遊戯王~黒き羽根は夢に舞う~   作:haruko

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ここまでで、いったん章が一区切りになります。


光る未来

 

 

 

音が、消えた。

 

 

 

誰も……声を出せなかった。

 

 

 

決闘艇のエンジンの音と、轟轟と鳴り響く風の音が、うるさいほどに場に鳴り響いていた。

 

 

 

 

やがて、ブザーが場に響き渡る。

倒れ伏す城之内の腕の決闘盤が、無情にも警報を鳴らしていた。

 

 

最後の力で召喚したギア・フリードが、ゆっくりと姿を消していく。

 

 

 

信じがたく、目を離せないものと。

信じたくなくて、目を背ける者に分かれる。

 

 

 

勝利は……前者だった。

 

決闘中に、何度も確信した城之内の勝ち星が、すり抜けて消えていったという現実。

 

そして……戦いの末に残った結果。

 

 

そのすべてが信じがたく……受け入れがたかった。

 

 

 

やがて、気づいたかのように宣言した磯野の声が、現実から逃げ惑う彼らの意識を残酷に引き戻した。

 

 

 

 

「決勝トーナメント第4回戦! 勝者! マリク・イシュタール!」

 

 

 

 

「っ! 城之内君!」

 

「お兄ちゃん!」

 

「城之内!」

 

 

 

 

「っ……おえ……この俺が……奴ごときに……」

 

思わず吐き気を催すマリク。

しかし、その無礼極まりないマリクの言動に注意できるほど余裕のあるものは、ここにはいなかった。

 

「マリク・イシュタール。勝者であるお前は、アンティルールにより城之内克也のデッキからカードを1枚手にいれることを許可する」

 

「ああ? いるかよ、あんな奴のカード。失せ……いや、待てよ……」

 

口元に手を当てしばし考えた後、邪悪に笑って一言告げる。

 

「……1枚、あてがあるな。おい、後で指定するから俺の部屋にもってこい」

 

そう言って城之内に集まる皆の方向を見て、さらに笑う。

 

「……どうせ、今は無理だろうからよ」

 

 

 

「しっかりしろぉ! 城之内!」

 

「城之内君! 目を開けてくれ!」

 

「お兄ちゃん! お兄ちゃん!」

 

 

 

「じょ、城之内……」

 

「……うそやろ?」

 

 

 

ほんの少しだけ離れたところで、じっと見守る舞と竜崎。

そして……二人の後ろに、勝利はいた。

 

顔は伏せており、どんな表情をしているかは見えない。

 

 

 

(なんだ……お前が泣きわめく姿を、見てみたかったんだがな……)

 

 

 

残念そうな顔をして、横たわる城之内の問診をするモクバを見て、悪戯にかかる大人の姿を待ち望む少年のように、薄ら笑いを浮かべる

 

 

 

 

 

 

 

「……おい……城之内の奴……息してないぜ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ……城之内! 目ぇ覚ませこの野郎!!! 何とかぬかさねーと、ぶち殺すぞ!」

 

「お兄ちゃん……お兄ちゃん!」

 

「いや……いやあ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

「……アハハハハ!!!!! 闇の生贄が1人、この世から消えたなあ!」

 

 

 

 

 

「……」

 

 

マリクの醜悪な暴言に、言葉を返すものはいない。

……正確には、言葉を返す気力のあるものが、いなかった。

 

 

 

 

 

1人を除いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

「黙れよ。臆病者」

 

 

 

 

 

 

 

「……おやおや、友の敗北を受け入れらず、放心状態だと思っていたが、まだそんな口を叩けたのか。勝利」

 

 

 

 

 

 

 

「……今は、お前としゃべっている時間はない。だから、黙れよ。敗北者」

 

 

 

 

 

 

「……なにぃ?」

 

 

マリクの低く、どすの効いた声をもろともせずに、勝利は歩き出す。

舞と竜崎の間を抜け、すたすたと歩いて、倒れ伏す城之内の元へと歩を進めた。

 

「……勝利君?」

 

遊戯の声にも、ほかの誰の声にも反応せず城之内の横についた勝利はしゃがみこんで、眠るように倒れる城之内をそっと抱き留める。

 

「……かっこよかったぜ。城之内君。誰が、なんと言おうとも、君は……この決闘の勝者。誇り高き、最高の決闘者だ」

 

勝利が城之内を持ち上げ、肩を抱く。

 

 

 

 

 

 

その瞬間に、勝利のペンダントが、赤く光り輝いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!!? お前ら、城之内が……息を吹き返した!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「何っ! ほんとかモクバ!?」

 

「お兄ちゃん!」

 

 

 

 

 

 

「馬鹿な!? そんなことが起こるはずが!!!?」

 

 

 

 

 

マリクが驚愕の表情で、城之内の方を向く。

 

その視線の先には、目を覚まさないまでも、顔色に生気を取り戻し、穏やかな呼吸をする城之内、そして……逆に顔色を悪くしながら城之内を抱える勝利の姿があった。

 

 

勝利は、ペンダントをそっと城之内の首にかけ、赤い宝石に手を翳す。

 

 

そして……城之内をそっと本田に託す。立ち上がろうとして大きくよろけた勝利を、舞が支え、肩を貸す。

 

「あんた……また無茶して……」

 

「ごめん、舞さん……それと、ペンダント。勝手に貸しちゃった」

 

「いいわよそんなの……城之内、もう大丈夫なの?」

 

「うん。大丈夫……ダメージは、『彼』が引き受けてくれた……それでも、目を覚ましてはくれないけど……」

 

 

そして少し白くした顔と、鋭い瞳をマリクに向ける。

体に反し、その目は敵意と闘争心にあふれていた。

 

 

 

 

 

「勝利……貴様……」

 

 

 

 

「城之内君は、死なせはしない。城之内君は、お前に勝ったんだ」

 

マリクの威嚇の声に欠片も怯む様子を見せずに、勝利が言い放つ。

マリクは、いら立ちをさらに募らせた。

 

 

 

「お前は、怖かったんだろう。城之内君の強さが、城之内君の決闘が」

 

 

 

「……なんだと?」

 

挑発的な笑みを浮かべる勝利。

その言葉に、表情に、マリクは簡単に揺さぶられていく。

 

勝利はそれを、図星の証拠と見た。

 

 

「お前には……勝利の道があった。"左腕の代償”が手札にあったのなら、先に発動し、"死者蘇生”を手札に加えて攻めればよかった。城之内君の"プライドの咆哮”は、戦闘を1回終えたら攻撃力はもとに戻る。高攻撃力のラヴァ・ゴーレムや、城之内くんの墓地からサイコ・ショッカーを蘇生して攻撃すれば、それだけでお前の勝ちだった」

 

「……ククク。くだらないな。そんな結果論に」

 

馬鹿にしたような笑いで返すマリク。

しかし勝利は挑発的な表情を変えずに続けた。

 

 

 

 

 

「お前は、怖かったんだろ? 自分の想像を超えて、自分を追い詰める城之内君の決闘が。だから、神を頼った。神に縋った。そして……神を討ち取られた。城之内君の誇りを賭けた一撃に」

 

 

 

 

 

「……」

 

マリクの表情が、すんと消える。

額には、青筋がたっていた。

 

 

 

(ラー)ならば、伏せを気にせず攻撃できる。万が一破壊されても、第2の効果で攻めれば城之内君を葬ることができる。お前は、(ラー)を引いたときに、それしか考えていなかった。違うか?」

 

 

 

 

「……黙れ」

 

 

 

 

「だから、(ラー)を倒されたんだ。神を持たぬ、お前が侮った城之内君に。罠を気にせず攻撃できる、神の力に逃げたんだ……城之内君に負けたのは神じゃあない。お前だ!」

 

 

 

 

「黙れえ! 黙らないと、今度こそ八つ裂きにするぞ!」

 

 

 

 

ロッドの切っ先を勝利に向けるマリク。

しかし勝利は恐れをまるで見せずに、そっと舞から離れ、マリクに相対した。

 

ふらつく体を必死に支え、堂々とマリクの前に立ち、宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

「黙らない。何度だって言ってやる。城之内君は、お前に勝ったんだ! お前は、城之内君に負けたんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

にらみ合う二人。

静かな、しかし燃ゆる二人の敵意が、闘志が、二人の前で火花となってぶつかり合うのを幻視した。

 

 

 

 

 

 

 

「……お前だけは、絶対に許さねえよ勝利。名もなきファラオの魂の前に、お前を永劫の闇の中に沈めてやるよ!」

 

 

 

 

 

 

「……なんだ。気が合うところもあるじゃないか。僕も、お前だけは、絶対に許さないと思っていたところだ」

 

 

 

 

 

 

新たな火種の発火と共に、激動のトーナメント1回戦が幕を閉じた。

 

 

 

 

 

NO.1 マリク 〇

NO.2 リシド ×

NO.3 海馬瀬人 〇

NO.4 獏良了 ×

NO.5 黒羽勝利 〇

NO.6 城之内克也 ×

NO.7 武藤遊戯 〇

NO.8 ダイナソー竜崎 ×

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は映り、メディカルルーム。

穏やかな顔で目を閉じる城之内を囲むように、皆が集まる。

 

心なしか、ペンダントにはまる赤い宝石が、勝利につけられている時より黒く見える。

 

「……どうなんだよ、先生」

 

「……申し訳ありません。いったい、どういう状況なのか……呼吸も、心臓も、以上なく健康体。なのに、意識が戻らない……」

 

医者が頭を抱えるのを見て、勝利は少し俯いた。

 

("ブラックフェザー・ドラゴン”の力で、ダメージそのものはなんとかできたけれど……やっぱり、闇の力によって与えられたものは、単純な痛みや苦しみだけじゃあないんだ……)

 

『……』

 

(……ごめんね。もう少しだけ、城之内君のそばにいてあげてくれ……)

 

 

 

「……お兄ちゃん……」

 

 

 

静香が、眠り城之内の手を握る。

その温かさに一瞬頬を緩めるが、それでも、辛さと涙を抑えることはできなかった。

 

 

「お兄ちゃん……お兄ちゃん、私に言ったよね。強くなれって。でも……私、もうやだよ……私が見たかった決闘の世界は、こんな世界じゃない……こんな世界なら……私、お兄ちゃんに、決闘なんてしてほしくなかった」

 

 

静香のその言葉を受け、心に指すような痛みが走る。

余りにも強く、悲しい言葉だったが、それに返す言葉を誰も持っていなかった。

 

「ちきしょう……城之内……」

 

「……」

 

 

皆が、城之内に涙を流す最中、遊戯がそっと部屋をでた。

それに気づいた勝利は、それを追って部屋を出る。

 

 

 

 

廊下に出た遊戯はしばらく歩いた後、ふと止まって、壁により掛かりながら、思い切り叩く。

虚ろな瞳の横顔を勝利に晒すが、それに気づかないほどに、遊戯は追い詰められていた。

 

 

 

 

そして、しばらくその場で固まった後、遊戯はそっと、自分の腕につけていた決闘盤に手を掛ける。

 

 

 

 

「っ!? だめだ! 遊戯君!」

 

 

 

その姿を見た勝利が駆け寄り、遊戯を羽交い絞めにする。

勝利が抑え込んだ遊戯の体には……驚くほどに力がなかった。

 

やがて遊戯はゆっくりと、勝利の顔を見る。

目線があっているのに、遊戯の眼の中に勝利の姿は映っていない。

 

遊戯の目は、遠いどこかを望むだけだった。

 

 

 

「勝利君……」

 

 

 

「……君たち二人の友情を、理解していないわけじゃあない。君の心の傷がわかる、だなんて、口が裂けても言えない。城之内君は君にとって、かけがえのない友達だろう。でも、今その腕を下すことだけはしてはならない。それは、君を信じ戦ってきた決闘者たちを……なによりも、城之内君の誇りを貶める行為だ。誰よりも……城之内君が、それを望んではいないよ」

 

 

 

「……」

 

 

 

遊戯は、ディスクから腕を離す。

だが……遊戯の体に、力が入らない。

 

 

 

「……俺は……もう、戦えない」

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

弱弱しいその声に、勝利は思わず、遊戯の体を離す。

 

 

 

 

「俺は……このバトルシティに、3000年前の失われた記憶を追い求めて参加した。神のカードを手に入れた。だが……そんなものが、俺にとって、どれほどの価値がある……」

 

「……遊戯君」

 

 

 

 

「俺にとって……最も大切なものは、城之内君との約束だった! 真の決闘者として決戦の舞台に立ち、その誓いを果たすことこそが、このバトルシティの俺の目標だった! 記憶に、カードに、どれほどの価値がある!? そんなもののために……俺は、城之内君を犠牲にしてしまった!」

 

 

 

 

遊戯が、また壁に寄りかかり、両拳をたたきつける。

遊戯の力を取り戻させたそれの正体に気づいた勝利は、思わず歯噛みした。

 

 

遊戯の苦しさを共有できなくとも、憎しみの矛先は、同じだった。

 

 

 

 

 

「……今、俺の闘争心を滾らせるのは……マリクへの復讐心!」

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

「……だが……その先に……いったい何があるっていうんだ……」

 

 

 

 

そういって遊戯は、今度こそ自分に座り込んだ。

 

その姿は……その心は、もう折れかかっているのがよく分かった。

 

 

 

 

勝利は、数秒黙りこくる。

しかし、軽く頭を振って、その数秒に思いついた慰めの言葉を、すべて捨てる。

 

 

 

(……今の遊戯君に、慰めや、同情なんて届きはしない……ましてや、立ち上がらせるなんてできはしない。それができるのは……今の遊戯君の目標となれる人は世界にただ一人、城之内君だけだ)

 

 

 

であれば、自分には、何ができるのか。

一瞬だけ思案した後、勝利は遊戯の正面に立った。

 

 

 

「遊戯君……」

 

 

勝利は、遊戯の手を取る。

手を、壊さないように優しく自分の手で包み込んだ。

 

 

(……今、僕にできること……僕にしか、できないこと……)

 

 

 

 

 

「未来を……信じよう」

 

 

 

 

 

「……未来を……?」

 

ゆっくりと顔を上げた遊戯に、勝利が笑いかける。

 

 

「僕は……信じるよ。僕らが勝ち上がり、マリクを倒す未来を。城之内君が、起き上がって君との誓いを果たす未来を。僕らがまた、みんなで笑いあい、決闘する未来を」

 

「……だが、勝利君……」

 

勝利の言葉にまだ素直に頷けない遊戯が、勝利が握る自分の手を見る。

弱弱しく、とても普通な状態ではないことが、自分でもわかった。

 

だがそんな手を、勝利がもう一度強く両手で握り、包み込む。

温かい体温が、流れ込んでくる。

 

 

 

 

「……遊戯君。僕はね。君が、城之内君が、『友達』って。『仲間』って呼んでくれたことが、とても嬉しかったんだ。その時、僕の未来は変わったんだよ」

 

 

 

 

『勝利君……』

 

もう一人の遊戯が、遊戯の心の中で呟く。

すると勝利は、にっこりと笑う。

まるで、もう一人の遊戯が見えているかのように。

 

 

「みんなに会えて、舞さんに会えて、竜崎君に会えて。みんなと戦えて、本当に良かった。僕はみんなと会えて、過去を振り払うことができた。だから、僕はここにいられる。僕にとってこのバトルシティは、僕がつかみ取った未来の象徴なんだ」

 

 

勝利は立ち上がり、胸をどんとたたく。

見上げた遊戯は、勝利がまぶしく見えた。

 

 

「だから僕は……この先の未来を信じる。遊戯君と、城之内君。みんなでまた笑いあって、最高に楽しい決闘ができる未来を馬鹿みたいに信じ続ける。それが……僕にとって、このバトルシティを戦い続ける意味なんだ!」

 

 

 

 

その瞬間。

勝利の、胸ポケットが光輝いた。

 

 

 

 

「っ!!!? この光は!?」

 

「……まさか!?」

 

 

 

 

勝利が、胸ポケットからそれを取り出す。

 

それは……千年タウク。

イシズより受け取った、未来を見る力を秘めた千年アイテムだった。

 

 

 

 

 

「これは……もう力を失ったはずなのに……また……」

 

 

 

 

だが、眩く光るその姿に、不思議と目を奪われる二人。

 

 

やがて……二人に、とあるビジョンが映された。

 

 

 

 

 

 

 

 

『遊戯! 勝利! 俺たちのバトルシティは、終わらねえぜ!』

 

 

『さあ、行くわよ! あんたたち!』

 

 

 

 

 

 

「っ!? 城之内君!」

 

「舞さん!」

 

 

 

 

 

 

二人が声を上げた時、目の前の景色が決闘艇船内に戻る。

 

二人は、顔を見合わせる。

表情が、今の光景が白昼夢でないことを物語っていた。

 

 

 

ほんの一瞬、見えた光景。

 

 

童実野町で向かい合う、城之内、舞。

そして……遊戯、勝利。

 

 

それは……王国の決勝を戦いあった4人の姿だった。

 

 

 

 

 

「……クックック。面白いね。4人なんだ」

 

 

「っ!」

 

 

 

 

勝利の言葉に、遊戯は立ち上がり、自分の胸を抑える。

体が熱くなり、鼓動が高まっているのを肌で感じていた。

 

 

「……今のは、未来だ。僕らの、到達すべき景色だ。絶対そうだよ。僕の勘は、当たるんだ」

 

 

「……ふっ。今の君の勘ほど、心強いものはないな」

 

 

光が収まった千年タウクを胸ポケットにしまった後、勝利は遊戯に手を差し出す。

一瞬驚いた遊戯だったが、表情に光をともし、その手を強く握る。

 

対等な握手だった。

 

 

 

 

「遊戯君……ともに、目指そう! 今の未来を!」

 

 

 

 

「ああ! ありがとう! 勝利君! 俺も……今の未来を、君の思い描く未来を信じるぜ!」

 

 

 

 

遊戯の目に、光が灯った。

勝利は、それを確認した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後勝利は自室に戻り、BFたちと話しながら、デッキの見直しを行っていた。

 

次の戦いは、ほぼ間違いなく神とのぶつかり合いになる。

 

そう思ったら、じっとしてはいられなかった。

 

 

 

「……もし、次の相手がマリクなら……僕だけじゃなくて、君たちも傷つけることになるのかもしれない……」

 

 

勝利はソファに座り、眺めていたデッキのカードをそっと撫でる。

すると、デッキからブリザードが飛び出してくる。

 

 

『ぴぃ!』

 

「いてっ!」

 

 

額に一発嘴の突きをお見舞いした後、机に止まってじっと勝利を見る。

その目には、すでに闘争の意志を宿している。

 

勝利はふっと笑いながら、頭を下げる。

 

 

「……ごめんごめん。違うよね……もしかしたら、厳しい戦いになるかもしれないけど……僕と一緒に、戦ってくれる?」

 

 

『……ぴぃ!』

 

 

しょうがないな。という表情で、ブリザードが勝利の下げた頭に乗る。

勝利はそれに、苦笑いするしかできなかった。

 

 

 

 

 

そんなことを話していると、部屋のドアが開く。

癖で話を中断するが、入ってくる彼女にそのような気遣いは不要だとすぐに意識を切り替えた。

 

「やあ、舞さん」

 

「……取り込み中だった?」

 

「いや、もうすんだよ。ブリザード。ごめんだけど、戻っていて」

 

『……ぴぃ!』

 

「今は舞さんと遊ぶ時間じゃないんだよ。お願いだから、戻っててね」

 

「ごめんなさいね。ブリザード」

 

『……ぴぃ』

 

渋々、という表情を隠さず、カードに返っていくブリザードに、二人は少し苦笑いを重ねる。

が、舞がすぐに真剣な面持ちに戻したことで、勝利も意識を切り替える。

 

 

「城之内は、静香ちゃんと杏子が見ておくそうよ。いつ目覚めるかわからないから、傍にいてあげたいって。杏子は、付き添いみたいなものね」

 

「……そっか」

 

勝利は無粋なことは言うまいと、思った言葉を飲み込んだ。

舞もそれはわかっているが、こちらも言うまいと口を噤んだ。

 

「本田と御伽は、竜崎の部屋に行くみたい。どうにも城之内の部屋を使う気になれないって言ってたのを、竜崎が聞いて誘ってた」

 

「そっか。やっぱり、優しいね。竜崎君は」

 

 

ふっと小さく笑った後、舞が部屋の中へと入っていき、ベッドの上に座る。

スペースを隣に作り、勝利を見る。来い、ということだろう。

 

すぐに察した勝利はデッキを机に置き、舞の隣に座る。

どちらともなく、自然に身を寄せ合った。

 

「……明日ね。決勝戦は」

 

「うん。そうだね」

 

勝利はすぐに、舞がほんの少し震えていることに気づく、

肩に手を回し、もう一方の手で舞の手を握る。

 

「……舞さん」

 

 

 

 

「……戦うのよね。マリクと」

 

 

 

 

「……うん」

 

舞の求める答えではないことはわかっている。しかし、ここでの誤魔化しには意味も、価値もない。

素直にそう答えた。

舞はやはり、悲しそうな表情を浮かべた。

 

「……前にあんたが言ってた。あたしは、誰かがいないと寂しくなって、辛くなってしまうような女になったって」

 

「……そんな仲間想いの、温かい舞さんが好きだっていう意味でなら、確かに言ったね」

 

 

 

 

 

「……あんたの、言う通りだったわ。あたしは……弱くなった」

 

 

 

 

 

否定しようとする勝利だったが、舞の手の震えが少し増えたことを感じ、黙って握る力を強める。

しかし、手の温度は冷たかった。

 

「……マリクに城之内がやられた時、おかしくなってしまいそうだったわ。何が起きているのかわからなくって、自分が、自分じゃないものに引っ張られて、体から引きはがされて浮き上がっているような感覚だった」

 

「……」

 

 

城之内の、死。

 

初めてできた大切な仲間の、消失。

 

それが、舞の心に大きな傷を負わせていた。

 

 

 

優しい舞の、そんな心の機微を察すことができなかったことを、勝利は悔いた。

 

 

 

「……あんたが、城之内を救ってくれて、本当に良かった。安心した。嬉しかった。それは、本当。でも……顔色を悪くして、それでも、マリクと向かいあうあんたの姿を見て、確信した。あんたが……次は、勝利がマリクと戦うんだって」

 

 

 

「……うん」

 

 

 

誤魔化しも、繕いも捨てた今、小さく肯定を返す。

それしかできない。

勝利は舞に顔を見られないように逸らし、下唇を嚙みしめた。

 

 

 

(……僕は、不安にさせてばっかりだな)

 

 

 

自分の無力に、臍を嚙んだ。

ここで彼女を安心させることができない、自分の弱さが、情けなく、歯がゆかった。

 

勝利の脳裏に、嫌な言葉が浮かぶ。

 

その思考を払いきる前に、それは、形となって現れた。

 

 

 

 

 

「……勝利。あたし、あんたに戦ってほしくない。あんたがマリクと戦って、傷つくところを見たくない」

 

 

 

 

 

舞と顔を合わせることができず、勝利は顔を逸らし続ける。

 

舞の願いは、すべて叶えてあげたい。

舞の言葉は、すべて受け入れてあげたい。

 

 

しかし、それはできない。

それだけは、かなえられない。

それだけは、首を縦に振ることができない。

 

 

故に、目を逸らす。

勝利にできることは……もはやそれしかない。

 

すぐ隣にいるはずの、最愛の人が、遠い。

次の言葉が怖く、逃げることしかできない。

 

 

勝利は、情けなさに零れ落ちそうな涙を必死に堪え、じっとただただ、次を待った。

 

 

 

 

 

 

 

「……でも、それができないことくらい、わかっているの。あんたは……底抜けに優しいから」

 

 

 

 

 

 

勝利は、逸らしていた顔をゆっくりと戻す。

そこには、自分を真っすぐに捕らえる舞の瞳があった。

 

「城之内のため、遊戯のため、みんなのため……マリクを、倒す。あんたはもう、そう決めている。それを止めるだなんて、あたしにはできない……あんたが、優しくて、わからずやなのを嫌というほど知ってるから」

 

舞は一つ、涙を零しながら笑う。

つられる様に、勝利の目からも涙が零れ落ちた。

 

 

 

 

 

「だから……あたしが、勝利に望むのは、たった一つだけ」

 

 

 

 

舞が、正面から勝利を抱き寄せる。

 

舞の体温が、体に伝わってくる。

先ほどまで冷たかった手も、体も、今は温かかった。

 

 

 

 

 

 

「……勝って。無事に、戻ってきて。まだ、あたしとの約束も、残ってるんだからね」

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

『あたしは負けたままなんて絶対に許さない。いずれ対等な立場で、もう一度あんたと全力でぶつかりあい、あんたを倒すわ!』

 

『舞さん……ああ、わかったよ。このカードは受け取る。舞さんとの再戦の約束の証として』

 

 

 

 

 

 

 

思い出されるは、王国の誓い。

 

舞が勝利の告白を受け、舞がバトルシティの戦いを降りたことで叶わなかった、二人の夢。

 

 

 

 

それが、まだ残っていた。

その言葉が、勝利の心を熱くする。

 

 

 

 

勝利は、泣き顔を見られまいと舞を強く抱き返しながら、先ほどの、千年タウクの景色を思い出し、笑った。

 

 

 

遊戯、城之内、勝利。そして……舞。

 

四人が並び立った、あの光景の意味を、理解した。

 

 

 

 

(……舞さん。あなたは……僕の未来に、なってくれたんだね……僕が勝って、目指すための未来に……)

 

 

 

 

 

遊戯がいる。城之内がいる。みんながいる。

 

 

 

 

そんな未来を、舞が信じてくれている。

 

そんな未来で、舞が待ってくれている。

 

 

 

 

 

それだけで……勝利の心は燃え上がった。

 

 

 

 

 

 

「……舞さん」

 

 

 

「……なに?」

 

 

 

 

 

 

 

「……バトルシティが終わって、みんなで童実野町に戻ったら……デートしようよ」

 

 

 

 

 

 

 

「……付き合ってから、初のデートね」

 

「映画に行こう。マグナムさんの映画を、二人で見に行こう」

 

「……別に、あいつのじゃなくてもいいけどね……」

 

 

 

 

 

 

「また、母さんに会ってくれるかな。今度は、ちゃんと紹介するよ。『僕の彼女の、舞さんだよ』ってね」

 

「……恥ずかしいわね。もう」

 

 

 

 

 

 

「遊戯君たちと集まって、決闘しよう。城之内君も一緒に。僕は結局、まだ城之内君とちゃんと決闘できてないから、城之内君とも戦ってみたいな」

 

「そうね……城之内にも、きっちり王国の借りを返してやらないと」

 

 

 

 

 

 

一つ。また一つ。

舞と勝利は、抱き合いながら、語り合う。

 

丁寧に、未来を積み重ねていく。

 

一つ重ねて、また笑う。

 

 

 

舞が、皆が、笑う未来。

 

それを想像するだけで、勝利は、強くなった気がした。

 

否、勝利の心は、強くなった。

 

 

 

 

「……舞さん」

 

 

 

 

「……ん?」

 

 

 

 

 

 

「ありがとう……僕と、一緒にいてくれて。僕の、希望でいてくれて」

 

 

 

 

 

「……うん」

 

 

 

 

 

「……大好き」

 

 

 

 

 

「あたしも」

 

 

 

 

久方ぶりに目を合わせた二人の顔が、そっと近づく。

 

 

 

 

不安を埋めるように。

 

光る未来を掴みとるために。

 

 

 

二人は、語り合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

決闘艇は、灰色の島を目指し夜を行く。

夢の先を、紡ぐために。

 

 

 

 

 




さあ、バトルシティもいよいよ大詰め。
残るは決勝トーナメントのみとなりました。

それにあたり、何点かお知らせがあります。

まず、小さいところから。

・次回、5/15は投稿を休みます。
最終章なので、1回分だけ休んで、全体の構想を練ってから投稿を開始します。
目指すは休みなしでバトルシティ完結。


続いて、
・前からアンケートを取っていた乃亜編について。

いったん、5/12時点で、アンケートを終了させていただきます。
ちなみに結果はこれ。

ぜひ書いて欲しい 89票 50%
さっさとバトルシティ完結した方がうれしい 90票 50%

……真っ二つすぎる笑

すでにどこかのあとがきで書いていましたが、改めて周知。
期待されていることも嬉しかったので、乃亜編は書きます。
しかし、乃亜編は構想段階ですでにかなり長くなる見込みであることと、微差も微差ではありますがバトルシティ完結を急ぐべきという意見が勝りましたので、

バトルシティを完結させる。
その後、乃亜編を最優先で書く。
という方針で進めようと思います。


・それにあたっての、皆さんへのお願い
活動報告の方で、乃亜編のアイデアを募集しようかなと思います。
募集したいアイデアとしては、
『デッキマスター能力』について
です。
乃亜編の目玉でもある、デッキマスター能力についてですが、勝利のBFたちは当然として、参加になるであろう竜崎、舞のモンスターたちも、デッキマスター能力が存在しておりません。

なので、ここら辺の決闘者のデッキマスター能力を、バトルシティ完結までに考えておこうと思うのですが、正直言って今のところクリティカルな能力は思いついていません。
ということで、もしいい考えがありましたら、お力添えいただければと思います。
採用できるかのお約束もできませんので、アンケートと同様軽い気持ちでご意見いただけるとありがたいです。

・追加アンケートの実施。
こちら、乃亜編以上に気楽に答えてもらいたいアンケートを追加実施で置いておこうと思います。
議題は、「遊戯のブラック・マジシャンと、城之内君の真紅眼の2体の、友情の融合モンスターの使用」についてです。
バトルシティ編で、超魔導竜騎士こと奴が出てくることについて。ありか、なしか。
率直な感想をお願いします。

ついでについでに、活動報告に今後の方針をまとめました。
よければ合わせて見てみてください


以上。
今後とも拙作をどうかよろしくお願いします。

超魔導竜騎士の参加はありorなし

  • 友情カードの融合!熱い!やって欲しい!
  • 遊戯があれ使ってるの見たくない!却下!
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