バトルシティ、決勝トーナメントから少し離れ、地上に留まる決闘艇の一室。
海馬曰く、『特別室』と称される、誰の部屋にも該当しない部屋。
その中で、汗をかき、苦悶の表情を浮かべてベッドに眠るリシド。
そしてそのリシドの汗を濡れたタオルで優しく拭いながら、イシズはそっと外を見る。
激戦の舞台からは、そこはあまりにも遠い。
しかし……無音のその一室にも、彼らの戦いの余波の欠片は届いていた。
イシズは、じっと自分の手を見る。
リシドの顔を拭う自分の手のひらもまた、じんわりと汗で濡れていた。
そっと立ち上がり、窓を望む。
景色の丁度中央に、海馬たちの上るアルカトラズは見えた。
そして……その頂上に、巨大な、そして強大な力が2つ。ぶつかり合っているのが見えた。
(神々の戦い……とうとうその時が来ましたか……遥か三千年の昔から決闘者の戦いは予言されていた……三幻神の姿……そして、黒き魔術師と白き龍とともに)
イシズは、もはやタウクのない首元を、そっと触る。
(遊戯……あなたはその戦いに勝利し、神のカードを手に入れなければ『失われた記憶』の封印を解くことはできない……)
そして、今だ眠りについたままのリシドに目をやり、もう一度窓に向き直る。
(立ちはだかるものは、すべて神によって与えられしあなたへの試練……我が弟マリクに宿りし、邪悪なる魂でさえも……
もはや、未来は想像のつかない形に切り替わっている。
ほかならぬ、イシズが託した、1人の決闘者の手によって。
(勝利……あなたが今そこにいることは、定められた未来の道でも、
イシズは、知っている。
彼こそが、運命の舞台であるはずのこの場を崩す、銀の弾丸。
イシズが見た未来の、外側を走る男。
(遊戯……そして、勝利。見せて下さい……私が信じた、あなたたちの未来を)
祈りか。願いか。はたまた、信頼か。
イシズはそっと目をつむり、空に向けて手を合わせた。
そしてさらに場所は変わり、決闘艇のもう一室。
「おい! みんな! あれ!!」
「なんだよ御伽……いきなりでけえ声出して……あっ!」
静香を中心に寝たきりの城之内を取り囲む、病室の片隅。
そこで真っ先に気づいた御伽の言葉を皮切りに、皆が一斉に窓の外を見る。
「あれは……遊戯のオシリスよ!」
「海馬のオベリスクもだ……」
「とうとう始まったんだ……神々の戦いが」
皆が一斉に、息を飲む。
彼らもまた、神の戦いの緊張感を、その場からひしひしと感じ取っていた。
「……見たいよね、お兄ちゃん。待っててね。今、見せてあげるから」
声に振り向いた本田たちは、驚愕に固まる。
静香が、眠っている城之内を担ぎ上げ、ベッドから卸していた。
「し、静香ちゃん……」
「よいしょっと……あは。やっぱり、おっきくて、重いね。お兄ちゃんは」
「いいよ、静香ちゃん! 俺が担ぐ!」
本田が静かに駆け寄る。
しかし、静香は優しく、そして力強く、首を横に振った。
「ありがとう、本田さん。でも、大丈夫。私がお兄ちゃんに見せてあげたいの」
静香はおぼつかない足取りで、しかし一歩ずつ、着実に城之内を窓際へと運んでいく。
その姿は、今にも倒れそうなか弱さの奥底に、城之内と同じ、芯の強さが垣間見えた。
「……私、お兄ちゃんがいない間にね、ちょっとだけ決闘したの。本田さんや竜崎さんに教えてもらったやり方で。全然わかってなくて、たくさん迷惑かけちゃったんだけど……でもね、やってみて、ちょっとだけ、お兄ちゃんたちの気持ちがわかった気がしたんだ」
城之内を背負う静香の手が、ぎゅっと城之内の力入らぬ体を掴む。
城之内に、反応はないままだ。
「決闘で勝つことが、どれくらい大変なのかってこと。勝つために必死に戦うお兄ちゃんや、遊戯さん、勝利さん、舞さん、竜崎さんが、どれくらいすごいのかってこと。それと……決闘で人とつながって、一緒に戦うことができるのって、すごくうれしい事なんだっていうこと」
静香が、窓際まで歩き切り、背中の城之内を外側に向ける。
丁度城之内の顔が、窓に向くように調整しながら、話を続けた。
「私……お兄ちゃんが決闘ですごく強くなったって聞いて、やっぱりお兄ちゃんはすごいって。子供のころから、私を守ってくれるお兄ちゃんのままだって思ってた。でも……本田さんや竜崎さんから話を聞いて、実際に決闘をやってみて、違うってわかったの。お兄ちゃんは、すぐに強くなったんじゃない。決闘でみんなとつながって、みんなに支えられて、強くなっていったんだって」
「……静香ちゃん」
「私……お兄ちゃんに、ひどい事言った。『こんな世界なら……私、お兄ちゃんに、決闘なんてしてほしくなかった』って……私に何度も勇気をくれたお兄ちゃんに……私を何度も救ってくれたお兄ちゃんが苦しんでるときに……ひどい事を言っちゃった」
「……」
みんな、息を殺して静香の独白を聞く。
今、静香にとって必要なのは、否定の言葉でも、慰めの言葉でもない。
黙って見守ってやることだ。
最愛の兄との、二人の時間を守ってやることだ。
皆が、そう判断した。
「でも……わかったの。お兄ちゃんは、決闘をしたことで、勝利さんや舞さんや竜崎さん。みんなと仲間になれたんだって。お兄ちゃんが私にくれた勇気は……いろんな人から、渡してもらった希望だったんだって」
静香は、少し涙ぐみながら、城之内に笑いかける。
「……私、忘れてた。今度は、私の番だったんだってことを。私はお兄ちゃんに、勇気を渡すためにここに来たんだっていうことを」
お兄ちゃん。
一緒に、見に行こう。
応援しに行こう。遊戯さんたちを。
それを聞き、杏子と御伽が見られまいと顔を逸らす。
声を挙げそうになるのを、必死に押し殺していた。
「お兄ちゃんとも、決闘してみたいな……その時までに私も、頑張って強くなるから」
(……静香ちゃんに、ここまで言わせたんだぞ……てめえ……起きなかったら、ぶっ殺してやるからな! この馬鹿城之内!!!!!)
海馬 LP 4000 手札4枚
オベリスクの巨神兵
攻 4000
伏せカード3枚
魔力倹約術
遊戯 LP 4000 手札5枚(ブラック・マジシャン)
オシリスの天空竜
攻撃力 5000(手札5 × 1000)
伏せカードなし
「……」
「……」
それぞれの場所でそれぞれの想いが錯綜する最中、熱き決闘者たちは向かい合う。
静かに、しかし雄弁に、彼らは決闘で語り合っていた。
「……オシリスの攻撃力は遊戯の手札の枚数で決定する」
「今、遊戯の手札は5枚や。つまり、オシリスの攻撃力は5000」
「……オベリスクを、倒せる」
事実を淡々と述べる3人。
しかし、状況を楽観視している者は誰もいなかった。
「……オシリスの効果は確かに強力。でも、こと力という点においては、普遍的な、圧倒的な力を持ったオベリスクに一日の長がある」
「オベリスクの攻撃力は4000。確かにオシリスが攻撃力を上回っとるが……」
「逆を言えば、遊戯は今から、一枚たりともカードを欠かすことは許されない。魔法の使用はもちろん、罠のセットでも、オシリスの攻撃力が下がる。そうなったら、よくて相打ち。海馬の伏せ次第じゃ、押し負けることもあり得るわ」
(……だが、待っていても海馬の手札や場が整うだけ。ここは……行くしかない!)
遊戯が、覚悟の表情を作る。
それに呼応するように、オシリスが口を開いた。
「っ! 行く気だ!」
勝利たちも、思わず身構える。
神の一撃に、自分たちも覚悟が必要であると判断した。
「オシリスの攻撃! 『超電導波ー』」
「そうはさせん! 伏せカードオープン! "威嚇する咆哮"! 吠えよ、オベリスク!」
「なにっ!」
威嚇する咆哮
罠カード
唸り声を相手の場に響かせることで、相手モンスターの攻撃行為を妨げる
オベリスクが、威圧感を放つ。
それは、感覚ではなく、間違いなくオベリスクの体から放たれ、オシリスを突いた。
オシリスの口から、エネルギーの塊が音を出さずに霧散する。
「……神に罠は通用せえへんのとちゃうんか?」
「"威嚇する咆哮"は、プレイヤーのモンスターへの指示をかき消し、バトルを行わせないカード。オシリスじゃなくて遊戯君を狙った罠カードだから、この場合でも有効なんだ」
「海馬は、遊戯と神のカードで争うことを想定してデッキを作ってきている。召喚に成功しても、一筋縄じゃあ行かないわね」
バトルが強制的に終わりを迎えたことで、皆の注目が遊戯に集まる。
勝利たちが話していた通り、遊戯はカードを伏せたり、発動したとたんにオシリスの攻撃力を下げることになる。
そうなれば、オベリスクと攻撃力が並び、海馬に攻撃の選択肢が生まれることとなる。
(オシリスを失うことは、さすがの遊戯君も避けたいはず……でも、そのために伏せカードなしで海馬君にターンを渡すのは、愚の骨頂。どうする、遊戯君……)
「……俺はカードを1枚セットし、ターンエンド」
海馬 LP 4000 手札4枚
オベリスクの巨神兵
攻 4000
伏せカード2枚
魔力倹約術
遊戯 LP 4000 手札4枚(ブラック・マジシャン)
オシリスの天空竜
攻撃力 4000(手札4 × 1000)
伏せカード1枚
「……手札を、減らした」
「……うん。次の海馬君のターンのために、その1枚を伏せた」
「まだ、わからへんな」
竜崎の呟きに、二人も同意した。
今だ一つも削れぬLP。
鏡写しのように等しく現れる、フィールドの神と、手札。
緊張の糸は途切れるどころか、決闘が始まってからずっと、張り詰めるばかりだった。
「俺のターン! ドロー!」
海馬は、ドローカードを見てそのカードをそのままディスクに置く。
その動きは、そのカードを待ち望んでいるかのような動きだった。
「俺は、"ジャイアントウィルス”を召喚!」
ジャイアントウィルス
闇属性 悪魔族 星2
攻撃力 1000
守備力 100
戦闘破壊時に、500ダメージを与えて増殖する
(……ここにきて、低級ウイルスモンスター……海馬君は、一体何を)
「うかつだぜ海馬! ここでモンスターを召喚するとはな! "オシリスの天空竜”の効果発動!」
遊戯の言葉とともに、オシリスの二つ目の口が開く。
それは、攻撃時のものとはまた大きさの違う雷のエネルギーだった。
「モンスターが召喚された場合、そのモンスターに2000ポイントのダメージを与える!」
「なんやと!?」
「じゃあ、下級モンスターを召喚したら、それだけで2000ダメージ……ほとんどのモンスターが破壊されちゃうじゃない!」
「……これが、空を司る神。遊戯君のオシリスの力」
雷が、空の神から海馬の場に振り下ろされる。
それもまた、オベリスクとは違う、圧倒的な力だった。
「食らえ! 『召雷弾』!」
迫る雷球。
しかし、海馬に焦る様子はなかった。
「ふん……それを待っていたぞ遊戯。伏せカードオープン! "死のデッキ破壊ウイルス”!」
「っ!!! ウイルスカードだって!?」
死のデッキ破壊ウイルス
罠カード(ウイルスカード)
相手の場、手札の攻撃力1500以上のモンスターは消滅する
また、相手デッキの3枚の攻撃力1500以上のカードも墓地に消える
「"ジャイアントウィルス”を媒介にして効果発動! これにより、貴様の場に、ウイルスが感染する!」
「っ! だが! 神にウイルスによる攻撃は通用しない!」
遊戯は高らかに宣言する。
しかし海馬は、当然といった様子で続けた。
「そんなことはわかっている……だが遊戯。貴様の手札の僕たちはどうかな?」
「まずい! 遊戯君の手札には、さっき見えた"ブラック・マジシャン”がいる!」
「"ブラック・マジシャン"は攻撃力2500……ウイルスの範囲内や」
「……ってことは」
「さあ……手札を見せろ! 遊戯!」
「くっ……」
遊戯 手札4枚
ブラック・マジシャン
バフォメット
デーモンの召喚
天使の施し
「フハハハハ! ウイルスカードの感染対象は2体! その2体は、墓地に消える!」
「……」
遊戯 手札4枚 ⇒ 2枚
オシリスの天空竜
攻撃力 4000 ⇒ 2000
「オシリスの攻撃力が……」
オシリスの威圧感が勢いを緩め、羽を卸す。
それに相反するように、オベリスクの圧力が増していった。
「さあ……これで貴様の神の攻撃力は下がった……"オベリスクの巨神兵”よ! 遊戯の神を抹殺するがいい! 『ゴッド・ハンド・クラッシャー』!」
海馬に従い、オベリスクが動き出す。
大きく構え、振り下ろしたオベリスクの拳が、オシリスの身に迫る。
威風堂々と奮うその力は、破壊以外の何もいに返そうともしていなかった。
その姿を、見ているだけでわかる。
ここでオシリスがやられては、終わってしまう。
「遊戯君!」
勝利が、声を上げる。
それに遊戯は、少し笑い、手を軽く挙げるだけで返した。
「海馬……お前がウイルスカードで俺の手札を狙うことは、読んでいたぜ」
「……何だと?」
遊戯は、ディスクを掲げ、墓地からカードを2枚取り出す。
その2枚は……『磁石の戦士』。
「お前が発動した"死のデッキ破壊ウイルス”によって、俺の墓地には3枚モンスターが墓地に送られた。よって、俺はこのカードを発動することができるぜ! 伏せカードオープン! "マグネット・コンバージョン”!」
マグネット・コンバージョン
罠カード
墓地の磁石の戦士2体を手札に加える
「このカードによって俺は、"死のデッキ破壊ウイルス”によって破壊された、"磁石の戦士β”、"磁石の戦士γ”の2体を手札に加えることができる!」
地属性 岩石族 星4
攻撃力 1700
守備力 1600
α,β,γで変形合体する
地属性 岩石族 星4
攻撃力 1500
守備力 1800
α,β,γで変形合体する
「遊戯の手札が、また増えよった!」
「ってことはオシリスの攻撃力は……」
遊戯 手札2枚 ⇒ 4枚
オシリスの天空竜
攻撃力 2000 ⇒ 4000
「4000に戻った!」
「オベリスクと、同じ……」
「オシリスの迎撃! 『サンダーフォース』!」
再び羽を大きく広げ、オベリスクに立ちふさがったオシリスが、口を開け構える。
オベリスクはその口に、躊躇いもなく拳を向ける。
神と神が、正面衝突する。
「相打ちか!?」
誰からともなく発されたその声と同時。
神の間で、何かが弾けた。
「罠カード発動! "強制終了”!」
強制終了
永続罠カード
フィールドのカード1枚を生贄に、バトルを強制終了する
「俺のフィールドの"魔力倹約術”を墓地に送ることにより、このバトルを強制終了する!」
オベリスクの拳とオシリスの電撃波がぶつかり合う丁度その瞬間に、間に入りこんだカードがはじけ飛び、2体を引きはがした。
その衝撃に蹈鞴を踏み下がる神たちに圧倒されたか。
舞と竜崎は、場の2体にくぎ付けになる。
だからか。
マリクのロッドが。
遊戯のパズルが。
そして……勝利の胸の中のタウクが一瞬光輝いたことに、気づいてはいなかった。
『裸の王……貴様は今ここで、俺が倒す』
(こ、これは!?)
3人の脳裏に映し出される、謎のビジョン。
『石板に眠りし魔術師よ! 今ここに!』
(これはまさか……古代エジプト!?)
『
(遊戯君と海馬君……いや、
瞬間、3人の五感を支配したそれは、すぐに立ち消え、3人を現世へ引き戻した。
海馬と遊戯は、膝を降り地面に手を突いた。
少し離れた場所でマリクが、ロッドを抑え込むように力を籠める。
そして……勝利が、目をつむりながら胸を抑え、瞬間の映像を焼き付けるように反芻する。
(……今、一瞬見えた景色……あれは……遊戯君と、海馬君。そして……"ブラック・マジシャン”と、"青眼の白龍”。一緒だ……イシズに見せてもらった、石板の戦いと……)
勝利は、遊戯を見る。
その後に、海馬を見る。
その表情を見るだけで、勝利は理解した。
(2人も、見たんだ……あの戦いを。3千年前の、2人の戦いを)
遊戯は、言った。
自分は、記憶を探していると。
そして、今見えた、一瞬の映像の欠片。
遊戯の求めるものは、そこに。
この先にある。
遊戯も、そして勝利も、それを確信した。
「……下らん! 実に非ィ科学的だ!」
しかし、勝利たちの確信を、真っ向から否定する海馬が、そこにいる。
「貴様は……我が最強の僕、オベリスクが粉砕する! この決闘の結末は、俺自身が決める! ほかの下らぬオカルト話など、必要ない!」
「……海馬」
「……いきなり、なに言い出すんや?」
「さあ……あたしにも、わからない」
何が起こったのかをまるで理解していない舞と竜崎が、首を傾げる。
その横でひっそりと汗をかく勝利は、内心で海馬の心を読み取っていた。
(突然与えられた二人の過去……そして未来のビジョン……遊戯君は、すべてを受け入れ、未来は進もうとしている。でも……海馬君には、それが受け入れられない……神を絶対視している海馬君は、オベリスクで遊戯君を粉砕し、決勝へと駆け上がる姿が見えている。それを、別の未来で否定されたような今の状態が、許せなくて、受け入れがたいんだ)
オベリスクとオシリスの相打ちを拒絶したのが、その証拠。
次のターンに再びオシリスの攻撃力が上昇する可能性を考えれば、相打ちであろうとも海馬にとっては十分な戦果であったはず。
しかし、今の海馬にとって、破壊神オベリスクを打倒されてなおその先にある勝利など、到底受け入れられるものではなかった。
何が見えていたとしても、今の彼の自信が揺らぐことはない。
「俺はカードを1枚セット! ターンエンド! さあ遊戯、貴様のターンだ!」
海馬 LP 4000 手札3枚
オベリスクの巨神兵
攻 4000
伏せカード1枚
強制終了
遊戯 LP 4000 手札4枚(磁石の戦士β、磁石の戦士γ)
オシリスの天空竜
攻撃力 4000(手札4 × 1000)
伏せカードなし
「……海馬の奴、なんか焦ってない?」
「焦ってるかどうかはわからんが、様子がおかしいのは確かやな」
「……そうだね」
相槌を打ちながら、勝利は納得していた。
今の海馬を見て、勝利が感じていた違和感。その正体に。
(……力に、オベリスクに固執し、遊戯君を圧倒的力で打倒そうとするその姿……ある意味海馬君らしいといえばそれまでだけど……それは、僕が見たかった海馬君の姿じゃあない)
映しだされた映像を見て、思い出した。
勝利が、感動した海馬の姿は。
勝利が、心震わせた海馬の決闘は。
王国の、あの決闘だった。
『俺のドローは、"青眼の白龍"!!』
そして、勝利は確信した。
今の海馬は……あの時とは違う。
(……海馬君。今の君じゃあ、遊戯君には勝てないぜ)
「俺のターン、ドロー! さあ、行くぜ海馬! 俺はオシリスで、オベリスクに攻撃!」
オシリスの天空竜
攻 5000(手札5 × 1000)
オベリスクの巨神兵
攻 4000
遊戯はノータイムで攻撃宣言する。
それに対し、海馬も当然といった表情で効果を発動する。
「伏せカードオープン! "機械仕掛けのマジックミラー”!」
機械仕掛けのマジックミラー
罠カード
相手モンスターの攻撃宣言時に、相手の墓地の魔法カード1枚を自分フィールドに持ってくる
「さらに"強制終了”の効果発動! 発動したマジックミラーを墓地に送り、バトルを終了する!」
オシリスの攻撃は、再び罠によって打ち切られる。
そして……鏡によって映し出されたのは、海馬によって使われ、墓地に戻された"天よりの宝札”。
強力なドローカードが、再び海馬の手に戻る。
「これで、遊戯のバトルは終わり……」
「しかも、海馬はまた好きなタイミングで手札を補充しよる……完全に、海馬が有利に立ちよった……」
「……どうだろうね」
勝利はぼそりと一言呟く。
不思議そうな顔で勝利を覗きこむ舞や竜崎を尻目に、決闘は進む。
「俺は手札から、"天使の施し"を発動!」
天使の施し
魔法カード
デッキからカードを3枚引き、2枚捨てる
「カードを3枚引き、2枚捨てる。そして、カードを2枚セットし、ターンエンド!」
海馬 LP 4000 手札3枚
オベリスクの巨神兵
攻 4000
伏せカード1枚(天よりの宝札)
強制終了
遊戯 LP 4000 手札3枚
オシリスの天空竜
攻 3000(手札3 × 1000)
伏せカード2枚
「……遊戯もさすがね。手札に戻した通常モンスターを、すぐさまドローに変換した」
「海馬の"サンダー・ドラゴン”と同じ動きやな。そのために、"天使の施し”を残しといたっちゅうわけや。手札は減らしたが、おそらくあの伏せに、さっきみたいな手札増強カードもあるかもしれん。まだまだこれからやな」
「……」
舞や竜崎の意見を聞きながらも、勝利は少し黙りこくる。
(……この神の戦いは、もうそんなに長くはない……でも、決闘の展開は、また別の話)
勝利はそっと、胸に触れる。
タウクは光らない。しかし勝利には、それ以上の未来が見えていた。
「俺のターン……防戦一方か、遊戯。その見苦しき姿に、俺が引導を渡してやろう。手札から、魔法カード発動! "死者蘇生”!」
死者蘇生
魔法カード
敵味方問わずモンスターの魂を蘇生させ、味方にする事が出来る
「これにより、貴様の墓地の"ビッグ・シールド・ガードナー"を蘇生する!」
「えっ? "ビッグ・シールド・ガードナー"?」
ビッグ・シールド・ガードナー
守 2600
「だが、モンスターが召喚されたことで、オシリスの効果が発動! 『召雷弾』!」
オシリスから放たれる雷撃が、今度こそモンスターに直撃する。
しかし、海馬は想定通りという顔を崩しはしない。
ビッグ・シールド・ガードナー
守 2600 ー 2000 = 600
「なんでわざわざ、このタイミングで"死者蘇生”を?」
「オシリスの『召雷弾』による制圧力は並やない。だからこれまで、モンスターの展開をしぶっとったはずや」
「それを渋らなくなったってことは……海馬君も、勝負に出るってことだろうね」
「さらに、"霊廟の守護者”を守備表示で召喚!」
霊廟の守護者
闇属性 ドラゴン族 星4
攻撃力 0
守備力 2100
ドラゴン族の生贄にするとき、2体分となる
ドラゴン族が破壊された時、このカードを墓地から蘇生し、通常ドラゴンを墓地から呼び戻す
「……オシリスの効果発動! 『召雷弾』!」
霊廟の守護者
守 2100 → 100
『召雷弾』を幾度となく浴びる海馬のモンスター。
すでに戦えるステータスを失っているが、海馬は満足げだった。
「フン……遊戯。オシリスの能力は確かに強力。しかし、この決闘の絶対の王はこの俺が従えし、究極の神、オベリスクだ! それを今から証明してやる!」
海馬がそういうと、オベリスクがその自らの両手で、"ビッグ・シールド・ガードナー"と"霊廟の守護者”を握りしめる。
「……自分のモンスターを?」
「まさか……これがオベリスクの特殊能力か!?」
「オベリスクの特殊能力! 自軍のモンスター2体を神への生贄に捧げることで、相手のフィールドをすべて破壊し、プレイヤー自身にオベリスクの攻撃力分のダメージを与えることができる!」
フィールドの生贄から力を得たオベリスクが吠える。
その取り込んだエネルギーによって、オベリスクがもう一回り大きく、力強く膨れ上がる。
「うそ……モンスター一掃効果!?」
「しかもプレイヤーに直接攻撃やと!? ここまで必死に躱してきたっちゅうのに、たった一撃で吹き飛ばすつもりなんか!?」
その強力な効果に、舞も竜崎も絶句する。
しかし、すでに動き出したオベリスクの攻撃は止まりはしない。
「遊戯! 神の手により消えるがいい! 『ゴッド・ハンド・インパクト』!」
オベリスクの巨神兵
攻 4000
オシリスの天空竜
攻 3000(手札3 × 1000)
遊戯 LP 4000
「ふっ……決まったか?」
「兄サマの勝ちだ!」
「「遊戯!!!」」
皆、確信する。
海馬の勝利。
遊戯の敗北。
決闘の、決着。
しかし、勝利は揺れはしない。
(この決闘は……まだ先がある……神の戦いの、その先が!)
「……伏せカードオープン! "ホーリーライフバリアー”!」
ホーリーライフバリアー
通常罠
手札を1枚捨て、相手から受ける全てのダメージを0にする
「くっ!? "ホーリーライフバリアー”だと!」
「"バフォメット”を捨て、効果発動! このターン、俺が受けるすべてのダメージを0にする!」
「よしっ! これで遊戯へのダメージは防げるわ!」
「……せやけど、オシリスは」
オシリスの天空竜
攻 2000(手札2 × 1000)
「だが、モンスターの効果による破壊は免れまい! オベリスク、オシリスを粉砕せよ!」
オベリスクの一撃。
その凄まじい力をぶつけられたオシリスが、その体を拳に貫かれる。
『ぐおおおおおおおお!!!』
『ぎゃーーーーーしゃ!!!』
「……オシリスが」
「……遊戯の、神が」
オシリスは、崩れ落ちる。
そして、光の輝きと共に天に変えるように、場から消滅した。
「……ふっふっふっふっふ。あーっはっはっはっは!!! オシリス、粉砕!」
勝ち誇るように叫ぶ海馬。
その宣言に、マリクも同意するように呟いた。
「耐えきったのは予想外だったが、結果は変わらないな。オシリスが落ちた今、遊戯にオベリスクは突破できない。俺の決勝戦の相手は、海馬か」
そして、そのように声には出さず、遊戯のことを応援したい舞や竜崎もまた、マリクと同じ想像をして気落ちしていた。
「遊戯の神が……倒された」
「こっから……どうするんや」
応援したい。
遊戯の勝ちを、信じたい。
仲間として。
しかし、ここから、遊戯の勝つビジョンが思い描けない。
そう苦しむ二人の肩を、勝利が同時にポンと叩く。
「大丈夫だよ。二人とも。見な、遊戯君の顔を」
勝利は自分たちの悲壮感など意に返さず、笑いながら遊戯を指す。
すると、遊戯もまた勝利と同じように笑う。
「……どうした海馬? まだ俺は生き残っているぜ? 決闘を続けようぜ。ターンを終了しな」
「……」
期待の反応と違った遊戯の様子に不満な表情の海馬が、荒々しくカードをディスクにセットする。
「……カードを1枚セットし、ターンエンド」
海馬 LP 4000 手札1枚
オベリスクの巨神兵
攻 4000
伏せカード2枚(天よりの宝札)
強制終了
遊戯 LP 4000 手札2枚
モンスター無し
伏せカード1枚
「俺のターン、ドロー!」
「何……あの表情……」
「まさか……まだなんかあるっちゅうんか。神に、オベリスクに勝つための、何かが」
「さあ……それは僕にもわからない。でも……少なくとも遊戯君は、それを欠片も疑ってないよ」
「俺は手札から、"強欲な壺”を発動!」
強欲な壺
魔法カード
デッキからカードを2枚ドローする
「デッキから、カードを2枚ドロー!」
「こ、このタイミングで!?」
「とんでもない引きやな……」
遊戯の勝負どころの強さに、舞たちが震える。
しかし、それでも、海馬の顔に焦りの色はない。
彼の根底にある、オベリスクへの絶対的信頼は、この程度では揺らぐことはなかった。
「フン。いくらカードを引こうとも、貴様のデッキにはもう神はいない。貴様に、オベリスクの突破は不可能! 貴様に神を超えられはしない!」
「ふっ……海馬。神は……重いぜ」
「……なんだと?」
「俺は伏せカード、"補充要員”を発動!」
補充要員
通常罠
自分の墓地にモンスターが5体以上存在する場合墓地に存在する効果を持たぬ攻撃力1500以下のモンスターを3体を手札に加える
「このカードによって、俺は墓地から、通常モンスター3体を手札に戻す!」
「……オシリスのための、手札補充カード……」
「せやけど今更発動しても、手札に戻るのが通常モンスター3体。オベリスクには……」
「俺が墓地から手札に戻すのは……"クィーンズ・ナイト”! "
「あ、α!?」
地属性 岩石族 星4
攻撃力 1400
守備力 1700
α,β,γで変形合体する
「馬鹿な! そんなカードをいつの間に!?」
その時、勝利が気づく。
「……そうか。"天使の施し”で捨てていたのはβじゃあなくα。"補充要員”で回収することを想定して、遊戯君はあえて攻撃力の低い『磁石の戦士』を選択していたんだ」
「いや……だからって、オベリスクはどうにも……」
そして、勝利の言葉に、舞がはっと声を上げる。
「いや、違うわ! さっきの"天使の施し”で捨てていたのが、"磁石の戦士γ”と"磁石の戦士α”だったとしたら、遊戯は、βをまだ手札に残している!」
「さあ行くぜ! 俺は手札に存在する、"磁石の戦士”α、β、γを墓地に送る!」
遊戯の手札から飛び出てきたモンスターたちが、フィールドに並ぶ。
その様子に、海馬は見おぼえがあった。
「こ……このモンスターたちは……」
「α、β、γ! 変形合体!」
その瞬間、3体のモンスターが、分離する。
その体を、足に。
その体を、胴に。
その体を、頭に。
新たなモンスターを形づくっていく。
そして現れた新たなモンスターが、海馬の前へと立ちふさがった。
「現れよ! "磁石の戦士マグネット・バルキリオン”!」
磁石の戦士マグネット・バルキリオン
攻撃力 3500
守備力 3800
「この土壇場で……バルキリオンだと!?」
「海馬……これが、俺の力。みんなと戦う、結束の力だ」
決着の天秤は、まだふれてはいなかった。
マジで後先考えずに乃亜編の伏線張ってるけど大丈夫なのだろうか……
プロットはほぼ完成しているのですが、やや不安。
そして、神を絶対視する海馬の相打ち拒否。
ちなみに、過去時空の描写が少ないのはわたしが描写をサボったから……ではなく、海馬の相打ち拒否により、神のぶつかり合いによるダメージが溜まりきらなかったから。
からのバルキリオン。
いよいよ原作から離れてきました。
果たして勝つのはどちらなのか。
すごく余談ですが、死のデッキ破壊ウイルスは、エラッタ後の姿で使用しました。
エラッタ前よりも原作に近づいた感じがして、個人的には好きです。
超魔導竜騎士の参加はありorなし
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友情カードの融合!熱い!やって欲しい!
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遊戯があれ使ってるの見たくない!却下!