遊戯王~黒き羽根は夢に舞う~   作:haruko

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活動報告でお話ししていますが、こちらでも報告とお礼をさせていただきます。

当小説が久しぶりに日刊ランキングにお邪魔させていただきました。
バトルシティ完結のタイミングでこのようなご褒美をいただき、うれしく思います。
いつも支えてくださったっている皆さん。どうもありがとうございます。

また、いつも感想を下さる皆さんも、ありがとうございます。
自分の自信の回の感想を見て、「ああ。理解してもらえているな」と感じると、とても励みになります。皆さんの反応を楽しみに、これからも頑張っていきます。

ではバトルシティ編、完結です。


7/23
ごめんなさい
体調不良により、一周飛びます。
もう7割かけているだけに、悔しい…


アルカトラズ炎上 新たなる未来へ

 

 

 

 

「……最高の決闘だった。それ以上に、言うことはない」

 

「……勝利君」

 

 

 

決着と同時に、歩み寄る勝利。

その表情は、晴れやかでありながら、一筋の涙が光る。

 

しかし、それを指摘するような無粋な真似をすることはなく、遊戯は勝利に手を差し出す。

そして勝利もまた、遊戯の眼に滲むそれを一瞥もせず、遊戯の手を握り返す。

 

 

 

「君は、僕の最高の友。そして……最高の好敵手(ライバル)だ」

 

「ああ、ありがとう。君という決闘者にそんな言葉をもらえることを、俺は誇りに思う」

 

 

 

そしてもう一度、手を握り返す遊戯。

そんな遊戯に、勝利はクックックと声を鳴らして笑う。

 

 

 

「『俺もだよ』。とは、言ってくれないんだね」

 

 

 

勝利のその台詞に、遊戯は言葉を失う。

それを見てまた、勝利は笑う。

 

「クックック。大丈夫、わかっているさ。君にとって最高の友は、城之内君で、最高の好敵手(ライバル)は海馬君だ。そこに割り込もうというつもりはないよ」

 

少々焦る遊戯が面白く、ひとしきり笑った後に遊戯の胸をとんと拳でつく。

 

 

 

「でも、これだけは覚えておきな。君は決闘王(デュエルキング)。No1決闘者の称号を掴んだ。でも、No2は僕。君を倒すに、最も近い決闘者は僕だ」

 

 

 

遊戯は、はっとする。

追撃のように、勝利は、手を差し出した。

 

 

 

その手にあるのは、1枚のカードと、首飾り。

 

"ラーの翼神竜"と、千年タウクだった。

 

 

 

 

「アンティルール。それに一応、託された使命だからね。新たな王の誕生の祝福を。君が王であることの証明を、僕が担うよ。おめでとう。遊戯君」

 

「……勝利君。ああ。受け取るぜ」

 

 

 

 

そうしてラーを、タウクを、遊戯に託す。

そしてもう一度、遊戯の両手を掴む。

 

「……勝利君?」

 

 

 

 

「君は、王で、君が勝者だ。その掴んだものでどんな未来を描くかは、君の自由だ」

 

 

 

 

だけどね。

と、一呼吸置き、勝利は遊戯を指さし、にこりと笑う。

 

 

 

 

「僕は、絶対に諦めない! いつかもう一度君を倒して! No1決闘者になってみせる! 首を洗って待っていな!」

 

 

 

 

「っ……ああ! いつでもかかってきな! 勝利君!」

 

 

 

 

そう遊戯が返すと、勝利は満足げな表情を浮かべ、決闘場を後にする。

 

その後ろ姿が見えなくなるまで、遊戯は勝利を見つめ続けていた。

 

 

 

 

『……最高の決闘者だったね。勝利君は』

 

(……ああ。彼と、この舞台で戦えてよかった。俺も、心からそう思う)

 

 

 

 

そして遊戯の肩に、突然何かがのしかかる。

どんどんと重くなるそれに思わずよろけるが、振り返り、原因を理解して破顔した。

 

 

「遊戯!」

 

「遊戯!! やりやがったなこの野郎!」

 

「とてつもない決闘だった。見事だ。ファラオよ」

 

「ええ。全く」

 

 

皆が口々に、遊戯を褒めたたえる。

 

決闘中の息の詰まりそうな怒涛の展開で喉につかえていたものが爆発するかのように、皆言いたいことすべてが口を吐いた。

 

 

しばらくして皆の祝福がひと段落したところで、さらに一人遊戯の輪に加わる。

 

 

「遊戯。この瞬間貴様に、バトルシティ決闘王(デュエルキング)の称号は与えられた。大会主催者として、その栄光を讃えてやる」

 

 

声の方向に目を移すと海馬が腕を組んでこちらを見ていた。

讃える、というにはあまりにも不遜なその態度に、皆が笑いを零す。

 

 

 

「……だが。決闘者の頂点を冠するには、実に無様な決闘だった」

 

 

 

「っ! んだと海馬!?」

 

いつものように、海馬の無遠慮な言葉に、城之内が食って掛かる。

しかし、その熱量は普段の比ではなかった。

 

今にも殴りかからんという勢いの城之内を、本田と御伽が必死に羽交い絞めにする。

 

「や、やめとけ城之内君!」

 

「落ち着け! お前まで遊戯と勝利の決闘にケチつけちまう気か!」

 

「うるせえ! 俺のことをいくら言われたって許してやらあ! だがな……遊戯と、勝利! 二人の決闘を、この最高のデュエルを! 汚すことだけは許さねえぞ!」

 

暴れ狂う城之内を、必死に抑える二人。

しかしそんな最中でも、海馬は何食わぬ顔で続けた。

 

 

 

「黙っていろ城之内。俺は別に、無為に決闘の内容を貶めているわけではない。遊戯、貴様が一番感じていることだろう」

 

 

 

「……ああ。その通りだ」

 

海馬の言葉に、遊戯が即座に返す。

そして二人は、勝利が出ていった出口を見つめている。

 

決闘王(デュエルキング)の称号を持つ以上、貴様に敗北は許されない。たとえどんな条件であろうとも、どんな相手であろうともだ」

 

「……」

 

遊戯は何も言わず、海馬の言葉を静かに受け入れる。

その様子に、城之内たちも怒りを覚まし、落ち着いて海馬の言葉を聞いた。

 

「……だというのに貴様は、この決勝の舞台で、勝利に大苦戦を喫した。あまつさえ、LPを0にされた。貴様は、偶発の勝ちを拾っただけにすぎん」

 

「っ! 海馬!」

 

「城之内。貴様も決闘者ならわかっているはずだ。遊戯と勝利。この二人に、決闘者の実力の上下は存在しない。次にぶつかれば、勝利が遊戯を下す可能性は大いにある。この決闘は、それを明らかにしただけのものだ。遊戯は、勝利を圧倒したわけではない。50%かそれ以下の確率を引いて勝ちを拾った。それだけのことだ」

 

「……」

 

勝利の実力を認めている城之内たちもまた、海馬の言い分に言葉を飲み込む。

 

海馬の言いたいことが、わかってきた。

 

海馬が求める、決闘王(デュエルキング)という称号の意味。

そして、遊戯に求めるもの。

 

 

 

そしてその一方で、モクバは違うことを思い、驚いていた。

 

(……兄サマは、ゲームの勝利こそすべてだと思っているはず。なのに……遊戯の勝ちという結果を、受け入れられていない)

 

その理由も、モクバには察しがついている。

海馬の拳は、モクバにしか気づけない程度、指先が震えていた。

 

 

 

(……兄サマは、遊戯が、自分以外の奴に倒されそうになったという現実が、許せないんだ……自分が最強の決闘者と認める遊戯が、自分以外と互角に渡り合い、敗北しそうになった。遊戯と、そして勝利。二人の実力が拮抗していて、兄サマが、その舞台にまだ上がれていない。それが……許せないんだ)

 

 

 

 

「遊戯! 貴様はこの俺が唯一認めた『真のライバル』であり、『誇り高き決闘者』! 俺にとって、敵とは 常に最強でなければ気が済まないのだ!」

 

海馬が、遊戯を指さす。

その眼には、強い意志が宿っている。

 

決闘王(デュエルキング)の称号は、貴様のもの! だが、それは誰にも負けることのない最強の証明なのだ! 遊戯! 貴様に決闘者としての誇りがあるのなら、守り抜いて見せろ!」

 

海馬の言葉が、体に染み渡るのを感じる。

やがて遊戯は、デッキを構え、海馬に返す。

 

 

「……ああ! わかったぜ海馬! 俺は、この称号を守り抜いて見せる! たとえ相手が、勝利君でも、城之内君でも……当然海馬、お前でもだ!」

 

 

 

「……フン。今はその言葉を信じておいてやろう」

 

 

 

海馬が身を翻し、そして、高らかに宣言する。

 

 

 

 

「さて! バトルシティ最終地点である決闘塔も俺にとって必要のないものとなった。よって今から約1時間後、この塔を爆破する!」

 

 

 

 

 

「「「「な、なにぃ~~~~~~~~~~!!!?」」」」

 

 

 

 

 

場の空気が、一片ドタバタと動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方の、決闘艇の一室。

自室とされているその部屋の前に、勝利はいた。

 

『ぴぃぴぃ!!』

 

『かあっ!! かあかあ!』

 

「……みんなのせいじゃない。そして、僕のせいでもないよ。僕らは、全力を、死力を尽くして遊戯君にぶつかったんだ。それを、誰かのミスだなんて呼んじゃいけない」

 

落ち込む肩のブリザードと、怒りや悲しみが混じりあい切ない声をあげるゲイルを、勝利がぎこちなくも見える笑顔で宥める。

 

あれをもっと。

あの時もっと。

自分がもっと。

 

IFは幾つだって浮かんでくる。

勝利だって、それはそうだった。

 

しかし、それに意味はない。

そして、結果に文句もない。

 

ただ、届かなかった。

また、届かなかった。

 

それは、事実であり、勝利は受け止めていた。

 

 

 

 

「……また、出直しだ。みんな。もう一回、僕についてきてくれる?」

 

 

 

 

『……ぴぃ!』

 

『……かぁ!』

 

 

 

 

目を潤ませるブリザードとゲイルの声を皮切りに、デッキの皆が唸りを上げる。

その様子に、勝利はにっこりと笑顔を返して、自室のドアを引いた。

 

 

 

 

 

「……勝利」

 

そこにいたのは、最愛の恋人。

舞が、勝利を待ってくれていた。

 

(……僕より先にここにいるってことは、決闘が終わって真っ先に返ってきたんだ……本当に、この人は……)

 

勝利は、ふっと笑って表情を作った後、舞に言う。

舞は、その眼をじっと見る。

 

 

 

 

「ただいま、舞さん……負けちゃった」

 

 

 

 

「……ええ。お帰り」

 

舞はそれだけ言って、勝利を抱き寄せる。

勝利は照れて笑った。

 

「……もう少しだった。それは、自分でもわかってる」

 

勝利は、少しずつ、少しずつ話始める。

舞はそれを、静かに聞く。

 

「王国よりも、近づけた。僕は、強くなった。遊戯君と、戦えるほどに」

 

それは、驕りでも、自惚れでもない。事実であり、確信。

あの決闘に誇りをもって戦いきった、今の勝利だからこその言葉。

 

「……LPは、削った。あと一歩だった。それでも、届かなかった」

 

「……」

 

「……高いや。僕らの、目標は」

 

舞を抱きしめる力が一瞬強くなる。

しかし、勝利はそっと舞を離し、笑みを見せた。

 

 

 

 

「……でも、僕のすべてを賭けて戦った。最高に楽しい決闘だった。悔いは、ない」

 

 

 

 

そう言って、勝利は締めくくった。

 

そうして離れようとした勝利を、舞は、強く抱きしめなおす。

 

 

 

 

「……馬鹿」

 

「……舞さん?」

 

 

 

 

舞の想いを確認しようと、顔を見ようとする。

しかし、舞の腕に込められた力が、それを許さない。

 

 

 

 

「……いいのよ。あんたは、泣いて」

 

 

 

 

「……はい?」

 

勝利が、素っ頓狂な声を上げる。

涙? なぜ?

その想いが、混乱した頭の中を駆け巡っている。

 

「……な、泣かないよ? 舞さん。僕は本当に楽しかったし、最高の決闘だったと思ってる。さっき、決闘中に泣いちゃったけどそれは、感動したから。楽しかったからだ。悔いなんて、1つも……」

 

 

 

 

その瞬間、勝利の瞳から、一筋の涙がこぼれる。

その止まらない涙に誰よりも驚いたのは、勝利だった。

 

 

 

「え……な、なんで? どうして……」

 

 

 

必死に自分の顔を拭う。

しかし、涙が止まってくれない。

 

意志と関係なく発生する生理現象に、少々の恐怖すら覚える。

 

しかし、それを舞は、優しく抱き留めた。

 

 

 

 

「……悔いがないわけ、ないでしょう」

 

 

 

 

「っ……」

 

舞の言葉に、勝利が固まる。

舞は、勝利の背中をなでながら続ける。

 

「命を懸けて、魂をかけて戦った、最高の決闘。あんたが追い求めた、最高に楽しい決闘。それで、あと一歩のところで、負けた。それが、悔しくないわけがないでしょう」

 

「っ!?」

 

止め処なく溢れる涙が、舞の言葉に反応するように頬を流れ伝う。

 

「楽しかった。最高だった。あんたの言葉を、疑ったりしない。でもそれは、悔いが残らないこととイコールじゃあないわ。あなたは……悔しいのよ」

 

「あ……ああ……」

 

赤子をあやすかのように、勝利の頭を優しく撫でる舞。

勝利の強さの裏側を知る、舞だからこその理解。

 

 

 

そう、舞はわかっていた。

 

 

 

 

勝利が無意識のうちに、

自身が望む『楽しい決闘』と、『勝ちたい決闘』を分けていることを。

 

 

 

 

勝たなければならない決闘を必死に戦い抜いてきた反動か。

あるいは、境遇故に楽しむための決闘を優先し、友との闘いの勝敗に頓着しなかったことの弊害か。

 

 

勝利は、わかっていなかった。

『勝たなければならない決闘』を戦い抜いてきた彼にとって。

『勝ちたい決闘』の価値が、わからなかったのだ。

 

 

ただ、自分の心のままに、勝ちたいと思って決闘をした経験が、ほとんどなかった。

そしてその決闘に敗北するという経験が、一度もなかったのだ。

 

 

 

 

勝利は、初めてだった。

 

敗北を、悔しく思う気持ちが。

 

 

 

 

「……いいのよ。あんたの中で、『勝とうとする決闘』と『楽しみたい決闘』が矛盾しないように。『楽しかった決闘』と、『勝ちたかった決闘』は、一緒にあっていいものなのよ」

 

 

 

 

「っ! うっ……くっ……」

 

 

 

 

その瞬間。

何かがはじけたように、舞の胸元に縋りつきながら。

 

勝利が、泣いた。

 

 

 

 

「あああああああああ!!!!!!」

 

 

 

 

ただただ、叫ぶ。

泣き叫ぶ。

 

それを舞は、優しく抱き留める。

 

 

 

 

「……勝ちたかった!」

 

「……うん」

 

 

 

 

「勝ちたかった! 勝ちたかったよお!!!!!」

 

 

 

 

舞は、それを受け止める。

 

そして、勝利に見えないように、微笑んだ。

 

その勝利を、喜んでいた。

 

 

 

 

(……とうとう、出来たのね。純粋な、決闘。あなたが、あなたでいるための、ただそれだけの決闘。あなたが望む、本物の決闘が)

 

 

 

 

ありがとう、遊戯。

 

舞は勝利の涙を受け止めながら、心でそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いいんですか、竜崎さん? せっかく、勝利さんにお疲れを言いに来たのに」

 

ドアの外。

部屋の中に入るに入れず、図らずも立ち聞きしてしまった静香と竜崎が、声を潜めながら話す。

 

「入れるわけないやろ。孔雀舞がおるし、ワイらはいらん。無駄足やったわ」

 

そう言って竜崎は身を翻し、部屋を離れて歩いていく。

 

「どうせすぐ、遊戯たちも戻って来るやろ。お前もそっちで待っとれ。ワイも部屋に戻って離陸待機しとるわ」

 

「……? は、はい」

 

竜崎の声を聴き少し首を傾げる静香だったが、そそくさと撤退する竜崎に声をかける機会を逸し、そのまま見送る。

 

 

 

 

 

 

(……竜崎さん、なんだか……楽しそうだった?)

 

 

 

 

 

 

(勝利が……勝ちに飢えよった)

 

 

竜崎は、震える拳を自分の手で抑え込む。

しかし、口元の湾曲を抑えきることができず、獰猛な笑みを浮かべながら歩く。

 

 

(ワイが、勝利たちに勝つために、強さを磨いたように……強さを求めて戦い、強なったように……これで勝利も、また一段階上にいく)

 

 

竜崎は、そっと息を吐き、また笑う。

 

 

 

「……ええやろ。次は、負けへん。勝利も、海馬も、遊戯もぶっ倒して、No1になったる。次こそ、勝つのはワイや!」

 

 

 

竜崎もまた、燃えている。

それも当然。

彼もまた、決闘者だった。

 

 

 

 

 

 

 

「とにかく! さっさと自分の部屋に戻って、荷物の確認だ! 爆破に巻き込まれちゃ、シャレになんねーぞ!」

 

「おう!」

 

勢いよく決闘艇へ乗り込んできた皆が、ドタバタと廊下をうちならし走る。

そんな中で、曲がり角の先に見える姿に皆驚愕する。

 

 

 

 

「あ、みんな~」

 

「ば、獏良!?」

 

 

 

 

全力で廊下を駆ける遊戯たちの前に、素っ頓狂な声を上げて躍り出てきたのは、決勝戦の前から姿が見えなくなっていた獏良だった。

皆口々に、思いのままに言葉を投げかける。

 

 

「今までどこいたんだよ!」

 

「心配したのよ!」

 

 

「いや~。気が付いたら、外の瓦礫の中にいてさ。さっき起き上がってきたんだよね。みんなどこに行っちゃったのかわからなかったから、会えてよかったよ! もう、バトルシティは終わったの?」

 

「んなこと言ってる場合じゃねえ!」

 

「この島、今から爆破すんだぞ!」

 

「え……え~~~~!!!?」

 

突然の事実に、目玉が飛び出そうな表情で驚く獏良。

しかし遊戯たちに、その獏良にかまっている時間はなかった。

 

「いったん、勝利や竜崎たちがいることを確認するぞ! 獏良、お前も手伝え!」

 

「うん! わかった! あ、そうだ! 遊戯君、僕の千年リングって知ってる? 部屋探しても見つかんなくて……」

 

「……!」

 

(遊戯……誤魔化しとけ。獏良には渡さねー方がいいぞ、アレ)

 

「……知らねーな」

 

「そっか……わかった。勝利君たちと一緒に探しておくよ」

 

「あ、ああ……」

 

 

 

『アルカトラズにいる者は、直ちに決闘艇に乗船せよ! 繰り返す! あと20分以内に……』

 

 

 

「っ! やべえ!」

 

「杏子! 遊戯! お前らは勝利たちのところに行け! 俺は静香ちゃんのところにいく! 御伽! 城之内! お前は竜崎のとこ行ってこい!」

 

「ええ!」

 

「わかった!」

 

「ちょっと待て本田! なんでお前が静香んとこなんだよ!?」

 

 

わちゃわちゃと揉めながらながら走り去る遊戯たちを見送りながら微笑む獏良。

そしてその瞬間に、獏良の胸元が怪しく光る。

 

 

「……ハッ。ようやく遊戯のところに千年アイテムが集まりやがったか……遠回りはしたが、ひとまずは計画通りか」

 

獏良の意識は、すでに胸元の千年リングの人格へと切り替わっている。

先んじて決闘艇に入り込んでいた獏良は、遊戯がマリクから受け取っていた千年リングをすでに回収済みであり、決勝戦の結果も確認していた。

 

(しかし、遊戯が勝つのは想定通りだが……黒羽勝利。予想外に粘りやがった。それに……神を自在に操るあの技量……)

 

獏良は口を結び、少し思案する。

心中にあるのは、自身の計画に対する、勝利の振る舞い。

 

(俺の見立てじゃあ、勝利は3千年前の戦いに絡むような要素はない……だが、もしも勝利が遊戯の味方になって参戦しようものなら……俺様の想定する勢力図が変わりかねねぇ……)

 

 

 

「へっ……見定めさせてもらうぜ。勝利。お前が、どう扱うべき人間なのかをよお」

 

 

 

 

 

 

「ここだ。勝利君たちの控室!」

 

「勝利君! 舞さん! 戻ってる!?」

 

ドアを勢いよく開ける2人。

しかし、帰ってきたのは静寂と、舞の悪戯な笑み。

そして……言葉を失う光景だった。

 

 

「……しー。ゆっくり寝てるのよ。騒がないであげて」

 

 

2人の眼に飛び込んできたのは、舞の膝の上で、熟睡する勝利の姿。

その表情は、願ってもないような安らかな表情で、全幅の信頼を持って舞に頭を託しているのがわかる。

 

遊戯は戸惑い、杏子は見てはいけないものを見てしまったかのように顔を赤くして目を逸らす。

 

「あはは……お邪魔だったかなあ?」

 

「構わないわ。騒がなきゃ起きることもないでしょうし」

 

「随分と熟睡しているな」

 

「1日半寝てたくせにね。まっ、疲れたんでしょ? あんたとの決闘は。未来予知みたいな先読み繰り返し続けて、ようやくあんたに肉薄してたんだから」

 

遊戯は、納得したように勝利の顔を見る。

 

(やはり……あの決闘スタイルの負荷は、勝利君の頭脳でも並大抵のものではなかったか……それを、欠片も表情に出さずに決闘をやり切った……)

 

『……改めて、すごい決闘者だね。勝利君は』

 

(ああ……海馬のいう通り、1度頂点に立ったからと言って、自惚れているわけにはいかないぜ)

 

 

 

「……んで? あんたたちは何しに来たの?」

 

 

「っ!? そうよ! 舞さん、海馬君たち見てない!?」

 

「海馬たち? まあ、この部屋に来るわけはないわね……何事よ? もう帰るだけでしょ?」

 

「そうなんだけど……このアルカトラズを、最後に爆破するらしいのよ! もうこの島は、不要だって! だから、全員決闘艇に乗り込んだことを確認しなきゃいけないんだけど……」

 

「……島を爆破? 本当に……プライドの高い決闘者は、馬鹿ばっかね。それで、海馬たちが、見当たらないって?」

 

「ああ……まさかとは思うが……」

 

遊戯は、窓をちらと見る。

聳え立つ決闘塔の姿が、もの悲しくすら見える。

 

(この島は、海馬コーポレーションが軍事産業の過去を持っていたころの負の遺産。もしも海馬が……自分の義父、海馬剛三郎への怨念と共に、この場所で……)

 

 

 

「……ないない。考えすぎよ」

 

 

 

遊戯たちの一抹の不安を、舞はあっけらかんと否定した。

 

 

「舞……」

 

「海馬が、ここで死ぬなんて。そんなの、あるわけがないわ」

 

「舞さん。どうしてそんなことが言えるの? 舞さんも、あの世界で見たでしょ? お父さんへの怨念にとらわれ、苦しむ海馬君を……」

 

「まあ、もちろん聞いてるけどね。あたしには、その気持ちは理解してはやれない。所詮は他人。苦しみや悲しみを全部理解してやることは不可能よ。当然、あんたたちにもね」

 

「……なら、なおさらだ。なぜ、海馬たちの未来の一つを、お前がそんな簡単に否定できる?」

 

遊戯の真剣な表情から放たれたその純粋な疑問を、舞は呆れたように笑った。

 

「……まっ。あんたや勝利には、わからないかもね」

 

言いながら舞は、勝利の頭を撫でる。

反応するように、勝利は幸せに微笑んだ。

 

「あたしがわかるのは……敗北した誇り高き決闘者の心だけ」

 

舞は、そう言って窓の外を見る。

その眼が、外の何を見据えているのか、遊戯にはわからなかった。

 

 

 

 

「海馬は、あんたに負けた。そして……あんたと、勝利の決闘を見た。生きる理由なんて、それだけで十分よ」

 

 

 

 

「……」

 

まだ飲み込み切れない、といった様子で舞を見る遊戯。

舞は、自分の胸に手を当て、自分の心中をさらけ出すように言う。

 

 

 

「……あんたたちの決闘を見て、あんたたちと、戦ってみたい。そう思わない決闘者はいないわ。海馬が、こんなところで終わっていいと思っているはずはない」

 

 

 

「……舞」

 

「……そうよね。海馬君が、遊戯へのリベンジをあきらめるなんて、そんなわけないわよね!」

 

「そういうこと」

 

 

 

その時、ドアがまた開く。

ドアの先にいたのは、竜崎だった。

 

 

 

「お前ら、急ぎや! この決闘艇は捨ててくで!」

 

「何っ!? どういうことだ竜崎!?」

 

「どうもこうもないわ! 例の騒動のせいで、この船のエンジンがいかれとるんや! このままじゃあ、飛ばへん!」

 

「ええっ!?」

 

ここにきて衝撃の事実を告げる竜崎に、驚愕の声が上がる。

 

「じゃあ、どうするってのよ?」

 

「大会終了時点で勝利が起きひんかった際のために用意された、病院直送用のヘリがあるんやと。城之内たちはもうそっちに移っとる。お前らも早う準備しいや!」

 

「うん! ありがとう、竜崎君!」

 

走り去っていく竜崎に、そう叫ぶ杏子。

そうして、自分たちの荷物を持ち出すために、部屋へと戻ろうとする。

 

「あっ……でも、勝利君が……」

 

杏子に言われて、舞がぺちぺちと勝利の顔をはたく。

しかし、少々声を上げるだけで、起きる様子はまるでなかった。

 

「……ったく。困ったお姫様ね!」

 

 

 

いうと舞は、眠る勝利をそのまま抱きかかえる。

所謂、お姫様抱っこで。

 

 

 

「あんたたちも、早くしな!」

 

そして舞は、男児1人抱えているとは思えないスピードで駆けていく。

その様子に、唖然とした表情の杏子。

 

「……杏子。俺たちも急ぐぜ」

 

「う、うん……(か、かっこいい……なぜか羨ましい……勝利君が)」

 

杏子のそんなたわいもない思考と共に、遊戯たちも走り出した。

 

 

 

 

 

 

そうして、ヘリに遊戯たち全員がそろう。

しかしその中に、やはり海馬兄弟の姿はなかった。

 

「おいおい……やっぱりあいつら、ここに残るつもりなんじゃ……」

 

「馬鹿野郎! ここで、死んじまっていいわけねえだろうが!」

 

「……海馬さん。モクバ君……」

 

皆、やはり不安げな声を上げる。

しかし、離陸のタイムリミットが迫ってくる。

 

『……もう一人のボク』

 

(……信じよう。舞の言葉……そして、海馬たちを)

 

 

 

 

 

そして、ヘリが唸りを上げる。

離陸の、合図だった。

 

 

 

 

 

「これより! アルカトラズを出発します!」

 

 

 

磯野のその宣言によって、ヘリは空中に旅立つ。

そして皆が、窓際に寄り添った。

 

「海馬……」

 

「海馬君……モクバ君……」

 

ゆっくりと離れていくアルカトラズ。

そこで起こった、いや、そこだけではない。バトルシティで起こった様々なことを、皆が想起する。

 

 

 

(終わった……この、バトルシティが、とうとう終わったんだ……)

 

 

 

そんな想いが巡り切ったその瞬間。

役目を終えたかのように。

 

島が、爆発した。

 

 

 

 

「っ!!?」

 

「海馬ぁ!!?」

 

 

 

 

思わず、声が上がる。

立ち上る爆炎を見ながら、悔しそうに唇を噛む城之内。

城之内ほど表面に出さないまでも、皆思いは一緒だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!? おい、あれ!!」

 

 

 

 

 

 

誰かが、声を上げた。

その瞬間、再び窓に視線が集まる。

 

 

 

 

 

「あ、あれは……"青眼の白竜"!!!!」

 

 

 

 

 

立ち上る煙を切り裂き現れたのは、"青眼の白竜"……型の、大型ジェット機。

それだけで、その場の全員が全てを理解した。

 

 

 

 

「……アホや。アホの所業や」

 

「……いったでしょ。心配するだけ、損なのよ」

 

「……信じらんない」

 

 

 

 

『兄サマ。あいつら、ヘリに移ったんだね』

 

『ふん。どうやら決闘艇に嫌われたらしいな』

 

 

 

 

「か、海馬、てめえ!」

 

城之内の怒りの声などどこ吹く風。

海馬は、悠々と空を切る。

 

 

 

 

 

(……遊戯。そして……勝利。覚えておけ。俺たちの戦いに、終わりはない!)

 

 

 

 

 

海馬の、指を翳すだけの、ほんのちょっとした合図。

それが誰に向けられたものか、遊戯は瞬時に理解した。

 

 

『舞さんが、正しかったね。もう一人のボク』

 

(……ああ。海馬はすでに、新たな未来のロードを走り出している……俺たちも、負けてられないぜ!)

 

 

 

 

 

 

『ぴぃ!』

 

『かぁ!』

 

『くわぁ!』

 

 

 

 

 

「っ! ……フフッ」

 

「……? 舞さん、どうしたの?」

 

突然窓を望み、1つ笑みを零した舞に、杏子が首を傾げる。

 

 

 

 

「ウフフ。いいのよ、気にしないで」

 

 

 

 

言いながらも、窓から目を離さない舞。

その後ろからのぞき込む杏子だったが、青い空と、青い海以外、何も見えはしない。

 

 

「……?」

 

 

 

そう。

舞だけに見えている、最高の景色。

 

BFのみんな。そして……ハーピィがヘリに並走し、祝福するように駆ける、最高の青空

 

 

 

(……ありがとうね。みんな)

 

 

 

 

 

 

そして。

 

夢現か。

それとも、心で、受け取ったのか。

 

ヘリの片隅のベンチで眠る、勝利が笑う。

 

 

 

 

 

(……さらば、アルカトラズ。さらば、バトルシティ……僕は、楽しかったよ)

 

 

 

 

 

一つの舞台が、また幕を閉じる。

 

 

しかしそれは……勝利たち、決闘者たちの戦いの終わりを意味しない。

 

 

 

 

 

彼らは、戦い続ける。

 

自分たちの、未来のために。

 

 

 

 

 

 

バトルシティ編

-完ー




最終回じゃないぞよ。


ということで、当初の私の目標だった『バトルシティ完結』まで漕ぎつけることができました。
皆さんのおかげです。ありがとうございます。


バトルシティ編完結に伴い、ちょっとした想いのたけを活動報告で語らせていただきましたので、興味のある方は、そちらもご覧いただけるとありがたいです。


この後の予定としては、再三話していた乃亜編の執筆……の前に、番外編を2編はさみます。
仮タイトルで呼ぶなら、

バトルシティその後『デート編』
バトルシティその後『奴との決闘編』

の二つです。


『デート編』で1話
『奴との決闘編』で3~4話


という予定です。
バトルシティその後なので、このタイミングで書くべきであろうと思い、乃亜編より先にパパっと終わらせてしまおうかと思います。
『奴との決闘編』でだれと戦うかは、内緒にしておきます。


また、活動報告の乃亜編のアイデア募集も続けています。


皆さんのアイデアを踏まえ(……ることができているかはさておき)竜崎と舞のデッキマスター&決闘構成は概ね見えてきています。
が、かなり難航しているのが、勝利のデッキマスター能力です。

はっきり言ってしまうと、乃亜編の全体構成(誰と誰が戦い、どういう展開にするか)事態はほぼ完成済みなのですが、勝利のデュエル構成だけ、まだかなり空白の状態です。

引き続きアイデアをお願いできると、幸いです。


そして……引き続き「遊戯王~黒き羽根は夢に舞う~」を、どうかよろしくお願いします。
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