それでも、頑張って走り切りたい。
マリク LP 7800 手札3枚
モンスターなし
伏せカード2枚
勝利 LP 3001 手札6枚
モンスターなし
闇次元の解放(対象なし)
マリクとの闇のゲーム。
自分の体の煤を払いながら、舞の姿を見る。
拘束された体に、消えかかっている右腕と、左足。
改めて、自分が戦っている闇のゲームという舞台の醜悪さに、顔を歪める勝利。
「勝利。あたしのことを心配している場合じゃないわよ」
「……うん。わかってる」
そんな中でも、気丈に振る舞う舞の言葉に押され、マリクに向き直る。
にたにたと笑みを浮かべるマリクを無視して、フィールドを見据えた。
(……マリクは必ず、神の再召喚を狙ってくるはず……ならば、モンスターがいない今のうちに、攻め立てるべきだ)
ラーの効果は、全て確認できた。
そして、勝利は気づいている。
ラーの能力の核。
それは、マリクのLPにある。
(蘇生カードでラーを召喚したときの速攻効果は、LPを使って発動する。ということは、マリクのLPを削れば……願わくば、LPを1000以下まで削ることができれば、マリクのラーは機能を停止する)
(……先に攻撃すればどうにかなると思っているんだろうが……そううまくいくかな?)
「僕のターン、ドロー! 僕は手札から、"マジック・プランター”を発動!」
マジック・プランター
魔法カード
永続罠カードを墓地に送り、カードを2枚ドローする
「"闇次元の解放”を墓地に送り、カードを2枚ドロー!」
「うまい! 使い終わった永続罠を、ドローに変換した!」
「"闇次元の解放”は、モンスターが破壊されてない限りは場に残り続けるカードやからな。これで勝利の手札は8枚。攻めるには、十分な枚数や」
「勝利君も、そのつもりだろうな。マリクがモンスターを並べていない今、全力で攻めるべきと判断した」
(そしてそれは、正解だ。マリクの潤沢なLPを早急に削らなければ、マリクの余裕は消えはしない。ダメージを与えるこのチャンスに、マリクのライフを1でも多く減らすんだ!)
「さあ、今度はこっちから行くぞ! マリク! 僕は手札から、"死者蘇生"を発動!」
「……そっちも引いたか」
死者蘇生
魔法カード
敵味方問わずモンスターの魂を蘇生させ、味方にする事が出来る
「よっしゃあ! 勝利も"死者蘇生"だ!」
「この状況で出すのは、当然……」
「当然、こいつだ! 想いよ、再び舞い上がれ! "ブラックフェザー・ドラゴン"!」
『ファーーーー!!』
黒い竜巻を携えて、再び竜がフィールドに舞い戻る。
そのモンスターがフィールドに戻ったその瞬間だけ、マリクの表情から余裕が消え、代わりに苛立ちが顔をのぞかせる。
「ちっ……忌々しき竜が、また戻ってきやがったか」
「何度だって見せてやるさ! 貴様を、闇に返すまで! さらに、攻撃力2000以上のモンスターが召喚されたことで、こいつも特殊召喚できる! 来い! "BF-下弦のサルンガ"!」
『キキキキキ!』
BF-下弦のサルンガ
闇属性 鳥獣族 星2 (チューナー)
攻撃力 500
守備力 500
フィールドに攻撃力2000以上のモンスターがいる場合、特殊召喚できる
次々と並ぶ勝利のモンスターに、皆のボルテージも上がっていく。
それに答えるように、勝利の勢いも増していく。
「そして……こいつも召喚だ! "融合呪印生物-闇”!」
「……そいつは……」
融合呪印生物-闇
闇属性 岩石族 星3
攻撃力 1000
守備力 1600
このカードは、融合素材モンスター1体の代わりにできる。
闇属性の融合モンスターの融合をする場合、このカードと場のカードを一枚を融合することができる
勝利が、にやりと笑う。
そして、風が吹きすさぶフィールドに、一本の稲妻が走る。
「さあ、こっちも行くよ! "融合呪印生物-闇”の効果! 自分を含むフィールドに存在するモンスター2体で、融合召喚を行うことができる! さあ、闇に轟け! 雷の悪魔よ!」
轟音とともに、光がフィールドに着地する。
漆黒の風に紫電を纏わせながら、それは降臨した。
「召喚! "デーモンの顕現"!」
デーモンの顕現
闇属性 悪魔族 星6
融合モンスター
「デーモンの召喚」 + 闇属性モンスター
攻撃力 2500
守備力 1200
このカードは「デーモンの召喚」としても扱う。
このカードが存在する限り、 自分フィールドの「デーモンの召喚」は攻撃力500アップ!
このカードが墓地へ送られた場合、「デーモンの召喚」1体を特殊召喚する
「うおおお! すげぇ! 勝利のデッキの、エースと裏エースが、揃い踏みだぜ!」
「いいぞ! 勝利! そのまま押し切っちまえ!」
マリク LP 7800 手札3枚
モンスターなし
伏せカード2枚
勝利 LP 3001 手札5枚
ブラックフェザー・ドラゴン
攻 2800
デーモンの顕現
攻 3000 (自身の効果で+500)
伏せカードなし
大盛り上がりで応援の声を張り上げる城之内たち。
勝利はその声に笑顔で返しながらも、一つ息を吐いて、間を作る。
(大丈夫……勝利は、一時の有利に惑わされることなく、冷静に判断することができている。マリクの罠を、警戒している……)
そう、マリクのフィールドは、モンスターこそいないものの伏せカードが2枚。
城之内との決闘の際のカードを鑑みれば、凶悪な罠カードを伏せていることは想像に難くない。
しかし、それでも勝利は行くつもりだった。
それくらい、このターンの攻めは重要であると考えている。
(……今、手札に奴の伏せを破壊するカードはない。でも、それを待って攻撃を戸惑っていては、マリクの思うつぼ。そもそもリスクを冒さずに勝つことなんて、もとより期待していない!)
軽く息を吸い、最後に舞を見る。
目だけで合図を返す舞に、勝利はさらに笑顔を返した。
「……バトル! "デーモンの顕現"で、マリクに直接攻撃! 『魔降雷波』!」
「行った!」
「お願い、通って!」
デーモンから発された電撃が空を舞い、マリクへと一直線に向かっていく。
杏子の祈るような声が、攻撃の行く末を静かに見守る決闘者たちの耳に響く。
しかし、それを塗りつぶすかの如く、マリクの不快な笑い声が届いてきた。
「……フハハハハ! 強力モンスターを集めて、一気にLPを削りに来る! 予想通りだよ!」
「っ!?」
「伏せカードオープン! "業炎のバリア -ファイヤー・フォース-"!」
業炎のバリア -ファイヤー・フォース-
罠カード
敵の攻撃宣言時、紅のバリアが敵を全滅させる
その後、モンスターのもともとの攻撃力の合計の半分のダメージをお互いに受ける
その瞬間、マリクの目の前に現れた燃え盛るバリアが、『魔降雷波』を吸収する。
そしてその電撃が、炎の力を帯び始めた。
「このカードの効果によって敵のモンスターの攻撃を跳ね返し、モンスターを全滅させる! そしてその攻撃力の合計値分のダメージを、お互いに受ける! さあ、するとどうなるかねえ?」
「……」
「おい、勝利のモンスターの攻撃力の合計ってことは……」
「……2800+2500。5300。それの半分やから、2650や」
奥歯で音を鳴らすほどに食いしばりながら、竜崎が言った。
その言葉に、杏子たちは顔を青ざめる。
「2650って……勝利君のLPのほとんどじゃないの!?」
「しかも勝利のフィールドが全滅ってことは……次のターンに攻撃されたら、勝利の負けじゃねえか!?」
(くそっ……モンスターを破壊してからダメージを与えるやと? "ブラックフェザー・ドラゴン"さえおれば、効果ダメージを気にすることはないと思とったが……明らかな対策カードや! 狙いよったな!)
「ククククク。甘く見られちゃあ困るぜ、勝利ぃ。貴様の決闘はもう何度も見させてもらった。当然、貴様に通用するように、デッキは調整してきているんだよ。さあ! 反射された雷を受けな!」
「まずい! ダメージを受けるのはお互いに同じだが、勝利君とマリクでは、LPの量が違いすぎる! 今これを受けたら、致命傷になるのは勝利君だけだ!」
「いやあ!」
「クッソォ! 何とかしやがれ勝利!」
遊戯の言葉に、静香が思わず目を覆う。
そんな静香を抱える城之内も、目を背けたくなる想いを必死に抑えながら、勝利に檄を飛ばした。
「……そっちこそ、僕を甘く見てもらっちゃ困る」
そんな城之内たちに返ってきたのは、あまりにも静かで、落ち着いた勝利の声だった。
「……なんだと?」
「お前と同じように、僕がお前のデッキに何の対策も施していないわけがないだろう! 僕は手札から、"ライフ・コーディネーター"の効果発動!」
ライフ・コーディネーター
風属性 サイキック族 星2
攻撃力 800
守備力 400
LPにダメージを与える効果」を持つカードを無効にし破壊する
勝利が宣言したその時、マリクの目の前のバリアを、泡のようなものが包み込んだ。
「な、なんだこれは!?」
「"ライフ・コーディネーター"。このカードは、手札から墓地に送ることで、LPに直接ダメージを与えようとする効果を無効にして、破壊することができる」
「な、何ぃ!?」
マリクの驚愕の声に反応したかのように、マリクを守る豪炎のバリアは、大きな音を鳴らして砕け散った。
「マリクの強力な罠カードに、完璧にカウンターした! 見事だぜ、勝利君!」
「城之内とマリクの決闘で、マリクが効果ダメージで動きを封じてくることは目に見えとったから、"ブラックフェザー・ドラゴン"に加えて、効果ダメージに対する解答を追加準備しとったんやな。やってくれるわ」
「す、すっげぇ……」
「さあ……これで"デーモンの顕現"の攻撃を遮るものはなくなった。デーモン! もう一度、『魔降雷波』!」
「くそっ! もう1枚の伏せカードオープン! 永続罠カード、"拷問車輪"!」
拷問車輪
永続罠カード
モンスター1体を磔にして、攻撃を封じる
プレイヤーはターン経過ごとに、500のダメージを受ける
突如現れた拷問器具が、"デーモンの顕現"を拘束する。
デーモンの手のひらから再度放たれた電撃は、明後日の方向へ飛んでいき、闇に溶けていった。
「このカードの効果によって、"デーモンの顕現"は封じた。そいつの攻撃は届かねえよ」
「くっ……だが、これでお前の伏せカードはなくなった!」
マリク LP 7800 手札3枚
モンスターなし
拷問車輪(デーモンの顕現)
勝利 LP 3001 手札4枚
ブラックフェザー・ドラゴン
攻 2800
デーモンの顕現(拷問車輪)
攻 3000 (自身の効果で+500)
伏せカードなし
「よしっ! これで、"ブラックフェザー・ドラゴン"の攻撃は確実に通すことができるぜ!」
「行ったれー! 勝利!」
「勝利! あの野郎に、もう一度"ブラックフェザー・ドラゴン"の一撃を叩きこんで、目覚まさせてやりなさい!」
舞の、皆の言葉に後押しされ、勝利は高らかに拳を掲げる。
「食らえ、マリク! "ブラックフェザー・ドラゴン"の攻撃! 『ノーブル・ストリーム』!」
『ファーーーーー!』
大きく空へと羽ばたいた"ブラックフェザー・ドラゴン"が、両翼を使って生み出した風を、思い切りマリクにたたきつける。
全てを切り裂かんとするかまいたちが、マリクへと降り注いだ。
「うおおおおっ!?」
マリクのくぐもった声とともに、フィールドに爆風が生まれる。
皆がその勢いに目を伏せながらも、期待した表情で場を見つめなおした。
(マリクの罠カードを使わせながら、攻撃を1発通し切った……このターンは、でかいぜ!)
(これで、マリクに2800のダメージ。マリクのLPは7800ー2800で、5000。まだ多いけど、十分追いつける数値に……)
そこまで思考した遊戯と勝利。
しかし、風が収まるころに目の前に飛び込んできた景色に、絶句した。
マリク LP 8800 手札2枚
「……ふう。危ない危ない」
意味が分からず、否定したい現実。
しかし、舞い降りる"ブラックフェザー・ドラゴン"を前に飄々と笑うマリクの姿が、現実という名の絶望を突き付ける。
「馬鹿な……」
「嘘……なんでLPが……回復しているのよ!?」
「ククククク。手札の、"ジュラゲド"の効果を発動したのさ」
ジュラゲド
闇属性 悪魔族 星4
攻撃力 1700
守備力 1300
バトル中に特殊召喚し、LPを1000回復する
生贄に捧げることで、モンスターの攻撃力を上げる
「このカードは手札から特殊召喚でき、召喚した際にLPを1000回復できる。俺のLPを回復してもらいながら、お前の"ブラックフェザー・ドラゴン"の攻撃を受ける身代わりになってもらったってわけさ」
(……ギブリと、似た効果を持ったモンスター……罠でこちらの攻め手を塞ぐと思っていただけに想定外で、対応できなかった……)
「くそっ! また躱されちまった!」
勝利の悔しさが伝わってか、思わず悪態が漏れる城之内。
遊戯もまた、唇を噛みしめ城之内の言葉に同意する。
(勝利君は今のターン、LPの差を埋めるために主力カードを出し惜しみすることなく使い切った。しかし、その怒涛の攻めは、マリクに完全に受けきられてしまった。これは痛い……)
城之内や遊戯、だけではない。
場の空気全体が、再び重苦しいものにすり替わり、淀んでいく。
それに耐えかねたように口火を切ったのは、竜崎だった。
「何へこんでんねん! 一度や二度失敗したくらいで、あきらめとるんとちゃうぞ! まだ、お前の友達はフィールドにおるやろうが! 勝手に俯くな! 前向けや、勝利!」
「っ! 竜崎君……」
竜崎の声で顔を上げた勝利の目の前に、"ブラックフェザー・ドラゴン"の背中が広がる。
振り返りはしなかったが、その瞳は赤く、光ったように見えた。
そして、"デーモンの顕現"に目を移す。
"拷問車輪"に拘束され、身動きも取れずに苦しんでいたが、勝利の方をちらと見たその時、デーモンは、笑ったように見えた。
「竜崎のいう通りだぜ! 勝利!」
「まだまだ、これからよ! 勝利君!」
「がんばって! 勝利さん!」
「……みんな」
「……戦う覚悟は、できた?」
皆の声を聴き、表情を整えた勝利に、舞が問う。
舞の言葉に、勝利の胸が跳ね上がる。
二人は同じ、何かを心に決めた表情をしている。
(……そうだ。もともと、考えていたことだ。この決闘が、始まる前から)
勝利は、両手で頬を張った。
それはこれまでの気合いを入れるための一撃の度を越えた、顔に痕が残るほどの強打。
意志の強さが、手に、腕に、表情に。体に、姿勢に現れている。
(僕の戦いじゃ、神のカードには敵わないかもしれない。みんなと力を合わせても、マリクに、届かないかもしれない。マリクの戦術を、超えられないかもしれない。そんなときに、どう戦うのか)
息を吐き、ほんの少しだけ静寂を作った後に、舞を見た。
それは、覚悟の表情だった。
(……どこまで、気づかれていたんだろう……本当に、すごいな。僕の恋人は)
「……舞さん」
「……何?」
勝利が、拘束されている舞に、そっと体を寄せる。
「……一緒に、戦ってくれる?」
その声は、縋るように弱弱しくもあり、しかしその裏には、曲がらない強さがあった。
共に、戦う。
闇のゲームが、始まった時。
闇のゲームで、勝利が苦しんだ時。
二人で口にした言葉。
しかし、それとは、意味が違う。
勝利の無言の、しかし雄弁な表情が、それを物語っている。
それを舞は、正しく理解する。
そして、少しだけ笑い、言った。
「……着いていってあげるわよ。一緒に、地獄の底までもね」
その言葉を聞き届け、勝利は、マリクを見据える。
何かが変わった。
マリクにもそれがわかり、一つ舌打ちを零した。
「カードを1枚セットし、ターンエンドだ」
(前に、友がいる。後ろに、仲間がいる。隣に……最愛の人がいる。大丈夫。僕は……戦う。最後まで)
マリク LP 8800 手札2枚
モンスターなし
拷問車輪(デーモンの顕現)
勝利 LP 3001 手札3枚
ブラックフェザー・ドラゴン
攻 2800
デーモンの顕現(拷問車輪)
攻 3000 (自身の効果で+500)
伏せカード1枚
「フン。その空元気がいつまで持つのか、しっかり見届けてやるよ。俺のターン、ドロー! そしてこの瞬間に、"拷問車輪”が"デーモンの顕現"を蝕み、貴様に500ポイントのダメージを与える!」
「そうはいかない! "ブラックフェザー・ドラゴン"の、効果発動! 僕へのダメージを、黒羽カウンターに変換する!」
軋み出したデーモンを拘束する車輪の動きを、"ブラックフェザー・ドラゴン"が自身の羽をぶつけることによって止める。
"ブラックフェザー・ドラゴン"が、唸るように吠える。
『ぐおおおお!』
ブラックフェザー・ドラゴン
攻 2800 ー 700(黒羽カウンター1×700) = 2100
「ちっ……ならば俺は、"貪欲で無欲な壺"を発動!」
貪欲で無欲な壺
魔法カード
バトルを放棄し、種族が違う墓地のモンスター3体をデッキに戻し、2枚ドローする
「このターンのバトルを放棄することで、墓地のモンスターをデッキに戻しながら、カードを2枚ドローする。俺は、機械族、"ボーガニアン"。魔法使い族、"墓守の偵察者"。悪魔族、"ジュラゲド"をデッキに戻し、2枚ドローする」
「……また手札を増やしやがった」
「マリクは、状況が整うまでは徹底して防御を固めるつもりだろう」
「実際勝利にとっては、それが一番厳しいで。LPに差がつき過ぎとる状況や。マリクが慎重に立ち回ってきたら、勝利がひっくり返す
攻めて、勝利のモンスターに焦って攻めてくれば。
そんな淡い期待を潰すように、マリクは淡々とターンを進める。
「俺は"処刑人ーマキュラ"を守備表示で召喚」
処刑人ーマキュラ
闇属性 戦士族 星4
攻撃力 1600
守備力 1200
このカードが墓地に送られたターン、罠カードを手札から発動できる
「さらに、カードを3枚セットし、ターンを終了する」
マリク LP 8800 手札0枚
処刑人ーマキュラ
守 1200
拷問車輪(デーモンの顕現)
伏せカード3枚
勝利 LP 3001 手札3枚
ブラックフェザー・ドラゴン
攻 2100 黒羽カウンター×1
デーモンの顕現(拷問車輪)
攻 3000 (自身の効果で+500)
伏せカード1枚
「あ、あの野郎……こそこそとみみっちい決闘しやがって! 男ならシャキッと攻めてきやがれ!」
マリクの戦術に、苛立ちを感じ始める城之内。
呆れたような様子で城之内をなだめる本田たちだったが、心象自体は城之内と遠からずだった。
勝利に勝ってもらいたい。
だが、マリクには、一切の隙が無い。
応援の行き場がないもどかしさが、どうにも耐えがたく苦しかった。
しかしその一方、遊戯たちはまた別の事に訝しみ、顔を曇らせていた。
「……遊戯」
「ああ、わかっている」
彼らが気にしているのは、マリクのフィールド。
その守備モンスター、"処刑人ーマキュラ"。
(マキュラは、破壊されたターンに手札から罠カードを使えるようになるという、奇襲性が高い強力な効果を持っている……が)
(マリクの手札は0。今なら、マキュラを破壊したとて、効果は発揮できん。となれば……このターンにマキュラは破壊しておきたい。せやけど、マリクの伏せは3枚。明らかに誘い水や)
マキュラを恐れ、攻めるか。
伏せカードを恐れ、守るか。
再び勝利に、選択の権利が訪れる。
しかし今度の勝利は、何の躊躇もなくターンを開始する。
「僕のターン、ドロー! まずは、"ブラックフェザー・ドラゴン"の効果発動! 黒羽カウンターを取り除くことで、マキュラの攻撃力を下げて、その下げた攻撃力分のダメージを相手に与える! 『ブラックバースト』!」
「そうはいくかよ。伏せカードオープン! 永続罠、"デモンズ・チェーン"!」
デモンズ・チェーン
永続罠
悪魔の鎖でモンスターを縛る
対象モンスターは攻撃できず、効果は無効化される
"ブラックフェザー・ドラゴン"が再びその翼をはためかせようとしたその瞬間に、闇より現れた鎖が翼を押さえつける。
「この悪魔の鎖により、貴様の竜の効果と、攻撃は無効化される! そう簡単に動かしやしねえよ」
「……なら、手札から魔法カード、"黒羽の宝札"を発動!」
黒羽の宝札
魔法カード
BFモンスターを手札から除外し、カードを2枚ドローする
このターン特殊召喚できない
「手札から"BFー空風のジン"を除外して、2枚ドロー! そして、今引いた魔法カード、"ツインツイスター"を発動!」
ツインツイスター
魔法カード
手札一枚を捨てることで、相手の魔法、罠カードを2枚まで破壊する
「これによって、手札を1枚すてて、貴様のフィールドの、"デモンズ・チェーン"と"拷問車輪"の2枚を破壊! 僕のモンスターを、解放する!」
そう宣言するやいなや、2本の竜巻がマリクのフィールドのカードを巻き上げる。
そして勝利のフィールドのモンスターたちが、自由に喚起するように叫び声をあげた。
「よし! これで勝利のモンスターたちは、攻撃できるようになったぜ!」
「マリクのフィールドには、モンスターが1体だけ! 今度こそ、大ダメージを与えるチャンスだ!」
「僕はさらに、"BF-疾風のゲイル"を召喚!」
『かぁ!』
BF-疾風のゲイル
闇属性 鳥獣族 星3
攻撃力 1300
守備力 400
BFがいるとき特殊召喚できる
攻撃を仕掛ける時、風で相手の勢いを半減させる
ゲイルが飛び出したのちに、ちらと勝利を見て、頷く。
ゲイルもまた、勝利の覚悟を感じ取っていた。
(……勝利を、お願いね。ゲイル)
『かぁかぁ!』
マリク LP 8800 手札0枚
処刑人ーマキュラ
守 1200
伏せカード2枚
勝利 LP 3001 手札1枚
ブラックフェザー・ドラゴン
攻 2800
デーモンの顕現
攻 3000 (自身の効果で+500)
BF-疾風のゲイル
攻 1300
伏せカード1枚
「……さあ。攻めたきゃ攻めて来いよ、勝利。LPを削りたいんだろう? 全員が拘束から解放された、今がチャンスだぜ?」
「……」
(わざと間抜けでもわかるような挑発で、勝利を誘っている……もしも、勝利が奴の思い通りに攻撃をしかけ、罠にはまるようなことになるのであれば……)
あり得る。このターンにでも。
ラーの、再召喚。
(……勝利……)
海馬に過ぎる、最悪の未来。
それを振り払うように祈る、イシズ。
しかしそんな思いと裏腹に、勝利の選択は強気なままだった。
「……バトル! ゲイルで、守備表示のマキュラに攻撃! 『ブラックスクラッチ』!」
BF-疾風のゲイル
攻 1300
処刑人ーマキュラ
守 1200
(……おいおい! まさかここまで俺の理想通りに動いてくれるとはな! 貴様の読みも悪運も、ここまでか? 勝利ぃ!?)
「伏せカードを2枚同時発動! "アルケミー・サイクル"! そして……"遺言の札"!」
「!!?」
アルケミー・サイクル
罠カード
自軍のモンスターの攻撃力を0にする
そのモンスターが破壊された時、1枚ドローする
遺言の札
罠カード
自軍のモンスターの攻撃力が0になったときに発動する
自分の手札が5枚になるようにドローする
「ククク。まずは"アルケミー・サイクル"の効果。マキュラの攻撃力を、0にする」
処刑人ーマキュラ
攻 1600 ⇒ 0
「さらに! それをトリガーに"遺言の札"の効果が発動! 俺の手札が5枚になるように、カードをドローする!」
「なっ!?」
「一気に、手札を増やしやがった!」
「しかもこれは……」
「そして、マキュラは戦闘破壊され、"アルケミー・サイクル"の効果でカードを1枚ドロー。そして、マキュラの効果が発動するぜぇ!」
マリク LP 8800 手札6枚
モンスターなし
伏せカードなし
(マキュラ効果 手札から罠カード発動可能)
勝利 LP 3001 手札1枚
ブラックフェザー・ドラゴン
攻 2800
デーモンの顕現
攻 3000 (自身の効果で+500)
BF-疾風のゲイル
攻 1300
伏せカード1枚
「手札が、6枚……」
「しかもマキュラの効果で、手札から罠カードが使えるようになっとる……」
「これは……」
さすがに、これ以上攻められない。
ここから無暗につついては、鬼が出るか蛇が出るか。
どんな凶悪なカウンターが待っているかなど、想像もつかない。
また、耐えられてしまった。
こうなってはもう、悔しくも、引くしかない。
誰もが、そう考えた。
「……"デーモンの顕現”で、マリクにダイレクトアタック!」
「えっ!?」
「おい!!?」
「勝利君!?」
「勝利……何を……?」
「……勝負を急いだか。下らん」
「ハハハハハ! 見事な勇気だなあ、勝利! いや……もう苦しみを堪える決闘が辛くなって、決着を焦ったか?」
「……」
「ククククク……ならもう二度とその蛮勇を振るえぬように刻み込んでやる! 神のカードの恐ろしさをなあ! 手札から、罠カード発動! "暗黒の魔再生"!」
「"暗黒の魔再生"!?」
「あれは!?」
「……イシズ。あれがか」
「……はい」
暗黒の魔再生
罠カード
相手の攻撃宣言時、相手の墓地の魔法カードを速攻発動する
「この効果で、貴様の墓地にある魔法カードを1枚を発動させてもらうぜ……」
「勝利の、墓地のカードだと?」
「っ!? まずい!」
「当然、発動するカードはこいつだ! "死者蘇生"のカード!」
「!!!!?」
遊戯たちに一呼吸遅れ、全員が事態の深刻さを察する。
しかし……それはあまりにも遅すぎた。
「最悪や……来るで!」
「地に眠りし神よ! 再び不死鳥の姿となりて、敵を焼き尽くすがいい!」
そうして呪文を唱えるマリクの元に、太陽神は、舞い降りた。
「"ラーの翼神竜"、再臨!」
The Winged Dragon of Ra
ATTACK 0
DEFFENCE 0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ラーが……再び……」
神々しく、そして、恐ろしく燃え盛るその不死鳥の姿に、皆は絶句するしかなかった。
ラーの攻撃力は0。
しかし、そんな事実など神の前には何の意味もなさないことを、皆理解していた。
「さあ……見せてやるよ! ラーの、第2の効果!」
(城之内を屠った、"ラーの翼神竜”の2つ目の能力……『時一つにして神は不死鳥となる……選ばれし魔物は大地に眠る』……それが敵のターンに発動するということは……)
デーモンが、雷をラーにぶつける。
ブラックフェザー・ドラゴンが、渾身の風を、ラーにぶつける。
しかし、その一撃は、ラーの燃え盛る体の炎を揺らめかせることすら叶わなかった。
「グハハハハ!! 貴様ら矮小なモンスターの攻撃など、神には届かない! そして……当然、相手ターンの召喚であろうとも、ラーには速攻攻撃の能力がある! "暗黒の魔再生"で蘇生した今、LPコストすらも必要とせず、モンスターを問答無用で抹殺することができるのだ!」
「……デーモン」
勝利は、自分の一手により、神の一撃で身を焼くことになった"デーモンの顕現"に形容しがたい表情を向ける。
しかし、デーモンは真っすぐにラーに向かい、一歩も引きはしなかった。
「食らえ! 『ゴッド・フェニックス』!」
やがて、ラーの炎が、デーモンに降り注ぐ。
そして再び……勝利の、舞の体に、魂に、ラーの業火が迫りくる。
「があああああああああああああああああ!!!!!!」
「きゃああああああああああああああああ!!!!!!」
「ハハハ! さあ、命の燃料の1滴まで、燃やし尽くせ! "ラーの翼神竜"!」
(耐えろ! 耐えろ! 耐えろ! デーモンが、みんなが、僕のために、覚悟を決めてくれたんだ! 僕がこんなところで、倒れてたまるかあ!)
(耐える……耐えるのよ、孔雀舞! ここであたしが力尽きたら……勝利の戦いを台無しにするだけじゃあない。勝利は……自分の覚悟を、自分の選択を、一生後悔する! そんなことには、絶対にさせない! あたしは……勝利と戦うために、ここにいるのよ!)
「「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」」
「「勝利ぃいいいいい!!!?」」
「はぁ……はぁ……げほっ、ごほっ」
デーモンの姿がフィールドから消え去り、炎の勢いが落ち着きを取り戻したころ、たまらず勝利は膝を降り、地面に手をついた。
闇に飲まれはっきりと見えはしないがそれでも、顔の血色が先ほどまでと比べてくすんで見える。
肩で息をして、俯く勝利の体から吹き出る汗が地面に水溜まりを作る。
いくら"ブラックフェザー・ドラゴン"を従えていると言っても、受けるダメージはもう許容量を超えている。
体のあるとあらゆる警報が勝利の限界を知らせ続ける。
が、それでも勝利は、もう一度立ち上がった。
「……勝利さん」
静香の不安気な声が、却って皆の心の騒めきを掻き立てる。
できるならば、止めたい。
喉まで出かかるその言葉を、皆で必死に堪えていた。
(いくら勝利が特殊な力を持った決闘者であるといっても、神の攻撃を何度も受けては、そう長くはもたないはず。いったい……お前は何を狙っている……?)
(勝利……あなたは……もしや……)
「……けほっ……舞さん。大……げほっ、丈夫?」
「……馬鹿……あたしより、自分の心配をなさい……絶対、倒れるんじゃないわよ」
勝利と舞が、お互いに気を使いあい声をかける。
しかし、どちらが、ということもない。
ダメージを、苦痛を共有している二人は、共に限界だった。
「ハハハハハ! いい顔ができるようになってきたじゃないか! その調子で、もっと見せてくれよ。お前たちの苦悶の表情を。神の攻撃に、まだ耐えられるのならな!」
「くそ……勝利……」
「勝利君……」
肉体の限界を迎えている勝利に、愉快と言わんばかりに騒ぎ立てるマリク。
今の二人の姿がそのまま、この決闘を優位を表している。
勝利が、追い詰められている。
マリクが、ゲームを支配している。
遊戯たちにとって、ここまで勝利が一方的に追い詰められている決闘は、初めての事だった。
勝利が、勝つ。
信じて疑わなかった未来に、亀裂が入る。
否が応でも浮かんでしまう最悪のイメージが、脳を過ぎり始めていた。
しかし……それでも。
当の本人。勝利は、前を向いてマリクを睨む。
「……耐えて見せるさ……何度でも、何度でも。貴様の手が尽きる、その時までな!」
少し掠れた声で、そう宣言する勝利。
その言葉に大きく狼狽したのは……遊戯だった。
「っ!!!?(勝利君。君は、まさか!?)」
『どうしたの、もう一人のボク!?』
状況を飲み込み切れず、遊戯の中で声を上げるもう一人の遊戯。
心の中にいるもう一人の遊戯には、遊戯の驚愕と恐怖の入り混じる騒めきが直に伝わってきた。
遊戯が、そうなっている理由。
遊戯の言葉を聞き、もう一人の遊戯もすぐにそれを理解した。
(……勝利君は、戦いきるつもりなんだ……マリクの"ラーの翼神竜"の力を受けきり、真正面から、ぶつかり合うつもりだ)
『なっ!!!? そんな!?』
遊戯の心の中が、さらに荒れ狂う。
当然だった。
その力は、親友、城之内が、一撃で昏睡に至ってしまったほどの恐ろしい一撃。
それを、勝利は、耐えきる気なのだ。
何度も、何度も受け続けることで。
(そしてそれを覚悟したのは……勝利君だけじゃない。おそらく、今勝利君の傍にいるはずの、舞も……)
そして……勝利の狙いを理解した海馬もまた、勝利の戦略に身を震わせる。
「……確かに。"死者蘇生"を含む蘇生魔法カードはその強力さゆえにデッキに入れられる枚数を制限されている。再利用するカードもそう多くはないだろう……だが……」
(……俺は、
海馬でさえも。
いや、遊戯も、城之内も、誰も想像もしていなかった。逆転の発想。
神が止められないのなら、止めない。
ラーの対策を、しない。
勝利の選択に、決闘者たちは戦慄した。
止める言葉など、吐けるはずもない。
否。
止められるものなど、もう居はしない。
命を賭した彼らの覚悟に、もはや後退の道はない。
「さあ……罠を張ればいい。僕を葬りたきゃ、やってみろよ。LPも、体も、魂も、すべてくれてやる。燃やせるものなら燃やしてみろ。その代わり……最後の勝利は、僕がもらう!」
「……ほざけ」
焦点も合わずに虚ろな目を向ける勝利と舞に、そう吐き捨てるマリク。
しかしその頬には、一筋の冷や汗が走る。
マリクも気づいている。
勝利の。
舞の。
その狂気の覚悟は、確実に本物だった。
勝利の覚悟に、答える舞。
ドン引きするマリク。
ここまでガンギマリに描く予定はなかったのですが…
思い描く勝利像がこうさせてしまうんですよね…
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