遊戯王~黒き羽根は夢に舞う~   作:haruko

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最悪の舞台

 

 

「はぁ、はぁ。舞さん。杏子ちゃん。モクバ君……いったい、どこにいるんだ?」

 

 

 

イシズとの決闘から数十分。その時間勝利は休むことなくただ闇雲に町中を駆け回っていたが、すでに限界を迎えており、曲げた膝に手を吐きながら肩で息をしている。

時間だけを見れば大した運動ではないが、勝利は連続の激闘によって体力をすり減らした後で、走り出す前から疲労は隠しきれないほど蓄積しており、急な運動でそれが爆発してしまっていた。

 

しかし息が整いきる前でも構わず、勝利は再び走り出す。

勝利の頭には自分の体のことなど微塵もなく、ただ、千年タウクに見せられたあの映像だけがこびりついていた。

 

 

 

『……しょう……り』

 

 

 

「っ! 舞さん!」

 

そして、また走る。

イシズの元を去ってからは、その繰り返しだった。

 

 

 

しかしそんなことを繰り返していれば当然、体力の限界もさることながら、肉体が悲鳴を上げる。

足の痛みに、勝利はいよいよ走るのがままならなくなった。

 

勝利はビルの壁に手を当てて、下を向いた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

震える膝を叩いて止めようとするが、止まらない。

限界の境界線はとうに超えていたが、体力や身体能力とは別のエネルギー、精神力を燃やして動いていただけの体。

多少寄りかかって休むだけでは、まるで回復しない。

 

とうとう勝利は、そのままビルの壁を背に座り込んでしまう。

 

『ぴぃ……』

 

いつの間にか空から勝利の肩へと止まったブリザードが、不安そうに勝利の顔を覗き込む。

 

「大丈夫さ……それより、舞さんたちは?」

 

勝利の問いに、ブリザードが首を振る。

他の散策を頼んだみんなも順番に戻ってくるが、結果は同じ。

 

 

(……僕が闇雲に走って探しても、ダメ。かといって空からみんなに探してもらっても、ダメ)

 

 

勝利の脳裏に、最悪の可能性が過ぎる。

つまり、舞も杏子もモクバもすでに、走り回り、飛び回っても見つからない場所にいる。

 

 

軟禁は、始まってしまっているという可能性。

 

 

振り払いたい想像。

だが、振り払えない理由もあった。

 

勝利は、ただ走って探しているだけではなかった。

舞は、バトルシティの参加決闘者。王国での実績もあり目立つ風体でもある舞の情報は、道行く決闘者に尋ねてみればすぐに集まった。

 

勝利は最初、その情報をもとに街を駆けていたのだ。

 

しかし情報を集めていくうちに、一つの事実が勝利の焦燥をさらに駆り立てた。

 

 

舞の決闘は、ギャラリーを集めていた。

故に捜索を開始した初めのころは、舞が決闘をしていた場所の情報は簡単に手に入った。

だがそれも途中までの話。

 

 

ここ数刻の舞の足取りが、まったくつかめなくなってしまったのだ。

 

 

 

(……考えられる可能性は、舞さんがパズルカードを集めきり、決闘をやめたということ……もしくは……)

 

 

 

勝利はそこまで考えて、衝動的に立ち上がる。

が、すぐにバランスを崩して前のめりに体を揺らした。

 

傍の壁に手をついてようやく立ち上がることが出来ているが、それすらももうままならないところまで来ていた。

 

 

 

 

「もし。そこのお兄さん」

 

 

 

 

そんな勝利に、ビルの中から声がする。

勝利は反射的に声の方向を向いた。

 

 

ビルの中から出てきたのは、ひょろ長い体の優男。

ニコニコとした笑顔で勝利の目の前に出てきたその男は、ドアを開いて固定しながら言った。

 

 

「ずいぶんお疲れですねえ。中で休んでいってはいかがですか?」

 

 

言って、手をこまねく男。

そんな男に愛想を振りまいてやれるほど、今の勝利に余裕はなかった。

 

 

いらない。

そう一蹴してその場を去ろうとしたその時に見えた光景が、勝利の足を止めた。

 

 

身を翻し、ビルの中に戻っていこうとした男の、左腕。

 

 

 

 

「決闘……盤……」

 

 

 

 

「おや? 気になりますか?」

 

わざとらしくそういう男に、勝利はぐっと拳を握る。

決闘者としてかなり有名な自分の前にディスクをもって現れておいて、この言い草。

 

 

九分九厘、勝利は洞察と勘で決め打っていた。

 

 

彼は、敵だ。

 

 

 

だからこそ、勝利はその後ろについていくことに決めた。

 

彼が何かを持っている。何かを知っている。

そう確信して、ふらつく体を持ち上げてビルの中へと進んでいった。

 

 

 

 

中に入るとエントランスで、男がペットボトルを差し出してきた。

 

「お疲れでしょう。さあ、どうぞ」

 

笑いかける男。

しかし、勝利は動かない。

 

「嫌だなあ。毒だなんて入ってませんよ」

 

そういって男はキャップを捻る。

確かに、未開封の音がした。

 

 

「さあ、どうぞ」

 

 

勝利は無言でそれを受け取り、思い切り煽る。

飢えた自分の体に染み渡るそれが、逆に不愉快だった。

 

「で? あんたは何がしたいんだ」

 

「何が……とはどういうことでしょう?」

 

「これ以上くだらない問答を続けるなら、あんたを一発殴っておさらばだ」

 

らしくもない脅しを、本気の怒りとともに男に届ける。

が、男はそれでも薄ら笑いを崩さなかった。

 

 

 

「私から情報が引き出せなくなったら、困るのはあなたの方でしょう?」

 

 

 

「っ! 貴様!」

 

怒りに任せペットボトルをたたきつけ、男に詰め寄る。

しかし勝利の脳内の動きをまるで反映しきれていない鈍い動きを苦笑しながらするりと交わす。

 

「まあまあ。『何がしたいんだ』でしたっけ? その答えを知りたいのであれば、ひとまず私についてきていただけますか?」

 

 

少々、上ることになりますがね。

と、階段を指さして言った。

 

 

 

 

 

 

「我々グールズがマリク様より与えられた任務。それは大きく分けて2つになります」

 

 

前の男が、今度は取り繕いもせず、グールズとマリクの名前を出した。

力の入りきらない拳を握り、しかし無言で男の背中を見つめながら階段を上る。

 

 

「まず一つ目。遊戯と海馬と決闘して、神のカードを奪うということ」

 

 

淡々と語る男。

勝利はその男の言葉から、知らない情報を咀嚼して整理していた。

 

 

(……遊戯と海馬の神のカード。といったか。イシズ曰く、マリクが持って行った神のカードは2枚。そして残る1枚のカードは海馬君に。ということは、遊戯君はすでにマリクから1枚神のカードを奪い取ったということか。さすがだ)

 

感心し、心でざまあみろと吐き捨てながら笑った。

しかし前の男は知らぬ存ぜぬという顔で聞いてもいない会話を続けた。

 

「しかし、仮にも神のカードを相手取ることになる任務。それを任されるのはグールズという組織の中でも上位のエリートたちのみ。それ以外の有象無象が挑みに行っても無為にパズルカードを取られるだけと、手厳しい言葉をいただく始末でして」

 

 

悲しむ三文芝居を挟む男の尻に、思わず勝利は蹴りを入れた。

 

 

 

「そんなことは聞いてない。僕は、貴様に、『何がしたいんだ』と聞いたんだ」

 

 

 

「……やれやれ。せっかちな人ですね」

 

蹴られた体をさすりながら、男は再び階段を上りながら話始める。

 

「……つまり、神のカードを狙いに行くのがグールズきっての精鋭たちの仕事。では、私のような下っ端のグールズが、何を任されているのか。という話です」

 

 

 

その言葉を理解をしたと同時、勝利は大きな舌打ちを鳴らした。

 

 

 

「……ずいぶんと舐めてくれるじゃないか。僕は、あんたで十分だってわけか?」

 

「……あはっ。言っているのは私じゃあないので、私に怒らないでくださいね」

 

 

 

そういうと、男はようやく足を止める。

男の先を見るとようやく階段が終わり、ドアがあった。

階段が終わったということは、ここが目的地なのだろう。

 

かなりの階を上がってきており、もともと疲労困憊だった勝利は息も絶え絶えだったが、それでも弱みを見せまいと必死に平静を装った。

 

男が、ドアを開ける。

小さな庭園が隅にあり、隅にベンチが数基備え付けられている。

職場での昼休憩で利用する分には十分なくらいの広さがあり、いたって普通の屋上だった。

 

 

ここで、決闘を?

意図がわからず、訝しむ目を男に向けた。

 

 

 

 

 

しかしその疑問が解決される前に、次の事件は起こった。

 

 

 

 

 

突然屋上に、轟音が鳴り響く。

それは、プロペラの駆動音だった。

 

 

 

「な、なんだ!?」

 

 

 

勝利は思わずビルの手すりまで駆け寄り、音のなる方向を探るため身を乗り出し、顔を動かす。

すると駆動音の招待より先に、二人の知り合いを視線にとらえた。

 

 

 

 

「っ! 遊戯君! 海馬君!」

 

 

 

 

道を歩く、二人の姿。

そして二人に声をかけようとしたその瞬間に、音が大きさと激しさを増していく。

音の主が近づいてきたのだ。

 

ビルの陰から現れたのは、超低空で飛行する、ヘリコプター。

 

 

 

そして、そのヘリコプターには……

 

 

 

 

 

「っ!? モクバ君!!!」

 

 

 

 

 

モクバが体を縛られ、ヘリから吊り下げられていた。

 

 

 

 

 

視線を軽く下に移すと、怒り心頭の海馬に、同じく怒りをあらわにする遊戯。

 

そして二人の視線の先には、一人のローブの男。

 

(あれが……遊戯君たちと戦うグールズ……)

 

 

 

「どうです? だんだん見えてきましたか? このイベントの全容が」

 

 

 

「っ! 貴様ぁ!」

 

「フフフ。私に決闘で勝つことが出来れば、あの二人と合流することが出来る。そうすれば、あなたの求めるものにたどり着くことが出来るかもしれませんねえ。それに……あなたにとって大切なものを、守ることもできるやも」

 

「……」

 

勝利は男のその言葉に、血が沸騰してしまいそうなほど怒りを覚えたが、何度も何度もその怒りを必死に飲み込んで無表情で固定する。

相手に自分の情報を与えまいと、必死の想いだった。

 

 

(今……モクバ君がさらわれた。千年タウクが見せた未来の通りにことが進んでいると考えたのであれば、おそらくモクバ君、杏子ちゃん、そして……舞さんの誘拐は並行して進められているはず。『大切なもの』なんて意味深な言い方をしているのも、僕が、『舞さんがさらわれることを知っている』ことなど知る由もないからこその言葉)

 

状況は、決して芳しくない。

誘拐を未然に防ぐことが出来なかった。その時点で勝利の第一プランは失敗し、すでにグールズの後手に回ってしまっている。

だが、それでも勝利は、自分の持つ情報を武器ととらえた。

 

 

 

(ヘリについていける、最速のモンスター……ジェット!)

 

 

 

『ぴ?』

 

顔を軽く伏せて口元を見られないようにして、小声で呟く。

デッキから出てきたジェットが反応する。

 

(さっきのヘリを追って、モクバ君の場所を探してくれ。モクバ君に、着いていてくれればいい。頼む)

 

 

『……ぴぃ!』

 

 

小気味いい返事の後、ジェットが蒼天を待った。

これで、モクバがどこに行くかを把握することが出来る。

そうすれば、後で遊戯、海馬と合流したのち、モクバを追うことが出来る。

ひいては、モクバがさらわれて軟禁された場所もわかり、舞も杏子も助けに行くことが出来る。

 

 

 

(……あとはこいつを、さっさと倒すだけだ)

 

 

 

勝利は手すりを離れて後ろ向きに歩き出し、一定の距離をとってから、にへら顔の男に向きなおる。

 

 

 

 

 

「乗ってやるよ。さっさと始めようぜ。僕には、時間がないんだ」

 

 

 

 

 

「……フフフ。そう来なくては。さて、行きますよ」

 

 

 

二人が、決闘盤を構えた。

 

 

 

 

 

勝利   LP4000

 

「「デュエル!!」」

 

笑う男  LP4000

 

 

 

 

 

「僕のターン! 僕は、"黒い旋風”を発動!」

 

 

黒い旋風

 

永続魔法カード

 

このカードがフィールドに存在する限り、『BF』の召喚時に、より攻撃力の低い『BF』を手札に加える

 

 

 

「このカードが存在する限り、僕はBFモンスターを召喚するたびに、デッキから攻撃力が低いBFモンスターを手札に追加することができる!」

 

「なんと。強力な効果ですね」

 

貼り付けた笑みを崩さないままに、勝利のカードを手放しに誉める。

思ってもいないことを適当に並べているだけなのか、それとも思ったうえで意に介していないのか。

どちらにしても、彼の言葉は勝利の心の苛立ちを加速させた。

 

「僕は"BF-蒼炎のシュラ"を召喚!」

 

 

BF-蒼炎のシュラ

 

闇属性 鳥獣族 星4

 

攻撃力 1800

 

守備力 1200

 

相手モンスターを破壊したとき、デッキから攻撃力1500以下のBFを呼び寄せる

 

 

「さらに"黒い旋風”の効果発動! デッキから、"BF-そよ風のブリーズ"を手札に加える!」

 

 

BF-そよ風のブリーズ

 

闇属性 鳥獣族 星3(チューナー)

 

攻撃力 1100

 

守備力 300

 

魔法カードでデッキから手札に加わったとき、場に出てくる

 

 

「ブリーズは魔法カードの効果によって手札に加わった場合、そのままフィールドに出すことができる! いでよ、ブリーズ!」

 

「何ともまあ……凄まじい高速展開ですね」

 

(この決闘に小細工はいらない。さっさと終わらせて、舞さんたちを助けに行くんだ!)

 

「僕はこれで、ターンエンド!」

 

 

勝利 LP 4000 手札 4枚

 

BF-蒼炎のシュラ

 

攻 1800

 

BF-そよ風のブリーズ

 

攻 1100

 

永続魔法 黒い旋風

 

 

 

 

「私のターン。私は、"成金ゴブリン”を発動」

 

「"成金ゴブリン”だって?」

 

 

成金ゴブリン

 

魔法カード

 

自分はデッキから1枚ドローする

相手は1000LP回復する

 

 

「私はカードを1枚ドロー。そしてあなたは、LPを1000回復します」

 

「……」

 

勝利 LP 4000 + 1000 = 5000

 

ディスクの表示を眺める勝利。

怒りと焦りに支配された脳が解放され、即座に決闘者としての疑念、猜疑心が代わりに脳を占拠した。

 

男は続けてカードを実行する。

 

「私はさらに魔法カード、"恵みの雨”を発動」

 

 

恵みの雨

 

魔法カード

 

お互いのプレイヤーは1000LP回復する

 

 

「さらにお互いに、LPを1000回復します」

 

 

勝利 LP 5000 + 1000 = 6000

 

男  LP 4000 + 1000 = 5000

 

 

「カードを3枚伏せます。これで、ターンエンドです」

 

 

 

勝利 LP 6000 手札 4枚

 

BF-蒼炎のシュラ

 

攻 1800

 

BF-そよ風のブリーズ

 

攻 1100

 

永続魔法 黒い旋風

 

 

笑う男 LP 5000 手札 2枚 

 

モンスター無し

 

伏せカード 3枚

 

 

 

(……なんで僕の相手はこういう変な相手ばかりなんだ?)

 

 

先刻のイシズといい、正面からぶつかり合う決闘ができないもどかしさに辟易とする勝利だったが、そんな嘆きに意味はないと一蹴し、状況の整理を始める。

 

 

(……"成金ゴブリン”。相手のLPを回復する代わりに、手札交換するカード。基本的には無条件でLPが回復する相手の方が有利になるカードだから、通常、ほかのドローカードより優先してデッキに入れるカードじゃない。それに"恵みの雨"……どうやら奴は、僕のLPを増やしておきたいみたいだ。それが何でかはわからないけど……)

 

 

そこまで考えて、勝利はフィールドを見直した。

伏せカードが3枚。

そして、モンスターは出ていない。

 

 

(いくらデッキのバランスが悪いからと言って、手札交換カードも使って下級モンスターを1枚も引くことができなかったとは考えづらい。つまり、奴はもともとモンスターを召喚する気がなかった。僕のLPを、削る気がないってことだ。なるほど……だんだん見えてきた)

 

「僕のターン、ドロー。僕は手札から"BF-上弦のピナーカ”を召喚」

 

 

BF-上弦のピナーカ

 

闇属性 鳥獣族 星3(チューナー)

 

攻撃力 1200

 

守備力 1000

 

墓地に送られたターン、仲間のBFを呼び寄せる

 

 

「"黒い旋風”の効果で、"BF-熱風のギブリ”を手札に加える。さあ、バトルだ!」

 

(マリクにどこまでBFたちのことを聞いているかわからないけど、僕のBFデッキには"BFー月影のカルート”のようなコンバットトリックモンスターがいる。もしも伏せに罠カードがなかった場合、このバトルで決まるかもしれない場面。敵が動くなら今だろう)

 

 

BFー月影のカルート

 

闇属性 鳥獣族 星3

 

攻撃力 1400

 

守備力 1000

 

手札から墓地に送ることで、そのターン、BFの攻撃力に自身の攻撃力を加算する

 

 

「さあ、みんな! 一斉攻撃だ!」

 

『『『ピー!』』』

 

 

3体のBFたちが飛び上がり、攻撃を構えて空を舞った。

しかし、BFたちが攻撃態勢をとったのに合わせて、男はにやついた顔をさらに笑顔に変えて高らかに伏せカードを開いた。

 

 

 

「伏せカードオープン! 永続罠カード、"光の護封壁”!」

 

 

 

光の護封壁

 

永続罠

 

1000の倍数LPを払って発動する

払った数値以下の攻撃力モンスターは攻撃できなくなる

 

 

 

「LPを任意の数値払って発動する永続罠。このカードが存在する限り、あなたは私が払ったLPの攻撃力のモンスターで攻撃することはできなくなります」

 

 

宙を舞い、男を攻めるべく滑空を開始したBFたちの前に、光の障壁が立ちふさがった。

 

 

「支払うLPは、そうですねえ……3000、としましょうか」

 

 

男  LP 5000 ー 3000 = 2000

 

 

「なんだと?」

 

 

(フィールドで一番高い攻撃力は、シュラの1800ポイント。払うLPは2000で十分だったはずなのに……なんでわざわざ"恵みの雨”で回復したLPを無駄に使うような真似を……)

 

 

「……"光の護封壁”によって、僕のモンスターは攻撃できなくなった。僕はこれでターン終了するよ」

 

「おや、終わりですか? では、私は2枚カードを発動しましょうか。まず1枚目。"ギフトカード”です」

 

 

ギフトカード

 

罠カード

 

相手は3000LP回復する

 

 

「黒羽勝利。あなたは、3000ポイントライフを回復します」

 

「……」

 

 

勝利 LP 6000 + 3000 = 9000

 

 

そのカードによって、勝利はすべてを理解した。

 

(……ようやく意図が読めた。つまりやつは、僕と、自分のLPの差を、開けたかったんだ。わざとLPの差分を広げることが、奴の目的)

 

 

「そしてもう一枚カードを発動。"活路への希望”です」

 

 

活路への希望

 

罠カード

 

自分のLPが相手より1000以上少ない場合、1000LPを払う

相手とのLPの差2000につき1枚ドローする

 

 

 

「……そういうことか」

 

「このカードの発動コストとして、1000LPをお支払いします」

 

 

男  LP 2000 ー 1000 = 1000

 

 

「そして、あなたと私のLPの差は、8000ポイント。よって、4枚のカードをドローさせていただきます」

 

 

一気にデッキから4枚のカードを引く。

 

(……"強欲な壺"ですら、2枚ドローだというのに、1枚で一気に4枚のドロー。とんでもない威力だ。でも、これでLPはすでに危険水域。"光の護封壁”さえどうにかできれば……)

 

 

 

勝利 LP 9000 手札 5枚

 

BF-蒼炎のシュラ

 

攻 1800

 

BF-そよ風のブリーズ

 

攻 1100

 

BF-上弦のピナーカ

 

攻 1200

 

 

笑う男 LP 1000 手札 6枚 

 

モンスター無し

 

永続罠 光の護封壁(3000LP)

 

 

 

「私のターン、ドロー。ふふっ。再び、"恵みの雨”を発動。互いのLPを1000回復します」

 

 

勝利 LP 9000 + 1000 = 10000

 

笑う男 LP 1000 + 1000 = 2000

 

 

勝利は顔を歪める。

自分のLPが10000を超える事象も、それに苦しまなければならない事象も初めての体験だった。

 

 

(また回復……いや、僕のライフが回復したことよりも、奴のLPが再び回復してしまったことが問題)

 

「さらに私は、"ソウルテイカー”を発動」

 

 

ソウルテイカー

 

魔法カード

 

相手の表側表示モンスター1体を破壊する。

その後、相手は1000LP回復する

 

 

「このカードにより、あなたの"BF-蒼炎のシュラ"を破壊。そして、あなたのLPを1000回復します」

 

「くっ! やってくれる! ごめんよ」

 

何もさせてやれずに墓地に送られたシュラに謝罪の言葉を述べながら、カードを墓地に送る。

 

「さらにカードを2枚セット。ターン終了です」

 

 

勝利 LP 11000 手札 5枚

 

BF-そよ風のブリーズ

 

攻 1100

 

BF-上弦のピナーカ

 

攻 1200

 

 

笑う男 LP 2000 手札 3枚 

 

モンスター無し

 

永続罠 光の護封壁(3000LP)

伏せカード2枚

 

 

「……僕のターン。ドロー」

 

「フフッ。警戒されて破壊されるのも嫌なので、このターンはさっさと発動してしまいましょうか。私は伏せカード、2枚目の"活路への希望”を発動」

 

「……僕と貴様のLPの差は10000」

 

「そう。つまり、5枚ドローということです」

 

笑う男はデッキからカードをドローし、笑みを強めた。

 

 

(これで手札は8枚。手札もいい……次のターンには……)

 

 

 

そうほくそ笑む男を見て、勝利は、表情を変えた。

その表情は、喜・怒・哀・楽。どれのようにも取れて、どれでもないようにも見える。

笑う男はここで初めて、笑みを少しだけ引っ込めて顔を引きつらせながら言った。

 

 

 

「……どうしましたか? 絶望的ドローの量に、怯えてしまいましたかね?」

 

 

 

「……なんだろうね。本当に。君たちグールズは……いや、マリクがかな。全く、僕の心を乱すのがうまいやつらだよ。()が現れた時にもおんなじくらい不愉快だったけど、二番煎じを僕にぶつけてくるとはね」

 

「……? いったい、何を」

 

「この決闘が終わったら、マリクに伝えておきな。『あまり人を舐めるなよ』ってね! 僕は魔法カード、"異次元の指名者”を発動!」

 

 

 

異次元の指名者

 

魔法カード

 

カードを1枚宣言する

相手の手札にそのカードがあれば、カードを除外する

相手の手札になければ、自分のカードを1枚除外する

 

 

 

「このカードの効果によって、カード名を1枚宣言! そのカードが貴様の手札にある場合、そのカードを除外する!」

 

「な、なにっ!? 僕の手札がわからない、この状況で!? ま、まさか!?」

 

驚愕の表情を、勝利に向ける男。

そこで初めて、勝利はこの決闘で笑った。

 

 

 

 

「いい表情じゃないか。僕が宣言するカードは……"封印されしエクゾディア”だ!」

 

 

 

 

 

「っ!!!!!」

 

男は、下唇をかみしめながら、手札を反転させる。

 

 

手札 8枚

 

活路への希望

成金ゴブリン

非常食

封印されし者の左腕

封印されし者の左足

封印されし者の左足

封印されし者の右腕

封印されしエクゾディア

 

 

その内容に、勝利は一つ吐息を零した。

 

「随分崖っぷちだったようだね。間に合ってよかった。"封印されしエクゾディア”を、ゲームから取り除いてもらうよ」

 

手札を1枚ゲームから取り除いた後、もう一度顔に笑みを張り付けた男が、勝利に向き直った。

 

「……お見事。なぜ僕のデッキがエクゾディアだと?」

 

「お前らがコピーカードを使用して決闘を行うことは、遊戯君とグールズの決闘を見てわかっている。ってことは、ほかのグールズが使っていたデッキと同じ類のデッキを量産することも、お前らにとっては簡単なことだ。モンスターをフィールドに出す気はなく、ただドローを繰り返しているだけ。そうなれば、自ずと貴様の勝ち方も見えてくる」

 

「……手札に存在しないパーツカードを宣言してしまう可能性もあったというのに、きっちりと当ててくる直観力と、自分の推理を信じて行動できる決断力。さすがはマリク様に一目置かれし男。といったところでしょうか。ですが、まだゲームは終わっていませんよ」

 

調子を取り戻した男の言葉がただのはったりではないことは勝利もすでに気づいていた。

 

 

(……左腕のカードが2枚手札にあった。ということは、奴はエクゾディアのパーツカードを2枚以上デッキに入れていることになる。一枚パーツカードを射抜いただけじゃあ、奴のデッキを封殺できたとは言えない。それにやつの手札にはすでに、再び"活路への希望”を発動するための準備が整っている……)

 

 

「フフフ。このターン、あなたが私を倒せなければ、それだけで私の勝利です」

 

「そうはいくか。僕はさっさと、仲間を助けに行くんだよ!」

 

 

 

杏子の、モクバの、そして、舞の。

未来を守るため、勝利は声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面と時は変わり。

 

 

 

 

童実野埠頭。

 

 

 

 

 

その埠頭のそばの、13番倉庫。

暗く、狭く、汚い倉庫。

 

もはや人が利用されている気配のないそこが、グールズが利用する監禁部屋。

 

そこで、舞は目を開いた。

 

 

 

 

「……こ、ここは……?」

 

状況が飲み込めずに立ち上がろうとしたその瞬間に、全く思い通りに動かない体に驚く。ほどなくして暗闇に目が慣れてくると、自分の手足が、座っている椅子に拘束されていることに気が付いた。

 

「な、なによ……これ?」

 

意味の分からない現実に混乱する舞だったが、次第に自分の身に起きたことを思い出し、自分の状況整理がまとまっていくとともに少しずつ冷静さを取り戻す。

 

(そうだ……パズルカード6枚まで集め終わって、いよいよ決勝の舞台を探そうとしたときに、城之内や杏子たちを襲おうとした変質者たちを見つけたから助けようとしたんだけど……結局あたしもやられちゃって)

 

そうしているうちに、直近の記憶も取り戻していく。

 

(そうよ。杏子と、あとから来たモクバと一緒に、倉庫に閉じ込められたんだわ。モクバは……杏子は、大丈夫かしら)

 

 

もしかしたら、まだ近くにいるだろうか。

一か八か、声を出してみようか。

 

今自分にできる最大限の抵抗を考え、整理していたところで、倉庫のドアが音を鳴らして開いた。

 

 

舞が、息を飲んだ。

モクバたちが、助けに来てくれたのだろうか。

そんな淡い期待を一瞬だけ持つが、すぐにそういうことではないと気づいて顔を引きしめる。

 

ローブをまとった男たちが数人。

杏子や自分たちを襲った、あの変質者たちと同じいでたち。

 

 

そして何よりも、戦闘を歩く、顔に入れ墨を入れた大男。

その男の威圧感が、ただものではないことを告げていた。

 

 

 

「……あんたたち、グールズでしょう? レアカードを狙って決闘する、コソ泥集団。こんなことして、ただで済むと思ってるわけ?」

 

「……」

 

大男は舞を見下ろしたまま、舞の言葉に反応する様子もない。

舞の目の前に立って、舞の姿を視野に入れているものの、その姿が彼の瞳に映っているように見えない。

 

まるで、舞の目の前の、見えない何かと会話をしているかのようだった。

 

 

 

「孔雀舞」

 

 

 

やがて、大男が口を開いた。

 

「……何よ?」

 

まずは、情報を。

そう思った舞は、素直に返す。

 

 

 

「黒羽勝利の情報を吐け。それさえ吐けば、お前にもう用はない。解放してやる」

 

「っ!!!? 勝利の、情報?」

 

「ああ、そうだ。戦術、持っているレアカード、過去、秘密、境遇。お前の知る、すべてを答えよ」

 

何故、勝利の情報を?

勝利のカードが狙い? それとも、勝利の秘密の、何かを知っている?

 

過去のこと。

精霊のこと。

 

奴が聞こうとしていることが、果たしてどれのことなのか、舞にはわからない。

 

 

だが、そんなことはどうでもいい。

舞の答えは、決まっていた。

 

 

 

「……フン。何を知ってたって、言うわけないでしょう。馬鹿も休み休み言いなさい」

 

 

 

『……リシド』

 

頭に響く声に従い、大男はその手に持つ錫杖の、鋭くとがった先端を舞に向ける。

 

 

 

 

「言え。その顔を、傷だらけにしたくなければな」

 

 

 

冷たい金属の先端が、舞の頬に触れる。

後数mm押し込めば、舞の顔に傷が残ることだろう。

 

しかし、舞は男から一つも目を離さない。

 

 

 

 

「……やってみな。その程度の脅しじゃ、何にも吐きゃしないよ」

 

 

 

 

鋭い言葉が、大男の心を突く。

表情にはまるで出ないが、心は少なからず揺れていた。

 

 

「……勝利なら、あたしの顔が八つ裂きになったって愛してくれる。そんなもの、怖くもなんともないわ」

 

 

(……見事な精神力。この言葉は、強弁や空威張りの類ではない、意志を感じる)

 

男は、舞の言葉に震える。

すると頭に、声が届いた。

 

 

『リシド。もういい』

 

(っ! マリク様! しかし……)

 

『僕は黒羽勝利を追い詰めるべく、情報を持っている決闘者としてその女を捕まえてきたつもりだったが……どうやら、僕が持っていた情報以上にそいつと黒羽勝利の関係は深いらしいね。こいつは、うれしい誤算だ』

 

フフフフフ、と笑った後、告げた。

 

 

 

『そいつと黒羽勝利にも、舞台に上がってもらうとするよ。名もなき王に用意しておいた復讐劇の舞台に……人形としてね』

 

 

 

大男の持つレプリカではない。

本物の千年ロッドが、怪しく光り輝いた。




さあ。
とうとう奴が近づいてきます。
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