遊戯王~黒き羽根は夢に舞う~   作:haruko

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元々この回を節目に、舞さん呼びにしようかと思っていたんですが、「孔雀さん」呼びがあまりにもしっくりこなくてやめました。
原作で誰も呼んでいないのはそういうことなのでしょうね。


ペガサス城と、目指す景色

 

 

「ねえ……舞さん……」

 

「何?」

 

「……歩きづらいんだけど」

 

「振り払ったら?」

 

「……」

 

 

幸福の膝枕で感情をぶちまけたのち、数刻の睡眠を挟んで復調した勝利は、自分の腕をとり、半身に体を寄せる舞を連れたまま、森を抜けようと歩いていた。

 

舞が傍にいてくれる。それはいい。

だが問題は、傍すぎることだ。

勝利の左腕は完全に舞にホールドされ、その腕を軸に勝利に体を少し預けながら歩く。

その体制によって、舞の抜群のプロポーションで出るところが出たボディの感触が勝利の脳を支配し続ける。

さらに甘い香水の香りが、勝利の脳に追撃を加える。

 

(……なんでだろう……船の時とか、昨日よりも、舞さんの魅力がパワーアップしているような気がする)

 

 

それは偏に勝利の舞を見る目が変わったというだけの話なのだが、与り知らぬは本人のみ。

 

 

「いいじゃない。今は、傍にいたいのよ。あんたの隣に」

 

舞のその言葉に、嬉しさと、まだ恥ずかしさが残り、何とも言えずにただ顔をそらす。

その先に、暗い森の出口が見えた。

 

「……森を抜けるまでにしてくれるかい……じゃないとまた、倒れちゃいそうだ」

 

偽りなしの本音で勝利が懇願すると、舞は妖艶に笑った。

 

「ふふっ。そうね。もうすぐ城につくし、勘弁してあげようかしら」

 

 

そういって舞が離れた後、勝利は、深く息をついた。

 

 

 

 

 

 

「さあ、ここを登ったら、いよいよペガサス城ね」

 

森を抜けた後、さらに数分歩いた後、城の入口へと続く長い階段の前に、勝利と舞は佇んでいた。

 

「だね。僕らは結構休んでから来たから、遊戯君たちはもうきているかもしれないよ」

 

「……あの穴倉から、無事抜け出せてればいいんだけどね」

 

舞はキースたちがふさぎ切ってしまった、洞窟の口を思い出していた。

 

「大丈夫さ。遊戯君たちなら、きっと戻ってくる。そして、城で僕らと戦うんだ」

 

「ふふっ……それも勘?」

 

「そうかもね。さあ、行こう。舞さん」

 

そういって、勝利が舞に手を差し出す。

舞は一瞬驚いた顔を浮かべ、すぐに微笑んでその手を取った。

 

「あんなに恥ずかしがってたのに。ここはエスコートしてくれるの?」

 

「別に嫌だったわけじゃないからね。それに、僕も男だから。かっこつけたいし支えたいんだよ」

 

そういって優しく手を引く勝利に、舞が続く。

真白の石の階段を音を立てて行く途中、舞が口を開いた。

 

「でも、こうして並んで歩くのも、城にたどりつくまでの話よ」

 

一見冷たいようにさえ聞こえるその言葉に、勝利は心底嬉しそうに返した。

 

「愚問だね。だって僕たちは、決闘者だ」

 

それに舞も笑い、二人は笑顔のまま階段を行く。

しかし、目は鋭く、言葉は強かった。

 

相手を大切に想う気持ちと、お互いと戦いたいと思う闘争心は矛盾しない。

この王国で深い絆を培った二人は、それを正しく理解していた。

 

 

 

 

だからこそ今、この時までは、並んで歩く。

ペガサスの待つ、頂上の城までは。

 

 

 

「……舞さん」

 

手を引き、先導する勝利がふと止まったことで、舞もそれに倣って止まる。

足を止めた勝利は振り返り、遠くを見ていた。

 

 

「……勝利?」

 

「後ろ後ろ」

 

 

舞は、笑う勝利の瞳で、その景色に気づく。

はっとして、振り返った。

 

 

 

 

「……綺麗……」

 

 

 

 

それなりに長い階段を上ってきたことで、絶好の高度で景色を望むことができた。

 

海を橙に染め上げる、夕焼けの絵だった。

ただ海が色づいているだけではない。波打つ海面が光を照らし、瞬間の輝きを放つ。

広がる海と、熱く燃える夕日の合作。その様は、まさに自然芸術だった。

 

「……遅れてきて、よかったなぁ」

 

「ん?」

 

勝利の言葉に、舞が疑問符で返した。

 

「いや、ね。この景色は、今、この時間だから見られた景色だ」

 

言いながら、時間を確認する。

なるほど、夕日が沈むにふさわしい時間が、時計に刻まれていた。

 

「ゆっくり来たから、こんなきれいな景色が見られた。あの後、休まずすぐに来たら見られなかった景色だ」

 

勝利の、明るく煌めく眼を見て、舞は「そうね」と相槌を打った。

 

 

 

「……明日には、また戦いが始まる。この王国の、最後の戦いが」

 

 

 

つなぐ手の力が、少し強まるのを感じた舞は、勝利の横顔を見た。

また、少しだけ不安げな表情が浮かんでいた。

 

 

 

 

「……こんな素敵な景色を見ておいて、贅沢なんだけどさ……帰りの景色も、これくらい綺麗だといいな」

 

 

 

 

そんな勝利の様子を見て、舞は軽く息を吐き、勝利とつなぐ手を放して階段を数段上った。

そして勝利を見下ろす形で、胸を張って叫んだ。

 

 

「ばーか。何を言ってんのよ!」

 

 

「……舞さん?」

 

 

 

「あんたを待ってんのは……辛い戦いじゃない。あんたは、あたしと、遊戯と、城之内と、最高に楽しい決闘をしに来たのよ。そうでしょう? しっかりしな、黒羽勝利!」

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

舞と言葉に、はっとして言葉を失う勝利。

辛いデュエル、苦しい戦い。

そんな戦いを繰り返して、忘れかけていた。

自分が、この王国で、何をしに来たのかを。

 

 

(そうだ……僕は、遊戯君と……遊戯君たちと……)

 

 

 

 

「明日の景色なんてね、明日のあんたが、あたしたちが作るのよ!」

 

 

 

「……うん!」

 

 

 

「行くわよ! 勝利! ペガサス城へ!」

 

 

 

そう宣言し、舞は一足先に階段を上っていく。

その快活な様子は、また気落ち気味だった自分を救い上げてくれた。

 

勝利の表情から憂いは消え、顔が上がり、先を行く舞を真っすぐに見据えていた。

 

 

 

『ぴー! ぴーぴーぴー!』

 

 

 

嬉しそうに自分の周りを飛ぶブリザードに、勝利は笑って返した。

 

 

 

 

 

 

「うん……そうだね。僕も、大好きさ」

 

 

 

 

 

 

舞に置いていかれまいと、勝利も軽い足取りで登り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「おっ、見なさい。勝利」

 

先を行く舞が足を止めたことで、ようやく勝利が舞に追いつく。

舞の目線の先には、遊戯たちの姿。

 

「やっぱり、あんたの勘は冴えてるわね。あいつら、穴倉から脱出できたみたいよ」

 

「だね……おーい!」

 

「っ! 勝利君! 舞さん!」

 

最初にこちらに気づいたのは杏子だった。

舞と勝利が手を振って合図をすると、杏子も合図を返してくれる。

 

しかし、何か様子がおかしいことに気づいたのはそれからすぐだった。

 

「……遊戯君?」

 

明らかに、遊戯の様子がおかしい。

そもそもこういう再開を最も素直に、最初に喜んでくれそうなのは遊戯のはずなのに、勝利たちの合流にろくなリアクションすら見せなかった。

 

 

「わ! 城之内、あんたホントに10個星集められたわけ!?」

 

「ホントにとはなんだ! ホントにとは!? ま、これから半分になるところでよ!」

 

「……? 半分って、いったい何の……!!!!!!?」

 

「え……!? 遊戯、あんた……」

 

 

城之内の言い分に、勝利と舞が同時に気づき、まさかと思い、明らかに気落ちした遊戯の右腕に着目する。

 

 

 

「嘘……遊戯が星5個……」

 

「失格……」

 

 

 

数秒絶句。そして、二人の怒りが揃う。

 

「ふざけないで」

 

「そんなの、認めない」

 

舞と勝利が、アイコンタクトを挟み、ポケットから拳を突き出す。

 

 

 

「遊戯、あの夜に借りた、星は返すわ」

 

 

「僕からもね」

 

 

 

「な、なにぃ!?」

 

「舞さん、星13個!?」

 

「勝利も星12個持ってるってのか!?」

 

 

 

「はっきり言って、成り行きで想定よりオーバーしてゲットしただけだけどね。あの夜、星を貸してくれた恩をそのままにしておくのは気持ち悪かったから、ちょうどいいや」

 

 

城之内たちが驚愕し、状況を理解してその表情を歓喜に変える。

 

 

「ワハハ! ナイスだぜ勝利、舞! ここは星を受け取っちまえよ遊戯!」

 

「うん! そーよ遊戯! これで星は10個! 城に行けるわ!」

 

 

城之内と杏子が笑いながら遊戯に話しかける。

しかし、遊戯の表情は浮かないままだった。

 

 

「ボク……その星は受け取れないよ……」

 

「っ!!!? 遊戯!?」

 

「な、なんでだよ遊戯!?」

 

「……理由を、聞かせてくれるかな。遊戯君」

 

俯き、目を伏せる遊戯に、勝利は静かに尋ねる。

 

 

 

「……僕は、もう一人の僕と海馬君の決闘の邪魔をした……そして、僕のせいで海馬君に負けて、星を失ったんだ。僕はもう……これ以上勝手なことはできない……」

 

 

 

「遊戯……」

 

断片的にだが、勝利は状況を察す。

海馬との決闘、そして、遊戯の敗北。

 

(苦しい、何かがあったんだね。遊戯君が、もう一人の遊戯君に割って入り、勝利を放棄してしまうまでの何かが)

 

「もう一人の僕だったら、その星は受け取らないよ……だから……受け取れない」

 

 

「ふ、ふざけんじゃねーぞ! 遊戯!!!!」

 

 

萎れた遊戯に、城之内がつかみかかり、無理やり顔を上げさせる。

 

 

「じょ、城之内君……」

 

 

「遊戯! てめー、何もう一人の遊戯に引け目感じて縮こまってんだ!! そんなのは関係ねえ! お前の意志はどうなんだよ! ここで終わっちまってもいいってのかよ!? お前には、守らなきゃならねぇ大切なもんがあるだろーが!」

 

 

一番の親友の魂の叫びに、遊戯の心が揺れる。

大切なもの、とやらが、何かはわからないが、それが遊戯の中でぐるぐると回っているのを感じる。

 

 

「ねえ、遊戯。確かにあたしはさっき、借りた星を返す。って、そういったわ。それは嘘じゃない。でも、本当の気持ちでもないわ」

 

 

「舞さん……」

 

 

城之内の熱い想いを静かに引き継ぐように、今度は舞が話し出した。

 

 

「あたしの本当の気持ち……それはね、あんたが、ここで終わっちゃうのが嫌だったのよ。あたしを、『仲間』と呼んでくれたあんたがね」

 

 

「舞……お前……」

 

 

舞の、あまりに正直な思いに、城之内が驚きの声を上げる。

城之内だけではなく、本田に杏子、獏良も、舞からそんな言葉が聞けるとは思わずに驚いていた。

 

 

「あんたたちがそう呼んでくれたおかげで、あたしはあんたたちと『仲間』に成れた。そして……勝利とも。それが、嬉しかったんだ」

 

 

その言葉を受けて、今度は、勝利が一歩前に出た。

 

 

「……遊戯君。僕はね、ここに来るまでに、心が折れかけてたんだ。ちょっと、つらいことを思い出しちゃってね」

 

 

「勝利君……」

 

 

話すのが辛くないわけではない。勝利は、胸が少しだけ苦しくなるのを感じていた。

それでも、『仲間』がいるから、『仲間』がいてくれるとわかっているから、勝利は話を続けた。

 

 

「そんな時に、舞さんが、助けてくれたんだ。『仲間だから』って言ってね」

 

 

「……」

 

 

「それが僕は、何よりもうれしかった。僕は、もともと、『独り』だったから。僕は一人じゃないって否定してくれた舞さんの言葉がうれしかった。そして何よりも、僕は一人じゃないと気づいたときに、僕の心にいたのは、僕のデッキの『BF』たち、舞さん、そして……君たちだった」

 

 

 

「……へへっ」

 

「勝利君……」

 

「ったく。面と向かって言いやがって。こっちが恥ずかしくなるぜ」

 

「さっすが、勝利君だね」

 

 

 

城之内たちが、口々に呟く。

皆一様に、笑顔だった。

 

 

 

「僕と舞さんに、『仲間』をくれたのは、遊戯君、君たちなんだ」

 

 

そのセリフを受け、舞は少し笑いながら勝利の頭を軽く小突き、もう一度星を差しだす。

それに合わせ、勝利も星を差し出した。

 

 

 

 

「だから、この星は、僕と舞さんからのお礼。そして何よりも、僕らの友情の印だ。受け取ってくれ。遊戯君」

 

 

 

 

「……勝利君、舞さん……ありがとう! 受け取るよ! この星を!」

 

 

そうして、遊戯は、星5つを腕にはめた。

 

 

 

 

「「よっしゃあ!」」

 

 

 

 

「さあ、行くわよ!」

 

「ああ、行こう!」

 

 

 

「「「「ペガサス城へ!!!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにぃ!? 勝利、お前が『バンデット・キース』を倒しちまったのか!?」

 

城に入ってからの遊戯たちと勝利たちは、長い廊下を歩きながら、お互いが別れた後に何があったのかの情報交換を行っていた。

まず勝利たちの話に衝撃を受けたのは城之内だった。

 

「そうだね。すさまじい決闘者だったよ」

 

「くっそー。あの野郎は俺がぶっ飛ばしてやろうと思ってたのによぉ……」

 

「またまたー、強がっちゃって。本当はここにキースがいなくて安心してるんじゃないの~?」

 

「どういう意味だ杏子てめー!?」

 

「いやいや杏子ちゃん、城に来たのが勝利君と舞さんになったんだ。より厳しい戦いになったともいえるよ」

 

「そうだな。誰が相手になっても、城之内より圧倒的な実力者ばっかりだ。どうすんだよ、城之内」

 

「へんっ! 当然勝つさ! たとえ、舞でも、勝利でも、遊戯でもな!」

 

「くっくっく。その意気だよ、楽しくなりそうだね」

 

 

話しながら歩き進めると、とうとう同じような景色を抜け、大広間へとたどり着く。

そこは、吹き抜けを外周して回れるような構造になっており、中央にはなんと、決闘場がセッティングされていた。

この構造が、決闘の観覧席のためであるということを理解すると同時、決闘場に立つ一人の男を勝利が見つけた。

 

 

 

 

「あれは……海馬君」

 

 

 

 

「か、海馬君!?」

 

「あの野郎……なんであそこに?」

 

「まさか、海馬君……今ペガサスと決闘を……」

 

 

 

「さよう」

 

 

 

声のする方向に振り向くと、黒服の男がこちらに向かってくる。

キースを連れて行くときに見た一人だった。ペガサスの直属の部下なのだろうとわかった。

 

「優勝決定戦の四人の参加者諸君。ペガサス城へようこそ。まあ……何人か余計なものが紛れ込んでいますが、まあいいでしょう」

 

「……今の言い方的には、海馬君は別枠という認識でいいかな?」

 

「おっしゃる通りです。クリエイター勝利様。これより行われる試合は特別試合。皆さんに楽しんでもらうための余興のようなものと思っていただければ」

 

「よ、余興だとー!?」

 

 

怒る城之内。それに遊戯も、自分を負かした海馬だというのに、余興扱いが不服なようで苛立ちの表情を浮かべていた。

 

しかし、勝利はまったく別の事を考えていた。

 

(余興……ということは、この決闘は僕らに見せるためのものということ……自分の手の内をさらすことを物ともしていない。ましてや、海馬君に敗北し、この決闘者王国の戦いが無に帰すことなんて考えてもいないみたいだ。ペガサス……いったい、どれほどの腕だというんだろう……)

 

 

「……勝利?」

 

「っ!」

 

顔が険しくなっていることを舞に見抜かれたのを察し、顔を軽くぱちんとはたき、笑顔を作り直す。

 

「大丈夫……僕は、僕の決闘を楽しむだけさ。たとえ、誰と戦うことになってもね」

 

「……ふふ、そうね。じゃあ、勝利はこの決闘、どっちを応援するの?」

 

「うーん……難しいね」

 

 

でも、と一言おいて、海馬の顔を見る。

覚悟の男の顔をしていた。

 

 

昨日の夜の、城之内の一戦に見た、あのカードを勝利は思い出す。

 

 

 

「……彼と"青眼の白龍"の絆が、どこまでペガサスに通用するのか」

 

 

 

勝利は、そこに少しだけ希望を感じていた。

 

 

 

 

しかし……数分もたたないうちに、その希望は薄く、白んでいった。

 

 

 

 

 

海馬 LP1000

 

ルード・カイザー

 

守 1600

 

 

ペガサス LP1400

 

ダーク・ラビット(トゥーン)

 

攻 2200

 

 

魔法 トゥーン・ワールド

 

 

 

 

トゥーン・ワールド

 

魔法カード

 

自分の場のモンスターをトゥーンモンスターに変える

 

 

 

「"トゥーン・ワールド"……不可侵の絶対領域……」

 

「攻撃不可能のモンスターなんて、どうやって攻略すればいいの……」

 

発動された理不尽なまでの強さの魔法カードに、勝利と舞は絶句する。

だが、それ以上の展開が待っていた。

 

 

「海馬ボーイ……今から面白いものをお見せしましょう。このカードは、YOUからいただいた"青眼の白龍”……これを召喚しマース」

 

「ま、まさか……」

 

そういうや否や、大型モンスター"青眼の白龍”が、小さく、丸みを帯びた子供の絵のような姿へと変化していく。

 

「"ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン"デース!!」

 

 

ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン

光属性 ドラゴン族 星8

 

攻撃力 3000

守備力 2500

 

 

「ぶ、"青眼の白龍"までトゥーン化しちゃった……」

 

「これでペガサスのブルーアイズは、攻撃できない最強のブルーアイズ……」

 

 

 

勝てない。絶対に。

決闘者として絶対に口にはできない、そんな言葉が一瞬脳をよぎる。

 

 

 

ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン

 

攻 3000

 

ルート・カイザー

 

守 1600

 

 

 

「くそっ」

 

「海馬君の最後のモンスターも、破壊された……」

 

 

 

 

(強力なモンスターを次々と並べ続けたはずの海馬が、見る見るうちに圧倒されていく……これが、ペガサスの力……遊戯君が、僕らが、倒そうとしている男の実力)

 

 

ちらと遊戯のほうを見る勝利。

遊戯は恐怖と、心配が入り混じる、切ない表情で海馬の決闘を見つめる。

 

 

すると海馬が、自身の手札をそっと墓地に置いた。

 

 

「っ!! 海馬のやつ、一体何を……」

 

 

みんなが驚愕する中、海馬は次のドローのため、デッキに手を掛ける。

 

 

「俺は、次にドローしたカードを攻撃表示で出し、貴様に攻撃する!」

 

 

「ちょっとちょっと!? 海馬、おかしくなっちゃったんじゃ……勝利?」

 

 

舞が驚愕の声を上げる中、勝利は、笑っている。

右手で心臓を抑える。高鳴る鼓動を、無理矢理に抑え込んでいた。

 

 

 

「……来る!」

 

 

 

「俺のドローは、"青眼の白龍"!!」

 

 

 

青眼の白龍

光属性 ドラゴン族 星8

 

攻撃力 3000

守備力 2500

 

 

 

勝利は、大きく口角を上げた。

 

 

(聞こえたよ……海馬君! 君と"青眼"の、魂の脈動が!!!)

 

 

 

「オレの怒りを感じるだと、ペガサス……オレは既にキレているわ!」

 

 

 

海馬の渾身のドローを受け、勝利はその場にしゃがみ込んだ。

 

「ちょっと、勝利!? 大丈夫……?」

 

舞が駆け寄ると、勝利は、小刻みに震えている。

瞬間、勝利からの圧力のようなものを感じた。

 

 

勝利は……ワクワクしていた。

 

 

(こんなにもカードと思いあう決闘者を、初めて見た……すごい。すごいや、海馬君……)

 

 

「舞さん……」

 

 

 

「……どうしたのよ?」

 

 

 

 

 

「僕……早く決闘がしたい」

 

 

 

 

 

あんなカードと思いあうことができる、全力の決闘を、みんなとしてみたい。

勝利の心は、それだけでいっぱいだった。

勝利は、好戦的な笑みで、舞に言った。

 

 

「舞さん……明日の僕、強いよ。覚悟しておいてね」

 

 

その表情とセリフに、舞はあきれて、「……やれやれ」と返した。

 

 

 

 

 

 

結論を言うと、その後、海馬はペガサスに敗北した。

彼らがどういうやり取りをしていたのかはわかりはしないが、海馬は、ペガサスによって囚われの身になってしまったようだった。

しかし、勝利はそれを憐れむことはなかった。

 

(海馬君の魂を賭けた全力を、ペガサスが迎えうった。どんな決闘であったにせよ、僕は、その決闘にケチをつけることはしたくない。僕がペガサスと戦うのであれば、その時に君を救えるかは尋ねてみる。今はそれで、許してくれ……)

 

勝利は連れていかれる抜け殻のような海馬に、軽く頭を下げて敬意を表した。

 

 

 

「さあ、王国を勝ち抜いた決闘者諸君よ! 優勝者決定戦は明朝! この決闘場にて行う!」

 

「そう……四人の決闘者の中から勝ち上がってきたものが、私と戦う栄光を得るのデース!」

 

ペガサスがそう宣言し、みんなの気配が張り詰める。

四人は、何を言うこともなくお互いを見合った。

 

「……遊戯君、城之内君。そして、舞さん。当然だけれども、宣言する。僕は、全力で戦うよ。誰に、どんな思いがあろうとも……全力で!」

 

「……もちろんよ!」

 

「おう!」

 

「あたぼうよ勝利!」

 

そういって四人は、軽く拳を合わせた。

 

 

 

 

「皆さん、こちらへどうぞ。晩餐の用意が整っております」

 

黒服のその言葉を合図にするように、ぐぅ~~~という音が、城之内の腹から鳴り響いた。

 

「ハハハ……腹減った~」

 

みんな笑いながら、食事処へと向かった。

 

 

 

 

 

部屋につくと、屋敷の見た目にふさわしい豪勢な食事が用意されていた。

その様子を見て、城之内だけではなく、杏子や本田、勝利までもが少し涎を垂らした。

 

「あんたらね……はしたないわよ」

 

「高校生の身空にはそれだけ過ぎた料理なんだ……少しのバッドマナーは見逃してよ」

 

言いながら、舞と勝利は席に着く。

それに倣うように、遊戯たちも席についた。

 

 

 

黒服の前夜祭開始の宣言を皮切りに、みんなが食事に手を付ける。

見た目と配膳の豪華さにまるで引けを取らぬ美味な食事に、勝利たちは目を丸くして驚き、食事にがっつく。

 

「うん、うまい。これも、うまい。これも、めちゃうまい。うん、うまい」

 

「……キャンプの時にも思ってたけど、あんた、意外と食事を楽しんでるというか……料理の良し悪しにうるさいタイプよね」

 

「家ではほぼ自炊だからね。結構こだわりはあるよ。このソテーなんか、火入れが素晴らしいよ。やっぱりいいオーブンとか使ってるのかなあ。許されるなら、作り方教えてくれないかなあ」

 

勝利はそう言いながら、キラキラした目で次々に料理をほおばっていく。

 

(こいつ……こんな感じで、あたしより生活力高かったりして……なんか、悔しい)

 

なぜか負けたような感覚を覚える舞の事に気づく様子もなく、続けて料理にがっつく勝利。

 

「ほら、舞さん。このスープなんか絶品だよ。食べてみな」

 

 

笑顔を舞に向けながら、スープを掬う勝利。

だが、その笑顔は、一瞬にして曇ることとなる。

 

 

 

「にゃ、にゃんじゃほらあ!?」

 

 

 

勝利の大声に、他の話をしていた遊戯たちが反応する。

大口を開ける勝利の口内には、不気味な金色に輝く目玉のような物体が入り込んでいた。

 

「ハガ……! アタヒロスープにも!!」

 

舞も勝利に倣うかのように、大口を開けて目玉を取り出した。

 

「ゲーッ! なんだこれ!!?」

 

「っ!!」

 

城之内、遊戯のスープにも、目玉が入っていたようだ。

つまり、トーナメントの参加者のスープに、これが入っていたことになる。

 

(これは……まさか)

 

 

 

 

 

「イッツア、ショータイム!!」

 

 

 

 

「っ!!!」

 

「ペガサスさん!?」

 

食堂の中央にあるスクリーンに、スープを飲むこちらを愉快そうに覗くペガサスが映し出された。

 

「ペガサス! てめぇ! スープにこんなもんが入ってたぜ!」

 

「OH! これは今夜のメインディッシュデース!」

 

異物混入を悪びれもせずにわざとだと宣言するペガサスに、勝利は確信する。

 

「やっぱりこれは……僕ら参加者あての……」

 

「オーノー!? さすがは勝利ボーイ! すでに察していましたか。名付けて……トーナメント・エントリードキドキビンゴゲームデース!」

 

(やはり……ってことは)

 

勝利は自分の手の中にあるそれに、指先で力を入れる。

その目玉は二つに割れ、中から一枚の紙が出てくる。

 

(B……)

 

自分の紙の内容を確認した後、顔を周りに回す。

 

「おわっ、なんだこれ……D?」

 

「あたしはC」

 

「……」

 

(ということは……遊戯君が、A……)

 

 

 

 

「それでワー……トーナメント表発表デース!」

 

 

 

 

するとペガサスの脇のモニターに、トーナメント表が表示される。

左から順番に、A、B、C、Dと順番が振られ、その上に、トーナメントの線が並ぶ。

 

 

「俺は……舞とか!」

 

「城之内……フフッ」

 

「僕は……遊戯君と」

 

「……」

 

 

対戦相手の決定に、皆一様に心を燃やす。

その中でも、勝利の闘志の炎は人一倍だった。

 

 

(やっと……やっと、この時が来たね。遊戯君!)

 

 

勝利は、高ぶる。

『BF』も、喜び、勝利の周りを舞った。

 

 

 

 

しかしその日、勝利と遊戯の眼が合うことは終ぞなかった。

 

 

 

 

 

城の夜は、静かに更けていく。




どうしてもトーナメント発表まで行きたくて、決闘もないのにちょっと長くなっちゃいました。
次回、新年1発目、とうとう勝利vs遊戯になります。

今年、と言っても2ヶ月ですが、拙作をご愛顧いただきありがとうございます。
新年一発目は、1月3日の投稿になります。
1日ずれますのでご了承ください。


今後も、3の倍数日投稿を基本に、月跨ぎの際はずらしていく予定です。
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