遊戯王~黒き羽根は夢に舞う~   作:haruko

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決闘艇飛翔! 求める決闘

 

 

「……いよいよ時は来ましたね。マリク様」

 

「……」

 

 

童実野スタジアム。

建設途中のその施設の客席に、二人はいた。

 

マリク。そして……リシド。

 

 

「なあ、リシドよ」

 

「はい」

 

「ボクは我が血族に受け継がれた呪われし定めに終止符を打つ。遊戯の命と引き換えにね」

 

「……」

 

その宣言には、強い感情も、冷酷さも乗ってはいない。

報告。ただ事実を羅列するような平坦な声で、そう言い放つ。

 

それに対し、リシドも静かに聞く。

 

 

 

「これは、闇への復讐なんだ……ボクのすべてを奪った闇へのな」

 

 

 

マリクは、闇を恐れる。

そして、古代エジプトより伝わる墓守の一族の彼らにとって、『千年パズル』こそが、最も強大な闇の象徴であった。

そしてその「闇」を封印するために、墓守の一族は多くの犠牲を払ってきた。

そうマリクには伝えられている。

 

 

 

「遊戯は……マリク様という標的をとらえた……自らの本能によって……」

 

「遊戯は……僕が倒す。"ラー”の力で、遊戯を再び真の闇に葬ってやる。それこそが……僕が自由を手にする、唯一の方法なんだ」

 

 

 

 

その声に、ほんの少しだけ熱が宿る。

 

 

 

「リシドよ……もしボクが、遊戯に敗北したときは……父上との契約通り、ボクを殺してくれ」

 

 

「はい……その時は私めも……」

 

 

 

 

 

「そしてもう一つ……黒羽勝利。奴も、必ず葬れ。奴の力は……ボクの計画の足枷になる」

 

 

 

 

「……はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっぶねえ! 18:55! ぎりっぎりだぜ!」

 

「間に合ってよかったね!」

 

リムジンから降りてきた遊戯たちが、時間を確認して安堵の表情を浮かべる。

続けて入ってきた舞の車からも、同様に安心の声がこぼれた。

 

「ふぅ~。何とか到着ね」

 

「やっぱりリムジン借りといて正解だったね。ありがとう、マグナムさん」

 

「NON。これくらいはお安い御用です……が、感謝の想いがあるのなら、映画は見に来てもらいましょうか?」

 

ニヤリと笑うマグナムは、完成間近のスタジアムに飾られた看板を指さした。

そこには、もうすぐ日本で公開されるハリウッド映画、『忍者シリーズ』の宣伝が張り出されている。

 

「ああ。行かせてもらうよ。ね、舞さん」

 

「そうね。あんたのワンパターンな演技でも見て、笑いに行ってやろうかしら」

 

「……全く。厳しい二人だ」

 

 

 

 

Bye。という掛け声を最後に、マグナムのリムジンがスタジアムを去っていく。

勝利たちはリムジンが見えなくなるまで、手を振って見送った。

 

 

 

 

 

「ようこそ! 最終決戦の地へ!」

 

スタジアムに入った勝利たちを出迎えたのは、海馬から『磯野』と呼ばれるKCスタッフだった。

遊戯、城之内、勝利。そして……舞がパズルカードを差し出す。

 

「確かに……あなた方4名のトーナメントの参加を認めさせていただく……」

 

「あ、あたしは参加しないわ。そのカードを返しに来ただけ」

 

「はい?」

 

磯野が疑問の声を上げる。

 

「本当にいいの? 舞さん?」

 

「いいのよ。とてもじゃないけど、今のあたしじゃあんたたちといい決闘ができるとは思えないの。あたしはおとなしく、応援に回るわ」

 

「し、しかし……それでは参加者に不足が……」

 

 

 

 

「構わん」

 

 

 

 

困り顔の磯野を一言で収めた海馬。

その表情は、自分の望む相手さえいれば他の決闘者など不要。という、彼の不遜な在り様と高いプライドを雄弁に語っていた。

 

「もとよりタイムリミットを定めたのはそのためだ。実力者以外を無駄に集める必要はない。意志のないものを戦場に上げる必要もな。トーナメントは、7人で開始する」

 

「7人……ってことは、もう僕らのほかに、3人がそろってるんだね」

 

勝利の言葉に、海馬は無言で目線をそちらに向ける。

海馬の目線を追うとそこには、確かに3人の男がディスクを腕につけて立っていた。

 

 

 

(ということは……彼らの中に、マリクがいるはず……)

 

 

 

そう考えた勝利は目を細め、その3人を品定めするように見る。

 

 

一人は、色黒で灰色髪の優男。

あまり強い闘志を感じる様子はなかった。

 

そしてもう一人は、これまた色黒で、その顔に独特の入れ墨を刻んでいる。

勝利の目線を感じてか、その男は鋭い瞳を返す。

 

身体が視線で射抜かれるのを確かに感じた勝利は、背中がじっとりと冷や汗で濡れたのを感じた。

舞が勝利の耳のそばで、声を殺して呟く。

 

 

 

 

 

「あいつが、あたしを洗脳した男よ。間違いないわ」

 

 

 

 

舞のその言葉に、勝利の表情に怒りが宿る。

それを感じてか、大男が勝利たちの方へ近づいてくる。

 

海馬、遊戯、勝利の目の前で、男は止まった。

闘気が熱になって、勝利たちの心に伝播する。

 

 

「……貴様が、マリクか」

 

「いかにも」

 

 

低い、しかしズシリと通る声で、男は言った。

三者三様の想いが、駆け巡る。

 

「オシリスの所持者、遊戯。オベリスクの所持者、海馬瀬人。そして……我が計画に立ちはだかりし者、黒羽勝利。必ずや、貴様らは倒す」

 

そういうと男は、身を翻し離れていく。

 

「マリク……僕でさえ凄まじい圧を感じたよ……」

 

 

 

「あれが……3枚目の神の所持者、マリク……気をつけなさいよ、勝利……勝利?」

 

 

 

「……ああ。ごめん、舞さん」

 

ひりつく空気に、気合いを入れなおす遊戯や海馬に対し、なぜか宿した怒りを霧散させてぼうっとした勝利が、舞の言葉ではっとする。

 

「いや……なんか。ただの勘なんだけど……変な感じがして」

 

「まとまってなくてもいいから、ちゃんと言葉にしな。あんたの勘はどうせ当たるんだから」

 

言い切る舞の言葉に、少し気を楽にした勝利は、思ったままに言葉を口にする

 

 

 

「……舞さんと戦っていた時に感じた……邪悪な感覚を、奴から感じない……本当に感覚でしか言い表せないから、根拠も、何もないんだけど……」

 

「……つまり?」

 

勝利は、大男の背中を見て、呟く。

 

 

 

 

「……ヤツもまた、マリクの操り人形なのかもしれない……まだマリクは、どこかに隠れているのかも……」

 

 

 

 

勝利の言葉は、舞だけに聞こえるように音量を落としていた。

どこで、誰を通して聞いているのかわからない。

 

あの『マリク』を名乗る大男だけではない。

自分の中からマリクを完全に追い払った舞以外の、誰の事を操っていてもおかしくはない。

勝利は、そういいたいのだ。

 

「……わかった。あんたが決闘している間は、私も警戒しておくわ」

 

「気を付けてね。危ない事だけは、絶対にしないで」

 

「……あんたにだけは言われたくないわよ」

 

こつん、と勝利の頭を軽くたたく。

 

 

 

「よお! ナム! それに獏良! お前らも来てたのか!?」

 

 

 

勝利と舞がそう警戒を高めていた最中、城之内の声が、残りの2人の参加者に向いた。

 

 

「……やっぱり、獏良君なんだ」

 

遠めに見て、そうではないかと思っていたがしかし、バトルシティの決勝トーナメントに残ることが出来るほどの実力であるとは聞いていなかったため、勝利は驚く。

 

「何よ、城之内。そっちの男とも知り合いなの?」

 

「あ、ああ……まあな……」

 

「遊戯、勝利君。それに舞さんも。紹介するわ。彼はナム。私たちの友達なのよ。バトルシティの最中に、仲間になったのよ。ケガをしてた獏良君を、解放してくれていたの!」

 

「そうなんだよ! 改めて、あの時はありがとうね!」

 

「それくらい、お安い御用さ!」

 

 

 

獏良と杏子が、気安くナムという青年に話しかける。

どうやら、知り合いだというのは本当のようだった。

 

ナムが、勝利に手を差し出す。

 

 

 

 

「黒羽勝利君だよね。初めまして、ナムだ。よろしく!」

 

 

 

 

「ああ。よろしく」

 

勝利は笑顔を作り、握手を交わす。

しかし勝利と舞の頭の中には、先ほどまで話していた内容が残っている。

 

勝利は、ナムをじっくりと見た。

ナムはその勝利の様子にきょとんとした顔を浮かべ、不安そうに勝利の顔を覗き込む。

 

「えっと……どうしたの? 勝利君」

 

「いや……初めて聞く名前だったからね。前評判なしの状態から決勝戦まで上がってくるだなんて、すごいなと思っていたんだよ」

 

「ははは! 運がよかったみたいだからね。でも、決勝に上がってきた面子を見て、ちょっと戦意喪失気味かな。勝利君も、もし戦うときはお手柔らかにね」

 

「うん。よろしく」

 

 

 

そういって手を離し、離れていくナム。

十分に離れたと判断した瞬間に、舞が耳元で声をだす。

 

 

 

「……勝利、どうなの?」

 

「……正直、わからない。彼が関係者なのか、そうじゃないのか……でも、やっぱり警戒はしておいた方がいいね。みんなを、守るためにも」

 

そういって、ナムと和気藹々と話す杏子や獏良を眺めた。

 

 

 

 

(ククク。さすがに勘がいいね、黒羽勝利。でも、しょせん千年アイテムの力を持たないお前では、確信に至ることはできない。それに、お前や遊戯と本気で戦うのはまだ先だよ。それまでは、リシドにしっかりと影武者を務めてもらわないとね)

 

 

遊戯たちと話しながら、ナム、ことマリクは、ほくそ笑んだ。

 

 

 

 

 

「さて、ここにお集まりの7名の諸氏! ここで発表することがあります!」

 

 

和やかな談笑、ひりついた無言をまとめ上げるように、磯野がはっきりとした声で全員に宣言を行った。

7人の視線が、磯野に集まる。

 

「皆さんは予選を勝ち抜き、トーナメントが行われる場所であるこの童実野スタジアムに集結した! ですが、決勝戦の行われる場所はここではありません!」

 

 

「何?」

 

「じゃあ一体、どこで?」

 

 

皆が口々に言う。

そうしていると聞こえてくる頭上の音に、海馬がにやりと笑った。

 

 

「ひ、飛行船!?」

 

「また……ずいぶんと派手な趣向だね」

 

「その通り。名付けて……決闘艇(バトルシップ)! トーナメント1回戦の舞台は、高度1000M上空!」

 

 

 

 

「……クックック。面白くなってきたね」

 

 

 

 

「さあ、お乗りください! まもなく離陸します!」

 

「空の上の決闘……結構面白そうじゃない」

 

「うん。燃えてくるね」

 

勝利がそう言いながら、舞と二人でタラップに足を掛ける。

すると磯野から、待ったの声がかかる。

 

 

「少々お待ちください。IDをお持ちでない方々は、決闘艇に乗船することはできません!」

 

 

「えっ……?」

 

「ちょっとぉ! 応援もできないってわけ!? 何とかしなさいよ!」

 

「そういわれましても……これは規則ですから」

 

「だからそれを何とかしなさいって言ってんのよ!」

 

(ここまで来て、こんな何が起こるかもわからない状況下で勝利を一人で行かせるだなんて……冗談じゃないわ!)

 

必死に食い下がる舞に、たじたじと後ずさりする磯野。

そんな二人のうちのどちらを見かねてか、モクバが声を上げた。

 

「おい。俺もIDを持っているわけじゃないんだ。そいつも乗っけてやれ」

 

「も、モクバ様……しかし……」

 

 

 

 

「「「んじゃ! お言葉に甘えて~~~~~!!!」」」

 

 

 

 

そのモクバの声を皮切りに、本田たちが隙をついて決闘艇に乗り込んでいく。

 

「うわっ!? こらこら!」

 

磯野がそれを追って、勝利たちを放って決闘艇に入っていってしまう。

外に残ったのは、勝利、舞、そしてモクバだけだった。

 

「……いいの? モクバ君。海馬君に相談もせずに、決めちゃって」

 

「別にいいだろ。兄サマはそんなの気にしないし、後で俺から言っておく」

 

そういってモクバは、勝利と舞の横を抜けて、階段を上がっていく。

 

そして乗り込む直前に少し止まり、振り向かないまま言う。

 

 

 

 

「……これで、助けてもらった借りはチャラだからな」

 

 

 

 

「っ! モクバ……」

 

それが何のことかは、少し考えればわかった。

 

 

先刻。

グールズに捕らえられた、モクバ、杏子、舞。

 

勝利も見た、あの倉庫に閉じ込められたところから、杏子と舞の力でモクバを逃がすことで、勝利たちと合流するに至ったという風を聞いている。

そしてモクバも、その後勝利と舞がどのようなことになったのかを、ある程度は理解しているはずだ。

 

これは、モクバなりの謝罪なのだろうか。

 

「……意外と、律儀ね」

 

思ったことをそのまま言葉にした舞に、モクバが振り返る。

その顔は、ほんのり赤かった。

 

「意外とってなんだ!」

 

それに勝利と舞が、顔を見合わせクスリと笑う。

別に、気にしなくていい。

それが2人の共通の想いだった。

 

しかし、責任を感じる今のモクバにその言葉はふさわしくないだろう。

 

だからこそ、素直な想いを口にした。

 

 

 

「「ありがとう。モクバ(君)」」

 

 

 

「……ふんっ!」

 

 

 

 

 

 

 

そうして正式に許可をもらい、乗り込む舞と勝利と入れ違いに、磯野がタラップを降りていく。

乗船する参加者の最終確認を行うためだった。

 

 

 

 

「……時間だな。結局、8人目の決闘者は現れなかったか……」

 

 

 

そう確認した内容を呟いて、タラップを回収してしまおうとしたその時。

その場に現れた気配に、磯野が振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、あなたは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、決闘艇は地を離れた。

 

 

 

(遊戯。マリクを倒し、必ずや3枚の神のカードをオレの手中に収める!)

 

(静香、見てろよ! お前にもらった勇気で、真の決闘者になってみせらぁ!)

 

(ククク……)

 

(マリク様の手を煩わすことなく、私が遊戯を……勝利を倒して見せる……)

 

(もう一人の僕が探し求めている記憶の欠片(ピース)……それを手に入れるためには勝つしかないんだ!)

 

(千年の戦いの始まりだ……遊戯! そして……勝利!)

 

 

 

 

 

(……神のカードも、千年前の王の戦いも、僕には関係ない! 勝つ!)

 

(……勝利……)

 

 

 

 

 

参加者の想いが、重なり、すれ違い、ぶつかり合った。

 

 

 

 

 

「うひょー! スゲー! マジ空飛んでるぜ!」

 

「すごい! 童実野町の夜景が一望できるよ!」

 

初めての飛行船に高校生らしく喜ぶ遊戯たちの隣の窓から、勝利と舞が同じく夜景を望む。

 

「うん……綺麗だね。舞さん」

 

「ええ……本当に」

 

「でも、舞さんの方が綺麗だよ」

 

「バーカ」

 

一つの窓に身を寄せ合う。

ほんの数秒の静寂の後、勝利が口を開く。

 

 

「……王国から帰るヘリの時を思い出すね」

 

 

勝利は、燃えるように光り輝く街並みに、夕日を弾いて照らす橙色の王国の海を重ね合わせる。

 

 

「……あたしも、そう思ってた」

 

 

舞は次に、海の方へ眼を向けた。

すると、先ほどまで彼女たちがいた、埠頭が見える。

 

王国の始まりの場所。

そして……忌々しき悲劇の舞台。

 

 

「……よかった。もう一度、あんたとこんな景色を見れて」

 

 

あの時と同じ、綺麗な景色。

そういう舞の手を、背中越しに握る。

 

 

「……でも、あの時とは違うよ。僕らは」

 

 

 

何が、などとは口にしない。

しなくても、伝わっているし、伝わっていることがわかっている。

 

だからこそ、舞も一言。

 

 

 

 

「ええ」

 

 

 

 

 

 

 

その後ろで、本田が静かに震えていた。

 

 

 

(……くっそぉ!!! 勝利の野郎! うらやましいぜこんちきしょう!!!!!)

 

 

 

 

 

 

「本当にきれいな夜景ね。お兄ちゃん」

 

「へっ! みたか静香! つえー決闘者ってのはな! 空も飛べるんだぜ! ははは!」

 

城之内の楽し気な声が飛行船内に響き渡り、勝利と舞もそちらを見てクスリと笑う。

だが、その後ろから現れた男の陰に、思わず「「あ」」と声を漏らした。

 

 

 

「フ……浮かれ気分最高潮だな。凡骨決闘者めが」

 

 

「な……ぼ、ぼんこつ~~!?」

 

((いうと思った……))

 

「これから始まる過酷な決闘を体感すれば身も凍り付くことだろう。まぁせいぜい今のうちに観光気分を味わっておけ」

 

そういい放った後、何事もなかったかのように城之内を無視して遊戯との会話を始める海馬。

その様子に苦笑を漏らしつつも、勝利は少しだけ真剣な表情を作り直す。

 

「そうだね……観光気分はここまでにしておこうか。決闘者には個室が用意されているって話だし、僕は先に部屋にいっているよ」

 

 

 

来るべき戦いのために、気合いを入れなおさないとね。

 

 

 

勝利のその言葉に、決闘者たちの表情が1つ締まる。

それに互いに気づいた後、皆一様ににやりと笑った。

 

 

獲物を狙う、獣のように。

あるいは、より熱い闘争を求めて燃える戦士のように。

 

 

飛行船の時間はゆっくりと、そして確実に経過していった。

 

 

 

 

 

「へー! なかなかいい部屋じゃん!」

 

「おっ! 冷蔵庫に飲み物も食い物もあるぜ! 腹減ったー!」

 

「ルームサービスもあるわ!」

 

「てめえら! 人の部屋勝手に入ってきて好き勝手してんじゃねー!」

 

 

しかし城之内の真剣なムードは、部屋に戻るや否や現れた無遠慮な仲間たちに一瞬でぶち壊されることとなった。

 

「仕方ねーだろ。応援団には部屋用意されてねーんだからよ。そら、コーラやるから」

 

「おっ、おう。サンキュ……ってこれこの部屋の備え付けじゃねーか! もともと俺のだっつーの!」

 

「いいじゃないお兄ちゃん。みんないたほうが楽しいよ!」

 

「楽しいってなぁ静香……決闘者は戦う前の緊張感ってもんがよー……」

 

 

しばらくぶー垂れていた城之内だったが、どうにも帰る様子のない仲間たちと輪になって笑いあう静香の様子を見て、諦めたように椅子に深々と座ってコーラを含む。

 

 

「悪いな城之内。せっかくの静香ちゃんとの水入らずの時間を邪魔しちまってよ」

 

「本田よぉ……それわかってんならほかの部屋いけよ……遊戯の部屋とかよ」

 

「馬鹿遊戯は戦いの準備で忙しいはずだろ! 邪魔するわけにいくかよ。遊戯はこのトーナメントの本命なんだよ」

 

「てめぇ! 俺は本命じゃねえってのかよ!」

 

 

杏子と静香が楽しそうに話す中、部屋の隅で取っ組み合いを始める城之内たち。

そんな様子を遠巻きに見て、みんなが笑っていた。

 

 

「ったく……だったら、勝利の部屋にいってくりゃいいだろうが」

 

 

 

 

「……バーカ。あんな部屋、遊戯の部屋以上に行けるかよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの……舞さん」

 

「何よ?」

 

「何よじゃなくて……恥ずかしいんだけど」

 

テーブルに広がったカードの方に視線を向けながらソファに横になる勝利が、頭上の舞へ抗議の声を送った。

しかし、本気の文句ではない。

理由は二つ。舞がそれを聞くはずがないとわかっているから。そしてもう一つは……役得だから。

 

「あら、嫌なの?」

 

「……」

 

机の方へ必死に目を逸らす勝利の頭を掴んだ舞が、ぐっと上向きに捻る。

勝利の景色には、部屋の天井の蛍光灯と光と、光をバックに妖艶に笑う最愛の人の笑顔が映る。

 

 

愛する彼女の膝枕の上で、真っ赤に染まる顔を必死に腕で隠す。

その様子を舞が笑い、それが勝利の顔に熱を追加する。

 

 

 

「いいじゃない。どうせ誰も見ちゃいないんだから」

 

「見てるよ……大切な友達たちが、たくさん」

 

「見てない見てない。ね、ブリザード。ゲイル」

 

『ぴー!』

 

『くわぁ!』

 

「ほら、見てないってさ」

 

「……」

 

舞の肩に乗って自分とばっちり目を合わせている彼らの表情に言い表しようのない感情を覚える勝利だったが、やがてあきらめたように舞の柔らかい膝に頭を投げ渡す。

 

脱力した体から、痛みが、疲れが、溶けだしていくような気がした。

 

 

「もう、デッキはできたんでしょ? どうせなら休んでおきなさい」

 

「うん……ありがとう、舞さん。デッキの手伝い、助かったよ。それに、カードも」

 

「どうせもうあたしはバトルシティ中は使わないからね。それにあんたのあまりカードも何枚かもらったからお相子よ」

 

勝利は体制はそのままに、目線と同じ高さのテーブルに手を伸ばす。

40枚の束を掴んで、自分の目の前、つまり自分と舞の間にデッキを持ってくる。

 

 

 

「とうとう……ここまで来たね。長くて……苦しい戦いだった」

 

 

 

しみじみという勝利。

しかしその言葉を聞いた舞は、不安そうな顔で勝利を覗いた。

 

 

 

「……勝利。1個約束」

 

「ん?」

 

 

 

 

 

「"ブラックフェザー・ドラゴン”。あの子は、極力使わないほうがいいわ」

 

 

 

 

 

「……」

 

勝利はもう一度、テーブルに手を伸ばす。

40枚のデッキとは別の場所にいる、真っ白なカード。

勝利の、新たな友達。

 

 

 

 

 

シンクロモンスター。

 

 

 

 

 

勝利も、舞も、見たことも聞いたこともないジャンルカード。

 

 

 

 

 

「そのカードは、未知数すぎる。聞いたこともない名前の、見たこともない召喚方法で出てくるモンスター。軽々と世に出すには、危険すぎるわ」

 

「……うん。そうだね。そうだよね」

 

そういって、そっとデッキを置く。

そして目を伏せ天を仰ぐ勝利を、舞は軽くなでる。

 

 

(……本当は、こんなことも言いたくない。勝利にはもう、のびのびと決闘してほしい)

 

 

 

「……舞さん」

 

 

 

「……ん?」

 

 

 

 

「……勝つよ。僕は。必ず」

 

 

 

 

覚悟を決めたように宣言する勝利。

そのセリフに、舞は何も返さずに優しく微笑んで勝利の頭を撫でる。

 

その時、船内にアナウンスが響き渡る。

 

 

 

『これより! トーナメント第1回戦を開始します! 参加される決闘者は中央集会場にお集まりください!』

 

 

 

「……来たか」

 

勝利は起き上がり、デッキをベルトのホルダーにはめる。

軽くストレッチをして休めた体にスイッチを入れる。

 

そして、よし、と小さく呟いて、部屋のドアの前に立つ。

 

 

 

部屋を出たら、とうとう、最強の決闘者を決める戦いの幕が上がる。

 

 

 

覚悟をもって一歩を踏み出そうとしたその瞬間。

後ろから訪れる、柔らかな感触が一気に勝利の脳を支配した。

 

 

 

「ちょっ! 舞さん!?」

 

 

びっくりして振り返ろうとするが、舞に抱きしめられたまま身動きが取れず、そのままの体制で声をかける。

しかし、舞は動かなかった。

 

 

「舞さん! いったい何を……」

 

 

 

 

 

「……楽しんできなさい。勝利」

 

 

 

 

 

 

その言葉に、勝利は、はっとした。

 

思い返すは……バトルシティで戦ってきた皆々の顔。

 

 

熱い勝負だった。

厳しい戦いだった。

素晴らしい決闘だった。

 

 

このバトルシティに、後悔などなかった。

 

 

 

しかし。

勝利は心から、この素晴らしい舞台を楽しむことが出来ていただろうか?

 

 

 

 

自分は、何のためにこの大会に出たのか?

 

 

 

 

決闘王の称号のため?

 

レアカードのため?

 

それとも……打倒グールズのため?

 

 

 

 

(違う……そんなくだらない理由じゃなかったはずだ)

 

 

 

 

あの日。

舞に背中を押してもらい、過去を乗り越え、前に進むことが出来たあの日。

 

勝利は、ワクワクした。

早く、みんなと決闘がしたくて仕方がなかった。

 

遊戯と、勝利と、舞と。

ぶつかり合いたくて、仕方がなかった。

 

 

 

 

 

(そうだ。僕は……みんなと……楽しい決闘がしたくて、バトルシティに参加したんだ)

 

 

 

 

 

何度も口にしてきた言葉。

いつだって追い求めてきた、勝利の決闘の原点。

 

しかし、グールズと戦い、マリクと戦い、体を傷つけ心をすり減らす決闘を重ねていくうちに、それが見えなくなってしまっていた。

 

 

 

 

勝利は舞の手に自分の手を重ね、そっと舞の手を自分の体からはがす。

 

 

 

 

そして、舞に向き合い……今度は勝利からそっと抱きしめた。

 

 

 

 

「……ありがとう、舞さん。行ってくる」

 

 

 

 

「ええ。行ってきな!」

 

ようやくいい顔になった勝利の背中を思い切り叩き、快音を響かせる。

 

背中をさすりながら前を行く勝利を眺めながら……舞は少しだけ笑顔を濁らせた。

 

 

 

(……とはいっても……勝利が何にも縛られずに、純粋な心で決闘を楽しむには、相手が大切)

 

 

 

すでに決勝トーナメントの舞台。

勝ち上がってきた猛者たちに、手ごたえを感じぬ程度の実力者はいないだろう。

 

だが、問題は力の差だけではなかった。

 

 

(もしもマリクと一回戦で戦うことになろうものなら、ようやく戻ってきた勝利の笑顔が消えてしまう……さすがの勝利でも、マリクを相手に決闘を楽しむ余裕はない……かといってほかの参加者に、マリクの手が伸びていないという確信はない。遊戯か城之内が当たってくれたら理想だけど……)

 

 

舞は、意気揚々と廊下を歩く勝利の背中に祈る。

 

 

 

(お願い……一回戦、たった一回の決闘でいい……勝利に、最高に楽しい決闘をさせてあげて!)

 

 

 

 

 

 

「トーナメント1回戦の対戦者は、抽選によって決めることにいたします!」

 

「抽選……」

 

聞こえた言葉に、舞は少しだけ眉を下げる。

想像はしていたが、これで勝利の相手はランダム。

確率的には、遊戯や城之内以外と当たる可能性の方が高かった。

 

 

舞はそっと、自分の前に両手を組んだ。

 

 

「抽選方法は決闘者ナンバーの1~8の数字の書かれた玉を2つランダムに選び出すビンゴ形式です!」

 

そう宣言する磯野の後ろを見ると、その抽選装置と思しき機械が顔をのぞかせていた。

それを見た参加者たちが、少し顔を引きつらせる。

 

「な、なんだ……あの装置は……?」

 

「……ダセ」

 

「……」

 

「……趣味の主張がえぐい」

 

「フン」

 

 

 

 

「それでは行きます! アルティメットビンゴマシーン、スタート!」

 

 

 

 

その宣言とともに、機械の中の弾が舞い上がる。

 

 

 

NO.1 ナム(マリク)

NO.2 マリク(リシド)

NO.3 海馬瀬人

NO.4 獏良了

NO.5 黒羽勝利

NO.6 城之内克也

NO.7 武藤遊戯

NO.8 ???

 

 

 

それを眺めていた勝利が、いち早く気付いた。

 

 

(……玉が、8個ある?)

 

 

今この場にいる参加者は、7人。

勝利の記憶では、この7人を乗せて、決闘艇は離陸したはずだった。

 

 

(誰か、間に合った人がいたのか)

 

 

一体、誰が。

周りを見て一瞬考えようとした勝利を、磯野の声が制止した。

 

 

 

「第一回戦、一人目は……決闘者No.5! 黒羽勝利!」

 

 

 

「わお。早速僕だね」

 

「おおっ! トップバッターじゃねえか!」

 

「がんばってね! 勝利君!」

 

「ああ。誰が来たって、勝ってみせるよ。当然、遊戯君や、城之内君でもね」

 

「へっ!」

 

「ふっ……当然、決闘となれば手加減はしないぜ!」

 

そんなやり取りに、舞の握る手の力が強まる。

 

 

 

(……お願い。お願い)

 

 

 

 

「その対戦相手となる決闘者は……!」

 

 

誰かが、ごくりと息を飲んだ。

 

 

 

機械から転がり出てきたその玉に書かれたNoに、注目が集まる。

 

 

 

「トーナメント1回戦————————黒羽勝利の相手は……」

 

 

 

 

 

 

 

磯野が掲げたその玉に描かれていたNoは……8。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ダイナソー竜崎!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ?」

 

「えっ!」

 

「うそっ!?」

 

「まじかよっ!?」

 

「……ほんとに?」

 

 

 

 

 

 

 

「なんや。ほんまやったらあかんのかいな」

 

 

 

 

 

 

 

突如響いたその声の方向に、皆の視線が集まる。

 

赤いニット帽に、三白眼。

自信満々に真っすぐに勝利を見つめている、その表情。

 

 

 

それは間違いなく、ダイナソー竜崎その人だった。

 

 

 

「……ははっ」

 

 

 

勝利は思わず、声がこぼれる。

舞が見たその横顔は……歓喜に満ちていた。

 

 

「悪いのう。ここまで来るのにうっかり迷ってもうて、全力で走って来たからくたびれて、うっかり部屋で寝てもうたわ」

 

 

帽子を外し頭をガシガシと乱暴に整えながら、今だ唖然とする城之内たちの前を通り過ぎ、勝利の前に立つ。

 

 

 

「待たせたな、勝利」

 

 

竜崎の言葉に、勝利は今度はこらえることもせずに、大きく笑った。

 

 

 

 

「……クックっクックック。待ったさ。待ちわびたよ。僕は……あの日から、ずーっと待っていたんだ」

 

 

 

 

『ワイは絶対、ワイの力で、お前に勝つことをあきらめへん。覚悟しとくんやな』

 

 

 

『必ずもう一度、決闘しよう。僕たちのすべてを賭けた、最高に楽しい決闘を!!!!』

 

 

 

 

「今が、その時だ」

 

 

 

 

その勝利を見て、舞は、言い表しようのない表情を作り上げる。

 

 

 

 

 

(……竜崎なら、勝利は全力でぶつかり合える。それはよかったけど……なんで勝利の好敵手(ライバル)が! あたしの恋敵(ライバル)があんたなのよ!?)

 

 

舞は感情を体からはじき出すように、一発踵で床を打ち鳴らした

 

 

 

 

 

 

 

バトルシティ、決勝トーナメント1回戦。

 

 

黒羽勝利 VS ダイナソー竜崎

 

 

 

 

 

決闘艇は、快調に空を行く。




メインヒロイン躍動。
とともに本作のサブヒロインが帰ってきました。
果たしてこの場に竜崎がいる二次創作がこの世にどれだけあるのだろうか…

次回、いよいよバトルシティ決勝初戦……の前に、1話だけ閑話を挟みます。

その名も、バトルシティ、竜崎編です。



せっかくのバトルシティが勝利の単独行動ばかりになっていたので、竜崎やら城之内やらのシーンを抜粋して1話だけ番外編的に挟んでおこうかなと思っています。

ノア編は必要だと思いますか?

  • ぜひ書いて欲しい
  • さっさとバトルシティ完結した方がうれしい
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