遊戯王~黒き羽根は夢に舞う~   作:haruko

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闇のゲームの始まりだぜ。
初めて闇のゲームを目の当たりにする、勝利の思いやいかに。


決闘者の王国

 

「ここからは、本気でお相手しマース」

 

ペガサスのその宣言を皮切りに、場の空気が変わる。

いや……空気だけではない。勝利は、実際に心が締め付けられ、胸が苦しくなる感覚を肌で感じ取っていた。

 

(なんだ……この、心が、心臓が、黒い靄に浸食されて、腐りついていくような感覚……)

 

「っ!? おいっ! どうした勝利!?」

 

「勝利君、大丈夫!?」

 

「っおいおい……なんか遊戯の様子もおかしくなってるぞ!?」

 

「これが……闇のゲーム。ペガサスが仕掛けた、恐るべきゲームの力なんだ……」

 

唯一それを理解している獏良が、そう呟いた。

ペガサスが、満足げに説明を始める。

 

自分がM&Wを生み出すにあたってのきっかけとなった歴史は、エジプトを原点としていたこと。

そこで、自身が持つ千年眼と出会ったこと。

 

 

そして……遊戯の持つ千年パズルとそれらは同種のものであり、古代の戦いを模した、邪悪なゲームがこれより幕を開けるということ。

 

 

 

 

「さあ、闇のゲームの始まりデス」

 

 

 

瞬間、遊戯の表情が明らかに曇る。

そして、それをかばうように、もう一人の遊戯が表に出てきた。

 

「一体どうしちまったんだ……遊戯の奴」

 

「闇のゲームったって、俺たちの眼には普通に戦っているようにしか見えねえぜ!? いったい何が起こってるんだ!?」

 

「勝利君……大丈夫? いったい、何が起きてるの……?」

 

「……大丈夫だよ、杏子ちゃん。多分これが、遊戯君が戦っている闇のゲームの力……」

 

(多分、人より感覚が鋭い僕の身体が……ペガサスの『闇』の力に反応してしまっているんだ。苦しい……遊戯君は、こんな思いをしながら決闘をしているのか)

 

そうして勝利は、遊戯たちが『マインドシャッフル』による戦いをやめ、もう一人の遊戯が前に出てきた理由を察した。

 

「多分……遊戯君、いや、『優しい遊戯』君には、この闇のゲームの負荷に耐えられない。だから、もう一人の遊戯君が前に出ることで、遊戯君をかばおうとしているんだ」

 

「……僕もそう思う。闇のゲームの力は、それほどまでに強力なんだ」

 

「そんな!?」

 

「……遊戯!?」

 

杏子は勝利に肩を貸しながら、決闘場に向き直る。

城之内たちも、それに合わせて遊戯の応援により力を込めた。

 

 

 

 

しかし、闇のゲームの始まりとともに、明らかに遊戯たちは劣勢になった。

 

 

 

 

『マインド・シャッフル』による対抗策が闇のゲームという封じ手を打たれた、ということもだが、それにより遊戯たちに時間の制限が付いたことで、もう一人の遊戯に焦りが生まれたことが大きな要因だった。

 

遊戯の戦術は明らかに単調になり、精彩を欠く。

そこを、ペガサスは見逃さない。

 

「"ダーク・アイズ・イリュージョニスト”の特殊能力発動! 『邪眼の魔力(ダーク・アイズ・マジック)』!」

 

 

 

ダーク・アイズ・イリュージョニスト

闇属性 魔法使い族 星4

 

攻 0

守 0

 

 

幻惑の眼で敵の攻撃能力を奪い取る。

 

 

 

「遊戯ボーイの"カース・オブ・ドラゴン”の攻撃は封じ込められました」

 

「……ダメだ、遊戯君。幻想モンスターに正面から攻撃を仕掛けても……」

 

勝利が声を絞る。

しかし、焦る遊戯の耳には届かない。

 

「では私のターン。モンスターを召喚し、魔法カード、"イリュージョンの儀式”発動デース! このカードにより、場の2体のモンスターを生贄に捧げ、"サクリファイス”を召喚しマース!」

 

「くっ! 幻想モンスターの儀式召喚だと!?」

 

ペガサスのフィールドに邪悪な壺が生まれ、モンスターたちがその壺に飲み込まれていく。

現れた悍ましきモンスターの姿に、皆が息を飲んだ。

 

 

「いでよ! 幻想モンスター、"サクリファイス”!」

 

 

サクリファイス

 

闇属性 魔法使い族 星1

 

攻 0

守 0

 

 

相手を吸収し、力を得る。(吸収したモンスターを盾にすることもできる)

 

 

「……儀式モンスター、"サクリファイス”だと……」

 

 

 

 

遊戯   LP900

 

ブラック・マジシャン

 

攻 2500

 

カース・オブ・ドラゴン

 

攻 2000(幻想状態により攻撃不能)

 

伏せカードなし

 

 

 

ペガサス LP600

 

サクリファイス

 

攻 0

 

 

 

 

 

「……まずい。あのカード、いやな感じがする」

 

「……確かに、なんか気味が悪い感じがするわ」

 

勝利が、言い知れぬ不安感を言葉にし、杏子が同意した。

 

(儀式召喚という手間を踏んでおきながら、攻撃力0の幻想モンスター……あのモンスターもおそらく、相手の力を逆手に取るような、特異な戦術を使うタイプ)

 

今の、焦りが心を支配する遊戯とは、相性最悪だった。

 

 

「行きますよ。"サクリファイス”の特殊能力発動! 『ダーク・ホール』!」

 

「なにっ!? "カース・オブ・ドラゴン”が吸収された!?」

 

"サクリファイス”の肉体の一部に、"カース・オブ・ドラゴン”が浮かび上がる。

そして、"サクリファイス”のステータスに変化が生じた。

 

 

サクリファイス(カース・オブ・ドラゴン)

 

攻 2000

 

 

「げぇ!? 遊戯のモンスターを飲み込んじまいやがった!?」

 

「おいおい……」

 

「確かにその能力も脅威だけど、モンスターを取り込んで強くなるだけなら"ブラック・マジシャン”を取り込めばいい……それをしなかったってことは……」

 

勝利の苦しそうな顔を、冷や汗が伝う。

勝利のいやな予感は、外れなかった。

 

「"ブラック・マジシャン”! "サクリファイス”に攻撃だ! 『黒・魔・導(ブラック・マジック)』!」

 

「っ! だめだ! 遊戯君!」

 

「フフッ! "サクリファイス”の効果! 『サクリファイスシールド(生贄の盾)』!」

 

"ブラック・マジシャン”の攻撃に合わせ、"サクリファイス”の体内の"カース・オブ・ドラゴン”が移動する。

 

「これは……体内の"カース・オブ・ドラゴン”を、盾にする気か!?」

 

(やはり……わざわざ攻撃力の低いモンスターを取り込んだのは、盾にして、遊戯君のライフを削り取るためか!?)

 

 

ブラック・マジシャン

 

攻 2500

 

サクリファイス(カース・オブ・ドラゴン)

 

攻 2000

 

 

遊戯 LP 900 ー 500 = 400

 

 

 

「これが……ペガサスの『サクリファイス(生贄)・コンボ』……」

 

 

 

そして次のターンに、"ブラック・マジシャン”すらも吸収され、遊戯の場からとうとうモンスターがいなくなる。

たまらず遊戯が、少し顔を伏せる。

 

 

遊戯   LP400

 

伏せカードなし

 

 

 

ペガサス LP600

 

サクリファイス

 

攻 2500(ブラック・マジシャン)

 

 

 

そしてその瞬間に、遊戯の顔つきが変わった。

 

 

「っ!!!!? 遊戯君、危ない! 戻るんだ!」

 

 

それを感じ取った勝利が、思わず叫ぶ。

感受性が高く、闇のゲームの危険性にいち早く気付いた勝利であるからこそ、遊戯の変化と、その限界にいち早く気付く。

 

「(……ありがとう、勝利君……)ぼ、僕のターン……」

 

遊戯が、ゆっくりとターンを開始した。

しかし、息を切らし、目の焦点が合わなくなりながらドローするその様子は、勝利じゃなくとも限界を予感させた。

 

(心が……消えかかってマスね)

 

「僕は……カードを1枚セット。"グレムリン”を……守備表示」

 

(もう一人の僕……このカードで、ペガサスを倒して……)

 

 

 

「……"サクリファイス”の攻撃! 『幻想黒・魔・導(イリュージョンブラック・マジック)』!」

 

 

 

サクリファイス

 

攻 2500(ブラック・マジシャン)

 

グレムリン

 

守 1400

 

 

 

攻撃の余波を受け、遊戯が机に突っ伏した。

起き上がる、様子がない。

 

「……遊戯ボーイのもう一つの心では闇のゲームをプレイするレベルには到達していなかったようデスネ……」

 

ペガサスが、笑う。

 

 

 

 

「もう一つの心は葬りました」

 

 

 

 

「……嘘だろ?」

 

誰の言葉かわからない声が響く。

 

「遊戯の心を……葬っただと……? ざけんな……ふざけたこと抜かすんじゃねえペガサス!」

 

「遊戯君……」

 

(嫌だ……嫌だよ遊戯君……やっとできた、友達なんだ……)

 

勝利が、震える。

握りこぶしが思い切り手すりを打ち鳴らした。

 

 

「起きろ! 起きてくれぇ! 遊戯君!!!!」

 

 

涙声で叫ぶ。

しかし、遊戯は反応してくれなかった。

 

「オレたちは……戦う遊戯に何もしてやれなかった……こうして、ぼーっとつっ立ってることしかできなかった……くそっ!」

 

本田も悔しそうに吐き捨てる。

全員が今の状況に、自分に、無力感を感じずにはいられなかった。

 

 

 

「っ! 見て!」

 

 

 

杏子の声に、全員が顔を上げる。

そこには、勇ましく起き上がる、遊戯の姿があった。

 

 

「ペガサス……てめぇは、絶対に許さねえ!」

 

 

もう一度表に現れた、遊戯の心。

一瞬皆は歓喜に沸いたが、その行動は、ペガサスの言う通り、『もう一つの遊戯の心』が葬られたことを意味していると理解し、再び重くるしい空気が流れる。

 

 

 

「遊戯の……遊戯の心は、死んでなんかいないわ!」

 

 

 

杏子の力強い声に、勝利は縋るように反応した。

 

「杏子ちゃん、本当?」

 

「うん。私、遊戯に聞いたことがある……遊戯の中の一方の心が死んでしまったら、もう一つの心も存在できないって! 二つの心が共存してこそ遊戯の存在があるんだって!」

 

「ってことは! 遊戯の心は、もう一人の遊戯の中で生きてる!」

 

「ええ……でも、今の戦いで、瀕死の状態になっているかも……」

 

杏子の言葉に、勝利たちの表情が再び曇る。

 

「くそっ……オレたちは、助けてやることもできねぇってのか!?」

 

「私達の心を……遊戯に分けてあげられたら……」

 

 

 

 

(……心を……分ける)

 

 

 

 

『ふぁー!』

 

『かぁー!』

 

『くわぁー!』

 

 

 

 

「っ!!!!?」

 

 

 

 

 

声に反応し、勝利が上を見上げる。

『友達』が、自分を見下ろし見つめる。

 

 

 

 

 

少しこちらを見てこくりとうなづいた後、振り向いて遊戯のもとへと羽ばたいていった。

 

 

 

(みんな……みんなの力で、遊戯君を……)

 

 

 

勝利は目じりの涙をぬぐい去り、お願い、と小さく漏らした。

その姿を見送った後、決意の表情を皆に向けた。

 

 

 

 

「……みんな。僕を、信じてくれるかい?」

 

 

 

 

勝利が、突然城之内たちに話し始める。

皆は勝利がいったい何の話をしだしたのかと困惑する。

 

(みんなには、僕の『友達』の存在は伝わらない……だから、僕の『心』は誰にも伝わらない……)

 

そう思い続けていた。

あの日、遊戯に、みんなに出会うまでは。

 

(彼らには、見えないのかもしれない。彼らには、わからないかもしれない。でも……僕の想いは、届くかもしれない)

 

 

 

「心は、分けられる。遊戯君を、助けに行こう」

 

 

 

「ほ、本当!? 勝利君!?」

 

「マジか!? 勝利! どうやんだよ!?」

 

一も二もなく、理由も訪ねることもなく自分を信じる城之内たちの姿に、勝利は場違いにも少し笑う。

そして勝利は、左手で隣の杏子の手を握った。

 

「し、勝利君?」

 

 

 

 

 

「みんな、手をつないで。僕に、呼吸を合わせて」

 

 

 

 

 

勝利が、そう言って深呼吸をする。

手をつなぐ杏子にそれが伝わり、杏子がそれに倣うように呼吸をして、心を落ち着かせる。

さらにそれに倣い、城之内が杏子と手をつなぎ、城之内が本田、本田が獏良と、手のひらでつながっていく。

 

(うん……伝わってくる。勝利君の、気持ち。城之内の気持ち。城之内を通して、本田や獏良君の気持ちが……)

 

(……遊戯を、助けてやりてぇ……)

 

(わかるぜ、城之内。お前の歯がゆくて、つれえ思いがよ……)

 

(遊戯君……)

 

皆の呼吸の調子が、皆の鼓動のリズムが、少しずつそろっていくのを感じる。

まるで、気持ちの波が塊となって、全員の体内を血液のように巡っていくようだった。

 

 

 

「ありがとう……みんな。僕のことを、信じてくれて」

 

 

 

皆は、目をつぶったまま答えた。

 

 

 

 

「当たり前でしょ!」

 

「仲間なんだからよ!」

 

「おうよ!」

 

「うん!」

 

 

 

 

勝利はその言葉をそっと心にしまい、残る友達に自分たちの想いを伝える。

 

 

 

(みんな……頼む。僕たちを、遊戯君のもとに、連れて行ってくれ!)

 

 

 

勝利は、願う。

そして最後に、空いた方の手を右側に差し出した。

 

 

 

(舞さん……)

 

 

 

 

 

 

 

『ぴぃー!』

 

 

 

 

 

 

そして、ブリザードが舞う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちっくしょお! 船もなくてどうやって帰れってんだ! ばかやろー!」

 

舞が海岸で一人大きな声を上げて海に石を投げる。

ぽちゃん、という小さな音が、舞のいら立ちを余計に加速させた。

 

「あーもう!」

 

焦燥を叩きつけるように自分の荷物を枕に、体を投げ出す。

見上げた空の青さに少しだけ心の波が収まった舞は、あがいてもどうしようもない状態をひとまずあきらめ、ゆったりと体の力を抜いた。

 

「……あっちは今頃、ペガサス戦かしらね。まっ、さすがに遊戯でしょうね」

 

城之内が勝ち上がってるとはさすがに思えないし。と、軽く笑う。

 

 

 

「……まっ、応援はしといてあげるわ。『仲間』としてね」

 

 

 

 

ふふっ、とひと笑いし、目を閉じる。

暖かい日差しに包まれながら少しうとうととし始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぴぃー!』

 

 

 

 

 

「……何?」

 

 

 

一瞬聞こえた甲高い音に反応し、目を開けて周りを見る。

しかし、身の回りに音の主はいない。

 

 

 

いや、それどころか、舞のいるその場所には、何もなかった。

先ほどまでの海岸沿いの景色も、青い空も、風も、日差しも何もない。

黒い、謎の空間。

舞は、一人でそこにいた。

 

 

 

「……何これ? 夢?」

 

 

 

舞は、そう呟く。

黒く、どこまでも続く空間に、一人。

しかし、何も見えない、何も聞こえない場所だというのに、不思議とその空間には、息苦しさや孤独感はない。

 

現実味の無い、独特の空間。

 

これが夢でなくて何だ、と舞は思った。

 

 

 

 

 

 

『ぴぃー!』

 

 

 

 

 

 

その空間にたった一つ。

先ほども聞こえた、声が響いた。

 

 

 

 

 

「……なんなの。誰よ、あたしを呼んでんのは?」

 

 

 

 

 

たった一つの手がかり。

舞は、その声のする方向へ歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊戯   LP400

 

モンスター無し

 

伏せカード1枚

 

 

 

ペガサス LP600

 

サクリファイス(ブラック・マジシャン、砦を守る翼竜)

 

攻 3900

 

 

 

(……オレの出したモンスターはすべて吸収され、"サクリファイス”の攻撃力は無限に上がっていく……しかし、攻撃すればモンスターを盾にされ、ダメージを受けるのは俺の方だから、うかつに攻撃もできない……おまけに、千年眼によって俺の手の内はすべて読まれている……)

 

何度整理をしても絶望的な自分の状況に、くそっ、と小さく悪態をつく遊戯。

しかし、ペガサスの次の一手には、容赦も油断も存在しなかった。

 

 

「さらに私はここで、"タイム・ボマー”のカードを召喚しマース!」

 

 

 

タイム・ボマー

 

炎属性 炎族 星5

 

攻 200

守 1000

 

 

自軍のモンスターすべてを2ターン後に破壊する。

タイム・ボマーは敵の攻撃を受け付けない。

 

 

 

「"タイム・ボマー”!? 時限爆弾モンスターか!?」

 

「イエス! "タイム・ボマー”は攻撃不可能な爆弾モンスター。2ターン後に私の場のモンスターをすべて破壊するという特殊能力を持っていマース! すなわち、2ターン後に"サクリファイス”を破壊するのデス。YOUのモンスターごとね」

 

遊戯はペガサスのコンボを理解し、絶望する。

"サクリファイス”は攻撃力0のモンスター。破壊されてもペガサスにダメージはないが、"サクリファイス”に取り込まれた遊戯のモンスターたちは違う。

 

(このために俺のモンスターを吸収していたのか……このコンボを許したら、俺のライフは0。俺は負ける……だが、対抗しようにも、俺の手はすべて読まれている)

 

 

 

 

遊戯   LP400

 

モンスター無し

 

伏せカード1枚

 

 

 

ペガサス LP600

 

サクリファイス(ブラック・マジシャン、砦を守る翼竜)

 

攻 3900

 

タイムボマー(爆破まで、残り2ターン)

 

 

 

 

 

「フフッ。今の遊戯ボーイの手に、この生贄コンボをどうにかする手はない。ゲームオーバーです」

 

「くっ!」

 

カードを引くしかない。

だが、引いても手の内は読み切られてしまう。

 

 

 

(勝てないのか……俺は……ここまで来て……)

 

 

 

うなだれる遊戯。

その時、遊戯の心に響く、一つの声。

 

 

 

 

『遊戯……』

 

 

 

 

(っ! 爺ちゃん!)

 

 

 

 

『お前にはカードと……もう一つ、信じているものがあるじゃろ?』

 

 

 

 

(俺がもう一つ……信じているもの……)

 

遊戯は、はっとして、顔を上げる。

 

そして、カードを引いた。

 

 

(フフッ! 無駄なことデス、遊戯ボーイ! YOUは自分の心の中にあるそのカードの正体を隠しきることなどできない!)

 

 

ペガサスの、左目が光る。

再び、遊戯の心に忍び込み、カードの絵柄を覗こうとした。

 

 

 

 

 

 

『ぴぃー!』

 

 

 

 

 

 

「なっ!!!!?」

 

しかし、ペガサスの目に飛び込んできたのは、遊戯のデッキにあるはずのない鳥モンスターたちの姿。

そして……もう一人の遊戯を守り、カードの前に立つ、勝利たちの姿だった。

 

 

杏子と獏良が、ぼろぼろのもう一人の遊戯を抱きとめる。

勝利が、戦う遊戯の後ろから、遊戯を支える。

そして、城之内と本田が、もう一人の遊戯と、遊戯のカードの存在を守る。

 

 

(か、カードが見えない!!!?)

 

 

 

『これ以上、遊戯の心の中にゃ踏み込ませねえぜ! 出ていきなゲス野郎!!』

 

 

城之内の一喝により、ペガサスは消えていく。

二人の遊戯の表情が、一気に晴れていった。

 

 

(みんな……!)

 

 

『遊戯! 俺たちがついてるぜ!』

 

『もう一人の遊戯は大丈夫よ! 心配しないで!』

 

『遊戯……ペガサスをぶっ倒せ!』

 

 

 

皆が、思い思いの激励を叫び、遊戯の心に戻っていく。

そして、最後に遊戯の後ろには、二人(・・)の人影が残っていた。

 

 

 

(勝利君……………舞!)

 

 

 

『……来てくれたんだね。舞さん』

 

『……なんかよくわかんないけど、呼ばれたからね。どういう状況よ、これ』

 

『みんなで、遊戯君を応援しに来たのさ』

 

『何? 遊戯、あんたまたへこたれてんの?』

 

左後ろから、勝利の嬉しそうな声が。

右後ろから、舞のあきれたような声が。

それぞれの声が、遊戯に響く。

 

 

『君なら、必ず勝てるよ!』

 

『気合い入れなさいよ。あんたは、あたしたちが全力で戦い抜いた、決闘者王国の王者なのよ!』

 

 

 

 

『『頑張れ! 武藤遊戯!』』

 

 

 

 

そう言って二人の手で遊戯の背中を叩き、城之内たちを追うように心の中へと戻っていった。

背中から全身に広がる痛みが、熱が、彼らの気持ちが、決してこの声が錯覚ではないことを伝えてくれる。

 

 

 

 

(……勝利君、舞。それにみんな…………礼を言うぜ!)

 

 

 

 

「行くぜ! ペガサス! 魔法カード、"死のマジック・ボックス”!」

 

 

死のマジック・ボックス

 

魔法カード

 

魔術師のみが扱える不思議な箱。モンスターの破壊や、入れ替えを行う。

 

 

 

「くっ! (対抗策が間に合わない!)」

 

 

「このカードの効果により、"サクリファイス”に吸収された"ブラック・マジシャン”と、"タイム・ボマー”を入れ替えるぜ!」

 

 

マジック・ボックスの力により、"ブラック・マジシャン”が遊戯の場に舞い戻り、"タイム・ボマー”は逆に"サクリファイス”の身体に取り込まれる。

 

「だが! "サクリファイス"の中にはまだ"砦を守る翼竜”がいる! この1体を次のターンに爆破すればその瞬間にYOUのライフは0になる! 無駄なあがきです!」

 

 

遊戯はペガサスの声を聴きながら、"タイム・ボマー”爆発前の最後のターンを迎える。

そのドローに、恐れは微塵もなかった。

 

 

「ふっ、それはどうかな。俺は、"洗脳ーブレインコントロールー”を発動!」

 

 

 

洗脳ーブレインコントロールー

 

魔法カード 

 

敵モンスター1体を洗脳し、1ターンだけ味方にして操ることができる

 

 

 

「せ、洗脳カード!?("サクリファイス”は、1ターン遊戯の手ごまとなる……)」

 

ペガサスは、突然息を吹き返した遊戯の様子に思わず歯噛みするが、状況を整理し、再び勝鬨を上げる。

 

「しかし! 一手遅かったデスね! "タイム・ボマー”はこのターンに爆発する!」

 

(しかも、今の2ターンで遊戯ボーイが引いたカードは間違いなく"死のマジック・ボックス”と"洗脳ーブレインコントロールー”。残りのカードに、この状況を突破できるカードはない!)

 

「私の勝利デース!」

 

 

 

確信するペガサス。

しかしそれでも、遊戯は笑って、最後の伏せカードに手をかけた。

 

 

 

「俺には、伏せカードがある。もう一つの心が、残してくれたカードが……」

 

 

 

遊戯には、もう一人の遊戯が残したその伏せカードの内容はわからないはずだった。

しかし、遊戯は確信をもってそのカードを開く。

まるで、もう一人の遊戯とともに、信じたそのカードに託すように。

 

 

 

 

「魔法カード、"カオスー黒魔術の儀式”!」

 

「こ、ここで儀式カード!?」

 

 

 

 

"カオスー黒魔術の儀式”

 

魔法カード

 

攻撃力1500以下のモンスター2体を生け贄に捧げ、マジシャン・オブ・ブラックカオスを降臨させる。

 

 

 

 

 

「"砦を守る翼竜"と、"タイム・ボマー”を生贄に捧げ、新たな黒魔術師を降臨させる!」

 

「くっ! 攻撃不能の"タイム・ボマー”を、こんな方法で!?」

 

 

 

 

"砦を守る翼竜"と"タイム・ボマー”が、青く白い、それでいて深く黒い光に姿を変える。

"ブラック・マジシャン”の身体に、生贄にした2体の魂の光が宿り、その姿を別のモンスターへと変えていく。

 

 

 

 

「黒き混沌の魔術師、"マジシャン・オブ・ブラックカオス”、降臨!」

 

 

 

 

マジシャン・オブ・ブラックカオス

 

闇属性 魔法使い族 星8

 

攻撃力 2800

守備力 2600

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千年眼によるマインド・スキャンを失い、コンボを完全に破られてなお、ペガサスは強かった。

しかし、遊戯と仲間の結束の力が、それを、わずかに上回った。

 

 

 

 

そして、待ちわびたその瞬間は訪れた。

 

 

 

 

遊戯   LP100

 

マジシャン・オブ・ブラックカオス

 

攻 2800

 

 

 

ペガサス LP600

 

サウザンド・アイズ・サクリファイス(邪眼 起爆により能力無効)

 

攻 0

 

 

 

 

 

「覚悟はいいな……ペガサス!」

 

「あ、ああ……」

 

 

ペガサスは、言葉にならない声を上げる。

伏せもない。サクリファイスの能力も消えた。

彼にはもう、攻撃を防ぐ手段はなかった。

 

 

 

 

 

 

「"マジシャン・オブ・ブラックカオス"! 『滅びの呪文ーデス・アルテマ』!」

 

 

 

 

 

 

マジシャン・オブ・ブラックカオス

 

攻 2800

 

サウザンド・アイズ・サクリファイス

 

攻 0

 

 

 

 

 

ペガサス LP 600 ー 2800 = 0

 

 

 

 

 

 

 

「ペガサス……僕たちの勝ちだ……」

 

 

 

 

 

 

そうして、長かった決闘者王国のラストバトルが、終焉を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すべて終わった後、勝利は、皆で島から撤退するまでの束の間の休息として、部屋に一人で寝転んでいた。

 

ペガサスは、最後にぽつぽつと語り始めた。

 

 

彼の身に起きた……否、彼の最愛の人、『シンディア』に起きた不幸。

エジプトへ向かった際に出会ったターバンの男、『シャーディー』と千年アイテムについて。

自分が手に入れた千年眼との出会い。

 

 

 

そして、その時に起きた奇跡。

最愛の恋人、『シンディア』との再会。

 

 

 

さっき、遊戯のもとに訪れた黒服の男たちが話していたこと。

ペガサスが海馬コーポレーションを執拗に買収しようとしていた、真の理由。

 

彼が持つ、"シンディア”のカードを、実体化させようとしていたのだという。

海馬コーポレーションの技術の結晶、『決闘盤』の力を以て。

 

どんな形だとしても、もう一度『シンディア』に会いたかったのだという。

 

 

 

 

勝利は、デッキから1枚カードを取り出し、眺める。

 

それは、"BFー極北のブリザード"だった。

 

 

 

『……ぴぃ?』

 

 

 

じっと自分を見てくる勝利に、ブリザードが首を傾げる。

 

(ペガサスは……『BF』を欲しがっていた。ゲームの製作者として、把握していないカードの存在を見過ごせないのは当然……そう思っていたけど……)

 

もしも、彼の持つ千年眼によって、僕の心がわかっていたのだとしたら。

僕が、『BF』というカードたちと、どういう思いで接しているのかを、知っていたとしたら。

 

 

 

 

 

(ペガサスは……ただ、知りたかっただけだったのかもしれない。カードと、心を通わせる方法を)

 

 

 

 

 

カードを眺め、呆けている勝利のもとに、ノックの音が響いた。

 

「おーい、勝利。いるか? そろそろ帰るぜー!」

 

「っ! うん! 今行くよ!」

 

カードをしまい、荷物を手に持って部屋を出る。

そこには、自分を待っている、仲間たちの姿があった。

 

 

 

 

(……僕は、恵まれてるな。大切なカードと、大切な仲間。大切な人が、まだ残っている)

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして勝利は遊戯たちとともに城の外へと出ていく。

そこで、意識を取り戻した海馬兄弟を向き合う。

 

(城之内君も無事小切手を受け取ることができたようだし、ペガサスは決闘前の遊戯君との約束をすべて守ってくれたんだ)

 

彼は、根っからの悪人ではなかったのかもしれない。

なんとなく、勝利はそう感じてしまった。

 

 

「モクバくんと仲良くね! 海馬君!」

 

「遊戯……モクバを助けてもらったことに関しては借りができたな……だがもう一人の遊戯に伝えておけ! 俺たちの戦いは、まだ終わっていないと!」

 

(自分を助けたことについては礼もないのに、モクバ君の助けについては借りと認識しているんだ……不器用というか、強烈なプライドと意地っ張りというか)

 

この性格が彼の決闘者としての意思の強さにつながる根幹なんだろう。と勝利は見ていて思った。

 

そうして海馬兄弟は、海馬が乗ってきたヘリの方へと歩いていく。

 

一方で勝利たちはというと、この島に残っている船などないという獏良の衝撃の報告を受け、絶望していた。

 

 

「おいおいおい……どうすんだよこれ!? マジで泳いで帰れってか!?」

 

「……いや、現実的じゃないね。行きのペガサス戦で、ざっと8時間以上かかっていた。海の藻屑になるのがオチだ……」

 

 

勝利の言葉に、場が絶望に包まれる。

 

 

 

 

 

 

「…………兄サマ……あいつらもヘリに乗せてやろうよ。お願い……」

 

「何っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前ら! 兄サマの優しさに感謝しろよなー!」

 

「……いや、もうほんと……頭が上がらないよ。ありがとう海馬君」

 

「フン! 海を渡ったらモクバの借りはチャラだ!」

 

その後、海馬兄弟の救いの手により、勝利たちはヘリの後部座席に乗り込むことを許可された。

明らかに勝利たちが乗るヘリの範囲は6人も乗れない定員オーバー状態だが、文句の一つをいう権利もなかった。

 

「……ちなみに海馬君。僕らの席のことはともかくとして、ヘリの重量オーバーとかは大丈夫なの?」

 

これでヘリが重さに耐えられず、海の藻屑になろうものなら申し訳ないどころの騒ぎじゃないと思い、海馬に確認をとるが、一言、くだらんと吐き捨てられる。

 

「今や忌々しき話だが、海馬コーポレーションは元軍事産業のトップ企業だ。わが社のヘリがこの程度の重量で落下することなどありえん」

 

さすがすぎる海馬の社長としての自信に、勝利は心配を引っ込めた。

そしてとうとう、ヘリは発進した。

 

 

「うぉーー! つ、つぶれる~~!」

 

 

横倒しになる6人。

しかし、こんなところで押しつぶされて帰れなくなるなどたまったものではないと、必死にみんなで体制を保とうと協力する。

 

そんな中勝利の耳に、6人の声とは違った、また騒がしい声が響き渡る。

 

 

 

『ぴぃー! ぴぃぴぃ、ぴー!』

 

 

 

(ちょ、ちょっと待ってブリザード! 今は君たちに構っていられる余裕は……ん?)

 

引っ込めようと手を伸ばしたが、その手を交わすように舞うブリザードは、ヘリの下を指し示す。

窓からブリザードが指す方向をのぞき込む勝利。

 

 

 

 

 

 

「おーい! あたしも乗っけてってくれー!!」

 

 

 

 

 

「ええっ! 舞さん!?」

 

「「「「「なにぃ~!?」」」」」

 

 

 

まだ島にいたのか、と驚愕する皆。

だが、固まっている場合ではない。

このままでは、舞は先ほどまでの自分たちの二の舞だ。

 

 

 

 

「海馬君……あと一人、いける?」

 

後部座席の梯子を手に取り、海馬に尋ねる勝利。

何をする気か察した海馬は、あきれたように一言だけ返す。

 

「……フン。せいぜい、魚のえさにならんよう祈るんだな」

 

「くっくっく。ありがとう」

 

その声を合図に、海馬はヘリのハッチを開く。

何が起こるが理解していないぽかん顔の遊戯たちに、勝利が一言。

 

 

 

「じゃあみんな、あとよろしくね」

 

 

 

そう言って、梯子片手にハッチに飛び込む。

 

 

 

 

 

「「「「「え、えぇ~~~~~~~!!!!!?」」」」」

 

 

 

 

 

勝利は瞬く間に、小さくなっていった。

 

 

 

 

 

ヘリから降りてくる梯子。

そして、その先に捕まる男の姿を見て、舞は思わず破顔した。

 

 

 

 

「舞さん!」

 

「勝利!」

 

 

 

 

勝利が、梯子の先から手を伸ばす。

舞が、勝利の手を掴み捕まる。

 

 

勝利が、舞を引き寄せる。

舞が、勝利に抱き着く。

 

2人がしがみついたのを確認してかせずにか、ヘリが高度を上げ、海の上に躍り出た。

 

 

 

 

 

 

「「きゃっほ~~~~~~~~~~~~~!!!」」

 

 

 

 

 

 

二人で梯子に捕まりながら、空を望む。

海が、西日で光り輝いていた。

 

 

 

 

「舞さん……」

 

「ん?」

 

 

 

 

 

「……景色、きれいだね! 昨日より、ずっと!!」

 

 

「……そうね!」

 

 

 

 

 

輝く水平線は、どこまでも続いていた。

 

 

 

 

 

決闘者の王国編

-完ー

 




王国編完結です。

梶木戦くらいまでは完全に仕上がっていたのでまあ、何とかなると思って投稿を開始しましたが、休まずに走り切れるとはおもっていませんでした。
これも評価、感想、誤字報告等。私を応援してくださった皆さんのおかげです。
これからも、遊戯王〜黒き羽根は夢に舞う〜をよろしくお願いします。
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