でも遊戯王のタイトルってこんなもんだよね。
BIG5(機械軍曹) LP 4100 手札5枚
モンスターなし
伏せカードなし
勝利 LP 300 手札0枚
トラファスフィア
攻 4800
巨大化
伏せカード3枚
遊戯 LP 4000 手札0枚
ゴースト・トークン
守 0
王宮の鉄壁
「フフフフフ……」
「……」
「……」
決闘も佳境に入り始めた頃合いに、未だ余裕の笑いを響かせる敵の様相に、勝利と遊戯は怒り、苛立ち、緊張の全てを飲み込んで向き合う。
フィールドに何も残せていないながらも、手札を潤沢にそろえるBIG5たち。
フィールドはボロボロでありながらも、LPは無傷でここまで耐えきった遊戯。
LPは風前の灯でありながらも、強力なモンスターとセットカードで盤石の構えをとる勝利。
リソース。
体力。
場況。
三者三様の強みと弱みが、互いの策と心を揺さぶり合う。
誰が有利で、誰が不利なのか。
次に動くのは誰なのか。
一体、勝つのは誰なのか。
その勝利の果実に真っ先に手を伸ばしたのは、BIG5の方だった。
「さて、まずはその自慢のモンスターを打ち払うとしよう。魔法カード、"ブラックホール”発動!」
ブラック・ホール
魔法カード
フィールド上のモンスターをすべて破壊する
「このカードによって、貴様らのフィールドのモンスターを一掃する!」
「……」
フィールドに現れた深い闇の渦に、"トラファスフィア”と"ゴースト・トークン”が飲み込まれていくのをじっと見つめる勝利たち。
2人とも、その渦が消えていくその瞬間まで、体をピクリとも動かしはしなかった。
「ああ……勝利さんのモンスターが……」
「ちきしょお。せっかく強力モンスターを並べたのによお」
「ここはしゃあないわ。あんだけドローしたんや。対策カードは引けて当然ってとこやろ」
『勝利たちもここは想定通り……いや。むしろ、助かったといってもいいわ』
「えっ? 舞さん、どういうこと?」
無機質な電子音となって響く舞の声。だが確かにそこにある安堵と不安の声を感じた杏子が、舞を見つめる。
『……さっきのターン、勝利は強力な効果ダメージを受けていた。結果的には、遊戯に防御を託すことで耐えきることができたけど、そのダメージ量を鑑みれば勝利はデッキマスターである"ブラックフェザー・ドラゴン”を召喚するという選択肢もあったわ』
そういった舞の言葉の続きを、今度は竜崎が引き取って話す。
「"ブラックフェザー・ドラゴン”は効果ダメージを無効にして、カウンターを溜めこむ本来の効果があるんや。デッキマスター召喚を使って相手が効果ダメージを通す前に、"ブラックフェザー・ドラゴン”を並べるんが、勝利にとって安定択やった」
「……でも勝利君は、遊戯を信じて、動かなかった……」
「そう。それだけ、デッキマスターの召喚っちゅうのはリスクと隣り合わせの行動っちゅうことや」
そこまで話して、御伽も気が付く。
そして気が付くと同時に、噴き出した冷や汗が体を一気に濡らした。
「……もし勝利君がさっきのターンに、"ブラックフェザー・ドラゴン”を召喚していたら……今の"ブラック・ホール”に、"ブラックフェザー・ドラゴン”は巻き込まれていた……」
「っ!!!?」
「そう……そうなったら残されるんは、場にも手札にもカードがない、丸裸の遊戯1人だけ」
『……さすがの遊戯でも、勝てるはずがないわ』
本田たちは、顔を見合わせる。
互いの青ざめた表情を見合いながら、同時にごくりと喉を鳴らす。
この決闘が始まって、何度も体感した冷ややかに抜ける悪寒。
勝利の捌きが、遊戯の対応があまりに見事である故に。
遊戯と勝利を信じる彼らであるが故に。
忘れそうになる事実。
遊戯と勝利は、いつ負けてもおかしくない、薄氷の上で鎬を削りながら戦っているということ。
2人が負けたら。2人も、舞と同じく体を奪われ。
残された自分たちは、舞も、遊戯も、勝利も救うことができずに絶望する。
そんな姿が、想像できてしまった杏子たちが、自分の身を抱えるように丸まって震える。
改めて、遊戯と勝利の姿を見る。
先ほどまで目に入っていなかったのが不思議なほどに、2人はすでにボロボロだった。
ダメージを受け、煤けた顔を汗で湿った腕で拭う勝利。
そしてそれを守るために、必死に敵の攻撃を捌くことで疲弊し、汗だくの遊戯。
そんな2人の様子に気づいた杏子たちに次に訪れるのは、無力感だった。
誰からともなく拳を握り、くそっ、と口を零した。
「……頑張って! 遊戯! 勝利君!」
「……遊戯さん! 勝利さん!」
「……負けんじゃねえぞ!」
やはり、できることはこれしかない。
心の無念を振り切るように、必死の声援が木霊する。
遊戯と勝利はそれを背中に顔を見合わせ、真剣な表情を少しだけ崩して笑った。
(……ああ、わかってる。みんなの気持ち、確かに伝わっているぜ!)
(みんなは、無力なんかじゃない。みんながいるから、僕たちは戦えるんだ!)
「……フッ。そんな声援など、何の価値もないということを教えてやろう。この、私が!」
その声と同時、再び舞の雰囲気が変わり、後ろのモンスターが入れ替わる。
「っ! 貴様は、海馬と戦った!」
「……"サイコ・ショッカー”……」
「その通り! ここからは大門小五郎こと、"サイコ・ショッカー”が相手をしてやろう! まずは魔法カード、"死者蘇生”を発動!」
死者蘇生
魔法カード
敵味方問わずモンスターの魂を蘇生させ、味方にする事が出来る
「くっ……ここで"死者蘇生”だと……」
「……("カタパルト・タートル”で僕を狙ってくれるのなら、"ブラックフェザー・ドラゴン”で躱せる……でもそれなら、"ブラック・ホール”を温存して、先に僕を狙うべき。ってことは奴らの狙いは……)」
「フフフフフ……私は墓地より、"お注射天使リリー”を特殊召喚!」
お注射天使リリー
地属性 魔法使い族 星3
攻撃力 400
守備力 1500
このカードが戦闘を行うとき、
2000LPを払って発動できる
このカードの攻撃力は3000アップする
『あはーん!』
「……リリーだって? そんなカードをいつの間に……」
「……さっきの"天使の施し”で捨てた、2枚目のカードか」
「その通り。このカードの効果は知っているな。私のLPを2000ポイント捧げることにより、攻撃力を3000ポイントアップする効果!」
「くっ……(この効果……やっぱり、僕のことはいつでも倒せると踏んでの、遊戯君狙いか!)」
勝利は自分の伏せを確認する。
(……いや、だめだ。もともと攻撃を防ぐためのカードじゃない上に、相手がサイコ・ショッカーだというのなら、この伏せカードは軽々と失うわけにはいかない)
そして勝利は、自身の後ろに視線を移す。
そこには、普段よりさらに力を蓄えた、相棒の姿がある。
(……いざとなったら、君の力で……)
「……いざとなったら、"ブラックフェザー・ドラゴン”を盾にして遊戯を守れば耐えられる、か?」
「っ!!?」
「そう簡単にいかせはしない。手札から魔法カード、"破天荒な風”を発動!」
破天荒な風
魔法カード
場のモンスターの攻・守を1ターン1000ポイントアップする
「この効果によって、リリーの攻撃力は1000ポイントアップする!」
『いやーん!』
お注射天使リリー
攻 400 → 1400
守 1500 → 2500
背中から風を受けたリリー。
そしてリリーの手元の注射が、一回り大きくなる。
「これでバトルと行こう。さあ、その自慢のドラゴンで、止めれるものなら止めてみるがいい」
「ぐっ……」
「おいおい……あのモンスターは攻撃力を3000上げるんだろ?」
「3000も上がっちゃったら、リリーの攻撃力は……4400……」
「遊戯さんの4000のLPが、たった1回で……」
「……しかもあいつ。サイコ・ショッカーには、1ターンに1度罠カードの効果を無効にして破壊するデッキマスター能力がある……罠カードによる防御も、あいつには通用しない」
絶望のセリフを零す本田たち。
そしてその上に絶望を重ねるように、竜崎と舞が重々しく口を開く。
「……しかもあいつは、勝利の事もきっちり対策しよった。効果発動後のリリーの攻撃力は、4400。今の勝利の"ブラックフェザー・ドラゴン”の玄翼カウンターの能力上昇込みの攻撃力も、4400」
『もし勝利が"ブラックフェザー・ドラゴン”で奴の攻撃を防ごうと思っても、"ブラックフェザー・ドラゴン”とリリーの攻撃力が並んでいる以上、相打ち……デッキマスターを破壊された勝利は、その時点で敗北……もう勝利のデッキマスターの抑止力も届かない』
「そ、そんな!?」
「さあ、絶望のそこに沈むがいい! "お注射天使リリー”の攻撃! 武藤遊戯! 『検診のお時間』だぁ!!!」
『お注射よぉ!』
BIG5(サイコ・ショッカー) LP 4100 → 2100
お注射天使リリー
攻 1400 → 4400
お注射天使リリー
攻 4400
遊戯 LP 4000
「「「「遊戯(さん)(君)!!!!」」」」
リリーの注射針の切っ先が、遊戯に迫る。
モンスターもいない。伏せカードの1枚すらもない。
まさに打つ手なしの遊戯は思わず目を伏せ、腕を顔の前に構える。
(……これまでか!)
「そうはいくか! 今度は僕が……僕たちが、遊戯君を助ける番なんだ! "ブラックフェザー・ドラゴン”!!!」
「何っ!!?」
「勝利!!?」
BIG5(サイコ・ショッカー) LP 2100 手札4枚
お注射天使リリー
攻 4400
伏せカードなし
勝利 LP 300 手札0枚
ブラックフェザー・ドラゴン
攻 4400
伏せカード3枚
遊戯 LP 4000 手札0枚
モンスターなし
王宮の鉄壁
勝利の宣言に反応して目を見開いた遊戯。
そして見上げると、黒羽を振りまきながら飛び立った漆黒の竜が、遊戯の上へと舞い降りる。
それを見て、顔を青ざめたのは遊戯だった。
「勝利君!!!? ダメだ!!! ここで君が犠牲になっては!!?」
「フハハハハ! 貴様なら、見過ごしはしないと思っていたぞ! その身を犠牲にしたとしても、必ずや遊戯の盾になるとな! リリーよ! 勝利のデッキマスターモンスター、"ブラックフェザー・ドラゴン”を破壊せよ!」
その言葉に、遊戯は再び目を伏せた。
このままリリーが、自分を守りに来た"ブラックフェザー・ドラゴン”に標的を変えれば、リリーと"ブラックフェザー・ドラゴン”が相打ち。
デッキマスターを失った勝利は、このゲームに敗北。舞同様に、体を奪われてしまうことになる。
自分が、打ち取られる。
それ以上に恐ろしい現実。
自分を守る、大切な仲間が、大切な仲間の大切な友が破壊される。
自分のせいで、仲間を失う。
それが、何よりも耐えがたかった。
「……誰が、犠牲になるって? 誰もならないよ。僕も、"ブラックフェザー・ドラゴン”も。そして……遊戯君もだ!」
しかし耳に響くその力強い言葉が。
遊戯の恐れた未来に、いともたやすく罅を入れた。
「"ブラックフェザー・ドラゴン”の、最後のデッキマスター能力! 『
瞬間、"ブラックフェザー・ドラゴン”の後ろから、無数の羽が飛ぶ。
そしてその羽たちは遊戯の目の前にどんどんと集まっていき、やがて4枚の羽根の塊が、遊戯を覆うように立ちはだかった。
さながらそれは、騎士を守るための盾。
「な、なんだ……いったい、なんだというのだ!?」
「"ブラックフェザー・ドラゴン”の最後の能力。『
「な、なにぃ!!?」
「ナイスや! "ブラックフェザー・ドラゴン”の効果で作った盾なら、カード効果やないから無効にもされん! モンスターを盾にしとるわけでもないから、リリーは"ブラックフェザー・ドラゴン”に手出しできん!」
『んもう! なにこれぇ! お注射!』
リリーが注射器を振り回し、1枚ずつ玄翼の盾を破壊していく。
そして遊戯にたどり着き、改めて注射器を振りかざす。
『お注射よぉ!』
「ぐっ!! だが、これなら……」
お注射天使リリー
攻 4400
遊戯 LP 4000 ー (4400 ー 1600) = 1200
「うおおおおおお!!!?」
「耐えた!!!!?」
「これはでかいで!」
「ありがとう! 勝利君! 君と『BF』たちがいなければ、俺は敗北していた!」
「お互い様さ」
腕を上げて拳を掲げる遊戯に対し、勝利も同じく拳を上げて返す。
「ぐっ……おのれどこまでも姑息な手で生きながらえて……」
(落ち着け大門。貴様の役割はまだ終わっていないぞ)
(ええい。わかっている……多少計算は狂ったが、プランに狂いはない)
「……まあいい。次のターン、改めて貴様の"ブラックフェザー・ドラゴン”を葬り去ればいいだけの話。私はカードを2枚セットし、ターンエンドだ!」
BIG5(サイコ・ショッカー) LP 2100 手札2枚
お注射天使リリー
攻 1400
伏せカード2枚
勝利 LP 300 手札0枚
ブラックフェザー・ドラゴン
攻 2800
伏せカード3枚
遊戯 LP 1200 手札0枚
モンスターなし
王宮の鉄壁
「……俺のターンだ!」
『もう一人の僕。奴は次のターンのリリーの効果で、勝利君の"ブラックフェザー・ドラゴン”を狙う気だ』
(……ああ)
勢いある宣言と裏腹に、遊戯たちの心の中には、不安の闇が押し寄せてきていた。
(さっきのターンの動きを見るに勝利君の場の伏せカードは、発動条件の厳しい魔法カードか、サイコ・ショッカーの前では発動もままならない罠カード。おそらく勝利君の方に、今攻撃を止める手立てはない)
『でも、僕たちを守るために勝利君は"ブラックフェザー・ドラゴン”を召喚してしまった。僕らが守備を固めたところで、リリーに"ブラックフェザー・ドラゴン”を狙われてしまったら、勝利君は負けてしまう』
(……そんなことは、あってはならない。俺が、何とかするしかない! デッキよ……俺たちの想いに……勝利君の心に、答えてくれ!)
「……ドロー!!!」
遊戯の、渾身のドローが弧を描く。
遊戯は自分の前に来た1枚のカードに目を落とす。
そのカードは……"強欲な壺”。
『やった! すごいよ、もう一人の僕! このカードで手札を補充すれば、まだ逆転のチャンスはあるよ!』
「……」
『……? もう一人の僕?』
圧倒的な引きで持ってきた、最強の手札増強カード。
だというのに、遊戯の表情はいまだに優れない。
いや、不安や、落胆でつぶれた顔ではない。
横で見ていた勝利には、その表情の意図が、はっきりと読み取れた。
「……遊戯、君?」
そう。その表情は……覚悟を決めた、男の表情。
「……勝利君。君だけに、背負わせはしない」
「っ!? 遊戯君!?」
まさか。
勝利のその言葉よりも先に、遊戯の言葉が響いた。
「デッキマスター、召喚! 来い、"ブラック・マジシャン”!」
『はあああ!!!!』
「えっ!?」
「ここで!?」
「遊戯までデッキマスターを!?」
「おいおい! デッキマスター召喚は、リスクがあるから簡単にできねえって話じゃあ!?」
「しかも、相手の場にはまだ効果が使えるリリーがおんねんぞ! こんなもん、ただの格好の的や!?」
『遊戯……いったい何を』
皆の困惑を他所に、遊戯が翳した手のひらの先に、"ブラック・マジシャン”が飛び込み、着地する。
数秒振り回したその杖を掲げ、戦いの意志を示す。
"ブラック・マジシャン”が、ちらと"ブラックフェザー・ドラゴン”を見る。
何を思ったのか、数秒後に、"ブラックフェザー・ドラゴン”が高らかに吠えた。
「……フハハ。やけになって道化の真似事か? そんなことで、私のリリーに勝てるとでも思ったのか?」
「違う。勝利君と"ブラックフェザー・ドラゴン”の影に隠れ、託し、支える。そんな戦い方では、勝利君に報いることはできない。そう思っただけの話だ」
「……遊戯君」
勝利の不安気な視線に、遊戯は笑顔を返す。
その表情には、先ほどまでの渦巻く不安の影も形も見えはしなかった。
「勝利君……ともに、行こう!」
「っ!!! ああ!!」
「俺は手札から、"強欲な壺”を発動! そして……"ブラック・マジシャン”、デッキマスター能力発動! 『セパレート・マジック』!」
『~~~~~~~~。はぁ!!!』
遊戯の置いたカードからフィールドに現れる壺。
そしてその壺の後ろで呪文を唱える"ブラック・マジシャン”。
すると、フィールドの壺がすっと分裂し、2つの壺が目の前に鎮座する。
「『セパレート・マジック』の効果により、1000LPを支払うことで、"ブラック・マジシャン”が存在するときに発動した魔法カードを、もう一度発動することができる!」
遊戯 LP 1200 ー 1000 = 200
『なるほど……デッキマスター召喚は、このために……』
「いやでも……これで遊戯も勝利もLPは崖っぷち。このドローでリリーだけでも処理できんかったら、それだけで負けや……」
「……お願い……遊戯……」
「さあ……行くぜ! 4枚ドロー!」
(ば、馬鹿な……外せば敗北は必死のギャンブルだというのに……こいつはなぜ、恐れないのだ!?)
圧倒的にピンチなはずの遊戯と、勝利。
しかし、今この場で気圧されているのは、まぎれもなく、大門の方だった。
「……俺は手札から、"ユニオンアタック”を発動!」
ユニオンアタック
魔法カード
自分フの表側表示モンスター1体はこのターン他のモンスターの攻撃力を借りてバトルを行う
このターン、相手に与える戦闘ダメージは0になり、他のモンスターは攻撃できない
「このカードによって、貴様の場の"お注射天使リリー”に、俺の"ブラック・マジシャン”と、勝利君の"ブラックフェザー・ドラゴン”で連携攻撃を仕掛ける!」
「な、何ぃ!!?」
「うまい! ダメージこそ与えられんくなるが、そんだけ攻撃力を上げてしまえば、リリーの効果でも太刀打ちできひん!」
『リリーを破壊できれば、一気にチャンスを引き寄せられるわ!』
「よっしゃあ!!」
「いっけえ! 遊戯!」
「勝利君! もう一度、君の力を貸してくれ!」
「……クックック。何度だって頼ってくれよ。遊戯君! 僕たちは、タッグなんだぜ!」
勝利の声に、風が巻き起こる。
遊戯の声に、杖を振り上げる。
「さあ、行くぜ! "ブラック・マジシャン”で!」
「"ブラックフェザー・ドラゴン”で!」
「「"お注射天使リリー”に攻撃!」」
巻き上がった風が、杖に乗る
振り下ろした杖の切っ先から、羽を伴った竜巻が一直線に敵陣を切り裂く。
「「『
ブラック・マジシャン
攻 2500 + 2800 = 5300
お注射天使リリー
攻 1400
「ぐぅ!!」
文字通り、モンスターが吹き飛んだのを見て、思わず大門が歯ぎしりを鳴らす。
「やった! 遊戯と勝利君のコンビ攻撃で、相手のモンスターを破壊したわ!」
「相手のLPも、もはや十分射程圏内だ!」
「行ける……行けるぜ!」
「やってくれたな……だが、我々の墓地にはまだ"異界の棘紫獣”が……い、いないだとっ!!?」
「何度も同じ手は食わないぜ! 俺は戦闘破壊が成立する前に、速攻魔法、"おろかな転生”を発動していた!」
おろかな転生
速攻魔法
相手の墓地に存在するカード1枚をデッキに戻す
「お、"おろかな転生”だとっ!?」
「そう。このカードの効果で、貴様らの"異界の棘紫獣”はデッキへと戻っていった。もう二度と復活することはないぜ!」
「遊戯君……完璧だぜ!」
『ナイスよ遊戯! これで"王宮の鉄壁”を利用した無限蘇生は途絶えたわ!』
「それだけやない。相手の墓地には、"ドールハンマー”がねむっとった。あのカードは墓地に存在するとき、モンスターの蘇生と同時に手札に舞い戻る効果があったはずや。"異界の棘紫獣”の蘇生と合わせた無限ドローのコンボにきづいとった遊戯は、先手を取ってそれを潰したんや!」
「もう、遊戯さんと勝利さんが、とっても有利ってことですよね! 竜崎さん!」
静香のあまりに簡潔な理解に、ギャラリーの皆の心が震える。
遊戯の、勝利の、決死の想いがついに届こうとしている。
あれだけ遠かった決着の道に、光が差している。
それが、どうしようも堪えようもなく、皆の心を躍らせた。
「俺はカードを2枚セットし、ターンエンドだ!」
BIG5(サイコ・ショッカー) LP 2100 手札2枚
モンスターなし
伏せカード2枚
勝利 LP 300 手札0枚
ブラックフェザー・ドラゴン
攻 2800
伏せカード3枚
遊戯 LP 200 手札0枚
ブラック・マジシャン
攻 2500
王宮の鉄壁
伏せカード2枚
「さあ……貴様らのターンだぜ! BIG5!」
「お前らの手はそこまでか? なら、舞さんの身体を返して、さっさと消えろ!」
「……」
俯きながら舞の身体を震わせるBIG5を見て、遊戯と勝利はそう宣言する。
これで奴らは5人とも、カードを振るって見せた。
それらすべてを、遊戯と勝利で打ち崩して見せた。
奴らに、もう手立てはない。
遊戯も、勝利も、そう思っていた。
だがしかし。
場の状況が変わるより少し先に、勝利の勘が警報を鳴らす。
(……なんだ。この感じ……なんで奴らから、諦めや達観を感じない……なんで、奴らの戦意が薄れないんだ?)
「「「「「……フフフフフフフフフ。ハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」」」」」」
不気味な高笑いが5つ場に木霊する。
舞の声とも混ざって聞こえてくるその不協和音が、より一層遊戯たちの不快感を高める。
「な、なんだぁ?」
「あいつら……ピンチすぎておかしくなっちまったのか?」
そんなことを言う御伽たち。
しかし、そうではないと証明するように、5人が順番に言葉を紡ぎ始めた。
その姿はきわめて冷静で、絶望が1周した結果には到底見えなかった。
「いやはや……見事見事。さすがは海馬坊ちゃんに並び立つ決闘者。武藤遊戯に黒羽勝利」
「んふふ。ですが我々の目標は、何の問題もなく達成されましたよぉ?」
「……目標だと?」
「その通り。我々の目標、それは大きく分けて2つ。その1つ目は、遊戯と勝利。貴様ら2人のデッキマスターモンスターを場に引きずり出すこと」
「そうすれば……簡単に狙い打つことができますからねえ……この私こと、"ジャッジマン”のデッキマスター能力によって」
「馬鹿な……それは遊戯君の"王宮の鉄壁”が封じ込めている。いまさら除外しようとしても……」
「ほう……ならば、こうすればどうだ? 私のターン、ドロー! そして私は私自身! "サイコ・ショッカー”のデッキマスター能力を発動!」
「っ!!!!? ここで!!?」
「っ!!? やばい! "サイコ・ショッカー”のデッキマスター能力ってことは……」
「海馬君に使っていた! 1ターンに1度、相手の場の罠カードの効果を無効化して破壊する能力だ!!」
「やべぇ!! "王宮の鉄壁”が破壊されたら!?」
「させるかあ!!! 僕は伏せカード、"宮廷のしきたり”を発動!」
宮廷のしきたり
永続罠
このカードが存在する限り、場の永続罠カードは破壊されない
サイコ・ショッカーのビームが、2方向に飛ぶ。
片方は遊戯の場の、"王宮の鉄壁”へ
もう片方は勝利の場の、"宮廷のしきたり"へと飛んでいった。
勝利の"宮廷のしきたり"にぶつかった光線が、カードごとその効果を消滅させる。
しかし、遊戯の場の"王宮の鉄壁”は、一連の動きでキズ一つついてはいなかった。
「"宮廷のしきたり”がある限り、"宮廷のしきたり”以外の永続罠カードは破壊されない。同時なら、"宮廷のしきたり”だけが破壊され、"王宮の鉄壁”は残る。そう簡単に、破壊はさせないよ」
「助かったぜ、勝利君」
「……守り切ったか。だが、たいして変わりはしないこと。私はデッキマスター、私自身を召喚!」
人造人間-サイコ・ショッカー
闇属性 機械族 星6
攻撃力 2400
守備力 1500
このカードが存在する限り、罠カードはすべて無効化される
場に着地した"サイコ・ショッカー”の額から、念波が遊戯たちの場を襲う。
それによって、再び"王宮の鉄壁”のカードに罅が入る。
「モンスターとしてのサイコ・ショッカーの効果によって、フィールドの罠カードは発動できず、効果も無効化される。せっかく守った"王宮の鉄壁”も、これで意味をなさなくなるということ……」
その言葉を言い切る前に、サイコ・ショッカーの顔にどこからともなく水がかかる。
滔滔と語るサイコ・ショッカーに、文字通り水が差されて黙り込む。
サイコ・ショッカーの頭から滴る水が、ゆっくりと地面に消えていく。
「させないといったはずだ! 速攻魔法カード、"禁じられた聖杯”発動!」
禁じられた聖杯
速攻魔法
フィールドのモンスター1体を指定する。ターン終了時までそのモンスターの攻撃力を400ポイント上げ、効果を無効化する
「このカードによって、サイコ・ショッカーの効果は無効化される。当然、"王宮の鉄壁”の効果は継続! 俺たちのデッキマスターは守られるぜ!」
「……さあ、ここまで防がれても、まだ策はあるかい?」
最後通告。と言わんばかりの様子で、勝利がBIG5に尋ねる。
しかし再度聞いたとしても、奴らから返ってくるのは人を不快にさせる笑い声だけだった。
「……策はあるかだと? 当然あるとも」
顔の水を簡単に拭い、そういった敵の言葉に、遊戯と勝利が同時に息を飲む。
するとそのサイコ・ショッカーの横に、1人、また1人と、モンスターたちの姿をした男たちが並んでいく。
「ここにありますは、1枚の罠カード」
「このカードこそが、我々の一発逆転の切り札」
「しかし罠カードである以上、"サイコ・ショッカー”がいては発動できません」
「だからワシらは待ったのだ。"サイコ・ショッカー”の効果を消される、このタイミングをな!!」
そして、5人が横並びにフィールドに揃う。
"深海の戦士"。
"ペンギン・ナイトメア”。
"ジャッジマン”。
"機械軍曹”。
"人造人間-サイコ・ショッカー”。
5体が整列したのを合図にしたように、舞の身体がカードを開く。
「さあ行くぞ! これが、我々のキーカード!! "DNA改造手術”!!!!」
「っ!!!? 改造手術だって!!?」
DNA改造手術
永続罠
種族を1つ宣言する。
フィールド上に存在する全てのモンスターは宣言した種族になる
「このカードによって、我々のカードの種族が統一されることとなる……我々が宣言するのは……」
「ンフフ……」
「フフフ……」
「グフフ……」
「ハハハ……」
「「「「「ドラゴン族!!!!!」」」」」
言った瞬間に、BIG5の様子がみるみると変わっていく。
"深海の戦士”の腕に鱗が。
"ペンギン・ナイトメア”の口に牙が。
"ジャッジマン”の足に爪が。
"機械軍曹”の瞳に赤い血の色が。
"サイコ・ショッカー”の口元に長く白い髭が。
腹が。
髪が。
皮膚が。
続々と竜の力に染まっていく。
「……だが、それだけ。BIG5の種族が切り替わっただけで、能力にも効果にも影響は出ない。いったい、何の意味が……」
未だ理解できない勝利が、そう呟く。
しかし。
その呟きを聞き、遊戯、そして、舞が反応する。
「っ! 待てよ……」
『BIG5……ドラゴンが……5体……っ!!?』
2人は、気づいた。
彼らの狙いに。
BIG5が、遊戯たちへの復讐のために選んだ、モンスターに。
「まずい!!!」
『勝利! なんでもいいわ! 奴らを止めて!』
「っ! 止めてって……」
(駄目だ……今の手じゃ、間に合わない!)
「さあ、覚悟するがいい! 手札から、"置換融合”を発動!」
「っ!!? ゆ、"融合”だって!?」
「しまった……その手があったか!?」
置換融合
魔法カード
フィールドのモンスターで融合を行う
墓地のこのカードを除外し、墓地の融合モンスターをデッキに戻してカードを1枚ドローする
「この効果によって、フィールドのモンスターを、融合することができる!!」
「ま、まさか……」
「全員の種族を統一したのって……」
「フハハ! そのまさかだ! ドラゴン族、"深海の戦士”!」
「ドラゴン族、"ペンギン・ナイトメア”!」
「ドラゴン族、"ジャッジマン”!」
「ドラゴン族、"機械軍曹”!」
「ドラゴン族、"サイコ・ショッカー”!」
「「「「「5体、融合!」」」」」
「ご、5体融合だって!!!?」
「ぐっ……」
フィールドの5体のモンスターが、ぶつかり合い、まじりあう。
そして、大地が揺れた。
「な、なんだこりゃ!?」
「地響きが……」
「っ!!? 見て、あれ!!?」
「な、なんや!?」
『あいつら、人の身体で!』
融合に使われたモンスターのエネルギーが、大地の裂け目に吸い込まれていく。
そしてその大地の力の上に、舞の身体が立つ。
そしてそれは、大地を引き裂くように顕現し、砕けた大地ごと舞を持ち上げ、姿を現した。
遊戯が、息を飲む。
再び相まみえた、その敵の強大さに。
勝利は、声を失っていた。
初めて見る、その絶望的な力に。
『ぴぃ……』
『かぁ……』
(や、やばすぎる……この、圧倒的な圧力……)
「「「「「融合召喚! "
『ぎゃおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!』
「"
「僕らに……勝機はない……」
"ブラック・マジシャン”。
"ブラックフェザー・ドラゴン”。
"F・G・D”。
全員のエースが、睨み合う。
先に崩れた者から落ちていく。
最終局面が、完成した。
F・G・Dは出したい。
でも儀式魔法はない。
融合で出そう。
でもドラゴンがいない。
種族をいじろう。
サイコ・ショッカー邪魔!
こんな感じで試行錯誤し続けた結果このようにまとまりました。
さて、果たして……
この決闘の決着をつけるのは、誰なのか。どのモンスターなのか。
遊戯か。ブラック・マジシャンか。
勝利か。ブラックフェザー・ドラゴンか。
はたまた……
お楽しみに。
※ここだけの話なのですが……
vs乃亜をどうするか。正直まだ決まっていません。
正直アニメの展開が美しく、好きすぎるので、会話だけ勝利、舞、竜崎を絡めて決闘はほぼカットでもいいのかなと思っています。
ちょっと活動報告の方に書いておくので、ご意見ありましたらいただけると幸いです。
どうせBIG5戦があと2話はあるので、それまでに考えます。