……黒いような、紫がかっているような曖昧な空間の中で、勝利は一人佇んでいた。
景色が、液体のように混ざり、蠢いている。
これが、キースの心の中なのだろうか……
暗くとも、息苦しさを感じなかった遊戯の心とは、まるで違う。
重い空気が、全身に纏わりついて離れないような、そんな感覚が終始勝利を押さえつける。
闇に、手足を拘束されて、空に放り出されているような感覚だった。
『ぴぃー!』
ハッとした勝利は、伏し目がちだった瞳を見開いた。
そこには、いつもの表情で勝利の視線の先で必死に羽ばたくブリザードの姿があった。
「ブリザード……一緒に来てくれたのか……」
『ぴぃ。ぴー!』
身を翻し、先に飛んでいくブリザード。
一瞬引き留めようとした勝利だったが、その様子を見て、路地裏へと羽ばたいていった先ほどのブリザードの様子を思い返す。
(もしかして……キースの何かを感じているのか……? だから、最初も廃倉庫の元まで真っすぐ飛んでいくことが出来た……)
悩む勝利。しかし、固まっている時間は一瞬だった。
「……行くしかないか」
淀む空気。みるみる重くなる体。
右も左もわからず、感じている上と下が正しいのかもよくわからない。
そんな状態での唯一の道標は、先を行ったブリザードだけだった。
勝利は駆ける。
友の心が呼ぶ方へ、真っすぐに走る。
時間も、距離もわからない。
そんな場所で、ブリザードと勝利は止まった。
駆け出した場所から、何一つ、景色も空気も変わりはしない暗闇だった。
「……ブリザード。ここでいったい何を……っ!?」
言いかけた言葉を、勝利はしまった。
否、言葉をしまったのではない。言葉を、失ったのだ。
突如目の前に現れた、バンデット・キースの姿に、勝利は絶句した。
「……キース」
目は虚ろ。
無精ひげは勝利が知るそれよりももっと荒れた様子で、服も先ほどまでの記憶のそれよりもっとボロボロで煤けていた。
違うところを上げていけばキリがないが……それでも、勝利にはわかる。
それは、バンデット・キースだった。
「……キース。あんた……」
そっと、勝利が手を伸ばす。
しかし、キースに触れるため伸ばしたその手は、想定外に空を切った。
キースの体を、透過したのだ。
「……なんだ……これ?」
何が起こっているのか。
しかし以前虚ろな表情のまま、自分を見ないキースを見て、少なくともこれが普通のキースではないことを察する。
一体、これは何なのか。
勝利が推理を形にする前に、答えは出た。
『失せろ! 負け犬』
勝利の後ろから、キースに、罵声と、ゴミの塊が飛んだ。
勝利が振り返るとそこには、少年少女、青年女性、老若男女、数多の人が円になり、勝利たち……いや、キースを囲んでいた。
勝利が前を向くと、いつの間にか前にも同様の景色が広がる。
360°憤怒を、嫌悪を、嘲笑を抱えた人々が、それらをキースに投げかけた。
『バーカ』
『期待外れ』
『決闘者の恥』
『何がバンデット・キースだ』
適当な語彙から、本気で傷つけようという意志すら感じ取れる罵倒まで、ありとあらゆる言葉がキースに吐き捨てられる。
どれもこれも、勝利の知るキースならば一瞬で怒りの声を上げることになるであろうそれにしかし、キースはピクリとも動こうとしなかった。
キースがほんの少し顔を上げる。
その表情を正面からとらえた勝利は、吐きそうなほどに湧き上がった不快感を必死に押しとどめた。
その表情を見て、なぜ、キースが何も言い返さないのかを察した。
その表情は、幾度となく見たことがあった。
鏡だ。
一番嫌いだったころの、自分の顔にそっくりだった。
(……諦めの境地……ここがキースの、地獄の底ってことか)
キースの心の中。
この場所が、自分の求めた場所であることを確信した。
苦い顔を振り払い、もう一度歩き出す。
(この中に……心の中に、本当のキースがいるはずだ……)
「……ブリザード」
「ぴぃ!」
二人は、駆け出した。
走り出した二人の周りを、様々な景色が駆け巡った。
『ハハハ! 俺の勝ちだ!』
ギャンブルに興じるキース。
『けっ! てめえはそこで死んでな』
人を騙し、引きずり落とすキース。
『……ぜってぇ、このままじゃ終わらねえぞ……!』
命がけで自分がいる地獄から這い上がろうと、決死の想いでもがくキース。
幾度となく目に、脳に飛び込んでくるそれらの光景が生み出す既視感。
それによって勝利の心はどんどんと疲弊していく。
いったん立ち止まり、額の冷たい汗を拭う。
『……ぴぃ』
「大丈夫さ……まだだ。まだ……会えていないだろ」
ふぅ。と大きく息を吐き、思い切り息を吸い込む。
最初から変わらず、決して気持ちいい空気ではないが、今の勝利の回復には必要な行動だった。
さあ、と勝利が意識を切り替えようとした瞬間に、再び景色が変わる。
360°の、青と水平線。
そこは、見覚えのある海だった。
(ここは……まさか、王国の海か?)
想起する、ヘリの上からの景色。
あの時の壮大で、爽快な海の景色が、目の前の映像と重なる。
しかし、自分たちの足元の光景が、そんな心地よい気分を一気に不快に塗り替えた。
自分たちが乗っているのは、小さな小さな舟。
そして、それにぐったりと座り込む、バンデット・キース。
それを見て気が付く。
この光景は、勝利との決闘の後。
ペガサスに、島を追い出された後のキースだ。
船を漕ぎつかれたのか。
そもそも、決闘が終わってから、ペガサスに連行されるまで、ずっとこの調子だったのか。
キースは、船の隅で項垂れるだけだった。
「……キース……」
無意味だと、わかっていても。
勝利は必死に手を伸ばした。
するとキースが、ふと顔を上げ、こちらを見上げた。
「っ!? 見えて……」
言いかけた勝利だったが、キースの視線の先をじっと見て、何かが違うことに気が付き、振り返る。
真後ろにあったのは、大、がつくほどの帆船だった。
キースは、唖然としている。
そんなキースに、船から梯子がおろされた。
そっと立ち上がり、ふらつきながら、恐る恐る梯子を掴むキース。
状況、様子を不審に思いながらも、勝利はそれを追って後ろから登っていく。
(……なんなんだ。この船は。いったい、なんでキースを……)
不信感が募るものの、何もできやしない自分に歯がゆさを覚えながら、黙って登っていく。
先に上り切ったキースは船に上がっていくのを眺めた後、自分も甲板に上がっていった。
甲板をよじ登って前を向いたその時、
目の前に広がる光景に、すべての答えがあった。
甲板で、息を切らしながら四肢を投げ捨てて横たわるキース。
そして……その目の前に佇んでいたのは、ローブを全身に纏った数人の男たち。
「……グールズ……」
勝利は、そこでキースがグールズの手に落ちた理由を理解した。
グールズの中央にいた男が、一歩、前に出て、キースに尋ねる。
『……力が欲しいかい? バンデット・キース』
瞬間、勝利の全身に悪寒が走る。
(こいつだ……こいつが……キースを)
キースが、顔を上げ、そいつと目を合わせる。
勝利が、男の顔を見る。
しかし、男の顔を確認することは叶わなかった。
男の顔は、黒い靄のようなもので、塗りつぶされていた。
(ここは、キースの心の中……その中で、こいつの顔だけ見えないということは……キースが覚えていない? いや、記憶から消されている?)
『なんだ……てめえらは』
『復讐の炎が燃え滾っているよ。僕にはわかる』
顔が見えない男はそう言いながら、懐から金色の杖を取り出した。
杖の先端には刃物のような突起、そして、中央の球体には、見覚えのあるマークが刻まれていた。
『っ!?』
「そ、それは……千年アイテム!? 遊戯君や、ペガサスと同じ!?」
キースと勝利の驚愕の表情が重なる。
『力が、欲しいんだろう? 復讐するための力が』
『……』
男は手に持った、千年アイテムと思しき杖をキースに向ける。
一見無意味なその行動。しかし、すでに千年アイテムの力をいやというほど体感している勝利は、それを止められないことに歯がゆさを覚える。
男は、ゆっくりと近づいてしゃがみ込み、キースに空いている手を差し出した。
『さあ……僕たちと一緒にこい……そうすれば、お前に最高の力と、舞台をくれてやろう』
顔は見えない。だが勝利には、キースをあざ笑うかのような表情が、声から透けて見えた。
キースが、ゆっくりと手を伸ばす。
勝利は、悔しさを自分の膝にぶつけた。
(これで……キースに洗脳を……)
勝利は、一瞬目を伏せる。
しかし、響き渡る快音が、勝利の視線を引き戻した。
勝利が戻した視線のその先には、
その手を叩き落とした、キースの姿があった。
『……』
無言の男。
その男に、キースが吐き捨てるように言った。
『最高の力……だあ? ふざけんじゃねえ。あいつは……あいつだけは、俺の手で、倒さなきゃなんねえんだよ! 引っ込んでやがれ!』
「……ははっ」
キースが、啖呵を切る。
それに、勝利は思わず口の端を吊り上げて笑った。
しかし、グールズの男はキースのその行動に明確に怒りを見せ、黄金の杖を大きく掲げた。
『……ちっ。従うならば駒にしてやったものを……ならば貴様は、ただの『器』となり、このーーーに従うがいい!』
『ぐわあああああああ!!!!!?』
男の宣言とともに黄金の杖が光り輝き、キースの額に瞳の跡が刻まれた。
「キース!?」
勝利が叫び、手を伸ばす。
だが、強まった光がやがて視界全体に広がり、勝利の視界を真っ白に染める。
伸ばした手は空しく空を切り、ゆっくりと目を開いて視界を取り戻したころには、再び暗中に放り出されていた。
「……くそっ」
やり場のない感情を隠しもせずに吐き出し、伸ばした手のひらを強く握った。
『っ! ぴぃ、ぴー!』
そんな勝利の後ろで、ブリザードが叫ぶ。
その声に、勝利も反射的に振り返った。
「なっ!?」
勝利は、言葉を失う。
そこにいたのは……鉄の椅子に縛り付けられたキースだった。
腕に、手錠。
そして、全身の鎖。
雁字搦めの拘束状態で、暗闇に一人放置された、キースの姿が、そこにはあった。
否、実際のところ、それが本当にバンデット・キースなのかどうかすらもわからなかった。
直感は、言っている。バンデット・キースであると。
しかし、瞳に映る事実が、真っ青な顔が、小さく蹲る体が、そして何よりも……燃え尽きたような雰囲気が。王国で戦ったキースの欠片さえも感じさせなかった。
勝利は、声を出せぬまま少しずつ近づいていく。
いくら近づこうとも、キースの目が、勝利の方を捉えることはない。
今日、幾度となく見てきた、何も見えていない虚ろな目。
支配され、空っぽの、バンデット・キースの抜け殻だった。
勝利は、キースの目の前までにじり寄った。
そっと、鎖を持ち上げ、外そうとする。が、外れない。
椅子の後ろからブリザードが、鎖を嘴で持ち上げ、引っ張ろうとしているが全く動きはしない。
複雑に絡み合う鎖が、離れるものかと言わんばかりに、キースにまとわりつく。
勝利の直感が、理解した。
これは、外せない。外れるものでは、ないと。
(……なるほど。僕は、
ブリザードを、ちらと見た。
『……ぴぃ』
悲しそうに、ブリザードが小さく鳴く。
勝利は、自分とキースが重なることに、ブリザードも気づいているのだと気づいた。
(……僕は、彼らの『友達』という言葉で、立ち上がることが出来た……なら、キースは?)
何度も、手を伸ばしては、空を切った。
自分の手は、届かない。
まざまざと見せつけられた現実に、勝利は、悔しそうに顔を歪めるだけだった。
(……くそっ……ここまで来たっていうのに。僕は……何もできないのか)
目の前の、闇にとらわれたキースを、救うことは出来ないのか?
悔しそうに、顔を曇らせる勝利。
しかし歪んだ顔が、我に返ったかのように、はっとした表情に切り変わる。
(……キースを……救う?)
勝利は、自分の心を振り返る。
そして、我に返り、思い直した。自分にとって、キースという存在がなんなのかということを。
友ではない。
仲間でもない。
ならば……いったい、自分は何のためにここに来たのか。
勝利は、思い返した。
そして、その答えは、すぐ近くにあった。
『あいつは……あいつだけは、俺の手で、倒さなきゃなんねえんだよ! 引っ込んでやがれ!』
(……そうだ。僕が認めたのは、バンデット・キースの、勝利への執念。何が無くとも、何を失おうとも、相手の懐にある勝利を奪い取ろうとせんばかりの、圧倒的渇望!)
勝利は、思い出す。
王国で戦い、最後まであがいた、キースの去り際を。
決して、きれいなものではなかった。褒められるようなことは一つもなかった。
だがしかし、それでも。と勝利は思う。
(……僕が認められなかったのは……たった独りで、執念一つで、地獄から這い上がってきたキースが……僕にできなかったことをやってのけたキースが、こんなところで燻っていること)
だったら、やることは、一つ。
手を差し伸べて、掴むことなんかじゃあない。
勝利はそう心で納得してにやりと笑い、キースの目の前に立つ。
「やあ、キース。こんなところで一人小銭拾いかい。賞金王"バンデット・キース”の名が泣くぜ?」
勝利のにやけ面での軽口が飛ぶ。
キースは、動かない。
「それとも、蹲って反省会? そのスタイルはアメリカ流かい? そうやってりゃあ、僕に勝てるようになるのかよ?」
勝利の、おどけた口調と煽りセリフが止まらない。
キースの指先が、一瞬だけ動く。
「……あんた、言ったよな。『これじゃあ終わらねぇ、終わらせねぇぞ』ってさ。あれは、嘘か? あんたは、ここで終わりなのか?」
「……うるせぇ」
「来れるもんなら、来てみろよ。僕は、いつだって、どこだって、どんな戦いだって受けてやるぜ。かかって来いよ、バンデット・キース。お前に、お前の心にまだ、僕に挑むための、『執念の炎』が残っているならな!」
「うるせぇっつってんだよ! 黙りやがれこのクソ餓鬼!」
キースが立ち上がり、勝利の胸倉を掴む。
殴りかからんとするキースの顔には怒りの表情が浮かんでおり、瞳には苛立ちが浮き出る。
ふと下に目線をやると、肉体にも本来の色が戻り、暗い色の鎖はゆっくりと砂と化して落ちていく。
それを見て、勝利は思わず顔を崩した。
「クックック。それだよ、そいつだよ。僕は、それを待っていたんだよ!」
暗い空間に、一気に罅が入った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
勝利が、ゆっくりと目を開ける。
目の前には、さっきまで勝利の胸倉を掴み、いきり立つバンデットキースの姿があった。
「……なめた真似しやがったな……小僧!」
「お目覚めかい、案外寝坊助だね。バンデット・キース」
「っこの餓鬼が!」
自分の言葉に逐一反応し、揺れ動くキースの姿を、勝利は子供のように面白がって笑う。
それにまた、キースが機嫌を損ねる。
「てめぇ……今に捻り潰してやる! 決闘続行だ!」
勝利 LP 4000 手札1枚
BFー流離いのコガラシ + グローウィング・ボーガン
攻 2800
BF-漆黒のエルフェン
攻 2200
伏せカード2枚 ゴッドバードアタック、ブラック・サンダー(封印済み)
バンデット・キース LP 2950
手札 2枚 うち一枚 死者への手向け
ゼラ(戦闘破壊)
守 2300
永続罠 心鎮壷 カード封印中
伏せカード 1枚
「コガラシの攻撃で、"ゼラ”は破壊! そして、"グローウィング・ボーガン"の効果で、あんたの手札は一枚、墓地に送られる」
「ちっ! "死者への手向け”が……」
先ほどコガラシに射抜かれた手札を、渋々墓地に送るキース。
しかし、キースもまた、この状況で笑っていた。
「だが、てめえのモンスターは逃がさねえぞ! 伏せカードオープン! "時の機械-タイム・マシーン”!」
「っ! そのカードは!」
時の機械-タイム・マシーン
罠カード
モンスターが攻撃を受けた時、1ターン過去からそのモンスターを呼び戻すことができる
「このカードによって、"ゼラ”が俺様のフィールドに蘇るぜ!」
突如現れたカプセルの扉が開き、その中から、"ゼラ”が這い出てくる。
その様子に、勝利は思わず笑った。
「くっくっく。こいつはやられたね。やるじゃないか、キース。カードを一枚セットし、ターンエンドだよ」
勝利 LP 3600 手札0枚
BFー流離いのコガラシ + グローウィング・ボーガン
攻 2800
BF-漆黒のエルフェン
攻 2200
伏せカード3枚 ゴッドバードアタック、ブラック・サンダー(封印済み)
バンデット・キース LP 2950
手札 1枚
ゼラ
守 2300
永続罠 心鎮壷 カード封印中
「……コガラシに、エルフェンに、ボーガン……王国の時の同じモンスターで……同じ戦術で突っ込んできやがって……俺をなめてやがるのか!? ああ!?」
怒り狂うキースに、煽るように笑う勝利。
しかし、キース以上の怒りに打ち震えるものが、遠い場所に一人いた。
『……この程度の男に……僕の千年ロッドの洗脳が解かれるだと……? そんなことが、あるはずはない!』
マリクは言いながら、ロッドを握りしめ、力を込めてかざす。
するとキースは、再び頭を抱え、苦しみだした。
「うっ! ぐぅ……誰だ……誰なんだ!? 俺の頭の中にいやがるのは!?」
『さあ、キース。お前のターンだ……カードを引けよ。お前の、袖の仕込みカードをな』
「っ! な、なに!?」
キースは、苦しみながらも自分の着ているローブをまさぐる。
すると袖口から、伸縮する機械仕掛けと、カードが仕込まれていた。
その先には、キースですら見たこともないカードがいつでも取り出せるように仕込まれていた。
『さあ、キース。その中から、"サンダー・ボルト”を引け。そうすれば、奴のフィールドを一層できる』
「さ、"サンダー・ボルト”だと……」
サンダー・ボルト
魔法カード(禁止)
雷により、相手フィールドモンスターをすべて破壊する。
「……キース」
(……キースを、正気に戻すこと自体は成功したけど。まだ奴の呪縛を振り払うことが出来たわけじゃないのか……)
苦しむキース。
しかし、勝利にできることは、もはや何もなかった。
「うるせぇ! 俺の頭で喚くんじゃあねえ!」
『何を遠慮する必要があるんだよ、キース。貴様も、これまでに似たようなことをやってきたんだろう。決闘に、勝つためだ。勝ちたいんだろう? 黒羽勝利に』
「っ!?」
頭に響き渡る声に、キースの心が揺れる。
腕を少し振ると、かちゃり、という音とともに、自分の手元に金属のアームが伸び、1枚のカードが差し出される。
キースは、そっと手を伸ばす。
(そうだ……こんなことは、これまでに何度だってやってきた。そうやって俺は、これまでも勝ってきたんだ。このカードさえあれば……)
『あんたのすべてを超えて、僕は勝つ』
「っ!」
フラッシュバックしたその言葉に、キースは思わず手を引き、顔を上げる。
キースの正面には、見定めるようにこちらを真っすぐ見つめる勝利の姿があった。
「……」
『できることならば、イカサマに頼らずにまっすぐに戦う。そんな強いあなたに、出会いたかった』
「……くそっ」
吐き捨てるキース。
それに、マリクは苛立ち、ロッドをふるった。
『……ええい、何をしているキース! 早くそのカードで、"サンダー・ボルト”で、奴の息の根を止めるんだ!』
「……うるっせえんだよ! このくそ野郎が!」
『何っ!?』
マリクは、思わず驚愕の声を上げた。
キースが、ローブと、それに紐づく仕込み機械を脱ぎ去り、地面にたたきつける。
そうして二度、三度音を鳴らしながらローブを踏みつぶし、勝利に向き直る。
「何が『勝つため』だ! こんなことやってたらなぁ……奴には勝てねえんだよ! 引っ込んでやがれ! 俺様のターン! ドロー!」
『馬鹿な!? こんな奴に、この程度の奴に、僕の力がはじかれるだと!?』
キースは頭を軽く振った後、ドローカードを見てにやりと笑みをこぼす。
それに勝利は、警戒度を上げた。
(……来る!)
「行くぜ! 黒羽勝利! 俺様は"黙する死者”を発動!」
黙する死者
魔法カード
墓地の通常モンスターを守備で蘇生する。そのモンスターは攻撃できない
「俺様はこのカードで、"メカ・ハンター”を墓地から蘇生!」
「……だが、その"メカ・ハンター”は攻撃できない。そのカードじゃあ、このターンの逆転はできないよ!」
「けっ。関係ねえよ。こいつは生贄だからな。スーパーエキスパートルールじゃあ、7つ星のモンスターには生贄2体が必要だからよ」
キースの言葉に、勝利は驚愕を隠せずに反応する。
(7つ星モンスター……まさか!)
「俺様は、"メカ・ハンター”と、"ゼラ”を生贄に捧げる! 現れろ! "リボルバー・ドラゴン”!」
「……クックック。こいつは……まずいね」
リボルバー・ドラゴン
闇属性 機械族 星7
攻撃力 2600
守備力 2200
3機のガンキャノンに装填された銃で攻撃。2発以上で、モンスターを攻守無視して破壊できる。
「さあ、行くぜぇ。"リボルバー・ドラゴン”の効果! 3機のガンキャノンのうち2発に弾がこもっていた場合、貴様のモンスターを1体、問答無用で破壊することが出来る!」
(……"リボルバー・ドラゴン”の破壊効果は、破壊できるかどうかが不確定の効果。この状況じゃあ、僕の伏せカード、"我が身を盾に”で防ぐことが出来ない)
我が身を盾に
魔法カード
1500ライフポイントを払って発動する。
相手が発動した「モンスターを破壊する効果」を持つカードの発動を無効にして破壊する。
「"リボルバー・ドラゴン"、ロシアンルーレット!」
キースの宣言とともに、銃身が回り始める。
勝利は、笑顔を崩さずに、汗を一滴たらした。
(……城之内君と対峙している人たちは、常にこんな気分だったのかね……どうにもこのギャンブル……外れる気がしない!)
リボルバーの動きが、ゆっくりと停止へと向かう。
右肩部 〇
頭部 〇
左肩部 〇
「全弾命中! 標的は当然! "BFー流離いのコガラシ”! 『ガンキャノンショット』!」
「くっ!」
BFー流離いのコガラシ + グローウィング・ボーガン 効果破壊
「さあ、まだ行くぜ! "リボルバー・ドラゴン”で、"BF-漆黒のエルフェン"に攻撃! 『ガンキャノンショット』第2打!」
リボルバー・ドラゴン
攻撃力 2600
BF-漆黒のエルフェン
攻 2200
勝利 LP 4000 ー 400 = 3600
「ぐはっ! ははは……これは、ちょっとまずいね」
「ざまあねえな黒羽勝利! この俺様の前で、ぬるいことをしやがったことを、後悔させてやるぜ!」
悪い声で高笑いをするキース。
その様子からは、もはや、キース以外の存在は感じられなかった。
それを確信し、勝利もまた不敵に笑った。
「後悔なんかするもんか。僕は、お前に……バンデット・キースに、勝つために戦っているんだ!」
「はっ! ひねりつぶしてやるぜ」
想いは違えど、二人の笑顔が揃っていた。
まさかの王国編遊戯に続いて3話連続デュエルはキースのものになりました。
まあ、がっつり過去回想が入ってきたせいですが。
次回で完結です。