遊戯王~黒き羽根は夢に舞う~   作:haruko

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最高の決闘 遊戯vs勝利

 

勝利 LP850 

 

モンスターなし

 

伏せカードなし

 

 

遊戯 LP50

 

モンスターなし

 

伏せカード 1枚

 

 

「お互いのフィールドに、モンスターはいねぇ……」

 

「LPは勝利の優勢だけど、すでに一回の攻撃で0になりかねない危険水域。次に召喚する二人のエースモンスターが、勝敗のカギを握っているわ」

 

「遊戯……」

 

 

遊戯は、ちらと自分の伏せカードを見る。

 

(俺のデッキのエース級モンスターは、ほとんど勝利君に葬られてしまっている。俺が勝利するには、このセットカードの発動条件を満たすしかない!)

 

「遊戯君の攻撃ターンは終わった。僕のターンだ! "BF-黒槍のブラスト"を召喚!」

 

 

 

BF-黒槍のブラスト

 

闇属性 鳥獣族 星4

 

攻撃力 1700

 

守備力 800

 

 

モンスターの守備力にもダメージを与えることができる

 

 

 

「こいつの効果、覚えているかい? 遊戯君」

 

「……ああ。そいつは、相手の守備モンスターに対してもダメージを与えることができる効果を持つモンスター、だったな。この状況でさらに苛烈な攻め。さすがだぜ勝利君」

 

以前の決闘で見たことのあるモンスターだったため、遊戯はすぐに答えた。

現在自分を仕留めるためのモンスターとしてあまりに的確な選択をした勝利に、感心とともに笑みをこぼした。

 

「さらにカードを一枚セットし、ターン終了。さあ、どうする遊戯君?」

 

(俺の今の手札に、勝利君のブラストの攻めを受けきることができるモンスターはいない……次のドローで、この決闘の勝敗が決まってしまうかもしれない……)

 

 

敗北。

その言葉が脳内に浮かんだ遊戯だったが、すぐに頭を振り、思考を霧散させる。

 

 

(……俺は、相棒(もう1人の俺)に、勝利君に何を学んだ? 敗北を恐れない強さ。信じることの大切さ。そして、仲間の大切さ。怯えている場合じゃあない。この決闘で、俺のすべてを出し切るんだ!)

 

 

 

 

「デッキよ! 俺の想いに答えてくれ!」

 

 

 

 

遊戯が、気合いを入れてカードを引いた。

その瞬間に、デッキが、一瞬光り輝くイメージを勝利は感じ取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝利が思い出したのは、半年以上前。

いろいろあってから高校生活に復帰して間もなかった、教室の中の光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

賑やかに騒ぎ立てるクラスメイトを尻目に、勝利は自席でぼーっとしていた。

『友達』に出会い、心を取り戻した後の勝利ではあったが、家族も他の友もいない学校で、自堕落な高校生活を送っているところだった。

 

 

 

 

早く帰って、『友達』とゆっくり語り合いたい。

 

 

 

 

考えていることは、それくらいだった。

 

 

 

彼らを、見つけるまでは。

 

 

 

 

「"ブラック・マジシャン”を召喚! 攻撃!」

 

「うげぇ! 俺の"アルティメーター”がやられてLPが0だ!」

 

「城之内よわ~」

 

「遊戯よ、多少手加減してやってくれ。じゃねえとこいつの心が折れちまう」

 

「やかましい! 折れるか! もう一回だ、遊戯!」

 

「うん!」

 

教室の一角で集まって大騒ぎをする遊戯たちの声に、勝利は思わず反応して目線を向けた。

 

(あれは……M&Wのカード。君たちと同じカードゲームだよね。彼らは確か……武藤遊戯君に城之内克也君、だっけ? 彼らもやっているんだ……)

 

『ぴぃ!』

 

(まあ、僕は決闘者じゃあないけどね。君たちと一緒にいられれば、僕はそれでいいや)

 

 

たとえ、誰と戦ったとしても、彼らの存在は誰にもわからない。

たとえ、どんな決闘をしても、僕の心は誰にも伝わらない。

 

 

ならば、僕は『彼ら』だけでいい。

ずっと、そう考えていた。

 

 

 

その姿を、見るまでは。

 

 

 

 

『くりくり~』

 

 

 

「っ!」

 

一瞬デッキが光り輝いたかと思えば、突然聞こえた声に勝利は思わず立ち上がり、衝動的に遊戯たちに駆け寄る。

突然自分たちの傍まで走ってきた勝利に対し、驚いた様子の遊戯と、怪訝な顔の城之内。

 

 

 

「……誰だ? お前?」

 

 

 

「ちょっと城之内! クラスメイトに失礼でしょ? 黒羽君よ、黒羽勝利君!」

 

「フーン……あんま知らねえ顔だな」

 

「が、学校に来るのが遅れちゃってて……登校し始めたのが最近なんだ……」

 

「で、どうしたんだよ黒羽? お前もこのゲームやりたいのか?」

 

傍にいた本田が、遊戯たちが持つカードを指さす。

 

「い……いや、ちょっと……」

 

「なんだぁ? 暗い奴だなー」

 

「城之内……サイテー」

 

「あきらめろ杏子。ざっぱな城之内にはそのへんの繊細な心の機微ってやつがわからねーのさ」

 

「あんだと!? 黙って聞いてりゃ好き放題言いやがって!」

 

「あぁ!? ほんとのことだろうが!? この単細胞野郎!」

 

「ちょっと! やめなさいよ二人とも!」

 

城之内と本田がもめ始め、軽く取っ組み合いになっているのを諫める杏子。

その様子を見ていた勝利と遊戯が顔を見合わせ、少し笑った。

 

「……楽しい人たちだね」

 

「うん! 友達だからね!」

 

 

 

『くりくり~』

 

 

 

もう一度聞こえた声に、はっとする勝利。

しかし、遊戯のほうを見ても、怪訝な表情をするばかりで、何のことかをまるで分っていない様子だった。

 

「……黒羽君?」

 

遊戯が問いかける。しかし、勝利は声に反応することもできず、物思いに耽っていた。

 

(武藤遊戯君……こんなにも、カードに愛されているのに、本人は気づいていないのか……こんな人もいるんだ)

 

 

勝利が、改めて遊戯を見た。

遊戯は勝利が何をしているのかも理解していない様子で、ただ首を傾げた。

 

 

「……そのゲーム」

 

 

「M&Wの事?」

 

 

「うん……それ、面白いのかい?」

 

遊戯は勝利のその言葉に、ぱあっと顔を明るくし、話し出した。

 

「うん! とっても面白いよ! 僕はゲーム全般が大好きだけど……今はこのカードゲームが一番好きなんだ!」

 

遊戯は自分のデッキを手に取り、前に掲げる。

年相応、よりも幼くすら見えるほどの純真な笑顔に、勝利の心は揺れた。

遊戯はそんな勝利の内心など知らず、そのまま言葉を続ける。

 

 

 

 

「デッキ構築や、カード同士のコンボなんかも醍醐味なんだけどね。僕が一番楽しいときは、デッキを信じて、それにカードが答えてくれた時かな」

 

 

 

 

「っ!!!!? デッキを……信じて?」

 

「うんっ! 僕の爺ちゃんが言ってたんだ。『カードは心』なんだって。だから、カードを大切にしていれば、デッキを信じていれば、デッキは必ず答えてくれるんだってね」

 

 

 

遊戯は、嬉しそうに持っているデッキを撫でた。

その言葉に、勝利は茫然としていた。

 

 

「カードは……心……」

 

 

遊戯の手元のカードをちらと見た。

"ブラック・マジシャン"のカードが、にやりと笑ったように見えた。

 

 

(僕は……たまたま、カードと心を通わせる才能が有って。それでみんなと気持ちを合わせてきた……でも、武藤君は、そんな力がなくても、デッキと心を通わせることができている……そして、その武藤君の心に、カードが答えてくれているんだ……)

 

 

勝利は、ひっそりと持ってきていた腰のデッキに手をかざした。

『友達』が、少しざわつくのを感じる。

 

 

 

(僕は……彼らと一緒にいられれば、それだけでかまわないと思っていたけれど……もし、決闘を通じて、彼らともっと気持ちを合わせることができたら……気持ちを通わせたみんなと、決闘で戦うことができたら……それは、どれほど楽しい事なんだろうか)

 

 

 

勝利は、再び遊戯に向き直る。

そして短く、一言だけ質問を投げた。

 

 

 

 

 

「……僕にも、できるかな?」

 

 

 

 

 

少し震える声とは裏腹に、力強い瞳で尋ねる勝利。

それを見た遊戯は、即座に答えた。

 

 

 

 

 

「できるさ!」

 

 

 

 

声と表情で、それが嘘偽りのない遊戯の正直な答えであることは、すぐに伝わった。

勝利は恥ずかしそうな顔を作り、感謝を告げた。

 

「……ありがとう、武藤君」

 

「遊戯でいいよ。『友達』はみんなそう呼んでくれるから」

 

「……友達……ありがとう。僕も、勝利でいいよ」

 

二人は、握手を交わした。

 

 

 

 

(今はまだ……君の『友達』という言葉に、真っすぐ返す自信もない、臆病者の僕だけれども……僕も君のような、デッキを信じて、楽しく決闘できる、そんな決闘者になりたい!)

 

 

勝利は自分の胸を押さえる。

自分が今まで感じたことのない熱い衝動が、心の中で暴れているのを感じ取った。

 

 

 

 

(そして……もしも、僕がもっと成長して……いっぱしの決闘者になることができたならば……その時に、僕は君に決闘を申し込むよ、遊戯君! 最高に楽しい、君と僕と……『BF』の決闘のために!)

 

 

 

 

 

そこから数か月……

彗星のごとくM&Wの大会に現れた一人の少年が、『クリエイター』などという名を賜り、

顔つきも、心構えも、立ち振る舞いさえも一新し、自信をつけた自分になって、遊戯に決闘を申し込むこととなるのは、遠い未来の話ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(そうさ……僕は、そんな君と戦いたかった。他のどんな才能にだって引けを取らない、『カードを信じることができる力』。その力を持った君と、戦いたかったんだ!)

 

 

「……俺の引いたカードは……"光の護封剣”! このカードで、勝利君のモンスターの攻撃を3ターン封じるぜ!」

 

 

そう遊戯が宣言した瞬間、勝利のフィールドに光の剣が降り注ぐ。

ブラストが瞬く光に苦しそうにしながらも、それを躱し、じっと遊戯をにらんでいた。

 

 

「……この土壇場で、すごい引きだね。さすがだよ、遊戯君」

 

(だが……俺のモンスターは勝利君の狙い通り、ブラストよりも攻撃力も守備力も低いモンスターばかり……"光の護封剣"が解ける2ターンの間に、せめてブラストだけでも何とかしなければ、敗北は免れない)

 

「俺は"グリフォール”を、守備表示で召喚! ターンエンドだ!」

 

 

 

グリフォール

地属性 獣族 星4

 

攻撃力 1200

守備力 1500

 

 

 

 

勝利 LP850 

 

BF-黒槍のブラスト

 

攻 1700

 

伏せカード1枚

 

 

遊戯 LP50

 

グリフォール

 

守 1500

 

伏せカード 1枚

光の護封剣1ターン目

 

 

 

 

 

「僕のターン、ドロー」

 

(さて……すでに僕のデッキの、"ツイン・ツイスター”をはじめとした魔法・罠破壊カードの多くは遊戯君の"手札抹殺”で墓地に送られてしまっている)

 

 

 

ツインツイスター

 

魔法カード

 

手札一枚を捨てることで、相手の魔法、罠カードを2枚まで破壊する。

 

 

 

(遊戯君の"光の護封剣”を破壊するカードは、僕のデッキにはもうない……つまりいくら遊戯君の行動を妨害しても、遊戯君にダメージを与えることは難しい……ならば!)

 

「僕は"BF-刻夜のゾンダ”を召喚!」

 

 

 

BF-刻夜のゾンダ

 

闇属性 鳥獣族 星6

 

攻撃力 2300

 

守備力 900

 

 

召喚時、モンスター1体に爆風をぶつけ、手札に戻す

 

 

 

「このモンスターで、フィールドのモンスター1体を、手札に戻すことができる」

 

「うげっ! また遊戯のフィールドががら空きに……」

 

「いえ……これは……」

 

勝利の狙いに気づいた舞は、勝利の冷静な一手に震える。

勝利は、笑っていた。

 

 

「僕はゾンダの効果で、ブラストを僕の手札に戻すよ!」

 

「……なるほど。そう来たか」

 

 

 

勝利 LP850 

 

BF-刻夜のゾンダ

 

攻 2300

 

伏せカード1枚

 

手札 ブラストが確定

 

遊戯 LP50

 

グリフォール

 

守 1500

 

伏せカード 1枚

光の護封剣1ターン終了

 

 

 

「"手札抹殺”はもうない……これで遊戯は、勝利のブラストを破壊することができなくなったわね」

 

「そっか。遊戯のLPが残りわずかだから、攻撃ができない今、ブラストは万が一に備えて手札に残しておこうとしたのね」

 

「そういうことね。さらにより攻撃力の高いBFの展開もできた。どこまでも抜け目ないわ」

 

「くっそぉ。これじゃあ3ターンなんてあっという間だぜ!」

 

 

"光の護封剣"の一部がただの光の粒になって消えていくのを見て、悪態をつく城之内。

そして遊戯にターンが回る。

 

 

「俺のターン、ドロー……くっ! ("一角獣のホーン”……狙い通りだったが、一手遅かった……いや、これは素直に、勝利君に上をいかれたということか)」

 

 

 

一角獣のホーン

 

魔法カード

 

限られたモンスターの攻撃力を700ポイントアップさせる

 

 

 

「(今や"グリフォール"に装備しても、ブラストはおらず、ゾンダは倒せない……)俺はこのターン、何もできない。そのままターンを終了するぜ」

 

 

「僕のターン、ドロー……(遊戯君ほどじゃないとしても、僕のデッキもすでに息切れしている……保険はあるが……なんにせよ、護封剣終了のターンが、僕らの勝負だ)僕もこのままターンエンドだ」

 

 

 

光の護封剣2ターン終了

 

 

 

「おいおい……大丈夫かよ遊戯の奴……」

 

「がんばって……遊戯」

 

「……(遊戯の目は、諦めた決闘者の目じゃない……でも、ここからゾンダの攻撃力を超えて、勝利のLPを削るなんて……いったい、遊戯は何を狙っているの……)」

 

 

不安、焦燥、疑念が場を満ちる。

だが、"光の護封剣"は、止まることなくどんどんその数を減らしていった。

 

 

 

「俺のターン、ドロー!(違う! このカードじゃない!)俺は、"インプ”を召喚!」

 

 

 

インプ

 

闇属性 悪魔族 星4

 

攻撃力 1300

 

守備力 1000

 

 

 

「……ターンエンドだ」

 

「……(モンスターは召喚する……だが、そのモンスターで戦う様子はない……いったい、何を狙っている?)僕のターン……僕の手は何もない、このままターンを終了するよ。これで、"光の護封剣"による封鎖は終了だ」

 

 

 

勝利 LP850 

 

BF-刻夜のゾンダ

 

攻 2300

 

伏せカード1枚

 

手札 ブラストが確定

 

遊戯 LP50

 

グリフォール

 

守 1500

 

インプ

 

守 1000

 

 

伏せカード 1枚

光の護封剣終了

 

 

 

(……これが、最後のターン。このターンに何もできなければ、俺は負ける……いや、違う。俺が今恐れているのは、敗北じゃあない……)

 

「……」

 

顔を上げると、勝利が真っすぐな眼差しで遊戯を見ていた。

 

(俺が本当に恐れているもの……それは、俺を信じて待ってくれていた勝利君に、俺の全てを見せることができずに決闘が終わってしまうこと……)

 

 

遊戯は、自分の手がほんの少し震えるのを感じた。

ドローのために出した手を一度ひっこめて、上階の城之内たちにそのまま手をかざした。

それに気が付いた城之内たちはにっこりと笑い、同じく遊戯に手をかざす。

舞は、それをじっと見つめていた。

 

 

(城之内君……杏子……今もう一度、俺に、"ピースの輪”の勇気を……)

 

 

(『見えるんだけど、見えないもの』……)

 

 

その時、舞には、それが見えた気がした。

 

 

 

 

「……行くぜ! 勝利君!」

 

「っ! 来い! 遊戯君!」

 

 

 

 

 

「俺のターン! ドロー!!!!!」

 

 

 

 

 

ほんの数秒だけ、静寂が訪れる。

遊戯は、引いたカードを、そのまま勝利に見せた。

 

 

 

 

 

「俺は……"暗黒騎士ガイア”を召喚!」

 

 

 

 

 

「……まだ、そんな主力モンスターを残していたのね……」

 

「そして、それをここで引き当てるなんて……やっぱりすごいよ、遊戯君」

 

 

 

暗黒騎士ガイア

 

地属性 戦士族 星7

 

攻撃力 2300

 

守備力 2100

 

 

 

「でも、ガイアの攻撃力は2300。ゾンダと同じ攻撃力だ。そのカードじゃあ、僕を倒すことはできないよ!」

 

(それに僕のセットカードは、"ブラック・アロー"。そのまま攻撃してくるのであれば、それだけでゲームエンドだ)

 

 

 

ブラック・アロー

 

罠カード

 

暗黒の弓矢を受けたモンスターは呪いにかかり、攻撃力を500下げる。その後、モンスターの攻撃によって呪いは伝染し、呪われたモンスターが破壊されると、守備力分のダメージを受ける。

 

 

 

「……まだだぜ、勝利君。俺にはまだ、最後のカードが残っている」

 

そういうと遊戯は、セットカードに手を掛けた。

 

「っ!!! そのカードは、ずっと前から伏せてあった!?」

 

「そう、こいつこそが、正真正銘俺の最後の切り札だ! 魔法カード、"カオスの儀式”発動!」

 

 

 

カオスの儀式

 

魔法カード

 

攻撃力1500以下のモンスター2体を生け贄に捧げ、暗黒騎士にカオスの力が宿る

 

 

 

「っ!? しまった、儀式カード! そういうことか!」

 

「このカードにより、攻撃力1500以下のモンスター、"グリフォール”と"インプ”を生贄に捧げる!」

 

(戦闘しないモンスターたちを場に並べていたのは、この瞬間のため!?)

 

 

魔法の効果によりフィールドに現れた壺に、2体のモンスターから抜け出た魂が入っていく。

勝利は、目の前の重圧に汗を垂らした。

 

 

 

「一つの魂は光を誘い、一つの魂は闇を導く」

 

モンスターの魂に光の力と闇の影が宿り、それらが螺旋状に点へと舞い上がり、混沌の場を生み出した。

そこを、"暗黒騎士ガイア"が全力で賭ける。

 

 

 

 

「ガイアよ! 今こそ、超戦士の力を得よ!」

 

 

 

 

 

(……来る!)

 

 

 

 

 

「現れよ! 超戦士、"カオス・ソルジャー”!!」

 

 

 

 

 

カオス・ソルジャー

 

地属性 戦士族 星8

 

攻撃力 3000

 

守備力 2500

 

 

 

 

 

 

「"カオス・ソルジャー”……これが、伝説の超戦士……」

 

「は……初めて見たわ。これが……"カオス・ソルジャー”……」

 

「あれが、遊戯の手札最強のしもべ……」

 

「攻撃力、3000!」

 

 

周りがただただ声を零す中、勝利は顔を歪めた。

 

 

(しまった! "ブラック・アロー"は相手の攻撃力を下げるけど、その呪いは戦闘したモンスターに伝播する! この状況で発動しても戦闘破壊は防げないし、ゾンダの呪いで900のダメージを受けて、僕は負けてしまうから発動できない!)

 

 

「さあ、行くぜ! "カオス・ソルジャー”で、"BF-刻夜のゾンダ"に攻撃! 『カオス・ブレード』!!」

 

 

 

カオス・ソルジャー

 

攻 3000

 

BF-刻夜のゾンダ

 

攻 2300

 

 

 

勝利 LP850 ー 700 = 150

 

 

 

「ぐわああああああ!!」

 

"カオス・ソルジャー"の攻撃の勢いを受け、思わず勝利は後ろに仰け反る。

LPは150。いよいよ、勝利も土俵際だった。

 

 

「勝利!」

 

「すげぇ……今度は勝利を追い込んじまったぜ!」

 

 

心配と歓喜の声が同時に上がる。

しかし、この一撃を誰よりも喜んだのは、ほかの誰でもない、勝利自身だった。

 

 

「……遊戯君。君は……最高だ」

 

 

「さあ、今のが、俺の渾身の一撃だぜ! 君のデッキに、この"カオス・ソルジャー"を超えるモンスターがまだ残っているのか!?」

 

遊戯のそれは、確認にも近いような言葉だった。

ここまで、お互いに戦力を総動員して戦ってきた決闘。その果てに出てきた、最高攻撃力の"カオス・ソルジャー"。

勝利のデッキに、もはや、"カオス・ソルジャー"を超える手段はほとんどない。

それが遊戯の判断だった。

 

 

「……そうだね。条件さえ整えば可能性は0じゃないけど、僕のデッキに、もう"カオス・ソルジャー"の攻撃力を上回ることができるモンスターはいない」

 

 

勝利は、淡々と告げた。

遊戯は、引き継ぐように静かに告げる。

 

 

「……サレンダーという選択をとっても、俺は君を見下げはしないぜ。勝つ手段がないならば、デッキを徒に傷つける前にサレンダーする。これも、決闘者の責任だ」

 

 

遊戯はそう言って、ターン終了を宣言した。

そして勝利は、デッキに手を伸ばした。

 

 

 

 

「遊戯君……君は2つ、僕を……僕とBFを見縊っている」

 

左手のピースを前に突き出しながら、強い声で言う。

右手はデッキから、カードを一枚引く。それは、ゲーム続行の証だった。

 

「……なんだって?」

 

「1つ目。僕と僕の『BF』は、決して最後まで勝負を投げ出したりはしない」

 

左手の中指を折り、右手で手元からカードを1枚選んで場に出す。それは、先ほど戻した"BF-黒槍のブラスト"だった。

 

 

BF-黒槍のブラスト

 

闇属性 鳥獣族 星4

 

攻撃力 1700

 

守備力 800

 

 

モンスターの守備力にもダメージを与えることができる

 

 

「……ブラストじゃあ、"カオス・ソルジャー"の攻撃力には遠く及ばない……」

 

「しかも、攻撃表示!? 勝利の奴、一体何を考えてんだ……これじゃあ、自殺するようなもんだぜ?」

 

 

周りの疑問の声をそのままに、勝利が二つ目の指を折った。

 

 

 

 

 

 

「2つ目は……僕にもう、勝ち目がないと思っていることだ!」

 

 

 

 

 

 

「!!!! 馬鹿な!?」

 

「嘘だろっ!?」

 

「勝利君!?」

 

「まだ勝ち目が残されてるっていうの!?」

 

(……アンビリバボー。彼の読み……いや、予知はもはや、私の想定をも遥かに超えていマース)

 

 

 

驚愕のギャラリーの表情と対称的に、勝利は渾身の笑顔で遊戯に相対する。

 

 

 

「僕は、信じてた。誰よりもずっと君のことを、信じていたんだ。バトル! ブラストで、"カオス・ソルジャー"に攻撃! 『デス・スパイラル』!」

 

「馬鹿な……"カオス・ソルジャー"のほうが、攻撃力は圧倒的に上だ。このまま返り討ちに……何っ!!!?」

 

 

 

BF-尖鋭のボーラ

 

闇属性 鳥獣族 星5

 

攻撃力 1900

 

守備力 300

 

墓地に存在する場合、一度だけBFの戦闘を手助けする。

 

 

 

突然フィールドに現れたモンスターに、遊戯も、周りの皆も戦慄した。

 

「な、なんだあいつ!? いつの間にフィールドに出てきたんだ!?」

 

「ボーラの効果発動! 墓地にいるとき一度だけフィールドに舞い戻り、BFモンスターの戦闘を手助けする。その戦闘によって相手モンスターはダメージを介さずに破壊することができるんだ!」

 

勝利がカードの効果を解説する。

しかし、舞や遊戯にとって重大なことは、その効果そのものではなかった。

 

「"BF-尖鋭のボーラ”! あの子なら確かに、この状況を打開できるけど……いつの間にそんなカードを……」

 

「ぼ、墓地のカードがフィールドで効果を発動するだと……だが、そんなカードはこの決闘中一度も出てきていないはず……ま、まさか!!?」

 

 

遊戯は、驚愕の声を上げ、記憶の海をたどりだし、一つの答えにたどり着いた。

 

 

 

 

『この瞬間に、僕の伏せカードを発動だ! 魔法カード、"手札抹殺”!』

 

『このカードによって、お互いの手札をすべて捨て、同じ枚数のカードを引き直す!』

 

 

 

「最初の……"手札抹殺”の時にすでに、そのカードを墓地に送っていたというのか!?」

 

「大正解」

 

悪戯な笑みを浮かべた勝利に、舞は絶句していた。

 

 

 

(誰もが……あの"手札抹殺”は遊戯の切り札、"ブラック・マジシャン”を葬るためのカードだと思っていた。でもそれはカモフラージュで、勝利はその前に手札に戻した罠カードを、"フェイク・フェザー”で狙い打つための動きだった……と、勝利に思い込まされていた……)

 

「……3重の罠だったってことね……あの時点で勝利は、自分には突破できないモンスターを遊戯が召喚することまで予想に入れていた」

 

「……全部君の手のひらの上ってわけか。勝利君?」

 

「二人とも、言いすぎさ。飽くまで保険だったよ、あの時点では。でも、僕はほかの誰よりも、君が立ち直ることを信じていたし、期待していた。他のみんなとの違いは、それだけさ」

 

 

 

勝利がそういい、それにこたえるように、ボーラとブラストが舞う。

ボーラが風を起こし、"カオス・ソルジャー"の体制を崩す。

そして、防御に回ったその一瞬の隙をついたブラストの一撃に、"カオス・ソルジャー"が膝をつき、倒れた。

 

 

「ま……マジで遊戯の切り札を、倒しやがった……」

 

「……見事、というほかないわね。これは……」

 

 

戦闘の結果を見届けた勝利は、「さて」と言って続ける。

 

 

「これで状況は元に戻った。僕のフィールドにはブラスト、君のフィールドには、モンスターはいない」

 

 

 

勝利 LP150 

 

BF-黒槍のブラスト

 

伏せカード1枚(ブラック・アロー)

 

 

遊戯 LP50

 

モンスターなし

 

伏せカードなし

 

 

 

「ブラストには守備力攻撃の効果があるから、守備で逃げることもできない。おまけにもう"光の護封剣”も"暗黒騎士ガイア”もデッキにはいない」

 

 

一つずつ、的確に状況の整理を行う。

勝利が言いたいこと。それを遊戯は、黙って聞いていた。

 

 

 

「今度は、僕が君に問う番だね。サレンダーするかい?」

 

 

 

「っ!? くくくくく……ハハハハハハハ!!!」

 

 

 

勝利の宣告。

それに遊戯は、勝利の笑顔に負けぬ笑顔で、大きく笑った。

 

「遊戯?」

 

「なんだー!? もう一人の遊戯があんな風に笑ってんの見たことねえぞ!? まさかあいつ、ピンチすぎて狂っちまったんじゃ……」

 

「ちょっと! めったなこと言わないでよ城之内!」

 

「……いや、違うわ……あれは……」

 

(見たことがある……あれは……決闘を楽しむ、勝利と同じ笑顔!)

 

 

 

 

 

 

「……俺はこの決闘中、幾度となく君に上をいかれた。戦略も、先読みの力も、そして、心も……」

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

今度は勝利が、遊戯の言葉を黙って聞いていた。

しかし、その笑みは崩れていない。遊戯の答えが、最初から分かっているかのようだった。

 

「そして、最後に再び上をいかれた。そして、またしても大切なことを教わってしまったぜ……決闘は、最後まで決してあきらめてはいけない! 自分のデッキを信じ、最後までともに戦い抜いてこそ真の決闘者だということを!」

 

「遊戯君……」

 

勝利の声が、歓喜に震えた。

 

 

 

 

(違うよ……遊戯君。そいつは、一番最初に、君に教わったんだ。もう一人の、遊戯君に)

 

 

 

 

「俺は、最後まで戦うぜ! 勝利君!」

 

「~~~~~~!!! そうだよ、それだよ! それでこそ、遊戯君だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くぜ! ラストカード、ドロー!」

 

 

 

 

 

 

 

誰かが言った。

決闘者のデッキは、誇りを賭けた決闘者の剣であると。

 

 

 

 

遊戯は、天高く掲げた剣を、真っすぐ勝利に向けた。

その瞬間に勝利は、すべてを理解して静かに笑う。

 

 

 

 

 

 

 

「勝利君」

 

「遊戯君」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「最高の決闘だったぜ(よ)」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は魔法カード、"死者蘇生”を発動!」

 

 

 

死者蘇生

 

魔法カード

 

敵味方問わずモンスターの魂を蘇生させ、味方にする事が出来る

 

 

 

(僕にはわかる……今の君のデッキには、本当にそのカード以外の逆転のカードはなかった)

 

「蘇らせるモンスターは当然、超戦士、"カオス・ソルジャー"!」

 

 

カオス・ソルジャー

 

地属性 戦士族 星8

 

攻撃力 3000

 

守備力 2500

 

 

(君の最後まで戦い抜きたいという想いに、デッキが答えたんだ)

 

 

「行くぜ! これがラストバトル!」

 

 

 

("ブラック・アロー”じゃあ、"カオス・ソルジャー"の攻撃力に届かない。そして手札にも、ここから逆転するためのカードは一つもない…僕の、負けだ。ごめんね、ブラスト。ごめんね、みんな……でも、僕は、楽しかった!)

 

 

 

 

「受けて立つ!」

 

 

 

 

「"カオス・ソルジャー"! 『カオス・ブレード』!」

 

「ブラスト! 迎えうて! 『デス・スパイラル』!」

 

 

 

 

 

ブラストの槍が、『カオス・ブレード』を受ける。

ブラストは、最後まで必死に耐えてくれた。

 

しかし、最後にブラストの槍は折れ、衝撃が勝利の元に届いた。

 

 

 

 

 

勝利 LP150 ー 1300 = 0

 

 

 

 

 

 

「そこまで! 勝者、武藤遊戯!」

 

 

長く、苦しく……楽しい決闘が、幕を閉じた。

 




決着です。そして軽く過去回想。
勝利にとって闇遊戯は素晴らしい決闘者であり、決して軽い存在なわけではないのですが、実は勝利が初めに『戦いたい』と思った遊戯は表遊戯のほうでしたというお話。


正直、遊戯と勝利の決闘は細部が練られていない部分が多かったのですが、大好きなカオス・ソルジャーに立ちまわってもらいつつ、それに一矢報いる勝利まで描くことができて、私としてはきれいにまとめられたかと自負しています。



さて続いて……城之内vs舞
果たして、どうなることやら。
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