勝利 LP 700 手札 2枚
ハーピィ・レディ1
攻 1300
舞 LP 4000 手札 0枚
BF-刻夜のゾンダ
攻 2300
BF-精鋭のゼピュロス
攻 800 → 1600
BF-疾風のゲイル
攻 1300
永続魔法 黒蛇病(4ターン目 ダメージ1600)
「はぁ……はぁ……」
膝を地につけたまま、整わぬ息をそのままに勝利がデッキに手を伸ばす。
が、腕が自分の意識より上に上がらず、ドローのために伸ばした手が空を切り、地面へと倒れ伏した。
『フフフ……もう、限界のようだね。何の力も持たぬ男が、闇のゲームを良くここまで戦うことができたものだ。そこだけは褒めてやるよ。黒羽勝利』
「……しょう……り……」
舞の光無き漆黒の瞳の奥で、マリクが笑う。
『残り時間は12分か……まあ、この女を解放してやる義理もないけど……決着がついたなら解放してやってもいいね。自分を救うために命がけで戦った男を、自ら手をかけた女の反応も面白そうだ』
「……」
そんな悪意を感じてか、決着を拒絶するように、勝利が身体を起こす。
しかし、体を持ち上げる腕の力を保てず、再び地面に突っ伏した。
(だめだ……体が、動かない……僕は、死ぬのかな? 舞さんを、助けることもできずに……)
そんなことは、あってはならない。
諦めることなど、していいはずもない。
そんなことは、頭では理解しているし、心はそれをはっきりと拒絶していた。
しかし、勝利の肉体が、体力が、それをよしとして動いてはくれなかった。
『かぁー!!』
『くわぁー!!』
『がぁ! がぁ!』
ゲイルが、ゼピュロスが、ゾンダが騒ぎ立てる。
しっかりしろ。
諦めるな。
死ぬな。
そんな叱咤が、勝利の心に届く。
しかし、それでも勝利は、動けなかった。
「ごめん……みんな……ごめんね……ハーピィ……ごめんね…………舞……さん」
その言葉を最後に、やがて、勝利の眼が閉じる。
勝利の視界は暗闇に染まり、BFたちの声も、遠くかすれていった。
『……くたばったか。よくやったね、孔雀舞。黒羽勝利は死んだ。お前の勝ちだよ』
舞の頭に、そんな声が響く。
舞はその声に、ほんの少しだけ表情を動かした。
「あたしの……勝ち?」
『ああ、そうだ。この決闘を最後まで続けることができなかった。お前の勝ちだ。黒羽勝利を、お前は倒したんだよ』
「あたしの……勝ち……? あはは」
舞は、笑った。
勝利に、勝った。
それは、舞の悲願だった。
「勝った……勝利に……勝っ……」
しかし、勝鬨を上げようとしたその瞬間に、舞の頭に激痛が駆け巡った。
『いずれ対等な立場で、もう一度あんたと全力でぶつかりあい、あんたを倒すわ!』
ドクン。
と、舞の心臓が鳴り響く。
『ただ決闘者としての純粋な想いで、あんたと、あんたの『BF』たちと向き合いたいのよ』
舞が、震える自分の身体を抑え込むようにその身を強く抱く。
『……ありがとうね。勝利』
(……見えるんだけど……見えないもの……)
「これで……終わり……?」
そして、次の瞬間。
怒号がその場を裂いた。
「立ちなさい! 黒羽勝利!」
その出来事に、マリクは言葉を失う。
その間に舞が次々と言葉を吐いた。
「こんな結末、許さないわ! あんたとあたしの決着は、互いのすべてをかけた、全力の決闘じゃなきゃあ意味がないのよ! こんな風に勝ったって、意味なんかない! 立て、立ち上がれ! 黒羽勝利!」
『ば、馬鹿な!? 僕の意思に反して……洗脳が解けたのか!?』
そんな可能性が脳を過る。
しかし、手元で怪しく光る千年ロッドを握り直し、頭を振る。
『いや、違う……洗脳は解けてはいない……まさか、この女の決闘者としての本能が、この決着を否定しているとでもいうのか!?』
マリクは驚愕しながら、舞を見る。
舞は、怒りのままに叫びながら……涙を流した。
「あたしと……戦いなさい! 勝利!」
勝利の指が、ピクリと動いた。
勝利は、一人、暗闇の中に落ちた。
(……なんか、懐かしいな。何も見えない、たった一人の闇。誰もいない地獄の、底。あの頃に、戻ったみたいだ)
夢か、現実か。区別すらもつかない。
暗闇の中で、勝利は独りになった。
周りには、何もない。
物がない。誰もいない。それだけではない。
空気があるかどうかさえ分からない。
概念がないようにさえ感じる。
無の空間。
そこに、勝利はいた。
(……なんだろうね。いよいよ本当に、地獄に来ちゃったのかな。それとも、走馬灯? 嫌な最後だ)
闇の中を藻掻こうと、体を動かそうとする。が、まったくもって動かない。
腕も、足も、首すらも、まともに動かせない。
立ち上がらなければいけない。
しかし、なぜそうしなければいけないのかも、よくわからない。
この闇に、勝利は飲まれていた。
(……静かだな。BFたちが来てくれた日からいつも僕の周りは賑やかだったから、こういうの、本当に久しぶりだ……)
なんとなく、この空間が心地よくなってくる。
まるで闇が、自分の身体に溶け込んできているかのように。
(でも……起きなきゃ……僕は……立ち上がらなきゃ……)
意志はある。
しかし、全身が固定されているかのように動かない。
やがて、意志も、闇に溶け出していった。
(……起きなきゃ……いけない……? なんでだっけ……?)
動けない今が、心地よく思えてくる。
ついには動くべき理由が、勝利から消えていく。
(……ああ。何か、気持ちいいや……もう、いいのかな。このままでも……)
ついに全身から、力を抜く。
五体を、闇に投地した。
「」
(……だれ?)
声が聞こえる。ような気はする。
しかし、勝利にはその声の主がわからない。
やがて勝利の身体が、ゆっくりと持ち上がる。
抵抗する力もない勝利は、そのまま持ち上げられ、どこかに運ばれていく。
(……誰か、わからない)
何もわからない。
ただ、その者が、今ここで腐りゆく自分を良く思っていないことはわかる。
声の主は、自分を助けようとしてくれているのだ。
(けど……もう、いいんだ。僕はもう、疲れたんだよ)
勝利はそう思った。あるいは、口に出していたかもしれない。
しかし、声の主の歩みは止まるには至らない。
(……もう、いいんだよ……僕にはもう、戦う理由が……)
ないんだ。
そう口にしようとしたその瞬間。
また、声が響く。
「立ちなさい! 黒羽勝利!」
その声は、体に直接響きわたるように勝利に届く。
勝利はふと目を見開き、音の方向を探る。
声は、遠い。
しかし、すぐ近くでその声は響き、勝利に伝わっていく。
(なんだ……この声は……どこから…………?)
必死に目を動かす。
しかし、近くには誰もいない。
幻聴なのだろうか。
そんなことを考えるほど弱気になったころに……それは勝利の目の前に現れた。
いや、それはずっと、勝利のそばにあった。
勝利の瞳に、それが映っていなかっただけで。
自分の首から垂れ下がったそれに、勝利はそっと手を伸ばした。
自分の腕が、ようやくそれに届く。
(……ネックレス……)
それは、勝利がずっと下げていた、赤い宝石をあしらうネックレス。
その瞬間に、勝利の中ですべてがつながる。
「あたしと……戦いなさい! 勝利!」
ネックレスから響き渡るのは……舞の声。
勝利にとって、勇気を震わせ、心を温めてくれる、魔法の声。
勝利はそっと、ネックレスを握る。
『あんたが、どうしようもなく苦しくて、辛いときは。そのネックレスを握りしめて、あたしのことを思い浮かべなさい』
勝利は、舞を思い浮かべる。
『そうしたら、あたしが、あんたの心を助けてあげる』
(そうだ……舞さん。僕は、舞さんに助けてもらった……何度も、何度も、何度も……)
ネックレスを握る勝利の拳が強まる。
身体に、力が漲ってきた。
(……もう、いい? いいわけないだろ……こんなところで……終わっていいわけないだろ!)
勝利の心が、再び燃え上がっていく。
マリクは、震えていた。
怒りか、怨恨か。
はたまた……恐怖か。
それは、誰にもわからなかった。
おそらく、マリクにさえも。
マリクには、何もわからなかった。
本能だけで戦おうとする、城之内も舞も。
そんな意識なき友の心を信じる、遊戯も。
そして……
今なお、立ち上がり、立ちふさがる、勝利のことも。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
息は見るからに絶え絶え。
体はまともに動いているところを探す方が難しいほどにぼろぼろ。
起き上がりざま地面にシミを作った滝のような汗は、彼の調子が十分でないことを明確に語っていた。
しかし、それでも、彼は立ち上がった。
まっすぐに、舞を見つめて。
「はぁ……はぁ……ありがとう、舞さん……」
立ち上がった勝利は、舞にネックレスを翳し、笑顔を向ける。
舞に反応がないのは、洗脳によるものか、それとも、操るマリクの心象を映したものか。
(そして……ありがとう。僕を助けてくれたのは……君だよね?)
勝利は、自分のフィールドに目を落とす。
そのモンスターは背を向けたまま、勝利を向くことはなかった。
だが、その舞に似た気高くも温かい心が、勝利にははっきりと伝わっていた。
「僕はもう……止まらない……君を助け出すその瞬間まで! 絶対に、あきらめないよ! 僕のターン、ドロー!」
勝利はドローを見て、そのままカードをたたきつけた。
「魔法カード、"貪欲な壺”を発動!」
貪欲な壺
魔法カード
墓地のモンスター5枚を選択し、デッキに戻す
その後、カードを2枚ドローする
「ミストラル、トラファスフィア、ピナーカ、ブリーズ、カルートの5枚を選択して、デッキに戻す。そして、カードを2枚ドローする!」
『ちっ……ここにいてドローカードだと? まずい……万が一、この状況でBFの大量展開が爆発し、孔雀舞のLPを削り切ることがあれば……』
マリクが顔を濁らせる。
しかし、勝利の心中は全く別のことを思い描いていた。
(これで僕の墓地から、モンスターはいなくなった……モンスターの蘇生やゼピュロスのような効果モンスターももう使えないし、手札のカードも、発動条件を満たせていない罠カードと、もう発動できない魔法カードだけ……いや、そもそも……今の僕のデッキに、舞さんを救うことができるカードが入っているのかどうかも、わからない……)
そう。勝利は、デッキのカードをすべて把握している。
勝利の今のデッキに、この状況を打開し、舞を助けるカードなど、勝利には思いついてはいなかった。
しかし、勝利に迷いの心はなかった。
(たとえ可能性がどこにもなくても……)
「僕はもう二度とくじけない!」
ネックレスを、強く握る。
(洗脳されようが……心を汚されようが……舞さんは、いつもそこにいてくれる。それが、わかったから)
「舞さんを助けるその瞬間まで、僕は戦う!」
勝利が勢いよく、カードを引く。
そしてその瞬間に、ネックレスが輝いた。
『な、なんだ!?』
マリクが怯む。
何が起きているのかもわからず、突如視界が奪われたことを訝しみ、警戒を強める。
舞は、虚ろな瞳のまま、しかし、
何かはわからない。
だが、
それを、感じ取っているかのようだった。
勝利には、
はっきりと見えていた。
舞う、黒羽。
大気震わす、その姿。
その赤い瞳はネックレスの宝石と同じ
赤く、黒く、光っていた。
「……君は?」
勝利は問う。
それは、答える。
そして、言う。
『想いは、同じ』
『行け』
「……君を……信じる」
勝利は、カードを構えた。
「君が……神でも、悪魔でも……誰だって構わない」
勝利は、その赤い瞳を、じっと見つめる。
「舞さんを救うため、僕に力を貸してくれ! 新たな友達!」
竜は、吠えた。
「僕は、"BF-南風のアウステル”を召喚!」
BF-南風のアウステル
闇属性 鳥獣族 星4(チューナー)
攻撃力 1600
守備力 1200
このカードは特殊召喚できない
このカードの召喚時、除外されたレベル4以下のBFモンスターを守備表示で特殊召喚する
「アウステルの効果発動! 除外されているレベル4以下のBFモンスターを、特殊召喚できる!」
「除外されているレベル4以下のBFモンスター……?」
『……ばかな! 除外カードだと!?』
「僕が特殊召喚するのは……"BF-蒼炎のシュラ"!」
『っ!? そのカードは、序盤で"闇の誘惑”で除外した……』
(まさか除外ゾーンを利用するとは……墓地のカードがなくなったからと、油断した!)
勝利 LP 700 手札 3枚
ハーピィ・レディ1
攻 1300
BF-南風のアウステル
攻 1300
BF-蒼炎のシュラ
攻 1200
舞 LP 4000 手札 0枚
BF-刻夜のゾンダ
攻 2300
BF-精鋭のゼピュロス
攻 1600
BF-疾風のゲイル
攻 1300
永続魔法 黒蛇病(4ターン目 ダメージ1600)
『ふ、フハハ……だが、そのモンスターたちを並べたところで、女のLPは削り切ることはできはしない! 当然、"黒蛇病”のダメージを防ぐこともね! これで終わりだよ!』
「……勝利……」
舞の口から、声が漏れる。
勝利は舞ににこりと笑顔を見せた後、鋭い目つきで、その奥の闇を見据えた。
「……まだだ。まだ、僕には、切り札が残っている」
『っ!!!? こいつ……見えて!?』
「行くぞ……マリク! これが……舞さんと僕の……すべてだ!!!」
勝利が、どこからともなく現れたカードを掲げる。
そのカードに、風が、闇が、熱が……力の波が、風となって集まっていく。
宛らそれは、漆黒の台風だった。
『なんだ……? いったい、何が起こる!?』
「レベル4モンスター、"BF-蒼炎のシュラ”に、レベル4モンスター、"BF-南風のアウステル”をチューニング!」
アウステルが宙を舞い、4つの星となってシュラへと降り注ぐ。
シュラはその力を持って、フィールドを駆け巡る風を、その身に受け入れていく。
「黒き疾風よ! 秘めたる想いを、その翼に現出せよ!」
風が吹き飛び、瞬いたその刹那。
「シンクロ召喚!」
闇を切り裂き、それは来た。
「勝利の夢よ! 想いを乗せて、舞い上がれ! "ブラックフェザー・ドラゴン”!!!」
ブラックフェザー・ドラゴン
闇属性 ドラゴン族 星8
攻撃力 2800
守備力 1600
シンクロモンスター
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
効果ダメージを受ける場合、代わりにこのカードに黒羽カウンターを1つ置く
このカードの攻撃力は、黒羽カウンターの数×700ダウンする
このカードの黒羽カウンターを全て取り除き、相手フィールドの表側表示モンスター1体の攻撃力を取り除いた黒羽カウンターの数×700ダウンする
攻撃力ダウンした数値分のダメージを与える
『な、なんだこれは!? シンクロ召喚だと!?』
「……"ブラックフェザー・ドラゴン"……勝利の、新たな友達……」
フィールドに降り立ったその竜は、明らかに異彩を放っていた。
空気が張り詰め、場にいるだけのその場の在り様を一変させてしまうその力に、マリクは覚えがあった。
『まさか……このモンスターが……こんなモンスターが、『神のカード』と同等の力を持っているとでもいうのか!?』
驚愕と怒りに震えるマリク。
しかし、勝利の想いは、まるで違う場所にあった。
「待ってて……舞さん。いま、届けるよ。僕は"アゲインスト・ウィンド”を発動!」
アゲインスト・ウィンド
魔法カード
自分の墓地に存在する「BF」と名のついたモンスター1体を選択する
そのモンスターの攻撃力分のダメージを受け、そのモンスターを手札に加える
「僕は、墓地の"BF-南風のアウステル"を選択する。このカードの効果によって、アウステルの攻撃力分のダメージを受け、アウステルを墓地から手札に加えることができる」
その効果を聞き、舞の眉がピクリと動いた。
「……何やってんのよ。勝利?」
『は、ハハハ。何だ? 結局自分の身を犠牲にして、女を守ろうってわけか?』
不安げな舞、そして、嘲わらうマリク。
そして、優しく笑う勝利。
「大丈夫……"ブラックフェザー・ドラゴン”の、効果発動! 効果ダメージが発生したとき、"ブラックフェザー・ドラゴン”に黒羽カウンターを乗せることでそのダメージを無効にする!」
ブラックフェザー・ドラゴン
黒羽カウンター 0→1
攻撃力 2800 → 2100
「ダメージを受けなかったことにより、"アゲインスト・ウィンド”は不発に終わる」
「……無意味な発動? いや、違う……」
舞が、その動きの意味を読む。
勝利はそれに、もう一度笑顔を返した。
「そう……これで、すべては整った」
勝利 LP 700 手札 2枚
ハーピィ・レディ1
攻 1300
ブラックフェザー・ドラゴン
攻撃力 2100
黒羽カウンター 1
舞 LP 4000 手札 0枚
BF-刻夜のゾンダ
攻 2300
BF-精鋭のゼピュロス
攻 1600
BF-疾風のゲイル
攻 1300
永続魔法 黒蛇病(4ターン目 ダメージ1600)
勝利は、深く呼吸した。
その目には、覚悟が宿っている。
「行くよ、舞さん! "ブラックフェザー・ドラゴン”の効果発動! 黒羽カウンターを取り除くことで、フィールド上のモンスターの攻撃力を、カウンターの数×700ポイント下げることができる。そして、下げた分のダメージを、舞さんのLPに与える! 行けっ、"ブラックフェザー・ドラゴン”。対象はゼピュロスだ! 『ブラック・バースト』!」
ブラックフェザー・ドラゴン
黒羽カウンター 1→0
攻撃力 2100 → 2800
BF-精鋭のゼピュロス
攻 1600 → 900
舞 LP 4000 ー 700 = 3300
"ブラックフェザー・ドラゴン"が巻き起こした黒い突風がゼピュロスを突き抜け、その風が舞のもとへと届く。
襲い来る風に舞は目を瞑り、身体を身構える。
だが、数秒そのまま固まっていても、舞の身体に痛みは訪れなかった。
その様子に、勝利はチャンスを確信した。
『ぐ、ぐわぁあああ!!? な、なんだ!? この痛みは!?』
「ま、マリク様!?」
マリクに、グールズの男たちが駆け寄る。
マリクは肩を抑え、蹲った。
マリクの腕から、千年ロッドがこぼれ落ちる。
舞の額から、金の瞳の紋章が薄まる。
その瞬間に、勝利は高らかに宣言する。
「バトル! "ハーピィ・レディ1”で、"BF-精鋭のゼピュロス”に攻撃!」
『ハァア!』
宣言と同時、ハーピィが舞い上がる。
ハーピィの翼に、竜の黒羽が重なった。
「届け、舞さんの心に! マリクの闇を、切り裂いてくれ! ハーピィ・レディ! 『
ハーピィが、勢いよく滑空する。
ゼピュロスは、ハーピィの爪を、翼を広げ受け入れた。
ゼピュロスを貫いたハーピィの爪が、そのまま、舞の胸へと突き刺さる。
(届け! 届け!)
「とどけぇーーーーーーーーー!!!」
舞 LP 3300 ー 400 = 2900
「……しょう……り?」
その一言だけで、勝利は、確信した。
想いは、届いたのだと。
舞の眼に、すっと光が宿る。
『く、くそ……LPが……これで、"黒蛇病"が発動すれば、孔雀舞のLPだけ0になり、奴の勝ち……お……の……れ……』
マリクの闇の気配が、途絶える。
勝利はそれを感じ取り、大きく息を吐いた。
「勝利……ここは……? あんた、ここでなにを……」
舞は困惑した表情で、周りを見る。
状況の意味が分からない。
必死に周りを見る舞のその仕草すら、勝利には懐かしく、そして、愛おしかった。
(……よかった……舞さん。帰ってきたんだ)
微笑む勝利。
しかし、舞の表情はすぐれない。
生気を取り戻した舞の表情が、理解とともに濁っていく。
「……なんで……なんであんたとあたしが、戦ってんのよ……なんであんた……そんなぼろぼろなのよ……!?」
勝利の腕を見る。黒ずんだ肌の中に、切り傷が見える。
勝利の足を見る。黒ずんだ肌の中に、擦り傷が見える。
勝利を見る。
立っているのが不思議なほどに、満身創痍だった。
なんで。
なんで。
頭を抑えながら、何度もそう零す舞。
覚えているのだろうか。
それとも、心が、何かを感じ取っているのだろうか。
苦しむ舞に、勝利は笑って首を振る。
「……大丈夫。僕たちの戦いは、もう終わったよ」
その勝利の言葉に、舞は一筋、涙を流す。
すべてを察したように、呟いた。
「……あたしが……あたしがやったのね……あたしが、あんたを、傷つけたんだ……」
「違うよ。舞さん」
震える声で言う舞に、勝利はすぐに言葉を重ねた。
その言葉は力強く、そして、温かい。
「舞さんは、僕と戦ったんじゃあない。舞さんは、必死にマリクの力に抗った。そうして舞さんはマリクを拒絶し続け、決闘者としての心を守り切った。だから僕は、舞さんを救い出すことができた。僕たちは、二人で戦った。だから僕たちは、マリクに勝ったんだ」
「勝利……」
「……舞さん。本当によかった……」
勝利の心からの歓喜に、舞は別の涙を零す。
そしてその涙をすぐに拭い、ちらと上を見た後、勝利に向き直った。
天井の爆弾のタイマーが、「2:00」を切っていた。
「……もういいわ、勝利。勝負を決めて」
「……」
舞はもう、わかっている。
記憶は朧げだが、自分の助けてくれた、あの竜の力。
誰よりも優しい、勝利を象徴する竜。
その力さえあれば、勝負は決まる。
「"ブラックフェザー・ドラゴン”さえいれば、あんたは"黒蛇病”のダメージを受けずに済む。そうなれば、あんたの勝ち。決闘は終わるわ」
覚悟、などという大層なものでもない。
これ以上勝利に、不要な苦しみを与えたくはない。その一心だった。
「あたしのことは、気にしなくていい。これは、ただの報いよ。あんたを苦しめてしまった、罰を受けるだけ。あんたは、生きてここを出なさい」
そんなことを言っても、勝利が納得するはずはない。
勝利のそんな性格は、舞が誰よりも一番よくわかっている。
それでも、少しでも。
これからの勝利の重荷になりたくはない。
最後くらい、笑顔で。
「勝利。あたしね……勝利に出会えて、本当によかった」
笑顔で、そういう舞。
素直じゃない舞の、素直な心。
過去を伏せる勝利の、表情は見えない。
ほんの数秒、静寂が支配した後。
勝利が顔を上げ、笑った。
「……バトル終了。カードを1枚セットし……ターンエンド」
勝利 LP 700 手札 1枚
ハーピィ・レディ1
攻 1300
ブラックフェザー・ドラゴン
攻 2800
舞 LP 2900 手札 0枚
BF-刻夜のゾンダ
攻 2300
BF-疾風のゲイル
攻 1300
永続魔法 黒蛇病(4ターン目 ダメージ1600)
「……勝利?」
舞は、何が起きているのかわからなかった。
勝利が、自分の覚悟を、最後を、受け入れてくれた?
(そんなはずはない。そんな、物わかりのいい男じゃあない)
そんな簡単にあきらめてくれる男ならば、今彼が舞の前に立っていることすらなかっただろう。
だからこそ、命を懸けて。
残りの1分半を、勝利の説得に使うつもりだった。
何か、考えがあるのか。
そう思って、勝利が伏せたカードを視野に入れる。
その瞬間に、
舞の顔が、一気に青ざめた。
「あんた……まさか!? まさか!!!!?」
(……気づいちゃったか。こんなほんの少しのヒントで。さすがだな、舞さん)
勝利は少し、ため息を吐く。
その様子を見て、舞は確信した。
「いや……いやよ……やめて、勝利……」
もはや震える声を抑えることも、涙をこらえることもできず、舞はただ泣いた。
その渾身の懇願はしかし、勝利には欠片も届かない。
勝利の決意を揺るがす力に、なりはしなかった。
(……そんな顔が見たくなかったから、ばれたくなかったんだけどな)
舞さんのターンが始まるまで、最後の時間をもらえた。
勝利は、そう思うこととして、ゆっくりと話し始める。
「舞さん。僕ね、一目惚れだったんだ」
舞は、固まったままだった。
像のように動かない舞の瞳から零れ落ちていく涙だけが、時の経過を残酷に告げる。
「今でも、はっきり覚えてる。こんな綺麗な人、この世にいるんだ。と思った」
まるで宝物を一つずつ取り出して自慢していくかのように、勝利は優しく、そして大切に指折りながら話していく。
「そのあと、部屋に誘われちゃってさ。舞さんと、決闘になった。あの時のこと、覚えてるかな。僕、『運命』って言ったんだよね。本当に、そう思ったんだよ」
「……待って、待ってよ。勝利……」
舞の懇願を、勝利は受け入れない。
返すのは、優しい声の、想いで話だけだった。
「……BFと、ハーピィ。戦えて本当によかった。デッキ相性、ってだけじゃない。舞さんのハーピィが、本当に嬉しそうに戦っているのがわかったから。嬉しそうに戦うハーピィと、BFたちで全力で戦えるのが、うれしかった」
勝利の言葉は、止まらない。
王国でともに過ごした日々。
互いのために戦い、互いのために怒り、互いを想いあった日々。
その一つ一つが、大切に取り出されていく。
「舞さんが、言ってくれた。『独りじゃない』って。僕はその言葉に、何度も救われた。僕は、過去に向き合うこともできた。全部、全部、舞さんのおかげだ」
「違う……違うのよ。勝利……」
(あたしが聞きたいのは、そんな言葉じゃない……)
舞のその想いを否定するがごとく。
決闘盤の警報音が鳴り響いた。
舞がターンを始めないことに怒る決闘盤が、限界を知らせている。
「……時間か」
早いな。とつぶやいた後。
勝利が、カードに手を掛ける。
膝から崩れ落ち、固まる舞。
決闘盤が、自動でカードを1枚山札からはじき出す。
舞のドローが、終わってしまう。
舞のターンが始まり、
"黒蛇病”が、浸食を始めた。
それを見て、勝利がそっと、伏せカードを開いた。
「伏せカードオープン。"フェイク・フェザー”」
フェイク・フェザー
魔法・罠カード
BFモンスターを一枚手札から捨て、相手の墓地の罠カードを一枚奪い取る
「"BF-空風のジン”を捨てて、効果発動。舞さんの墓地から、罠カードを奪い取り、自分のカードとして使用する」
BFたちが察し、どうすればいいかわからずに困惑する。
ブラックフェザー・ドラゴンが、静かに、動き始める。
ハーピィの表情は、わからない。
「僕が盗み出したのは、"スウィッチヒーロー”。これによって、舞さんと僕のモンスターが入れ替わる」
ありがとう。ハーピィ・レディ。
ありがとう。ブラックフェザー・ドラゴン。
君たちのおかげで、舞さんを救うことができた。
「……最後に話す時間をもらえて、よかった」
「待って……待ってよ!! お願いよ……勝利!」
「舞さん」
勝利は、笑顔を見せた。
涙を零しながらも、それは曇りない、満面の笑顔。
「愛してる」
「僕は舞さんと出会えて、本当に幸せだった」
黒蛇病 5ターン目 効果起動
舞 LP 2900 ー 0 = 2900
ブラックフェザー・ドラゴン
黒羽カウンター 0→1
攻 2800 ー 700 = 2100
勝利 LP 700 ー 3200 = 0
孔雀舞 WIN
この小説を思いついた時から、この決闘だけは絶対のものとしていました。
アウステルの墓地効果を使えば、ブラックフェザードラゴンに大量にカウンターを乗せられるのですが、今回はスルーしました。
やはり最初の効果発動は、ダメージ無効であってほしいし、舞さんに無意味にダメージ与えるのも、勝利のプレイに合わないのでね。