短いようで長かった決闘が幕を閉じ、ボックスを出た勝利は城之内たちに囲まれ、手痛い歓迎を受けた。
「勝利~~~!!!! おめえってやつは、ひやひやさせやがって!!」
「本当よ~! 『切り札』がないなんて言われた時は、どうなっちゃうのかと」
「ごめんごめん。みんなを騙そうとは思っていなかったんだけどね。でも、二人のリアクションで奴の油断を誘えたよ。助かった。最後まで応援してくれて、ありがとね」
「へへっ。仲間なんだ。応援するのなんか当然だぜ!」
改まった感謝の言葉に城之内が照れるように鼻をこすり、その様子に勝利はまた笑った。
そして遊戯もまた、笑顔で勝利の肩をたたく。
「だが、君の真の実力は今はっきりと見せてもらった。ライフは無傷。観戦の立場からすればひやひやの内容だったが、蓋を開けてみれば終始君が場を支配し続けていた。完璧な決闘だったぜ」
「うーん。ほめてくれるのはうれしいけど、正直、今の決闘は僕の本当の全力とは、程遠いかな。僕のデュエルは、もっと楽しく戦ってこそだからね」
「うげっ。マジかよ……お前まだ強さ隠してんのかー?」
「城之内。勝利君と決闘しなくて済むように今のうちにお願いしといたら~?」
「んだと! 杏子てめー!」
「「アハハハハ!」」
重く苦しい決闘から解放され、ひとしきり遊戯たちと会話を楽しんだ勝利は、少し輪から外れたところからこちらを見ていた舞に歩み寄った。
「舞さん。お待たせ。勝ったよ」
「ええ、見事だったわ。さすがね、勝利」
「みんなと、舞さんの応援のおかげさ」
勝利が笑顔で言った言葉に、舞はゆっくりと首を振った。
「あれは、あなたの実力よ。あたしの力なんかじゃない」
「舞さん……」
そういう舞に、勝利は手を差し出す。
その手のひらには、8個の星。
勝利が決闘で取り戻した、舞の星だった。
「舞さん。この星は、君のものだよ」
「……」
舞は勝利が差し出した手のひらをそっと自分の手で包み、星を握りこませる。
「……舞さん」
「この星は、受け取れないわ。これは、あなたが勝ち取ったものよ」
その言葉に勝利はほんの少し眉を曲げる。
それを想定はしていた。気高き心で戦い続けてきた舞を、知っているから。
「あんたの言ってくれたことはうれしかった。あんたのデュエルもね。でも、あたしは決闘者として受けた勝負に負けた……敵がどんな汚い奴だったとしても。星を失った以上、あたしはこの島を去るよ」
「そんな……舞さん!」
「ったく。なんつー顔してんのよ。別に今生の別れじゃないわ」
悲痛の顔で自分を呼ぶ勝利を、舞は軽く指で押し返した後、振り返って歩き出す。
「……この島で、あんたと、あんたたちと出会えたよかった……これは本当よ。じゃあね」
「ちょっと待ちな! 孔雀舞!」
その声に、勝利と舞が振り返る。
声の先には、遊戯、杏子、城之内、そして、本田と眠い目をこする獏良がいた。
「おっせーぞ! 本田! 獏良!」
「全く……獏良が寝ぼけてたせいで間に合わねーところだったぜ」
「ええっ! 本田君が森の中で道に迷ったり、蛇に怯えて右往左往してなかなか遊戯君たちの場所が見つからなかったからじゃ……」
「あんたたち……何やってんのよ……」
みんなが集まり、また和やかな空気が流れだす。
そのやり取りに勝利と舞が同時に、あきれたような笑みをこぼす。
「あんたたちって……なんで集まってくるかな、いつもそうやってさ」
「おい獏良、今何時だ?」
突然本田が獏良に聞く。
何のことかわからずに、舞はきょとんとする。
「えっと、11時ちょっと前だけど……」
「なら、あと1時間。あんたと俺たちは仲間のはずだろ。舞さんよ」
「えっ……」
「飯食ってた時、あんたこう言ってたよな。『明日になったら敵』だってよ。でもまだ『明日』になってねえ。だから今は仲間ってわけだ! そーだろ?」
(仲間……!)
「本田君……」
本田の言葉に、勝利は歓喜に声を震わせる。
そして、遊戯が続いた。
「舞。俺は俺たち決闘者の戦いを汚すプレイヤーキラーたちを決闘者とは認めない。俺は、そんな奴らをつぶすためにも、城を目指し、ペガサスたちを倒すぜ。お前はどうする?」
「遊戯……」
「舞さん……あなた言ってたじゃない。遊戯と、城之内と、勝利君と戦って勝ちたいって。それは、諦めちゃうの……?」
「……」
杏子の言葉に、舞は思わず黙り込む。
葛藤が、伝わってきた。
そんな中で、城之内が大きくため息をついた。
「ったく。めんどくせー女だな。おめーはよ」
そういうと城之内は勝利から星をふんだくり、舞の目の前に立つ。
そして、舞の手のひらに、星を押し付けた。
「孔雀舞。お前がプライドでそのチップを受け取れねーっつーんだったら、別にお前の好きにすりゃいい。あとでこっそり海にでも捨てて、勝利にばれる前に島を去りな。でも、たとえそのチップで戦うことができなくてもよ。それを奪い返すために怒って、全力で戦った勝利の気持ちだけは、受け取ってやんな」
「……勝利」
城之内に言われ、舞は勝利に目を向ける。
勝利は、久方ぶりに舞と目が合ったように感じた。
「舞さん。その星は、受け取ってほしい。これは、僕のわがままでもある」
勝利は、真っすぐ舞の瞳を見つめ、言った。
「僕は、まだ、舞さんと一緒にこの王国を戦いたい。舞さんのデュエルを、もっと見ていたい。あんな奴との決闘で、僕と舞さんの決闘者王国を、終わりにしたくない。だから、受け取ってくれるかい?」
ほんの数秒、息を飲む時間が過ぎたあと。
観念したかのように、舞がため息をついた。
「……ちぇ、あんたも、ずるい男ね」
「ずるい人と一日一緒にいたから、その影響じゃないかな」
その言葉に、二人で笑う。
そしてそれを合図にするように、皆で笑い出した。
「勝利。それから、遊戯に城之内。あんたたちが取り戻してくれたこの星は、借りておくわ。あんたたちと、全力で戦う、誇り高き決闘者としての資格を、取り戻すために。だから、その資格を取り戻せた時……その時は、真剣勝負よ!!」
「ああ!」
「おう!」
「もちろんだよ!」
そういって四人は、手を重ねた。
「じゃあな。俺たちは、もう寝るからよ」
城之内たちが森の中の、自分たちの寝床に戻っていく。
「じゃあ、舞さん、杏子ちゃん。僕も、戻るね」
「あっ……」
勝利の言葉に、舞が切なげな声を漏らす。
振り返って舞を見ると、ほんの少しだけ肩を震わせていることに気が付いた。
「……やっぱり、僕はこっちのほうで眠ろうかな。ちょっと待ってて、寝袋とってくるよ」
舞が次の言葉を発する前に、勝利は一つ笑顔を返した後、森へと消えていった。
「勝利君、優しいね。舞さん」
杏子の言葉に、舞は赤くした顔を見られまいと、空を見上げた。
「じゃあ、杏子ちゃん。舞さん。僕こっちの木陰で寝てるから、なんかあったら呼んでね。テント覗いたりしないから、安心して」
「大丈夫よ。城之内たちじゃあるまいし。勝利君を信じてるわ」
「逆を言ったら、テントに近づく奴がいたら、それは僕ら以外の誰かだ。すぐに声を上げてね。駆けつけるから」
「うん。わかった。じゃあおやすみ、勝利君」
そういって、杏子がテントに戻っていく。
勝利も自分の寝袋に入ってしまおうかと思ったが、その場で立ち尽くしたままの舞が勝利を止める。
「舞さん、どうし……」
たの? といい終わる前に、
舞の唇が、勝利の額に届き、ちゅっ、と小さな音を鳴らす。
「勝利。今日はありがとう。かっこよかった」
放心状態の勝利に、おやすみ、とひとこと告げて
舞もテントに戻っていった。
勝利は、そのまま数秒固まった後、寝袋の中に入る。
(……やばい。眠れないかもしれない)
そこから勝利が寝付くのに、一時間はかかるのだった。
そして、ようやくうつらとなり始めた勝利を含め、男たちが寝静まった夜。
島にもう一度、異変が訪れた。
「うわあ! なんだなんだ!? 何の音だ!?」
突然の空からの爆音に、勝利が跳ね起きる。
そして連鎖するように、テントから出てきた舞と杏子が声を上げる。
「何なの~この騒音?」
「うるさくてねむれやしないよ~。もう~」
「な、なんだろう? ヘリ?」
騒音のほうを向くと確かに、飛行物がこの島に着陸しているのが見える。
音の種類と合わせると、ヘリで間違いないだろう。
しかし、疑問はまるで解消されていなかった。
(この決闘者王国の参加者に、飛び入り参加は認められていなかったはず……いったい誰が、何のためにやってきたんだ?)
「……行ってみるしかないか」
「か、海馬君!?」
そうして騒音の現況を確かめるべく移動をすると、遊戯と相対する海馬を姿を見つけることとなった。
どうやら、こんな夜中に島にやってきた謎の人物とは、海馬だったようだ。
「海馬君!」
その海馬の登場に遊戯は嬉しそうな顔を浮かべ、駆け寄っていく。
その様子に勝利は、学校で聞いていた二人の関係性について思い出す。
(遊戯君は言っていた。海馬君ともう一度、正々堂々と決闘をして、決着をつけたい。それができてこそ、彼らの物語が始まるのだと)
目線を遊戯から海馬に移す。
遊戯のような友好的な表情は見られないが、遊戯を戦うべき相手であると認識していることは海馬も同じだった。
まさか、今戦うのだろうか。
そんな勝利の思考を意図してか知らずか、海馬はすぐに否定の言葉を投げかけた。
「遊戯。いずれ貴様との決着はつける。だが俺はこの島に、ペガサスを倒しに来た」
「っペガサスを!?」
「……ああ、そういえばさっき言っていたね。ペガサスは遊戯君を倒すことで、KCの乗っ取りを目論んでいるって。なるほど、海馬君はそれを阻止するためにここに……」
「ふん。察しがいいな。クリエイター勝利」
「おや、僕のことを知ってたんだね。海馬君。てっきり、遊戯君以外は眼中にないのかと思っていたよ」
「貴様はわが社の決闘者データバンクの上位にランキングされているからな。まあ、オレと遊戯に敵うレベルだとは到底思えんが……」
決闘者以前に、クラスメイトなんだけどな。
などというツッコミは唯我独尊を地で行く彼に言っても無駄なので、勝利は愛想笑いをして下がる。
「少なくともそちらの決闘というものをどれだけ理解しているかもわからぬ雑魚よりは、脳の容量を割くに値する。光栄に思え」
(碌なセリフは帰ってこないだろうと思って反論を控えたのに、それでも結構言われた……しかも、ついでと言わんばかりに城之内君がボロカスに言われている)
いっそ関心すらする。とあきらめに近い感情を覚えている勝利に対し、感情に素直な城之内は怒りを打ちにしまい続けることができず海馬に食って掛かる。
「んだと! 海馬てめえ!」
「こんな奴も参加者とは、この島の大会の規模もたかが知れてるな」
「くっ、てめえ。もう許さねえ! 決闘だ!」
「貴様……自分の言っていることがわかっているのか? 身の程知らずが……いいだろう。そのまやかしのガラス細工の自信を粉々にしてやる!」
「あーあーあー。売り言葉に買い言葉で決まっちゃった」
「あんたは止めないの? 勝利。あんたのお仲間は全力で止めてるけど」
城之内につかみかかって止めようとしている遊戯や本田を指さし、舞が勝利に問いかける。
「うん。正直今日はもう疲れちゃったから、城之内君を止めてあげられる元気がないかな。星を賭ける様子もないし、大丈夫でしょう。それに……」
「それに?」
「ちょっとだけ、興味があるんだ。遊戯君のライバル、海馬瀬人の、実力が」
クスリと笑う勝利など気にも留めず、二人の決闘は始まった。
……のだが、はっきりと言って、勝利の期待する決闘とは程遠いものだった。
「く……!」
「ハハハハハ! 早くあきらめるがいい、史上最弱決闘者君!」
城之内
LP 500
海馬瀬人
LP 2000
ミノケンタウロス 攻撃力 2000
「あーあ。こりゃひどいね」
「あの馬鹿……どんな事情があるか知らないけど、なにを空回ってんのよ」
完封。それ以上に言えることはない。
先刻の勝利と闇のプレイヤーキラーの時も確かに勝利の完封ではあったが、それは勝利が相手を圧倒するために様々な仕掛けを施したからであり、何の仕掛けもない海馬のモンスターパワーに城之内が押し負けているだけのこの決闘は、それよりも見れたものではなかった。
確かに海馬の持ってきた機械、
即座に対応するのは難しく、開発者で理解が深い海馬との決闘が厳しいものであることは間違いないが、それ以前の問題なのは火を見るより明らかだった。
プレイヤーキラーとの決闘のお返しに、精一杯応援しようと思っていた勝利だったが、そういう次元の決闘ではないと判断し、早々に口を噤んでいた。
「城之内くん! あきらめるな!」
「がんばれ! 城之内!」
「あんた! どんだけみじめさらしたって、サレンダーだけは許さないよ!」
それでも城之内を信じ声援を上げる遊戯たちの後に、舞の怒号がとんだ。
舞も苛立っているのだ。城之内ならば、もっとできるはずなのに、と。
ならたとえ勝てないと思っていても、舞や遊戯たちに倣い、自分も想いをぶつけてしまおう。
と勝利は思い至る。
「城之内君。君が竜崎君から受けとった想いは、そんなものか!」
「っ! けっ。うるせー! 俺はあきらめねえ! 勝負はこれからだぜ! 行くぜ、"真紅眼の黒竜”!」
城之内の渾身のドローに、勝利は目を見開き、軽く笑う。
「……くっく。ここでそのカードを引くのか、君は」
「ほー」
「行くぜ、"真紅眼の黒竜”! "ミノケンタウロス"に攻撃! 『黒炎弾』!」
真紅眼の黒竜
攻撃力 2400
ミノケンタウロス
攻撃力 2000
海馬 LP 1600
「ふん……傷くらいは追わせられたか……だが、しょせん貴様はその程度よ」
「何っ!」
「いつでも貴様を倒せるカードは俺の手札に温存しておいたわ。貴様のお友達の遊戯が取り戻してくれたカードがな!」
「まさか……」
「それって!」
海馬が、カードをかざす。
瞬間、勝利の体に電流が走る。
その予感に、勝利は鼓動が高鳴るのを感じた。
(……来る!)
「いでよ!
光属性 ドラゴン族 星8
攻撃力 3000
守備力 2500
「こ、これが、海馬瀬人の
「……クハッ。すごいや。力を感じる。海馬君と
海馬にとってこのカードは、ただの強いカードではない。
勝利にとってのBFと同じかどうかはわからないが、海馬がそのカードにかける特別な思い。
それを勝利は、感じ取っていた。
「覚悟しろ!
「どわああああああ!!!」
城之内
LP 0
城之内が最後に意地を見せたものの、大方の予想通り、海馬の圧勝で決闘は幕を閉じた。
「城之内……」
海馬に圧倒的な力の差を見せつけられ、うなだれる城之内を心配する舞。
その舞の肩を軽くたたき、勝利はつぶやく。
「……大丈夫。城之内君は立ち上がる。彼は僕たちの中で、一番負けを知っている。だからこそ、この敗北で彼はさらに強くなるさ。僕の勘は、よく当たるんだ」
(君は、僕らの中で一番未熟。だからこそ誰よりも強い、這い上がる力を持っている。待っているよ、城之内君)
その後、海馬の口から、
友情などという力では、ペガサスに立ち向かうことはできないということ。
自分が打倒ペガサスを目指して城に向かうこと。
そしてその目標が、どれだけ遠く険しい道であるかが力強く語られた。
海馬は、一度だけ奴の決闘を見たことがあるといった。
しかし、それは決闘といえるものであったかもわからない。
相手はかの有名な全米ナンバーワンカードプロフェッサー、バンデットキース。
その彼と賞金を争う決闘を行って、ペガサスは圧勝した。
否、圧勝という言葉ですら生ぬるい。彼は、その場の少年を代役に立てたうえで、決闘を制してしまったというのだ。
「……にわかには信じがたい話だ……けど、海馬君がそんなまじめな顔でほら話をするとも思えないね」
「ふん。信じる信じないは貴様らの自由だ。だが遊戯、たとえお前であったとしても、ペガサスには勝てない」
「!!」
己が好敵手の遊戯を名指ししていう海馬の言葉には、確信があった。
その言葉に、勝利は震える。
(僕や舞さんには、ペガサスの因縁なんてものはない。でも、海馬君や遊戯君は、負けられない理由をもってペガサスへの戦いを見据えている。それを超えていく覚悟がない限り、僕たちは遊戯君たちに勝てはしない)
「……あたしは強くなるわよ。勝利」
そんな勝利の想いが届いたか、はたまた、同じ想いを募らせていたか。
舞からの言葉に、勝利はすぐに返した。
「ああ」
遊戯、城之内、舞、勝利。
皆の目標、想いは違えども、皆一様に、自分の目標への想いを新たにした。
百様の感情を寄せながら、決闘者王国一日目の夜は更けていった。
「ククククク。そろそろ動き出すぜぇ、お前ら」
「「「了解! 兄貴!」」」
さーて、兄貴って誰だろうなー棒
舞さんともっといちゃつかせようと思ってたら海馬社長に邪魔されました。流石にカットできるイベントでもなかった。
舞さんが受け取り拒否した時の城之内と本田かっこいいですよね。
城之内がかっこよすぎると困るのでちょっと控えてもらいましたが、本田のセリフは好きすぎてほぼそのまま使っちゃいました。