果たして、どうなるのか。
「……ふう」
部屋に戻った勝利は、一通りの作業を終えて一息つく。
目の前には、散乱するカードと、それらを組み合わせて作った一組のデッキ。
そしてその周りを楽しそうに飛び回る、BFの皆々たち。
「……楽しそうだね。そりゃそうか。君たちも……ずっと楽しみにしていたんだもんね」
『ぴぃ!』
ブリザードが声を上げたと同時に、皆が一斉に騒ぎ出す。
まるで、踊る勝利の心を体現するかのように、皆は楽し気に宙を舞った。
「……そうだね。ずっと、待っていたんだ」
決勝の舞台で、遊戯と戦う。
何物にも遮られず、因縁も、歴史も、理由もありはしない。
戦いたいから戦う。
純粋な決闘者としての力のぶつかり合い。
誇りを賭けた、死力のバトル。
それは、勝利がずっと待ち望んでいたもの。待ち続けていたもの。
あの日、遊戯に出会ったその時から。
(僕が変わったのは……真黒さんのおかげで、舞さんのおかげで。城之内君、本田君、杏子ちゃん、竜崎君、みんなのおかげで……そして、遊戯君。君のおかげだ)
感謝がある。
友愛がある。
返しきれない恩がある。
でもそれは……この部屋に置いていく。
勝利は立ち上がり、指を鳴らす。
それを合図に、BFたちが舞いをやめ、おとなしくデッキに戻っていく。
見届けた勝利がデッキを腰のホルダーにしまい、上着を羽織る。
胸のタウクに少しだけ触れた後、深く深く息を吸って、静かに吐き出す。
不要なものを、すべて体から抜き去るように。
(……よし。行こう)
部屋のドアを開ける。
そこには、マリクたちが立っていた。
「準備は整ったかい?」
「万全にね」
「それはよかった……僕らは、君を応援させてもらうよ。別にこれは、墓守の意志とかは関係ない」
「好きにすればいいさ。しがらみも、因縁もない。望むがままにすればいい。これは、そういう決闘なんだから」
勝利とマリクが、軽く笑いあう。
昨日まででは、考えられないことだった。
その様子を見てイシズは微笑み、リシドは敬意を持って勝利に軽く頭を下げる。
そして廊下を歩きだす勝利の後を、マリクたちが追う。
飛行船を降りて、アルカトラズを目指す。
その途中で、竜崎が瓦礫により掛かりながら、そこに立つ。
勝利は驚く様子もなく、竜崎に話しかける。
「お待たせ」
「デッキの調整は終わったようやな」
「見てたみたいに言うね。うん、終わったよ」
「見込みはどないや?」
「さあ。僕の見立てじゃ、五分五分かな」
「ええやないか。十分や」
「くっくっく。そうだね」
どちらからともなく拳を掲げ、腕を交差させ鈍い音を鳴らす。
勝て。
その意志が、勝利に伝わる。
竜崎が、勝利の左につき、並んで歩き出す。
そして、アルカトラズのもとまで戻る。
期待に、緊張と恐怖と好奇心が入り混じっていた昨日のはじめとはまた違う想いで、勝利はそこに立つ。
そして入り口に、舞が立っていた。
「舞さん」
「……行けるのね?」
「当然」
安心させるために、肩を回しながら即答する。
舞は諦めたように息を吐き、わかったわかった。と声を出す。
「遊戯たちは、もう先に行ってるわ。上で、あんたを待ってる」
「うん。じゃ、僕たちも行こうか」
逸る心と、早くなりそうな足並みを必死に堪えながら、勝利は舞が指さすエレベーターに向かう。
舞が勝利の右に寄り添いながら、並んで歩き出す。
勝利の手を握る。
勝利が、その舞の手を、そっと握り返す。
勝利の手は、温かく、穏やかだった。
「世界で一番、楽しい決闘をしてくるよ。『あんたは、楽しんでるときが一番強い』。だよね?」
「っ!」
それは、王国で舞が勝利に言った言葉。
言おうとしたことを言われ、苦笑いする舞。
「ったく……じゃああたしが言うことは一つだけよ。勝ちな! 黒羽勝利!」
「ああ!!」
皆でエレベーターに乗り込み、最上階を目指す。
階が上がり空気が張り詰めるとともに、心が擦り上がり高まっていった。
エレベーターのドアが開くと同時、声が響き渡る。
「おっ! 来た来た! ようやく勝利が来たぜ!」
「勝利君!」
「おう! 勝利! 遊戯はもう待ってるぜ!」
皆の声を聴きながら、勝利がエレベーターから前に出る。
舞台を見ると確かに、遊戯の後ろ姿が見えた。
(……遊戯君)
「……」
遊戯は自分の存在に気付いているだろうが、振り返らずに腕を組み、前を見据えている。
勝利もその意図を察し、笑って歩き出した。
(……向き合うのは、決闘者としてってことね。了解)
舞台の下を回るように歩き、向い側の舞台を目指していると、皆が集まる中央付近に海馬とモクバが待っていた。
「よお、勝利! 起きたんだな!」
「モクバ君。うん、この通り。心配かけたね」
「ふん。貴様のしぶとさも凡骨並みだな」
「んだと!? 海馬!」
「はいはい。今はあんたの出番じゃないから。黙ってなさい、城之内」
怒る城之内が杏子たちに取り押さえられるのを尻目に笑いながら、海馬に向かい合う。
「迷惑かけてごめんね、海馬君。予定調整、本当にありがとう」
「勘違いするな。貴様のためではない。決闘王の称号は、不戦敗などというくだらん結末で与えられていいものではないというだけの話だ」
「はは、そうだね。それでも、ありがとう。磯野さんも、ご迷惑おかけしました」
「っ! いえ、私は瀬人様に従うだけですので……」
海馬に感謝を述べた後、顔を上げてそのまま磯野にも声をかける。
磯野は笑いながら勝利に返事を返したが、そのサングラスの下の隈と、溢れる肉体の疲労感を勝利は見逃してはいない。
(……大方、海馬君の日程調整のために奔走してくださってたんだろうな。申し訳ない……)
心でもう一度頭を下げて、勝利は海馬に向き直った。
「……ちなみにだけど。海馬君は、やっぱり遊戯君に勝ってもらいたいの?」
勝利の問いに、ほんの少々黙り込む海馬。
しかしすぐに、ふんと鼻を鳴らし堂々とした様子で答える。
「くだらん。どちらが勝っても、変わりなどない。いずれ俺がそいつを倒し、頂点に立つというだけの話だ」
唯我独尊の海馬らしい回答。
しかし、その回答にもなっていないような答えを聞いて、勝利は笑って歩き出した。
(どちらが勝っても……ね。つまり、海馬君も図りかねてる。僕と、遊戯君の実力を)
それが、うれしかった。
誰よりも遊戯を目指し、遊戯と対等に戦ってきた、誰よりも遊戯の実力を知る海馬が。
自分と遊戯を対等に見てくれている。
それこそが、何よりも勝利の背中を押した。
勝利は自信をもって、舞台に上がるためのリフトに乗る。
ボタンを押し、上がった正面。そこに、遊戯がいた。
「……待ってたぜ。勝利君」
「うん。待たせたね。遊戯君」
「フフフ……」
「クックック」
鏡合わせに、笑いあう二人。
まだ始まる前だというのに、二人は心より笑っていた。
「なんか……二人とも楽しそう!」
「あったり前よ! 遊戯はこの時をずっと楽しみにしてたんだ! あの……王国の決闘から!」
彼らは、思い出す。
王国での勝利と、遊戯の戦い。
ペガサスを倒すという目標の重さ。
そして……それを前にした、敗北の恐怖。
それに遊戯は、打ちのめされていた。
その結果、勝利の前で無様を晒し、あっという間に追い詰められた。
遊戯は、思っていた。
あの時に、舞に発破をかけてもらえなければ。
あの時に、勝利君が何も言わずに攻め立てていたら。
自分のことなど、簡単に倒すことができたのではないだろうかと。
そんなことを言うたびに、勝利は言った。
『あれは、最高の決闘だった』と。
満面の笑みでそう答えた。
だから遊戯も、それを何度も口にすることはなかった。
だからこそ、遊戯の中で、何度も遊戯をふるい立たせた想い。
もう一度。
最高の舞台で、勝利との最高の決闘を。
その時は、悪も、善も。好きも嫌いも。有利も不利も関係なく。
あの日に負けない。否、あの日以上の。
最高の決闘を。
「頑張って! 遊戯!」
「負けんじゃないわよ! 勝利!」
「全力で行け! 遊戯!」
「気張れや! 勝利!」
皆の歓声が場に響き渡り、見えない興奮が、二人のボルテージが高まっていくのを感じる。
二人の笑みが、深くなっていく。
「……不思議だね。この場所を、ずっと願ってた。目指してた。遊戯君とここで向かい合うことができたならば、言いたいこと、話したいことがたくさんあった。ここまで、辛いことも、苦しいこともたくさんあったから。でも……もう全部、どうでもよくなってる」
「ああ。俺も同じ気持ちだぜ。俺が知らない俺自身の記憶。俺たちの過去と未来。知りたいことのため、成し遂げたいもののために戦ってきたはずなのに、今それらすべてがどうでもよくなっている」
「遊戯君に、勝ちたい」
「勝利君を、倒したい」
「「今は……それだけだ(から)」」
二人の掛け声に反応したかのように、ディスクが開く。
左腕の盾から、カードの剣を抜き、二人は……戦士となった。
「もう……言葉はいらない」
「ああ! 俺たちはここから、全てを語り合う! 誇り高き、決闘者として!」
「それでは! バトルシティ決勝戦。黒羽勝利vs武藤遊戯! 決闘開始ー!!」
「行くよ! 遊戯君!」
「来い! 勝利君!」
勝利 LP 4000
「デュエル!」
遊戯 LP 4000
「僕の先行! カードドロー! 僕は手札から、"黒羽の宝札”を発動!」
黒羽の宝札
魔法カード
BFモンスターを手札から除外し、カードを2枚ドローする
このターン特殊召喚できない
「僕はこれで、"BF-極夜のダマスカス"を除外し、2枚ドロー! そして、"BF-蒼炎のシュラ"を召喚!」
BF-蒼炎のシュラ
闇属性 鳥獣族 星4
攻撃力 1800
守備力 1200
相手モンスターを破壊したとき、デッキからさらなるBFを、効果無効状態で呼び寄せる
「さらにカードを1枚セットし、ターンエンド。さあ、かかってこい! 遊戯君!」
「当然! 遠慮なくいかせてもらうぜ! 俺のターン、ドロー! まずは、"魔導戦士ブレイカー"を召喚!」
魔導戦士ブレイカー
闇属性 魔法使い族 星4
攻撃力 1600
守備力 1000
魔力カウンターを1つ持つ
魔力カウンター1つにつき、300ポイント攻撃力をあげる
魔力カウンターを消費し、魔法、罠を1枚破壊する
「"魔導戦士ブレイカー"の効果! 召喚成功時に魔力カウンターを1つ乗せ、そのカウンター1つにつき攻撃力300アップ!」
魔導戦士ブレイカー
攻 1600 + 300 = 1900
勝利 LP 4000 手札4枚
BF-蒼炎のシュラ
攻 1800
伏せカード1枚
遊戯 LP 4000 手札5枚
魔導戦士ブレイカー
攻 1900(魔力カウンター×1)
「……最初の山場やな」
「ええ。遊戯の選択次第じゃ、このターンの内に遊戯は大きく有利を取られることになるわ」
「……舞さん、竜崎さん。どういうこと?」
状況を見て呟く舞と竜崎に、静香が尋ねる。
「まず、勝利のシュラは戦闘破壊によって、モンスターを追加展開する効果があるわ。BFの展開力を考えれば、放っておけるモンスターじゃないの」
「……? でも、遊戯さんのモンスターの方が攻撃力が高いから、シュラの効果が関係ないんじゃ……」
「そうはいかへんのが勝利の伏せカードや」
竜崎が勝利の場を指さす。
たった1枚の伏せカード。
それがこの場を支配しているという事実に、勝利の手堅さを感じる。
「シュラの効果は、相手のターンでも発動しよる。つまり、あのカードが攻撃力を上げる『コンバット・トリック』やったら大惨事や。モンスターを破壊され、シュラの効果も発動する。下手すりゃ次のターンに負ける可能性すら出てくんで」
「おいおい、忘れたのかよ。お前ら」
深刻に話す竜崎たちの話題を断ち切るように、調子のいい様子の城之内が躍り出る。
「遊戯の"魔導戦士ブレイカー"には、相手のセットカードを破壊する効果があるんだぜ? つまり、勝利のセットカードを破壊しちまえば、勝利のセットカードは怖くねえってことよ!」
「黙っていろ。凡骨決闘者」
城之内の笑顔の発言を咎めるように、海馬がきっぱりと言い放つ。
「なっ!? なんだと、海馬!」
「……城之内。よう考えや」
「伏せカード破壊のために魔力カウンターを使ったら、ブレイカーの攻撃力は1600に下がる。そうなったら、シュラの攻撃力を下回る。結局シュラのいい的になるわ」
「あっ……」
急激に頭が冷える城之内。
その様子を見て、杏子と本田が情けなく顔を伏せる。
(でも、このままでは勝利の伏せカードが怖いのもまた事実。どのみち遊戯は、苦渋の決断を迫られる)
(……1ターン目から、何ちゅう心理戦を仕掛けるんや……これだけでわかる。あいつの、この決闘にかける想いっちゅうやつが……)
「……俺は、"魔導戦士ブレイカー"の効果発動! 魔力カウンターを取り除き、そのセットカードを破壊する!」
魔導戦士ブレイカー
攻 1900 ー 300 = 1600
「遊戯がいった!」
「さあ、どうなる……」
「……セットカードは、"時の機械-タイム・マシーン"。破壊されるよ」
時の機械-タイム・マシーン
罠カード
モンスターが攻撃を受けた時、1ターン過去からそのモンスターを呼び戻すことができる
「……タイムマシーンか」
「いいカードやけど……強化系『コンバット・トリック』じゃあない……ここは、勝利の一歩有利か?」
まだ決闘は長い。
最初の一手を、勝利が透かし、遊戯が一本取られただけ。
このターンを、皆がそう考えた。
しかし、たかが最初の1ターンの、1行動。
そんな妥協を、遊戯は許さない。
「……まずはやられたが、このままじゃあ終わらないぜ! 俺は手札から、"ワンショット・ワンド"を発動!」
ワンショット・ワンド
装備魔法
魔法使いのみ装備可能
攻撃力を800アップ
攻撃後、破壊し1ドロー
「このカードによって、"魔導戦士ブレイカー"の攻撃力を800アップする!」
魔導戦士ブレイカー
攻 1600 ー 800 = 2400
「おお! またブレイカーの攻撃力が、シュラを超えやがった!」
「いいぞ! 遊戯!」
「ふん……セットカードを破壊した後にも、モンスターを破壊する算段をつけていたか」
感心の声が上がり、一気に攻めるチャンスを得た遊戯。
しかし……遊戯は勝利の様子を伺い、今だ気を緩めない。
(……勝利君が手札から除外したダマスカスには、攻撃力アップの効果があったはず……)
BF-極夜のダマスカス
闇属性 鳥獣族 星2
攻撃力 1300
守備力 700
使用後、このカードは『BF』を強化する。攻撃力500アップ!
(シュラと相性がいいはずのモンスター。それでも、手札から除外したということは……)
「どうした? 遊戯君。攻めて来ないのかい?」
煽るような言葉をぶつける勝利。その表情から、余裕は消えていない。
そんな勝利の様子を見て、遊戯も笑う。
「ああ……今攻めたところで、手札のカルートに返り討ちに合うだけ。だろ?」
「っ!?」
BFー月影のカルート
闇属性 鳥獣族 星3
攻撃力 1400
守備力 1000
手札から墓地に送ることで、そのターン、BFの攻撃力に自身の攻撃力を加算する
その言葉に、舞たちがはっとする。
「そうか……勝利は、伏せカードと手札のモンスターの、2つの罠を張っていたってことね」
「確かに……伏せカードは破壊される恐れはあるやろけど、手札のカードはめったに破壊されへん。フィールドのカードに注目させといて、手札のカードで不意を打つっちゅう計画やったんか」
「すげぇ……それを、見抜いちまったってことかよ!?」
「さすが遊戯さん!」
「でもよ……だからって、どうする気だ?」
本田の疑問の声に、心で同意するのは海馬だった。
(そう……問題は、ここから。確かに勝利の戦略を見抜いたのは見事だが、肝心要のカードが手札にある以上、遊戯は手出しできない……)
見抜いても、攻められなければ意味はない。
せいぜい、このターンに返り討ちに合わぬよう、機会を見送るのが精いっぱいといったところか。
そう思い、遊戯を見ると……不敵な笑みを浮かべていた。
「……何勘違いしてるんだ? まだ俺のターンは終了してないぜ! 俺は、"手札抹殺"を発動!」
「っ! なるほど……」
手札抹殺
魔法カード
お互いの手札をすべて捨て、同じ枚数分カードをドローする。
「お互いに手札をすべて捨て、同じ枚数になるようにドローする。俺は、3枚!」
「……僕は、4枚」
「おおっ! これなら!」
「勝利の手札のモンスターを処理して、攻めれるぜ!」
「……さすが、遊戯ね。難しい手札からの奇襲を、こんなに完璧に……」
「これで勝利に、改めてモンスターを引かれたりせんかったら……」
「さあ、バトルだ! "魔導戦士ブレイカー"で、"BF-蒼炎のシュラ"に攻撃! 『マナ・ブレイド』!」
「……」
魔導戦士ブレイカー
攻 2400
BF-蒼炎のシュラ
攻 1800
勝利 LP 4000 ー 600 = 3400
「よっしゃあ! 撃破だぜ!」
「すっげぇぜ! 遊戯!」
「さらに、"ワンショット・ワンド”の効果発動! このカードを破壊することで、デッキからカードを1枚ドロー!」
魔導戦士ブレイカー
攻 2400 ー 800 = 1600
「……勝利のモンスターと伏せカードは破壊されて、ダメージを受けて、遊戯は手札を減らさずに……」
「完璧に、やられたな。さすがにこのターンは、遊戯の完全勝利や」
その言葉通りに、遊戯は自信をもって宣言する。
「カードを1枚セットし、ターンエンド。さあ、君の全力を見せてくれ、勝利君!」
勝利 LP 3600 手札4枚
モンスターなし
伏せカードなし
遊戯 LP 4000 手札3枚
魔導戦士ブレイカー
攻 1600
伏せカード1枚
「……僕のターン、ドロー」
勝利は静かにドローして、手札を見る。
そして、遊戯を見る勝利の表情が、柔らかく変わる。
「……本気だね。遊戯君」
「当然さ。君が相手なんだ。悪いが、俺は1ターンたりとも気を抜いてやる気はないぜ」
「……クックック。手厳しいね。僕は、初ターンに気を抜いてたって?」
「さあな。だが、今のターンに有利をとったのは俺の方だ。なら、次は君の一手を見せてもらいたいな」
遊戯の言葉を聞いた勝利が、もう一つ、クックと声を漏らした後、息を吐いた。
そして、顔を上げた勝利の瞳は、一層鋭く遊戯をとらえていた。
「……オーケー。なら、見せてあげるよ。今の僕の、全力を。だから……」
まだ、終わらないでね?
勝利のその言葉に、場の空気が切り替わる。
遊戯の頬に、冷や汗が垂れる。
(……なんだ、この圧……この力……)
「僕は、"BF-極北のブリザード"を召喚!」
『ぴぃ!』
BFー極北のブリザード
闇属性 鳥獣族 星2 (チューナー)
攻撃力 1300
守備力 0
このカードは特殊召喚できない
召喚時に、墓地から仲間の星4以下のBFを守備で蘇生させる
勢いよく飛び出したブリザードが勝利の左腕に止まり、嬉しそうに勝利のディスクをノックする。
すると墓地より、カルートが飛び出してくる。
「ブリザードの効果発動! 墓地に存在するBFモンスターを守備表示で特殊召喚する! 僕は"手札抹殺"で墓地に葬られた、カルートを特殊召喚!」
勝利 LP 3600 手札4枚
BFー極北のブリザード
攻 1300
BFー月影のカルート
守 1000
伏せカードなし
遊戯 LP 4000 手札3枚
魔導戦士ブレイカー
攻 1600
伏せカード1枚
「やっぱ、カルートはおったようやな……」
「遊戯の読み通りね」
(でも、カルートはフィールドに出てきても効果は発動できない……勝利、一体どうするつもりなの?)
「さあ、勝利君。今のままじゃあ、シンクロもできない。このままじゃあ、俺は攻められないぜ!」
(あの感じ……おそらく、伏せカードで返り討ちにできると、思っているんだろうけど……)
その遊戯を宣言を聞いてしかし、勝利もまた余裕が崩れること無く、笑みを向けた。
「まあ、待ちなって……せっかく遊戯君がモンスターを残して、突破してくれたんだ。そのモンスターも使って、君が望む、僕の全力を見せてあげるよ」
「……何? それは、どういう……」
「こういうことさ。カルートが特殊召喚されたこの瞬間! 僕は手札から、魔法カードを発動する! 行くぜ、"地獄の暴走召喚"!」
「なっ!!? そのカードは!!?」
「……フン」
地獄の暴走召喚
速攻魔法
相手フィールドにモンスターが存在し、攻撃力1500以下のモンスター1体が特殊召喚された時に発動可能
その特殊召喚したモンスターを可能な限り攻撃表示で特殊召喚する
相手はフィールドのモンスター1体を可能な限り特殊召喚する
「あれって!!?」
「……竜崎。あんたのアンティね」
「あいつのデッキのモンスターは1枚ずつの採用が多いから使う機会こおへんと思とったが……成程な。このために、デッキ調整しよったか」
「僕はこの効果で、デッキに存在するすべてのカルートを特殊召喚するよ。さあ遊戯君。君もブレイカーを召喚するといい」
「くっ……俺のデッキには、ブレイカーは存在しない……」
「あら、残念。じゃあ展開されるのは、僕のモンスターだけだね」
その宣言を合図に、嬉しそうに場に飛び出てきたカルートが構え、遊戯を睨む。
勝利 LP 3600 手札3枚
BFー極北のブリザード
攻 1300
BFー月影のカルート
守 1000
BFー月影のカルート
攻 1400
BFー月影のカルート
攻 1400
伏せカードなし
遊戯 LP 4000 手札3枚
魔導戦士ブレイカー
攻 1600
伏せカード1枚
「うげぇ……勝利のモンスターが一気に4体に……」
「まさか……さっきのターンに遊戯がカルートを処理したことも、勝利は想定済みだったというのか……」
「っ? マリク、どういうこと?」
マリクが驚愕の表情をして、勝利を見ているのを、不思議そうに杏子たちがのぞき込む。
「……カルートが3枚に追加されていた。ということは、勝利はあの魔法カードでカルートを展開することを、もともと予定していたということだ」
「……確かに、勝利は対応力を上げる意味でも、いろんなカードを活躍させることにも重きを置いてる。理由もなく何枚もカードを入れることは、あまりしないわね」
「だが……カルートは、戦闘補助のカードだ。普通、カルートが墓地に行っているということは、勝利のモンスターが戦闘したときにカルートを発動した状況を想定するはず……」
「……? いや、そりゃそうだろうけど……」
結論が見えないマリクの言葉に、城之内たちはまだ首を傾げる。
しかし、勝利に対する理解度はさすがといったところか。
最初にそれを感づいた舞が、汗を感じながら呟く。
「……そうか。カルートの効果は戦闘補助だから、本来カルートが発動した状況っていうのは、相手フィールドにモンスターが残っていない状況……」
「そう。そして"地獄の暴走召喚"は、相手フィールドにモンスターが存在しなければ、成立しないカード」
「……つまり?」
「……勝利は、遊戯が、カルートを発動させずに突破することさえも想定済みだったということだ」
痺れを切らしたのか。
はたまた、気づいてしまったそれを言葉にしないと、気持ちが悪かったのか。
海馬の発言と、それを聞いた誰かの、ひゅっ。という音が、場の空気を歪める。
「……前のターンの俺の動きは、想定済みってことか」
「うん」
はっきりと、頷いた勝利。
そんな大層なものじゃない。と、自分の読みや勘をよく謙遜する勝利のその自信にあふれた即答に、遊戯も思わずたじろいだ。
「遊戯君こそ。僕のことを甘く見たね。僕がどれほどこの決闘を楽しみにして、シミュレートしてきたと思ってるのさ。当然、カルートを突破することくらいは、織り込み済みだよ。僕はさらに、"翼の恩返し"を発動!」
翼の恩返し
魔法カード
鳥獣族モンスターが2体以上存在する場合、600LPを払って2枚ドローする。
勝利 LP 3600 ー 600 = 3000
「LPを600払って、2枚ドロー。さて……」
勝利はカードを引いた後、軽く肩を回し、呼吸を整える。
遊戯はさっき勝利から感じた圧が、どんどん強まっていくのを感じる。
(シンクロ召喚? いや、違う……これは、まさか……)
「……僕は手札から、"
魔法カード
1ターンに二度のモンスター召喚を可能にする
「この効果によって、僕はこのターン、二度目のモンスター召喚を可能にする」
「っ!!!!!?」
「おいおい……まだ召喚する気かよ……これで上級モンスターでも出されちまったら……」
「馬鹿!! そんなレベルのこと言ってる場合じゃないでしょう!」
「……勝利のフィールドには、暴走召喚した生贄が3体おるんや……」
その言葉に、全員が気づく。
気づき……震える。
自分たちの仲間を。誰よりも勝利自信を傷つけていた、圧倒的力。
それが……今ここに、勝利のフィールドに顕現するという、事実。
「……嘘だろ? まだ、3ターン目だぞ?」
「……その、まさかやろ」
「これは……」
「……行くよ、遊戯君! 僕の全力、受け止めてみろ! 僕は、3体のカルートを生贄に捧げる!」
そしてもう何度も見た、空を切り開くように現れる光が、場に降臨する。
荘厳な、偉大な光を放つそれは、ゆっくりとフィールドに舞い降りる。
フィールド上空に鎮座するだけで、ピクリとも動かぬ金属の球体
しかし、今だ力が見えなくとも、すでにそのモンスターを侮るものはいなかった。
「さあ……一緒に、戦ってくれ! "ラーの翼神竜"!!!」
The Winged Dragon of Ra
ATTACK ???
DEFFENCE ???
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「だ、出した……出しやがった! 勝利の奴! ラーを、神を!」
「いや、でも……」
御伽から、放ち切られない否定の声が漏れる。
その疑問の答えを正確に理解している海馬は、その光り輝く球体をじっと睨む。
(……ラーの第1の能力。『太陽神は3体の生贄を束ねてその力を得る……ただし、神を従えし者、古の呪文を天に捧げよ』……たとえ場に神を並べたとしても、従わせられなければ意味はない。勝利……何を考えている?)
「……さて」
皆の視線が注目する中、勝利は目を閉じる。
静かに呼吸をしながら、時を刻む。
誰かが、息を飲む音すら響く。
「……勝利君?」
「いったい、何を……」
訝しむような声すら上がるそんな中で、マリクはまっすぐ勝利を見る。
期待、そして……信頼の眼だった。
(……勝利。君なら……できる)
そして、その期待に応えるかの如く。
球体は、動き始めた。
「っ! おい! あれ!?」
「ま、マジかよ……」
「ラーが……」
わけがわからない状況に、皆動揺する。
しかし、意味は分からなくとも、状況はわかっていた。
神は……勝利に従っている。
「さあ……目覚めよ! "ラーの翼神竜"!」
『ーーーーーーーーー!!!』
The Winged Dragon of Ra
ATTACK 4200
DEFFENCE 3000
翼が、開く。
輝きが増す。
その力の偉大さは、誰もが理解できるほどに強大だった。
「勝利君……君ってやつは……」
「さあ、神を超えて見せろよ! 遊戯君!」
震える遊戯。
高ぶる勝利。
二人の決闘の火蓋は、あまりにも苛烈に切って落とされた。
開幕お披露目。
竜崎のアンティと、ラーの翼神竜。
負けても、遊戯に千年アイテムもラーも渡すとまで言い切ったこの決闘。
果たして勝つのは、遊戯か。勝利か。
これは結構気になるところなので、アンケートでも置いておきます。
遊戯vs勝利。
勝つのはどちらだと思いますか?
※勝敗はすでに決定しているので、アンケート結果で勝敗が動くようなことはないことは、お伝えしておきます。
単純に、私の書く物語が皆さんにどう見えているのかという客観視が欲しいが故のアンケートです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
活動報告の方で、乃亜編のアイデアを募集しています。
・乃亜編のアイデアについて
勝利たちの『デッキマスター能力』について、募集中です。
ぜひお知恵をお借りできると幸いです。よろしくお願いします。
勝つのは……
-
勝利
-
遊戯