遊戯王~黒き羽根は夢に舞う~   作:haruko

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王国編完結まではノンストップで行くことは確定。
その後、間話を少し挟み、バトルシティ編に移行する予定。
バトルシティ入る前に描きだめの時間をもらうかもです。


臆病者は許さない 孔雀舞、大噴火。

 

 

勝利 LP2000 

 

BF-逆風のガスト

 

守 1400 (+ 鎖付き尖盾)

 

BFー流離いのコガラシ

 

攻 2300

 

 

遊戯 LP150

 

モンスター無し

 

伏せカード無し

 

 

 

 

 

 

モンスターの揃ったフィールドと、誰もいないフィールド。

キズ一つのないLPと、風前の灯のLP。

 

そして何よりも、項垂れて動かない遊戯と、それを真っすぐに見つめる勝利。

 

 

M&Wの初心者であろうとも、どちらがこのゲームを支配しているかは明白だった。

 

 

 

 

 

「おいおい……マジでどうしちまったんだよ。遊戯!」

 

「……遊戯」

 

心配そうな声を上げる城之内たちだが、その声が遊戯に届いている様子はなかった。

焦りに支配された表情には、敗北を恐れ、思考がかき乱されている彼の心象がありありと現れていた。

 

 

固まる遊戯に、抑揚のない声で勝利が告げた。

 

「……モンスターが場にいない。このまま終わる気かい。遊戯君」

 

「っ! 俺は、"クリボー”を、守備表示!」

 

『くりくり~』

 

 

クリボー

闇属性 悪魔族 星1

 

攻撃力 300

守備力 200

 

 

 

「……"クリボー”か。いいカードだね」

 

カードを見て素直な感想をこぼす勝利だが、余裕ととらえられたのか、さらに怒りの感情までもを追加した遊戯はカードをたたきつけるように場を置いた。

 

「(今はこれで、耐えるしかない……)カードを一枚セットし、ターンエンドだぜ!」

 

『くり~……』

 

"クリボー”が不安そうに遊戯を振り返る。が、遊戯の目にはその姿は映らない。

その様子を見て切ない思いを覚える勝利だったが、頭をぶんぶんと振って思考を切り替える。

 

「……"クリボー”ね。僕のターン、ドロー」

 

勝利のターンが始まると同時、遊戯は自分の伏せたカードにそっと触れる。

その動きは、カードに縋るようにさえ見えた。

 

(……"増殖”の効果さえあれば、"クリボー”の数を無限に増やすことができる)

 

 

増殖

 

魔法カード

 

攻撃力500以下のしもべを無数に分裂させる

 

 

(これで、逆転の手が揃うまでの時間を……)

 

 

 

 

 

「心外だね。そんな決闘を、僕が許すと思われていることが」

 

 

 

 

 

「!!!!!?」

 

自分の心に入り込まれたような言葉に、遊戯は平然を装うこともできずに驚愕の顔をそのまま勝利にさらした。

勝利は、引いたカードを真っすぐ場におろす。

 

「魔法カード発動。射抜け、"ナイト・ショット”!」

 

 

ナイト・ショット

 

魔法カード

 

闇からカードを打ち抜く。カードの発動を許さない。

 

 

「このカードによって、セットカードを破壊する。そのカードは、発動することを許されない」

 

「なんだって!?」

 

盾からほんの少しだけ顔をのぞかせたガストが、片方の手で鉄砲を作り、鳴き声とともに指先から羽を飛ばす。

その一枚の羽根は遊戯のセットカードを射抜き、破壊した。

 

「ぞ、"増殖”のカードが……」

 

「海馬の"青眼の究極竜”の攻撃さえいなした、遊戯の切り札が!」

 

「そんな……もう、遊戯の打つ手はないの!?」

 

 

静かになってしまった遊戯と対照的に、ギャラリーの声がホールに響き渡る。

しかし、そんな悲痛の声を聴いても、勝利が止まる道理はなかった。

 

 

 

「……バトルだ。コガラシで、"クリボー”に攻撃。『木枯らし荒らし』」

 

 

 

BFー流離いのコガラシ

 

攻 2300

 

クリボー

 

守 200

 

 

 

『くり~~~!』

 

 

 

クリボーの断末魔とともに、再び遊戯の場ががら空きになる。

 

 

そして遊戯は、そのがら空きになったフィールドに、持っている手札ごと突っ伏した。

 

 

 

 

 

 

(勝てない……圧倒的だ。俺と勝利君に、ここまでの実力差があっただなんて……)

 

 

 

 

 

崩れ落ちかけた体を、必死に腕で支え続ける。

しかし、それは戦うことを諦めない決闘者の姿とは程遠いものだった。

 

「おい……おい、遊戯!? 何やってんだ! 立ち上がれ、遊戯! お前は、お前の爺さんを助けなきゃいけないんだろうが!」

 

「そうよ! そんな風に心が折れちゃうなんて、遊戯らしくないわ!」

 

城之内と杏子の、決死の応援が届く。

しかし、遊戯の心を奮い立たせるに至らない。

 

 

 

「……何やってんのよ」

 

 

 

舞が、静かに呟いた。

しかし、その声は、城之内たちの応援の声に溶けて消える。

 

 

 

 

ペガサスは、そんな仲間の声すら届かなくなった遊戯を見て、ほくそ笑んだ。

 

 

(……遊戯ボーイ。あなたは今、目の前の勝利ボーイが恐ろしくて仕方ないでしょう。あなたは敗北を知らないが故に、今目の前に迫る敗北の恐怖に打ち勝てない……何よりも、勝利ボーイはそんなあなたとの『約束』とやらを守るため、怯えたあなたにも全力で立ちはだかろうとしている……一度敗北の恐怖がちらついてしまったあなたはもはや、勝利ボーイに向き合うことはできないでしょう……これは、決まりましたかね)

 

 

ペガサスは、勝敗を確信する。

そして、その確信は、すでに現実へと姿を変え始めていた。

 

 

 

 

 

「武藤遊戯! モンスターを出さないままなのであれば、試合放棄とみなす!」

 

 

 

 

 

「っ! おい、遊戯!」

 

「遊戯ぃ!」

 

 

審判がそう宣言し、焦る城之内たち。

より大きく、力強く叫ぶが、その想いは遊戯には届かない。

 

黒服の審判が、やがて苛立ち始めるのを、その場にいる勝利は感じた。

おそらく、次の言葉は、失格の宣言。そして、決着の宣言となるであろうことを、感じ取った。

 

 

 

そして、それを感じ取ったその瞬間に、

勝利は、必死にこらえながらも泣きそうな顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その表情を、見たからだろうか。

 

会場に爆音がはじけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……立ちなさい、武藤遊戯!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「~~~~~~!!!!!? ま、舞?」

 

横の城之内が、想定外の場所からの爆音に思わず耳を塞ぐ。

だが、そんなことを気にする様子もなく、舞は続けた。

 

 

「……あんた、何そんなところで一人でヘタレてんのよ! 勝利はね、あんたとの決闘をずっと楽しみに待っていたのよ!? それを、一人で何やってんのよ!」

 

 

「……舞?」

 

 

「舞さん……」

 

 

 

遊戯も、勝利も、舞に注目する。

だが、その二人さえも、舞の意図を正しくは理解していなかった。

 

舞は、声を枯らさんばかりに、渾身の力で叫び続けた。

 

 

 

 

 

「勝利は……勝利はね! ずっと苦しんだのよ! 自分が大好きなはずの決闘で、必死に戦って、苦しくてももがいて、ずっと、戦い続けたのよ! ここで、楽しい決闘をするために!」

 

 

 

 

(闇のプレイヤーキラーと、戦った……あたしの未来を、守るために。バンデットキースと、戦った。自分の過去を、振り払うために。勝利が嫌いな、つまらなく、辛く、苦しい決闘に向き合った)

 

 

 

すべては、ここで、遊戯たちと戦うために。

楽しい決闘を、するために。

 

 

 

楽しい決闘ができると……信じてここに来た。

 

 

 

 

(なのに……なのに!!!!!)

 

 

 

 

 

「これ以上……勝利に辛い顔を、させんじゃないわよ!」

 

 

 

 

 

 

「!!!!!」

 

 

遊戯に、雷に打たれたかのような衝撃が走る。

 

 

舞の怒りの声がこだまする中、遊戯は思い出していた。

今までの勝利の、言葉が、表情が、思い出が、頭の中を駆け巡った。

 

 

 

 

 

 

『僕は君とデュエルをするならば初めてのそれは、最高の舞台での、最高のデュエルにしたい』

 

 

 

『君を待ち続けるよ。君が、僕と戦ってくれるその日を』

 

 

 

『僕は、全力で戦うよ。誰に、どんな思いがあろうとも……全力で!』

 

 

 

 

(そうか……勝利君、君は……ずっと俺を待っていてくれたのか……約束した通り、全力で戦うことで、最高のデュエルにするために。俺のことを……だというのに、俺は……)

 

 

遊戯は、恐れていた。敗北を。

それは、自分の心では受け止めきれなかった痛み。

 

 

(あの時……海馬との決闘の最終局面……海馬の命を懸けた決意の前で、俺には迷いが生じた。負けることを恐れた……だが、あの時身を打たれたのは、もう一人の俺だった!)

 

 

自分は、敗北の辛さから目を背けてしまった。

だからこそ、ペガサスとの戦いを前に、敗北してしまうことの恐怖から逃れられなくなってしまった。

 

遊戯は、気づいた。

 

 

(俺に必要だったのは、もう一人の俺の強さと向き合うこと……そして、こんな俺を待ち続けてくれた、大切な仲間と向き合うこと……)

 

 

遊戯は、目の前に目線を戻した。

すると、勝利がこちらの顔を見て、微笑みかけていた。

 

 

 

(さっきまで……勝利君はいったい、どんな顔をしていた……?)

 

 

 

まるで、思い出せない。

舞曰く、辛い顔をしていた勝利の顔が、まるで……

それにすら気づけないほどに、自分が追い込まれていたということの証明だった。

 

 

 

我に返る遊戯。

勝利は、それを見て大きく息をついた後、もう一度目線を上にあげた。

 

 

 

「それ以上戦う気がないっていうなら、そこをどきなさいこの臆病者!! 今すぐあたしがそこに降りてって決闘してやるわ! 待ってなさい!!!!」

 

 

言いながら、テラスの手すりに足を掛ける舞。

それを見て、ぎょっと目を丸くした城之内と杏子が即座に舞に駆け寄り、両側から羽交い絞めにした。

 

 

「ちょ、ちょっと待て舞! やめろ! 本気で飛び降りる気か馬鹿野郎!?」

 

 

「舞さん、落ち着いて! ちょっと待って!?」

 

 

「離しなさい! あの馬鹿は、あたしがこの手でぶん殴ってやらなきゃ気が済まないわ!!!」

 

 

顔を真っ赤にして暴れまわる舞を、必死の形相で止める城之内と杏子。

その状況はまさにカオスだった。

ぽかんとした表情で見上げていた勝利が、とうとう表情を崩した。

 

 

 

 

 

「……くく。くっくっく。何してんのさ舞さん……くくく……あーっはっはっはっは!!!!」

 

 

 

 

 

その様子を見て、勝利は久方ぶりに、大きな声で笑う。

少しの間、自席で笑い転げた後、目じりの涙を軽く拭いながら、遊戯に向き直った。

 

 

 

 

 

「はっ、はは。げほっ……ああ、面白かった……ねえ、遊戯君」

 

 

 

 

ようやく落ち着いた後、遊戯に向き直った。

遊戯は、今だ険しい表情のままだった。

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

「……楽しい決闘にしようぜ!」

 

 

 

 

 

 

「!!!!」

 

 

サムズアップでそういう勝利。

その言葉を聞き、遊戯は突っ伏したまま体を震わせる。

その表情にはもはや、怯えも、恐怖もない。

 

あるのは、たった一つ。

己に対する、怒り。

 

 

 

(そうだ……勝利君は、ずっとそれを求めていた……俺との、最高の舞台での、最高に楽しい決闘。それを待ち望んでいたことを、俺は誰よりも知っていた……知っていた、はずだったのに……俺は……俺はっ!)

 

 

 

 

 

「……はっ! む、武藤遊戯! あと10秒以内にターンを進めなければ……」

 

 

 

 

ごたごたで途切れた流れを思い出したかのように審判を進める黒服の声を、再び異音が遮った。

 

 

その鈍い音の主である遊戯が、拳の自分の顔にたたきつけている。

鼻からは、一筋の鼻血が垂れていた。

 

その行動に衝撃を受け、城之内も、杏子も、暴れていた舞や目の前の勝利でさえも言葉を失い、静寂が場を支配する。

やがて遊戯が、血を拭い、少しずつ言葉を紡ぎ始めた。

 

 

 

「……俺がいくら謝ったところで、これまでの君への無礼を取り返せるわけでもない……」

 

 

 

「……」

 

 

 

「それでも、言わせてくれ。勝利君、本当に、すまなかった……」

 

 

 

突っ伏したまま、遊戯は頭を下げた。

そこから放たれる言葉を、勝利は静かに聞いていた。

 

 

 

 

「舞。勝利君。俺はお前らと仲間になれたことを、誇りに思う。本当に、ありがとう」

 

 

 

 

舞は「……ふんっ」と鼻を鳴らしてそっぽを向く。

勝利は、穏やかに笑い、遊戯の次のセリフを待った。

その顔は……期待の表情だった。

 

 

 

 

 

「そして……ここからが、俺の本気の決闘だ! 受け止めてくれ! 勝利君!」

 

 

 

 

 

 

「……ああ! それだよ! 遊戯君! 僕は、それを待っていたんだ!」

 

 

 

 

 

勝利の、本気の笑顔が弾ける。

それを見た舞が、少し落ち着いて息を吐き、次に遊戯をジト目で見て言った。

 

 

「……それを最初っからやりなさいよ。馬鹿」

 

 

それを両脇で聞いていた城之内と杏子は顔を見合わせて笑い、仕切り直しと言わんばかりに声を上げる。

 

「よっしゃあ! 勝負はこっからだぜ! いけえ、遊戯!」

 

「がんばれ! 遊戯!」

 

 

場に活気が生まれる。

止まっていた時間が、動き出したかのようだった。

 

 

「行くぜ! 俺のターン! "カタパルト・タートル"、召喚!」

 

カタパルト・タートル

水属性 水族 星5

 

攻撃力 1000

守備力 2000

 

味方のモンスターをカタパルトから射出し、玉砕!

 

 

「……"カタパルト・タートル"だって? そのモンスターは、射出機能を持ったモンスターのはず……」

 

ミス、という考えが頭をよぎる。

しかし、遊戯の自信に満ちた表情が、先ほどまで勝利が手の内のすべてを読み切ることができた遊戯とは別人である、ということを物語っていた。

その自信の表情の遊戯が、"カタパルト・タートル"の隣にそっとカードを追加する。

 

「確かに、自軍に味方モンスターがいない今、こいつの能力を最大限に生かすことはできない。だから、こうするぜ。俺は魔法カード"洗脳ーブレインコントロールー”を発動!」

 

「っ! しまった、そういうことか!」

 

 

洗脳ーブレインコントロールー

 

魔法カード

 

敵モンスター1体を洗脳し、1ターンだけ味方にして操ることができる。

 

 

 

「この効果で俺は、"BFー流離いのコガラシ"を洗脳! そして、コガラシをカタパルトに乗せるぜ!」

 

(……これで"カタパルト・タートル"は、弾丸でモンスターを狙い打てる。しかも効果による砲撃だから、"鎖付き尖盾"も、ガストの効果も意味をなさない!)

 

「カードを1枚セット。さあ、行くぜ! コガラシの弾丸を、"BF-逆風のガスト"に向けて、射出!」

 

 

コガラシが、とてつもないスピードでガストへと迫ってくる。

ガストは必死に向かい風を起こして対抗しようとするが、勢いが収まらない。

 

 

『ぴぃー!』

 

 

ガストにコガラシが着弾し、爆発を巻き起こす。

煙が晴れた後の勝利のフィールドは、がら空きになっていた。

 

「ガストは守備表示だが、攻撃表示のコガラシが破壊されたことで、勝利君のLPは削られるぜ!」

 

「……お見事」

 

 

 

勝利 LP 2000 ー (2300 ÷ 2 ) = 850

 

 

 

「よっしゃあ! ようやく勝利のLPが削れたぜ!」

 

大きくガッツポーズをとりながら、城之内が言う。

その横で、あきれた表情を浮かべながら、舞が続けた。

 

「……でも、その代償は大きそうね」

 

「えっ? 舞さん、どういう意味?」

 

「よく見なさい」

 

舞は難しい顔で腕を組み、顎でフィールドを差しながら言った。

 

 

勝利 LP850 

 

モンスターなし

 

伏せカードなし

 

 

遊戯 LP150

 

カタパルト・タートル

 

攻 1000

 

伏せカード1枚

 

 

 

「確かに、遊戯の今のターンは見事だった。起死回生の一手だったといっていいでしょう。でも、このターン、遊戯は攻撃表示のカタパルト・タートルを無防備に晒してしまっている。遊戯のLPはすでにわずか。勝利に攻撃できるモンスターを引かれたらそれだけで、このゲームは決着するわ」

 

舞の言葉に、城之内たちは青ざめる。

そう。遊戯は闘志を取り戻し、戦える心を手に入れたとはいえ、まだ窮地を一つ脱しただけにすぎず、前半の劣勢で払った代償は遊戯に重くのしかかったままだった。

 

(……罠を恐れてくれれば、まだチャンスはあるが……)

 

 

 

 

 

 

「……罠カードじゃない、よね?」

 

 

 

 

 

 

「……やはり、君にはバレるか」

 

静かに告げた勝利に対し、諦めたように笑う遊戯に、城之内たちは驚愕する。

勝利は、淡々と話し出す。

 

「さっきのターン、君は起死回生の手を打った。"カタパルト・タートル"と"洗脳ーブレインコントロールー”、その2枚が手札に揃っていたのなら、あの逆転のコンボはいつでも打つことができたことになる。決闘の展開を鑑みるに逆転できる手をずっと隠し持っていたようには見えなかったから、君がこのターンに引いたカードはその2枚のうちどちらか。つまり、君は罠を引き入れていない」

 

「……見事だぜ。完璧な読みだ」

 

両手を上げる遊戯。

歓喜に沸いた1ターン前から打って変わり、再び冷たい空気が場を支配する。

 

「だが俺は、君もこの決闘を決めることができる大型モンスターを持っていないとみている。おそらくだが、君のデッキは半数以上が小型モンスターで構成されていて、コガラシやアブロオロスのようなメインアタッカーになりうるほど攻撃力の高いモンスターはそう多くない。違うか?」

 

「……そちらもさすがだね。僕の手札に、今ゲームを決めることができるモンスターはいない」

 

正直に告げる勝利の様子に、空気は一つ張り詰めたのを全員が感じた。

 

 

 

「つまり……ここからは、僕と君。先に強力モンスターを呼び寄せたほうが勝つ!」

 

 

 

「……そういうことになるな」

 

勝利は、デッキに手を掛けた。

全員の視線が、勝利の手に集まる。

 

 

「……いくよ、遊戯君! 僕のターン! ドロー!」

 

 

勝利が、カードを見る。

薄く、笑って、引いたカードを手札に加え別のカードを場に出した。

 

 

 

 

「僕は…………"BF-そよ風のブリーズ”を、召喚」

 

 

 

 

BF-そよ風のブリーズ

闇属性 鳥獣族 星3

 

攻撃力 1100

守備力 300

 

 

「ブリーズ……攻撃力、1100……」

 

舞が呟き、城之内と杏子は大きく息を吐いて崩れ落ちた。

 

「あ、あっぶね~」

 

「何とか、LPが残ったわ……」

 

その二人の様子を見てクスリと笑った後、勝利は場に向き直る。

 

(いくら僕のデッキのアタッカーモンスターがそう多くないといっても、今は攻撃力1200以上のモンスターを引けば勝つことができた場面。勝率は低くなかったのに……いや、これは遊戯君に流れが傾きだしたという証拠か)

 

「……OK! まだ君の全力は続くってことだね。そうじゃなけりゃあ、待った甲斐がないぜ! カードを1枚セットして、バトル! ブリーズで、"カタパルト・タートル"に攻撃! 『ゼッファー・エアー・ショット』!」

 

 

BF-そよ風のブリーズ

 

攻 1100

 

カタパルト・タートル

 

攻 1000

 

遊戯 LP150 ー 100 = 50

 

 

"カタパルト・タートル"が真っ二つに切り裂かれ、遊戯のLPがさらに削れる。

しかし、先ほどまでと打って変わり、遊戯に追い詰められたような様子はない。

むしろ、絶体絶命に追い込まれたことを、楽しんでいるかのようだった。

 

 

 

勝利 LP850 

 

BF-そよ風のブリーズ

 

攻 1100

 

伏せカード 1枚

 

 

遊戯 LP50

 

モンスターなし

 

伏せカード1枚

 

 

 

 

 

 

「行くぜ、勝利君! 俺のターン、ドロー! 魔法カード、"強欲な壺”を発動!」

 

「っ! ここで、"強欲な壺"。なんて引きだ……」

 

 

強欲な壺

 

魔法カード

 

新たにカードを2枚ドローする。

 

 

「このカードによって、俺はさらに、カードを2枚ドローする!」

 

「よっしゃあ! これでいいカードを引けば、逆転勝利だってあり得るぜ!」

 

(……決闘者としてのマインドを取り戻した途端に、カードの巡りがよくなっていく……まるで、遊戯の心に、遊戯のカードが答えていくように)

 

舞がそう心で考えていた時、呼応するように勝利が声を上げた。

 

 

 

 

 

「……それだよ、遊戯君。『デッキと心を通わせ、強くなる決闘者』。僕は、そんな君を待っていたんだ!」

 

 

 

 

 

(まったく……子供みたいにはしゃいじゃって……)

 

あきれながらも、舞は安心したように笑う。

続いて、遊戯が張り合うように声を上げた。

 

「ああ、もっと見せてやるぜ! 俺は、"カース・オブ・ドラゴン”を召喚!」

 

 

カース・オブ・ドラゴン

闇属性 ドラゴン族 星5

 

攻撃力 2000

守備力 1500

 

 

 

「うおっしゃ! 来たぜ!」

 

「"カース・オブ・ドラゴン”が決まれば、勝利君のLPは0! 大逆転よ!」

 

「……勝利」

 

(……遊戯ボーイに、運命の天秤が傾きつつありある。しかし、本調子を取り戻したからと言って、元より実力はほぼ互角。そう簡単に勝利ボーイは倒せないでしょう)

 

ペガサスは、遊戯のモンスターを見て笑う勝利を見ながら、冷静な目で見ていた。

 

 

 

「カードを1枚セット。バトルだ! "カース・オブ・ドラゴン”、地獄の火炎(ヘルフレイム)!」

 

「そうはさせないよ! ようやく楽しくなってきたんだ、もっと楽しもうぜ、遊戯君! 伏せカードオープン! "フェザー・ウィンド・アタック"!」

 

 

フェザー・ウィンド・アタック

 

魔法カード

 

フィールドとデッキのBFを入れ替える

 

 

瞬間、"カース・オブ・ドラゴン”の地獄の業火の中心にいたはずのブリーズが消え、勝利の手札にカードが1枚増える。

それを見て、遊戯もまた、嬉しそうに笑った。

 

「躱されたか……」

 

「そう、"フェザー・ウィンド・アタック"は、フィールドのBFを囮に、デッキから新たなBFモンスターを呼び寄せることができるカード。そして呼んでくるモンスターは、こいつだ!」

 

 

BF-疾風のゲイル

 

闇属性 鳥獣族 星3

 

攻撃力 1300

 

守備力 400

 

攻撃を仕掛ける時、風で相手の勢いを半減させる

 

 

「ゲイル。相手のモンスターの攻撃力を、半減させることができる子ね」

 

「げぇ!? じゃあ、遊戯の"カース・オブ・ドラゴン”の攻撃力は……」

 

「1000ポイントになっちゃうってこと!?」

 

 

焦るギャラリー。しかし、いくら騒ごうがターンは回る。

勝利は、かみしめるようにゆっくりとカードをドローした。

 

「……さあ、終わりにするよ! 遊戯君! 僕は、モンスターを……」

 

 

 

 

「伏せカードオープン! "手札抹殺”!」

 

 

 

 

「なっ!?」

 

「えっ!?」

 

「おいっ! あれは!?」

 

「嘘っ!?」

 

 

「効果の説明は必要ないよな。お互いのプレイヤーはカードをすべて捨て、新たにカードをドローする」

 

「……」

 

「『終わりにする』なんてさみしいことを言うもんじゃないぜ、勝利君。俺だって、ようやく楽しくなってきたところだぜ?」

 

勝利は、そのままゲイルを含んだ手札を墓地に置く。

そして、こらえきれない、といった様子で笑った。

 

 

「くっくっく。意趣返しってわけかい。やられたね」

 

「華麗なコンボだったからな。遠慮なく真似させてもらったぜ」

 

「まいったな……モンスターをセット。カードを一枚セットし、ターン終了だ」

 

勝利のターン終了宣言に、舞は軽く目を見開く。

 

「このデュエル中、初めて勝利が守備に回った……」

 

(遊戯の怒涛の攻めによって、ついに決闘の流れが変わった……それに、"手札抹殺”の効果によってお互いの手札が入れ替わったことで、さっきまで勝利たちが行っていた手札読みも難しくなった。ここからは、また相手の裏をかくための戦略勝負になる!)

 

舞が、場の空気に押され、思わず息を飲む。

城之内も杏子も、舞ほど理解が及んでいなくとも、痺れる試合に無意識に集中していた。

 

 

 

勝利 LP850 

 

伏せモンスター1体

 

伏せカード 1枚

 

 

遊戯 LP50

 

カース・オブ・ドラゴン

 

攻 2000

 

伏せカード 1枚

 

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

(……状況自体は俺の有利に変わったが、LPは限界のまま。どうにかしてモンスターを並べ、押し切りたいところだが……)

 

遊戯は自分の手札に目を落とす。しかし、その手にはこのターンに状況を好転させるようなカードはなかった。

 

(前半に主力モンスターを倒されてしまったことが響いているな……だが、いまさら引くわけにはいかないぜ!)

 

「カードを1枚セットし、バトル! "カース・オブ・ドラゴン”で、セットモンスターを粉砕!」

 

 

カース・オブ・ドラゴン

 

攻 2000

 

 

BF-上弦のピナーカ

 

守 1000

 

 

「くっ! 破壊される。でも、ピナーカの効果が発動するよ! デッキから、新たなBFを呼び寄せる! 次は君だ! "BF-漆黒のエルフェン”!」

 

「……後続を途切れさせない連携。さすがは勝利君のBFモンスターだぜ」

 

「ほめてくれてありがとう。でも、容赦はしないよ! 僕のターン、"BF-漆黒のエルフェン”を召喚だ!」

 

 

BF-漆黒のエルフェン

闇属性 鳥獣族 星6

 

攻撃力 2200

守備力 1200

 

 

「くっそぉ! 勝利のモンスターが次々に出てきやがる。これじゃじり貧だぜ!」

 

「やっぱり、勝利君と戦うには、遊戯のLPが圧倒的に足りないわ……」

 

「……それでも、まだゲームが決まっていないことも事実よ。勝利だって、すでにライフは安全圏とはいいがたい状態。少し選択を間違えたら敗北の未来を引き寄せてしまうこの状況。あの二人には、あたしたちよりも、もっともっと先を見据えて決闘しているはずよ」

 

皆が、決闘している二人に向き直る。

崖っぷちだというのに、笑う遊戯。そして、それを見て、また笑う勝利。

それは確かに、この戦闘で決着がつくと考える決闘者のそれには見えなかった。

 

 

「カードを一枚セットし、行くぜ! "BF-漆黒のエルフェン”で、"カース・オブ・ドラゴン”に攻撃! 『ウィンドミル・カッター』!」

 

高らかに飛翔し、羽を広げて構えるエルフェン。

その姿を見た瞬間が、今だ、と呟き伏せカードを開く。

 

 

「させない! 君の『攻撃』の宣言によって、このカードは起動する! 罠カード、"六芒星の呪縛"!」

 

 

六芒星の呪縛

 

罠カード

 

このカードに攻撃を加えた者は六芒星の呪いを受ける

 

 

「これによって、エルフェンは呪縛を受けて動けなくなり、攻撃力は700ダウンするぜ!」

 

 

空中で構えたエルフェンの胴に六芒星を象るサークルが具現する。

エルフェンが苦しそうに下がってきたのを見て勝利は、だろうな、と言わんばかりの表情だった。

 

 

「……まあ、終わらないよね」

 

 

 

勝利 LP850 

 

BF-漆黒のエルフェン

 

攻撃力 1500(六芒星の呪い)

 

伏せカード 1枚

 

 

遊戯 LP50

 

カース・オブ・ドラゴン

 

攻 2000

 

伏せカード 1枚

 

 

 

「今度は俺の番だぜ! "カース・オブ・ドラゴン”、攻撃力の下がった"BF-漆黒のエルフェン”に攻撃! 『地獄の火炎(ヘルフレイム)』!」

 

 

 

地上で動けずに固まるエルフェンに、高所から爆炎をたたきつける"カース・オブ・ドラゴン”。

絶体絶命の状況にしかし、勝利は笑う。

 

「くっくっく。どうやら僕らは、また同じことを考えていたみたいだね」

 

「……何?」

 

「伏せカードオープン! 強化装備型BF、“BF-極夜のダマスカス”!」

 

 

BF-極夜のダマスカス

闇属性 鳥獣族 星2

攻撃力 1300

守備力 700

 

使用後、このカードは『BF』を強化する。攻撃力500アップ!

 

 

 

「こいつを、エルフェンに装備だ!」

 

「おいおい、なんだあのカード!?」

 

「これでエルフェンの攻撃力は……」

 

 

 

BF-漆黒のエルフェン

 

攻撃力 1500 ⇒ 2000

 

 

 

六芒星にとらわれたままのエルフェンに、変形したダマスカスが舞い降り、手に収まる。

 

「いけっ、エルフェン! 『ウィンドミル・ダマスクスショット』!」

 

「"カース・オブ・ドラゴン”! 迎撃の『地獄の火炎(ヘルフレイム)』!」

 

エルフェンは襲い来る火炎にひるむことなく、"カース・オブ・ドラゴン”にダマスカスを投擲した。

胸に刺さるそれに苦しみながら、"カース・オブ・ドラゴン”は地に落ちる。

それを見てエルフェンは、満足げな顔で火炎に消える。

 

 

BF-漆黒のエルフェン

 

攻 2000

 

 

カース・オブ・ドラゴン

 

攻 2000

 

 

相打ち

 

 

 

勝利 LP850 

 

モンスターなし

 

伏せカードなし

 

 

遊戯 LP50

 

モンスターなし

 

伏せカード 1枚

 

 

 

 

「……文字通りの焼け野原。ってね」

 

「……危ないところだったぜ。罠を見越してさらに強化カードを仕掛けてくるとはな」

 

 

勝利と遊戯が軽口をたたきながら、お互いに汗を垂らすのを感じた。

体は熱くも、頭はクールに戦う二人のそれは、熱を落とす汗であり、冷や汗でもあった。

 

 

 

「す……すげぇ。すごすぎるぜ。この二人はよ……」

 

「……うん」

 

城之内が、思わず感嘆の声を漏らした。

決闘に疎い杏子も、それに同意する。

 

 

そんな中、舞は勝利を改めて見直した。

心からの笑顔が、そこにはあった。

 

 

 

(……それが見れたなら、もう、あたしから言うことはなんもないわ。がんばれ、黒羽勝利)

 

 

 

笑いかける舞。

すると勝利が、舞に笑顔を返す。

その反応に舞は驚き、あきれた表情をさらに返した。

 

 

 

(……声も出してないってのに、一体どんな勘してるのよ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ありがとう……舞さん。僕は今、最高に楽しいよ)

 

勝利は改めて遊戯を見る。

闘争心を隠そうともせずに燃やし続ける、一人の決闘者がこちらを伺っていた。

 

熱を返すように、勝利は高らかに宣言した。

 

 

 

「……負けないよ、遊戯君。この決闘、勝つのは僕だ!」

 

「すべてを賭けてかかってきな! 俺の全力で、粉砕するぜ!」

 

 

 

燃える二人の勝負の行方は、最後の切り札に託される。




初の3話構成になっちゃいました。

皆さんは遊戯の最強の切り札といえば、何が思い浮かぶでしょう。
ブラック・マジシャンは最強、というよりは、相棒って感じでしょうか。

各々が漫画やアニメを見ていて、痺れたモンスターが該当するのではないかと思っています。
その点でいうと私は……あいつですね。
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