遊戯王~黒き羽根は夢に舞う~   作:haruko

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答え

 

 

 

 

童実野埠頭。

 

広い海を一望できるその先端にて、ずぶ濡れの遊戯と、城之内が向かい合う。

 

 

全力の決闘のあと。

死力を尽くして戦いきり、生き残った二人。

しかし、その表情は対照的だった。

 

 

 

 

「遊戯……俺は……俺はっ! すまねぇ!」

 

「……もういいんだ。城之内君」

 

「だ、だけどよぉ……俺は遊戯に……」

 

 

 

 

「僕たちは、互いに大切なものを守った。それだけだよ……」

 

 

 

 

城之内の号哭を、遊戯が否定するように優しい言葉をかぶせる。

埠頭を、夕焼けが照らす。

 

 

 

遊戯と、城之内。

 

 

 

血塗られた舞台で幕を開けた二人の決闘は、終焉を迎えた。

 

 

遊戯はその優しさで城之内の心を救い、

城之内は、その強さで遊戯を救った。

 

 

 

死が目前に迫ったとしてもそれは、形を歪むことはなかった。

 

 

 

 

 

二人の友情は、マリクの洗脳術を上回ったのだった。

 

 

 

 

 

しかしそれでも。

城之内は、自分自身を許すことはできなかった。

 

 

遊戯に牙を剥けた自分が。

遊戯との友情の証、そしてバトルシティ再戦の誓いである真紅眼の一撃をもってしても、自分の力で洗脳を打ち破ることができなかった自分が。

 

洗脳されていることを感じつつも、抗いきれなかった自分の弱さが。

 

何よりも恨めしかった。

 

 

「……俺は……俺は……決闘者、失格なんだよ!」

 

「……城之内君」

 

 

遊戯は、歯がゆかった。

遊戯は城之内を恨んでなどいない。

 

しかし、その言葉は今の城之内には届かない。

城之内は自身の弱さを、受け入れてしまっていた。

 

 

洗脳に抗う、心の強さ。

友情に命を懸けることができる、優しさ。

 

 

その強さを、認めることができなかったのだ。

 

 

 

(……今の城之内君には……僕の言葉じゃあだめなのか)

 

 

 

 

せっかく、元通りに戻れたのに。

遊戯の心は、悔しい思いであふれていた。

 

 

 

 

 

そんな二人に、黄色い声が届く。

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん!!」

 

 

 

 

 

「っ!!!? 静香!!?」

 

 

 

 

城之内と遊戯が、勢いよく振り向く。

 

そこには、目に包帯を巻いたままこちらを望む一人の女性がいた。

実際に会うのが初めてな者も、全員が理解した。

 

 

彼女こそが、城之内が王国ですべてをかけてでも救いたかったたった一人の妹。

病気を患い、二度と目が見えなくなるというところから、城之内君が救い出して見せた少女。

 

 

河合静香だ。

 

 

「静香……お前、なんで……?」

 

「まっ。お前は遊戯や勝利と違って、決闘者としちゃあ未熟もんだからな。助っ人を連れてきてやったのさ」

 

「本田っ!? それに、御伽も!?」

 

「……まっ。暇だったからね」

 

城之内と同じく洗脳が解けた杏子が、状況を整理すべく現れた仲間に声をかける。

遊戯と杏子が本田たちに駆け寄り、仲間との再会を喜んだ。

 

しかし、そんな中でも城之内の表情はまだ優れはしなかった。

 

 

「……本田」

 

 

「……」

 

 

本田に向かって、何とも言えぬ表情を向ける城之内。

静寂が、場を支配した。

 

 

 

 

「お兄ちゃん」

 

 

 

 

静香の呼びかけに、城之内は振り返る。

 

そしてその光景に、思わず絶句する。

 

 

 

 

 

 

静香が、目の包帯を外し、投げ捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

「静香!? お前……」

 

「あたし……怖がってばかりだった。お兄ちゃんに、頼ってばっかりだった。あたし、聞いたの。前の大会でお兄ちゃんが、あたしのためにどれだけ頑張ってくれたのかを。だってお兄ちゃん、全然話してくれないんだもの……」

 

「静香……」

 

「そして……あんな遠くにいた私が、今お兄ちゃんの近くにいる……お兄ちゃんのお友達が、私を支えてくれたから……だから今度は、私が、勇気を出す番なの」

 

 

 

 

 

静香は、ゆっくりと、目を開く。

 

 

もう二度と、最愛の兄の顔が見られないかもしれない。

その恐怖で、決して振り払うことのできなかった闇。

 

 

そこから静香は、大きな一歩を踏み出した。

ほかならぬ自分の足で、城之内に歩み寄った。

 

 

 

 

「……静香……」

 

 

 

「……やっと……お兄ちゃんを見つけた」

 

 

 

 

 

二人は、優しく抱き合った。

病が、距離が引き裂き、切り離した時間を埋めるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも本田。あんたたちどうやってここまで来たのよ? まさか静香ちゃんを連れて歩いてきたわけじゃないんでしょ?」

 

「……というか、本田君たち。その車……」

 

本田たちの方を見て不思議がる杏子と遊戯。

その本田たちの後ろには、彼らが乗ってきたであろう、真っ赤なプジョー(・・・・・・・・)が鎮座していた。

 

「一体誰の車よ? まさか、あんたの車なわけないし」

 

「おっと、そうだった。忘れてたぜ。おい、遊戯、城之内」

 

「あん? なんだよ、本田?」

 

 

 

 

 

「舞のこと知らねーか? 実は童実野町についたときに舞にばったり会ってよ。この車で決勝戦の会場に連れてってくれるって言ったんだが、コンビニ休憩はさんでいるときにいなくなっちまってよ」

 

「それで舞の姐御に電話したら、童実野埠頭の汽笛が聞こえたっていうから、仕方なしに姐御の車を拝借してここまで来たってわけさ。僕もアメリカ暮らしの時に運転は心得てるからね」

 

 

 

 

 

「あん? 舞? 舞も近くにいるのか?」

 

「そうよ。お兄ちゃん。私、お兄ちゃんの王国の決闘のこと、舞さんに教えてもらったのよ。とっても素敵なお話たくさん聞けたの。『また後で話しましょうね』って言ってくれたのに、急にいなくなっちゃったから、心配してたのよ」

 

何も知らずに、彼らの言葉に疑問符を返す城之内。

遊戯と杏子に状況を確認しようとして顔を回したところで、城之内はぎょっとした。

 

 

そこにいたのは、青ざめた表情で絶望を浮かべる遊戯と杏子の姿だった。

 

 

「お、おい……遊戯、杏子?」

 

「……戦いは、終わっていない! 勝利君たちが、戦っているんだ!」

 

「舞さん!」

 

杏子は知っている。自分を、モクバを助けてくれた舞もまた、グールズにとらえられているはずだということを。

 

遊戯は知っている。舞と勝利が、自分と城之内と同様に命を懸けた決闘をさせられているであろうことを。

 

 

 

「行こう! みんな! 勝利君と舞さんを助けに行こう!」

 

 

 

遊戯が駆け出し、その後ろを杏子が、それに倣うように皆がついていく。

 

 

 

 

 

 

 

遊戯は埠頭の先を抜け、倉庫のある方向へ駆け出そうとしたその時。

 

自分たちが向かおうとしていた方向から閃光が視線を貫き、轟音が遊戯たちの耳を震わせた。

 

 

 

 

 

 

全員が足を止め、呆然とそれを見つめる。

 

杏子が「……嘘?」と、絶望の言葉を漏らした。

 

 

 

 

 

 

自分たちが目指していた方向。

その一か所の倉庫から、火柱が立ち上る。

 

 

 

 

 

 

全員が一様に、最悪のケースを想像した。

 

 

 

 

 

 

 

そして、数秒固まった後、誰からともなく順々に走り出していく。

一抹の願いを、胸に込めながら。

 

 

 

 

 

 

 

(……無事でいてくれ! 勝利君! 舞さん!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

掠れた視界から、天井が見える。

突然のことに混乱し周りを見ようとするが、体がピクリとも動かない。

 

勝利は上向きに、地面に横たわっていた。

 

 

 

 

 

 

 

(何を、していたんだっけ。僕は……)

 

 

 

 

 

覚えのない景色に固まる勝利。

が、体から痛みがじんわりと立ち上ってくるのと同時に、すべてを思い出した。

 

 

 

 

 

マリクによる、卑劣なゲームの終幕。

 

助かった。

助けることができたのだ。

 

 

(持ってくれた……僕の体。最後の、一撃まで)

 

 

そして記憶がなだれ込んだのちに、勝利は天井を確認する。

指先の一つさえもピクリとも動きはしないが、それでも必死に瞳を動かして、見たい景色を探した。

 

 

すぐにそれは見つかった。

 

 

 

時限爆弾。そして、そのタイマー。

 

 

 

爆弾は、存在している。

まだ爆発はしていない。

 

 

タイマーを必死に確認する。

時間は、『0:27』。

 

 

残り27秒で、タイマーは終わる。

 

 

その後は倉庫を吹き飛ばす大爆発が起こり、この場は木っ端みじんに吹き飛ぶ。

 

 

 

 

 

当然、中の人間など無事ではいられない。

 

 

 

 

 

(舞さんは、逃げられたかな……)

 

 

 

 

 

 

気にしないで。

って言ったけど。

気にしちゃうだろうな。

 

 

 

忘れて欲しい……

だなんて、言えなかったけど。

 

重荷には、なりたくないな。

 

 

 

そんなことを考え目を閉じる。

が、頭が、持ち上がる感覚が勝利を覚醒させた。

 

 

 

 

目を開ける。

目の前が……最愛の人の、悲しみの表情でいっぱいだった。

 

 

 

 

舞さんの拘束は、外せたんだ。

それは良かったけど……

 

 

 

 

舞がここにいてはいけない。

 

そう思い体を動かそうとするが、まるで動きはしない。

 

舞を、止めることも、追い払う力も残ってはいなかった。

 

 

 

攻めて、声を。

そう思い、痛む身体に、内臓に鞭を入れ、必死に肺に残る空気を吐き出して音を形にする。

 

 

 

 

 

 

 

「……に……げ……て」

 

 

 

 

 

 

自分の耳にすら、かろうじて届く程度の声量。

だがしかし、確かに、音を出せた。

 

すると舞が目を丸くしてこちらを覗いた後、顔を怒りの形相に変えたのち、声を上げる。

 

 

もはや体の機能がまともに動いていない勝利に、舞の怒号は届いてはいない。

だが、それでもかろうじて、何を言っているのかは分かった。

 

 

 

馬鹿。

 

 

 

舞の口は一言、そういった。

 

勝利は、心で舌打ちをした。

 

 

 

 

逃げてほしい。

助かってほしい。

 

 

 

 

言葉を、想いを届けるのは簡単なのに。

今の舞にそれをさせることがどれだけ難しいことなのかを、勝利は理解している。

 

 

 

 

舞は、勝利の足元で甲高い音を鳴り響かせる。

倉庫に落ちていた金属部品で、足をつなぐ鎖に何度もたたきつける音だった。

 

 

舞は、勝利のLPを0にしたことで自分の拘束を外すことができたのだろうが、勝利は舞のLPを0にすることはできなかった。

故に、勝利の拘束具のカギは手に入る機会を逸し、たとえ動けたとしても勝利はこの倉庫から出ることができない状態となっている。

 

 

舞は鉄の棒を、鎖に、鍵が入る箱に何度もたたきつける。

しかし舞の細腕では、それらは表面を傷つけるので精いっぱいだった。

 

 

「無理……逃げ……て……みんなと、一緒に……」

 

 

視線で、デッキを指す。

一緒に戦ってくれた友達たち。彼らもまた、自分の道連れになどしたくはない。

 

自分のデッキと一緒に、ここから離れてくれ。

それを必死に伝える。

 

 

 

がらん。という音が鳴る。

舞が、鉄の棒を床に落とした音。

 

 

 

諦めて、くれたのだろうか。

そう思ったその瞬間に、勝利の身体が持ち上がった。

 

 

舞が、勝利の動かない体を抱きとめる。

勝利の体が不要に痛まないように、優しく、柔らかく、包み込むように抱きしめた。

 

 

「……お願い……逃げて……」

 

 

 

必死に、言葉を吐き出す。

しかし帰ってきたのは、抱擁と、熱い雫。

 

 

舞の顔から、とめどなくこぼれ落ちる涙が、勝利の顔を伝っていく。

 

 

 

「……できるわけないでしょう!」

 

 

 

「お願い……逃げて……逃げてよ……」

 

同じ言葉を繰り返す。

勝利に見えるタイマーは、もう一桁に入った。

 

しかし、舞は動かない。

勝利を、決して離しはしなかった。

 

 

 

「まだ……あんたの口から、聞いてない」

 

 

何を意味しているかは、分かる。

しかし、言えない。

 

(……今じゃない。今言ったらそれは……あなたの永遠の楔になる)

 

 

だからこそ。

諦めてほしかった。

自分の存在で、彼女を支配したくはなかった。

 

 

 

だが、舞はそれだけの理由で、ここにいる。

生涯を、残り5秒にかける。

 

 

 

 

 

「……あたしは、あんたを離さない。離れない。あんたの友達だって、絶対にそう思ってる!」

 

 

 

 

 

 

勝利と舞の頭に、甲高い声が鳴り響くと同時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時が、訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝利と舞は、目をつぶる。

 

 

 

 

 

 

 

 

すべてを、時に委ねた。

それしか、できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

そして、祈った。

 

どんな奇跡でも、構わない。

 

 

 

 

 

 

勝利だけは。

 

 

 

舞さんだけは。

 

 

 

 

 

 

生きててほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

身を焼かれる熱を覚悟した。

すべてを吹き飛ばす爆風を覚悟した。

 

しかし、二人に死の宣告は、届かなかった。

勝利の、舞の、互いのぬくもりが。

身体を走る痛みが。

ここがまだ現世であることを伝えてくる。

 

 

 

二人は、そっと目を開ける。

 

 

 

そして……声を失った。

 

 

 

 

 

 

 

二人の周りに作られていた。透明な壁が、二人を熱から、衝撃から、守ってくれていた。

 

 

 

 

 

 

何が起こっているのか。

二人には、はっきりと見えている。

 

 

 

 

 

『ぴ……ぴぃ!』

 

 

 

 

 

「ブリザード……ジェット……ミストラル……」

 

「こ、この子たちが!?」

 

小さな体で必死になって、愛する人たちを守ろうとする、勝利の友達。

 

彼らの力の形など知りはしない。

彼らが今何をしているのかなど、知りようはずもない。

 

だが、はっきりとわかる。

皆が、勝利たちを取り囲み、全力で二人を守ってくれていた。

 

 

爆弾による瞬間的な爆風は、ほんの数秒で終わりを告げる。

それと同時に、自分たちを守っていた透明なドームが消え、皆が地に倒れ伏し、デッキへと戻っていく。

 

 

 

その数秒を彼らは、死力を尽くして守ってくれたのだ。

 

 

 

 

(……ありがとう。みんな)

 

 

 

勝利はほんの少し笑い、デッキを一瞥しながら、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、それでも。

そんな奇跡が起きたとしても。

 

状況はわずかに変わったのみで、好転はしていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

倉庫に残る資材が燃え盛り、燃料が二次爆破を引き起こす。

倉庫は一瞬にして、火に飲み込まれた。

 

 

 

 

 

 

「っ!? だめ! このままじゃあ……勝利は結局、火に飲み込まれる!」

 

 

舞は、勝利を抱え上げる。

もはや勝利の体は力なく舞に委ねられるだけ。

 

勝利をつなぐ鎖は温度を上げるだけで、一向に外れようとしない。

 

何度勝利を連れ出そうと引っ張っても、外れてはくれなかった。

 

 

 

 

「なんで……? なんでよ!? どうしてなのよ!?」

 

 

 

 

(勝利は……勝利の友達は……何度も命を懸けてあたしのことを救ってくれたのに……なんで……なんであたしは命を懸けても、勝利たちを救えないのよ!?)

 

 

炎が広がり、二人の周りを容赦なく包み込む。

出口も燃え落ちてきた瓦礫にふさがり、もはや出口もふさがる。

 

 

しかし、舞はそれすらも気づかずに、まっすぐに勝利を見つめていた。

傷だらけの勝利を見つめ、力を籠めるだけの舞の手では、何も変えることができない。

 

祈るしかできない自分の力が、あまりにも恨めしかった。

 

 

 

 

 

 

 

「……お願い……誰でもいい。どんな方法でもいい。何だってする! 勝利を……助けて!!!」

 

 

 

 

 

 

舞の背中に、炎が迫る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間に。

倉庫に、一陣の風が吹き抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黒羽さーん。入りますよー」

 

ノックと同時、ナースが部屋に入る。

中のものが自発的に動くことはないだろうとわかってはいるものの、礼儀と形式として声をかける。

 

案の定、患者はベッドで体を起こし、窓を見つめたまま動かぬ状態だった。

 

それに嘆息も落胆もすることなく、粛々と用事を進めていくナース。

着替えや食事後の食器を整理し、夕暮れの西日が当たりすぎないようにカーテンを調節する。

 

 

せわしなく動くナースの姿にしかし患者、『黒羽白』は動くことはなかった。

 

 

入院してから、ずっとこの状態。

だがナースはめげることもなく、根気よく白とのコミュニケーションを続けていた。

 

 

「そういえば、勝利君。今日またカードゲームの大会に参加するんですってね」

 

「……」

 

 

白と話せる話題として仕入れた噂話を話してみる。

それでも、白からの反応はない。

 

これまでも彼女の兄、真黒が、勝利のトロフィーをもって報告に来ていた時にも反応はなかったため、これも想定内。

所詮は毎日話す話題の内の一つ。

これから、こういう日々を続けていけばよいのだ。と、ナースはいつも通りに話を続ける。

 

 

 

「勝利君。すごいですよね。いろんな大会で、すごい成績をいっぱい残して。強くてかっこいい、自慢のお子さんですよね」

 

 

 

こないだ、美人の彼女さんも連れてきて、紹介なんてしちゃってましたし。

いいですよねー。

 

等と世間話を始めるナースは、気づけなかった。

 

 

 

 

白の瞳が、瞼が、ピクリと動く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……勝利が……強くて……かっこいい……?)

 

 

 

 

 

 

 

『……お母さん。待って……』

 

『ひっぐ……うぐっ……』

 

『助けてよ……お母さん』

 

 

 

白の頭に駆け巡る勝利。

それは、すべて、泣いている勝利だった。

 

すべて、自分たちのせいで。

勝利はずっと、苦しんでいた。

 

それでも白にとって、勝利は、強さとは縁遠い子供だった。

 

 

 

(勝利……)

 

 

 

そして白が最後に思い出す、笑っている勝利。

 

 

 

それは。知りもしないカードを買ってあげた時の、勝利。

 

 

 

『お母さん。ありがとう!』

 

 

 

勝利は弾けんばかりの笑みで、白に告げた。

喜んでくれるのはもちろんうれしい。

しかし、以前より欲しかったわけでもない。ただ目についただけのカードゲームを、何枚か買っただけ。

 

なぜそんなにも嬉しそうにしていたのか。

白にはわからなかった。

 

だがその笑顔は、何年たとうとも白の頭から消えることはなかった。

 

 

 

 

『お母さん、僕ね! もっと勉強するよ!』

 

 

『勉強して、学校に行って、友達を作って』

 

 

『お母さんを、安心させてあげる!』

 

 

『それでね。お母さんに、僕のお嫁さんを見せてあげる!』

 

 

 

 

 

『そしたら。お母さん、もっと喜んでくれる?』

 

 

 

 

 

そう言って、笑う勝利。

 

後に、気づいた。

 

 

勝利が羅列したそれは、白が勝利に臨んだことだった。

 

 

勝利は言った。

 

 

お母さん。僕にしてほしいことはない?

僕、お母さんのために頑張るよ!

 

 

それに白は言った。

 

 

 

特別なことなど、何もいらない。

 

 

 

 

私は、ただ勝利が。

普通の幸せをつかんでくれさえすれば、それでいい。

 

 

普通に学校に行って。

普通に友達を作って。

 

 

楽しく人生を過ごして。

 

 

大きくなったら、きれいなお嫁さんを連れて、お母さんに紹介してくれたら。

 

 

 

お母さん、とっても嬉しいな。

 

 

 

そう、言った。

 

 

 

 

 

 

それを勝利は、覚えていた。

何よりも大切に、心に刻んでいた。

それだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝利は、決して強くなどなかった。

勝利は、かっこいい子供でもなかった。

 

むしろ弱くて、泣いてばかりの、不幸せな子供だった。

 

 

 

 

 

だが。

ずっと勝利は、優しい子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……しょう……り」

 

 

 

 

 

 

 

 

(大丈夫……あなたの優しさは……みんなに伝わっている。あなたの心は……みんなの、力になるわ)

 

 

 

 

 

 

 

 

窓から、一点をまっすぐ見つめる白の透き通った声が、病室に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝利……勝利! ねぇ、起きてよ! 勝利!」

 

泣き叫ぶ舞の声が、埠頭に響き渡る。

近くで未だ倉庫から響く燃ゆる炎を引き裂くそれはしかし、勝利に届いてはいない。

 

 

あれだけのダメージを受け、爆撃から守ってもらったとはいえ、炎の中に身を晒したのだ。

はっきり言って、起き上がる方がおかしい。

 

もしかしたら、安静にして、そっとしておくべきなのかもしれない。

しかしそれでも、今の舞に止まることはできなかった。

 

 

 

 

 

「……お願い。もう一度、あなたの声を聴かせて……勝利!」

 

 

 

 

 

泣き叫び、勝利を胸に抱く。

想いのままに、心をそのまま流し伝えるように、勝利の体を抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………いたいよ。まいさん」

 

 

耳に届いたその声に、舞は素早く体を話し、体を自分の正面に戻す。

 

目が、開いている。

こちらも見て、微笑んでいる。

 

 

 

 

優しい顔で、舞を見ている。

 

 

 

 

舞の、ほかの何よりも大切な笑顔が、そこにあった。

 

 

 

 

 

 

「……しょう……り?」

 

 

 

 

 

 

「……うん、僕だよ。舞さん。黒羽勝利」

 

ほらこの通り。と、おどけた様子で身体を起こし、手を広げる。

 

その仕草をした瞬間に痛みが走り、少し顔を歪めるが、それ以上に自分自身の行動に驚いていた。

 

 

 

(……全身の痛みが、消えている? いや、全部癒えたわけじゃないけど。それでも、さっきまで指一本も動かせなかったはずなのに……動けるようになってる)

 

なんで?

と口に出そうとしたその瞬間に。

 

勝利の頭に、叫び声が届く。

 

 

 

「っ……」

 

 

 

勝利はそれに驚いた後。開きっぱなしだった自分の決闘盤に目を落とす。

 

そこで光り輝いていた、一枚の、真っ白なカード。

 

 

 

 

新たな友達。

"ブラックフェザー・ドラゴン”。

 

 

 

 

彼の瞳が、勝利を射抜いた。ような気がした。

 

 

 

 

(……本当に、ありがとう。君のおかげだよ)

 

 

 

 

心の中で、そう声をかける。

が、そこまで考えた後で、再び疑問が浮かびあたりを見回す。

 

舞と勝利がいるそこは、埠頭のはずれ。

どこからどう見ても、倉庫の外。

 

自分は、どうやって外に出てきたのだろうか?

 

 

(足は……手錠でつながれたままだったはず……)

 

 

動くようになった体を起こして、ちらと自分の足首を見る。

そして、その光景に驚愕した。

 

 

 

 

 

手錠は、ついていた。

鎖が、ぶった切られた状態で。

 

 

 

 

 

思わず足を持ち上げて、鎖を垂らす。

どこからどう見ても鎖は途中で切れており、その先がなくなっている。

あれだけ舞が必死に叩いても砕ける様子の無かったそれが、きれいに切り離されていた。

 

 

 

 

「……なんで……どうやって?」

 

 

 

「勝利……」

 

 

 

 

困惑の中舞に声を掛けられ、足から舞に視線を戻す。

 

すると舞もまた、驚愕の表情で頭上を見上げる。

 

 

舞につられるように、勝利も空を見上げた。

 

 

 

 

 

そして、二人の表情がそろう。

 

 

 

 

 

二人の目に映ったのは。

 

 

 

 

 

『ぴぃ!』

 

『かぁー!』

 

 

 

 

 

二人の生還を祝福するように空に円を描きながら飛び回る、ブリザード、ゲイル、そしてBFのみんな。

 

 

 

そして、その中心にいるのが。

 

 

 

 

 

 

 

「……"ハーピィ・レディ”……」

 

 

 

 

 

 

舞のハーピィが、仏頂面でこちらを見つめていた。

勝利は、今度は舞の決闘盤に目線を移した。

 

 

"ハーピィ・レディ"に、鋭い目で睨みつけられたような感覚を覚え、勝利は、大きく笑った。

 

 

 

 

 

「……クックック。また、助けられたんだ……僕、ハーピィに。舞さんのハーピィが、僕を助けてくれたんだ」

 

 

 

 

勝利は力が抜けたように、起こした体を舞に預ける。

そしてそのまま、舞にまた微笑んだ。

 

 

 

「ありがとう、舞さん。僕を、助けてくれて」

 

 

 

その言葉に、舞は再び涙を流した。

 

 

 

 

 

 

 

「……馬鹿っ!!!!」

 

 

 

 

 

 

体裁も何もなく、ただただ、声を上げる。

驚いて固まる勝利に、舞は続けざまに叫ぶ。

 

 

「何が、ありがとうよ! 何が、何が助けたよ!?」

 

(助けられたのも……お礼しなきゃいけないのも……謝んなきゃいけないのも……全部あたしの方なのに)

 

 

 

「馬鹿、馬鹿、馬鹿!! 馬鹿よあんたは! 大馬鹿よ!」

 

 

 

ただただ、五月雨式に叫ぶ。

言葉にまとまりはなく、出てくる言葉は罵倒の言葉ばかり。

 

しかし勝利は、笑いながら言う。

 

 

 

「そうだね……僕、馬鹿だった。舞さんが僕をおいて、逃げてくれるわけないのにね。ごめんね、舞さん。辛い思いさせて」

 

 

 

その言葉に、舞は二の句が継げなくなり、ただただこぼれ落ちる涙で勝利を濡らした。

 

(……違う……違うのよ……あんたに、そんなことを言いたいんじゃないの)

 

舞は濡れた顔を必死に拭き、顔を整える。

煤や灰で汚れた顔はいつも通りとはいいがたかった。

だがそれでも、少しでも良い顔で勝利と向きあいたい。

その一心だった。

 

深呼吸して必死に気持ちを落ち着ける。

 

心で、真に伝えたいことを整理し終わってから、勝利の体をゆっくりと起こし、向き合って勝利に伝えた。

 

 

 

 

 

 

「勝利……ありがとう。あたしを助けてくれて……あたしのことを、信じてくれて。勝利が生きててくれて……本当によかった」

 

 

 

 

 

 

そっと、勝利を抱き寄せる。

うん。と一言返して、勝利も、そっと舞を抱きしめ返す。

 

 

ぼろぼろの体に、舞の体温が、優しさが、染みわたり溶け込んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ……勝利。あの日の言葉。もう一度聞かせてくれない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日の言葉。

それがどの言葉を意味するのか。

わからないはずもなかった。

 

 

しかし、勝利は驚いて、軽く首を振った。

 

 

 

 

 

「だ、ダメだよ。さっきの決闘は、僕の負けだし……あれを無しにしたって、バトルシティで決着をつけるっていう約束が……」

 

 

 

 

 

勝利の反応に、舞は少し笑って、勝利の口を指で止める。

 

そして、決闘盤から6枚そろったパズルカードを抜き取り、それをそっと地面に置いた。

 

 

 

「……舞さん?」

 

 

 

 

(……全くもう。本当に、馬鹿なんだから。あたしが今、バトルシティであんたと決着をつけられるわけがないじゃない)

 

 

 

 

いずれ対等な立場で、決着をつける。

その王国の約束の舞台を、二人は、このバトルシティとした。

 

 

 

 

だからこそ、舞はもう、勝利と戦うことはできない。

今の勝利と自分が、対等な立場で決闘できるなど、到底思えなかったから。

 

今のこの心で、たとえ勝利に勝つことができたとしても、自分が勝利の上に立ったなど、露ほども思えなかったから。

 

 

 

 

 

勝利を心の底から憧れ、尊敬し、想い、焦がれているから。

 

 

 

 

惚れた自分の、負けを確信しているから。

 

 

 

 

 

「いいのよ。そんなのは。今、あなたの口から聞きたいの。お願い」

 

 

 

 

 

舞のその言葉に、勝利は表情を引き締める。

必死に自分の体の煤を払い、汗をぬぐった。

 

自分と似たような行動をとる勝利の様子に舞は笑いそうになってしまったのを、ぐっとこらえる。

 

 

 

 

 

 

「舞さん」

 

 

 

 

 

 

 

「……ええ」

 

 

 

 

 

 

夕日が、舞と勝利を包み込む。

鮮やかに照らされた舞の優しい笑顔が、あまりにも久しく感じて、少し照れてしまいそうになるが視線は外さない。

 

一呼吸だけおいて、勝利が続ける。

覚悟が、瞳に燃えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕は、舞さんが好きです。この世の、誰よりも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕のこれからの未来に、あなたにそばにいてほしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ええ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕と、付き合ってください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その声は、少し震えている。

しかしそれは、歓喜の震えだった。

 

 

返事をすると同時。

喜び、はしゃごうとする勝利の口を、舞の口がふさぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぴぃ!』

 

『かぁ!』

 

『……ふん!』

 

 

 

 

 

 

 

勝利の、友が。

舞の、相棒が。

 

 

 

 

 

 

 

空を舞い、祝福した。






ということで、ようやくここにたどり着きました。

一つ目の目標にたどり着けてひとまずの安心しています。
なんか、舞さんにいろいろな属性を追加付与していますが、ヒロイン特権ということで一つ。


静香ちゃんの送迎は御伽君に託しておきました。
御伽君の年齢がよくわかりませんが、なんかアニメ見なおしたらドーマ編で普通に車運転してたので舞さんの車ごとお願いしました。
ちなみに、勝利の存在によってグールズの動きが歪み、本田たちの動き、及び童実野町到着のタイミングに原作との若干のずれが生まれていますが、大きな違いはないとスルーしてます。


以下、どうでもいい自分語り



遊戯王において、私が一番好きなカードが、「ブラックフェザー・ドラゴン」になります。
幼少期に初めて自分で買ったパックから出てきたパッケージモンスターということで、深く深く惚れこみました。
その効果を生かすデッキも昔からずっと考えていたので、その効果をぜひ、勝利vs舞という大舞台で使いたいと思い、ここに向けて描き続けていましたので、魅力的に描けていたらうれしいです。

その積み重ねの一部をこれからの決闘で生かしていけたらいいなと思っております。

これからも、拙作をよろしくお願いします。
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