「私はカードを2枚セット。ターン終了です。さあボーイ、見せてもらいましょうか? あなたの実力を」
勝利に対し、高らかに宣言するマグナム。
それはさながら、若者の無謀な挑戦を気楽に応援する大人。
その様子に、勝利は少し苛立った。
勝利 LP 4000 手札 5枚
BF-残夜のクリス
攻 1900
マグナム LP 4000 手札 4枚
忍者マスター HANZO
攻 1800
伏せカード2枚
「僕のターン、ドロー……(ドローは悪くない……けど)」
カードを引いた後、勝利は苦しそうな表情で固まる。
その様子を見て、静香が首を傾げた。
「ねえ、お兄ちゃん。デュエルって、攻撃力が高いモンスターが有利なんでしょう? 勝利さんのモンスターの方が攻撃力は高いのに、どうして勝利さんは苦しそうなの?」
「へっ? ええっと、それはだなあ……」
静香と全く同じ疑問を抱えていた城之内は、頬を掻きながら動揺する。
その様子を見た舞がジト目を向けながら、その質問を自分の方へ持っていく。
「静香ちゃん。このゲームはね、モンスターの攻撃力だけじゃないのよ。カードとカードのコンボ、そして、魔法、罠カードとの組み合わせによって決まるのよ。勝利はあのセットカードが罠カードであると確信しているから、何も考えずには動けないのよ」
「えっ? なんで罠だって……」
「さっきのターン。奴が手札に加えたカードさ」
いつの間にかもう一人の遊戯が表に出て、続きの答えを形にする。
「"忍法 超変化の術”。あのカードは、『忍者』モンスターカードとのコンボによって相手の妨害とモンスターの展開を同時に行う超強力カード。だからこそ、『忍者』モンスターがフィールド上に存在する今は、あのカードが活躍する絶好のフィールド。その状況を、みすみす逃すはずはない。セットカードのうちの1枚は、間違いなく"忍法 超変化の術”のカード。だからこそ、勝利君はうかつに動けないのさ」
「「な、なるほど~」」
遊戯と舞の回答に、声をそろえる城之内兄妹。
その様子に、遊戯は苦笑いを浮かべ、舞たちは大きなため息を吐いた。
「……あんたに負けた決闘者たちがかわいそうに思えてくるわ」
「な、なんだと~!?」
顔を真っ赤にする城之内。
そんな城之内を視界の外に追いやりながら、舞は改めて勝利を見る。
いつもよりも、息は荒い。
いつの間にか動けるようになっていたとはいえ、勝利の体はすでに一度限界を迎えている。
(……無理をしなきゃいいけど)
「行くよ。僕は、"黒い旋風”を発動!」
黒い旋風
永続魔法カード
このカードがフィールドに存在する限り、『BF』の召喚時に、より攻撃力の低い『BF』を手札に加える
「このカードが存在する限り、僕は『BF』の召喚時に、新たな『BF』モンスターを召喚することが出来る! さらに僕は、"BF-蒼炎のシュラ”を召喚!」
BF-蒼炎のシュラ
闇属性 鳥獣族 星4
攻撃力 1800
守備力 1200
相手モンスターを破壊したとき、デッキからさらなるBFを呼び寄せる
「そしてモンスターの召喚時に、"黒い旋風”の効果が発動するよ!」
「おおっ! これでモンスターを集めれば、あのハリウッド野郎の忍者にも対抗できるよ!」
「よっしゃ、やっちまえ勝利!」
シュラの召喚と同時に吹き荒れる風の塊に、御伽と本田が沸いた。
しかし、勝利の表情は動きはしない。
そしてそれは、舞や遊戯も同様だった。
「……あの永続魔法は確かに強力なカードだ。だがおそらく……」
「ええ、あんたの想像通りでしょうね」
勝利を応援する手前、自分の予想は外れてほしいと思う二人だったが、二人の卓越した決闘者センスは、自ずとこの後の展開の正解を導き出してしまう。
そして、それはすぐに現実となった。
「フフフ。させませんよ! 伏せカードオープン! "忍法 超変化の術”!」
忍法 超変化の術
永続罠
自分フィールドの『忍者』モンスターと相手モンスターを合体し、
ドラゴン・恐竜・海竜モンスターを変化召喚する
「このカードの効果によって、あなたのモンスター“BF-蒼炎のシュラ”と、私のモンスター"忍者マスター HANZO”を合体し、デッキから新たなモンスターを変化召喚します!」
『ハァ!』
『ぎっ!』
HANZOから伸びてくる巻物に動きを封じられたシュラ。
その瞬間に、シュラの周りに立ち上る風が、ぴたりと止む。
「フフフ。やはりそのカードは、召喚した際にフィールドのモンスターが次のモンスターを呼び出すカード。フィールドからモンスターがいなくなってしまっては、効果を発動することはできないようですね」
「……さすがに舞さんに並ぶために鍛えたというだけのことはあるね。大当たりだよ」
巻物に引きずりこまれたシュラが、HANZOとぶつかる。
「合体変化! いでよ、"エメラルド・ドラゴン”!」
エメラルド・ドラゴン
風属性 ドラゴン族 星6
攻撃力 2400
守備力 1400
一瞬の輝きとともに、光り輝くモンスターがフィールドに舞い降りる。
ギラギラと輝くその姿は、マグナムが出した指輪の宝石の輝きを彷彿とさせた。
「げぇっ! 一気に上級モンスターが出てきやがった!」
「しかも、勝利のカード効果も封じちまうって、マジかよ!?」
「……あの男、いうだけの腕はあるぜ。しかもあの"エメラルド・ドラゴン”というカード。『パラレルレア』カードと言われている種類のカード。価値としても相当なものだ」
「……金にものを言わせてデッキを作ったんでしょうね。あの男の、乱雑な性格がデッキ構築にも表れてるわ」
「ノー。舞さん。これは証明です。私があなたにふさわしい男であることの。私の『愛』の証明なのです」
辟易とする舞の言葉に、マグナムは嬉しそうに返す。
「財力、そして、決闘の力。私があなたのために身に着けた力を、今この場であなたに見せてあげます。そして……あなたの目を覚まさせてあげましょう」
まるで舞台の上にいるかのように大きな動きで舞の方へ手を差し出す。
それを見て舞は、軽く笑った。
「……あんたの愛は、演技と一緒でワンパターンね」
「……なんですって?」
その言葉に、さすがのマグナムも顔を歪める。
それがおかしかったのか、舞はさらに笑顔で言い返す。
「一つだけ、いいことを教えてあげるわ。あたしが認めた彼は、その程度の力で屈しやしない。その目を離さず、もっと見ておくことね」
舞はその言葉を最後に、視線をマグナムから勝利に戻す。
軽く舌打ちしたマグナムがそれに倣って勝利に向かいなおると、勝利は笑っていた。
「……さっすが、舞さん。わかってるね。僕は"BF-疾風のゲイル”を特殊召喚! このカードは、フィールドにBFモンスターがいるとき特殊召喚できる!」
BF-疾風のゲイル
闇属性 鳥獣族 星3
攻撃力 1300
守備力 400
BFがいるとき特殊召喚できる
攻撃を仕掛ける時、風で相手の勢いを半減させる
『ぴぃー!』
「ははっ。やる気満々だね」
喧しいほどに腕を振り回し羽ばたくゲイルに、勝利が笑う。
そしてそれを見た舞と、状況を読み込めた遊戯もまた笑う。
「……なるほど。そういうことか」
「まっ。あんたがあんな単調な攻めで終わるわけないわよね」
「僕はゲイルの効果発動! あんたのフィールドに現れた"エメラルド・ドラゴン”に風をぶつけることで、攻撃力を半減させる! 『ワールウィンド』!」
「し、しまった!?」
エメラルド・ドラゴン
攻撃力 2400 ⇒ 1200
「おおっ! あれなら勝利のモンスターでも倒せるぜ!」
「なんだ、勝利君! 最初から、マグナムさんのモンスターを倒せるカードを持ってたんじゃない!」
「ああ、そうだな。だが勝利君は、最も効果的な状況でそれを発動できるように、タイミングを見計らってたんだ」
杏子たちの言葉に、遊戯はしたり顔で言葉を足す。
その言葉に、杏子たちは疑問符を浮かべる。
「最も効果的な状況?」
「確かに、最初からゲイルを特殊召喚することはできた。だが、ゲイルの強力な効果に気づけば、当然"忍法 超変化の術”で狙われる対象はゲイルになる」
「ゲイルの効果は、バトル前に風をぶつけ、攻撃力を半減する効果。言い換えれば、バトル中には使えない。HANZOを倒すためにバトルを始めてから"忍法 超変化の術”を使われれば、バトル中に現れる"エメラルド・ドラゴン”に対してゲイルで攻撃力を半減することはできなかった」
遊戯、そして舞が、勝利の戦略を1段目から話していく。
その思考のレベルの高さに、そしてそれを瞬時に理解する舞と遊戯に、いつの間にか皆息を飲んだ。
「だからこそ、勝利はシュラと"黒い旋風”の効果を囮に使うことで、先に"忍法 超変化の術”を使わせたのよ。"忍法 超変化の術”で現れた上級モンスターを、このターンで葬るためにね」
「しょ、勝利の奴……そこまで考えてたってのかよ……」
城之内は、震える。
これが、決勝トーナメントを目指す決闘者たちの決闘。
自分がこれから越えねばならない、壁の一つの高さに震えていた。
「さらに僕は、"翼の恩返し”を発動!」
翼の恩返し
魔法カード
鳥獣族モンスターが2体以上存在する場合、600LPを払って2枚ドローする
「LPを600ポイント払って、カードを2枚ドローする!」
勝利 LP 4000 ー 600 = 3400
「……おとりに使ったシュラたちを失うことで減る手札の回復も考慮に入れていたか。完璧だぜ、勝利君」
「……すげぇ」
「ふふっ」
感嘆の声を追い風に、勝利が高らかに宣言する。
「さあ、行くぜ色男! 僕は"BF-疾風のゲイル”で、"エメラルド・ドラゴン”に攻撃! 『ブラックスクラッチ』!」
BF-疾風のゲイル
攻 1300
エメラルド・ドラゴン
攻 1200
光り輝く"エメラルド・ドラゴン”の体に、ゲイルの鋭い風が着弾し、宝石がズレる。
悲鳴を上げながら、"エメラルド・ドラゴン”が崩れ落ちた。
マグナム LP 4000 ー 100 = 3900
「くっ!」
「あんたのフィールドはこれでがら空き! クリスで、ミスターマグナムにダイレクトアタック! 『ダガー・ショット』!」
マグナム LP 3900 ー 1900 = 2000
「ぐおおお!!!?」
「すげぇ! 勝利の奴、もう相手のLPを半分まで削っちまったぜ!」
「相手の罠を完全に読み切ってその上を行った。さすがは勝利君。このバトルシティで、さらに決闘の読みに磨きをかけたようだな」
「カードを2枚セットして、僕はターンを終了する」
勝利 LP 3400 手札 2枚
BF-残夜のクリス
攻 1900
BF-疾風のゲイル
攻 1300
伏せカード2枚
黒い旋風
マグナム LP 2000 手札 4枚
モンスターなし
伏せカード1枚
忍法 超変化の術(効果使用済み)
「さあ、あなたのターンだよ。ミスターマグナム。それとも、もう勝てないと舞さんを諦めるかい?」
勝利が自信満々にそう宣言する。
その宣言を聞いて、マグナムは肩を震わせた。
「……フフフ。ボーイ……いや、黒羽勝利。あなたが舞さんと並び立つにふさわしい腕を持っていることは認めましょう。ですが、私はどんなことがあっても舞さんを諦めることはありません」
マグナムは軽く乱れた襟を正し、勝利に向き直る。
その目は、先ほどよりも鋭く、真っすぐに勝利を射抜いていた。
「見せてあげましょう。舞さんを妻として迎えるために鍛え上げた、私の本気を。私のターン! ドロー!」
「……気配が変わったね。いいだろう。そうでなければ、舞さんにふさわしい男を決めるこの戦いは面白くない!」
真剣な表情でそう言い放つ勝利。
さらに、そう来なくては、といい笑顔を返すマグナム。
本人たちは至極当たり前のように語っているそれが、どうにも恥ずかしく感じてしまうギャラリーとの温度差を生んでおかしな空気を作り出している。
遊戯たちの苦笑が漏れる中、その只中にいる舞は耳を赤くして顔を逸らした。
「舞さん……愛されてるわね~」
「杏子……あんたねぇ……」
唯一、舞にデートを揶揄われた経験のある杏子だけが、この空気を面白可笑しく楽しんでいた。
「ふふ。いいカードですね。まずは"機甲忍法ゴールド・コンバージョン”を発動!」
機甲忍法ゴールド・コンバージョン
魔法カード
自分フィールドの『忍法』カードを破壊し、カードを2枚ドローする。
「フィールドに残った、"忍法 超変化の術"を破壊し、2枚カードをドロー。そして、"死者蘇生”のカードを発動!」
死者蘇生
魔法カード
敵味方問わずモンスターの魂を蘇生させ、味方にする事が出来る
「墓地から、"忍者マスター HANZO"を特殊召喚! そして、HANZOのもう一つの効果が発動!」
「なにっ!? まだ効果がありやがるのか!?」
「その通り! デッキから、HANZO以外の『忍者』カードを手札に加えることが出来る! 私が加えるのは、"成金忍者”です!」
光属性 戦士族 星4
攻撃力 500
守備力 1800
手札から罠カードを1枚捨て、デッキから『忍者』を守備で特殊召喚する
「呼び出した"成金忍者”を召喚! そしてそのまま、"忍法 分身の術”を捨てて効果発動! デッキから、『忍者』モンスターを特殊召喚します! 現れよ! "女忍者ヤエ"!」
女忍者ヤエ
風属性 戦士族 星3
攻撃力 1100
守備力 200
手札から風属性モンスターを1枚捨て、相手フィールドの魔法・罠カードをすべて手札に戻す
怒涛の展開に、城之内を中心とした周りのメンバーにどよめきが起こる。
「す、すげぇ。一気に3体もモンスターを並べちまったぜ!? マジでハリウッド映画みてぇだ!」
「感動してる場合かよ城之内!」
「……勝利君のBFに勝るとも劣らない展開力。こいつはなかなか一筋縄ではいかなそうだぜ」
その反応に満足げな表情のマグナムは、さらに決闘を進める。
「"女忍者ヤエ"の効果発動! 手札から風属性モンスター、"サファイア・ドラゴン”を捨てて、相手フィールドの魔法・罠カードをすべて手札に戻します!」
「手札に、戻す?」
その効果に、勝利の顔が濁る。
(……魔法・罠カードを戻す。破壊ではなく、戻す。本来なら次のターンに伏せなおせばいいだけの話だから、ゲームを決定づけるタイミングで発動すべき効果。ミスターマグナムのフィールドを見るに、このターンに決着を狙おうとしているようには見えない……本来はスルーしておくべき場面だけど……いやな予感がする)
一瞬止まった勝利だったが、決意を固め、カードを開く。
「……僕はヤエの効果に、伏せカードを発動! "ブレイクスルー・スキル”!」
ブレイクスルー・スキル
罠カード
このターン、相手モンスター1体の効果を無効化する
このカードが墓地に存在する場合、自分のターンにもう一度発動できる
突如現れた恐竜の腕が、風を巻き起こそうとしたヤエの体を拘束する。
そして勝利のフィールドの風がぴたりととまる。
「このカードの効果によって、ヤエの効果を無効化する」
「な、なんですって!?」
マグナムの驚愕の顔を見て、自分の判断があっていたことを確信し、軽くガッツポーズをとる。
マグナムは苦々しく、しかし勢いそのままに決闘を続けた。
「くっ……いいでしょう! このままバトルです!」
勝利 LP 3400 手札 2枚
BF-残夜のクリス
攻 1900
BF-疾風のゲイル
攻 1300
伏せカード1枚
黒い旋風
マグナム LP 2000 手札 3枚
忍者マスター HANZO
攻 1800
成金忍者
攻 500
女忍者ヤエ
守 200
伏せカード1枚
「まずはHANZOでゲイルに攻撃! 『クナイ切り』!」
フィールドを駆けるHANZOがゲイルの後ろに回り込み、刃をたてる。
さすがのゲイルも、死角からの一撃に反応できず、そのダメージに沈む。
BF-疾風のゲイル
攻 1300
忍者マスター HANZO
攻 1800
勝利 LP 3400 ー 500 = 2900
「くっ!」
「ああ……勝利さんのモンスターが……」
「安心しろ、静香! よく見てみな。マグナムのフィールドには、勝利のクリスの攻撃力を上回るモンスターはいねえ。これ以上、責め立てることはできねえさ!」
「そっか! じゃあ、次のターンは勝利さんが反撃できるのね! さすがお兄ちゃん!」
「へへっ! まあな!」
自信満々にそういう城之内と、そんな城之内を乗せる静香。
しかし、舞と遊戯は無言のままフィールドを見ていた。
「……遊戯、どう見る?」
「……ヤエの能力で魔法・罠カードを除去しようとしたということは、勝利君のフィールドを一掃する算段があったはずだ。だが、奴はもうバトルを開始した。ヤエの効果を無効化されたことで、そのプランを諦めたのか。それとも……」
二人は、マグナムのセットカードを見た。
その視線を感じたマグナムが、舞に笑顔を向ける。
「うーん。舞さん、さすがですね。あなたの目は鋭く、そして美しい。伏せカードオープン! "忍法 変化の術”!」
忍法 変化の術
永続罠
自分フィールドの『忍者』モンスターをデッキの鳥獣・昆虫・獣モンスターに変化召喚させる
「このカードにより、"成金忍者”を変化させます……黒羽勝利。あなたの実力を見込んで、見せてあげましょう。私のエースモンスターを」
「……エースモンスター?」
「そう。私はデッキから、"ダーク・シムルグ”を特殊召喚します!」
"成金忍者"を包み込んだ暗黒の突風が、空へと舞い上がり、それを形作る。
大きな唸り声が地響きのように、皆に伝え震わせた。
ダーク・シムルグ
闇属性 鳥獣族 星7
攻撃力 2700
守備力 1000
墓地の風・闇モンスターを除外し、手札から特殊召喚できる
このカードは風属性としても扱う
このカードが存在する限り、相手はカードをセットできない
「な、なんだあ!? 忍者が突然、馬鹿でかい鳥にばけやがったぁ!?」
「だ、"ダーク・シムルグ”だって!?」
「は、初めて見たわ……あんなレアカード」
「フフフ。このカードこそが、舞さんに並ぶために用意した私の切り札。舞さんの"ハーピィ・レディ”と、私の"忍者"。闇と風の両方を併せ持つ、我々の『愛』の結晶です! とくと味わいなさい! "ダーク・シムルグ”の効果発動!」
その宣言の瞬間、勝利のフィールドに怪しげな空気が立ち込める。
フィールドのクリスの後ろ側が、暗い靄によって見えなくなる。
「なんだ……これは?」
「これこそが、"ダーク・シムルグ”の恐るべき効果! "ダーク・シムルグ”が場に存在する限り、あなたはフィールドにカードをセットすることが出来なくなる。モンスターも、魔法も、そして罠カードもね!」
「なんだって!?」
その効果に、勝利が驚愕する。
舞も、そして遊戯も、絶望に顔を曇らせる。
「セットできないって……」
「……M&Wのルール上、魔法カードは手札から発動することが可能だが、罠カードは一度フィールドにカードをセットしてから1ターン経たないと発動することはできない。つまり……」
「っ!? 勝利はもう、罠カードを発動することが出来なくなっちまったってことかよ!?」
「その通り! そして今はバトル中。当然、攻撃も続行です! "ダーク・シムルグ”で、クリスに攻撃! 『闇夜の風』!」
ダーク・シムルグ
攻 2700
BF-残夜のクリス
攻 1900
勝利 LP 2900 ー 800 = 2100
「がはっ!」
クリスを吹き飛ばされた衝撃に、勝利が思わず倒れこむ。
「勝利!?」
「まずいぜ!? LPが並んじまった!?」
「そのうえ、勝利君のフィールドのモンスターが消えた……」
「フフフ。私はカードを1枚セットし、ターンエンド」
勝利 LP 2100 手札 2枚
モンスターなし
伏せカード1枚
黒い旋風
マグナム LP 2000 手札 1枚
忍者マスター HANZO
攻 1800
ダーク・シムルグ
攻 2700
女忍者ヤエ
守 200
伏せカード2枚
忍法 変化の術(ダーク・シムルグ)
「……紙一重だったな」
「ええ……勝利の一瞬の判断が無ければ、このターンで決闘が決まっていたかもしれない」
「……遊戯、舞さん? どういうこと?」
「お兄ちゃん、わかる?」
「へっ!? え、ええっとだな……」
杏子の問いに、遊戯が静かに語りだす。
「あの男が発動した"女忍者ヤエ”の効果によって、勝利君のセットカードは手札に戻されようとしていた。本来、魔法・罠カードは手札に戻されようと次のターンに再びカードをセットすれば問題なく使用できる。ヤエの能力は止めずに、次のターンにカードをセットしなおすために"ブレイクスルー・スキル”を温存するという手も、勝利君にはあった」
「でも、勝利は発動して、ヤエを無効化することを選んだ。おそらく、勝利はマグナムの伏せカード狙いを読んでいたのよ」
遊戯の言葉を、舞が受け取る。
「あのタイミングで、ヤエの能力を通していたら、"ブレイクスルー・スキル”も、もう一枚のセットカードも手札に戻る。そしてその後、マグナムは"ダーク・シムルグ”を召喚する算段だった」
「っ!? もしカードを手札に戻されていたら……」
「そう……そのカードをセットする機会は、二度と訪れない。"ダーク・シムルグ”の効果によって、勝利の手札は永遠に封印される」
「なっ!? ってことは……」
「勝利の野郎、そこまで読んで先に伏せカードを使って、相手の展開を妨害したってことか!?」
「……さすがに反応を見るに、"ダーク・シムルグ”を読んでいたわけではないでしょうけどね……」
舞は言いながら、冷や汗を垂らす。
己が目指す相手の読みの深さは、やはりというか、自分の、そして遊戯のそれすらも超えていた。
(相変わらず、あいつの勘というか……予測能力は並外れてる……この決闘、勝利じゃなかったらとっくにマグナムにペースを奪われて、負けている)
しかし、感心する皆をよそに、立ち上がる勝利は精一杯の表情だった。
尻もちをついてしまった体を、苦悶の表情で必死に持ち上げる。
「っ!? あんた、やっぱり限界なんじゃ!」
「来ないで!」
心配な声を上げ、駆け寄ろうと一歩目を踏み出した舞を、勝利が制する。
舞に話しかけながらもその目は、真っすぐにマグナムを捉えている。
「ここで君に助けられちゃったら……その時点で僕は、この決闘で勝ち取るべき大事なものを失うことになる」
呼吸を整え、カードを1枚引く。
その様子を見せて、体の無事をアピールする。
「勝つから……待ってて、舞さん」
「……勝利」
舞は軽く唇を嚙み、一歩下がる。
その様子をつまらなさそうに見ていたマグナムが、動く。
「……やはり、その少年はあなたにはふさわしくない。舞さん。あなたをそんな表情にさせる男に、私は負けません!」
「あ、あんたねぇ……」
「あなたの迷いを、私が振り切って見せましょう! この瞬間、伏せカードオープン! "魔封じの芳香”!」
「ぐっ! そ、そのカードは!?」
魔封じの芳香
永続罠カード
このカードが存在する限り、互いに魔法カードはセットしなければ発動できない
「"魔封じの芳香”ですってっ!?」
「まずい!? 勝利君、今すぐあのカードを破壊するんだ!」
「な、なんだよ。舞も遊戯もいきなり大声出して!」
「あのお香みたいなカード、そんなにまずいカードなの?」
状況を理解できていない杏子や城之内が不安そうな顔を浮かべる。
しかしそれ以上に、最悪の状況を理解した舞と遊戯、そして……勝利は、大きく顔を歪めた。
「……僕の手の中に、そいつを破壊できるカードはない」
「フフフ、ならば、カードの発動は成立ですね。このカードの効果により、私たち二人は今から魔法カードを手札から発動することはできず、罠カード同様に一度セットしなければいけなくなります」
その効果を聞き、さすがの城之内や本田も、勝利がこれ以上ないほどに追い詰められていることを理解した。
「おいおい、あのハリウッド野郎のトリモンスターは、相手のカードのセットを封じるって話じゃあ……」
「あのお香のせいで、勝利君はセットしないと魔法カードを発動できない……」
「ってことは、勝利はこれから、魔法も罠も発動を封じられちまったってことか!?」
「フハハハハ! これぞ私の作り上げる、完璧な舞台! 舞さんを安心させるために築き上げた、私の力です!」
勝利はその高笑いを耳にしながら、引いたカードをちらと見る。
今引いたカードは、魔法カード。
今の状態では、発動もままならなかった。
(……このままじゃあ、負ける)
「にゃろう……金に物言わせてカードかき集めただけのくせに、偉そうに……」
「えっ? お兄ちゃん、あの人のファンだったんじゃなかったの?」
「そ、それはそれで、さっきまでの話よ」
たじたじとしながらも、決闘に向き直る城之内。
嬉しそうなマグナムと、苦しそうに手札を除く勝利の様子に、城之内もつられて悔しそうに拳を握った。
「おいおい! 諦めんじゃねえぞ! 勝利! お前の実力は、そんな鳥一匹で閉ざされちまうもんじゃねえはずだ!」
「おやおや、そちらのボーイは状況を理解できないようですね。私が舞さんのために作り上げたこの鉄壁のコンボを、破る手段などありはしないということが」
「っ!? 誰がボーイだ!」
マグナムの煽りに簡単に乗る城之内。
今にも殴りかかりそうな様子の城之内を、本田と御伽が必死に止める。
「やめとけ、城之内!」
「城之内君が出て行ってもしょうがないだろ!?」
「離しやがれ! だいたい、いったい舞のどこがそんないいってんだよ! こんな高飛車で、きっつい性格の女が!」
「っ! 誰がよ! この馬鹿!」
「何おう! ほんとの事じゃねえか!?」
「やめなさいよ城之内! あんた一体、誰と喧嘩してんのよ!?」
わちゃわちゃと騒ぎだす城之内と、それを羽交い絞めにする男たち。
苛立つ舞を、必死になだめながら城之内に文句を言う杏子。
その場は、まさにカオスだった。
それを見ていたマグナムが、大きなため息を一つ吐く。
「全く……君のようなお子様には、舞さんの魅力が全く分かっていないらしい。大人同士のロマンスを、邪魔しないでもらおうか」
「お、お子様だとぉ~~!?」
「やめとけ、城之内! ほんとのことだろうが!」
「~~! 本田てめぇ! どさくさに紛れて好き放題言いやがって!?」
暴れる城之内を尻目に、マグナムが滔滔と語りだす。
「その強い瞳。強い心。美しき肉体に、それを維持するためのたゆまぬ努力。その一つ一つが、舞さんの行動、言葉、仕草から伝わってくる。そう。彼女は、気高き女性」
手を広げ、空を望みながら語るその姿は、まさに舞台の上。
マグナムは、自分の世界観を嬉しそうに皆に語りだした。
「ゲームとなれば容赦のないその意志。きつい性格などではない。誇りを持って戦うことが出来る女性なのです。君たち子供には、わからないかもしれませんがね」
「~~~~~!!!!」
悔しさのあまり悶絶する城之内。
そんな城之内を歯牙にもかけずに、悦に浸って言葉を紡ぎ続けるマグナム。
その二人を見て、舞は思わず顔に手を置いてため息を吐いた。
「そしてなんといっても、舞さんの魅力といえば……」
「気高さと共存する、かわいらしさ」
言葉をやめたマグナムが、正面に向き直る。
暴れていた城之内と、それを諫めていた遊戯たちも、マグナムの視線の先を見た。
そこには、笑う勝利がいた。
「……ほう」
「舞さんの一番の魅力は、かっこよさとかわいらしさ。男らしい強さと、女性的可愛らしさの両立」
今度はマグナムの言葉に対抗するがごとく、勝利が語りだす。
「本人は『ガーリーじゃない』なんていっているけれど、その心に、しっかりと少女のかわいらしさが残っている。決闘の時の美しさと、それ以外の時はまるで別の魅力」
「……つまり彼女の魅力の根幹は……」
「「美しさと可愛らしさのギャップにこそある」」
声をそろえて、決まったといわんばかりに同時に笑う二人。
そんな二人を見て、あきれ顔の皆や、きゃあきゃあと喜ぶ静香を横に、顔を真っ赤にした舞が叫ぶ。
「さっさと決闘を進めなさいこの馬鹿ども!」
その舞を見た二人は、またクスリと笑った。
「そして舞さんの最も素晴らしいところ……それは、孤高の戦士であることです」
マグナムが続けてそういった。
それに勝利は、ピクリと眉を上げる。
「舞さんの強さ、気高さ、可愛らしさ、美しさ。それらはすべて、舞さんが一人で作り上げた者。いわば彼女は、何にも汚されずに磨き上げられた、誰の手も入らぬダイヤのようなもの。だからこそ、私はあの人を手に入れたいのです」
「……」
マグナムは、自分の胸を抑え、そう宣言する。
その瞳に、一点の曇りもなかった。
「さあ、黒羽勝利。私の想いを超えられるのであれば、超えて見せてください」
それは、自分が作り上げた布陣に、自分の舞への想いに絶対の自信を持っていることがよく伝わる言葉だった。
その言葉を受け、勝利は少しだけ息をついて、笑う。
「……あなたとは、出会いが違えばもう少し仲良くなれたかもしれませんね。ミスターマグナム」
「ハハハ。同感です。ですが、勝負は勝負。我々の運命を分かつ舞台の幕は、すでに上がっているのです」
「そうですね……そしてやっぱり、あなたには負けられない」
「……ほう?」
勝利の、静かな、それでいて力強い意志を伴った宣言に、マグナムが面白そうに続きを促す。
「……僕は、今の舞さんが好きだから」
そういって、視線だけを、舞たちの方向へ向ける。
「一人でも戦える舞さんよりも、みんなの傍にいる舞さんが好きだから。一人でいるのがさみしくなっちゃって、みんなを求めてしまうようなか弱い舞さんが好きだから」
「ちょ、ちょっと勝利……」
止めようとする舞に笑みを向けてから、もう一度マグナムに向き直る。
「孤高の戦士だった冷たい舞さんよりも……独りではなくなった、温かい舞さんを好きになったから」
「……」
黙るマグナム。
そして、今度は勝利が高らかに言う。
「だから……あなたには負けられない。過去の孤高の舞さんを愛するあなたにだけは、負けるわけにはいかないんだ!」
「なるほど……どちらの舞さんへの愛が正しいのか。これは、そういう勝負というわけですね。面白い。かかってきなさい、黒羽勝利!」
「ったく……ほんとに馬鹿なんだから……」
舞の呆れ顔をよそに、彼らの目は一層燃え上がっていた。
遊戯たちが解説役として便利すぎる…
城之内たちも、解説の聞き役として動かしやすいのなんの。
やはり仲間は重要