遊戯王~黒き羽根は夢に舞う~   作:haruko

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王国編没案②

勝利&舞vs迷宮兄弟戦

勝利と舞のコンビネーションで、迷宮兄弟のゲートガーディアンを一体ずつ葬っていくところが見たかった。

案①
BFーマインを迷宮に設置し、地雷蜘蛛みたく起爆
『地雷はそっちの専売特許じゃないよ!』

案②
スワローズ・ネストで、舞のカードと勝利のカードを入れ替え
『舞さんのカードが、僕を導いてくれたんだ!』

案③
ハーピィの羽根吹雪で、三魔神のリフレクションに対抗
『防御反射 ストーム・バリケード!』『そっちが風なら、こっちも風よ! 羽根吹雪!』

結構練ったんですけど、
ストーリー上地下に行く展開にはどうしてもならなかった(というか、迷宮兄弟のイベントを奪ってしまうと、遊戯たちの星が足りなくなる)ため。
また、飛行ユニットは迷宮に入れないとかいう設定もあって、BFやハーピィが迷宮に入れるいい言い訳が思いつかなかったので、あえなく没。

↑の展開自体は気に入っているので、こちらで供養させてください。


友 仲間

 

「勝利……おめでとう。すごい決闘だったわ」

 

「ああ……ありがとう、舞さん。うん、厳しくて、苦しい決闘だったよ。正直、何度も心が折れそうになった。でも……舞さんが見守ってくれていたから、戦いきれた」

 

「またそんなことを……」

 

「本当の気持ちさ」

 

「……それでも、あんたの決闘はすごかったわ。改めて、おめでとう」

 

「うん……これで、僕も舞さんも星10個。ペガサス城行きは、決まりだね」

 

星が埋まり切ったデュエルグローブをはめた右手を、掲げる。

それを見た舞はほんのりと笑い、同じく星がそろいきったグローブをはめた右手を挙げて、勝利の手と合わせて音を鳴らした。

 

「おっとっと」

 

そのハイタッチの勢いに軽く押されてバランスを崩した勝利が、背中側によろける。

それに気づいた舞がハイタッチの手をそのまま引き寄せ、自分の身体で受けるように勝利を抱きとめる。

 

「ちょっと、何やってんのよ」

 

「ご、ごめん。舞さん、すぐ離れるから」

 

 

 

 

「OH~! Very sweet time! なかなかスミに置けませんね~勝利ボーイ!」

 

 

 

 

突然の声に、弾けるかのように離れる舞と勝利。

勝利は真っ赤な顔でさびたロボットのように体を回し、声の主の方向へ顔を向ける。

 

「ぺ、ペガサスさん……?」

 

「ハーイ。お久しぶりですね、勝利ボーイ」

 

「……ペガサス。決闘者王国の主催者の……なぜここに?」

 

また動揺中の勝利に代わり、一足先に冷静さを取り戻したと同時に状況の不自然さを感じた舞が疑問の声を上げる。

 

「OH~。そうでした。実は先ほど、招かれざる客がこの決闘者王国に紛れ込んでいるという連絡がありましてね~。まあ、私は来るものは拒まずのStyleですので、純粋なChallengerであればどんな決闘者であれ気にしないのですが……」

 

そこまで話しながら、顔を、未だデュエルボックスの中でうなだれたままのキースへと向ける。

 

「どうやら、ずいぶんとお行儀の悪い決闘者が紛れ込んでしまったという情報が入りまして……気になって私自ら、様子を確認しに来たというわけデース」

 

「な、なるほど……」

 

顔の火照りが抜け、ようやく頭が回り始めた勝利は、ペガサスの話に軽い相槌を交えながらも、昨晩の出来事を思い出していた。

 

(海馬君やあの闇男の言動を踏まえた上で、僕はこの人の人間性をまだ図りかねている……果たしてこの人は、良い人なのか、悪い人なのか……不審者の通報があったとは言っているけど、僕とキースの決闘が終わった途端に現れたのもタイミングもよすぎる。何かを確認するために僕たちの決闘を見定めてから合流した……なんていうのは、考えすぎなのか)

 

(フフフ。さすがは勝利ボーイ。すでに私に対して不信感を抱き始めていますね……ですが、今はあなたと敵対する時ではありまセーン)

 

ペガサスの髪に隠れる左目が、軽く光ったかのように見えたと思ったら、今度は勝利たちの横を素通りし、ボックスに残されたキースのもとへとにじり寄っていく。

 

「……っ! ぺ、ペガサス!?」

 

「ハーイ。私への執念だけでここまでたどり着くとは……相当しつこいですね。Youも」

 

「う、うるせえ……へへへ、ここであったが百年目だ。今すぐ賞金を……」

 

 

 

「もうやめておきなサーイ。Youは先ほどの勝利ボーイとの一戦で、すでに心が折れている」

 

 

 

「っ!」

 

壁に手をつき、無理やり身体を起こしながら威嚇の言葉を紡いだキースに、ペガサスは容赦のない言葉をぴしゃりとぶつけた。

 

「Youの言う、『腕』の差とやらを使用したうえで、完全に上をいかれた。それによってあなたの『勝利への執念、渇望』によって形作られた決闘者としての自信に、確実に罅が入っている。私にはそれが手に取るようにわかりマース」

 

「う、うるせぇ! てめえは、さっさと俺に賞金を……っ!!!?」

 

ボックスから出てきたキースが、悪態をつきながらペガサスの胸倉につかみかかる……が、その胸倉をつかむ自分の拳に力が入っておらず、優しく腕をとったペガサスに簡単に引きはがされていた。

小刻みに震える己の手に、目の前の男一人拘束するに足る力が加えられていないというその事実に、誰よりもキース自身が衝撃を食らっている。

 

(Youが錯乱し、その腰の物騒なシロモノで暴れることがないように出向きましたが……どうやら不要な心配だったようですねー)

 

「……連れていきなサーイ」

 

ペガサスがそう宣言すると、どこからともなく現れた黒服の二人が、キースを拘束する。

必死に振り払おうと暴れるキースだったが、引き続き力が入らない様子のキースを黒服二人が両脇から簡単に抑え込み、キースの動くを封じ込めた。

 

 

「……クソが」

 

 

やがて、悪態をつくしかできなくなったキースは、決闘中の姿からは想像もできない萎れた様子に変貌していた。

怒涛の展開についていけずに、勝利と舞は少々呆けた表情でそれを見ていることしかできなかった。

 

「……Youを、決闘者として殺してくれた勝利ボーイに感謝しておくことですね」

 

「……」

 

その言葉に反応しなくなったキースを確認し、ペガサスが手を挙げて黒服に指示を出す。

黒服二人は軽く頷き、キースの両脇を固めた状態で勝利たちの脇を抜け、遠ざかっていく。

 

 

 

 

 

 

「……おい、小僧」

 

 

 

 

 

 

「……?」

 

黒服が森に入ろうとしたその瞬間に、キースが勝利に話かける。

背中越しに声を発しているだけであり、引き続き黒服に拘束された状態のキースは、勝利と目を合わせることすらもままならぬ状態で会話を続けた。

 

「……一個だけ、聞かせろ」

 

「……何さ?」

 

そっけなく返す勝利の言葉を気にも留めず、キースは会話を進めた。

 

 

 

 

「……なんで、イカサマをすぐに指摘しなかった?」

 

 

 

「……」

 

「その場でイカサマにいちゃもんつけてりゃあ、取り消しにできる可能性はあった。そもそもルール違反で自分の勝ちだと主張することもできたはずだ。それを……なんで何も言わなかった?」

 

 

 

力のない声から、キースが絞り出した最後の執念を感じた。

それを感じ取ったからこそ、勝利は、一切の嘘偽りなく自分の想いを吐き出しきるように言葉を紡いだ。

 

 

 

「言っただろ」

 

「あ?」

 

 

「『あんたのすべてを超えて、僕は勝つ』ってね」

 

 

「……」

 

キースは、一切動かずに言葉を聞く。

その様子に、黒服は最後の猶予とばかりに、連行の足を止めた。

 

 

 

「あんたが僕との決闘で、どう感じたのかはわからない……でも僕にはやっぱり、絶望に潰され、苦しみ、生き残るために藻掻く。そんなあんたの姿が、あったかもしれない自分自分の姿に映った。一歩間違えれば、僕はそちら側にいた。そういう世界で、僕も生きてきた」

 

 

 

言いながら、勝利は上着の首元を引いた。

その服の下から現れたものに、ペガサス以外の全員が息をのんだ

 

 

 

 

「……勝利……あんた、その傷……」

 

 

 

 

 

現れたのは、深い深い傷。

赤く抉れた、刺し傷の跡。

 

 

 

一際目を引いてしまうその大きな傷の周りにも、一介の高校生には似つかわしくない、身に馴染んでしまった古傷の跡が多く見られた。

 

 

勝利はそっと服を上げて、もう一度キースに向き直る。

 

 

 

 

「だからこそ……あんたがどんなことをしてこようが、あんたに勝てることを証明したかった。僕が選んだ、『友達との未来』の道が正しかったことを、証明するために。どんな形のものであろうとも、あんたの全力に勝ちたかった」

 

 

それだけさ。と最後に告げて、勝利の語りは〆られた。

 

 

 

 

それを合図に、黒服の男たちはキースの連行を再開する。

連れていかれるキースに抵抗の様子はなく。うなだれてブツブツと声を漏らす。

 

 

 

 

(地獄の苦しみを、知るもの同士だった)

 

 

 

キースは、理解した。

そのうえで、認めるか、と小さく首を振った。

 

(決闘の最後の勝敗を分けるのは……腕の差。だから俺は、二度と地獄の底に戻るまいと、ありとあらゆる手を使って、勝利を収めてきた……それを、奴はすべて理解していた。理解したうえで……その俺の力のすべてを超えようとしただと……だとしたら、俺は……俺はっっ!!!!!!)

 

 

 

 

 

 

「認めねえ……俺は……認めねえぞ! これじゃあ終わらねぇ、終わらせねぇぞ、黒羽勝利ぃ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

雷のような言葉が、その場の皆を貫く。

その声を最後に、それ以上に何をすることもなく、男たちに連れられたキースは森へ消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

「……はあ」

 

重苦しい空気が振り払われた合図のように、勝利が大きくため息をつき、出したものを取り戻すように深呼吸をする。

 

「……とんでもない男だったわね」

 

ゆっくり隣に並び立った舞が、声をかける。

勝利は、すぐにその言葉に頷いた。

 

「決して、良い決闘者ではなかった……でも、それでも。あの人は、あの人の勝ちに対する執念は、恐るべき力があった……バンデットキース……すごい決闘者だったよ」

 

 

そんな二人の耳に、小さな拍手が届く。

 

 

「何はともあれ……Congratulation、勝利ボーイ。これであなたたち二人は星10個。城へのチケットを手に入れました!」

 

「……ペガサスさん」

 

「勝利ボーイ。あなたと戦えるのを、楽しみにしていマース!」

 

明らかにわざと勝利のみをロックオンしているペガサスの様子に、舞はいら立ちよりも先に、ちょっとした恐怖を覚えた。

勝利も同じことを思っていたのだろう。表情が強張っていることが舞には伝わった。

だが、それでも勝利は一歩前に出て、ペガサスに相対した。

 

 

「ペガサスさん……僕は、あなたが善人か悪人か、そんなことはどうだっていいんです」

 

 

「……AHA~? なんの話でしょう、勝利ボーイ?」

 

オーバーなリアクションで惚けるペガサス。だが勝利はそれを無視し、続けた。

 

 

「……でも、僕の友達は……誰にも渡すことはしたくない」

 

 

「……」

 

 

勝利の脳裏に過ぎるのは、昨晩の、プレイヤーキラーの発言。

 

 

ペガサスは、勝利の友達、『BF』たちを狙っている。

 

 

 

 

「……教えていただけませんか。Mr.ペガサス。あなたが、僕の『BF』を求める理由を」

 

 

 

 

勝利の言葉と、自分を見据える、真剣な目。

左目の『眼』に触れようとしたペガサスはしかし、勝利の様子を見て、自分の手を下ろし、改めて勝利に相対する。

 

 

 

 

「……その質問に答える前に……いえ、その質問に答えるために。先に私に一つ質問させてくだサーイ」

 

 

 

 

「……なんでしょう?」

 

 

 

 

 

「勝利ボーイ……あなたの持つそのカード……一体、どうやって手に入れたのですか?」

 

 

 

 

 

「……」

 

今度は、ペガサスの言葉に勝利が怯み、黙りこくった。

そんな勝利に、ペガサスは衝撃の一言で追撃した。

 

 

 

 

「M&Wは、私がデザインした私のカードゲーム……ですが現在、今日に至るまでに私がデザインしたカードの中に……『BF』などという名前のカードは存在しない」

 

 

 

「なっ!!!!!!?」

 

思わず大声で驚愕を零したのは、舞。

 

対照的に、勝利の反応は静。

 

驚いていない、というわけではないだろうが……どこか納得したような、落ち着いた様子が見て取れた。

 

「……私が生み出したM&Wというカードゲームには、起源があります……私が若いころ、とある場所で見た壁画をもとに、私はカードを生み出しました」

 

普段の砕けた語り口調や雰囲気を引っ込めて、真剣な眼差しで言葉を続けるペガサスの様子に、口を挟む隙すらも無く、ただ黙って話を聞いていた。

 

「カードの中には生み出した私の力をもってしても、扱いきることができないカードはありました。私の力だけでは、効果を理解することすらままならぬカードもありました。ですが、このゲームにおいて、私の知らないカードなどは一つも存在しませんでした。今までは」

 

 

「……」

 

 

 

 

「勝利ボーイ。改めて聞かせてもらいます。そのカードを、『BF』を、どこで手に入れたのですか?」

 

 

 

 

ペガサスの言葉の後、一秒か、はたまた一分か。時が止まったかのような静寂が訪れる。

やがて勝利が、ゆっくりと口を開いた。

 

 

 

 

 

「このカードたちは……絶望の底にいた僕を……救いに来てくれたんです」

 

 

 

 

ペガサスに対する回答になっているのか。それすらもよくわからない回答に、ペガサスは一瞬たじろぐ。しかし、勝利が虚偽や誤魔化しでその言葉を発したわけではないということを理解したペガサスは、お返しと言わんばかりに話を聞く体制をとった。

 

 

「昔、僕は、独りでした。比喩でも、表現の一つでもない、『独り』。僕の側には、誰もいなかったし、何もなかった」

 

 

「……」

 

 

「ただただ……死んでいないだけの毎日を生きていました。まさに、僕にとっては、そこが『地獄の底』だった」

 

勝利が、自分の体を抱き寄せるように腕を寄せた。

握りこむ拳の先には、先ほど見せた深い傷があった。

 

 

 

 

「自分には、何も残っていない。何かを得る、資格もない。僕は、一生独りでいるんだ……ただ、そう思い込んでいました。彼らに、出会うまでは」

 

 

言いながら、勝利はデッキを取り出し、ペガサスに掲げた。

 

 

『ぴーっ!』

 

『かぁー!』

 

『くわぁー!』

 

 

さしものペガサスにも、その声は届かない。

しかしそれでも、勝利が掲げるそれには『何か』があるということを、ペガサスは、そして舞は、感じ取っていた。

 

 

「あなたの問いに、答えるとするのであれば……『気が付いた時には、彼らは傍にいてくれた』という回答になります。当然、Mr.ペガサスの求むる答えとして、十分でないことはわかっています……ですが……」

 

 

 

勝利は、その場に跪いた。

ペガサスがその様子に反応を返す前に、勝利は次の言葉を告げた。

 

 

 

 

「……僕から、僕の大切な『BF』を奪わないでいただきたい」

 

 

 

 

手をつき、願いを申し出る勝利。

表情は見えないが、声が震え、上ずっているのがわかった。

 

 

(……勝利ボーイは、私が彼のカードを求めていることを知っている。そして、私の『千年眼』の力をどこまで把握しているかはわかりませんが、私の実力の片鱗を理解している……バンデット・キースと戦って疲弊している今、私が全力でカードを奪おうとすれば、勝利ボーイのカードは苦も無く奪えるでしょう……なるほど)

 

 

 

 

「No Problem。顔を上げてください、勝利ボーイ。私はあなたから、大切なお友達を奪う気はありまセーン」

 

「……本当ですか」

 

「ええ、本当デース(少なくとも今は、ですがネ。この大会の第一目標は遊戯ボーイの抹殺。彼のカードに焦る時間ではない……)」

 

そうして跪いたままの勝利の手を取って起こしたペガサスは、元の陽気な姿で勝利と顔を合わせ、にっこりと笑って見せた。

 

 

 

「とても素敵な話を聞けました。こんなにもカードと深い絆でつながり、カードをを愛してくれている人がいる。カードゲームのデザイナーとして、こんなにうれしいことはありまセーン」

 

 

(……カードに、心……絆……シンディア…………)

 

 

そういうとペガサスは身を翻し、自身の城、『ペガサス城』へ目線を向けた。

 

 

「勝利ボーイ。それから、そちらのLadyも、城で会えるのを楽しみにしていマース」

 

 

そう言い残し、ペガサスは消えていった。

 

 

危機……だったのかどうかすらも不明だが、怒涛の展開だった2日目の山場がようやく落ち着きを迎えて、勝利の緊張の糸が切れる。

膝の力が抜け、その場に倒れこみそうになったところを、舞が支えた。

 

 

「うわっと……ごめん、舞さん。また助けられちゃったね」

 

「あんた……やっぱり無理してたんでしょ。さっきも、軽いハイタッチで押されただけでよろけてた。キースとの決闘で、消耗してたんでしょう?」

 

「はは、ばれた?」

 

「バレバレよ」

 

(こんな状態で……ペガサスにも、自分の大切なものを守るために……必死に……)

 

舞は、自分の腕の中の勝利の顔を、じっと見つめる。

 

 

「……ま、舞さん? は、恥ずかしいから、そろそろ離してくれると嬉しいんだけど……」

 

照れ顔で、少し笑いながら舞に抗議の声を上げる勝利。

しかし、その顔に陰りのようなものが隠されていることに、気づかない舞ではなかった。

 

舞は、勝利の腕を自分の腕でからめとり、無理やり木陰の元へと歩き出す。

腕をとられた勝利は、そのまま舞に引きずられていく。

 

「ちょ、ちょっと!? 舞さん、何を?」

 

 

勝利の言葉に何も返さない舞が木陰に到着すると、勝利の腕を離し、まず自分が木陰に座り込む。そして、自分の足を軽く前に出し、ハンカチを置いて、ポンポン、と二回たたいた。

その様子に、まさか、と、勝利は汗を一つ垂らす。

 

「おいで、勝利」

 

どうやら、そのまさか。

頭を預けろ。と舞は言っている。所謂、膝枕だ。

 

「……は、恥ずかしいってば」

 

「誰も見ちゃいないわよ」

 

「いや、でも……」

 

「嫌なの?」

 

「……」

 

 

有無を言わさぬ舞の勢いに、勝利は抵抗の術をなくし、おとなしく舞の足に頭を預けた。

膝枕、とは言ったものの、舞は足を横に倒し、勝利に太ももを差し出している。それは、できる限り良い環境で勝利の疲れを取ってあげようという純粋な厚意からのものだが、勝利にとってはあまりにも刺激の強い姿勢だった。

 

(……やわらかくて、いい匂い。これは本当に、僕と同じ人体なのだろうか)

 

そんな馬鹿なことを考えている勝利に、舞の優しい声が届く。

 

「……大丈夫、勝利?」

 

「……うん。大丈夫だよ……でもやっぱり、急いでペガサス城に向かったほうがいいんじゃないかな。せっかく、星10個がそろったんだし」

 

「せっかく早々にそろえたんだから、ちょっとくらい休んでから向かったってバチあたんないでしょ?」

 

「でも……一応、城行のチケットは先着順だよ」

 

「さっきペガサスが言ってたでしょ。あたしたちが来るのを楽しみにしてるって。あの言い方は、あたしたちが来るのを確信している言い方よ。だから焦る必要なんてないわ」

 

「絶対じゃないさ」

 

「些細な事よ」

 

膝の上から正論をぶつける勝利にも、間髪入れずに言葉を返す舞の姿に、勝利は観念したかのように体の力を抜いた。

その様子に舞は、嬉しそうに笑った。

 

 

 

 

「ねえ……舞さん」

 

「ん?」

 

勝利が、舞に声をかける。

その声は……また、不安気な声色だった。

 

 

 

「……聞かないの?」

 

 

「ええ」

 

 

何を? とも返さずに、間髪入れずに舞が返した。

 

 

「……どうして?」

 

「聞かれたくないんでしょう?」

 

 

またも、即答。

その言葉に、勝利の体が少し震えるのを足で感じる。

 

 

「……なん……で?」

 

 

 

 

「なんでって……バーカ。そんなの、仲間だからに決まってんでしょ?」

 

 

 

 

「!!!!」

 

その言葉を聞いた勝利が、腕で目の前を覆う。

呼吸が少し小刻みになり、体の震えがほんの少し早くなった。

 

 

 

 

「ねえ、勝利。あんたにどんな過去があったのか、あたしにはわからない。まあ、あたしだって別に、褒められた過去を歩んできたじゃないしね」

 

「……」

 

「でも、そんなことはどうだっていい。だって、あたしたちは、今、ここで出会っているんだから」

 

「…………うん……」

 

「あたしにとっての黒羽勝利は、孤独な、絶望の象徴じゃない」

 

「………………うんっ……」

 

「あたしにとっての黒羽勝利は……」

 

 

 

誰よりも、カードを愛する男で。

 

誰よりも、決闘を楽しむ男で。

 

誰よりも、優しさを信じてくれる男で。

 

 

 

 

誰よりも、友と仲間を、大切にしてくれる決闘者。

 

 

 

「……舞さん…………」

 

 

 

 

「勝利」

 

 

 

 

舞が、勝利の頬に、そっと手を添えた。

 

 

 

 

「あなたは、独りじゃない。あなたには、あなたの力で手に入れた、あなたの仲間がいるわ」

 

 

 

 

瞳から流れ落ちて止まらない涙を乱暴に拭い、叫び声を押し殺した状態で、勝利は必死に言葉を口にする。

 

 

 

「……思い出したんだ。久しぶりに……独りでいることの辛さを……」

 

 

キースとの闘い。

 

 

「うん」

 

 

 

「……知られたくなかったんだ……舞さんには……こんな僕を……」

 

 

地獄の、体現。無数の、傷跡。

 

 

「うん」

 

 

 

 

「……もう……戻りたくなかったんだ……独りに……でも、『BF』がいなくなるかもしれない、って思って。そうしたら、どんどんどんどん怖くなっていって……」

 

 

『友達』の、消失。孤独の、再来。

 

 

 

「大丈夫。あなたの友達も、あなたの仲間も、誰一人、いなくならないわ」

 

勝利の額に、自分の額を合わせた舞が、静かに、いう。

 

 

 

 

 

 

 

だって……

みんな、あなたが大好きなんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

少年の心を、体を、決壊の音が響き渡る。

悲痛な叫び声は、島の森の片隅で、響き、染み込み、溶けていく。

 

風が、叫びに呼応するように、木々の動きを広げていく。

 

 

 

そして、泣きつかれ、落ち着いた勝利を包み込むように。

日差しが二人を照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、舞さん」

 

やがて落ち着いた勝利が、腫れた目を見られまいと隠しながら、舞に言う。

 

 

 

「ん?」

 

 

 

 

「今度……また、話せるようになったら……その時は、僕の話、聞いてくれる?」

 

「ええ、もちろん」

 

 

 

 

優しく笑う舞につられ、ほんのりと笑う勝利。

その周りを、嬉しそうに『友』が飛ぶ。

 

 

 

 

『ぴー!』

 

 

 

 

 

『友』は、『仲間』を祝福した。




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