遊戯王~黒き羽根は夢に舞う~   作:haruko

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マリク戦が終わって。その後。

前回の話が、かなり好評で嬉しかったです。
この小説を思いついた時からかなり温めた展開だったので、みなさんの反応がとても励みになりました。
ありがとうございます。


理想と現実 未来と今

 

 

 

『……うり……しょうり……!』

 

(…………なんだ……誰かが、僕を呼んでいる……)

 

勝利は、微睡む意識の最中に、頭に響く声を聴いて意識のスイッチを入れる。

脳みそが、聞き入れ覚醒するのを拒否するが、その次の瞬間に、加えられた衝撃で目を覚ます。

 

 

 

 

「……こんの……起きろっての!」

 

 

 

 

「どわあ! な、なんだぁ!?」

 

 

 

 

大声を出して立ち上がる勝利に、クスクスと漏れる笑い声が届く。

少々恥ずかしさを覚えたものの、そんなことよりも、状況の整理が第一だった。

 

周りを見る。

そこは……教室だった。

 

勝利は、未だ電源の入りきらない頭を無理やりに回しながら、何が起こっているのかを理解しようとするが……ありとあらゆることの意味が分からなかった。

 

ひとまず、目下最大の困惑を処理すべく、勝利が声を出す。

 

 

 

「……なんで、舞さんが教室に?」

 

 

 

そう。

勝利を叩き起こしたのは、舞の大声。

 

童実野高校の教室に、舞が立っている。

 

その異質さが、最初の違和感だった。

 

 

 

「……あんたが言ったんでしょ? 例のデートは、今日の放課後にしてくれって。だからわざわざ来てやったのに、あんたが出てこないから許可とって入れてもらったのよ。そしたら、こんなところでいびき掻いて……」

 

 

 

呆れた声を上げる舞だったが、舞への謝罪の想いより先に、新たなる困惑が漏れ出した。

 

 

 

「れ、例のデート? なんで……あれ? バトルシティは……」

 

 

 

デートの約束は、大会が終わった後だったはず。

そもそも、なぜ今自分は教室に?

 

 

 

続けて聞こうとした勝利だったが、次の城之内の言葉に、勝利はさらに固まる。

 

 

 

 

 

 

「……んあ? マジで寝ぼけちまってんのか? 勝利? バトルシティは、もう終わっただろ?」

 

 

 

 

 

「……へっ?」

 

 

 

 

 

 

「そうだよ……勝利君の、優勝でね!」

 

 

 

 

 

 

 

遊戯のその笑顔から放たれた言葉に、勝利は驚愕を通り越し、狼狽した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぼ、僕の!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

信じられない。と言いたげな表情の勝利を置いて、皆が盛り上がる。

 

 

 

 

「最後の決闘は、最高だったわよね!」

 

「ああ! 遊戯対勝利の、ラストバトル! ひりついたぜ!」

 

「ちきしょう……俺だって、あともう少し頑張って遊戯に勝ってりゃ、あそこに行けたのによお……」

 

「静香ちゃんも喜んでくれてたんだ。よかったじゃないか」

 

「そうそう。そもそもベスト4なんて、城之内にしちゃできすぎだぜ」

 

「ほんとほんと」

 

「お、お前ら~~~!!!!」

 

 

 

いつもの調子で、騒ぎ出す友の姿。

しかし、勝利の表情は晴れないままだった。

 

 

「……勝利。あんた、本当にどうしちゃったの?」

 

 

「……僕が、優勝……城之内君が……遊戯君と……じゃあ、マリクは? グールズは?」

 

 

失ったものを探すように、断片的な言葉を連呼する勝利。

しかし、勝利の言葉を聞く舞の困惑が消えるような様子はなく、訝しむ表情を深めてしまった。

 

 

 

 

 

 

「……マリク? グールズ? 何それ? ほんとに、どうしちゃったのよ、勝利?」

 

 

 

 

 

「……」

 

 

舞の言葉で、確信する。

これは……違う。

 

ここは……勝利が戦い抜いてきた、場所じゃあない。

 

 

(なんだこれ……天国? まさか僕は……死んだのか?)

 

 

グールズは、いない。

マリクも、いない。

 

 

舞も、城之内も、遊戯も危険な目にあっておらず。

 

 

勝利も、命がけの決闘などすることはなく。

 

 

 

 

 

皆が、幸せに。

楽しく、全力で。

 

 

 

 

願う未来を、成し遂げた。

 

そんな、理想の場所。

 

 

 

 

 

(誰も傷つかなかった……誰も、辛い想いをしなかった……最高の決闘をして、幕を閉じた……楽しく、笑いあえる結末で……)

 

 

 

 

 

自分は、覚えていない。

しかし、皆の笑顔が、その美しき結末を鮮明に描いていた。

 

 

 

 

 

 

 

遊戯がいて。

城之内がいて。

本田がいて、杏子がいて、御伽がいて、静香がいて、獏良もいるかもしれなくて。

 

どうせ不貞腐れた顔の海馬がいて。

意外とみんなといるのが楽しいのか、笑顔のモクバがいて。

 

 

 

 

 

勝利が笑顔で、そこに立っている。

 

 

 

 

 

そんなバトルシティが。

そんなアルカトラズの頂上が。

決闘王を決める戦いの頂点が。

 

あったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

皆の表情に、そんな景色を幻視する。

 

 

 

 

「……よっしゃ。勝利も目覚ましたとこだし、俺たちは行くか! 遊戯! 今日も決闘だ!」

 

「うん!」

 

「全くもう! そればっかりなんだから! ちょっとは勝利君を見習って……」

 

「杏子。無理無理」

 

「もう……」

 

 

 

 

そうして皆が、またね、と勝利に声を投げかけて、教室を出ていく。

 

いつの間にか周りの人は誰もいなくなり、勝利と舞だけが残された。

 

 

 

 

数分。いや、数十秒。あるいは、ほんの数秒。

 

固まったままの勝利の手を、舞が握る。

 

強く、そして温かい気がした。

 

 

 

 

 

 

「あたしたちも行きましょう。勝利」

 

 

 

 

 

 

その笑顔に、思わず見惚れる。

美しく、そして、幻想的な。

輝くような、笑顔だった。

 

やはり。と、勝利は心で呟く。

 

 

 

 

 

(……これは。僕の、理想。いや……僕の、望む幸せ……)

 

 

 

 

 

勝利は、舞の手を振り払い、一歩下がった。

舞は、少し悲しそうな表情をして、勝利を見る。

 

 

「……勝利?」

 

 

 

 

 

「……ごめんね。舞さん。でもやっぱり、これは違うかな」

 

 

 

 

 

「……どうして?」

 

舞の表情が、大きく崩れる。

それを見て、勝利も少し顔を歪める。

 

 

 

(……たとえ幻想でも、あなたにそんな顔はしてほしくなかったな……)

 

 

 

「……ここなら、城之内は、倒れていない。静香ちゃんも……みんなも、悲しんでない」

 

「……うん」

 

 

 

舞が、そう言う。

勝利は、小さく頷く。

 

 

 

「みんな笑顔で、バトルシティの決勝まで行って、遊戯と戦った! そして勝った! あなたは、決闘王になったのよ!?」

 

「うん……そうなんだろうね」

 

 

 

「それだけじゃない……あなただって……マリクに、ひどい目にあわされていないわ! 倉庫で、火に飲まれかけることもない! ラーの業火で、焼き殺されそうになることもない! もう、苦しまなくていいの!」

 

「うん。正直、あれはつらかったな。できれば、もう二度と、あんな目にあいたくない」

 

 

 

 

 

「……だったら!」

 

 

 

 

 

「……それでも……僕は戻るよ」

 

 

 

 

 

渾身の笑顔で、そう答える勝利。

 

すると舞は、悲痛な表情を、呆れに変える。

 

 

 

 

「……どうして?」

 

 

 

 

舞の問いに、勝利は少し悩む。

そして……もう一度、笑顔を見せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……舞さんに、告白を受けてもらえた。嬉しかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「ラーを恐れずに立ち向かう、城之内君がかっこよかった。遊戯君と海馬君の、魂と誇りを賭けた死力を尽くした勝負に、感動した」

 

 

 

キース。

イシズ。

マグナム。

竜崎。

そして……マリク。

 

 

 

戦ってきた決闘者たちを、指折り数える。

そして指が折れきった左手の拳を右手で包み、胸に当てる。

自分の胸が、温かくなるのを感じた。

 

 

 

 

「辛いことは、あった。泣きたくなることも、逃げ出したくなることも。立ち上がれなくなるんじゃないかと思うほどの事も。たくさんあった。でも……僕はもう、過去から逃げるようなことはしないと決めたんだ」

 

 

 

 

「……勝利」

 

 

 

 

「だって……過去を乗り越えたその先に、未来があるってわかったから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、教えてもらったんだ。

みんなに、そして……舞さんに。

 

 

 

 

 

だから……僕は戻るよ。

みんなの待つ場所に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉に、舞がふっと笑う。

 

 

 

 

 

そして……教室の壁が弾け、外が光り輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……勝利」

 

 

 

 

 

「……なあに。舞さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……勝ちなさいよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界が、砕ける音が響き渡った。

 

返事は、舞に届いただろうか。

 

 

 

 

……届いていなくてもいい。

 

だって……どんな世界であれ。舞ならば、わかるはずだ。

 

答えは、一つしかないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初に飛び込んだ景色は、暗い蛍光灯と天井。

そしてその次が、独特の香り。

 

ほんの少し固まったのちに、その苦いような甘いような香りが薬品によるものだと気が付いて、自分がベッドの上にいることを理解する。

 

 

 

(……やっぱり、さっきのは……夢?)

 

 

 

いや、なんだっていい。

僕は……選んだ。自分で……選んだんだ。

 

 

ただの幸せじゃあない。

苦しみ、もがき、勝ち取った未来。

 

 

過去の苦しみは……消えはしない。

でも……過去は、未来につながっている。

 

 

 

それをもう、勝利はわかっている。

 

 

 

勝利は一つ、深呼吸をして、体の調子を確認しようとして体を起こす。

が……起こす途中で、体にロックがかかる。

 

(……なんだ? 左腕が……重い……)

 

 

まさか、まだダメージの後遺症が。

 

少し嫌な汗が流れるのを感じながら、左腕に目線を落とす。

 

 

 

 

するとそこには……女神。否、眠り姫がいた。

 

 

 

 

「……ん……すぅ……」

 

 

 

 

「……舞さん」

 

舞が勝利の腕を握り、椅子に座りながらベットに顔を伏せて眠っていた。

深い眠り。しかし、安らかとはいいがたい表情だった。

 

(……また、心配させちゃったかな)

 

少し反省しながら半身を起こし、崩れた舞の髪をそっと撫でて、整える。

するとその手に反応したのか、ゆっくりと舞が起き上がった。

 

 

 

「……ん……んん……しょう……り……?」

 

 

「……おはよう。舞さん」

 

 

 

まるで、ありふれた日常の1コマかのように軽い返事をする勝利の姿に、舞の脳が処理しきれずに、ぼーっとした時間が流れる。

 

そんな珍しい様子の舞に、勝利は見惚れながら笑う。

 

 

 

 

「……勝利……勝利!? 起きたのね!!」

 

 

 

 

「うん。ただいま。おっと」

 

そのまま飛び込んでくる舞を抱き留める勝利。

勢いのままに、口づけを交わす。

 

互いの温もりを、力を、鼓動を。

生きている。その証拠を、全身で感じ取った。

 

 

「よかった……本当に……」

 

 

「うん……舞さんも、無事でよかった。本当に、よかった……」

 

 

勝利は、そっと抱きしめなおす。

ずっと、魂の舞だけが傍にいたからなのか……感じられるすべてが、愛おしい。

 

 

 

 

「……僕ら、勝ったよね?」

 

 

 

 

ふと、我に返った勝利が、少し眉間に皺を寄せる。

 

マリクとの激闘を必死に思い返すが、ボロボロの体を気力だけで支えていたせいで、景色も、記憶も途切れ途切れだった。

 

勝ちだけは、最後だけは自分の目で、耳でとらえなければ。

その一心で、最後まで戦い。

 

そして、安心で倒れた。

そんな記憶がある。

 

 

 

 

だが……まさか、それもまた、夢だったのだろうか?

 

 

 

 

そんな不安を浮かべる勝利を、少し呆れたように笑った舞が、抱きしめなおした。

 

 

 

 

 

「大丈夫……あんたの、勝ちよ。すごい決闘だったわ」

 

 

 

 

 

 

その言葉に、安心した表情を見せる勝利だったが、すぐにむっと表情を変えた。

 

 

 

「……僕の、じゃない。僕らの勝利だよ。舞さん」

 

 

 

そこは譲れない。と言わんばかりの勝利の表情に、舞はもう一つ呆れを零した後、諦めたように笑う。

 

 

 

 

「……独りじゃあ、絶対に勝てない決闘だった。ありがとう、舞さん。僕と一緒にいてくれて。僕と一緒に、戦ってくれて」

 

 

 

 

「……うん」

 

 

 

 

そしてどちらからともなく。

また、二人の距離が、縮まっていく。

 

そして、二人の距離が0に……

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう、舞さん! 勝利君は起き……て……」

 

 

 

 

 

 

 

ならなかった。

 

すんでのところで制止した二人は、開いた扉の前で真っ赤になって固まる杏子に目線をやる。

 

 

 

 

 

 

「……し……失礼しました~」

 

 

 

 

 

ゆっくりと扉を閉め、立ち去ろうとする杏子。

しかしその後ろから、軽快で、無神経な声が響き渡る。

 

 

 

 

「おっ! 杏子! もしかして勝利が起きたのか!? おい! しょう……いってぇ! 何しやがんだ杏子!?」

 

 

 

 

杏子を押しのけ、病室に入ろうとしている、おそらく城之内の叫び声が届く。

どうやら杏子が気を使い、何かしらで城之内を追い払おうとしているらしい。

 

 

 

 

「ちょっとは気使いなさいよこの馬鹿!」

 

「あんだとぉ!? なんでこんな時にそこまで言われなきゃいけねえんだよ!?」

 

 

 

 

その喧しく響き渡る声に、勝利と舞は顔を見合わせ、笑う。

 

 

 

(そうさ……いくらでも辛いことはあった。でも……その先の未来に、これは待っていた……僕は……ここに戻ってきたかったんだ)

 

 

 

勝利は、自分がつかみ取った未来を、かみしめていた。

 

 

 

 

 

 

 

「全く! 心配かけやがってよお!」

 

「ほんとに……勝利君って意外と、無茶するわよね……」

 

「アホや。ほんまもんのアホやでこいつ」

 

「ごめんごめん」

 

改めて集まったみんなに、厳しい言葉をもらう勝利。

笑顔ながらもむくれっつらの皆に、こちらも笑いながら返す。

 

 

日常が、戻ってきた。

この皆の笑顔に、それを痛感する。

 

 

そんな中、遊戯が強く優しい笑みで、勝利と目を合わせる。

 

 

 

 

 

「……勝ったな。勝利君」

 

 

 

「……当然さ。君が、待ってるんだぜ?」

 

 

 

 

 

笑いあう二人。

しかしその目の先は、闘志が飛び交っている。

 

しかしその闘志を、額に飛んできたデコピンが途切れさせる。

 

 

「病み上がりのくせになにやる気出してんのよ。寝てなさいこのお馬鹿」

 

 

「あたあ!?」

 

衝撃で、勝利がのけ反りベッドに戻る。

涙ながらに額を撫でる勝利が面白く、またみんなの笑い声が木霊した。

 

 

 

「でも、やっぱり感謝すべきは舞さんよ? 勝利君が倒れてから、医務室まで運んできて、徹夜で勝利君の事看病してたんだから」

 

「素敵……これこそ、愛のなせる力ですね!」

 

「……やめなさい。あんたたち」

 

揶揄う目的で発言する杏子と、純粋無垢な目をキラつかせる静香の板挟みによって、照れたり何だりと忙しい舞がそっぽを向く。珍しくたじたじの様子を見て、男たちが追撃の口撃を加えようとしたところで勝利が助け舟とばかりに声を上げた。

 

 

 

「そうか……徹夜で看病だなんて……ありがとう……舞さ……」

 

 

 

その時、勝利の背中に、大量の冷や汗が流れる。

明らかに様子のおかしい勝利に、みんなの表情も疑問に変わる。

 

(て……徹夜?)

 

「勝利……? どないしたんや?」

 

 

 

 

 

「……ねえ……僕、一体……何時間寝てた?」

 

 

 

 

 

勝利の懸念を察し、苦笑いしながら目を逸らす。

舞がやれやれ、と呟いて、勝利に無情の宣告をする。

 

 

「……何時間、なんてもんじゃないわ」

 

 

そういって舞は、医務室にかかっていたカーテンを勢いよく開く。

 

窓から、勢いよく太陽光が飛び込んでくる。

 

そのあまりに心地よい日差しを浴びた勝利は、絶望の表情を作った。

 

 

 

「……い、一日……?」

 

「正確には、もう昼だから半日以上。ピクリとも動かず、それはもうよく寝てたわよ」

 

 

 

心配させたことによる嫌味が飛んでくるが、それすらも勝利の耳には届かない。

 

あれから、半日。

日付はもう跨いでいる。

 

 

それが意味することが、分からない勝利ではない。

 

 

 

 

 

「……つまり……僕が寝ている間に、終わったってこと……? 僕たちの、バトルシティ……」

 

 

 

 

 

終わった。

バトルシティが。

 

 

遊戯との、決勝の舞台が。

 

 

自分の、不戦敗で終わってしまった。

 

 

 

申し訳なさ。

悔しさ。

 

絶望が、勝利に押し寄せてくる。

 

 

 

寝ているときよりも、よっぽど体調が悪そうにしている勝利に、舞がもう一つ呆れたように笑って、勝利の背中を叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……大丈夫。終わってないわよ。あんたの……あたしたちのバトルシティはね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

勝利が、顔を上げる。

皆が、笑っていた。

 

 

 

「海馬君がね。予備日を使って、決勝の時間を引き延ばしてくれたの」

 

「さすがに、『絶対に今日までしか予定は伸ばせません!』ってサングラスの審判のおっさんが半泣きになっとったから、お前が今日の日暮れまで寝とったらお流れやったみたいやけどな。ギリギリセーフや」

 

「『俺が主催した大会の決勝が、こんなつまらん結末など認めん』だとよ。素直に、勝利と遊戯の決勝戦が見たいっていえばいいのによ」

 

「ま。今回ばかりは素直に感謝しようぜ」

 

 

 

皆の言い分を一つ一つ聞き、丸くなっていた勝利の目に、涙が滲む。

その様子にみんなが微笑む最中、遊戯が一歩、前に出た。

 

 

 

 

 

「……戦えるぜ。勝利君。俺と君の……本当の決着。俺たちが目指した、最高の決勝戦だ」

 

 

 

 

 

そういって遊戯が、拳を突き出す。

 

その遊戯の言葉に、とうとう一筋の涙を止められずに零した後、勝利は笑い、遊戯に拳を合わせた。

 

 

 

 

 

「……負けないよ。遊戯君……勝つのは、僕だ!」

 

 

 

 

 

それを見て、皆も目に涙が滲んだ。

 

舞は表情を見られまいと、すっと廊下に出る。

その肩は、震えていた。

 

 

(……よかった……よかったわね。勝利)

 

 

 

勝利は、遊戯はたどり着いた。

 

求む、最高の決闘の舞台に。

 

 

 

 

 

 

 

 

舞に、皆にとって、それが何よりもうれしく、そして誇らしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……失礼するよ」

 

そんな和やかの空気の中、部屋に響き渡る声に、みんなの顔が少しだけ引き締まる。

その声の主、マリクは部屋の中を伺いながら恐々とした様子で入ってくる。

 

「……マリク」

 

「勝利。起きたのですね」

 

「……黒羽勝利」

 

「イシズ。それに……リシドって言ったっけ?」

 

その3人が入ってきたことで、空気が切り替わるのを感じる。

すでに、マリクから闇の人格は消え去っている。

あの決闘を見届けた遊戯たちにもそれはわかっているが、それでも一度芽生えた警戒心は、簡単に拭い去れるものではなかった。

 

しかし、肝心の勝利はというと、不敵な笑みを浮かべながらマリクを見る。

その表情に、恨みつらみは見られなかった。

 

「……闇を、祓ったみたいだね」

 

「……わかるかい?」

 

「わかるよ。そういうのには、敏感なんだ」

 

マリクの胸を、勝利の拳がつく。

軽々としたその行動が、マリクを警戒していないという証明であり、その一つ一つに、マリクの表情が軽くなる。

その様子を見て誰かが笑ったのを最後に、張り詰めた空気が解けていった。

 

「……勝利。改めて、謝罪させてくれ。僕は君に、たくさんの卑劣な振る舞いをした」

 

「いらないよ。その借りは、僕の渾身の一発で返してやった。だろ? それより、ちゃんと舞さんたちに謝ったのか?」

 

拳を握って見せながら、そういう勝利に戸惑うマリク。

その後ろでやれやれという様子の舞たちが、声を上げる。

 

 

 

「ちゃんと、謝罪はもらったわよ」

 

「ああ。俺たちも別に、今のマリクに恨みはない」

 

「全部許せたわけじゃねーが……今のおめーをぶん殴っても、しょうがねーし。アンティで取られた中華鍋のカードも、返してもらったしな」

 

 

 

 

「なら、この話は終わりでいい。お前に恨み言をいうやつは、もういない。頭を下げる人がいないんだから、これ以上の謝罪は不要さ」

 

「……みんな。ありがとう」

 

「……私からも、礼を言います。皆さん。ありがとうございます」

 

 

マリクとイシズが、頭を下げる。

いいってことよ。という、城之内の言葉が、全員の総意だった。

 

 

 

 

 

 

「それで? それが本題ってわけじゃないだろ?」

 

その勝利の言葉に、マリクとリシドが揃い、目を見開く。

イシズは無表情のままだが、勝利の歓声にただただ感嘆の声を漏らした。

 

「……もちろん、謝罪も我々の本心ですが……その直観力は、やはり並外れていますね」

 

「謝罪だったら、一行様勢ぞろいで来る必要はないでしょ。特にリシドさんに謝られる記憶はないし。君に勝った僕へのお話かい?」

 

「……さすがに、鋭いね。敵わないわけだよ」

 

自嘲気味に笑うマリクをリシドとイシズがほほえましく笑う。

 

 

 

そして、舞が何か察したように手を叩いた。

 

「さっ。あたしたちは、いったん出るわよ。勝利が起きたって、海馬たちに連絡しにいきましょう」

 

「ええ。そうね」

 

「ああ。勝利君。俺たちは、先に行ってるぜ。決闘の準備を整えて、また上に上がってきな」

 

舞の言葉に合わせるように、杏子と遊戯が歩き出し、そのまま城之内や本田たちを連れて外へと向かっていく。

その様子を見て勝利はクスリと笑い、少し声を上げた。

 

「海馬君たちに、伝えといてよ。デッキをまとめたら、すぐ向かうってさ」

 

「オッケー」

 

 

 

 

 

部屋を後にした足音を聞き、マリクが息をついた。

 

「……気を使われせてしまったかな」

 

「いい人でしょ? 僕の彼女」

 

その言葉に、クスクスと笑いが響く。

 

 

 

「で? いったい、何の用なの?」

 

「察しはついているだろう。僕ら、墓守の一族の使命についてだ」

 

(……まあ、そうだろうな)

 

 

勝利は、嫌な顔とまでは言わないものの、多少の負の想いを顔に表す。

せっかくの、遊戯との最高の舞台。

何物にも邪魔されず、他の介在もない。

ただただ、純粋な決闘者としての、最高のぶつかり合い。

 

それを望む勝利にとって、余計な要素になりうるものは一切入れたくない。

そういった想いからの、致し方のない感情だった。

 

 

「イシズにも言ってるけどね。僕はただ、遊戯君と戦いたいだけだ。君たちの墓守の使命は確かに、ついでに背負ってあげるとは言ったけど、イシズのタウクだけでもう重量オーバーだ。これ以上は勘弁願いたいな」

 

 

 

 

 

「ああ。わかっている。だから、僕の持つ千年アイテムは、すでに遊戯に。名もなき王に託してある」

 

 

 

 

 

マリクのその発言に、今度は勝利が目を丸くして驚く。

 

「……自分から言っておいてなんだけど、いいの? それを守ることこそが、墓守の一族の使命だったんじゃ……」

 

「……いいんだ。遊戯と向かいあうに至らなかった時点で、僕が王の資格を試す資格はすでになくなった。故に、僕の……イシュタール家の使命は、もう終わっている」

 

「私たち3人は、イシュタール家として、新たな道を歩み始めます」

 

イシズが言い切ったその言葉を胸に、3人は真っすぐ前を向き、勝利に相対して揃い立つ。

その瞳は、光を宿し、未来を見据えていた。

 

「……そうか」

 

彼らが、前を向いて歩く道を見つけた。

かつての自分と、同じように。

なればもう、勝利から口を出すようなことはない。

勝利は、素直に祝福した。

 

 

 

 

 

「……なら、君たちは僕にいったい何を……」

 

 

 

 

 

「……これだ」

 

そういって、マリクは1枚のカードを差し出す。

 

勝利は話の流れで。

また……差し出されるそのカードから、放たれるオーラを感じて。

 

それが何なのかを、察していた。

 

勝利は無言で、それを受け取る。

 

 

 

 

 

 

The Winged Dragon of Ra

 

ATTACK  ????

DEFFENCE ????

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

「……"ラーの翼神竜”……」

 

「君は、僕との決闘で勝った。ならば君には、そのカードを受け取る権利がある」

 

マリクの言い分は道理だ。

しかし、ことこの場でこのカードを差し出すということは、その道理以上の別の意味があるということを、勝利はすでに理解していた。

 

視線を以て、続けろ。と促す勝利に従い、マリクが話す。

 

 

 

 

 

「僕ら墓守の一族からの、黒羽勝利への最後の願いだ。そのカードを使い、全力を以て、遊戯と戦ってほしい」

 

 

 

 

 

マリクに合わせるように、頭を下げる3人。

勝利はその様子と、手元の神のカードを交互に見て、ひとまず納得していた。

 

 

(……全力で、遊戯君と戦う。それこそが、僕の1番の目的。なるほど。これならば、僕の想いと、彼らの願いが一致する。彼らの使命を、託すことができる)

 

 

遊戯の、名もなき王としての記憶を取り戻す、最後の試練。

その役割を、勝利に担えというわけだ。

 

 

「……確かに、僕はアンティで、君のカードを受け取る権利がある。ラーの強大な力を知っているからこそ、全力で戦う決勝の舞台に神を連れていくことも当然。僕の意志を組んだうえで、託すことができる最大限をとったってことか……さすがは組織の長を担っていたものだ。交渉というものをわかっている」

 

「……」

 

 

 

「……でも、1点。とても大きな問題点がある」

 

 

 

 

勝利は、二本の指でもらったカードを反転させる。

ラーのテキストが書かれた表面が、マリクたちに向く。

 

 

 

「……僕にはこのテキスト、古代神官文字(ヒエラティック・テキスト)は読めない。ラーは、僕には傅いてはくれないよ」

 

 

 

そう。全力で戦う舞台に、神を連れて行くという道理。

それが通るのは、神が使えるという前提の話。

 

テキストが読めなければ、ラーは球体系から変化することはなく沈黙する。

 

それでは、戦えない。

 

 

 

「ラーを最後の舞台に連れて行けというのであれば、持っていくくらいはできる。だけど……ラーの力を以て、全力で遊戯君と戦うことはできない」

 

 

 

はっきりとそう告げ、ラーのカードを差し出す勝利。

これは、自分が持っているべきではない。暗に、そういっていた。

 

 

しかしマリクの、決意の表情は変わらなかった。

 

 

 

 

「いや……君なら、できる」

 

 

 

 

確信めいた口調で、そう告げる。

その言葉には、勝利だけでなく、イシズも、リシドすらも驚愕に表情を崩していた。

 

 

「……マリク?」

 

「マリク様……なにを」

 

「……文字が読めなくても、従えられるって話か? そんなはずは……」

 

 

 

 

 

「所詮、文字は文字だ。神を従えることの本質は、言葉と資格であり、決められた文字列ではない」

 

 

 

 

 

「……どういう意味さ?」

 

未だ疑問が解消されない勝利は、何か違う先を見ているマリクの様子を伺う。

 

 

 

 

 

 

 

「君は、奴との決闘の時に、確かに言っていた。『ラーと、話した』と」

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!? ラーと……言葉を!?」

 

「……」

 

その話を初めて聞くリシドが、大きく狼狽える。

イシズも、聞いていたものの、改めて信じられないといった表情を浮かべる。

 

 

「……会話じゃあない。なんとなく、声を感じただけだ」

 

「十分だ。君には、神と心を通わせる力がある」

 

 

 

そういって、勝利が差し戻したラーのカードを、もう一度勝利に握らせる。

勝利はもう一度、ラーのカードを見る。

やはり、かかれている文字は読めない。

ブリザードたちのように、話し合い、理解し合えるわけでもない。

 

 

 

しかし……何かがある。

 

勝利も、マリクが感じている言葉にできないそれを、感じとっていた。

 

 

 

 

 

(……ラーは、何か伝えようとしているのか? 声が聞こえていたのは、偶然じゃあないってことなのか?)

 

 

 

 

 

そしてその勝利を見て、マリクは小さく、やはり、と呟く。

自分の考えを確かめるように、頷いて見せた。

 

 

 

 

 

「君なら……神を従えられる……いや、神と、共に戦うことができる。僕は、そう思う」

 

 

 

 

 

 

自信があるような、ないような言葉の締めくくりに、勝利は呆れたように笑った。

 

「……根拠が弱いね」

 

「否定はしない。ただの、勘みたいなものだ。でも、信じている」

 

「やれやれ……」

 

 

 

そうして勝利は、ラーを受け取り、ベッドから立ち上がる。

足を、腕を軽く動かし、体に支障がないことを確認し、かけていた上着を羽織る。

 

そして、ラーをタウクが収まる胸ポケットに入れた。

 

 

 

 

 

「……ちょっとだけ、一緒に戦ってみたいと思っていた……声を聴いた、あの時から」

 

 

 

「……勝利」

 

 

 

「それとマリク。もう一つ、朗報だよ。僕は、勘を信じるタイプだ」

 

 

 

 

 

 

勝利はそう言って胸ポケットを軽くたたく。

そして、3人に向き直った。

 

 

「最終確認だ。タウクと、神。この2つを、遊戯君の元に連れて行く。これこそが、僕に託された、墓守の使命」

 

 

「ああ」

 

「はい」

 

「その通りです」

 

 

「でも、遊戯君は僕の友達だ。僕は別に、遊戯君の前に壁として立ち塞がりたいわけじゃあない。全力で、決闘をしたいだけだ」

 

 

「わかっている」

 

 

 

 

 

 

「だからこそ……遊戯君が、『王に値する決闘者』であると僕が感じたその時は、勝とうが負けようが、タウクとラーは渡すつもりだ」

 

 

 

 

 

 

勝とうが、負けようが。

そこを、勝利は強く強調した。

 

 

そこが彼らの願いと、相違であることは想像に難くないからこその配慮だった

 

しかし、そんなことはどこ吹く風と、マリクたちは即答する。

 

 

 

「ああ」

 

「それで、問題ありません」

 

「あなたの御心のままに」

 

 

 

 

 

その答えを聞いて、勝利は驚きつつも、深い深呼吸で落ち着く。

そして……口を、大きく吊り上げ笑った。

 

 

 

「……クックック。オッケー。そこまで確認できたなら、問題ない」

 

 

 

 

勝ってはいけない。

そうじゃないなら、何も問題はない。

 

 

 

 

 

 

 

全力で、戦える。

 

遊戯と。

 

それだけで胸が焦げ付きそうなほどに、熱く、勢いよく燃えていた。

 

 

 

「なら……勝ってみせるよ。"ラー"と、そして、友達と一緒に」

 

 

 

最強の決闘者。

名もなき王。

 

武藤遊戯に。

 

 

 

 

想いを胸に。

熱を心に。

 

 

 

勝利は、歩き出した。

 

 




久しぶりの日常回で、ちょっと楽しくなってしまった。

次回、バトルシティ編ラストバトル
勝利vs遊戯、お楽しみに。

みなさんのおかげで、乃亜編の大筋が固まってきました。
たくさんのアイデア、ありがとうございます。
バトルシティが続いてる間はまだ募集しているので、よければよろしくお願いします。
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