遊戯王~黒き羽根は夢に舞う~   作:haruko

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バトルシティ編没案②

アニオリ デュエルクエスト編
遊戯たちに舞まで参加する神イベだったので。
舞をかばって死ぬ勝利も、勝利をかばって死ぬ舞も見たかったし、みんなの前で『BF』と楽し気に活躍する勝利も書きたかった。

没理由……アニメを見直していたところ、最終局面でドラゴンしか動けないフィールド登場。
ラストバトルで主人公が何もしないのは流石にいかがなものかと、ストーリーを断念。(あいつさえいてくれれば……



※現在のバトルシティ編までの閑話、黒き記憶編の執筆に伴い、残酷な描写のタグを追加しておきました。
バトルシティが始まったらもはやいらないタグな気もしますが、一応の報告。
ついでに、なんか扱いの格上げが起こったダイナソー竜崎のタグも追加しときました。つまり残酷なダイナソー竜崎が見られるということ!?(違う


向き合う勇気

 

「さあ。僕のカードを返してもらえるかい?」

 

クラスのみんなが散り始めた頃合いを見計らい、勝利が辰巳に声をかける。

しかし、辰巳は机に腕を立てて下を向いたまま、反応しない。

 

「おいこら、辰巳! お前は勝利に決闘で負けたんだ! おとなしく従いやがれ!」

 

「……うるさい。僕は、負けない。デッキが、悪かっただけだ」

 

「……まだ言っているのか。そんなことを言っている間は、何年かかろうが勝利君には勝てないぜ」

 

「うるさいうるさい!」

 

 

聞く耳を持たない辰巳に、遊戯たちが嫌気を覚え始めた頃合いに、教室のドアが勢いよく開いた。

 

 

「誰だ! 騒がしいぞ!」

 

 

開いたドアの先に、無精ひげの男が仁王立ちしていた。

見覚えのない男に、遊戯たちが首を傾げる。

 

「おいおい。なんだよあんた。休み時間に何してよーが俺らの勝手だろ?」

 

「ふん。生意気な奴だ」

 

「な、なんだとこらぁ!」

 

城之内を挑発するその男を見て、辰巳が再び勝ち誇ったように笑う。

それを見て、勝利はすぐに理解した。

 

(この男が、杏子ちゃんが言っていた三年教師の……)

 

首から下げている教員カードに、辰巳と記載がある。

確定だった。

 

「お、叔父さん!」

 

嬉しそうに駆け寄る辰巳。

それを教師のほうの辰巳が、さらに嬉しそうに抱きしめる。

二つの悪い笑みに、勝利は思い切り顔を歪める。

 

「助けてくれ! こいつら、決闘に勝ったからって僕にカードをよこせって、恐喝してくるんだ!」

 

「な、なにぃ!? ふざけんな! 誰が恐喝だ! てめぇいい気になりやがって!」

 

「城之内君、ストップ。それ以上言ったら、どっちが本当かよくわかんなくなっちゃうよ」

 

「ぐっ!」

 

城之内の肩を軽くたたいてなだめ、勝利は辰巳と、教師のほうの辰巳の前に出る。

 

「僕は、別にレアカードが欲しいわけじゃない。僕のバックから持ち出された、僕のカードを返してくれって言っているだけだ」

 

「僕はそんなことしていないって言っているじゃないか! どうして信じてくれないんだ!?」

 

形だけの演技と、隠しきれていない邪悪な笑みに、勝利は辟易する。

しかし、その笑みを浮かべているのは、辰巳だけではなかった。

 

 

 

「……まったく、育ちの悪さが素行に出ているんじゃないのか、黒羽」

 

 

 

その醜悪極まりない言葉に、勝利は黙りこくる。

打ち負かしたと判断した教師辰巳は、続けてしたり顔で語りだした。

 

「知っているぞ、黒羽。お前の親はお前を置いて消え、身寄りがないんだってな。しばらくしてようやく親戚に拾ってもらって、学校に通えるようになったんだろ? おまけに、その親戚にもほっぽり出されて、小さなアパートに追いやられて独り暮らししてるってな。ろくな親もおらず、ろくな親戚もおらず、それじゃあろくな生徒になるわけがないなぁ」

 

にやにやと人のプライベートを語る教師に、その後ろでこれまたにやにやと笑う辰巳。

その二人の卑劣なやり方に、城之内だけでなく、遊戯たちもとうとう顔を怒りに染めた。

 

 

「おい貴様! それでも教師か!? 俺たちの仲間に、それ以上の侮辱は許さないぜ!」

 

「遊戯の言う通りだぜ!」

 

「そうよ、サイテーよ!」

 

 

遊戯に続き、本田、杏子が教師辰巳を責め立てる。

しかし、教師辰巳の余裕そうな表情は崩れない。

 

「そっちこそ、証拠もなしに人を泥棒呼ばわりしたんだ。停学で済むと思うなよ。黒羽も、そっちのガラの悪いお友達たちもな」

 

プツン、と城之内の何かが切れる音がする。

拳を全力で握りこみ、振りぬく準備をした。

 

「てんめぇ……もう許さねえぞ!」

 

「待て! 城之内君!!!」

 

振りかぶったころには、遊戯たちの制止は遅かった。。

城之内の拳は、数秒もしないうちに教師に届いてしまう。そうなってはさすがに言い逃れはできない。本当に退学になってしまうかもしれない。

間に合わない。

遊戯たちは、思わず目をつぶった。

 

 

 

しかし、拳の音は響いてこなかった。

 

 

 

ゆっくりと、目を開ける。

拳を構える城之内の前に、勝利が出てきて、教師辰巳の胸倉をつかんでいた。

 

 

「ぐっ……黒羽! 貴様!!!」

 

「……僕のことはどうでもいい。僕の過去なんか、褒められたものじゃないのはわかってる。親が消えたのも事実。今、僕が一人なのも事実。笑いたければ、勝手に笑うがいい……だがな……」

 

 

勝利はそのまま胸倉をつかむ拳に力を籠め、思い切り教師辰巳を持ち上げた。

 

 

「僕を助けてくれた人! 僕を仲間と呼んでくれたみんな! そして……僕を救ってくれた友達を、馬鹿にすることだけは許さない!」

 

 

そのまま、教室の壁に教師辰巳を投げ捨てる。

辰巳は、ゲホゲホとせき込み、体をさすりながらも、笑っていた。

 

 

 

「ふ……ふははは! 教師への暴力! 停学は決定だな! ハハハ、お前のそのカードの大会の経歴も、すべてなかったことにしてやる! 俺たちに逆らったことを、後悔させて」

 

 

 

 

 

 

「なんの騒ぎですかな。これは?」

 

 

 

 

 

 

教師辰巳の言葉を遮ったのは、辰巳よりもさらに年を重ね、白髪交じりの髪と髭を蓄えた中年だった。

しかし、その瞳には、その佇まいには、辰巳とは比較にならない貫禄が感じられた。

いや、それは正しく、上に立つ者の気品であるのだろうと、遊戯たちは感覚で感じ取った。

 

そして、その感覚は正しかったのだろうということが、次の教師辰巳の言葉で証明された。

教師辰巳は痛む体を無理やりに起こし、姿勢を正して頭を下げる。

 

 

 

「り、理事長!? どうしてここに?」

 

 

 

「「「「り、理事長!?」」」」

 

 

 

(おい……本当に理事長なのか?)

 

(わ、私に聞かないでよ! そもそも理事長なんてあったこともないし……っていうか、理事長が何でこんな1年の教室に?)

 

小声で話す城之内と杏子。

しかし、二人の間で答えは出ないまま、状況は進む。

 

理事長と言われたその人は、ゆっくりと教師辰巳の横を通り過ぎ、勝利の目の前に立った。

 

 

「り、理事長……危ないですよ。その男は、実に乱暴な男で、たったいま私も、彼に投げ飛ばされてしまいましてね」

 

手を擦りながら近づく教師辰巳に、理事長は冷たい視線を浴びせた。

そして顔を辰巳に向け、ずいと頭を突き出す。

 

 

 

 

「……私には、先ほどまでのあなたの言動のほうが、よっぽど乱暴だったように見えましたが?」

 

 

 

 

「っ!!!!!?」

 

見られていた。

その事実に、教師辰巳が絶句する。

 

このままでは、まずい。

自分の窮地を察した辰巳だったが、彼の地獄はこんなものではなかった。

 

 

理事長は、辰巳に向けていた顔を再び勝利に戻し、相対する。

何事かと、遊戯たちの、そして、辰巳たちの視線が集まる。

 

 

 

 

 

「久しぶりだね。勝利君」

 

 

 

 

 

「……お久しぶりです。理事長」

 

 

 

 

 

「……『叔父さん』と呼んでくれていいと言っているじゃないか。家族なんだからね」

 

 

 

 

 

遊戯たちは、思わず目を丸くした。

そして、教師辰巳からは、ひゅっ、という、声にならない音がした。

 

「く、黒羽……君が、理事長の甥っ子さん……?」

 

「ああ。君の言う、『小さなアパートに追いやった親戚』とやらは私だよ。まあ真実は、共に暮らそうといったところ、あの家にまだいたいと、振られてしまったというだけの話なのだがね」

 

「……わがままを聞いてくださり、感謝しています」

 

二人のやり取りに、教師辰巳の顔はどんどんと青くなる。

取り返しのつかないことをしたことに気づいたのだろうが、もう遅かった。

理事長が、とどめと言わんばかりにポケットに手を入れる。

 

 

「そうそう。これは、君のだろう?」

 

ポケットから取り出したのは、カードの束。

何が出てきたのかを察した勝利はそっと受け取り、同じく、何が出てきたのかを察した辰巳たちは、気絶するんじゃないかというぐらいに顔色をぐるぐると変えていた。

 

「っ! はい!」

 

「よかった。浅学なもので、君たちが頑張っているそのゲームについて詳しくはなかったんだが、勝利君がそのカードを大切にしているところは見たことがあったからね」

 

勝利は、受け取ったカードを受け取り、感謝の言葉を返しながらそっと抱きしめる。

理事長はその姿を見てにっこりと笑った後、表情を消して教師辰巳の方に向き直る。

 

「ここに来る前に職員室に入ってみたら、君の机に置き去りにされていたよ。ずいぶんと雑な仕事だね」

 

「い、いや……それは、その。前の休み時間に、黒羽君から没収したものでして……」

 

「嘘こいてんじゃねぇ! 前の休みにてめえになんか会ってねえっつーの!」

 

「その通りだ。勝利君は前の時間に、しっかりとバッグにカードをしまった。そして抜き取られていることに気づいたのは昼休みに入ってから。そのカードを今持っているというのは、間の授業中に教室に忍び込み、人様のバックの中身を漁る盗人以外にあり得ないぜ!」

 

「ぐっ……貴様ら!」

 

遊戯たちの追撃の正論に、いら立ちを隠そうともせずにそのまま向ける教師辰巳。

その言葉を最後のきっかけと判断したか、理事長は大きくため息を吐いた。

 

 

「どうやら……君にはもはや教師としての心は存在しないらしいね。守るべき生徒の過去に土足で踏み入って侮辱し、あまつさえ生徒を虚言で攻め立てるとは……」

 

 

「いえっ……あの……」

 

弁解の言葉は形にならず、滝のような汗が彼の苦悶の表情を彩る。

しかし、そんな男に同情するのは、同罪を背負う甥っ子だけだった。

 

 

「今日ここに来た目的の一つは、君の聞き捨てならない噂の真偽を確認するというものだったのだが……早めに来て正解だったようだ」

 

 

理事長は、そっと、割れ物に触るかのように、教師辰巳の肩に触る。

しかし、その手は優しさではなく、怒りに満ちている。

 

 

 

「後で、西棟の空き教室に来なさい」

 

 

 

どう見ても、お茶を飲んで終わりでは済まないであろうその誘いに、教師辰巳は怯えた顔のまま頷く。

そのまま、ふらつく足を無理やり交互に動かして、おぼつかない様子のまま教室の外に消えていった。

遊戯たちが顔を見合わせ、固まっていた。

一件落着、としてよいのかどうかを、図りかねていた。

 

それを察してか、理事長はまた柔らかく笑い、遊戯たちに向き直った。

 

 

「遊戯君と、城之内君だったね。それに、ほかの子たちも。勝利君の友達なんだってね。先日、彼と電話をした際に話してくれたから覚えているよ」

 

「お、叔父さん……」

 

恥ずかしがる勝利とそれを見てまた笑う理事長の姿に、新鮮味を覚えた遊戯たちもまた笑い声をあげた。

 

「ありがとう。勝利君と、友達になってくれて。勝利君の保護者として、礼を言わせてもらうよ」

 

 

 

「……そんな頭を下げてもらう必要ないですよ、理事長さん!」

 

 

 

いつの間にか普段の様子に戻っていた遊戯が、理事長にいう。

それに同意して、城之内が勝利と肩を組み、笑いかける。

 

「おうよ! ダチと一緒にいるのに、理由なんてねーからな!」

 

「ああ。勝利は俺たちの仲間だ。理事長さんがどう思っていようが、それは変わんねーよ」

 

「うん! あたしたちの方が、勝利君に助けられてばっかりだしね」

 

城之内に合わせ、本田が、杏子が、勝利に肩をかけ、背中を叩く。

勝利は痛みに悶えるものの、遊戯たちのその言葉に、静かに、ありがとう、とこぼした。

 

理事長はその様子に優しい顔でうなずく。

 

 

 

「……勝利君。学校が終わったら、ゆっくり話をさせてくれ。君の友達の話も、もっと聞きたいからね」

 

 

 

「……はい!」

 

勝利の返事に満足したように、理事長は教室を去っていった。

 

 

 

 

 

「あー。一時はどうなることかと思ったけど、解決してよかったわ」

 

「うん。本当によかったよ」

 

杏子に同意しながら、勝利は帰ってきたカードたちを愛おしそうに眺め、デッキの再構築を行おうとして、カードを広げた。

遊戯が嬉しそうにそれを眺める。

すべて、元通りだ。

 

 

 

 

「いいや。まだ問題は残っているぜ」

 

 

 

 

城之内が低い声を出しながら、指を鳴らす。

その音に、辰巳がびくりと身体を震わせた。

 

城之内が、ゆっくりとにじり寄る。

それに合わせて動いた本田が、逃げようとする辰巳の肩をしっかりと掴みこんだ。

 

「よお。よくもまあ言いたい放題言ってくれやがったなあ。辰巳」

 

「人のダチのカードパクッて悪く言って好き勝手やって、クソ教師にすべてぶん投げててめえはとんずらっつーのは、虫が良すぎるんじゃねえのか。辰巳君」

 

「あ……い、いや……」

 

 

 

「「面かせ」」

 

 

 

杏子が、あーあ。と顔を伏せる。

遊戯は何とも言えない表情を浮かべた。

 

そして勝利はというと……一つため息を吐き、縋るような目線を向ける辰巳に向き直った。

 

 

 

「悪いけど、今の君をかばう気は起きないかな。城之内君、本田君。お願いは一つだけ。君たちが、いじめっこにならない程度にね」

 

 

 

「「おう」」

 

 

 

「ひ、ひぃ~~~~!!!!!!」

 

 

 

引きずられていく辰巳。

 

 

「反省したら、ドラゴンデーモンデッキの手伝いくらいはしてあげるよ。あのデッキは、面白いと思うからね」

 

 

バックの中にいる"トリック・デーモン”たちを思い浮かべながら呟いた勝利の最後の言葉は、辰巳に聞こえたかはわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、よく来たね。かけていいよ」

 

「失礼します……あの、ここ校長室ですよね?」

 

「貸してくれたよ」

 

簡単にいう理事長に、苦笑いする勝利。

ふかふかのソファに腰掛けながら、香りのよい紅茶を口にする。

心地よすぎる状況が、逆に居心地が悪かった。

 

「先ほどの彼のことは心配しなくていいよ。もう君たちの前に出てこないように、しっかり言っておいたからね」

 

それは果たして、灸を据えて反省させたという意味なのか。

はたまた、本当にもう会えないよう、学校から消えてしまったのか。

 

少しだけ考えたが、少なくとも自分が口を出すようなことではないと判断して、勝利は苦笑いだけを返した。

 

「そうそう。先日の大会でも、いい結果を残せたみたいだね。噂は聞いているよ。いやあ、自分のことを言われているようでなんだか嬉しい……などというのは、少し図々しいかな」

 

「いえ、そんな……そのように思ってもらえるなら、光栄です」

 

思わず仰々しく返す勝利に、理事長は少し悲しそうな表情で笑う。

 

「……もう少し、頼ってくれたらうれしいんだけどね。私は、本当に君のことを家族だと思っているんだ」

 

「そんなこと……後見人になってもらって、家賃を払ってもらって、助けてもらってばかりですよ」

 

「その家賃だって、大会の賞金ですでに返し始めているだろう。全く……自立できていていい子だと思ったら、手間がかからないという理由で困ることになるとは思っていなかったよ」

 

「あはは……」

 

いつもの楽し気な「くっくっく」の笑いはとてもじゃないが出せず、乾いた笑いを返してしまう。

 

「先ほどの件だってそうだ。もっと早く、私を頼ってくれてよかったんだよ。老いて不相応に上がってしまった『立場』というものは、立場が下の人達を守るために使うのが正しいんだ」

 

「……理事長のお手を煩わせるようなことは」

 

「勝利君」

 

卑下の言葉は、勝利の手を両手で掴む理事長の言葉が遮った。

 

 

「繰り返す。君は、私の家族だ。私はもう二度と、家族の危機に気づくことができない、薄情な人間になりたくはないんだ。わかってくれるかい?」

 

 

「っ!!! はい……ごめんなさい、真黒(まくろ)叔父さん」

 

「ふふっ。ごめんね、謝らせる気はなかったんだ。わかってくれたのなら、いいんだよ」

 

立ち上がった勝利は、真黒の胸に抱かれる。

言葉の深みにこぼれそうになった涙を、堪えるのに必死になって真黒の背中を強く掴む。しかしそれでも、真黒は優しい笑みを崩すことはなかった。

 

 

 

 

「ごめんなさい……あ、いや。ありがとうございます。真黒(まくろ)さん」

 

「うん。どういたしまして」

 

少し赤くなった顔を逸らしながら言う勝利に、満足げに返す。

勝利はそれもまた恥ずかしくなって、出されたお茶を一気に飲み干した。

一息ついて顔の火照りを覚ました後、少しトーンを落とした声を出す。

 

 

「……本題は、これですか?」

 

 

ピクリと、真黒の眉が動く。

そして、笑顔のまま勝利に向き直るが、その表情に驚愕が混じっていることを勝利は見逃していない。

 

「……どうして?」

 

「だって、真黒さんが言ってたじゃないですか。あの辰巳教諭の悪評の確認が、『今日の目的の一つだった』って。本題は、僕ですよね?」

 

「全く、さすがだね。恐れ入る」

 

諦めをつけたような、覚悟を決めたような表情をする真黒に合わせ、勝利も真剣な表情を作る。

今からの話が、生半可な内容でないことをすでに察している。

 

真黒は、テーブルに二つ折りの紙をおく。

ちらと真黒の顔を伺い、取れ、という意図だと考え、その紙を手に取って開いた。

中には、勝利たちが童実野町から少し離れた場所の、住所が記載されている。

中身を見たうえで理解しきれなかった勝利は、真黒の表情をうかがった。

真黒は、ゆっくりとテーブルを離れ、窓の外を見る。

 

 

「……あの、真黒さん?」

 

 

「……許可を得てきたよ」

 

 

振り返らずに一言告げる真黒。

しかし、それでも勝利には伝わらない。

小出しにする真黒に、ほんの少しだけいら立ちを覚えてしまう。

 

 

 

「真黒さん、一体何を……?」

 

 

 

 

 

「君が、(びゃく)に、妹に会う許可だ」

 

 

 

 

 

「っ!!!?」

 

 

 

 

テーブルを思い切り叩き、大きな音で立ち上がる勝利。

聞き間違いではないだろうかと、何度も真黒の言葉を頭で繰り返す。

聞き逃してはいない。意味も分かっている。

しかし、何度繰り返しても信じられなかった。

 

 

 

 

「か、母さんに……?」

 

 

 

 

「休みに、そこに行くといい。そうすれば、白に会える……だが……」

 

勝利に向き直る。表情から、感情は読み取れなかった。

真黒が勝利の肩を、優しく触る。

 

 

 

 

「君が、会いたければ。の話だ。これは、権利であって、義務ではない」

 

 

 

 

「……」

 

口が動く。しかし、声が出ない。

真黒は、勝利をゆっくりと待つ。

 

どれだけ時間がたったかわからないが、勝利がゆっくりと、一言だけ発した。

 

 

 

「……考えておきます」

 

 

 

それだけ残し、勝利は校長室を去る。

真黒は座り込み、深い、深いため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家の、布団の上。

勝利は、握りしめた紙を蛍光灯に透かすようにして眺めていた。

 

(どうするのか……いや、違う。どうするのかは、決まっている)

 

自分が悩んでいることは、はっきりしている。

だからこそ、勝利は解決の策がなく、苛立っていた。

 

(……行く、勇気がない。それだけの話)

 

勝利は、布団から起き上がり、そっと枕元にメモを置く。

座りなおして、顔を上げて虚空を見ながら、思考の海を彷徨う。

 

 

(また、大会が来る。そうすれば、カードの準備に、デッキの調整。本番まで、暇はなくなる。そうなれば……また機会は遠ざかる)

 

 

心うちの数%で、それを望んでいる自分がいる。

それがわかってしまい、心の靄がさらに広がる。

今日、家に帰ってからは、それの繰り返しだった。

 

 

『……ぴぃ』

 

 

『……かぁ』

 

 

友は頭上で不安そうに、苦々しい顔で試行し続ける勝利を見つめていた。

 

 

 

そうして数十分がたったころ。

 

 

『ぴぃ? ピー、ピー!』

 

 

「……? なんだ? ブリザード、どうしたのさ?」

 

突如ご機嫌に声を鳴らし、天井付近を旋回しだすブリザード。

迷惑、にはならないだろうが、それでも普通ではない以上、止めるべきと判断した勝利が立ち上がる。

 

 

 

その瞬間、勝利の電話が鳴った。

めったにならないそれにほんの数秒固まってしまった勝利だったが、切れる前に急いで出る。

 

 

 

「っ! は、はい……」

 

 

 

 

 

『おっそーい! ワンコールで出なさい。ワンコールで!』

 

 

 

 

 

電話の先から響き渡る快音に、思わず耳を遠ざけて笑う。

 

 

「は、はは。ごめんごめん。久しぶりだね、舞さん。元気かい?」

 

『ええ。あんたも元気?』

 

「まあ……ぼちぼちかな?」

 

『ふーん。まあいいわ。早速だけど、あんたも聞いてるでしょ。今度の童実野町の奴』

 

「ああ……なんか、"古の決闘者と石板の刻印が"みたいなやつだよね」

 

舞の話に、勝利が即座に同意を返す。

そう、それこそが先ほど勝利が気にしていた、すぐに来る次の大会の話だ。

 

ネットや専門誌に流れた情報と、先ほどの古めいた暗号のような言葉をまとめると、今度の日曜日に、童実野博物館前で、大規模決闘大会の発表があるとのこと。

 

(舞台の中心が童実野町で、いろんな雑誌や場所を巻き込んでの大会の開催……噂にもなっていたし、やっぱり彼が主催なのかな?)

 

勝利の頭に、我々が集まるのを見て高笑いをする同級生の姿がよぎる。

 

『んで。どうせ童実野町に集まるんだったら、合流しましょ、って話よ。参加するでしょ?』

 

「……うん。そうだね。そうしようか」

 

『……』

 

メモをちらりと視野に入れつつも、断る理由もないと思い、同意を返す勝利。

会話を続けつつも、なんとなく、メモを自分から遠ざけるように指ではじいた。

 

 

「情報は、確かお昼ごろだよね。11時頃に連絡くれたら、迎えに行くよ。舞さんは、どうやって来る予定?」

 

 

自然に会話を続ける。

 

しかし、舞からの応答が突然途絶える。

 

 

「……? 舞さん?」

 

『……ねぇ、勝利。あんた、日曜は朝から空いてる?』

 

「はい? いや、まあ、そりゃあ空いてるけど……」

 

『なら、9時に童実野町駅にいなさい。あたしも、その時間に向かうわ』

 

「……なんで?」

 

 

別に、11時合流でも良いのでは?

集合時間が早まった理由が読めず、勝利の頭が混乱を起こす。

 

 

『どうせ暇なら、童実野町を案内しなさいよ。大会は童実野町でやるみたいだし、先に地理は理解しておくに越したことはないわ』

 

いや、それならば情報解禁の後でも良いのではないだろうか。

というかそもそも……

 

 

(舞さんと休日に二人で街歩きって……)

 

 

 

『……せっかくのデートなんだから、きっちりエスコートしてよね♡』

 

 

 

 

「っ!!!? ちょっと、舞さん!?」

 

『んじゃ、決定ね。9時童実野町駅よ。遅れたら、許さないから。じゃ、まったね~~』

 

「ちょっ、まっ!!」

 

 

勝利の言葉にならない声は、つー、つー、つーという電子音とともに空に溶ける。

勝利は、絶句したまま布団に身を投げ出し、天井を見上げた。

 

 

 

 

 

「……どうしよう」

 

 

 

 

 

『ぴぃ! ぴぃぴぃ! ぴー!』

 

 

 

 

 

天井ではしゃぎまわるブリザードの声が、今日ばかりは煩わしかったのだった。




次回タイトル没案


ブリザード「へえ、デートかよ。頑張れよ、相棒」


没理由:ふざけすぎ
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