決闘の結果は全人類分かり切ってるので、サクッと行きます。
勝利の嫌な予感は、すぐに現実のものとなった。
勝利の目の前に、勝利の知る優しい笑みを浮かべる獏良はもはやどこにもなかった。
「久しぶりだなぁ。遊戯」
「バクラ……やはり千年リングの意思は消えていなかったか」
「なんだって!?」
「あのバカ! また千年リングをつけちまったのか!?」
「……強い邪気を感じる。あれがバクラ君の千年アイテム……」
「なんやなんや? 何が起こっとるんや?」
「……城之内君。一体、何が起こっているんだい?」
状況を理解できないふりをするマリクと、本当に理解できてない竜崎が同じリアクションをとる。
「話せば長くなっけどよぉ。古代エジプトから存在したっつう千年アイテムを持つものにはもう一つの人格が現れるって噂でよ……千年パズルを持つ遊戯もその一人なんだが……中には凶悪な意思を持つものもある。それがバクラの持つ、千年リングなんだ」
「……ホンマに、一体何の話なんや……?」
「僕たちのバトルシティに、くだらない争いを持ち込んできた奴らがいるってことだけわかっていればいいよ」
なお困惑する竜崎に対し、苛立ちを言葉に乗せながら、勝利は呟く。
そんな様子を見て、マリクはひっそりとほくそ笑んだ。
(フ……一つ訂正してやるよ……今獏良を支配している人格は一人じゃない……二人いるってね)
「ククク……遊戯。貴様を倒し、神のカードを俺様のものにしてやるぜ!」
「そうはいかない……俺には、たどり着かなければならない場所がある! さあ、行くぜ!」
遊戯 LP 4000
「デュエル!」
獏良 LP 4000
千年アイテムを持つもの同士の、負けられない決闘。
それが、幕を開けた。
……と同時に、あっけないほどにスムーズに、状況は遊戯へと傾いていった。
獏良 LP 2200
首なしの騎士
攻 1450
伏せカードなし
遊戯 LP 4000
幻獣王ガゼル
攻 1500
磁石の戦士γ
攻 1500
伏せカードなし
「俺のターン! "幻獣王ガゼル"と、"磁石の戦士γ”で獏良に攻撃!」
幻獣王ガゼル
攻 1500
首なしの騎士
攻 1450
獏良 LP 2200 ー 50 = 2150
磁石の戦士γ
攻 1500
獏良 LP 2150 ー 1500 = 650
「ぐっ!」
たった3ターンで3体のモンスターを失い、すさまじい勢いでLPが削れていく獏良。
そんな姿を見て、皆それぞれの感想がこぼれる。
「……いったい、ワイらは何を見せられてるんや?」
「……守備にもしない。セットカードも伏せない。まるで遊戯君に攻撃してもらわなきゃ困るような動き……」
さしもの竜崎や勝利でも、この決闘の展開は理解できなかった。
「ただ弱いだけなのか……それとも……」
「なんにせよ、次のターンが来れば遊戯の勝ちだぜ」
そういう城之内でさえ、手放しに状況を喜んでいるようには見えない。
状況の異様さ、そして不気味さを感じ取っているのだろう。
そして……その言い知れぬ不安感を形にするように、獏良が高笑いを始めた。
「ククク……ヒャーハッハッハッハ! 遊戯ぃ! 貴様は罠にはまったんだよ!」
「何っ!?」
「馬鹿な! 罠だと!?」
「遊戯が圧倒的に有利なはずだろ! 遊戯の場にはモンスターが2体。獏良の場にはモンスターがいねえんだぜ?」
「やはり……何かあるんだね……」
「でもこの状況……よっぽどの効果があるモンスターが出てこない限り、全然わりに合わないわよ……?」
「確かに……この状況じゃあ、ワイの"タイラント・ドラゴン"を出そうが、勝利の"ブラックフェザー・ドラゴン"を出そうが、状況はそこまでひっくりかえらへん……いったい、何を狙っとるっちゅうんや?」
話す勝利たちには、何も断定することが出来ないこの状況の気持ち悪さを表すような表情が浮かんでいた。
そんな様子の勝利たち、そして遊戯を見て、獏良は嬉しそうにもう一つ笑った。
「ククク……俺様のオカルトデッキには超おっそろしいモンスターがいてなあ……だが、そいつの召喚には墓地の悪魔族モンスターが3体も眠っててくれなきゃあいけねえんだ……」
「……なるほど。そのモンスターの最速召喚を狙って、わざわざ攻撃表示で……遊戯君に、警戒されないために……」
「相変わらず察しがいいな。黒羽勝利。今に見せてやる……墓地の悪魔族モンスター3体を生贄に……"ダーク・ネクロフィア"、召喚!」
ダーク・ネクロフィア
闇属性 悪魔族 星8
攻 2200
守 2800
「"ダーク・ネクロフィア"……」
『……ヒヒヒヒ』
不気味に笑うそのモンスターに、一筋の汗を垂らす遊戯。
そこから……獏良の反撃が始まった。
「ハハハハハ! "ウィジャ盤”効果、発動! 死のメッセージカード……『A』! これでお前に残されたターンは、あと2ターンだ! 遊戯!」
バクラ LP 3400
モンスターなし
ダーク・サンクチュアリ
暗黒の扉
ウィジャ盤 D
死のメッセージ E
死のメッセージ A
(ダーク・サンクチュアリの効果で、魔法をモンスターゾーンにおける 装備カードの怨霊が場を彷徨う)
(暗黒の扉の効果で、遊戯は一度ずつしか攻撃できない)
遊戯 LP 750
ビッグ・シールド・ガードナー
守 2600
ブラック・マジシャン・ガール
攻 2500
磁石の戦士γ
攻 1500
伏せカード2枚
勝利はそれを見て、静かに息を飲んだ。
その決闘の内容は、勝利たちの想像を絶していた。
「……"ウィジャ盤”と"ダーク・サンクチュアリ”による、封殺特殊勝利コンボ……序盤にLPを不用意に削っていたのも、LPなんてものが勝敗の勘定に入っていなかったから。こんな戦い方があるだなんて……遊戯の奴、どうする気かしら……」
「……竜崎君。君ならどう戦う?」
「アホ。ワイに聞くな。こんなコンボ、ワイに突破できるはずないやろ」
「……まあ、そうだよね」
それは決して、竜崎の事を馬鹿にするような言葉ではない。
むしろ、竜崎ほどの決闘者でも、力で突破することは難しいという、獏良のオカルトコンボの完成度の高さの証明であった。
「"暗黒の扉”によって、攻撃モンスターの数を制限して、"ダーク・サンクチュアリ”の『スピリット・バーン』で攻撃を弾き返す。攻撃しなければ発動しないから様子を見て戦おうにも、"ウィジャ盤”によってあと2ターン後には遊戯君の負けが確定してしまうわ……」
「おいおい……遊戯の奴、このまま負けちまうってのか!?」
「馬鹿野郎! そんなわけねえ! あいつは……こんなことで折れたりしねえ!」
「その通りだよ。城之内君」
勝利が、城之内に同意する。
「勝利さん……遊戯さんがどうやって勝つか、わかるの?」
「さあね」
静香の不安げな問いに、勝利は適当な返事を自信満々に返す。
その答えに、周りが思わずずっこける。
「勝利! てめえ!」
「こんな戦術、初めて見るもの。どうやって突破すればいいかなんて、そう簡単にはわからないよ」
「結局お前もわからへんのかい!」
竜崎の渾身のツッコミが、勝利に突き刺さる。
しかしそんな周りの怒号もどこ吹く風といった勝利は、真っすぐに遊戯を見つめていた。
「どうやって突破するのかはわからない。遊戯君のデッキに、この状況を打開するカードが果たして何枚入っているのかもわからない。でも……一つだけわかることがあるよ」
勝利のその真剣な表情に、怒りに身を任せた皆の温度が下がり、ごくりと息を飲む。
勝利はその注目の中、少しだけ笑い、ゆっくりと口を開く。
「遊戯君は……こんなところで、終わる男じゃない」
「獏良! このカードで、お前のオカルトコンボを打ち破って見せるぜ! 俺は手札から、"クリボー”を召喚!」
『くりくり~!』
そのモンスターの登場に、勝利はもう一つ笑みをこぼした。
その後、遊戯の華麗なるコンボにより、とうとう獏良のオカルトコンボは破壊された……かと思われたが、獏良もそう甘い決闘者ではなかった。
遊戯の一発逆転のコンボによって除去された"ダーク・サンクチュアリ”は、次のターンに獏良のフィールドに復活し、すでに"ウィジャ盤”の効果で刻まれた文字は『D』、『E』、『A』、『T』の四文字。
残されたターンは後1ターンとなり、遊戯は改めて追い詰められることとなった。
「さあ、遊戯! 俺様はこれでターンエンド。貴様の最後のターンだぜ!」
「……獏良君の執念も、なかなかだね。簡単に勝てると思っていたわけじゃないけど、あそこからもう一度"ウィジャ盤”の勝利を狙いなおしに来るとは思わなかったな」
「……こんな状況でも、遊戯の勝ちは疑わないのね」
「うん」
「……その根拠のない自信はどこから来るんや?」
呆れたように言う竜崎に、勝利はおどけた様子で笑いを返す。
「一個覚えておくといいわ、竜崎。そいつの勘は、超常現象よ。これまでに、外れたところを見たことがない」
「……覚えとくわ」
「くっくっく」
「遊戯! 頑張って!」
「遊戯! 負けんなよ!」
「遊戯! 真の決闘者ってのは、絶対にあきらめねえんだ!」
『さあて……どうなるかね』
皆の傍で……そして獏良の中でほくそ笑むマリク。
そんな存在の言葉を否定するかのように、獏良は叫んだ。
「無駄無駄ぁ! この状況をひっくり返すカードなんざ、存在しねえんだよ!」
(……いや、ある。不可能を可能にする……唯一のカードが!)
張り詰めた空気を、いち早く勝利が感じ取る。
それと同時に、頬に汗を垂らした。
「……ハハッ。すごいや」
「……? 勝利?」
「すごすぎる……これが……これこそが……!」
全身の感覚が体内から震えだすのを感じる。
舞が超常現象とまで称する勝利の絶対的超感覚が、これから起こる事象の予兆に警報を鳴らす。
勝利は自らの心臓を掴み、鼓動を必死に抑え飲み込んだ。
(強大で……威圧的。いや……そんな言葉で表しようもないほどのとんでもない力を感じる! でも、邪悪さはない。不快なものは一切感じない。ただただ……心が、昂っている! 圧倒的な力に!)
「……来る!」
「俺は……"ブラック・マジシャン・ガール”、"ビッグ・シールド・ガードナー"、"磁石の戦士γ”を生贄に捧げ! 神を降臨させる! いでよ! "オシリスの天空竜”!」
瞬間。
稲光が走り、飛行艇を貫く。
溢れんばかりの眩い光が、全員の目に届く。
皆が視界を塞がれている最中に、風が届く。
それはまさに……空を司りし神の……天空からの使い。
そして皆が、ゆっくりとその目を開くと……それはいた。
《SAINT DRAGON -THE GOD OF OSIRIS》
ATTACK X000
DEFFENCE X000
Everytime the opponent summons creature into the field,
the point of the player's card is cut by 2000 points.
X stand for the number of the player's cards in hand.
『ぐおおおおおおおおおお!!!!!!!!』
唸り声が、皆に届く。
そして遅ればせながら、勝利が先んじて感じていた感覚を皆が共有した。
神の偉大さ。
神の強大さ。
それを、全身で感じていた。
「何……これ?」
「すごい……」
「これが遊戯の持つ……神のカード!」
「これが……"オシリスの天空竜”なの……?」
「……冗談きついわ……これが……モンスターやて?」
「は……ははは……こりゃ……すごいね」
『ぴ……ぴぃ』
『かあ……』
自分たちの肩で弱弱しい声を上げるブリザードやゲイルを優しく宥める勝利と舞。
精霊の彼らにとって、このオシリスの力はあまりにも強すぎた。
「"オシリスの天空竜”は、手札のカードの枚数×1000の攻撃力を得る。よって"オシリスの天空竜"の攻撃力は、4000ポイント!」
「……決まったね。見ればわかる。神には、罠も魔法も聞かない。獏良君の怨念カードじゃあ、とても神の一撃は止められない」
「……ほんとに、最後の1枚で逆転しよった」
「言ったでしょ? こいつの勘は、超能力なのよ」
「ちょっと、二人とも。今褒めるべきは、遊戯君だよ。ラストターンに神を呼び、絶望的状況をひっくり返した、遊戯君の運命力さ」
自慢するように、勝利は今の遊戯を褒めたたえた。
一足早いが、勝利たちは決着を確信する。
それだけの圧倒的力が、あのオシリスにはあった。
「……くそっ。俺様に打つ手はねえ……」
『ははは。やはりこうなったか。安心しな獏良。次の手は、もう打ってある』
「……何?」
そして、オシリスが支配していた場の空気が、もう一度変わる。
その変化にいち早く気付いたのは、やはり勝利だった。
「っ!? 獏良君!?」
「遊戯君……勝利君……痛い……痛いよ」
「っ!? 獏良!?」
「おいおい……ありゃあ、いつもの獏良だぜ!?」
「なんで、今戻っちゃったの!?」
「なんや……いったい、何が起こっとるんや?」
「あ、あたしだってわからないわよ!?」
何もわからず、困惑する舞と竜崎。
獏良の人格が入れ替わったという事実だけを理解するも、同様に混乱する城之内たち。
そんななか、持ち前の勘で理解に及んだ勝利が、大きく顔を歪めた。
「……まさか……」
「……そこまでだ。武藤遊戯」
「っ! 貴様は!?」
遊戯は低い声に反応し、振り返る。
そこには……金色に輝く錫杖を翳す、大男の姿があった。
「マリク!」
「よく聞け、遊戯よ。すでにその少年は、我が千年ロッドの力によって操られている」
「っ!? 獏良も、貴様の洗脳を受けているだと!?」
「なんで……どうして僕はここに……?」
「……嘘じゃない。獏良君のあれは……演技じゃない!」
「ってことは……今の獏良は、ケガで動けなくなってる本物の獏良ってこと?」
「そんな!? じゃあ獏良君が今、神の攻撃を受けちゃったら!?」
杏子が、当たっていて欲しくない最悪の想像をして、大きく狼狽する。
しかし、その男は表情のひとつも変えず、杏子にとって最悪の事実を肯定した。
「その通り。遊戯。勝敗を決する神の一撃は、この少年の命を奪いかねない精神的ダメージを与えることになるだろう」
「なんだと!?」
「マリク! 貴様!」
「きたねえぞ、てめえ!」
城之内たちが怒号を飛ばす。
そんな中勝利は一人無言で考え込んでいた。
怒っていないわけではない。むしろ血を流さんばかりに下唇を噛み締める彼の心の中は、マリクに対する怒りの炎が渦巻き彼自身の体を燃え上がらせかねないほどであった。
(……奴が本当に『マリク』なのか……マリクに操られし人形なのか……もはや、今はそんなこと、どうだっていい! 今一番重要なのは……遊戯君の熱い決闘に、くだらない水を刺そうとする奴がいること……そんなこと、許さない!)
気が付くと、勝利は駆け出していた。
「っ!? 勝利!?」
「何してんねん!?」
隣にいた舞や竜崎が止める間もなく、勝利は皆の横を抜け走っていく。
勝利が向かう先は……決闘場へ上がるリフトだった。
「っ! 黒羽勝利! 第三者が決闘に介入することはルール違反だ!」
「うるさい! ならばマリクの介入こそが、ルール違反! この決闘を……遊戯君の素晴らしい決闘を貶める行為だ!」
勝利はリフトを闇雲に触る。
焦って手元がおぼつかないものの、遊戯の時間が尽きる前にと、獏良の元へと急ぐ。
「勝利君……」
「待ってて……遊戯君。これ以上、君の決闘を……僕たちのバトルシティを……こんな奴らに汚させやしない!」
(僕が……僕たちが! 神の一撃を受ける! そうすれば、決闘は遊戯君の勝ちで終わり、獏良君は神の一撃を受けなくて済む! みんな……力を貸してくれ!)
『ぴぃー!』
『かぁー!』
『くわぁ!』
勝利が、ロックがかかったリフトの操作を諦め、よじ登っていこうとしたその時、再び邪悪な声が場に響き渡った。
「……引っ込んでな。黒羽勝利」
「っ!!? お前は……千年リングの!?」
勝利はその姿をリフトから見あげて、驚愕の声を零す。
その暗黒を身に宿し、邪気を身に纏った、闇の権化のような雰囲気。
勝利が感じ取ったそれは、先ほどまでの闇の獏良の姿だった。
「遊戯。今回は俺の負けにしておいてやるぜ……安心しな。仲間の獏良は死なせてやらねえからよ……」
遊戯も、勝利も、突然のことに状況が掴めずに困惑する。
しかし遊戯は、そんな時でも真っ直ぐに、対戦相手を見据える。
そのバクラの醜悪な笑顔は、覚悟の決まった決闘者の顔をしていた。
それを察した遊戯もまた、覚悟を決める。
「……行くぜ!」
「来い! 遊戯!」
「オシリスの攻撃! 『超電導波ーサンダーフォース』!」
《SAINT DRAGON -THE GOD OF OSIRIS》
ATTACK 4000
獏良 LP 3400 ー 4000 = 0
「ヒャーハハハハハハ!」
決して気分の良くない、甲高い笑い声を最後に、
怪しく、苦しく、大変な決闘が幕を閉じた。
バトルシティ、決勝トーナメント2回戦
武藤遊戯 VS 獏良了
勝者 武藤遊戯
「……うん。だいぶ落ち着いたね。大丈夫そうだよ」
「ふぅ。よかった」
医務室に集まった皆が、肩の力を抜いて椅子に座りこむ。
「……しっかし、遊戯が無事に一回戦を突破したってのに、気分が晴れねーぜ」
「ホントよ。1回戦が、遠い昔のようだわ」
「……お前ら……ホンマにとんでもない戦いを生き残ってきたんやな」
ベッドの上で静かに眠る獏良の表情を覗きながら、それぞれが思い思いの言葉を残す。
しかし全員に共通して、開くその口は重苦しかった。
「……遊戯君たちはやっぱり、その千年アイテムの運命に導かれた戦いをしているんだね……この、バトルシティという舞台の中で」
「うん……」
遊戯は、首元の千年パズルをそっと持ち上げる。
頑丈なはずのパズルを、遊戯は割れ物のようにそっと触れていた。
「……勝利君たちの決闘を見て、もうひとりの僕は、燃えていた。どんな相手でも全力で戦い、勝ちをもぎ取って上に上がる。少なくとも、決闘が決まる前はそう考えていただろうし、実際決闘中も、全力で獏良君にぶつかっていた」
「そして……その全力で、勝利を手にするはずだった」
その呟きに反応するように、城之内が壁に拳をたたきつける。
金属製の壁が、少しだけだがへこんでいた。
「……マリク!」
「……わかっちゃいたけど……やはりマリクは、あのくだらない力を使って、このバトルシティを支配する気だ。僕たちの、決戦の舞台を……」
勝利もまた、ぶつけどころのない怒りに拳を握る。
その拳を、舞が優しく包み込んだ。
「……舞さん」
「落ち着きな。あんたはまだこの先、マリクと戦う可能性があるんだ。怒りに支配されて、我を見失っちゃあだめ」
「……うん」
洗脳された本人である舞にそう嗜められ、勝利も静かに怒りを下ろした。
しかし、そうはいかないものもいる。
情熱的で一本気で、友情を何よりも重んじる男。
「……千年ロッドには、人の心を操る能力がある……舞さんも城之内君も、それで洗脳を受けて、危険な決闘をさせられた……」
「っ! 遊戯! 俺とお前が、命がけの決闘をさせられたのも、そいつの仕業なのか!?」」
「……うん!」
城之内が、再度思い切り拳を壁にたたきつける。
今度は、はっきりと壁に罅が入った。
「俺が……俺が絶対に、奴をぶったおしてやる!」
彼の瞳に、拳に、もはや怯えも怯みもなかった。
『トーナメントに参加する決闘者の皆さん! ただいまより第3回戦の抽選を行います!』
「よっしゃあ! 行くぜ野郎ども!」
ずんずんと廊下を駆けていく城之内。
その勢いに気おされ、同じように怒っていたはずだった本田たちは苦笑いをしながら城之内の後を追っていく。
その後を、竜崎、舞、そして勝利が追従する。
「……さっきまで、自分に不安になって震えとった奴とは思えへん……うらやましい脳みそしとるわ」
「アホだからよ。あれくらいでちょうどいいんじゃないかしら」
「クックック。なんにせよ、いい傾向だよ。まだ見ぬ相手のことを考えて怯んでいるようじゃ、どのみちいい決闘はできないからね。よかったね、竜崎君」
「……なんもしてへんいうとるやないか」
照れる竜崎を笑いながら、勝利たちも歩いて行った。
「それでは、第3回戦の対戦者の抽選を行います! アルティメットビンゴマシーン作動!」
皆が抽選会場に集まるや否や、磯野が高らかに宣言を飛ばす。
しかし、中のビンゴ玉はもはや頑張れば数字が目視できるほどにその数を減らしていた。
NO.1 ナム(マリク)
NO.2 マリク(リシド)
NO.3 海馬瀬人
NO.6 城之内克也
「来い! 来い! 来い!」
城之内が、リシドを睨みながら懇願する。
必ずや自分の手で、奴を倒す。そんな思いが握る拳に乗っていた。
「次こそは兄サマ!」
親愛する兄の負ける姿など想像もしていないモクバが、純粋に兄の決闘を見る機会を祈る。
「……」
(フフフ)
何を思うか分からぬ表情で、二人のマリクがビンゴを待つ。
ビンゴの玉が、まず一つ転がり落ちる。
「対戦者一人目は……決闘者NO.2 マリク!」
その名前が読まれた瞬間に、空気が一層引き締まる。
(マリク……)
(奴のデッキに、3枚目の神のカードが……)
(果たして……神はあるのか……)
(……お前は、絶対俺が倒す!)
決闘者たちの様々な思考を切りさくかのように、ビンゴが二つ目の玉を吐き出す。
それに皆が、ごくりと息を飲む。
これによって、すべての1回戦の組み合わせが決まる。
それすなわち……このトーナメント一つ目の山場。
神のカードと、その相手。
それらがすべて、決まるということ。
磯野が、ゆっくりと玉を拾い、掲げた。
「対戦者の二人目は……」
掲げた玉に記されたNoは……3。
「……瀬人様!」
「ふぅん。ようやく出番か」
「ちっ……マリクをぶちのめす機会を、奪われちまった」
悔しそうにする城之内を一瞥もせず、海馬はマリクに向き直る。
(……ちょうどいい。遊戯と決勝で戦うことになる前に、神のカードをそろえて万全の体制をとることとしよう)
『……リシド。わかっているな』
(……はい。マリク様。必ずや、海馬瀬人はわたくしの手で)
「……海馬君か」
「勝利。どう思う?」
舞が問う。
聞いているその内容は、決闘艇に乗る前のやりとり。
奴が本当に、マリク本人なのか。
それとも……
「……まだ、分からない。千年アイテムの力っていうのは、僕の感覚で掴める範囲を、超えたところにあるのかもしれない。でも、遅かれ早かれ、全てわかるはずだ」
「……」
「……ふぅん」
勝利は睨み合う海馬たちを一瞥し、その後、視線を横にずらす。
「ってことは、俺の相手はお前になるわけだな。ナム!」
「……そうだね! お手柔らかにね。城之内君!」
「おう! だが、手加減なしだぜ!」
熱い握手を交わす二人を、勝利は冷たい眼差しで見つめた。
(もしも……海馬君の相手であるマリクが、単なる影武者だとするのであれば……)
(フフフフフ。そう怖い顔をするなよ。もう少し待ってな、黒羽勝利。城之内を葬った後は、お前。そして最後が、遊戯だ!)
バトルシティ決勝。
2回戦を皮切りに、闇は動き出した。
さて、当たり前のように遊戯の勝利。
そしていつの間にか、バトルシティ大好き人間になっている勝利。
アンティを嫌って渋っていたのが嘘のよう。
続いて、マリク(笑)vs海馬。
次回の決闘は本作オリジナルなので、そこそこ真面目に書く予定です。
リシドのデッキ内容は、ちょい悩み中。
お楽しみに。
ノア編は必要だと思いますか?
-
ぜひ書いて欲しい
-
さっさとバトルシティ完結した方がうれしい