイク』!!!!!」
「どわあああああああああああああああああ!!?」
ブラストの槍の衝撃が"カタパルト・タートル”を貫通し、舞の隣に鎮座した"ペンギン・ナイトメア”を砂煙と共に吹き飛ばす。
煙の中からいち早く脱出したブラストが、構えた槍を卸してふっと息を吐き力を抜いた。
BF-黒槍のブラスト
攻 6100 → 1700
「よっしゃあ! さすが遊戯と勝利! 完璧なコンビネーションだ!」
「これでブラストの攻撃力6100から"カタパルト・タートル”の守備力2200を引いた値、3900が奴らのLPから削られる! 大チャンスだよ!」
「そのままぶっとばしちゃえ! 遊戯! 勝利君!」
「……」
遊戯と勝利の連携による一撃に、声援が場に木霊する。
しかし勝利はいまだ険しい顔で、立ち上る煙の中を見つめていた。
そしてその煙が晴れた時、勝利は、小さく舌打ちを零す。
「……ふぅ。危ないところでしたねえ」
BIG5(ジャッジマン) LP 8000 手札6枚
目の前に現れたのは、笑みを浮かべる舞の姿と、切り替わったデッキマスター、"ジャッジマン"。
「っ!!? 竜崎さん!」
「ああ、きよったな! インチキ弁護士!」
「ど、どうなってるんだ!? 勝利君の攻撃が決まったはずなのに、奴らのLPが……」
「8000のままよ!?」
「グフフフフ。私は今の戦闘ダメージの瞬間に、伏せカードを発動していましたよ。罠カード、"ガード・ブロック”」
「っ!? そのカードは……」
ガード・ブロック
罠カード
敵からのダメージを打ち消し、ドローに変換する
「あなたもよく知っていますよねえ。戦闘ダメージを、ドローに変換する。この効果で戦闘ダメージを無効化して、1枚ドローしました。残念でしたねえ」
「……ちっ。僕はこのまま、ターンエンドだ」
BIG5(ジャッジマン) LP 8000 手札7枚
モンスターなし
伝説の都 アトランティス
勝利 LP 2000 手札3枚
BF-追い風のアリゼ
守 1800
BF-暁のシロッコ
守 900
BF-黒槍のブラスト
攻 1700
伏せカード1枚
遊戯 LP 4000 手札3枚
翻弄するエルフの剣士
守 1200
伏せカード1枚
「ああ……せっかくの、攻撃のチャンスだったのに……」
「なあに、遊戯と勝利なら、すぐにひっくり返すさ!」
「……残る問題は、あの勝利と遊戯の連携が、どこまでうまくいくかっちゅう話か」
竜崎が、信頼の中に不安を綯交ぜにしたような何とも言えない表情で、そう呟く。
「……? 竜崎さん、どういうことですか?」
「本来の勝利でいうんやったら、今頃遊戯の攻撃を支えるための、献身的なサポートに回っているターンや。せやけど怒りに染まった今の勝利は、自分で突っ込んでいっとる。遊戯から勝利のサポートはうまくつながったけど、問題なのは次の遊戯のターンや」
『……勝利が普段通りに、うまく遊戯をサポートできるか。どちらが欠けたってバランスが崩れる。それこそが、タッグ決闘の神髄よ。果たして今の勝利に、それができるかどうか……』
2人で1つのフィールドで戦う。
その決闘の難しさを語る一流決闘者の2人の言葉に、まだ安心できる段階には至っていないことを理解した杏子たちが、再び不安と心配の目線を勝利たちに向ける。
「……勝利」
「……遊戯」
その一方で、5人で1つのデッキを扱い決闘を進めることの難しさを、BIG5たちも体現していた。
(大岡! まだ私のターンだったでしょう!? 何を勝手に出てきているのです!)
(あなたでは役者不足ですよ。さっさと引きなさい。今のターン、挑発した勝利をさばききれずに圧倒されたばかりでしょう)
(何を……別に私は圧倒されてなど)
(人が用意した伏せカードもモンスターもすべて使いきっておいてなんだその態度は!)
(だまらっしゃい! 私が囮になってあげたんです!)
(もういい。ここからはわたしの出番です)
「さあて、ここからはわたし、大岡筑前こと、"ジャッジマン”が相手になります」
「っ!!? あかん! あいつの効果は!」
「勝利さん!!」
その声に、勝利ははっと声を漏らして、しまったと心で呟く。
「っ!? (しまった!? 竜崎君たちから事前に奴のデッキマスター能力は聞いていたのに、不用意にモンスターを並べて……)」
「グフフフ。私のターン、ドロー! そしてデッキマスター、"ジャッジマン”の効果発動! 相手フィールドのモンスターをすべて除外し、そのモンスターの数だけ相手にダメージを与えます!」
"ジャッジマン"がガベルを取り出し、空中で打ち鳴らす。
勝利が、思わず場から目を背けた。
「食らうがいい! 『無期懲役』!」
「くっ……あ、あれ?」
勝利 LP 2000 手札3枚
BF-追い風のアリゼ
守 1800
BF-暁のシロッコ
守 900
BF-黒槍のブラスト
攻 1700
遊戯 LP 4000 手札3枚
翻弄するエルフの剣士
守 1200
おそるおそる目を開ける勝利。
しかしフィールドの状況は、奴の宣言の前と後で、何一つ変わっていない。
モンスターも、LPも、そのまままるっと残されたままだった。
「な、なぜ……なぜ私の『無期懲役』が発動しない……?」
「はっ! 残念だったな、お前のターンに回る前に、俺はこのカードを発動させてもらったぜ。永続罠カード、"王宮の鉄壁”!」
王宮の鉄壁
永続罠
互いのプレイヤーはカードを除外することができなくなる
「お、"王宮の鉄壁”ですって!?」
「貴様のデッキマスター能力は強力だからな、封じ手を打たせてもらったぜ。このカードによって、俺たちは全員、カードを除外できなくなる!」
「よっしゃ! さすがや遊戯! 奴の効果は、『モンスターを除外した分だけダメージを与える』効果! 除外ができなきゃ、発動もできん!」
「すごい! さすが遊戯さん! 私たちがあんなに苦しんだ効果だったのに!」
『サポートに回ったとしても、武藤遊戯は健在ね。遊戯の方には、心配なさそうだわ』
「さあ、次の手を打ちな。俺たちが、粉砕するぜ!」
「遊戯君……」
(ちぃ……小癪な真似を)
(変わってもいいぞ、大岡)
(引っ込んでいなさい! まだ私のターンは終わりません!)
「ならば私は、"ヒステリック天使”を召喚!」
ヒステリック天使
光属性 天使族 星4
攻撃力 1800
守備力 500
2体のモンスターを生贄に
自分は1000LP回復する
「攻撃力1800……」
「このモンスターならば、"翻弄するエルフの剣士”の効果範囲外。遊戯のモンスターを破壊できます! バトル! "ヒステリック天使”で、"翻弄するエルフの剣士”に攻撃! 『ヒステリック・アイ』!」
ヒステリック天使
攻 1800
翻弄するエルフの剣士
守 1200
エルフの剣士が剣を構える。が、そのビームを捌くことはさすがに敵わず、爆発して消えていく。
「くっ!」
「ああ……遊戯さんのモンスターが……」
「これで、遊戯のフィールドががら空き……」
『ここまでは当然よ』
悲しそうな声を漏らす女性陣2人の間で、抱かれた舞がぴしゃりという。
それを受けて、竜崎も続ける。
「遊戯は勝利のサポートに回った。だからこそ優勢を奪い取った。だがその結果罠を使いきった。次に狙われるのは当然の話や。せやから、次の遊戯のターンが重要なんや。遊戯の……そして、勝利の動きがな」
遊戯の手札は、3枚。次のドローで4枚。
場にカードがない以上、少ないわけではないが、多いわけでもない。
攻めてダメージを奪える可能性もあれば、防戦一方でダメージを受ける可能性もある。
まさに遊戯にとっての正念場。1つ目の山場だった。
「私はカードを2枚セット。これで、ターンを終了します」
(フフフ。これで遊戯のターンは万全。上級モンスターで攻めてこようとした時が、あなたの最後です)
BIG5(ジャッジマン) LP 8000 手札5枚
ヒステリック天使
攻 1800
伏せカード2枚
伝説の都 アトランティス
勝利 LP 2000 手札3枚
BF-追い風のアリゼ
守 1800
BF-暁のシロッコ
守 900
BF-黒槍のブラスト
攻 1700
伏せカード1枚
遊戯 LP 4000 手札3枚
モンスターなし
王宮の鉄壁
「……俺のターン、ドロー! (……"ジェスターコンフィ"……)」
遊戯は自分のドローを確認した後、ちらと勝利を横目に見る。
勝利は真っすぐに前を見据え、こちらに目を向けやしなかった。
(……"ジェスターコンフィ"とこのカードを使えば、今の奴を攻めることができる可能性はある。だが、それは少し部の悪い賭けで、しかもこのカードの発動には勝利君を巻き込むことになる。ここは当初の予定通り、勝利君の攻めをサポートするためにもおとなしく……)
「……僕はここで、伏せカードを発動!」
「っ!?」
「罠カード、"貪欲な瓶”」
貪欲な瓶
罠カード
墓地のカード5枚をデッキに戻し、1枚ドローする
「このカードによって墓地のカードを5枚デッキに戻し、カードを1枚ドローする」
「……勝利君?(なぜ、このタイミングでそのカードを……)」
「僕が墓地からデッキに戻すのは……"ゴッドバードアタック”、"翼の恩返し”、"スワローズ・ネスト”、そして……"BF-尖鋭のボーラ”と、"ブレイクスルー・スキル”だ」
「……ボーラに、ブレイクスルー・スキル?」
『そっか、"ブラックフェザー・ドラゴン”のデッキマスター能力で、墓地に行ったカードたちね』
BF-尖鋭のボーラ
闇属性 鳥獣族 星5
攻撃力 1900
守備力 300
墓地に存在する場合このカードをゲームから除外し、一度だけBFの戦闘を手助けする。
ブレイクスルー・スキル
罠カード
このターン、相手モンスター1体の効果を無効化する
このカードが墓地に存在する場合、自分のターンにもう一度発動できる
「デッキをシャッフルし、1枚ドロー……全く、せっかく次のターンにこのカードたちを使って相手を攻めようと思っていたのに、"王宮の鉄壁”でできなくなっちゃったよ」
「っ!!?」
嫌味のように言い放つ勝利に、遊戯は、不快感よりも先に驚愕の表情を向けた。
未だ勝利とは目が合わずに、その表情の全ては読み取れない。
(なんだ……? 勝利君……?)
「……勝利のやつ、何言ってんだ?」
「さっきの遊戯君のカードの発動は、ファインプレイだっただろ。あの効果が発動してしいたら大ダメージを受けていたのは、モンスターを展開していた勝利君の方だ」
「勝利君、どうしちゃったのかしら?」
「……遊戯君。さっきのターンは助かった。だけど奴らを倒し、舞さんの身体を取り戻すのは、僕だ。君は攻撃なんて考えずに、僕のサポートだけを考えていればいい」
「っ!!!!? 勝利君……」
「はっきりと言う。余計なことはしないでくれ」
「おいおいおい!? どうしちまったってんだよ! 勝利!?」
「やっぱり勝利君、自分の力だけであのBIG5たちに勝とうとして……」
「無茶だ! あいつらは、決闘の腕前は確かなんだ! 1人で戦って勝てるわけはない!」
「……勝利さん」
「……慣れんことしてるのは、間違いないやろうけどな」
『……勝利』
ざわつきだす本田たちと対称的に、BIG5たちは舞の体の中で笑いあっていた。
(ンフフフ。やはり私の挑発が効いているようですねえ)
(勝利は怒りのままに攻めてくる。さっきのターンはたまたまうまく決まっただけで、そのうちにぼろが出てくるだろう。いや、それ以前に、奴らの仲間割れで自爆をする可能性だって考えられる)
(大岡、ここがチャンスだ。逃すなよ!)
(当然、わかっていますとも)
不安。
愉悦。
相反する思いが頭上で錯綜する最中、今一番心をかき乱されているのは、遊戯だった。
それを察してか、遊戯の心に、もう一人の遊戯の声が響く。
『……もう一人の僕。勝利君には、何か考えがあるんだ』
(ああ、わかっている……たとえ舞の事でいっぱいいっぱいになっていたとしても、怒りで我を忘れてしまっていたとしても……勝利君が、あんな言葉を使うはずがない)
そして遊戯は、自身の手札を睨みつける。
(探せ……勝利君の言葉の意図を。勝利君が俺に、何を託そうとしているのかを)
「……俺は手札から、"ジェスターコンフィ"を特殊召喚だ!」
ジェスターコンフィ
闇属性 魔法使い族 星1
攻撃力 0
守備力 0
このカードは手札から攻撃表示で特殊召喚できる
特殊召喚した場合、次の相手エンドフェイズに相手の表側表示モンスターと表側表示のこのカードを手札に戻す
「……そして俺は魔法カード、"手札抹殺”を発動!」
「"手札抹殺”ですと?」
「……」
手札抹殺
魔法カード
お互いの手札をすべて捨て、同じ枚数分カードをドローする
「手札のカードをすべて捨て、その捨てた枚数分だけカードをドローする!」
「……全く。まさかそれで、上級モンスターを引こうって心づもりなの? 人の手札を巻き添えに葬っておいて……」
「……すまない。勝利君」
「君のギャンブルに、僕を巻き込むなよ。遊戯君」
(フフフ。チームワークに乱れが生じている。ここは放っておいても問題ありませんね)
もめる勝利たちを愉悦の表情で眺めながら、大岡はすべての手札を墓地に置く。
それを見て、倣うように勝利と遊戯も手札を捨てた。
「私は、5枚」
「僕は、4枚」
「俺は、2枚だ」
全員が、カードを引き直す。
そして全員が手札を確認していると、真っ先に耳に飛び込んできたのは、勝利のため息だった。
「……本当に、やってくれたよ。この手じゃあ、どうやったって攻められない」
誰と言わずとも、明らかに遊戯に向けた落胆の言葉。
その敵意すら混じる鋭い言葉に、場の空気が一気に重苦しく変わる。
「頼むから、1人で勝手なことをしないでくれ」
そのあまりに非道な言い分に耐えかねた杏子たちが、次々に抗議の声を上げた。
「おい勝利! てめえ、なんてこと言いやがる! 勝手なのはお前の方だろうが!」
「そうよ! 遊戯はあなたの事を信じて、戦っているのよ!」
「勝利さん! いつもの勝利さんに戻って! お願い!」
「……うまく、いくんか? これ」
『……祈るしかないでしょ。こんなの、もう聞きたくないわ』
「……だが、俺は上級モンスターを引いたぜ。場の"ジェスターコンフィ"を生贄に、"暗黒魔族ギルファー・デーモン”を召喚!」
暗黒魔族ギルファー・デーモン
闇属性 悪魔族 星6
攻撃力 2200
守備力 2500
このカードが墓地へ送られた時、
相手を呪い攻撃力を下げる
BIG5(ジャッジマン) LP 8000 手札5枚
ヒステリック天使
攻 1800
伏せカード2枚
伝説の都 アトランティス
勝利 LP 2000 手札4枚
BF-追い風のアリゼ
守 1800
BF-暁のシロッコ
守 900
BF-黒槍のブラスト
攻 1700
伏せカード1枚
遊戯 LP 4000 手札1枚
暗黒魔族ギルファー・デーモン
攻 2200
王宮の鉄壁
「よし! これで遊戯もモンスターを召喚できたぜ!」
「これで相手モンスターの攻撃力を、遊戯のモンスターが上回ったわ!」
勝利にいわれっぱなしの遊戯の場が少し好転したことで、場の空気も変わると喜ぶ2人。
然しその横に立つ御伽は、未だに眉間の皺を緩めはしなかった。
「……でも、このターンに遊戯君は攻めちゃだめだ」
「えっ? 御伽さん、どうして?」
「見てみな。遊戯君の手札を」
遊戯 LP 4000 手札1枚
暗黒魔族ギルファー・デーモン
攻 2200
王宮の鉄壁
言われて皆の視線が、遊戯に集まる。
そして誰からともなく、あっ、という声が漏れた。
「遊戯君の手札は1枚しかない。このデーモンが罠で破壊されようものなら、遊戯君は一気にピンチになる。本来は勝利君のサポートがあれば、攻め込みたいところなんだろうけど……」
そして視線を、勝利に移す。
勝利は手札をまとめたまま、腕を組んで仁王立ちしている。
その姿には、遊戯を一瞥する様子すらもなかった。
「ちきしょお、勝利の野郎……」
「じゃあ、このターンは遊戯は……」
「……このターンどころか、これから先のターン、遊戯君は延々に身動きが取れない可能性すらある。僕らも経験しただろう? タッグ決闘はただでさえ自分のターンが回るのが遅いから、手札も増えないんだ。遊戯君はこれから、BIG5に狙われ続けることになる」
「そ、そんな!?」
皆の脳裏に、絶望がちらつく。
その皆の不安を感じたのか、舞の身体で大岡が楽しそうに笑う。
(フフフ……やはり私の采配で勝利をタッグ決闘に誘い出したのは正解でしたね。ここまで大きく崩れるのは想定外でしたが、おかげで遊戯が攻めようが攻めまいが、こちらの優位は崩れません)
次のターンに再び遊戯を責め立て、奴らのコンビをさらに破壊すれば、もう立て直しは効かなくなる。
そうすればもはや、勝利は目の前。
そんな風に考えてしまうほどに、場の優勢は確定的だった。
しかし、そんな考えを貫くように、場に声が響いた。
「……行くぜ! バトルだ!」
遊戯の宣言。
そしてそれと同時に、動き出すギルファー・デーモン。
「っ!? ダメだ、遊戯君! 今行ったら!?」
御伽の声が、響き渡る。
然し遊戯に、止まる様子はなかった。
「フハハハハ!! お友達の言うことを聞いて、おとなしくしているべきでしたね! 判決! 武藤遊戯は、ここで敗北です! 罠カード……なっ!!? 何ぃ!!?」
大岡が意気揚々と伏せカードに手を掛けようとしたその瞬間に、大岡の視界が羽に覆われる。
訳が分からない。といった表情の大岡。
見ている杏子や本田たちもまた、一体何が起こっているのかがわからずに呆けた表情で固まっている。
「な、なに?」
「何が起こってんだ?」
「お、俺にも何が何だか……」
「……はっきり言って、ワイにも何が起こってるかはわからんで?」
『まあ、あんたはあのカード知らないから、しょうがないでしょうけどね……全く。あんたたちは全員見たことあるでしょう。こういう、突拍子もないタイミングでこそ牙を向く、トリックカードを』
舞の言葉が響く。
その言葉を聞いても、何が何だかわからずに困惑する杏子たち。
しかし、大岡の周りで巻き上がる風の犯人を見つけてようやく、何が起こっているのかを理解する。
「あ、あれ!」
「あれは!?」
「あれって!?」
杏子が、本田が、御伽が指をさす。
その指先、竜巻の外で構えていたのは。
アリゼ。
シロッコ。
ブラスト。
勝利の、BFたちだった。
そして響く勝利の声。
その声で、杏子たちはようやく完全に状況を理解する。
勝利が動かずにやりと笑い、腕を組んだまま手札の1枚をそっとディスクに乗せる。
「……手札から、罠カード発動! フォーメーション、"デルタクロウ・アンチリバース”!」
「あっ、あのカードは!?」
「マグナムの時の!!?」
「そうか! あれなら!」
デルタクロウ・アンチリバース
罠カード
BFモンスターが、敵のセットカードを爆撃する
BFモンスターが3体いる場合、このカードは手札から発動できる
「場のBFモンスターが3体存在するとき、このカードは手札から発動できる。そして……BFモンスターが、貴様のセットカードをすべて爆破する!」
「な、なんですって!!?」
狼狽える大岡が、必死に自身のカードを確認するが、時すでに遅し。
BFたちの攻撃は、止まらなかった。
「行けっ! 必殺! 『デルタクロウ・アンチリバース』!」
大爆発に、思わず視界を伏せる大岡。
それを好機とみて、今度は遊戯が攻める。
「さあ、これで罠カードがなくなった! 心置きなく攻めることができるぜ!」
「っ!!? し、しまっ……」
「"暗黒魔族ギルファー・デーモン"で、"ヒステリック天使”に攻撃! 『
暗黒魔族ギルファー・デーモン
攻 2200
ヒステリック天使
攻 1800
『ひぃーーーーー!』
「"ヒステリック天使”、爆殺!!」
BIG5(ジャッジマン) LP 8000 ー 400 = 7600
「ぐおおおお!!!」
飛び掛かる黒い炎にその身を焦がした大岡が、舞の身体で悶える。
その様子に、勝利と遊戯が少しだけ顔を顰める。
「すまない、舞!」
『かまわないわ! こんな奴らにいいようにやられるくらいなら、いっそボロボロにしちゃいなさい! 日和って負けたら、許さないからね』
「クックック。了解」
「お、おのれ……たかが400程度のダメージで、いい気になられては困る!」
(……そうではない、大岡。貴様は、まんまとはめられたのだ。奴らの演技にな)
「え、演技ですって!!?」
内側から響いた大田の声に、舞の口から驚愕が漏れる。
それを聞いた勝利と遊戯が、同時ににやりと笑った。
「なんだ、もう気づかれちゃったのか」
「千両役者だったな、勝利君。前の君のターンからずっとか?」
「まさか。前のターンは本気で、我を忘れて突っ込んだだけだよ。君の献身的なフォローのおかげで、頭が冷えたのさ」
まるで先ほどまでの険悪なムードが嘘のように……否、実際嘘だったのだろう。何事もなかったかのように笑いあう2人の様子に、杏子たちはただただ唖然とし、舞と竜崎はやれやれと声をそろえた。
「いつ気づいたの?」
「君の"貪欲な瓶”の発動タイミングだな。本来、罠カードは相手の行動を抑制するために使うはずなのに、勝利君は俺のターンにほとんど無意味に発動した。それで気づいたんだ。勝利君の手札には、今攻めに使えるカードはほとんど残っていないってな」
「さすがだね。察しの通りあの時の手札は、発動条件が厳しい魔法と特殊召喚効果を持たないか、上級のBFたちだけだった。だから遊戯君に動いてもらわないと僕も厳しかったんだ。本当に、助かったよ」
「助かったのは俺の方だ。君が"デルタクロウ・アンチリバース”を引いてきてくれたおかげで、俺は攻めに転じることができたんだ」
気分よく褒め合う勝利と遊戯を気分悪く眺める大岡が、舌打ちを鳴らす。
「ちぃ……小癪なことを。その程度の策略で、私を上回ろうなどと……」
(大岡……お前は上回られたのだ。勝利によってな)
未だ自分の優位性を信じ立ち向かおうとする大岡を諫めるように、大田がとどめの一言を放つ。
(何? たかだかモンスターを1体やられただけの事でしょう! ここからいくらでも逆転可能です!)
(……今のターン、お前の伏せカードは、"聖なるバリアーミラーフォース”と、"マジック・ジャマー”だった)
聖なるバリア ーミラーフォース
罠カード
相手が攻撃を宣言したとき、聖なるバリアが敵を全滅させる
マジック・ジャマー
カウンター罠
手札1枚を捨て、相手の魔法効果を無効にする
(貴様は今のターン、遊戯の"手札抹殺”を、"マジック・ジャマー”を使って防ぐことができたはず。なのに、なぜ発動しなかった?)
(そ、それは……奴の次の重要な魔法を無効化するために……)
(違うな。貴様はこう思ったはずだ……『奴らがこれで仲間割れを起こすのであれば、ここはあえて見逃した方が得だろう』とな)
「っ!!!?」
図星を吐かれて、大田は絶句する。
目の前の勝利たちの勝ち誇った顔に、思わず歯ぎしりを鳴らした。
「まさか貴様ら……私の伏せカードを読み切った上で、自分たちの行動を妨害されないように演技を……」
「お前の伏せカードが、僕ではなく遊戯君を止めるための妨害罠であることは容易に想像できたからね。誘導させてもらったよ」
「そ、そうか!! そういうことだったんだ!」
大田の零した言葉でようやく状況を理解した御伽が、声を上げる。
「な、なんだよ御伽? どういうことだよ?」
「どうもこうもないよ。あの時遊戯君の"手札抹殺”が止められていたら、どうなっていたかって話さ!」
「どうって……遊戯の魔法が無効化されて、手札が……あっ!」
言いながら杏子が口に手を当て、声を上げる。
それに呼応するように、静香も揃って声を上げる。
「っ! そっか! あの遊戯さんのモンスターは魔法カードで引いたカードだから、あのモンスターを出すことはできなかった……」
「ようわかったやないか。そうなったら、生贄召喚ができずに攻撃表示の"ジェスターコンフィ"が場に残ってまう。次のターンには、大ダメージ確定や」
『ろくに手札のない遊戯じゃあ、とても防げたもんじゃないでしょうね』
「そうならないために、勝利はわざと仲間割れを演出して、遊戯のカードの発動を助けた……」
「ば、馬鹿な……互いの手札を見ることもなく、私の伏せカードを読み切って、攻撃前の完璧なタイミングでカードを発動して……そんな連携が、相談もなしにできるはずが……」
「……勝利君が嘘をついていることは、すぐに気が付いた」
大田の言葉に被せるように、遊戯の優しい声が響く。
勝利は意図を先に察し、照れくさそうに頬を掻いた。
「勝利君は、あえて強い言葉で俺を否定した。だからこそ、その思ってもない言葉の裏に、勝利君の意図があることはわかった。問題は、その意図だ」
そして、遊戯はパズルを触り、もう一つ笑った。
「何のことはない。その言葉の裏こそが、勝利君の伝えたい意図だったんだ」
『君は攻撃なんて考えずに、僕のサポートだけを考えていればいい』
(君が攻めてくれ。僕がサポートに回る)
『はっきりと言う。余計なことはしないでくれ』
(今の僕は攻められない。君のターンがカギだ)
『……本当に、やってくれたよ。この手じゃあ、どうやったって攻められない』
(手札は変わった。今なら、攻められる)
『頼むから、1人で勝手なことをしないでくれ』
(行ってくれ、遊戯君。君は、1人じゃない!)
「ぐ……お、おのれぇ……」
「……策とは言え、非道な言葉を使った。ごめんよ、遊戯君」
「何のことだ? 俺には、君の優しい言葉しか聞こえなかったぜ」
「……ありがとう」
勝利たちのやり取りを、未だ信じられないといった表情で見つめる杏子たち。
BIG5でなくとも、あんなものには引っかかる。いや、現に自分たちも、ものの見事に引っかかっていたのだ。
……2人を除いて。
「……竜崎さんたちは、気づいてたんですか?」
「雰囲気でなんとなくやけどな」
『柄にもない言葉必死にならべて。あんなもん、あたしには勝利の悲痛の叫びにしか聞こえなかったわよ』
当然と語る2人を見て改めて、自分たちとは違うものが見えているのだと感じる。
この空間に閉じ込められて、決闘に触れて。
多少は彼らの気持ちを理解できるようになった、と感じたのは、あまりにも理解が遠い故の錯覚であったことを理解した。
『あたしたちが変に反応して2人の作戦がばれちゃうくらいなら、一緒に騙されてる方がいいかと思って黙ってたのよ。ごめんなさいね』
舞のそんな謝罪を最後に、返す言葉も失った杏子たちは改めて勝利を見つめる。
すると勝利が振り向き、こちらに目線を向けた。
「杏子ちゃん。本田君。みんな」
名前を呼ばれ、少し唾をのんで背筋を伸ばす。
先ほどまでの勝利を攻める自分たちの言葉を思い出し、嫌な汗が背中を伝った。
謝罪の言葉を、早く吐きだしたい。
なのに、言葉がうまく口を吐かない。
そんな杏子たちの心象を察してか、勝利は満面の笑みで、サムズアップして言う。
「……ナイスフォロー! みんなのおかげで、作戦成功だ!」
「……ちきしょお……頑張れ! 頑張れよ、勝利!」
「……遊戯、勝利君! 絶対勝って!!」
零れ落ちそうになる涙を振り払うべく、謝罪の言葉を飲み込んでしまい、代わりに精一杯の言葉を投げる。
その応援に、勝利と遊戯が手を挙げて答える。
「勝利君。改めて言っておくぜ。君は怒りを収める必要は、全くない。君の思うがままを、奴らにぶつけてやれ!」
「ああ……ありがとう。君も、僕に気を遣う必要はないよ。君と僕で、共に支え合い、一緒に奴らを倒す! 僕らは、最強のタッグだ!」
「……言うとるで。ええんか? 最強タッグの称号をとられて」
『イラっとしないといったらウソだけどね……しょうがないでしょ、あそこまで完璧に、暴走した勝利の手綱を握って見せたんだから』
舞と竜崎は、言いながら2人の関係性を思い出し、この見事な連携に納得していた。
遊戯と、勝利は、ライバルだ。
然しその関係は、遊戯にとって、城之内とも、海馬とも違う。
因縁。
約束。
運命。
彼らがともに上を目指すことに、理由などない。
友ではあるが、友だからではない。
ライバルではあるが、ライバルだからではない。
勝利は、遊戯を尊敬している。
尊敬する遊戯だからこそ、共に削り合い、さらなる高みへ上りたいと思う。
遊戯は、勝利を尊敬している。
1人のライバルとして、共に戦った仲間として、そして何よりも……一度上に行かれた、素晴らしき決闘者として、もう一度戦いたいと思う。
敵意も、情も、上下もない。
互いを敬い、認め合い、同じ場所に立っている。
まだ決着はついていない。
だからこそ今の遊戯にとって、心から信頼を置くことができる対等な男。
背中を預けるに、ふさわしい決闘者。
それこそが、黒羽勝利だった。
「行こう、勝利君! 舞の身体を、取り戻すんだ!」
「ああ!」
(どけ、大岡。次は、ワシが行く!)
心をそろえた2人の前に、新たな資格が襲い掛かる。
決闘は、さらに激しさを増していく。
結構いい感じにかけたのではと満足。
ちなみにジェスターコンフィは岩の精霊タイタンの代役。
ジャッジマンの無期懲役が煩わしすぎるので封印した結果、タイタンが出せなくなりました笑
書いていて思ったんですが、遊戯と対等にタッグが組める人間って原作にほとんどいないですよね。
海馬は実力的には対等ですが、海馬の気質的にあまりにもタッグに向いていないので共通の敵を遊戯と倒すしかないときにしか組まないわけで。
城之内と遊戯のタッグも当然好きですが、さすがに遊戯が上にたってしまうかなといったところ。
となると、本作の勝利はかなり遊戯とのタッグにふさわしいキャラなのではと思いながら本話を書いていました。
さて……勝利がかなり正気に戻り、ここからというところ。
続いての決闘はどうなるのか。
お楽しみに。