遊戯王~黒き羽根は夢に舞う~   作:haruko

51 / 65
前回あとがきに記載した通り、今回はエピソードオブ竜崎です。


一応前回の話の中で、ヒロインの舞さんとの素敵な時間を描いたつもりだったのですが、感想が竜崎に対するもの一色でなんか悔しかったです。
おまけに感想の量もいつもより多く、感想が集まる速度もいつもより早かったです。なんか悔しかったです(2度目
メインヒロインがサブヒロインに食われるという、ジャンプとかでよくあるやつを体感した気分です笑

ということで、人気者竜崎のバトルシティ編になります。


2026/04/08 追記
体調を崩したため、9日はお休みとさせてください。
その分いいものをお届けできるよう頑張ります。


竜崎のバトルシティ

 

 

 

勝利たちの決戦の舞台が決まったところから時は遡り、バトルシティ開始から30分経過時点。

 

 

勝利や遊戯と別れた城之内は、真の決闘者を目指すべく対戦相手を探し歩いていた。

 

 

「おっ! あっちで決闘やってるぜ!」

 

人が集まって輪になっている場所へ、城之内が駆け寄る。

人波をかき分け、中央を目指すとそこでは、見知った男が渦中にいた。

 

 

 

 

「お、お前は、ダイナソー竜崎!」

 

 

 

「おお。城之内。お前、でとったんか」

 

「おい! 貴様、僕との決闘中だろ! よそ見をするな!」

 

余裕そうに返事をする竜崎に、竜崎の対戦相手、エスパー絽場が抗議の声を上げる。

それに対して竜崎は、へっ、と笑って向き直った。

 

 

「よおいうわ。もう終わりや。なんや知らんけど、手札が見えてるならわかっとるやろ」

 

「くっ!」

 

 

「ワイのターン。"ヘルカイド・プテラ"と"俊足のギラザウルス”を生贄に捧げ、"タイラント・ドラゴン”を召喚や! いくで! "タイラント・ドラゴン”で、"人造人間ーサイコショッカー”に攻撃! 『ドラゴン・フレイム・ブラスト』!」

 

 

 

人造人間ーサイコショッカー

 

攻 2400

 

タイラント・ドラゴン

 

攻 2900

 

 

 

「う、うわあああああ!」

 

 

 

エスパー絽場 LP 400 ー 500 = 0

 

 

 

「ワイの勝ちやな」

 

ディスクをたたんでそういう竜崎に、ギャラリーは戦慄の声を上げる。

 

「す、すげぇ……さすがは全国大会3位の実力者だぜ」

 

「決闘者王国では運に恵まれなかったって聞いたけど、やっぱ実力は本物だ」

 

「あのエスパー絽場に、手札を見透かされたうえで押し切っちまった……」

 

 

 

「まっ。こればっかりは相性やな。ワイのデッキはもとより、ちまちました戦術より力押しの方が得意なんや。ホレ、パズルカードとレアカードをよこしや」

 

 

 

「くっ……ほら」

 

そういって竜崎は、受け取ったカードを見る。

 

 

「……ああ、一戦目のアンティでもらっとったカードか。強化魔法……いや、妨害魔法カードか? まあええわ、使わせてもらうで」

 

受け取ったあと竜崎は身を翻す。

それと同時に顔を上げたエスパー絽場が、周囲を威嚇するように声を上げた。

 

 

「次だ! 次の決闘者は誰だ! かかって来い!」

 

 

しかしギャラリーは、一歩下がる。

エスパー絽場もだが、その絽場を簡単に下した竜崎に勝負を挑まれてはたまったものではないと、皆足早にその場を去ろうとしていた。

 

そんな中、竜崎と城之内の目が合う。

 

 

「……お前はやらへんのか? 城之内」

 

 

「……竜崎……あの野郎はつえーのか?」

 

「ま、せやな。どんな手をつこうてるのかわからへんが、こちらの手の内を読んできよる。そうでなくてもデッキも強い。ええ決闘者や」

 

「……俺と、どっちが強いと思う?」

 

竜崎はそう言われ、もう一度城之内の目を見る。

真っすぐと竜崎を見据え、さらにその後ろの絽場を捉えていた。

 

竜崎は真剣な表情の城之内に、正直に答えた。

 

 

 

 

「……王国の時のお前やったら、100%負けるやろな」

 

 

 

 

「ならやる!」

 

 

 

 

「……言うと思ったわ。ホンマにアホやな」

 

 

少し笑い、ギャラリーの一か所に混ざり、腕を組む竜崎。

 

見定めてやろう。

そういわんばかりだった。

 

それに城之内が、やる気の炎を燃やす。

 

(竜崎に見せてやるぜ! お前と戦ってから王国を勝ち抜いて、強くなった俺の力を!)

 

 

 

 

「おい! 超能力かなんだか知らねーがな! 俺が相手してやるぜ!」

 

 

 

「ピピ、ピ。OK!」

 

 

 

 

ギャラリーが円になり、決闘を囲む。

偵察か、物見遊山か。それとも……期待か。

 

 

 

(……さあ見せてみぃ。今のお前の実力を)

 

 

 

想いはそれぞれ。

そしてその想いの渦中で、決闘は幕を開ける。

 

 

 

 

 

「さあ。互いのアンティカードの確認だ。僕はレアカード、"人造人間ーサイコショッカー”と、パズルカード1枚を賭ける!」

 

「おうよ! 俺は……いっ!?」

 

 

やる気満々にカードを出そうとしたその瞬間に、表情を一気に歪めた城之内。

疑問符を頭に浮かべながら見ていた竜崎は、気まずそうにこちらを見る城之内と目が合った。

 

 

 

「……なんや?」

 

 

 

「……どうした? さっさと賭けカードを提示しな。それとも、怖気づいたかい?」

 

「だ、誰がだ! お、俺はレアカード、"時の魔術師”を賭けるぜ! そしてパズルカード1枚!」

 

「……? おい、城之内。"真紅眼の黒竜”はどうしたんや?」

 

「……」

 

竜崎の問いに、滝のように汗をかきながら視線を逸らす城之内。

その様子に、竜崎は何かを察する。

 

 

 

「……まさかお前……売ったんか?」

 

 

 

「売るか馬鹿野郎! 取られちまったんだよ1度! へまやらかしてな!」

 

勢いに任せて、事実を叫んでしまった城之内ははっと手で口を覆い、気まずそうに竜崎を見る。

すると竜崎は、なんだ、そんな話かという顔で納得していた。

 

「ワイはてっきり、お前の生活費に消えたんかと思たわ」

 

「……怒らないのか。お前から譲り受けた大切なカードを、俺は……」

 

「もとより、お前が勝ちとったお前のカードやろ。何してようが別にかまわへんわ。冗談で言っただけで、別に売ってたってかまわへんねん」

 

「だから売らねえっての! レッドアイズは俺の魂のカードだ! 今は遊戯が取り返してくれて、預かってくれてる。俺はこのバトルシティで真の決闘者になり、遊戯に勝って自分の力でレッドアイズを取り戻す! この超能力野郎にだって、絶対勝ってやる!」

 

 

拳を強く握り、絽場に向き直る城之内。

その背中から自信と誇りを感じた竜崎は、黙って二人の決闘を見守ることにした。

 

 

 

 

城之内     LP4000

 

「「デュエル!!」」

 

エスパー絽場  LP4000

 

 

 

 

 

(さあ、どうなる……)

 

 

 

 

期待して決闘を眺めていた竜崎ではあったが、その決闘の展開は二転三転として、竜崎の思わぬ方向へ移っていった。

 

まず手始めに城之内がスーパーエキスパートルールを忘れて上級モンスターをそのまま召喚して消滅するという珍事が発生。

その時点でギャラリーの後ろの方で背伸びをしてみていた決闘者たちは見る価値なしと判断して三々五々散っていった。

正直竜崎としても、最前列で城之内の目に入っていなければ、その時点で退散していたやも知れない。

 

だが、そこからは城之内の機転による切り返しが決まり、決闘の流れが大きく傾いた。

 

まず、城之内はエスパー絽場の超能力のカラクリ、というのもお粗末な、『覗き行為』の可能性を捉えて、それを利用することで決闘を大きく動かす。

 

さらにあと一歩のところまで連撃を決め、そのまま城之内が勝利する……ことになるかと思われた。

 

 

そこから今度はエスパー絽場の逆襲。

エースモンスター、"人造人間ーサイコショッカー”が降臨し、城之内を妨害カードを破壊して城之内に大ダメージを与える。

 

罠を破壊され、LPも僅か。

 

城之内は、完全に追い詰められることとなる。

 

 

 

 

エスパー絽場 LP 1440

 

人造人間ーサイコショッカー(電脳増幅器)

 

攻 2900

 

魔鏡導士リフレクト・バウンダー

 

攻 1700

 

 

城之内 LP 200

 

スケープゴートトークン2体

 

 

 

「さあ、次のターンでトークンを破壊し、君にダイレクトアタックすれば君の敗北は免れないよ」

 

(……やっぱイカサマなんぞせんでも、エスパー絽場の実力は大したもんや。サイコ・ショッカーがいる限り、罠による時間稼ぎもできん。絽場のいう通り、十中八九、もう終わりやろな)

 

決闘を見ながら、そんなことを考えている竜崎。

しかし、竜崎の目は決着がついた決闘の敗戦処理を見るそれではなかった。

 

むしろ、その逆。

想像もつかない何かを、期待する瞳。

 

 

 

 

 

「……オレのターン!!」

 

 

 

 

 

「っ!? なぜ諦めない!?」

 

 

 

 

 

 

 

決闘者(デュエリスト)だからだよ」

 

 

 

 

 

 

 

(……そうや。ワイはお前の、その目を見たかったんや)

 

 

 

 

 

 

「魔法カード! "ルーレット・スパイダー”発動!」

 

 

 

 

 

奇跡は、起こった。

 

 

 

 

 

「よっしゃあ! レアカードゲットぉ!」

 

大ピンチから奇跡の逆転勝ちを果たし、絽場からパズルカードとサイコ・ショッカーを受けとった城之内が、意気揚々と闊歩している。

やれやれとため息を吐いた竜崎は、その城之内を迎えた。

 

「どうよ! 竜崎! 俺の実力は?」

 

「……アホ。どこが実力や。ギャンブル決闘に磨きがかかっとるだけやないか!」

 

「な、なんだと~~!?」

 

「ったく……時間無駄にしたわ。次の相手探さな……」

 

そういって城之内に背を向け、歩き出す竜崎。

そんな竜崎の振る舞いに城之内は思わず拳を握り、悔しそうに歯を食いしばる。

 

 

 

 

「……決勝トーナメントまでには、もうちょっとまともな決闘できるようになっておけや」

 

 

 

 

その言葉に、城之内ははっとする。

背中越しに手を振る、竜崎。

 

その姿は……見たことがあった。

 

王国で、勝利に見せた、その背中。

 

 

 

 

 

(竜崎……お前……俺の事も信じて……)

 

 

 

 

 

「……見てろよ竜崎! 俺は必ず、真の決闘者になって見せるぜ!」

 

 

 

 

城之内の宣言に、竜崎は振り返らずに手を振り返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと……これでワイのパズルカードは4枚。後1,2戦ってとこやな」

 

「ちきしょお……やっぱり強いのかよ。騙された……」

 

「誰も騙してへんわアホ」

 

あれからさらに2戦。竜崎は連勝を重ね、早い段階でパズルカードを4枚まで集めて脱落の安全圏へと入っていた。

勝利が相手探しに四苦八苦、難航する最中なぜ竜崎が早々に決闘を申し込むことができたのか。

その理由は、相手にあった。

 

(舐められとるな……王国で、素人の城之内に負けて島から消えたことが、面倒な噂になって広まっとるわ)

 

事実だし、言いたいこともわかる。

彼は知らぬことだが、実力が割れていることで恐れられている勝利よりもなめられている竜崎の方が大幅に有利な状況にいるというのもある。

 

しかし、自分の決闘が、自分の王国での決闘が軽んじられているということにいい気はしないのも確かだった。

 

(絶対、勝ち残ったるわ。結局覆すには、実力しかないねん)

 

 

次の決闘は、予選最後の決闘になるやもしれない。

だからこそ、半端な決闘にはしない。

 

そう決意を新たに、新たな相手を見つけるべく歩き出す。

 

 

 

 

「よお竜崎、久しぶりじゃないか」

 

 

 

 

「……なんや。お前もいたんかいな」

 

「ひょっひょっひょ。何だとはご挨拶だな」

 

竜崎が顔を向けた先にいたのは、特徴的なメガネとしゃべり声で挑発めいた言葉を並べる男。

その嫌らしい目線や、言葉の節々からにじみ出る人を嘲笑うような態度は彼の元来の性格や、決闘におけるプレイスタイルを何よりも雄弁に語っているように感じた。

 

 

彼の名は、インセクター羽蛾。

 

 

彼もまた、全国大会。そして……決闘者王国を戦った決闘者だった。

 

 

「ひょっひょっひょ。噂には聞いてるよ。順調に勝ち残ってるってな」

 

「……ワイも聞いてんで。城之内に負けて、崖っぷちって話やないか」

 

その竜崎の言葉に羽蛾が苛立ちを隠さず、ニタニタと笑っていた顔を不快感で塗りつぶした。

 

「……ああ、そうさ。俺はこのバトルシティで、遊戯にも城之内にもリベンジを果たさなきゃならないんだ。そのために、お前には足がかりになってもらうぜ!」

 

そう言って、羽蛾がパズルカードを2枚掲げた。

どうやらそれが、今の羽蛾のすべてのパズルカード。

全賭けして竜崎と決闘をするつもりらしい。

 

 

竜崎はそっと、ディスクを開いた。

 

 

「ワイも同じや。勝利や遊戯、城之内に勝つためにこんなところで負けてられん。悪いが、お前には敗退してもらうで。これでワイが、決勝トーナメント一番乗りや」

 

 

「ほざいてな。お前の恐竜ごとき、僕の昆虫(インセクト)デッキの餌食にしてやるよ!」

 

 

 

 

 

竜崎 LP4000

 

「「デュエル!!」」

 

羽蛾 LP4000

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

 

「ひょっひょっひょ! 俺は"代打バッター”の効果で、"インセクト女王(クイーン)”を召喚! いけぇ! 女王様!」

 

 

代打バッター

 

地属性 昆虫族 星4

 

攻撃力 1000

 

守備力 1200

 

このカードが墓地に送られた場合、手札から昆虫モンスター1体を場に出せる

 

 

インセクト女王(クイーン)

 

地属性 昆虫族 星7

 

攻撃力 2200

 

守備力 2400

 

フィールドの昆虫族の数だけ攻撃力を上げる

自軍のモンスターを生贄に、攻撃を行う

敵モンスターを倒した際に自軍に卵を産み付ける

 

 

 

「ひょっひょっひょ! さあ、バトルだ! お前のちんけな恐竜モンスターを、女王様の一撃で葬ってやるよ!」

 

「させへんよ。罠カードオープン! "決別”や!」

 

 

決別

 

罠カード

 

魔法カードを捨てて発動する

相手のバトルを強制終了する

相手モンスターはターン終了時まで効果が無効化される

 

 

「"融合”カードを捨てて発動! お前のバトルを強制的に終了すんで! 効果も無効や!」

 

「けっ……姑息な手を。僕はこれで、ターンエンドだ」

 

 

羽蛾 LP 5000 (髑髏眼レディバグで回復)

 

インセクト女王(クイーン)

 

攻 2600

 

コカローチ・ナイト

 

守 900

 

 

竜崎 LP 2100

 

モンスター無し

 

伏せカード2枚

 

 

「さあ。次のターンに女王様の攻撃がお前のLPに止めを刺してやるぜ! さっさとカードを引きな」

 

「……ドロー」

 

竜崎は1枚ひき、フィールドを、そしてそっと羽蛾を見つめる。

 

「1個、聞きたいことがある」

 

「あ? なんだよ」

 

 

 

「なんで、ワイを相手に選んだんや? お前の実力なら、適当な奴ら見つけて決闘してりゃパズルカードが集まるやろ」

 

「……」

 

竜崎の純粋な疑問に、羽蛾は顔を伏せる。

握る拳が、少し震えていた。

 

小さな、しかし強い声で、羽蛾は呟いた。

 

 

 

「……気に入らないんだよ。お前がな」

 

 

「……なんや? お前になんかした記憶はないで?」

 

 

恨み節にどこ吹く風といった様子で返す竜崎に、羽蛾はさらに顔を苦悶の表情に歪めた。

 

「お前は、全国大会3位。俺は2位だった。黒羽勝利に及ばずとも、俺たちは決闘者の中では憧れの的だった」

 

「ああ……そうやったな」

 

「みんなが羨望の眼差しを向けて、何も言わずとも道を開ける。サイン1枚書くだけで、レアカードをもらうことだってできた。まるで気分は、王様だったさ」

 

「……ああ……そうやったな」

 

美しい思い出を開いて笑う羽蛾とは対照的に、今度は竜崎が苦々しい顔に変わる。

しかし、そんなことなどどうでもいい羽蛾は、自分の言葉を続けた。

 

「だが……俺は王国の初戦で遊戯に負け、お前はド素人の城之内に負けて、王国を去ることとなった。そして……すべてを失うことになった」

 

「…………ああ、そうやったな」

 

羽蛾の言葉で竜崎は、このバトルシティのことを思い返していた。

自分は名が知れた決闘者だったはずだというのに、舐められ、軽んじられ、軽々と決闘を挑まれる。

 

バトルシティが始まる前でもそうだ。

羨望の眼差しを向けていたはずの者たちが、軽蔑の視線をぶつけてくる。

 

自分たちを憧れだと、誇りだといって応援してくれていた者たちが、簡単に離れていく。

 

 

そんな、自分たちへの期待の裏返しを、竜崎も強く感じていた。

 

 

 

「そうさ、俺とお前は、おんなじ立場だったはずだ。遊戯たちに負け、すべてを失ったもの同士。なのに……」

 

 

 

そう言って竜崎をにらみつける羽蛾。

その視線の先には、竜崎のディスクにしまわれたパズルカード。

城之内に負け、崖っぷちの状態の自分と、このバトルシティで順調に勝ち上がり、名声を取り戻しかけている竜崎。

 

「お前だけがこの地獄から這い上がって、また光を浴びようとしているだなんてそんなの……絶対に許せないね! 必ずやお前をもう一度、引きずりおとしてやる!」

 

「羽蛾……お前」

 

逆恨み。

竜崎がそう言い放つことは簡単だった。

しかし、その正論に意味はない。そう思って言葉を飲み込んだ。

だがそれを怯んだと勘違いしたのか、羽蛾が強い言葉を続けた。

 

 

「這い上がるための努力は、いくらでもやったさ! 戦術を練り、完璧な展開を作り上げた! このために……この、バトルシティのために! だってのに……城之内なんかに!」

 

 

その言葉に、竜崎はとうとう口をはさんだ。

 

 

 

 

「……アホかお前は。お前の言っとる努力なんか、みんなやっとるわ。遊戯も、勝利も、城之内もな。それでも、どうにもならんもんはどうにもならん。決着はついて、勝ち負けが決まってしまう。それが決闘や」

 

「っ!? 何!?」

 

 

 

 

竜崎は、一度飲み込んだ正論を、いら立ちのままに羽蛾にぶつけた。

案の定、羽蛾は苦悶の表情を怒りで塗りつぶした。

 

「だが、決闘は一回で終わりやない。這い上がりたいんやったら負けようが挫けとらんと、何度だって挑んでいくしかないやろうが」

 

「……うるさい」

 

羽蛾が、小さく呟く。

それは、竜崎も想定通りだった。だからこそ、この正論は一度噤んだのだ。

 

 

「うるさいうるさいうるさい! いい子ぶって、上から目線で人のことを見下しやがって!」

 

 

「……」

 

 

 

 

「そうさ! 俺だって努力してる! お前と同じくらい、勝ちたくて、這い上がりたくて必死に戦ってるんだ! なのになんで……なんで俺とお前に、差があるんだ!?」

 

 

 

 

羽蛾がどうしても認められないもの。

それは、竜崎と自分の距離。

 

同じ地獄を味わったはずだった。

同じ場所でくすぶっていたはずだった。

 

なのに……竜崎はこのバトルシティで、再び輝こうとしている。その場所に、もうすでに手をかけている。

 

 

 

『竜崎、連勝中だってよ!』

 

『すっげぇ! ハイパワー決闘者、ダイナソー竜崎の復活だな!』

 

『いや。噂じゃあ、全国大会の時より断然強くなってるらしいぜ!』

 

『王国で負けちまったのが、相当悔しくて鍛えなおしたんだろうな。いいよなそういうの。一度落ちてからリベンジに燃える男って。男が一番応援したくなるやつだぜ!』

 

 

 

この場に至るまでに、そんな声を幾度となく聞き続けた。

聞き続け……聞かないふりをし続けた。その度に、自分が小さくなっていくように感じた。

 

 

羽蛾が、顔を上げる。

その表情は、憎むためのものか、縋るためのものか、竜崎にはわからなかった。

 

 

 

 

 

 

「……俺と、お前の……何が違うんだよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……違わへんよ。何もな」

 

 

 

 

 

 

 

竜崎は羽蛾に、静かにそう告げた。

あっけにとられ固まる羽蛾をよそに、竜崎は思考に耽った。

 

 

(……あの王国から帰ってきてから今日まで……何度も何度も考えとったことや)

 

 

もしも、城之内にレッドアイズを渡さず、王国を戦い続けていたら。

もしも、城之内に"時の魔術師”のことを伝えずに、そのまま勝っていたら。

もしも、勝利との決着に固執せず、ほかの奴らと決闘して王国を勝ち抜いたら。

 

 

 

もしも……勝利に、出会わなかったら。

 

 

 

 

もう一度、羽蛾を見る。

言いたいことを必死に叫び苦しむその姿は、傷はなくともぼろぼろであるように見えた。

 

(……こうなってたんやろな。ワイも)

 

城之内や勝利への負けを認められなかったら。

勝利に、勝ちたい。その想いがなかったら。

 

自分も、なぜ自分だけがと。

苦しみ、もがき、落ちていったのだろう。

 

 

 

(王国で……勝利と決闘して……勝利を目指すことをせんかったら。ワイも今の羽蛾とおんなじところにいたはずや)

 

 

 

だからこそ。竜崎にはわかった。

何も見えていない、何も目指していない今の羽蛾では、何も変わらない。

 

 

 

 

 

 

 

「……同じ場所で戦った決闘者への、せめてもの手向けや。ワイの全力、見せたるわ」

 

 

 

 

 

 

そう言って竜崎は、引いたカードを決闘盤に置いた。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

羽蛾 LP 5000

 

インセクト女王(クイーン)

 

攻 2600

 

コカローチ・ナイト

 

守 900

 

 

竜崎 LP 2100

 

 

タイラント・ドラゴン

 

攻 5000 (守備力貫通能力持ち)

 

 

 

 

「あ……ああ……」

 

『き……きしゃ……』

 

崩れ落ちた羽蛾と、"タイラント・ドラゴン"と対面する"インセクト女王(クイーン)"がそろって、声にならない声を上げる。

 

 

 

「……仕舞や、羽蛾」

 

 

 

竜崎が、掲げた腕を振り下した。

 

 

 

 

「"タイラント・ドラゴン"で、羽蛾のフィールドに2回攻撃! 『ツイン・ストライク・ブラスト』!」

 

 

 

 

 

タイラント・ドラゴン(第1打)

 

攻 5000

 

コカローチ・ナイト

 

守 900

 

 

 

タイラント・ドラゴン(第2打)

 

攻 5000 

 

インセクト女王(クイーン)

 

攻 2400

 

 

 

 

 

羽蛾 LP 5000 ー 4100 ー 2600 = 0

 

 

 

 

 

「ぎょ、ぎょえ~~~~~~~~!!!!」

 

 

 

 

 

完全な決着。

竜崎は何も言わずに羽蛾に駆け寄り、パズルカードを回収する。

 

「レアカードはいらへん。どうせお前のカードじゃあ、ワイのデッキには入らへんやろうからな」

 

 

その言葉を最後に、竜崎は背を向ける。

 

その背中が語るものは、勝利や、城之内に見せたものとはまるで違っていた。

 

 

 

 

 

「……嘘だ。竜崎にまで、負けるなんて……竜崎がここまでやるだなんて……」

 

 

 

 

 

 

「……ワイが強いんとちゃう。お前が弱いんや。決闘も、心もな」

 

 

 

 

 

 

羽蛾は、真っ白に燃え尽きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜崎は、近くの公園のベンチで缶コーヒーをすする。

パズルカードを6枚そろえ、決勝トーナメント進出を決めた男の祝勝会としては実に小規模で、竜崎の表情もそれに似つかわしくはなかった。

 

 

羽蛾と戦ったことで、様々な思いが竜崎の体を駆け巡っていた。

 

竜崎の脳裏に、この数か月の自分が、浮かび上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある家の前。

呼び鈴を鳴らす。

 

出てこないほうが、あるいは嬉しい。

 

そんな自分の弱い心を押しつぶすように、一発拳で心臓を叩く。

 

 

 

やがて、ドアがガチャリと音を立てた。

 

 

 

一人の少年が、ドアからのぞき込む。

 

そして竜崎の顔を見て、衝撃と恐怖で顔を青ざめさせる。

 

すぐにドアは締められ、ドタバタという音と、「お兄ちゃん!」という声が竜崎まで届く。

何をしようとしているのかは、すぐにわかった。

 

 

やがて何秒も待たないうちに、今度は完全に扉が開く。

そこにいたのは、竜崎よりもいくつか年上のガタイのいい男と、その後ろに隠れる先ほどの少年。

 

手前の男が、兄なのだろうということは見て分かった。

 

 

「……てめえが、竜崎か?」

 

 

男が顔を近づけ、竜崎に睨みをぶつける。

友好的な雰囲気でないことなど分かっていたが、すでに暴力まで秒読みの状態だった。

 

しかし、ここでひいては意味はないと、竜崎はそのまま答える。

 

 

「ああ」

 

 

それと同時に、兄が胸倉をつかむ。

そのまま、竜崎が持ち上がる。

 

 

「てめぇ……よく面出せたもんだな!」

 

 

服で首が閉まり、息が詰まる。

しかし、予想通りの展開故に、竜崎は一つも表情を変えなかった。

 

竜崎は持ち上げられた状態で、懐から一枚のカードを取り出す。

 

 

 

「……これ」

 

 

 

少ない空気を必死に吐き出しながら、男の後ろに隠れる少年にカードを差し出す。

少年は意図がわからぬまま、差し出されたカードに手を伸ばす。

 

 

「っ! 兄ちゃん、これ! 僕のハデス!」

 

 

「何っ!?」

 

 

思わず男が手を放し、竜崎が地面に投げ出される。

地面に着地した竜崎が、そのまま膝を地面につく。

 

その様子に、兄弟がそろってぎょっとして、顔を合わせる。

それは紛れもなく、土下座だった。

 

 

 

 

 

「……大切なカード、奪ってすみませんでした」

 

 

 

 

 

兄弟は、その景色に固まる。

 

そんな二人を尻目に竜崎はすっと立ち上がり、膝の砂を払って振り返る。

そのまま家の門をくぐろうとした竜崎に、待ったがかかった。

 

 

 

「あの! 竜崎……さん」

 

 

 

少年の声に足を止め、首だけで振り返る。

 

お互いの表情に、困惑が残っていた。

 

 

 

 

「……なんで、わざわざ返しに来てくれたんですか?」

 

 

 

 

「……」

 

その問いに、竜崎は口を開きかけ、閉じるを数回繰り返した。

自分の言葉が、言い訳や弁解になってはならないと、必死に言葉を選んだ。

 

 

 

 

 

「……勝ちたいやつが、いるんや」

 

 

 

 

 

その答えが、自分の問いに対する答えになっているのかがわからない。

少年も、その兄もまだ固まったままだった。

 

 

「……そいつに、一歩でも近づきたい。真っ向からぶつかって戦えるようになりたいんや。カードを信じて、カードを信頼して戦うそいつと……正々堂々戦って勝ちたい。そう思ったら……人様の(そういう)カードが、自分の手元にあることが許せんくなった。情けなくなった。ホンマに、それだけや」

 

 

そう言って身を翻し、最後にもう一回頭を下げる。

 

 

 

そこから、少年たちの声はなかった。

 

 

許されたのか。

許されなかったのか。

 

自分のしたことが、正しいのか。意味はあったのか。

それはわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まあ、羽蛾との差が出たっちゅうことは、多少前向く力にはなったっちゅうことか……」

 

ベンチに座る竜崎が、コーヒーを一気に煽って空いた缶をゴミ箱に投げ捨てる。

缶はきれいに、ゴミ箱に収まった。

 

(まあ、ええわ。もともと、許されるためにやったもんやあらへん)

 

自分の中の整理はついた。

そして、権利も得た。

 

ならば、後はそこへ走るだけだ。

 

 

 

 

「待っとけや、勝利!」

 

 

 

 

竜崎には、力が漲っていた。

 

 

 

過去から一歩を踏み出した。

後は、もう駆け上がるだけ。

 

 

 

 

勝利に、すべてをぶつけてみたい。

どうなるのかを、知りたい。

 

 

 

今の彼の中にあるのは、その一心だけだった。




なお、こっから彼は迷子になります。


ということで、エピソードオブ竜崎でした。

かなりドーマ編の話をモチーフに描いています。
拙作で竜崎を扱うにあたり、ドーマ編を見返して、竜崎のところを何度も見返しました。

なので台詞なども、かなりドーマ編のオマージュになっています。


自分としては文句はないのですが……今後ドーマ編書く時、一体どうしたものか。


まあそれは竜崎の立ち位置を変えた時点で逃れられないことなので、今はバトルシティを走り続けることにします。


あとすごくどうでもいい話ですが、
羽蛾はドーマ編やKCグランプリ編でも羽蛾はインセクト女王を使っていたことから、インセクト女王はまだ持ってる前提で描きました。

お待たせしました。
次回こそ、勝利vs竜崎戦になります。

ノア編は必要だと思いますか?

  • ぜひ書いて欲しい
  • さっさとバトルシティ完結した方がうれしい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。