遊戯王~黒き羽根は夢に舞う~   作:haruko

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さて。
決着です。


オベリスクvsラー? 神の怒りは誰へ

 

 

海馬  LP 4000 手札0枚

 

オベリスクの巨神兵

 

攻 4000

 

伏せカード無し

 

 

リシド LP 4000 手札2枚

 

アポピスの化身×2

 

攻 1600

 

王家の神殿

伏せカード1枚(次元幽閉)

 

 

「す、すげぇ威圧感……」

 

「これが海馬君の持つ神のカードなのね……」

 

「うん……立っているだけでわかる。この威圧感、この緊張感……間違いない。遊戯君の"オシリスの天空竜”と同じ、神の名にふさわしい力を持つカードだ……」

 

そう話す勝利の服の袖を、舞がそっと掴む。

それに気づいた勝利は、周りにばれないように舞により、肩をそっと抱き寄せる。

舞の体が、ほんの少しだけ震えていた。

 

(……ごめん。勝利……)

 

(あの一件で精霊が感じ取れるようになった舞さんの体が、まだカードの力になれていないんだ……ましてや、この"オベリスクの巨神兵”は、威圧感だけで言えば遊戯君の"オシリスの天空竜”の力を上回る、破壊の神。舞さんの感受性が鋭くなった心が強すぎる意志の力に充てられてしまっている)

 

『ぴぃ!』

 

『かぁ!』

 

(……うん。ブリザード、ゲイル。舞さんと一緒にいてあげて)

 

2体が舞の周りを飛び回る。

勝利にも感じられるかどうかの微量なものだが、二人の周りに、ドーム状の壁のような層ができる。

 

(これは……倉庫で僕たちを爆風から守ってくれた……)

 

(……気分が、楽になる……ありがとう。ブリザード、ゲイル)

 

『ぴぃぴぃ!』

 

『くわぁ!』

 

 

 

 

「さあ、マリク……受け止めて見せるがいい……我がオベリスクの、神の一撃をな!」

 

そんな自身のカードの威圧感に苦しむものがいるなど考えもせずに、機嫌よく高らかに宣言をする海馬。

その様子に、さすがの『マリク』も少し顔を歪めた。

 

(……神に低級の罠は通用しない……この"次元幽閉"では、神の一撃を防ぐことはできない!)

 

『ちっ……どうやって罠戦術を突破するのかと思ったら……まさか神の召喚まで漕ぎつけるとはね……さすがにやるじゃないか、海馬』

 

 

 

「偽りの決闘者よ! 神の一撃に沈むがいい! "オベリスクの巨神兵”! "アポピスの化身”に攻撃! 『ゴッド・ハンド・クラッシャー』!」

 

 

 

海馬の宣言と共にオベリスクが強大なその身を動かし、拳を『マリク』のフィールドへ向ける。

決して早くないその拳だったが、"アポピスの化身”は一歩として動くことができず、その一撃を全身に受け沈み込んだ。

 

 

オベリスクの巨神兵

 

攻 4000

 

アポピスの化身

 

攻 1600

 

 

『ギィアアアアアアアアアア!』

 

 

リシド LP 4000 ー 2400 = 1600

 

 

「くっ!?」

 

「フハハハハ! 雑魚モンスター、粉砕!」

 

「うおっ! これが……神の一撃!?」

 

「すごい力だ……」

 

「……罠モンスターといえど、戦闘をすればダメージは受ける……これはほぼ、決まったね」

 

「ああ……『マリク』は次のターンも"無謀な欲張り”の効果によりドローできない……手札は1枚。セットカードも、オベリスクを止められるものではない」

 

「……終わってみりゃあ、圧勝か。さすが、海馬瀬人やな」

 

 

 

 

 

「所詮偽物では、俺の相手など勤まらないことを知れ! マリクの影武者よ!」

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

「おい、今なんて言った!?」

 

「マリクの偽物だって!?」

 

「本当なの、遊戯!?」

 

「……勝利、あんたも気づいてたの?」

 

 

「……ああ、間違いない」

 

「僕らも確信に至れない部分はあった。でも、今は僕や遊戯君の推理よりも、奴と直に戦い、カードという剣を合わせ、決闘を通して語りあった海馬君の絶対的感覚の方が正しい」

 

 

遊戯、そして勝利も、今海馬と戦う『マリク』が真のマリクではないということを確信する。

 

「海馬君は、自分の目の前にいる存在が、神のカードの使い手ではないと確信している。自分たちと同等の力を持つ神のカードを従えし決闘者が、その程度の実力ではないということを、彼の決闘者としての実力で感じ取っているんだ」

 

「じゃあ……本物のマリクはどこに?」

 

「わからない……もしかしたら、あの影武者を操ったまま、別の場所で見ているのか……それとも……」

 

(すでにこの船に乗り込んでいて、僕たちがマリクの支配下にはないという前提であれば、残る候補は……)

 

 

 

『……ちっ。リシドが決闘に負け、僕の正体もばれるとなると、僕のこの後の計画が狂う……』

 

 

(……しかしオベリスクがすでに召喚されてしまったとなると、現状手札のカードに神に勝るカードは存在しない。私の負けは、ほぼ確定。申し訳ありません、マリク様……)

 

 

「……私のターン。"無謀な欲張り”の効果で、ドローはスキップされる」

 

「ふん。最後のドローに縋ることもできんとは、所詮偽物。お似合いの末路だな」

 

「くっ! (海馬瀬人は、すでに私の正体を確信している……おそらく、遊戯と勝利も……私は、受けた使命を何一つとして果たせぬまま……)」

 

 

 

『待て。リシド。まだ手はある』

 

 

 

「っ!? (ま、マリク様!?)」

 

 

 

 

 

 

『海馬瀬人は……(ラー)で仕留めろ!』

 

 

 

 

 

 

「っ!!? そ、それは!!」

 

 

 

 

 

「……?」

 

「……『マリク』の様子が変わった?」

 

「……なんだ? この状況をひっくり返すことができる手が、あるというのか?」

 

 

 

 

『マリク』……否、リシドの脳に直接響き渡るマリクの声が聞こえていない皆と、対戦相手の海馬は、その様子の変化に困惑の表情を浮かべる。

 

 

 

 

「……どうした? 今更神の一撃に沈むことに恐怖したか?」

 

『ふっ。調子に乗っているな海馬。それもそのはず。やつはお前が「マリク」ではないことを確信している。オベリスクを従えている今、偽物のお前がオベリスクを超える手立てはない。奴は、そう考えている』

 

(……しかし、事実として、私ではオベリスクを突破することは叶わない……)

 

 

 

『いや……お前のデッキには、入っている。(ラー)のカードがな。ま、グールズの力によって生み出された、コピーカードだけどね』

 

 

 

(……ラーの、コピーカード)

 

『確かに、神のカードのコピーは災いをもたらす。グールズの決闘者どもがラーのコピーカードを入れた状態で実験的な決闘を行った結果、その使用者たちは碌な末路をたどらなかった。廃人、喪失、あるいは、絶命したものさえもいた。だが、お前は違うだろう。リシド』

 

(……)

 

 

 

「……マリク! ターン開始からすでに規定時間が経過している! 残り5分でアクションを取らなかった場合、貴様は敗北とする!」

 

 

 

審判である磯野による脅しに似た宣告が入る。

しかしそんな言葉など、リシドには届いていなかった。

 

『ラーを操るには、強靭な精神力が必要。だからこそ、墓守の一族にしか操ることはできなかった……リシド。お前ならば、ラーの現身であるあのカードを召喚できる……『マリク』はお前なんだ。リシド!』

 

(……しかし……私は……)

 

『ラーの力を操ること。それこそが、墓守の一族としての証明。それさえできれば、亡き父上も必ず、お前を一族の後継者であることを認めるだろう』

 

「っ!? (父……上……)」

 

 

 

 

 

『貴様! 使用人の分際で厚かましい! 消えろ!』

 

 

 

 

 

「……」

 

 

『今ここで……「マリク」になって見せろ! リシド!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「マリク! 残り3分で……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「海馬瀬人よ。今から……私が神の所持者であるという証を立てよう」

 

 

 

 

 

 

「何っ!?」

 

「なんだって!?」

 

「じゃあやっぱり、あいつがマリクなのか!?」

 

(……違う……奴は、マリクじゃない……でも、じゃあなんで、奴が神のカードを? 人形ではなく、マリクの腹心だからこそ、神のカードを託しているとでも言うのか?)

 

 

 

 

 

 

「ほう……まさかその程度の実力で、本当に神のカードを持っているとはな……しかし、神のカードの召喚には3体のカードの生贄が必要。貴様のフィールドには、罠モンスターが1体のみ。ここからどうやって神を召喚する?」

 

「……我がデッキは、神のための聖櫃の守護神が存在する。今、そのカードを見せてやろう……"アポピスの化身”を生贄に捧げ、"聖獣セルケト”を召喚する!」

 

「"聖獣セルケト”だと……?」

 

 

『マリク』の宣言により、神殿の奥から硬い体をカタカタと打ち鳴らしながらモンスターがはい出てくる。

しかしそれは聖獣と呼ぶにはあまりにも凶悪な姿だった。

 

 

聖獣セルケト

 

地属性 天使族 星6

 

攻 2500

 

守 2000

 

王家の神殿が存在する場合のみこのカードは召喚される

戦闘で破壊したモンスターを食らい、除外して攻撃力を上げる

 

 

 

「な、なんだぁ!? さ、サソリの化け物~!?」

 

「なんか……気持ち悪いわ。お兄ちゃん……」

 

「……確かに、凶悪なモンスターだが……」

 

「……攻撃力は、2500や。中級モンスターとしちゃ低いわけでもないが、海馬のオベリスクには遠く及ばへん」

 

「一体、『マリク』は何を考えているのかしら……ねえ、舞さん……舞さん?」

 

「っ!? 勝利君!?」

 

 

 

杏子と遊戯が声を掛けようとしたその瞬間に、その表情を驚愕に変える。

その視線の先には、身を寄せ合い、地面に蹲る舞と勝利の姿があった。

 

「なんやお前ら!? いきなり、何があったんや!?」

 

「舞さん! 勝利君! 大丈夫!?」

 

 

 

「……うん。大……丈夫……」

 

 

 

勝利は弱弱しくそう答える。

しかしそれが強がりであることなど火を見るよりも明らかだった。

 

『ぴぃ……』

 

『かぁ……』

 

二人の上を舞っていたブリザードとゲイルも、ふらふらと力なく、二人の肩へと降りていった。

彼らもまた、勝利たち同様に弱っている。

 

 

(……なんだこれ……オシリスの時とも、オベリスクの時とも違う……これが最後の一枚の神のカード、"ラーの翼神竜”の力なのか……それとも……)

 

(……何、この力……勝利の"ブラックフェザー・ドラゴン”の温かくなる力とはまるで違う。それでいて、遊戯のオシリスとも、海馬のオベリスクとも違う……いや、そもそも……)

 

 

 

 

「「……これは……神の力じゃあない?」」

 

 

 

 

「聖櫃の番人、"聖獣セルケト"と"王家の神殿”が存在する場合、神殿は最後の効果を発動することができる」

 

「……最後の効果だと?」

 

 

 

 

「そう……その効果とは……"聖獣セルケト"と"王家の神殿”を生贄に捧げ、聖櫃からカードを1枚取り出し、召喚することができる効果!」

 

 

 

 

「何っ!?」

 

「好きなモンスターを召喚できる効果を持つだと!?」

 

「セルケトはオベリスクと戦うためじゃあなく……生贄にするために出したっちゅうことか!?」

 

「……この効果で、海馬のオベリスクを倒すために出すモンスターは……1体しかいない!」

 

 

 

 

『マリク』がセルケトを墓地へ送る。

それと同時に、神殿の最奥に、邪悪な瘴気が満ちた。

 

 

 

 

「セルケトを生贄に……聖なる棺に眠りし神の魂よ――今その姿とともに甦れ!」

 

 

 

 

その瘴気が、宣言と共に姿を成し、漆黒の身を作り出す。

 

 

 

 

 

「いでよ! "ラーの翼神竜”!」

 

 

 

 

 

その姿に、皆、時を奪われたかのように固まった。

 

 

「これが……3枚目の神」

 

「"ラーの翼神竜”……」

 

『いいぞ、リシド……よくぞ、よくぞ神の移し身を従えた……これでお前は……』

 

 

 

 

 

 

 

「やめろ!」

 

 

 

 

 

 

瞬間、皆の体の硬直が解ける。

顔を向けたその先には、勝利が歪めた顔を白くしながらも、その目に怒りを宿していた。

 

 

 

『フフフ。ラーの偉大さに恐れをなしたかい。勝利。今はそこで眺めているんだな。海馬をラーで葬った後はお前……そして遊戯の番だ!』

 

 

 

心で勝利を嘲わらうマリク。

しかし、勝利の懸念は、マリクのそれとはまるで違っていた。

 

 

 

 

 

 

「それ以上……カードを怒らせるな!!!」

 

 

 

 

 

 

『……何を』

 

 

馬鹿なことを。

そう続けようとしたその時、マリクのディスクが震える。

マリクは、自らの身を焦がすような恐ろしきオーラに言葉を失う。

 

 

『……僕のデッキの中の……真の神が怒りに震えている……』

 

 

 

マリクは我に返ったように、その自分自身の瞳で(ラー)を……いや、神を形どった何か(・・・・・・・・)を見る。

 

 

 

『っ!? これは……(ラー)の姿などではない!』

 

 

 

 

「な、なんだぁ!? 何が起こってんだあ!?」

 

やがて何も知らぬ、わからぬ城之内たちにも、異常事態が起きていることだけが理解できた。

 

 

 

 

(ラー)の姿が……黒い霧状と化して姿を変えていく」

 

「い、一体何が起こるっちゅうんや!?」

 

 

 

 

 

『これは……移し身(コピーカード)を使ったことへの、神の怒り……! 神の怒りは……この場にいるすべてのものに降り注ぐ!』

 

 

 

 

 

やがて(ラー)の形をした何かが、天へと消える。

天は……その力と光を取り込み……暗黒に染まる。

 

 

 

 

「ば……馬鹿な……!? ソリッド・ヴィジョンの力が……自然へと影響をもたらして……」

 

「なんか……やばいぜ! 兄サマ!?」

 

 

 

 

「なになになに!? どうなっちゃうの!?」

 

狼狽するモクバに杏子。

そこまで態度に出さないまでも、城之内も本田も御伽も、遊戯もまた、この状況を掴めずにどうすればいいかわからずただただ息を飲む。

 

そんな中、顔色を悪くした勝利が一人、中心で皆を自分のもとに引き寄せる。

 

 

 

「みんな……僕のもとに、集まって……」

 

 

 

「……勝利君?」

 

「おい、勝利……大丈夫か? 顔、真っ白だぜ?」

 

「大丈夫……みんな、ここにいて……」

 

 

そう言いながら、勝利は一歩進み、皆の前に出た。

軽く足を開き、構える。

 

 

(……みんなは……僕が守る!)

 

 

勝利が、カードを翳す。

その瞬間に勝利の前に、ミストラル、ギブリ、グラディウスが現れた。

 

(みんな……お願い! 僕とともに、みんなを守って!)

 

 

『くわっ!』

 

『ファー!』

 

『ぴしゃ!』

 

 

BFが三角形となり、勝利たちの前に集まる。

そして、皆には見えない力で、再び結界を張る。

 

(どれだけ耐えられるかは分からない……でも、やるしかない! 僕がやるしか、ないんだ!)

 

 

覚悟を決め、ペンダントを握る勝利。

するとその手を、少し震える暖かい手が包み込んだ。

 

そして……目の前に、3体のモンスターが現れた。

 

 

「……ハーピィ・レディ」

 

 

相変わらず不愛想に、ふん、と一言飛ばし、前に向き直る。

どうして。

その問いの答えは、自分の手を包む優しい手にあった。

 

横を見ると、舞が勝利と同じくらい白い顔で微笑む。

そして勝利と舞の手の中で、BFとハーピィのカードが重なる。

 

 

 

「……ありがとう」

 

 

「あんたは、一人じゃない」

 

 

 

そんな最中、眼前に、神の怒りが迫る。

 

 

 

「な、なんだこりゃあ!?」

 

「やばいよ、これ!」

 

「静香! 伏せろ!」

 

「きゃあ!」

 

「勝利君! 舞!」

 

 

 

遊戯は、前に立つ二人を心配し声を上げる。

しかし、二人は引かなかった。

 

 

 

 

「ミストラル、ギブリ、グラディウス! フォーメーション、"ブラック・バード・クローズ”!」

 

「お願い! "ハーピィ・レディ"! "朱雀の陣”!」

 

 

 

 

BFとハーピィが、一撃を受ける。

だが、神の怒りは、それしきでは収まらない。

 

 

 

「っ! ダメ! 破られる!」

 

 

ハーピィとBFの作るバリアにひびが入る。

舞が思わず、目を逸らした。

しかし、勝利はまだ真っすぐとそちらを見る。

 

 

「まだだ! みんな! 行くよ!」

 

 

『くわあ!』

 

『ファア!』

 

『ぴしゃあ!』

 

 

 

 

限界かと思われたその刹那に、勝利のペンダントが光る。

それを勝利は、強く握る。

 

 

 

 

「ミストラル、ギブリ、グラディウス! チューニング!」

 

 

 

 

その宣言とともに、3体の体が光り輝き、一つの姿になる。

 

 

 

 

 

「頼む! "ブラックフェザー・ドラゴン”!」

 

 

 

 

 

 

『くわあああああああああ!!!!』

 

 

 

その龍の一声を最後に。

 

龍の体から、黒羽が舞う。

 

 

 

 

 

その瞬間に。

大切な仲間を襲う邪悪な光は、霧散した。

 

 

 

 

 

 

 

まず初めに、城之内がそっと目を開ける。

 

 

 

「……助かった……のか?」

 

その声に続き、杏子、本田、御伽、そして竜崎と、順番に声が上がっていく。

 

「何が……起こったの?」

 

「なんかよくわかんねーが……危なかったことと、何とか命拾いしたことだけは、確かだな」

 

「全く……カードの神ってのは、とんでもない奴らだな……」

 

「ホンマや。カードの一撃でおっ死んだなんて。笑い話でも信じてもらえんわ」

 

「みんな……」

 

周りを見回し、安堵の表情を浮かべる遊戯。

その後はっと表情を変え、後ろを振り向く。

 

 

そこには、二人で手を握り合いながら飛行艇の地面に倒れ伏す、舞と勝利の姿があった。

 

 

 

「勝利君! 舞!」

 

 

 

遊戯が真っ先に声を上げ、駆け寄る。

それに倣い、ほかのみんなも二人を囲むように集まる。

 

「勝利、舞! 起きろ!」

 

「おい……嘘だよな?」

 

「そんな……」

 

「いや……起きて! 勝利君! 舞さん!」

 

 

 

 

 

「……だいじょうぶだよ。ね、舞さん」

 

 

 

「……ひどい目にあったけどね。ひとまずは、同じく命拾いってところよ」

 

 

 

 

 

突っ伏したままそう答える二人に周りは安堵し、体を起こす手伝いをする。

勝利も舞も、力が抜けており、自立することもままならなかった。

 

 

「ありがとうね。城之内君、遊戯君。みんな」

 

「杏子に、静香ちゃんも。ごめんなさいね。なんか力が入らなくて」

 

 

勝利と舞がそうやって礼を言う。

しかし、誰からか、首を振ってその礼を拒否し始める。

 

 

「……守られたのは、俺たちの方だぜ」

 

「ああ……お前らが何してたのかわからねーが、お前らが、あの一撃から救ってくれたことだけはわかってるぜ」

 

「なんやようわからん事だらけやけど、そうみたいやな」

 

「うん……こちらこそ、ありがとうね。勝利君、舞さん」

 

 

その言葉に、勝利は、そして舞は、思わず震える。

それは、歓喜の震えだ。

 

 

 

 

(本当に……ありがとうは、僕のセリフなんだよ。みんな)

 

(見えてなくても、感じられなくても、みんな勝利を信じている……これが……仲間なのよね)

 

 

 

 

何はともあれ、皆無事だ。

これで、一件落着。

 

 

そんな空気が流れかけたのを、一つの叫びが現実に引き戻した。

 

 

 

 

 

 

「……兄サマ!? 兄サマは!!?」

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

その瞬間に、皆の視線が一気にフィールドに集まる。

 

(そうだ! 決闘! 決闘は、まだ終わってはいなかった!)

 

決闘をしていた二人は。

海馬は。偽マリクはどうなったのだろうか?

 

 

海馬の性格的に、決闘を放棄してその場を離れるなどということは考え難い。

しかし逃げなかったということは、外で観戦していた我々よりも、直に神の一撃を浴びることになってしまう。

そんなことになったら、彼らは無事ではいられないはず。

 

 

 

 

不安。懇願。

恐れと祈りが入り混じる感情を向けながら、フィールドを見る。

 

 

 

 

すると、衝撃の状況が皆に飛び込んできた。

 

 

 

 

 

「……こ、これは……」

 

 

 

 

 

誰かの声が、場に響く。

 

 

 

それに呼応するように。

オベリスク(・・・・・)が、その大きな腕を持ち上げる。

 

 

 

そしてその腕の下に、海馬はいた。

 

茫然と立ち尽くした状態で、天を、オベリスクを見上げている。

 

 

 

 

やがて、オベリスクはそっと体の力を抜く。

オベリスクの背中には、焼けたような跡が残っている。

 

 

 

 

「……オベリスクが……海馬君を助けてくれたんだ……」

 

 

 

 

その言葉を合図にか、はたまた、力の限界が来たのか。

オベリスクは、ゆっくりと消えていった。

 

 

 

 

海馬は、ディスクからオベリスクのカードを外し、じっと見る。

しかし、カードは何も答えない。

 

 

あの瞬間に、海馬に何があったのか。

 

海馬に、何が見えたのか。

 

その海馬の表情からは、何も読み取れなかった。

 

 

 

 

「……勝利の宣言をしろ。磯野」

 

 

 

 

海馬の言葉に磯野は我に返り、腕の時計、そして……『マリク』を見る。

『マリク』は地に倒れ伏したまま、動かない。

 

 

 

 

 

「……時間経過! 『マリク』、決闘続行不能により! 勝者、瀬人様!」

 

 

 

 

 

その宣言を聞き終わった後、海馬はつまらなさそうな表情でリフトを降りる。

 

「せ、瀬人様! 『マリク』からレアカードのアンティを受け取る権利が……」

 

「いらん。誇り無きコピーカードを押し付けられてはたまったものではない」

 

 

そういいながら歩き出す海馬に、モクバが笑顔で駆け寄る。

そしてその後ろから、勝利たちが走ってくる。

 

モクバを受け止めながら、勝利たちと目を合わせた。

 

「リフト、借りるよ。海馬君」

 

それが何を意味するのか。何をしたいのかを瞬時に理解する。

一度、フンとこぼした後、好きにしろ。と適当に返す。

 

 

 

ふらつきながらも決闘場へと昇ってきた勝利たちは、今だ倒れ伏す偽マリクの元へと走る。

 

最初に勝利、次に遊戯、舞と倒れたその者の周りに集まり、囲むようにして覗き込む。

 

 

 

「おい!? 大丈夫か!?」

 

 

 

「……黒羽……勝利?」

 

「あんたは、誰なんだ? マリクじゃあないんだろ? あんたにこんなことをやらせたのは、誰なんだ? 教えてくれ!」

 

「わたしは…………あの方の……影」

 

その言葉に、勝利や遊戯、皆が同時に息を飲む。

あの方が意味するもの、それを皆わかっていた。

 

 

 

 

「勝利……遊戯……止めてくれ。あの方の……もう一つの……影が消えれば、目覚めて……」

 

 

 

 

そこまで話したところで、彼……リシドは意識を手放す。

完全に力が抜けた肉体の重みを、勝利は腕でしっかりと受け止めた。

 

 

(……自身にコピーカードを押し付けられて、それでも意識を失う寸前まで、主の事を想い続けているだなんて……)

 

 

勝利は、その男の体を持ち上げる。

まだ疲れの抜けきらない足にきてふらつくが、意地で体制を保つ。

 

 

 

「……この男は、人を洗脳して殺し合いをさせるような男じゃあねえ……」

 

 

 

城之内の確信めいた言葉に、遊戯も勝利も無言で頷き肯定する。

 

 

 

 

「どこのどいつだ! こいつにマリクを名乗らせて裏でこそこそしていやがる、本物の『マリク』は!」

 

 

 

 

 

 

 

「俺だよ」

 

 

 

 

 

 

 

その冷たい声に、皆の姿勢が一斉に集まる。

特に勝利、遊戯、城之内、舞は、その声に思わず身震いした。

 

(この声……この雰囲気……)

 

(……脳内に響いた、こいつの声……)

 

(感じる……影武者の時に感じなかった、邪気。闇のオーラを纏う闘気。舞さんやキースの後ろから感じ続けた、あの感覚)

 

 

 

 

(間違いねえ!)

 

 

 

 

皆の視線の先。

そこには、ナム……ではなく、マリクがいた。

 

 

 

 

 

「もう、その影に用はない」

 

「っ! 貴様! 貴様のためにコピーカードまで使って戦った勇敢な戦士に、よくも!」

 

「表の主人格様からすりゃあ大切な忠心なんだろうが、俺にとっちゃあただの足かせに過ぎないんでね」

 

マリクのくだらない言い分に、怒りを沸き立たせる勝利。

しかし今暴走してはならぬと必死に頭の中を整理し、マリクの言葉を反芻する。

 

(表……そして、主人格。間違いない。こいつも遊戯君や獏良君と同じ、千年アイテムによって人格をスイッチしているのか)

 

「俺に比べりゃあ主人格様はおとなしくてね。貴様らの洗脳も甘けりゃ、決闘も甘い。俺にはそんな欠点はない。そして最も違う点としては……俺は、闇が大好きでね。フフ……」

 

 

そこまで言ったところで、マリクが身を翻した。

もはや、ここに用はないといった様子で、リシドなど気にも留めていなかった。

 

 

「まあ、その影のおかげで分かったこともある。神のカードを操ることが出来るのは、千年アイテムと関りを持つ者のみ。それ以外が持てば、神の怒りを買うことになるのだろうな。フフ。海馬、貴様にも千年の記憶が、残されているのかもな……」

 

「……下らん」

 

 

 

 

 

「というわけだ。勝利」

 

 

 

 

 

「……何?」

 

突然の名指しに、体をピクリと反応させる勝利。

 

「貴様に神は操れん。すなわち、貴様はこの神々の戦いに入り込むに値しないということだ。所詮は少し特殊なカードを持つだけの凡庸な決闘者。早めに自分から消えることをお勧めするよ。ククク」

 

「……たとえ神が使えなくても僕は最後まで戦うよ。凡庸だろうが、僕はお前と違って誇り高き『決闘者』なんだ」

 

「フフ。なら、俺が誇りも何もない決闘で、お前を潰してやるよ」

 

 

 

 

「待てこの野郎! お前の相手は、この俺だろうが!」

 

 

 

 

「……おお。これは失礼。すっかり忘れていたよ」

 

「て、てめえ……」

 

「まあ、別にいてもいなくても変わらないがな。まってな。お前も、勝利も、そして名もなきファラオも。闇の餌食にしてやるさ」

 

 

 

 

 

そして高笑いを最後に、マリクは船内へと去っていった。

 

 

 

 

 

 

バトルシティ、決勝トーナメント3回戦

 

 

海馬瀬人 VS マリク(リシド)

 

 

 

勝者 海馬瀬人




このシーンをカード化しようとして、"ブラックバード・クローズ”が誕生したんだよね……という、妄想。


ちなみに、マリクvs城之内が終わったのちに正式に告知しますが、乃亜編は私の判断で決めようと思います。
理由は、2026/04/30現在で、アンケートが完全に50%だから笑

元々参考までにということで置いておいたアンケートだったのですが、まさかこうなるとは思っていませんでした。


今のところは、バトルシティ完結後に最優先で着手するという方針です。
もう言っておきますが、書くこと自体は決定事項です。
私も結構好きですし、楽しみにしてくださってる方々のためにも、乃亜編もきっちり描きます。

まずは、バトルシティを走り抜けます。

ノア編は必要だと思いますか?

  • ぜひ書いて欲しい
  • さっさとバトルシティ完結した方がうれしい
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