遊戯王~黒き羽根は夢に舞う~   作:haruko

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とうとう来ました。


舞vs勝利 悲劇の幕開け

 

 

 

 

 

日はすでに下がり初めており、一日通して賑わい続けた童実野町が通常の穏やかな街並みを取り戻しつつあった。

パズルカードを奪われ参加資格を失ったものは早々に去り、残るはトーナメントを狙う猛者だけとなって、軽々と決闘を仕掛けることが出来なくなる時間帯に入ったことによるものだった。

 

 

そんな童実野町の閑静な商店街を、男たちは全力で駆けていた。

 

 

 

 

先頭を行くのは、黒羽勝利。

 

 

ここに至るまでに限界まで走り切り、その後のグールズとの決闘を挟んで、また走る。

限界のはずの体ではあったが、それでも前を先導する役割を全うしていた。

 

 

 

そしてその後ろに続くのが、武藤遊戯。そして、海馬瀬人。

 

 

 

ただ前だけを見据え一心不乱に走り続ける勝利を見失うまいと必死に足を回して食らいつく。

 

 

 

「おい、遊戯」

 

「なんだ、海馬? 気を抜いていると、勝利君を見失うぜ」

 

「その黒羽勝利の事だ」

 

 

海馬が走りながら、遊戯に声をかける。

その視線は、前を走る勝利の背中をじっと見つめていた。

 

 

「奴は言った。『モクバの場所がわかる』と」

 

「ああ。だからこそ俺たちは彼の言葉を信じ、モクバの元へ向かっている」

 

「ふん。問題なのはそこではない。なぜ奴は、オレたちに居場所を教えずに、先導して向かうなどという形をとる?」

 

勝利を責める言葉を使う海馬に、遊戯が鋭い目を向ける。

 

「……勝利君が、嘘をついているとでもいうつもりか?」

 

「オレはお前らの言う『友情』などというごっこ遊びを信じてはいない。ただ事実を述べているだけだ」

 

遊戯の言葉を歯牙にもかけず、海馬は続けた。

 

「そもそも、グールズの奴らの場所や誘拐されたお前らのオトモダチの場所がわかるのならば、その場所をオレたちに伝えればいい。『○○に奴らがいるはずだ。助けに行こう』とな。だが奴はそれをしないで、モクバの場所へ走り続けている。まるで『今モクバがいる方向だけはわかる』と言っているかのようだ。モクバに発信機でもつけているかのようにな」

 

「……」

 

海馬が口にしたことは、遊戯も気にはなっていた。

 

当然、杏子や城之内、それにモクバも、勝利にとって心配であることに間違いはない。

 

 

 

しかし彼が、勝利が一番心配なのは舞の安否のはずだ。

 

 

 

だが彼の口から、『舞の元へ向かおう』という言葉は出てこない。

 

飽くまで彼は、『モクバを助けに行こう』と言っている。

 

 

つまり勝利は今、確信をもってモクバの元へと走っている。

 

 

それは勝利の振る舞いを見ていて、遊戯にも感じ取れた。

 

だからこそ、その勝利の確信の根拠が見えない海馬が勝利を疑ってかかるのは当然のことだとも思っていた。

 

 

 

だが、遊戯は勝利の行動を疑ってなどいなかった。

 

 

 

 

「海馬……勝利君は、俺たちに言った。『僕を信じて、着いてきてくれ』とな。友が、信じろと言ったんだ。俺は、それを信じるぜ」

 

「ふん……オレの居場所を検知して、我がKCのヘリが到着するまでは貴様らの茶番に乗ってやる。だが……もしも黒羽勝利の言葉が下らん戯言であったときは、覚悟しておくことだな」

 

 

 

 

 

 

その言葉を最後に数分、無言で走る時間が続く。

すると突然、勝利が足を止めた。

 

「……ジェット……」

 

「……勝利君? どうしたんだ?」

 

「……いまさら場所がわからなくなったなどと抜かすのではあるまいな?」

 

無言で空を見つめて固まる勝利に二人が声をかけるが、勝利は反応しない。

かと思えば、突然大通りの道を曲がり、狭い路地へと走っていく。

 

驚いた遊戯と海馬に、勝利が振り向かずに叫ぶ。

 

 

 

「近い! モクバ君も、グールズも! 急いで!」

 

 

 

そういって、勝利は路地裏に消えていく。

遊戯と海馬は一瞬顔を合わせ、何事かと問いただしたい思いを必死に抑えてすぐに勝利の後を追った。

 

 

 

 

数刻後。

二人のその判断は正解であったことを確信する。

 

 

 

 

「っ! やめろ! 離せ! 離しやがれ!!」

 

 

 

 

路地裏を2,3曲がった先で3人がとらえたのは、必死に抵抗するモクバ。

そして、モクバを捉えようとして両腕を抑え込む二人組のグールズの姿だった。

 

 

 

「モクバ!?」

 

「モクバ君!!」

 

 

 

「っ!!? 兄サマ! 遊戯! 勝利!」

 

海馬たちの姿を見つけ、満面の笑みを浮かべるモクバ。

対称的に、勝利の、遊戯の、そして何よりも海馬の表情が険しく鋭くなる。

 

「おのれぇ……死ね、豚ども!」

 

海馬が片側の男を殴りつけ、無理やりグールズからモクバを引きはがす。

手前に思い切り引かれてつんのめるモクバを遊戯が受け止める。

 

そしてもう一人が海馬の動きにひるんだその隙をついた勝利が、もう一人のグールズを転ばし、地面にたたきつけて制圧する。

「ぐぇ」という情けない声とともに、グールズが静かになる。

 

 

 

安全が確保できたことを確信した後、海馬兄弟がようやく向き合うことが出来た。

 

「兄サマ!」

 

「モクバ! けがはないか」

 

「ああ! 大丈夫さ! ありがとう兄サマ。それに遊戯と勝利も。助けてくれてサンキューな」

 

「ああ。モクバ、お前ひとりで逃げてきたのか?」

 

遊戯の問いに、モクバの顔が濁る。

それを見た勝利は、嫌な予感が体中を駆け巡る。

 

聞きたくない。

が、聞かなければ進まない。

グールズを簡単に拘束し終えた勝利は、モクバの前に立ち、苦し気に言葉を紡いだ。

 

 

 

 

「モクバ君……舞さんは、杏子ちゃんたちはどうなったんだ?」

 

 

 

 

勝利の問いに、モクバが顔を濁らせる。

その様子に、勝利は悪い予感が的中していることを察し、拳に力が入った。

 

「……杏子と舞は俺と一緒に倉庫に閉じ込められてたけど、二人で力を合わせて俺だけ逃がしてくれたんだ。その後のことは、わからない。ごめん」

 

遊戯が「くっ……」と言葉を漏らす。勝利も拳を思い切り路地の壁にたたきつける。手から軽く血がにじむ。

責任を感じているモクバの手前、強い言葉を言うべきでないことは理解しているが、それでも悔しさが零れ落ちてしまっていた。

 

 

 

その時、本日2度目の轟音が頭上に響き渡る。

 

上を見上げると、見覚えのある『KC』のロゴをあしらったヘリが勝利たちの頭上を旋回していた。

 

 

 

「……黒羽勝利。なぜ貴様がモクバの位置を把握することが出来ていたのか。その件についてはモクバを見つけてもらったこと、モクバを助けに入ったことに免じて聞かないでおいてやる。そして……貴様らのオトモダチにもモクバが世話になったらしい」

 

海馬が、左手を上げる。

するとヘリから見覚えのある縄梯子がおりてきた。

 

 

「借りを作ったままは、オレの主義ではない。遊戯。勝利。ヘリに乗れ。オトモダチのところまで連れて行ってやる」

 

言いながら、今度はモクバに向き直った。

 

 

「モクバ。お前たちが軟禁された場所は、どこだ?」

 

 

はっとしたモクバが、宣言した。

 

 

 

 

「埠頭だよ! 童実野埠頭だ!」

 

 

 

 

「……童実野」

 

 

 

「埠頭……」

 

 

 

 

4人は、ヘリに乗る。

 

目指すは、童実野埠頭。

 

 

 

 

 

王国を目指した、あの船の出発の場所だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘリに乗り込んだ四人は、もどかしく不安な思いを抱えながら、何が起こっているのかを共有していた。

 

マリクと、神のカードを巡って争ったこと。

マリクは千年ロッドという、人の心を操ることが出来る千年アイテムを持っていること。

そのマリクの刺客を、遊戯と海馬だけでなく、勝利も退けていること。

それによって……勝利もまた、マリクの標的になってしまっていること。

 

互いの持ちうる情報を、話し合った。

少しでも、マリクに対抗するために。

 

「なに? 勝利君。君も、イシズにあったのか?」

 

「ああ……簡単にだけど、君とマリクに因縁があるらしいことも聞いた。そのために、マリクとバトルシティを戦っていることも」

 

「……」

 

「一応先に言っておくけど、僕は君たちの因縁になんて興味ない。君が何千年前から来た誰であろうと、君も、もう一人の遊戯君も、僕の大切な友達だ。それに変わりはない」

 

「……勝利君」

 

遊戯は勝利の顔を見る。

嘘や繕いをまるで感じさせない、真剣な横顔だった。しかし同時に、言葉に含まれた優しさはその表情からは感じ取れなかった。

そのままの、険しい表情で真っすぐ前を向きながら、勝利は言う。

 

 

 

 

「そして、間違いないことがもう一つ」

 

 

 

「……」

 

 

 

 

「君やマリクに、どんな因縁があろうと。そこに、城之内君や杏子ちゃん。そして……舞さんが巻き込まれていい理由はない」

 

 

 

 

「っ! ああ……その通りだ。城之内君たちは、絶対に助け出すぜ!」

 

「フン……」

 

そんな遊戯と勝利のやり取りを聞き、海馬が馬鹿にしたように鼻で笑う。

 

「未来視だの、洗脳などと下らん。オレにとってそんなオカルトグッズに纏わる因縁など毛ほども興味はない。あの石板の事実もな。だが貴様らの話を鵜呑みにするのであれば、城之内たちはすでにマリクの洗脳を受け、貴様らに牙をむくシナリオが用意されているのかもな」

 

 

ククク、と笑う海馬に、遊戯が叫ぶ。

 

 

「海馬! 俺たちはどんなことがあろうとも、命を懸けて、仲間を救い出すぜ!」

 

 

「……黒羽勝利」

 

遊戯の言葉を、想像通りの回答、と言わんばかりに軽く流した後、海馬は勝利の方を向く。

 

 

「……なんだい? 海馬君」

 

「貴様はどう『答え』を出す?」

 

海馬は、問うた。

その表情は、悪戯の結果を待つ少年のように、純粋に面白がる残酷さを秘めていた。

 

「話を聞くに、マリクは自分が持っているオカルトグッズによる洗脳術に抗い、自分の力に歯向かって見せた貴様の力を警戒し、不愉快に思っている。標的ではない貴様を舞台に上げるほどにな」

 

「……」

 

「……奴が語る『劇』の内容について、貴様はもう察しがついているんだろう。歯向かう貴様を最大限に苦しめるために奴が用意したシナリオとやらが」

 

「……ああ。そうだね」

 

「海馬!」

 

「いいよ。遊戯君」

 

無遠慮な発言を咎める遊戯。

しかし勝利はぎこちなく笑い、海馬に続けさせた。

 

「戦いの世界に、『結束の力』などというものが介在する余地はない。当然、『愛情』などというものも、決闘の結果を左右することなどありえない。ましてや、その相手が次の勝負において貴様らに牙をむいて来るやもしれんこの状況。貴様はどう乗り越える?」

 

「……」

 

答えが出ないことをわかっているのか。

はたまた……答えがあるのならば言ってみろ。という、好奇心と挑発なのか。

 

 

 

 

「遊戯はその戦いの答えが、この先にあるといった。ならば貴様は。その地獄の淵に、どう向き合う?」

 

 

 

 

勝利がそっと目を閉じ、黙りこくった。

ヘリの中には静寂が広がり、プロペラが勢いよく回る音だけが空間に響き渡る。

 

 

 

 

無音の時間が分に差し掛かるか否かといったところで、勝利が目を開く。

 

「……海馬君には、信じられない考え方かもしれないけどさ……」

 

ゆっくりと、勝利が口を開いた。

 

 

 

「僕は……独りじゃ戦えない人間なんだ」

 

 

 

「……何?」

 

海馬の問いの答えにもならず、海馬の意識の外であるその言葉に、海馬は大きく表情を崩した。

勝利は続ける。

 

「僕は……一度、すべてを失った。信じた家族も……信じてくれていた家族も。すべてを失い、独りになった。そこが、僕の地獄」

 

「……地獄」

 

それまで静かに話を聞いていたモクバが、言葉を漏らす。

海馬は、ヘリの外に顔を向けたため、表情は読み取れなかった。

 

「少なくとも僕にとっての地獄っていうのは、大切な人と戦わなければならないことじゃあない。僕が何もしなかったせいで、大切な人を失うことだ」

 

 

 

恐れ、何もしない。

 

その選択ですべてを失った勝利だからこそ、その言葉は軽いものではなかった。

 

 

 

「君の言う通り、愛情は決闘の結果を左右しないかもしれない」

 

 

 

でも、それでも。

と、勝利は続ける。

 

 

 

 

「僕は、舞さんと勝ち負けを争いに行くんじゃない。僕にとって一番大切なことは、舞さんと争い、傷つけあうことじゃない。舞さんと、向かい合うことなんだ」

 

 

 

 

海馬は。

モクバは。

そして、遊戯は。

黙って、勝利の独白を聞く。

 

 

 

 

「それで、マリクの力に抗うことが出来るかどうかは、わからない。でも僕は、海馬君が言う答えがあるとするのであれば、大切な人と全力で向き合った先にあると思う」

 

顔を上げ、真っすぐに前を向く。

瞳に、決意があった。

 

 

 

 

 

「僕は、全力で舞さんと向かい合うよ。そして、舞さんに僕の想いを伝える。そうすれば、舞さんが答えてくれる。僕は、それを信じる。僕にできることはそれだけだから」

 

 

 

 

 

「……いいだろう。貴様と、遊戯の出す答えを。楽しみにしておいてやる」

 

腕を組み、静かにその時を待つ姿勢に戻った海馬。

それを見て、また眼をつむり、何かを考えこむ勝利。

それを、言い表せぬ顔で見つめる遊戯。

 

 

 

 

そして、迫る時。

 

静寂を、モクバの声が割いた。

 

 

 

 

「兄サマ! 遊戯! 勝利! 着いたよ! 童実野埠頭だ!」

 

 

 

 

舞台に、役者はそろった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「城之内君!」

 

ヘリから降りるや否や、遊戯が声を上げた。

その視線の先には、城之内。そしてその傍らに杏子の姿があった。

 

しかし、彼らの瞳が、様子が、普段の彼らではないということを雄弁に語っている。

勝利も、遊戯も、千年アイテムの力などまるで興味もない海馬でさえも一目見て分かった。

 

彼らは、マリクに洗脳されている。

 

「待ってたぜ……遊戯!」

 

邪悪な笑みを浮かべながら、城之内が言った。

遊戯を倒すことが出来るこの舞台の開幕が楽しみで仕方がない。

そんな様子で遊戯を睨む。彼の心に、躊躇も迷いもなかった。

 

「城之内君! 正気に戻ってくれ! そして、思い出すんだ! あの日、この場所で俺たちが王国に旅立つときに聞いた汽笛の音を!」

 

遊戯の宣言と同時に、汽笛の音が鳴る。

低く、力強く埠頭に鳴り響いたその音はしかし、なぜか空虚で物悲しい音に聞こえる。

 

 

 

 

「知らねえなあ。そんなもん」

 

 

 

 

「ど、どうなってんだ!!??」

 

困惑するモクバ。そして、じっと城之内を睨む海馬と勝利。

 

(……キースと戦った時とは、似ているようでまるで違う。千年ロッドの力である洗脳であることには違いないんだろうけど、今の城之内君からは、確かな意志を感じる。キースの時のように、空っぽな状態で操られているわけじゃない。体ではなく、心を乗っ取られているんだ……だからこそ、遊戯君は苦しんでいる……)

 

(遊戯……答えを見せてみろ)

 

 

「城之内君! 正気に戻ってくれ!」

 

「正気ぃ~? 俺は正気だぜ。正気でお前をぶちのめしてーのさ。遊戯!」

 

「くっ!」

 

『ククク。無駄だよ遊戯。貴様が何を言っても城之内との決闘を避けることはできないのさ』

 

「っ! この声は!?」

 

「マリク!」

 

遊戯と勝利が、声の方向を捉える。

そこには、杏子が虚ろな目で棒立ちしていた。

 

「杏子!? 杏子も奴の洗脳術に!?」

 

「くそっ……僕が!」

 

『おっと、動くなよ勝利。この女を殺したくなかったらな』

 

そうマリクが宣言すると、杏子の体が動き出し、ポケットを弄ってカプセル錠を取り出した。

勝利は動きを止め、思わず息を飲む。

 

『女には劇薬の入ったカプセルを与えてある……僕が一言命令すればそいつを飲み込み数秒で即死だね! わかるだろう? ごっくん。なんてね』

 

そのふざけた調子のマリクの声に反応し、杏子がカプセルを口にくわえて軽く動かし、遊ぶように見せつける。

 

「マリク! 貴様ぁ!」

 

「杏子ちゃんたちは、僕たちとの勝負に関係ないだろう!」

 

『ああ、その通り。だから僕の望む通り遊戯が城之内との決闘に応じれば、この女は死なずに済むんだよ』

 

「くっ……」

 

マリクのくだらない言い分にしかし、遊戯も勝利も二の句を飲んだ。

正しさを、正義をマリクにぶつけたところで価値はない。

悔しさで顔を歪めながらも、それを正しく理解していたからこそだった。

 

 

 

『フフフ。じゃあ遊戯には、城之内とのデスマッチ決闘を開始してもらおう。おっとその前に、先にこっちの用事も済ませておこうかな』

 

忘れていた要件を後から追加するような軽い口調で、マリクがそう宣言する。

すると、勝利たちの後ろから、さらに新しい足音が響いた。

 

 

 

カツ、カツ、カツ。と地面を軽い音で鳴らす。

それだけで、勝利はすべてを理解した。

 

祈るように振り返る。

しかし願いとは裏腹に、予想した通りの人物がそこに立っていた。

 

 

 

 

 

 

「……舞さん!」

 

 

 

 

 

「……まってたわよ。勝利」

 

静かに、しかし、確かな強さをもって放たれたその言葉が、勝利の心を射抜く。

城之内と同じで、舞の言葉からはただ洗脳して言わされたというだけではない、明確な意志を感じた。

 

 

『フフフ。急なキャスティングだったけどね。僕のサプライズは喜んでもらえたかな?』

 

「マリク……!」

 

杏子の方を向き、杏子の先にいるマリクに対して怒りの矛先を向ける。

しかし、遠くから杏子を通してそれと対面するマリクには大海の一滴に等しい程度のものだった。

 

『本当はね、お前には遊戯と城之内の決闘を、特等席で観戦してもらおうかと思っていたんだ。仲間同士が争ってしまっているというのに、助けに入ることすらもままならずにただその二人の決着を見届ける。っていうのが、お前にとっては一番の苦痛だろうと思ったからね』

 

へし折れんばかりの強さで歯ぎしりを鳴らす勝利。

マリクの卑劣極まりない手段と、決闘者の誇りを踏みにじろうとする行為。

勝利の嫌うやり方そのものだった。

 

(王国でキースと対面した時でさえ、こんな想いにはならなかった……こいつには、大した理由も、意図もない。不愉快なものを貶めたいという、ただ純粋な悪)

 

 

 

『でも、それは変更することにしたんだ。もっと、お前を苦しめる方法が見つかったからね』

 

 

 

「……来な、勝利。あんたとあたしの決闘の舞台は、向こうだよ」

 

顎をしゃくりながら、舞が歩き出す。

舞が向かう先にあるのは、遊戯たちから少し離れた場所の、大きな倉庫。

そちらに向かって舞は淀みなく歩を進めていく。

 

勝利が何度も声をかけるが、舞が足を止めることはなかった。

 

 

 

 

「……勝利君」

 

「……遊戯君。それに、海馬君」

 

勝利は、遊戯の言葉に振り返らずに声を出す。

遊戯と海馬は、その場でじっと待った。

 

 

 

 

「……僕は、必ず答えを出す。遊戯君も、絶対にあきらめないで」

 

 

 

 

「っ! ああ!」

 

「……」

 

その言葉を最後に、勝利は歩き出した。

 

運命の舞台。

 

舞が待つ、その場所へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あたしはね、勝利。ずっとあんたに勝ちたかった。あんたを圧倒的力で負かしてやりたかったのよ。その機会が、ようやく巡ってきたんだ。あたしは……体が疼いて仕方がないよ」

 

「……」

 

舞が歩きながら、心底嬉しそうに声を震わせながら言う。

その言葉達には、明確な『憎』が感じられた。

 

言葉の端々に吐き捨てるようなニュアンスがあり、それはまさしく、『振り払いたい現実との決着』を望む決闘者の姿のように見える。

 

 

洗脳されて、思ってもいない言葉を吐かされているだけ。

そういい捨てられない迫力が、そこにはあった。

 

 

(……やはり舞さんも、城之内君と同じ。空っぽの人形としてマリクに利用されていたキースとは違って、舞さんの意識も残っている……でも、舞さんの中の感情や、舞さんの想いで、心象。そういうものが全部、苦痛や憎悪にすり替わっている。これが、千年ロッドの力……)

 

 

 

勝ちたい。

舞の中の心からの想いが、願いが。

マリクのくだらない復讐劇に利用されている。

 

 

 

握る拳の行き場のなさが、勝利の苛立ちを加速させた。

 

 

 

 

「……王国であんたに、城之内に負けてから。ずっと苦しんできたんだ。あんたらに守られて、救われて……あたしはなんもできなかった。結局あたしはあんたたちに出会って、弱くなった。脆くなった。だから、あんたに勝って取り戻すのよ! 気高く、強い決闘者であろうとしたあの日々を!」

 

 

 

 

 

「やめろ!!!!」

 

 

 

 

勝利の言葉に、舞が足を止めて振り返る。

勝利は、少し息を乱しながら、足を止めて下を向く。

 

声は怒りか、悲しみかで震えていた。

 

 

 

 

「……それ以上、舞さんの心を覗くな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『フフフ。順調に苦しんでくれているようで、何よりだよ』

 

 

 

 

舞を通して、遠くでバトルシティの本線へと向かうバイクの上でマリクがひっそりとほくそ笑む。

 

(そう……お前の方は飽くまでおまけだからね。メインで操作をするのは城之内のほうで、その女の方は時折お前の苦しんでいる姿を覗くだけのもの)

 

笑いをこらえきれないといった顔のマリク。

バイクのエンジン音が爽快な音を鳴らす。

 

(その分、遠隔でもきっちりお前を苦しめてくれるように、その女には念入りに千年ロッドの力を賭けさせてもらったよ。もうこの前のバンデッド・キースの時のようにはなりはしない。さあ見せてくれ。黒羽勝利。僕の手のひらで無様に踊り、泣き叫ぶ姿をね)

 

 

 

 

 

「フフフ……ハーッハッハッハッハッハ!」

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、勝利。ここが、あたしたちの決闘の舞台よ!」

 

そうして舞が、倉庫の前に立つ。

周りを見ると一つだけ入口の扉が開け放たれていた。

すでに勝利たちが決闘する舞台は整っているらしい。

 

何が起こるのか。

 

それを考える前に、舞はすたすたと倉庫に入っていった。

 

 

「……くそっ」

 

 

悩む時間すら与えてもらえないもどかしさを悪態で吐き捨てながら、舞に続いて倉庫に入ってく。

 

 

 

 

薄暗く、埃っぽい倉庫。

しかし、決闘するに十分な程度の明かりは天井の証明で確保されていた。

 

わざわざそのために電気を通しているのか。

そんなことを考えながら周りを見回していると、突然飛び込んできた景色に勝利はゾッとした。

 

 

広い倉庫の中央に広がるのは、専用の決闘場(デュエルフィールド)と思しき設備。

しかしそれは、勝利が思い描く楽しい決闘の舞台とは程遠い様相だった。

 

互いのプレイヤーが立つ位置には、謎の箱と、近くの柱から伸びる手錠が二つ。

舞がその場に立ち足に手錠をはめたことで、それが決闘者を逃がさないための拘束具であることが判明する。

 

そして、最も勝利の目を引いた存在。

 

 

 

それは、決闘場の中央当たりの天井に備え付けられた謎の物体。

 

無機質なデジタルタイマーと、色とりどりの配線とともに天井に括りつけられた、危険な塊。

 

 

 

 

直感で理解する。

それは、爆弾だ。

 

 

 

 

「……マリク! お前!!!」

 

 

 

 

「……さあ。手錠をつけなさい、勝利」

 

舞は、待ち遠しいといわんばかりに勝利を急かす。

状況を整理するために時間を取ろうとすることもできず、無言で言われるがままに立ち位置についた。

 

手錠をとるためにしゃがむと、謎の箱には『4000』の文字。

おそらくこれが、LPを意味しているのだろう。

 

一瞬自分を拘束しなければならない事実に手が止まるが、舞がすでに準備を終えてしまっている以上、ここで自分が躊躇していても時間の無駄だと判断して足に装着する。

 

それを見て舞はにやりと笑った。

 

 

「さあ。ルールを説明するわ。この倉庫には、40分後に爆発する時限爆弾が仕掛けてある。倉庫全体を吹き飛ばせるくらいの、どでかい爆弾をね。当然、ここで決闘してるあたしたちも、巻き込まれたらお陀仏よ」

 

「……」

 

予想通りの展開に、苛立ちつつも静かにルール説明を聞く。

 

 

「箱にLPが書かれているのがわかるでしょう? そいつはあたしたちのディスクのライフと連動して、お互いのLPが0になったときに相手の箱が開くようになっている。爆弾が爆発する前に箱の中のカギを使って手錠を外し、倉庫から脱出できれば生き残ることが出来る。それができなかった方は、爆発に巻き込まれて終了」

 

 

説明の完了とともに「簡単なルールでしょ?」と言って締めくくる舞。

そのままディスクを構え追ようとするが、勝利に反応する様子はなかった。

 

 

 

 

「……僕は。こんな決闘をやるために来たんじゃない。僕が何よりも待ち望んだ舞さんとの決闘は、こんなくだらない決闘じゃない!」

 

 

 

 

「……ふん。あんたにとってはくだらない決闘でも、あたしにとっては待ちに待った念願の決闘よ」

 

「舞さん! あの日の夜に僕たちは誓ったはずだ! このバトルシティでの、決闘を。王国で叶わなかった僕らの決着の未来を! このバトルシティで実現するために!」

 

勝利の言葉に、舞の眉がピクリと動く。

 

「舞さんは、僕を受け入れてくれた。僕はそれが何よりもうれしかった。だからこそ、僕は舞さんとともにこれからの時を歩みたいと思った! そして舞さんはその想いを受け入れてくれた。だからこそ僕たちの未来を、このバトルシティでの決着に託した! 劇的なステージで向かい合い、『決闘者の誇り』をもう一度全力でぶつかり合う最高の決闘をするために僕たちは誓ったんだ!」

 

「……」

 

 

 

 

 

「舞さん……思い出してくれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はあ。そんな約束を本気にして頑張ってたわけ? お笑いね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!!?」

 

勝利が言葉を失い、顔を伏せる。

胸に下がるネックレスを強く握った。

 

(……たとえ万が一、億が一。本気であの告白を舞さんが嫌がっていたとしても。舞さんがこんな風に思うはずはない。こんな言葉を、使うはずはない。)

 

深呼吸をしながら、頭を回す。

荒れる呼吸を必死に通常のペースに戻す。

 

(今までの舞さんの心を悪用されて紡がれた言葉とも、全く違う。この言葉だけは、舞さんを洗脳したマリクが舞さんに言わせている。100%の嘘だ)

 

当たり前だ。

事実じゃない。

 

 

 

 

 

(そんなことはわかっているのに……なんで、涙が止まらないんだよ!?)

 

 

 

 

 

「……もういいでしょう? 始めるわよ。あたしのあんたの、決着の決闘をね」

 

涙を拭い、勝利が前を向く。

すでに舞は構えを完了しており、勝利の腕のディスクがそれに反応した。

 

それと同時に、タイマーが動き出していく。

 

(……やるしか、ない。この決闘の中で、舞さんの心を取り戻す方法を探るしか、舞さんを助ける方法はないんだ!)

 

 

 

 

「……さあ、行くよ! 舞さん!」

 

「来なさい! 勝利!」

 

 

 

勝利   LP4000

 

「「デュエル!!」」

 

舞  LP4000

 

 

 

「僕のターン! 僕は、"BF-銀盾のミストラル”を守備表示で召喚!」

 

 

BF-銀盾のミストラル

 

闇属性 鳥獣族 星2(チューナー)

 

攻撃力 100

 

守備力 1800

 

破壊された後1回だけ相手の攻撃からプレイヤーの身を守る

 

 

(だらだらと引き延ばす時間はない。かといって、僕が全力で攻めてこの決闘を終わらせることに意味なんてない。まずは守備で様子を見ながら、舞さんを取り戻す機をうかがう)

 

「僕はこれで、ターンエンド」

 

「フン、そんな逃げ腰でスタートだなんて。あたしをがっかりさせないでよね」

 

「……(くそっ。舞さんが言いそうな言葉なのがむかつく。でもやっぱり、間違いなく洗脳のベースには舞さんの意識がある。洗脳から意識を取り戻せる可能性は0じゃない!)」

 

「あたしのターン! あたしは、"アマゾネスの剣士”を召喚!」

 

 

アマゾネスの剣士

 

地属性 戦士族 星4

 

攻撃力 1500

 

守備力 1600

 

このカードで自分が受ける戦闘ダメージを相手に押し付ける

 

 

「"アマゾネスの剣士”が戦闘した場合にあたしが受けるダメージはすべて、勝利、あんたが受けることになるのよ!」

 

「しまった! ミストラルの守備力の高さが、裏目に!?」

 

「さあ、バトルよ! "アマゾネスの剣士”で、"BF-銀盾のミストラル”を攻撃! 『返しの刃』!」

 

 

アマゾネスの剣士

 

攻 1500

 

BF-銀盾のミストラル

 

守 1800

 

 

ミストラルの盾が、"アマゾネスの剣士”の剣を防ぐ。

しかしミストラルの弾き飛ばした剣は、回転しながら勝利の元へと届く。

 

 

 

勝利 LP4000 ー 300 = 3700

 

 

 

「ぐわぁ!? こ、この痛みは!?」

 

 

 

剣を受けた勝利が、肩を抑え蹲る。

それに驚いたミストラルが勝利の方へ振り返る。

 

「……大丈夫。ミストラル。気にしないで」

 

勝利は必死に笑顔で伝える。

しかし、肩の痛みは今のダメージが錯覚でないことを強く強く主張してくる。

 

 

 

(……今、確実に痛みが走った。これはまさか……千年アイテムを持つものが行う、闇のゲーム!? 遊戯君と、ペガサスが行った、あの!)

 

 

 

『フフフ。いい顔をするじゃないか。そうさ。これこそがお前たちのために用意した特別な舞台。信じるものと正真正銘命を削り合う、最高のデスゲームさ』

 

「マリク……貴様! いったいどこまで人の決闘を汚すつもりなんだ!?」

 

互いの声が届くのかも理解していない勝利はそれでも、マリクに向かって叫ぶ。

 

(……これじゃあ、うかつに舞さんにダメージを与えることはできない。でも戦わなければ、舞さんを取り戻すことなんかできない。くそ……どうすれば)

 

ちらとミストラルを見る。

ミストラルはこくりと頷いた。

 

(……やはり、まだ攻めるのは危険だ。多少LPを削られたとしても、ミストラルの守備力で耐えてもらうしか……)

 

 

 

 

 

 

「……時間を稼いでチャンスを待つつもりかしら?」

 

「っ!?」

 

勝利が目を見開き、舞を見る。

その様子に舞は邪悪な笑みを浮かべた。

 

「そうはさせないわ。あんたの迷いは、あたしが振り切ってあげる。このカードを使ってね! 永続魔法カード発動! ウイルスカード、"黒蛇病”!」

 

「っ!!!!!? こ、"黒蛇病”だって!?」

 

 

黒蛇病

 

永続魔法

 

カードを発動したプレイヤーのターン開始時に、200ポイントのダメージを与える

このカードのダメージは、ターンを進めるごとに倍増する

 

 

「このカードは、あたしのターンの開始時に互いのLPを200削る。そしてその病はターンを進めるごとに進行していき、200、400、800と、どんどんダメージを増やしていくのよ。これで時間稼ぎをすることもできなくなったというわけね」

 

「……プレイヤーに直接ダメージを与えるカードは、このバトルシティルールでは禁止されているはずだ」

 

(しかも、"黒蛇病”……なんて危険なカード。あんなの、舞さんのカードであるはずがない! マリクの奴、舞さんのデッキに手を加えやがったな!)

 

『そう。よりお前に苦しんでもらうために、その女のデッキは凶悪カードを入れて改造してあるのさ。進行していく病に苦しみ、ターンを進めるごとに弱っていく自分の女を見てお前も苦しむんだよ。はっはっは!』

 

「あたしはさらにカードを1枚セットして、ターンエンドよ」

 

 

 

 

勝利 LP 3700 手札 5枚

 

BF-銀盾のミストラル

 

守 1800

 

 

舞 LP 4000 手札 3枚 

 

アマゾネスの剣士

 

攻 1500

 

永続魔法 黒蛇病(0ターン目 ダメージなし)

伏せカード1枚

 

 

 

 

(……時間稼ぎも先に封じられた。僕がどれだけゲームを引き延ばそうとしても、"黒蛇病"の呪いが進行して決着がつく方が早くなってしまう。いったい……どうすれば舞さんを救えるんだ)

 

「さあ、勝利。あんたのターンよ! 早くカードを引きな!」

 

 

 

何度舞の顔を見据えても、舞は楽し気に笑うだけだった。

 

 

 

時限爆弾

爆発まで、あと37分




いよいよストック0の書いて出しになりました。
ちょっと残業が多すぎてどうやっても書き貯めになりません。

いつまで持つかわかりませんが、持たなかったらちょっとだけお休みするかもしれません。
悪しからず。



勝利vs舞は可能な限り駆け抜けたい。
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