遊戯王~黒き羽根は夢に舞う~   作:haruko

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ちょっとタイミングが早まった、城之内vsマリク戦。
タイミングや参加者がずれたこと、舞が昏睡していないことによる、物語の変貌をお楽しみください。


……といいつつ、今回はほぼ導入。


暗黒の第4回戦 始まる、闇のゲーム!

 

場所は、決闘艇の医務室。

皆が深刻な顔で、医者の言葉を静かに待った。

 

「……どうなんだ? この男の容態は?」

 

「脳波にも異常はありません……おそらくは、極度の精神的ショックによる昏睡状態でしょう」

 

「精神的ショック……」

 

「……おかしくもないね。神の一撃……いや、神を怒らせたものへの一撃は、それだけ恐ろしいものだったんだ」

 

医者の言葉に納得するような勝利の呟きにしかし、皆の心は晴れはしない。

先ほどまで憎き仇役だったはずの目の前の男が、不憫に思えてならなかった。

 

「獏良君も決闘で倒れて眠っているし……今回の大会は、傷つく人が多すぎるよ……」

 

杏子が悲しそうな表情と声を見せる。

少しの無言の後、勝利が、同じく悲しみを纏った声で言った。

 

「……そうだね。竜崎君と、楽しく決闘していたのが……嘘だったみたいだ」

 

「勝利……」

 

「……」

 

勝利は、少し俯いた。

その表情には、無念が募っていた。

 

 

 

竜崎との決闘は、楽しかった。

興奮を、熱狂を、熱い心のバイブレーションを今でも鮮明に思い出せる。

 

 

 

もっと、楽しい決闘をしたかった。

 

ここならば、このバトルシティという舞台ならば、もっと行けると思った。

 

 

 

遊戯たちと、鎬を削り合い、死力を尽くす。

最高の決闘をもっともっとしたかった。

 

 

 

しかし、始まってしまった。遊戯たちの運命を導くための、ミレニアムバトル。

 

 

 

そして待っていた結果は、これだ。

 

皆が傷つき、倒れていく苦しみの決闘だ。

 

 

 

 

本当のバトルシティの姿とは、これなのだろうか。

 

自分のように、楽しさを求め戦うことは、間違いなのだろうか。

 

 

 

 

自身の言葉通り。

 

 

 

あの最高に楽しかった時間は、泡沫の幻だったのだろうか。

 

 

 

そんなことすらも、頭をよぎってしまう。

 

 

 

 

 

これは、マリクのせいか。

はたまた、様々なことが起こり、弱ってしまっているせいか。

 

 

 

 

心に巣くう闇が、白い紙に落ちた一滴の墨汁のように。

じんわりと広がり、心を蝕んでいくのを感じていた。

 

 

 

黙る勝利。

しかし、誰もそれに声をかけない。

 

 

 

みんな感じていたのだ。

この先にはまだ、辛く苦しい決闘が待っているということを。

 

 

 

 

 

 

 

そんな重々しい空気の中。

下向きで空中を見つめる勝利の顔が、無理やり持ち上げられる。

 

 

 

 

驚いて目を見開くとそこには、真っすぐに勝利を見つめる城之内の顔があった。

 

 

 

 

 

 

 

「むぐっ!? しょ、しょーのーちくん?」

 

 

 

 

 

「バーカ。何しけた面してんだよ。勝利!」

 

 

 

城之内の行動に、勝利だけでなく、舞も、竜崎も、遊戯たちも呆気にとられる。

 

「お前が、辛え顔してたってしょうがねえじゃねえか。そんなんじゃこの先の決闘で勝ち残れねえぞ?」

 

 

何気なく城之内の口から出てきた『この先の決闘』という言葉に、勝利は思わず固まった。

城之内が言うその言葉は、先ほどまで勝利の頭をぐるぐると駆け巡った、遊戯たちの因縁の戦いのことなど何も気にしていないようだった。

 

 

 

「お前は、竜崎と一緒にとんでもなくすごい決闘をした。お前は、遊戯の決闘の時、遊戯と獏良の事を守ろうとしてくれた。お前は、海馬とこいつの決闘の時、フラフラになりながらも、俺たちを守ってくれた。お前は、すげえ。スゲーよ!」

 

城之内のいきなりの言葉に、目を白黒させる勝利。

だが、城之内は笑顔で続ける。

 

 

 

 

 

「……今度は、俺の番だ!」

 

 

 

 

城之内が、どんと自分の胸を叩く。

その音が、勝利の体の中に響き渡り、闇を払う。

 

 

 

 

 

 

「お前にそんな面させるマリクの野郎は、この城之内様がぶっ飛ばしてやる! そんで、俺とお前と遊戯と、海馬の野郎で決勝戦だ!」

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!!」

 

 

 

 

 

勝利は、城之内の思い描く未来を想像した。

 

 

 

 

遊戯、海馬、城之内、勝利。

 

 

 

 

4人で並び合い、向かい合い、戦う決勝戦。

四人の、決勝の舞台。

 

 

 

 

それを想像し、思わず顔を緩める。

 

 

 

 

誰と誰が、戦うのだろうか。

どんな決闘が、繰り広げられるのだろうか。

 

 

 

 

少し考えるだけで、気持ちが高揚する。

ワクワクが、あふれだした。

 

 

 

 

 

(……勝利が、辛気臭い面してたから。ただそれだけの理由で、ここまで的確に勝利の事を励ませるわけ? まったく……)

 

(……勘だけは勝利に並ぶくらいやな。いや……観察力の勝利と違うて、野生の勘ってやつか? ホンマ、アホはお気楽で、便利な頭しとる)

 

舞と竜崎が笑顔の勝利を見て、呆れて思わず笑いを零した。

 

 

 

 

 

 

「おにいちゃん……かっこいい!」

 

「何よ城之内。たまにはいい事言うじゃない」

 

「たまにとはなんだたまにとは!」

 

「城之内のいう通りだぜ、勝利! せっかく、こんなすげえ舞台の決勝戦までたどり着いたんだ。もっと楽しんで行けよ」

 

「ああ……後一戦。これで、バトルシティの決勝戦の組み合わせが決まる。俺たちも、うかうかしてられないぜ! 勝利君!」

 

 

みんなの言葉に、心の温度が上がる。

 

自分の心臓に手を当てる。

音は、穏やかに伝わってきた。

 

 

 

 

 

 

 

「うん……城之内君。みんな。ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

「へへっ……よっしゃあ! マリクの野郎をぶったおして、ついでに神のカードもゲットしてやるぜ! みとけよあの洗脳野郎!」

 

言いながら城之内が肩を回しながら部屋を出ていく。

杏子たちは苦笑いしながら、城之内の後についていく。

 

「……全く。馬鹿はなんも考えんでええからうらやましいわ」

 

言いながら竜崎は部屋の外へ歩き出した。

 

「……竜崎君。どこへ?」

 

「……発破かけた手前っちゅうのもあるからな。見殺しにすんのは、寝覚めが悪いだけや」

 

暗に、城之内の手伝いをしてやる。というその言葉に、舞と勝利は声を殺して笑った。

 

「ふふっ。どうせ暇だし、あたしも見てやろうかしらね。あたしのアドバイスで勝率5%くらいは、上げてやろうかしら?」

 

「クックック。最高だね。やっぱ、デュエルはこうでなくちゃ」

 

 

 

友とは、カードとは。仲間とは。

 

 

 

ともに戦う、仲間であり好敵手である彼らと自分は、どうあるべきなのだろうか。

 

 

 

 

その答えは、これだ。

 

そう思わせる、一幕だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから、そんなカードじゃ勝たれへんっていうてんねん! はよこっちのカードに変えや!」

 

「何よこのデッキ! 勝率の低いギャンブルに頼ってるだけで戦略も何もあったもんじゃないじゃない!! こんなカードいらないわ! 今すぐ抜きなさい!」

 

「だあああああ!!! てめえら、一体何しに来やがったんだ!」

 

 

 

心地よい雰囲気をそのままに部屋へと戻り、デッキを広げた城之内の手伝いを始めた舞と竜崎。

しかし、大切な友のデッキ構築は開始数秒で暗礁に乗り上げていた。

 

 

 

 

「……せっかくいいムードだったのに」

 

「何やってんだあいつらは……」

 

「クックック。まあ、見えてた未来だけどね」

 

「……? 勝利さん。なんでお兄ちゃんたちがもめちゃうってわかってたの? お兄ちゃんと竜崎さんたち、あんなに仲良しなのに……」

 

「……」

 

(あれを見て、まだ仲がいいといえるこの図太さ……さすがは城之内君の妹さんだ)

 

静香の胆力にやや呆れつつ、勝利は言葉を返す。

 

「城之内君とあの2人は、そもそもデッキのスタイルがまるで違うからね。いや、城之内君を抜きにしたとしても、舞さんと竜崎君のスタイルも大きく違う。1つのデッキに手を加えようとしたときに、ぶつかり合いになることは必然だよ」

 

 

竜崎のデッキは、言わずと知れたダイナソーモンスターたちを中心とした、超パワーデッキ。

勝利と対等に戦うために様々工夫したカードが追加されていたものの、本質的なところは王国の時から変わっていない、単純明快パワーデッキ。

 

舞のデッキは、ハーピィやアマゾネスモンスターを中心としたテクニカルコンボデッキ。

本来攻撃力がそう高いわけではないモンスターをサポートし、敵の攻撃をいなし、自分の攻撃だけを通して制圧するカード同士のかけ合わせの割合が大きい、上級者向けデッキ。

 

そして城之内のデッキは、戦士族中心に魔法・罠で相手をいなしながらも、一発逆転を狙うギャンブル系デッキ。

自分がほかの決闘者から数枚劣っているからこそ、土壇場の運と発想力でカバーし、少ない勝負所を見切り、つかみ取ることで勝ち残ってきた、城之内君のオンリーワンデッキ。

 

 

 

普通に考えて、1つのデッキをくみ上げようとしたときに彼らの意見が完璧に嚙み合うデッキなんてあるわけがない。

故に、ぶつかり合いは必然だった。

 

 

 

「そもそも、3人とも自分の意見を妥協するような性格じゃないからね。飽くまでアドバイスとわかっていても、デッキを見てたらこうなっちゃうだろうなとは思ってたよ」

 

「なるほど~。決闘って、面白いですね!」

 

「……この場合は、面白いのは決闘というより、あの3人なんだけどね」

 

「勝利! お前もだべっとらんとこっちこいや! この素人のデッキを、ワイのカードでパワーデッキに進化させたるわ!」

 

「そんなカードでマリクを押し切れるわけないでしょうが! 貸しな城之内! あたしのカードで、あんたのデッキを華麗なコンボデッキに改造してあげるわ!」

 

「ばっきゃろー! 勝手にカード入れるんじゃねえ!」

 

船内に響き渡る3人のでかい声に、杏子や本田は思わず顔を手に当て、天を仰ぐ。

遊戯は遊戯で、どうすればよいか測りかねて、無言で見ながら汗を少し垂らす。

 

そんな様子をすべて見て、収集するのは自分しかいないのだろうなと判断した勝利が、3人の間に割って入る。

 

 

 

「まあまあ、3人とも落ち着いて。舞さんも竜崎君も。口出ししちゃいたくなる気持ちはわからないではないけど、人のデッキをあんまりとやかく言うもんじゃないよ。城之内君だって、このデッキでバトルシティを勝ち抜いてきた実力者なんだからさ」

 

 

 

「そう! いいこと言ったぜ勝利! ほらお前ら! デッキ返せ!」

 

「……そらそうかも知らんけどやな……」

 

「こんなお粗末なデッキを送り出すあたしたちの身にもなりなさいよ」

 

「お、お粗末~~!? てめえ舞! 人の魂のデッキを!」

 

「どうどう」

 

笑いながらも二人を宥めた勝利。

このままでは本当におさまりが着かないと判断し、パンと1回手を叩く。

 

 

「なら、こうしよう。舞さんと竜崎君。それに僕と遊戯君。この4人で余りのカードを集めて、城之内君のデッキに合いそうなカードを探してあげよう。それで4人が満場一致になったカードだけ、城之内君に検討してもらう。どう?」

 

 

「いい提案だな。それなら城之内君のデッキのバランスが崩れるようなことはないだろう」

 

腕を組んで離れていた遊戯が、同意しながら集まってくる。

その言葉に、舞と竜崎も顔を見合わせ、納得する。

 

「ま、その辺が落としどころやな」

 

「あたしたちが思う最強デッキを仕上げたところで、城之内が扱いきれるとは思えないしね」

 

「て、てめえ舞……言いたい放題言いやがって……」

 

「はいはい。落ち着いて城之内君。舞さんも。もうそんなに時間ないよ。ちゃんと選んであげよう」

 

「ふふっ……そうね」

 

 

今だ鼻息荒く怒りを露わにする城之内を杏子と本田、御伽が抑えているうちに、決闘者たちが並べたカードを簡単に眺めながら話し合う。

 

 

「遊戯君。城之内君の得意戦術と、城之内君のデッキに足りない要素ってなんだと思う」

 

「……そうだな。城之内君のデッキの強みは、相手のカードを利用したりする意表を突いたトリックプレイ。城之内君本人とプレイスタイルにも合っているし、そこは確かな強みだ。逆を言えば城之内君のデッキの弱みは、正面からのぶつかり合いだろうな。王国でも竜崎に苦戦していたように、魔法や罠を圧倒する力には、屈することも多い」

 

「うっ……」

 

図星を突かれて思わず声が漏れる城之内に、杏子たちはくすくすと笑う。

 

「城之内……よかったわね。決闘前にデッキ見てもらえて」

 

「こんだけ強え決闘者たちが見てくれるんだ。しっかり聞いとけよ」

 

「うん。全員間違いなく実力は城之内君より上だろうからね」

 

「う、うるせえ!」

 

 

 

「うん。遊戯君の考えはあっていると思う。言っちゃあなんだけど城之内君のデッキは、レアカードやパワーカードにあふれているわけじゃないから、"真紅眼”も入れていない今、デッキパワーそのものが低めだ」

 

「つまり城之内のデッキに足りないのは、正面からぶつかり合うための補助カードね。竜崎、あんたの余りカード見せなさい。この条件なら、一番合うのはあんたのカードよ」

 

「へいへい。っちゅうても、恐竜サポートは使えるわけあれへんし、そもそもワイのデッキは補助なしで戦えるパワーカードばっかや。パワーを補助するカード自体は、そんな多くないで?」

 

 

言いながら手元のケースから、どさどさとカードを並べる。

そんな多くない、という言葉とは裏腹に次々出てくるパワーカードの山に、皆が目を丸くした。

 

 

「……多すぎるでしょ! それも戦闘強化カードばっかり……あんたやっぱ馬鹿ね」

 

「なんやと!?」

 

「馬鹿かどうかはさておいて。なんでこんなにたくさんあるの? いや、たくさん持っていることに文句はないんだけど、なんでこれを持ち歩いてるのさ?」

 

「お前との対戦用や。直前までどれ入れて戦うか検討しとったからな」

 

竜崎は言いながらカードをテーブルに広げる。

 

「ええカードがありゃええんやけどな」

 

「普通の装備カードだったら城之内のデッキにも入ってるでしょうから、それ以外の要素を持ったカードが欲しいところね」

 

「城之内君のデッキのカードで言う、"鎖付きブーメラン”なんかはまさにそれだな。強化装備カードでありながら、相手の攻撃に対するカウンターカードとしても使うことが出来る」

 

「じゃあ城之内君のために選ぶカードは、『コンバット・トリック』系カードで決まりだね」

 

「……コンバ……なんだって?」

 

勝利の言葉に、城之内とほかのみんなが疑問符を浮かべる。

そんな中一人、英語を理解できた御伽が答える。

 

戦闘(combat)仕掛け(trick)……戦闘補助系の罠カードの事かな?」

 

「さすが御伽君。ほぼ正解だ。厳密にいうと罠だけじゃなくて、竜崎君との決闘で見せたカルートや"イージーチューニング”とかもそれにあたるんだけど、ようは戦闘を行うその瞬間に開いて相手を返り討ちにするタイプのトリックカード全般の事を指す言葉さ」

 

「一度バトルが始まった後は攻撃をなかったことにはできないし、何よりも戦闘が行われるその瞬間に発動できれば、追加で発動できるカードの数は限られる。相手の意表をついて反撃するには、実に効果的な戦術だ」

 

「ワイが使った"魂の一撃"が強力なカードやっちゅうのはそういうところや。本来あのタイミングでモンスターの攻撃力を挙げたら、もうほとんどのカードの発動タイミングは逸しとるんや。だからこそ勝利は、同じように『コンバット・トリック』で"タイラント・ドラゴン"を超えるしかなかった。"魂の一撃"は強化カードの中でも破格の強化量やから、生半可な力じゃあ超えられん……と思っとったんやけどな」

 

「クックック」

 

してやったり、といった表情で笑う勝利に、竜崎もフンと鼻を鳴らした後笑う。

 

「なるほどな……じゃあ、城之内のデッキに"魂の一撃"を入れてやりゃあいいってことか?」

 

「……いや。やめとき」

 

本田の言葉を、竜崎がバッサリと切り捨てる。

 

「"魂の一撃"は自分のライフが低ければ低いほどその真価を発揮するカード。ちゅうことは自分のLPを管理しながら、最大出力となるタイミングを見極めて使わなあかん。豪快な効果とは逆の、相当繊細なカードや。下手なタイミングで使おうもんなら、ライフ減らして自滅になる可能性もあんで」

 

「……じゃあだめだな。ガサツな城之内には無理だ」

 

「本田! てめえ!」

 

「まあまあ。でも、僕も"魂の一撃"は勧められないかな。竜崎君がすごくうまく使ったから強いカードに見えるけど、やっぱり軽々に使えるカードじゃないからね」

 

「そもそもこんなカード入れたら、いつ発動すればいいかに脳のリソース割かれて城之内の頭がパンクするわ。やめときましょう」

 

「てめえら……言いたい放題言いやがってよお……」

 

もはややや涙目の城之内に、笑い声が漏れる。

しかし、遊んでいる場合ではない。

相手が決まっているため抽選はないだろうが、もう何時決闘準備のコールがなってもおかしくはない時間がたっていた。

 

「……だが、どうする勝利君。『コンバット・トリック』系のカードを入れるという案自体は俺も賛成だが、元のデッキのバランスを崩さずに城之内君に負荷もかけないカードを入れるのは、相当至難の業だぜ」

 

「うん……せめて"魂の一撃"な繊細な管理じゃなく、使うことが出来るタイミングがわかりやすくも強力な、そんな一発逆転のカードがあるといいんだけど……ん?」

 

言いながら勝利は、テーブルのカードを1枚手に取る。

それはまさに、『コンバット・トリック』系罠カードだった。

 

「何、そのカード……うわ、"魂の一撃"よりすごい効果したカードね」

 

「うん……ねえ、竜崎君。このカードはなんで使わなかったの?」

 

「ん? ああ……簡単な話や。そのカードは、LPが大量になけりゃ話にならん。お前と戦うんやったら、LPを減らさず維持するために頭回すより、少ないLPを管理しながら"魂の一撃"で戦う方が可能性高いと思たんや」

 

「なるほどね……城之内君。このカードはどう?」

 

勝利は一枚のカードを差し出す。

城之内はそれを受け取り、まじまじと眺めた。

 

「……なんだこのカード? つえーのか?」

 

「うーん。いいカードだとは思うけど、強いカードかと言われたら難しいね」

 

「不発や発動タイミングの間違いで、一気に状況を不利にする可能性のあるカードよ。悪くはないと思うけど、あんたが性に合わないと思うんだったらやめときなさい」

 

「……」

 

城之内は、無言でカードを見つめ続ける。

その目には、決意の兆しがあった。

 

城之内は少しした後顔を上げて、勝利を見た。

 

「……勝利」

 

「何?」

 

 

 

 

「……このカードがありゃあ、俺は、マリクに勝てると思うか?」

 

 

 

 

「……」

 

城之内の言葉に、場の空気が引き締まる。

 

縋っているわけでも怯えているわけでもないことは、城之内の目を見ればすぐにわかった。

 

だからこそ、勝利は真っすぐに答える。

 

 

 

 

 

「……神を討ち返す可能性を、十分に秘めたカードだと思う」

 

 

 

 

 

城之内はにやりと笑い、そのカードをデッキに入れた。

 

 

 

 

 

「竜崎。勝利。舞。遊戯。みんな、ありがとうな」

 

 

 

 

 

「ああ!」

 

「……気合い入れや!」

 

「負けんな! 城之内!」

 

「クックック」

 

 

 

 

 

その後、時間の許す限り城之内のデッキの推敲を繰り返し、数枚のカードが入れ替わったのちに、船内のアナウンスが鳴り響いた。

 

『これより、第4回戦! 予選最後の決闘を行います!』

 

 

 

 

 

「よっしゃあ!」

 

まとめたデッキをディスクにセットし、城之内が勢いよく立ち上がる。

それを見て、勝利はにっこりと笑い、右手を上げる。

そしてそれに倣うように、舞、竜崎、そして遊戯が片手をあげた。

 

城之内は驚いた後、意図を理解して、勝利の手を叩いて快音を響かせる。

 

 

 

 

「僕は信じてる。君の力なら、神にも勝てる!」

 

 

 

「おう! 任せとけ!」

 

 

 

 

続いて、竜崎の手を叩く。

竜崎が痛みに顔を歪めて、睨みながらも笑う。

 

 

 

 

 

「ワイらにこんだけやらせたんや。無様に負けたら、承知せんで」

 

 

 

 

「見てな! 圧勝して見せっからよ!」

 

 

 

 

そして、舞の手を叩く。

さらにそのまま、城之内の背中を、思い切り叩いた。

 

 

 

 

「遊戯が、勝利が、待ってるわよ!」

 

 

 

 

「おう! 俺もすぐに、そこに行くぜ!」

 

 

 

 

 

そして、遊戯と瞳を合わせ、渾身の力で手を合わせた。

 

 

 

 

 

「城之内君……」

 

 

 

「遊戯……」

 

 

 

 

 

 

「見えるんだけど、見えないもの!」

 

 

 

 

 

 

「っ! ああ!! 見とけよ! 俺はお前や勝利と戦うにふさわしい、『真の決闘者』になって、決勝に上がって見せるぜ!」

 

 

 

 

 

 

「負けんなよ! 城之内!」

 

「城之内君! がんばって!」

 

「城之内! 気合い入れなさい!」

 

「お兄ちゃん! がんばれ!」

 

 

 

 

「みんな! 行ってくるぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決闘艇の上。

この場における最後の決闘となるこの時に、上空は最大風速を迎えていた。

まるで、これから始まる苛烈な決闘を予感して、吹き荒れているかのように。

 

しかし、決闘場に立つ城之内の闘志は、一片の曇りさえも存在しなかった。

 

彼の心の内にあるのは、目の前の男を必ず倒すという、決闘者としての覚悟だけ。

 

 

 

 

「よお。逃げずに挑むことにしたのか? 城之内ぃ」

 

 

 

 

千年ロッドを手で回しながらニタニタと笑うマリクが、城之内を馬鹿にしたように……否、馬鹿にしてそう言い放つ。

額に怪しく光る黄金の瞳に、邪悪さをまとったその風体は、彼の人格が千年ロッドに支配された闇の人格であることを明確に語っていた。

 

「マリク! てめえ!」

 

「だが、すぐに後悔することになるぜ……今の俺は飢えている。闇にな……」

 

 

 

 

 

「……遊戯君」

 

「ああ……奴は完全に、千年ロッドの人格に飲み込まれている。俺たちが感じるこの息苦しさは、飛行艇の高度のせいだけじゃあない」

 

「……じゃあまさか、これは!?」

 

 

 

 

 

「さあ……闇のゲームの始まりだぜ!」

 

 

 

 

マリクの宣言と同時に、重苦しい闇が空間を包み込む。

向かい合う城之内とマリクの姿が、闇にまぎれてかすんでいく。

 

 

 

 

「っ! マリク! やめろ!」

 

「ククククク。もう遅いよ遊戯。この闇は、俺の心に巣食う怨讐の念だ! 貴様を、そして勝利を食らいつくすまで晴れること無き永遠の闇。城之内はその足かけ。闇への生贄として選ばれたのさ!」

 

 

 

 

「なんやと!?」

 

「城之内!」

 

 

 

 

皆が一斉に城之内を見る。

闇のゲーム。暗黒の力。

理解している遊戯や勝利以外も、状況の異様さを感じ取り、不安の声を上げて城之内を見る。

 

しかし城之内は、振り向きもせずにサムズアップを返した。

 

 

 

「心配すんな! 俺は勝つ! 勝って、神のカードを手に入れてやるぜ!」

 

 

 

「……城之内君」

 

「よしっ! その意気だ!」

 

「がんばれ! お兄ちゃん!」

 

 

 

「ふうん。最後の神のカード、"ラーの翼神龍”の力を図る試金石として、凡骨決闘者はちょうどいい」

 

「……海馬!」

 

遅ればせながらフィールドに現れた海馬とモクバ。

その容赦ない言葉に、遊戯は強い視線をぶつけた。

 

「せいぜい実験ネズミらしく、ラーの姿を拝んでから消えてほしいものだがな」

 

「黙れ海馬! それ以上、俺の友への侮辱は許さないぜ!」

 

怒りを露にし、拳を握る遊戯。

しかし海馬は涼しい顔だった。

 

「……今一度聞こう。遊戯。そして勝利。貴様らはあの凡骨決闘者が、マリクに勝ると本気で思うのか?」

 

「……何?」

 

「勝利。そしてダイナソー竜崎。貴様らの決闘が賞賛に値するものであったことは認める。勝利が、決勝の舞台に上がることに何の異議もない。だが、勝利が、そしてあの凡骨が神のカードに抗うことができるかどうか。それは別問題だ」

 

海馬は淡々と言葉を続ける。

その表情は、勝利と竜崎が決闘を始める前の表情と、何ら変わりない表情だった。

 

 

 

「断言しよう。奴に、神のカードの攻略はできん」

 

 

 

 

「っ! 海馬君……君は、ラーの効果を……」

 

 

 

 

 

「ああ。ほぼ解読した」

 

「っ! なんだと!?」

 

「どうやって……」

 

「……」

 

 

 

 

(……オベリスクが俺を守ったときに見えた、あの景色……)

 

海馬は、思い出す。

偽マリク、リシドと偽の神のカードとの衝突の際に見えた、不思議な景色。

 

(あの時に脳裏によぎった、映像。そして……その時に見えた……ブルーアイズ)

 

海馬は、自身が目にした映像を再起し、目を閉じる。

 

(そしてモクバに解析させた、偽の神のカードのテキストから読みとることができた……否、神から伝えられた恐るべき能力……)

 

 

 

 

「あの力には……勝利。いや、俺や遊戯でさえも、勝つことは不可能。奴の神のカードの能力は、俺のオベリスクや貴様のオシリスをはるかに上回っている」

 

「……海馬君に、そこまで言わしめるほどの能力……」

 

「……」

 

 

嘘や撹乱の類ではない。

真に迫る海馬の言葉に、遊戯と勝利は今一度城之内を見る。

城之内はすでに、マリクの作る闇の中にいた。

 

 

「だが……俺が確認したのはあくまであの偽物に描かれた仮のテキスト。奴と戦う前に、実際に発動する効果を確認する必要があった。故に、この決闘を見に来たのだ。凡骨を使い、神の力を見定めるためにな」

 

「……城之内君」

 

 

「大丈夫さ。遊戯君」

 

 

勝利が、遊戯の肩を叩く。

 

 

 

「勝つよ。城之内君は、必ず勝つ。約束したんだ」

 

「……ああ!」

 

 

 

 

力強くそういう二人。

だが……心の奥底にある不安感を、お互いに見せることはできなかった。

 

 

 

 

 

「行くぜ! 洗脳野郎!」

 

「地獄に送ってやるよ。城之内」

 

 

 

 

 

城之内 LP 4000

 

「デュエル!」

 

マリク LP 4000

 

 

 

「俺のターン! 俺は、"漆黒の豹戦士パンサーウォリアー”を召喚!」

 

 

漆黒の豹戦士パンサーウォリアー

 

地属性 獣戦士族 星4

 

攻撃力 2000

 

守備力 1600

 

このカードはモンスター1体を生贄にしなければ攻撃できない

 

 

「カードを1枚セットし、ターンエンド! さあ、かかってきやがれ!」

 

 

 

 

「フフフフフ……まあ待てよ城之内……闇のゲームに参加しているお前には見えるはずだぜぇ……体から延びる1本の綱が」

 

 

 

 

「……? なんだ? 何を言って……なっ!? こ、これは……」

 

(いつの間にか、パンサーウォリアーと俺の体がつながっている!?)

 

 

自分から延びた光の線に驚愕する城之内。

そのリアクションに満足したように、マリクは滔々と語り始める。

 

 

「そう……闇のゲームによって生み出された、命の綱。モンスターと共に苦痛と恐怖を体感できる、究極のゲームだ」

 

 

 

「な、なんだって!?」

 

「くそっ! ふざけたゲームを……」

 

「お兄ちゃん……」

 

「遊戯君とペガサスが戦った決闘と同じ……城之内君……」

 

 

 

ギャラリーの皆が不安の声を上げる中、それを振り払うかのように城之内が勇ましい声を上げる。

 

 

「へっ! 男城之内。その程度の決闘にビビりゃしないぜ!」

 

 

「フフフ……その威勢がいつまで持つかな? 俺のターン! "万力魔神バイサー・デス”を守備表示で召喚!」

 

 

万力魔神バイサー・デス

 

闇属性 悪魔族 星4

 

3ターンの間、モンスターを万力で締め上げる

3ターン目に、モンスターを破壊する

このカードは締め上げている3ターンの間、無敵である

 

 

「っ!? バイサー・デスだって!?」

 

「まずいわ! あのモンスターは、特殊能力を持った無敵モンスター!?」

 

「モンスターと苦痛を共有するってことは……あかん! 城之内! そいつを破壊せぇ!」

 

 

「遅いんだよ! バイサー・デス! パンサーウォリアーにとりつけ!」

 

 

「な、なにぃ!?」

 

パンサーウォリアーの頭に、バイサー・デスが装備される。

そしてその瞬間に、バイサー・デスの万力が、パンサーウォリアーを締め上げる。

 

『オオオ……』

 

「ぐっ……ぐあああ!!?」

 

 

 

「じょ、城之内君!?」

 

「お兄ちゃん!」

 

「マリク! 貴様ぁ!」

 

 

 

「ククク……装着した瞬間にそのモンスターの頭を締め上げ、3ターン後に破壊する。さらに万力で頭を締め付け続け、貴様に地獄の苦痛を味合わせるぜ……」

 

 

 

「おにいちゃん……」

 

「っ! 御伽君! 本田君! 静香ちゃんを中へ!」

 

「っ!? お、おう!」

 

「静香ちゃん、戻ろう」

 

 

 

初めての兄の決闘がこれは酷だと判断した勝利の声に、本田たちが静香の頭を腕で覆い隠し、室内へと誘導する。

しかし……静香はその手を振り払った。

決闘場に向かいなおすその目は、涙に濡れつつも強い意志があった。

 

 

 

「……静香ちゃん」

 

「ごめんなさい。本田さん、御伽さん、勝利さん。確かに、お兄ちゃんが苦しむのを見るのは嫌……でも……あたしも、お兄ちゃんを応援したい! お兄ちゃんが苦しんでいるなら、今度は私が……少しでも助けてあげたいの!」

 

 

 

静香は、蹲る城之内を見つめる。

そして、叫んだ。

 

 

 

「がんばれ! お兄ちゃん!」

 

 

 

「……へっ……よく言ったぜ静香」

 

 

 

その声に反応し、城之内は痛みに頭を押さえながらも立ち上がる。

その瞳は、静香と同じ強さを持って燃えていた。

 

 

 

「見てろ……こんな野郎! 俺がぶっ倒してやる!」

 

 

 

 

 

「その意気だ! 城之内君!」

 

「静香ちゃんを泣かせたら、許さないわよ! 城之内!」

 

「そのオカルト野郎に、風穴開けたれ! 城之内!」

 

 

 

 

「……カードを1枚セットし、ターンエンド」

 

 

 

 

(フン……多少やる気を取り戻したところで、お前は俺には勝てないよ……神を見せるまでもない)

 

 

 

 

「マリク……覚悟しやがれ!」

 

 

 

 

決闘場の風に、邪悪な闇が伴い吹き荒ぶ。

決闘はまだ始まったばかりだった。




さあ、スタートです。
果たして、どちらが勝つのでしょうか。

ノア編は必要だと思いますか?

  • ぜひ書いて欲しい
  • さっさとバトルシティ完結した方がうれしい
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