遊戯王~黒き羽根は夢に舞う~   作:haruko

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バトルシティ編没案③

アニオリ vsレベッカ

カードは心。という台詞を筆頭に、勝利にも刺さる言葉が多く出てくるアニオリ回
ドーマ編につながる回でもあり、書こうと思っていた。

没理由:別に必須の回でもないし、ドーマ編を書くことになったら追加で書けばいいかなって思って、先送り。



前回のオリキャラとオリキャラ叔父の反応が結構よくてうれしかったです。
オリ主とオリキャラのデュエルに、オリ話ばかりということで少し不安だったので、見ていただいた皆さん、感想、お気に入りくださった皆さん、どうもありがとうございました。


過去と未来 決意とネックレス

 

「……ふわぁ……」

 

来るべき、日曜日がやってきた。

日が変わる前に床についたというのに考えることがありすぎてまるで熟睡できずに、軽いあくびをする。

しかし、これから先にそんな様子で街を回るわけにはいかない。

勝利は顔をパチンと強くたたき、大きく開いた眼で、広場の中央、勝利の頭上にある時計の針を見た。

 

長身が「9」を指す。

8:45。

 

(あの人の案外几帳面な性格を考えると、そろそろ来てもおかしくないな)

 

勝利は、自分の服装を見直す。

黒のサッカー地のパンツに、青のインナーに、グレーのワイシャツ。

無難ないでたち。悪く言えば、面白みのない服。

高校生であることを思えば、別段非難されるような選択ではないのだが……

 

 

「なんだなんだー?」

 

「撮影かなんかじゃねえのか?」

 

 

勝利のそんな黙想を切り裂く、ざわざわとした駅前の喧騒。

よく見ると、大通りのほうに、小さな人だかりができている。

 

 

(まさか……)

 

 

自慢の勘が、警報を鳴らした。

 

 

 

 

真っ赤なプジョーのオープンカーの窓に肘をかけ、広場の前に停車する女性。

サングラスをかけ、金髪の美しく長い髪を靡かせながら時間を過ごすその人の姿に、通りすがりの人は男も女も息を飲み、見惚れていた。

否が応でも人目を引いてその美貌の虜にするその姿は、彼女と出会ったときのことを想起させた。

 

(は、ハリウッド女優が来日したみたいだ……)

 

幸運にも近くで過ごすことが出来たが故に忘れていた、彼女、孔雀舞が、掛け値なしの美人であるという事実を勝利は再認識した。

紫がかった薄手のジャケットが、薄手の白シャツが、隠す胸元を逆に魅力的に強調している。

そして、運転のためにかけていたであろうサングラスを持ち上げる仕草は、女性的な魅力とは真逆のかっこよさを魅せる。

わざと目立とうとしているわけではないのはわかっているが、下心ある男も、その目を持たない女も、誰も彼も、彼女から目を離せない。

そんな、孔雀舞という美しき気高き女性としての全てが、そこにはあった。

 

 

 

 

 

「おっ、もういるじゃない。感心ね」

 

 

 

 

舞がそう一言告げると、その場の視線が一斉に舞を離れ、舞の目線の先、つまり勝利の方向へ向く。それはまさに針の筵だった。

全く返事をしたくなかったが、舞を無視するわけにもいかず、小さな声と手を挙げて反応する。

返事の瞬間に、「あんなのが……」という失礼極まりない呟きが聞こえるが、特に反応せずに舞の傍へと躍り出た。

 

「やあ、舞さん……今日も、舞さんらしくて素敵だね」

 

「……どういう意味よ」

 

「誉め言葉ではあるよ」

 

そういう勝利の腹を、舞が軽く小突く。

そのあと、右側のドアが開いた。

 

「さっ、乗りな。さっさと出るよ。ここは、気分が悪い」

 

舞が先ほどからひそひそと話していた男たちを一睨みしていう。周りから情けない声があがった。

元々気にもしていなかったが、舞のその様子に少し笑顔で頷いた後、逆側に回る。

 

 

「……ちなみに、高級外車に乗る作法ってある?」

 

「フロントに足かけて座る気? 馬鹿言ってないでさっさと乗りな」

 

 

勝利が乗り込むや否や、サングラスをかけなおし、華麗なシフトチェンジとともにアクセルを踏む。

車が軽快な音を鳴らして走り出した。

 

 

 

 

 

「で、あいつらは元気?」

 

「ああ、みんな元気だよ。すでにスーパーエキスパートルールでのデッキも組み終わっているし、調整も万全さ……城之内君を除いて、だけどね」

 

「あいつ、まだデッキ出来てないわけ?」

 

「いや、僕と遊戯君の監修で何とかデッキは組めたんだけど、城之内君がどうにもルールに慣れてくれなくてね。ルール違反のせいで墓地に消えていく真紅眼の姿を何度見たことか」

 

「……ほんと、あの男に負けたのが情けなくなってくるわ。竜崎が泣いてんじゃない?」

 

潮風を受けながら海沿いを走っていた際に、ふと王国の船出を思い出し、思い出話に耽る二人。

遊戯たちの話、デッキの話、次の大会の話。

どちらが気を遣うわけでもなく、沈黙に焦るわけでもない。

 

ただ、心地よいだけの時間が流れ、先日まで悩み苦しんでいたのが嘘のように、勝利の笑顔の時間が増えていく。

 

それを見て、舞はさらに上機嫌に愛車を飛ばす。

 

 

 

「さっ。まずはどこに行くの? あんたのデートプラン、見せてもらおうじゃない」

 

「……まったく、それのせいでろくすっぽ眠れなかったんだからね。なら、このまま真っすぐ行ってくれる? おいしいパスタを出す喫茶店があるから、そこで朝ごはんにしようよ。パスタ、好きだったよね?」

 

「……よく覚えてるわね」

 

「でしょ? 100点もらえるかな?」

 

「……その発言で減点よ。80点かしら」

 

 

 

二人の笑い声が、風を切った。

 

 

 

「うーん。トマトがフレッシュ! なかなかやるじゃない、ここのペンネ!」

 

「気に入ってもらえて何よりだよ」

 

舌鼓を打つ舞のリアクションに満足して、勝利は自分のパスタをすする。

海沿いの店なだけあり、海鮮の味が実に絶妙で、料理にうるさい勝利も納得の味だった。

 

ちなみになかなかの広さの店構えで、繁盛しているであろうことは味からも察せるが、時間帯の兼ね合いか客は満席とは程遠い状態であった。

おかげで気楽に食事ができる、と思っていたが、舞の美貌はその少数の客の視線を根こそぎ集めていた。

 

(……もう諦めよう。僻みの視線は、役得の証拠でもあるんだ)

 

ため息を押し殺した勝利は、二口目のパスタをすすろうとしたところ、客の視線とはまた種類の違う視線に気づく。

 

「……どしたの、舞さん?」

 

「あんたも美味そうに食べてるわね。結構グルメなくせに」

 

「? 実際美味しいからね」

 

何の話? と言わんばかりの表情の勝利。

だが、次の瞬間、その表情は一変する。

 

 

 

 

「あーん」

 

 

 

 

「ぶっ! ま、舞さん!?」

 

勝利が噴き出しかけたパスタを必死に飲み込む。

 

「あんたがそれだけ言うパスタの味が気になるのよ。さっ、早く。あーん」

 

店の奥のほうで、がたん、という音が鳴る。何かどたばたとしている音もする。

視線を向け、聞き耳を立てていた店のほかの客が今どんな動きを、どんな顔をしているのか……

気になるものの、なんとなく顔を向けたくなかった勝利は、目の前に集中する。のだが……

 

 

(い、いろっぽすぎる……)

 

 

軽く目を瞑り、口を開けて待機する舞。

その表情はあるいは、勝利を意図的に誘惑して揶揄うときの舞よりも遥かに妖艶さを感じさせた。

自分が動くまで舞が動かない。

謎の支配感すらも感じさせる状況。しかしその実この場を圧倒的に支配しているのは紛れもなく舞だった。

 

ほんの数秒の硬直。

そして、勝利が観念し、自分のフォークで巻いたクリームパスタを差し出す。

 

 

「あ、あーん……」

 

「んっ。んん、美味し」

 

 

飲み込み、口を整えてから笑う舞。

その表情に、勝利は腰砕け寸前だった。

 

(まずい……完全に舞さんのペースだ)

 

舞にイニシアチブをとられている。

このままでは、ダメだ。

何がはわからないが、そんなことを考える。

 

(せめて、お返しをもらって五分五分ということに……)

 

 

勝利はそう思いいたり、言葉を頭に思い描く。

 

 

 

舞さんのも美味しそうだね。

 

料理の研究のためにも、ぜひ食べてみたいな。

 

舞さんも僕のを一口食べたんだから、お相子だよね。

 

 

 

自然を装った言葉を数個浮かべるがしかし、思うように口が吐かない。

 

またも数秒、硬直が挟まる。

それが解けた瞬間の勝利よりも、一瞬早く舞が動いた。

 

自分のフォークで、ペンネを2つほど突き刺し、勝利に向ける。

勝利の心臓の鼓動が、跳ね上がる。

 

 

 

 

 

「はい、勝利。お返し。あーん」

 

 

 

 

 

「~~~~~~~!!!!!?」

 

 

 

 

もう平静を装うことが出来ない勝利は、顔を真っ赤にして声にならない声を上げる。

頭からは煙が出んばかりの様相だった。

 

にやにやと笑いながら見つめる舞に、感情がいくつも押し寄せてきて後ろに倒れこみそうだった。

 

とどめとばかりの舞の、

 

「いらないの?」

 

の一言に、思考が爆発した勝利が観念したように顔を近づけ、フォークを口にする。

 

 

「美味しいでしょ?」

 

 

舞の声を聴きながら、ゆっくりと咀嚼していく。

もはや味は遠い彼方だが、「……美味しいです」の声だけ必死に絞り出した。

 

 

勝てない。

何かわからぬものに、完全敗北を悟る勝利だった。

 

 

 

 

 

 

その後、必死に落ち着きを取り戻しながら料理を完食した勝利。

同じくして舞もフォークを置き、口を整えた。

時間は11時の少し手前。

軽くドライブして戻りながら、童実野博物館前に到着する予定にちょうど良い時間になっていた。

 

「うん。じゃあ、出ようか」

 

そういって、伝票を抜く勝利に、舞は目を丸くする。

 

「ちょっと、よこしなさいよそれ。おとなしくお姉さんに奢られておきなさい」

 

「だめ。せっかくのデートで、僕がエスコートするんでしょ? 払わせてよ、これくらい」

 

これくらいさせてくれないと、食事中にもてあそばれたプライドが回復できない。

という言葉は、心の中にとどめておく。

 

譲る気のない勝利に、舞はあきらめたように苦笑をこぼす。

 

「光栄に思いなさいよ。あたしに奢れる人間なんて、そうそういないんだから」

 

「もちろん、わかってるよ。だから、譲れないのさ。ここは」

 

 

そういって、勝利はポケットの財布を取り出す。

 

 

その時、ポケットからか財布の中からか、ひらりと一枚の、二つ折りの紙が床へと舞い落ちる。

 

 

 

「勝利? なんか落ちたわよ」

 

レシートかなんか? と舞が続けようとしたその瞬間に、

 

 

 

 

勝利の足が、その紙を即座に抑えた。

 

 

 

 

拾ってやるために屈もうとした舞が、思わず手を引く。

それを見て勝利は、はっとして、すぐに紙を拾いあげ、舞に向き直る。

 

 

「ご、ごめん! 舞さん。つい、反射で足が……」

 

「……別にいいわよ。それくらい。気にしないで」

 

 

すぐに許しを出してくれた舞にほっとして、会計に戻る勝利。

何事もなくてよかった。という安堵のせいか、珍しく、『勝利が表情をこわばらせたこと』を『舞が気づいたこと』に気づかなかった。

 

しかし舞もすぐに表情を戻し、笑顔で勝利と横並びに店を出る。

 

(なんかはある……けど別にあたしは、勝利を追い詰めに来たわけじゃないもの)

 

 

 

 

 

「さあ、舞さん。行こうか。童実野博物館前に」

 

「……ええ。そうね」

 

 

 

 

 

車のエンジン音は、変わらず軽快だった。

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、ここね」

 

「うん。ここが、童実野博物館だ」

 

時刻は11:30。完全に予定通りだった。

勝利たちが車を降り、博物館が見える場所まで歩いていくと、そこにはすでに、少なくない人数が集まり、談笑していた。

舞と勝利がその人ごみの真ん中に現れたとたんに、その談笑は一気に声を潜め、次第に黙りだした。

 

決闘者王国のファイナリスト。

すでにそのネームバリューは、全国の決闘者に轟いていている。

 

警戒の意志と、挑戦的な殺気が、ビシビシと伝わってくる。

 

 

「……これはこれで、鬱陶しいわね」

 

「まあ、仕方ないよね。無駄に……とは言わないけど、僕らは名が売れてしまった。それに、悪い事ばかりじゃないよ。これだけ意識を向けてくれれば、優秀な決闘者はこちらも見えてくる。ほら」

 

歩きながら勝利が人だかりの一点を指さす。

そこにいたのは、インセクター羽蛾。エスパー絽場。そして……

 

「おっ。梶木君もいるね……やっぱり、彼もいた」

 

最後に勝利は、嬉しそうな声で目線を一点に注ぐ。

 

 

その視線の先にいたのは……ダイナソー竜崎。

 

 

「……」

 

声は出さない。だが、はっきりと目が合う。

時間にしてほんの数秒だった。

 

そして、二人は一言も発することなく、同時に視線を切った。

 

 

 

その様子を見ていた舞が、軽く勝利の頭を小突いた。

 

「いたっ!? なんで!?」

 

「……別に。なんかむかついた」

 

「なんで!!?」

 

理不尽だ。

そう呟く勝利を無視するように舞が進み、そのあとに勝利が着いていく。

 

 

 

そんなことをしているうちに、二人は、本命を見つけた。

 

 

 

「あっ! いたいた!」

 

「……まあ当然、いるよね。遊戯君!」

 

 

 

遊戯と杏子。

横並びの二人に、舞が大きな声をかける。

 

 

「舞さん! 勝利君!」

 

 

「久しぶりじゃない!」

 

「舞さん、元気そうね!」

 

ひとしきり再開を喜んだあと、杏子と舞がひそひそと話す。

 

 

「杏子、遊戯とデートかよ。やるじゃん!」

 

「そ、そんなんじゃあ……」

 

「照れんな照れんなー! あははー!」

 

背中をビシバシとたたかれる杏子は、恥ずかしいやら悔しいやらでいっぱいになる。

ひとしきり舞に笑われた後、仕返しと言わんばかりに悪い笑みを浮かべた。

 

 

「ま、舞さんだって……勝利君とデートなんじゃないの~?」

 

 

誤魔化す。照れる。

そうしたら、負けじと揶揄ってやる。

 

そんな杏子の邪心を、すっと切なげな顔を作った舞が打ち壊した。

 

 

「…………まあね♡」

 

「!!!!?」

 

人差し指を口にそっと添える舞。それに、さらに顔を赤くする杏子。

 

「諦めな、杏子ちゃん。女としての舞さんにゃあ、誰も勝てないよ」

 

「~~!? 悔しい……」

 

「あっはっは!」

 

上機嫌に笑う舞。

和やかに会話を続ける最中、遊戯が険しい顔で会話を切った。

 

 

 

「ところで舞、勝利君も……ここへ何をしに来たんだ?」

 

 

 

「はっ?」

 

「……くっくっく。すごいね。面白すぎだよ、遊戯君」

 

笑っていた舞の表情は一気に間の抜けた驚きの顔に変わり、対照的に勝利が笑い出す。

杏子も遊戯も、訳が分からないといった様子だった。

 

「遊戯……あんた、例の情報を聞いてきたんだろ……?」

 

「情報?」

 

舞の確認の言葉にも、惚けた様子もなく真面目に疑問符を返す遊戯に、舞は驚愕の事実を確信した。

 

「あんた、何も知らずにここへ?」

 

「すごいね。やはり遊戯君には、デュエルの神の寵愛か、並外れた決闘者としての本能がある」

 

言いながら勝利は、周りを見ろ、と言わんばかりに目線をやる。

遊戯も、それには気づいていると答えるように、勝利に合わせて目を動かした。

 

「ここに殺気丸出しの決闘者たちが集まっているのも、偶然じゃないってわけか」

 

「そういうことだね。数日前に、情報が流れたんだよ。どこからともなくね」

 

「……発信源不明の、しかし、事実性の高い情報。ここ、博物館の前で、大規模な決闘大会の発表があるってね」

 

「大会……なるほど。その情報を聞きつけて、決闘者たちが集結したってわけか」

 

納得するように言葉を発した遊戯に、舞はあきれ、勝利はまた笑う。

 

「全く。決闘の腕だけでとんでもないのに、この天運。あきれるしかないわね」

 

「まあ遊戯君の不参加を彼が許すとは、思えないけどね」

 

 

 

勝利はその言葉とともに、広場に止まるリムジンに目線を映す。

大きなアタッシュケースとともに、不遜な態度を取り繕うともせずに現れたその男は、こちらを、というより、遊戯をじっと睨みつけた。

 

 

 

「海馬……」

 

「あの男が、今回の情報を流したって、もっぱらの噂だよ」

 

「童実野町を舞台にする大会で、彼が嚙んでいないとは思ってなかったけど……なるほど、そもそもKC主催の大会だったってわけだ」

 

面白い、と勝利が呟いた後すぐに、海馬は声を張り上げた。

 

 

 

「決闘者諸君! よく聞け。明後日、この街において、M&W決闘の大会を開催する!」

 

 

「うぉーーーーーーー!!!!」

 

「おっしゃーーーーー!!!!」

 

海馬の言葉に、血沸き肉躍る、飢えた決闘者たちの雄たけびが上がる。

素振りを魅せてはいないものの、舞も、高ぶりを抑えきれてはいなかった。

 

「決闘者の参加条件は2つ! 一つは、レアカードを含めた40枚のデッキを用意すること。そして……この次世代決闘盤(デュエル・ディスク)を所有することだ!」

 

「次世代決闘盤(デュエル・ディスク)……」

 

「……あの王国でも使っていた機械が、進化したんだね。おそらく、スーパーエキスパートルールに合わせる形で……」

 

「さらに、今大会ではレアカードのアンティルールも採用している!」

 

 

海馬のさらなる追撃に、勝利は少しだけ眉をひそめた。

しかし、勝利のようなものは少数派で、自分の勝利を疑わない決闘者たちは沸きに沸いた。

 

 

「つまり、優勝者が最も多くのレアカードを手に入れることが出来るのだ!」

 

 

「うおおおお! スゲーーーー!」

 

 

「場所は! 場所はどこなんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

「戦いの舞台は、この童実野町全域! 2日後……この町はバトル・シティと化す!」

 

 

 

 

 

 

 

「さて……どうしようかね」

 

遊戯たちと別れ、舞の車へと戻った二人は、これからの動きを話し合う。

 

「どうするもこうするもないわよ。目標は一つ。参加資格を手に入れる」

 

燃える舞に、勝利は笑顔になる。

参加資格、つまり、決闘盤(デュエル・ディスク)をゲットすること。

 

「だよね……なら、カードショップに行こう。一件、童実野駅前に店があったのを覚えてる」

 

「でかしたわ。行くわよ」

 

すぐさま車に乗り込んだ二人は、勝利の案内の元、童実野通りを不似合いな高級車で駆け出す。

 

 

「……アンティルールか」

 

「……まあ、好きじゃなさそうね」

 

外を見ながらつぶやく勝利に、舞はやれやれといった表情で言葉を添える。

 

「……うん。当然ルールには従うよ……でも、はっきり言えば、嫌いなルールだ」

 

「楽しい決闘が信条のあんたには、ある意味厳しいルールかもね」

 

カードゲームにおいてはそう珍しいルールではない。

特にM&Wはベーシックルールにアンティが存在するタイプのゲームであるため、カードへの向き合い方の一つとしては受け入れるべきだということもわかっている。

 

しかし、認められない。

意固地で、拗ねた子供のように。

あるいは、苦しさに慣れた大人のように。

 

勝利は無言で、外を眺めていた。

 

 

でも、と一言おいて、舞が言う。

 

 

 

「勝ち抜かなかったら、許さないわよ。あんたには、上がってきてもらわなきゃならないのよ。あたしとの、再戦の舞台にね」

 

「……」

 

舞の熱い宣言。

しかし、勝利に応答はない。

運転中の舞に、助手席の勝利の表情すべては伺えなかったが、ルームミラーにちらと移る勝利の瞳は、舞の宣戦布告を喜ぶそれには見えなかった。

 

 

(そうだ……舞さんと、城之内君と、遊戯君と、みんなと……全力で、戦うんだ。そのためにも……)

 

 

険しい顔で、考え込む勝利。

 

空気を察してか、言葉をひっこめる舞。

 

 

 

 

 

目的地の到着まで、会話は途切れた。

 

 

 

 

「……勝利、勝利! ついたわよ」

 

「っ! ご、ごめん」

 

車のドアを開けることで、上の空の勝利を無理やり車から引きずり出す。

勝利がようやく顔を上げるとそこには、確かに、『トレーディングカード』と書かれた看板があった。

 

「ここでしょ?」

 

「……うん。ありがとう」

 

つれない言葉で返してしまったことをごまかすかのように、そそくさとカード専門店に入店する。

中はそう広いわけでもないが、カードの品ぞろえや店構えはなかなかのものだった。

 

「いらっしゃいませ~」

 

奥から店員の声が聞こえる。

店の奥に目をやると、無精髭と丸メガネが特徴的な店員がにっこりと接客をしていた。

 

 

「ねえ、店員さん。決闘盤って、ここに置いてある?」

 

「ああ、KCから出た奴だよね。おいてあるよ」

 

 

舞の言葉に即座に反応し、後ろの棚から在庫を取り出す。棚を除くと、まだ箱の枠はすべて埋まっているように見えた。さすがに我々が最速の客だったということだろう。

 

「直行した甲斐はあったみたいね」

 

「一番乗りできるとはね。さっきの発表の注目度からいってちゃんと手に入れられるか不安だったけど、早めに決断してよかったよ」

 

「まあ、実は君たちの前にも、2,3人決闘盤(デュエル・ディスク)を売ってくれって客は来てるんだけどね。せっかくの大会のための商品だから、ただコレクションするだけの人たちに集まってしまわないよう対策しているのさ。君たち、名前を聞かせてもらってもいいかい?」

 

「何よ、藪から棒に」

 

店員のその発言を聞いて不審がる舞だったが、その横で勝利は、「なるほど……」と呟いた。

 

 

「全く、理にかなってはいるけど……海馬君のやりそうなことだね。『黒羽勝利』」

 

「……。『孔雀舞』よ」

 

 

何か察したような様子で簡単に名前を伝えた勝利に倣うように、舞も名前を告げた。

 

 

「『黒羽勝利』、『孔雀舞』……ああ! 君たちがあの王国のファイナリストの! すごい有名人じゃないか! デュエリストレベルも文句なし! 二人とも『7』だ!」

 

「デュエリストレベル?」

 

「……はあ。そうやって、決闘者の実力やデータをリストアップしているってわけだ。確かに、王国であったときに、会社のデータベースに僕の名前が入っているって言ってたからね。要するに、海馬君のお眼鏡に叶う決闘者でなければ、今回のバトルシティに参加することすら許されないわけだ」

 

「……すごいね、君。君の言う通り、KCからの通達でね。レベル5以上の決闘者しか決闘盤(デュエル・ディスク)を所有することが出来ないらしい。大会規定でね。さあ、二人には決闘盤(デュエル・ディスク)進呈だ!」

 

海馬の横暴っぷり、そして、新型のゲーム機を、大会で使わせるためとはいえタダで配るその大物っぷりに、勝利と舞は乾いた笑いをすることしかできなかった。

 

 

 

(……こいつが、黒羽勝利……そして、こいつの持っているカードこそが、あのペガサスでさえも欲したという『BF』カード……)

 

 

 

いろんな想いが頭を渦巻く状態で、さしもの勝利でもその悪意に気づくことはできなかった。

 

 

 

 

 

その後、決闘盤(デュエル・ディスク)をもらった後にパックを数セット買った二人は、店の外で開封を行った。

 

「どうよ。勝利?」

 

「うーん。悪くないカードたちだけど、僕のデッキには合わないかな。そうだ、このカード舞さんが持って行ってよ。舞さんに似合うし、デッキにも合うと思うよ」

 

「あら、ならトレードにしましょ。あんたにこれ、分けてあげるわ」

 

「えっ? いいの? このカード、結構なレアカードだよ。しかも、鳥獣モンスターなんだから、舞さんのデッキにも入れられるカードだし……」

 

「いいのよ。あんたの『BF』デッキはただでさえ上級が少ないんだから。足しにしなさい」

 

「……ありがとう」

 

 

 

 

カードのトレードを終えた二人は、ひとまず今日という日の目標を終えたことで、ほんの少しの虚無感を背中に感じていた。

なんとなくそのまま車に乗る気にならず、荷物を車に積んだ後、どちらからともなく通りのほうへ歩き始めた。

 

 

舞は、勝利のほうを見る。

先ほどは横目でちらとしか見ることが出来なかった表情を、今度はしっかりととらえた。

 

 

今日という1日。『デート』と言って呼びつけた1日を楽しんでいたのは、自分だけではないと信じたい。

 

 

しかし、その1日の最後に横並びに歩く男の顔は、名残惜しさを感じさせるものではなかった。

むしろ、ともに時間を過ごせば過ごすほど何かに追い詰められていくような、そんな、苦し気な、険しい表情だった。

 

(勝利……)

 

勘が鋭い、と自負する彼だというのに、自分の視線に気づくこともない。

ただ、遠くのほうを見て、歩いている。

 

 

(2日後……2日後にはまた、厳しい戦いの日が始まる。そうなれば……)

 

 

ポケットの中に突っ込んだ手から、くしゃりと小さな音が鳴る。

それに合わせて、勝利の表情はさらに少し強張った。

 

 

余裕がない。

それは、誰が見てもわかる有様だった。

 

 

だからこそ、とっさに手を掴み、ポケットから引きずり出した舞の行動に、反応すらできなかった。

 

 

「ちょ、ま、舞さん! どうしたの!?」

 

「次よ! 次々! 次の店に行くの!」

 

突然の舞の行動に、表情を一気に崩して狼狽える勝利。

しかし、そんな勝利を一瞥もせず、がっしりと手を掴んだ舞は、そのまま歩き出す。

 

「ま、舞さん! 痛い! 待って、手が、ちぎれる!」

 

「うるさい! まったく、今のあんた、0点よ0点!」

 

「っ! ごめん……」

 

言われたことに自覚があった勝利は申し訳ない想いでいっぱいになり、ただただ謝罪を告げる。

そんな勝利に、舞は自分の頭を掻き、「あ~、もう!」と一つ叫ぶ。

 

 

 

「……別に、そんな顔してほしいわけじゃないわよ……全く、せっかく朝から連れ出したってのに……サイテーね」

 

 

 

舞が足を止め、勝利の手を離して少し肩を落とす。

失敗した、と呟くその姿を見て、勝利はというと……呆けた顔で固まっていた。

 

 

(……まさか、昨日の電話で……僕が気落ちしているってことに気が付いて。僕を、元気づけるために今日のデートを……?)

 

 

そんな馬鹿な、という言葉が声になりかけたのを必死に抑え込み、舞を見る。

 

ふふっ。冗談よ。

 

そんな風に、笑うのではないか。

そう思って、舞の表情を覗き込んだ。

 

頬は、ほんのりと赤く、それでいて、目は伏せている。

その顔は、恥ずかしく、照れている顔に見えた。

 

 

 

その顔に、勝利は負けじと顔を真っ赤にした。

 

 

 

逸る心臓を必死に押さえつけようとするが、鳴りやまない。

鼓動が、舞に届いてしまうのではないかと不安になった。

 

 

 

 

 

 

「ふぉっふぉっふぉ。そこのお若いカップルさん」

 

 

 

 

 

「「っ! カップルじゃない!」」

 

 

 

 

突然の横やりに、勝利と舞が声を合わせて反応する。

二人の目の前には、古臭い敷物にいくつかの石や貴金属を並べた、長い白ひげ垂らした古ぼけた爺が座っていた。

 

「な、なによあんた?」

 

「今日という日の記念に一つ、何か買っていかないかね?」

 

舞のセリフを無視した爺が、両手を広げ、ひざ元の石たちを魅せる。

どうやら、露店商のようだった。

 

「この石はねえ、わしがイギリスを旅していた時に、王家の末裔の方から譲り受けた、代々まつわる宝石が埋め込まれたブローチじゃよ。ホレ、古いがまだ光っておろう」

 

高々と掲げられたブローチを見ると、確かに中央に宝石、らしきものが光っているのが見えるが、大半がくすんでいて光っている部分もある、という言い方が正しい。

 

「う、うさんくさ……」

 

勝利が思っても言わずに飲み込んだことを、舞が口に出す。

苦笑いしながら、お詫びとばかりに品をしっかりと見て、話を聞く。

 

「ま、まあまあ。結構、きれいなものもあるし、意外と掘り出し物もあるのかもよ。ちなみにだけどお爺さん、そのブローチはいくらなの?」

 

「そうじゃのう……ま、5万ってとこかの?」

 

その価格に、少しだけ味方をしてあげようとした勝利の顔は一気に引きつり、舞の訝し気な顔はより一層険しくなった。

 

「……行くわよ。勝利」

 

(……うん。こりゃあ、ダメだな。さっさと離れよう)

 

 

 

 

そう考え、一度はしゃがみ込んだ勝利が腰を持ち上げようとしたその時。

勝利の目に、爺の足元の商品が目に入る。

 

 

 

 

「……お爺さん。その、ネックレスは?」

 

「ちょ、ちょっと、勝利?」

 

勝利が指さしたものを、爺は持ち上げ、じっくりと覗き込んだ。

二つの翼を両側に開いたようなデザインに、中央に体、らしきパーツ。その中央には、くすんでいるのかはたまたもとよりその色なのかわからない、赤黒い宝石があしらわれていた。

 

 

「うーん。なんじゃったかの。エジプト……いや、南米の遺跡で手に入れたもんじゃったか……うーん」

 

「……うさんくささの上塗りね」

 

 

あきれた声で貶す舞。

しかし、勝利はそんなやり取りすら聞こえていないのか、爺の持つそのネックレスにくぎ付けになっていた。

 

 

それを見て、嬉しそうな爺。

そして、それを見て、深いため息を吐く舞。

 

 

「爺さん。そのネックレス、いくら?」

 

「そうじゃのう。出所も思い出せん代物じゃあ、いい値段はつけれんし……5千円でいいぞ」

 

「なんでこんな胡散臭い商売で、そんなところ律儀なのよ……しかもまだ高いし。まあいいわ。はい、それよこしな」

 

「っ! 舞さん?」

 

勝利が止めるよりも先に舞は金を払い、ネックレスを受け取る。

そのまま有無を言わさす勝利を引き連れ、露天商を後にした。

 

「またきてね~」

 

満面の笑みの爺が、彼らを見送った。

 

 

 

 

「……いいの? 舞さん」

 

ネックレスを受け取った手をそのままに、舞に尋ねる勝利。

しかし舞はなんでもないように、しっしと手で払うように返す。

 

「あたしにつけろっていうの? こんな重い雰囲気のアクセサリー、あたしには合わないでしょ」

 

その言葉に、勝利はネックレスを見つめたまま止まる。

そうした勝利を少し見つめた後、舞はネックレスを、勝利の首に回した。

 

 

 

「うん。目立ちすぎるかと思ったけど、あんた意外とシルバー似合うわね」

 

 

 

それをつけた勝利を見て、舞が笑う。

それにつられ、勝利も笑った。

 

 

 

 

「ちょっとは、気晴らしになった?」

 

 

 

 

言われて、勝利ははっとする。

舞は、優しい顔をしていた。

 

 

 

「なんで、わかったの? 僕が、悩んでいるって」

 

 

 

「わかるわよ。たった3日やそこらだけど、王国でずっとあんたといたのよ。それこそ、あんたの感情も表情も、全部見てきたんだから」

 

 

 

舞は、表情を崩さなかった。

優しい、舞の表情のままだった。

 

 

 

……聞かないの?

……気にならないの?

 

 

……どうして、そこまでしてくれたの?

 

 

 

 

聞きたいことは、山ほどあった。

しかし、どれも言葉にならない。

 

 

 

やがて何かを察したのか、舞が少しずつ言葉を紡ぎ始めた。

 

 

「いい? 勝利」

 

 

舞の言葉に、勝利の体が跳ねる。

 

 

 

 

「あたしは、あんたたちに教わった。たとえ、戦っているのがほかの誰かでも、想いあえば、それは戦っている者の力になるってことをね」

 

 

 

 

舞は、勝利の胸に光るネックレスを、指でついた。

 

 

「それは、あたしよ。あたしが、あんたの味方である、証」

 

 

勝利の心臓が、一回、大きく鳴る。

ネックレスを通し、舞が、勝利を打ち鳴らしたかのようだった。

 

 

 

 

「あんたが、どうしようもなく苦しくて、辛いときは。そのネックレスを握りしめて、あたしのことを思い浮かべなさい。そうしたら、あたしが、あんたの心を助けてあげる」

 

 

 

ね? と言って、軽く肩をたたく舞。

 

 

 

そのまますれ違い、戻るわよ。と言って、車へと歩いていく。

 

しかし、勝利は、一歩も動けはしなかった。

 

 

 

 

 

 

勝利の瞳に、涙が浮かぶ。

 

すっと流れた最初の一滴は、隠すことも、拭うこともできずに、地に落ちた。

 

 

 

 

 

心の中で絡まっていた糸が、優しくほぐれていく感触があった。

 

 

 

 

 

 

(そうか……僕は、向き合いたかったんだ。過去に……そして、王国のあの時、過去を何も聞かずに、受け入れてくれた舞さんに)

 

 

 

 

 

『あたしにとっての黒羽勝利は、孤独な、絶望の象徴じゃない』

 

『あなたは、独りじゃない』

 

『みんな、あなたが大好きなんだから』

 

 

 

 

(あの時、僕を受け入れてくれた舞さんの優しさに、報いたかったんだ)

 

舞の言葉が、一言一句違わず、勝利の耳に、体に、心に蘇る。

 

 

 

(向き合わずに、舞さんと対等に戦えないと思った。言わずとも、受け入れてくれる舞さんだからこそ、そのまま、向かい合いたくなかったんだ)

 

 

 

 

 

舞さんが、僕にとって。

 

 

 

 

 

誰よりも、大切で、かけがえのない人だから。

 

 

 

 

 

だからこそ。

僕の秘密を、うやむやにしたまま。決闘の瞬間を迎えたくなかったんだ。

 

 

 

 

 

勝利は、ネックレスを握りこんだ。

そして振り返り、舞を見た。

 

 

舞の背中は、大きかった。

思わず、駆け出して、抱きしめ、泣きつきたくなってしまった。

 

 

 

 

 

(『……どうして、そこまでしてくれたの?』 だって? 馬鹿か、僕は。そんなことまで言わせてしまったら、僕はもう、一生舞さんと対等に並び立てなくなる)

 

 

 

 

 

 

勝利は、ネックレスをそっと離す。

決意は、固まった。

 

 

 

 

 

 

 

「舞さん…………一つ、お願いがあるんだ」

 

 

ようやく絞り出された、勝利の言葉に、舞が振り返る。

 

 

勝利は、ポケットから、くしゃくしゃの紙を一枚取り出し、舞に差し出す。

そこには、住所が書いてあった。

 

 

「この後、もう一か所。僕に付き合ってほしい」

 

 

勝利は、深く、深く呼吸をして、一言告げた。

 

 

 

 

「僕と、僕と一緒に、母さんにあってほしい」

 

 

 

 




次回は2月3日の投稿となります。

前にもありましたが、連続投稿が続いている場合は基本3の倍数日に投稿しますので、月跨ぎの際に日がズレます。
よろしくお願いします。
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