さて、時代考証が怪しくなってまいります。
正直、アニメを見直してある程度までは矛盾が起こらないようにしていますが、シンクロ次元の話は精査しきれていない可能性は大いにあります。
頑張りますが、お目こぼしをお願いします。
……5Dsの竜の1体を出している時点でいまさら泣きもしますが。
「着きました。こちらになります」
「……」
長い長い沈黙を破り、磯野が声を上げる。
自動で開いた扉から一歩踏み出した勝利は、その光景に思わず声を上げる。
「……うひゃあ」
感嘆と、呆れの入り混じったその声に、後ろについた磯野が苦笑を堪える。
まず勝利の瞳に飛び込んできたのは、見上げなければ全容を映しきることができない、大きな大きなビル。
しかも、ただ高いだけではない。高く、広く、そして、豪華絢爛。
ガラス張りの外観から中のオフィスの快適さも伺えるその建物のど真ん中には、会社ロゴの『KC』の文字。
そして、それらすべての情報よりも異彩を放っているのは、入り口に据えられた"青眼の白龍”のどでかい像。
出迎え、というよりは門番と称した方が的確に見えるそのいでたちに、勝利は思わず腰を引く。
デザインした人間の豪快さ、傲慢さ、自己顕示欲の高さが、建物の風体だけでも存分に発揮されていた。
「勝利様」
磯野が腕で案内する方向にある入口を潜り、建物の中を望む。
やはりというか想像通り、外見に違わぬ高級感の溢れる内装のエントランスがお目見えとなる。
17の年の勝利には何もかもが初体験の事態だが、この建物の長こそが自分の同級生であり鎬を削る好敵手であるという事実がさらに勝利の脳を揺らした。
(……いっそ何も考えない方が楽だな。そもそも、決闘者以外の彼に憧れているわけでもライバル視しているわけでもない。彼の成功を僻む理由もない)
少し深呼吸をして顔を上げた勝利は、磯野に先の誘導を願い出る。
心象を察したのか、苦笑を零した磯野が、奥へと案内する。
チーンという軽い音と共に、エレベーターの到着音が鳴る。
『開』のボタンを押して待つ磯野を尻目に、中へと入っていく。
そしてその部屋から望める光景を見て、勝利は思わず心を躍らせた。
「こ……これって!」
まず勝利の目の前に飛び込んできたのは、勝利が目にしたこともないような最新の大型コンピュータの数々。
だがしかし、勝利の心を動かしたのはそんなものではなかった。
コンピュータの画面に映るのは、モンスターカード。そしてそれに発動された魔法カード。攻撃する場合しない場合のパターン精査。
そしてその奥のガラス張りの部屋の中を覗くと、そこには『KC』印と銘打たれ世間でも簡易版が出回っている、決闘コンピュータが向かい合うフィールド。
勝利は、一目で理解する。
「……ここは、海馬コーポレーションの……海馬君の、カード解析の研究室」
「その通り」
勝利の呟きに反応したその声に、勝利は振り返る。
声から不遜な表情を想像させるその男が、勝利の想像通りの様子で、想像通りの態度でそこに立っていた。
「海馬君」
「ようこそ。我がKC、技術開発研究室へ」
「君は……アメリカに飛んだんじゃなかったの? てっきり今日は、技術者の人と話すことになると思っていたんだけど」
「ふん……貴様の言う通り、我が夢、『海馬ランド計画』の足掛かりを掴むべくアメリカに渡り準備を進める予定だったが……先に貴様の用と、愚民どもの対応が片付きそうだったのでな。一時帰国してやったというわけだ」
そういいながら、海馬は1枚のカードを勝利に投げる。
察した勝利は、そのカードを2本の指で受け止め、表に返す。
それは、勝利のカード。勝利だけのカード。
シンクロモンスター。"ブラックフェザー・ドラゴン”だった。
「全く……この俺に無防備に自身の魂のカードを預けるとは……貴様らの甘さにはほとほと呆れる」
「別に。遊戯君たちみたいに、情や信頼で君に預けたわけじゃあないよ。君はそのカードを悪いようにしないという、明確な根拠があったから預けただけさ」
「ほう……」
勝利の言葉に、海馬が面白そうに笑う。
「……君がそのカードを盗んだり、奪い取ったりしたところで、1枚しかないそのカードを大っぴらに使えるわけがない。かといって、そのカードを君が破いたりするとも思えない。そんなことをすれば、君は僕の力を、『シンクロモンスター』の力を恐れているということになる。そんな無様な結論を、君が許すはずがないからね」
「……さすがに頭は回るようだな」
海馬のその反応に満足したのか、勝利も受け取ったカードをしまい、改めて海馬に向き直る。
「……それで? わざわざ君に預けたこのカードを返したってことは、もう君の用事はすんだってことでいいんだよね。バトルシティでお目見えさせることになった、『シンクロモンスター』をどう扱っていくかという問題の解決策が、見つかったってこと?」
「当然だ」
そう。海馬が言う、勝利の用事。そして、『愚民どもの対応』とは、まさにこれの事だった。
バトルシティが決着し、その結果は世へと知らされることとなった。
すでに様々周知されている通り、遊戯を中心に、バトルシティを勝ち抜いた選りすぐりの決闘者たちは、一躍時の人として扱われている。
当然、勝利もその一人。
とりわけ顔が悪くなく、他の決闘者と比べても愛想がよく、それまでの立場が『謎多き決闘者』であったことも手伝って現在の勝利の人気は遊戯に勝るとも劣らないものであった。
『黒羽の貴公子』、『決闘王子』の称号に恥じぬ輝きを放っていた。
が。しかし。
光が当たれば、そこには影が生まれる。
輝かしい勝利の栄光を妬み、嫉み、勝利を揶揄するものが現れる。
その勝利に付け入る絶好の題材として利用されたのが、皮肉にも勝利の信頼するエース。
"ブラックフェザー・ドラゴン”だった。
曰く、誰も扱えぬ創作カード、インチキではないか。
曰く、海馬コーポレーションが入れ込んだ刺客であり、はなから特別なカードを与えられた参加者ではないか。
曰く、バトルシティとは、海馬コーポレーションによる出来レースではないか。
曰く、卑怯な手で勝ち上がった結果、遊戯にはなすすべなく敗北し、2位に甘んじただけの決闘者ではないか。
所詮は、どんな手を使っても王に届かなかっただけの、『
そんな心無い、くだらない言葉が、勝利を刺した。
当然それらは戯言であり、取り合う価値のない妄言だ。
その程度で勝ち残ることができる戦いではないことを一番知っているのは、勝利であり、海馬であり、遊戯であり……あのバトルシティを戦い抜いた決闘者たちだった。
所詮はバトルシティに参加できなかったものの僻みか、参加して勝ち残れなかったものの僻み以下のたわごとに過ぎない。
だが、それでも、勝利には認められなかった。
バトルシティという時間。
バトルシティでの出会い。
そしてバトルシティで認め合い、全力で戦った仲間。友。好敵手。恋人
共に戦った皆を、くだらない暴言で汚されること。
自分たちの魂と誇りを賭けた舞台、バトルシティを、貶められることを。
勝利は、許せなかった。
故に、海馬に話した。
『認めさせたい。バトルシティを勝ち抜いた、自分の力を。そして……"ブラックフェザー・ドラゴン”を』
そして海馬は、それを受け取り、アメリカへと発った。
「……本当に、ありがとう。海馬君」
「勘違いするな。貴様のためではない」
勝利の心からの感謝を、海馬はにべもなくなく切り捨てる。
「俺のバトルシティ。俺の戦いのロードを決めるための舞台。その舞台における、2位という称号は、下らぬ侮蔑に使われていい代物ではない。貴様には、その程度でいてもらっては困るというだけの話だ」
「クックック。さすがだね。それで? 具体的に僕は、何をすればいいんだい?」
何でもするよ、と付け加えた勝利に、海馬は笑った。
その不穏な笑みに、勝利は顔をひきつらせた。
海馬は、勝利を指さし、まるで決まりきったことであるかのように高らかに宣言した。
「黒羽勝利。貴様には、わが社の広告塔になってもらう。『シンクロモンスター』を扱う先駆者としての、広告塔にな」
「……ごめん。なんのことだか、本当にわからない」
顔に手を当て眉間に皺を寄せる勝利に、顔色一つ変えない海馬が続けて話す。
「順を追って説明してやる。俺はまず、貴様のシンクロモンスターを持って、インダストリアルイリュージョン社へと向かった」
勝利は海馬の説明に、目を丸くする。
(インダストリアルイリュージョン社……決闘者王国の主催者だった、ペガサスの会社……)
そう。
その社名は、ペガサスがM&Wの開発を手掛けるために運営している会社の名前。
ペガサスが現在どのような状況であるかは把握していないが、大切な弟である『モクバ』を傷つけた宿敵のおひざ元である会社と取引をしてきたという事実に、勝利は驚きを隠せずにいた。
「あの会社は以前より、我が海馬コーポレーションの叡智を結集したシステム、『ソリッドヴィジョンシステム』の技術提供を求めていた。M&Wの今後の発展に向けて、わが社のシステムは利用不可欠であるという判断を下してな」
誇らしげに語る海馬に、勝利は頷き同意しながら海馬の話を聞く。
お世辞抜きに、デュエルボックスも、決闘盤も、革新的な発明であり、その技術力は全世界有数の企業を並べても群を抜いているということは勝利でさえも理解している。
その技術を自社のカードゲームに注ぎ込んでいる企業があるというのだから、インダストリアルイリュージョン社からすればその会社との提携はのどから手が出るほどに欲するものだろう。
「だが、俺はそれを拒み続けていた」
「……それはやはり、ペガサスさんの件?」
「見縊るな。俺は海馬コーポレーションという企業のトップだ。下らん私情で契約の是非を判断することはない。優先順位の話しだ」
言いながら海馬は、ちらと壁を見る。
勝利もその目線をおって壁を見ると、ポスターのようなものが目に映る
内容はほぼ英語で、勝利には読めない部分も多かったが、絵と、最小限の知識で内容を理解する。
海馬ランド、オープン。
英語で書かれているということは、アメリカで使用されるポスターなのだろう。
「俺たち兄弟の夢は、世界中に海馬ランドを設立し、全世界を支配すること。その第一歩として、あのアメリカのオープンを目指していた。それが本格化するが故に、俺はアメリカに向かって準備を進めていた……が、俺のプランの外側の問題で、計画は難航した」
「……外側?」
「決闘者が集まらなかったのさ」
2人の会話を引き継ぐように、エレベーターからもう一人の声が場に響く。
勝利は振り向き、その声の主に軽く頭を下げる。
「モクバ君。お邪魔してるよ」
「おう。兄サマから話は聞いてる」
「で、決闘者が集まらなかったって?」
「言葉通りの意味だ」
今度は海馬が、モクバの話を回収し続ける。
「もともとバトルシティの後に海馬ランドの計画を用意していたのはこのためだった。バトルシティで注目を集めたのちにそれに群がってきた新規決闘者たちを選別し、新たなるスターをこの俺たち主導で作成し、計画の目玉として用意する予定だった……が、アメリカの表舞台に立つ決闘者たちの実力は、まだ遊戯や貴様のレベルには達していないという事実が判明した」
「このままじゃあ、プロモーションにならない。決闘者のレベルの底上げのための施設も作る予定はあったけど、それじゃあ海馬ランドのオープンに間に合わないからな」
「な、なるほど……」
海馬の口から自然に出てきた誉め言葉に照れ、戸惑いつつも、状況を理解した。
バトルシティという舞台で、海馬コーポレーションの名前を売り、並びに、決闘者たちに世間の目を向けるという第一目標は達成した。
が、神のカードに、勝利のBFたちを交えた見たことのない決闘の応酬で盛り上がったバトルシティに比べれば、いかに設備が万全といえども、海馬ランドにおける決闘のレベルでは、顧客の中で上がったハードルを越えることができない。
期待値を高めれば人は集まる。
だが、結果が期待値を下回れば、その下回った分の感情は不満に裏返る。
『バトルシティを見て、もっとすごい決闘が見られると思ってきたのに』
そう思われてしまっては、海馬兄弟の計画は瓦解してしまう。
それに、二人は悩んでいるということだ。
勝利が理解したのを読み取ったのか、海馬はモクバに合図する。
するとモクバは、アタッシュケースから3枚のカードを取り出した。
「故にこのタイミングで、インダストリアルイリュージョン社の交渉を飲んでやったのだ。M&Wのカードエキスバンションのデータ提供をわが社と行うこと。そして……新規カード制作にかませることを条件としてな」
その言葉に、すべてを理解した勝利がはっと顔を驚愕に染める。
「新規カード制作……っ!? 海馬君、君はまさか……」
「フン……そのまさかだ」
そういって、海馬は勝利に3枚のカードを投げつけた。
勝利はとっさに、それらを受け取る。
「こ、これって!?」
勝利はそのカードを裏返し、驚愕する。
そのカードは……モンスターカード。
だが、重要なのはそこではない。
「……し、シンクロモンスター……」
そう。
それは、シンクロモンスター。
しかも……『BF』カード。
「か、海馬君! これは!!?」
「今回、俺がアメリカから一時帰国した理由はそいつだ。インダストリアルイリュージョン社は、貴様のシンクロモンスターの存在をうまい話だと飲み込み、研究材料として"ブラックフェザー・ドラゴン”のデータをうけとった。その見返り、そしてこの交渉の手付金として奴らが先行作成したカード。そのうちの一部が、その3枚だ」
勝利は、ゴクリと喉を鳴らし、カードを見つめる。
カードの鼓動が。カードの息遣いが。カードの感動が伝わってくるようだった。
勝利は、確信する。
これは、まぎれもなく自分のカード。自分のために、生まれたカードだった。
「……いいの? 海馬君」
「この俺にそんなカードを使えというのか? 言ったはずだ。貴様がシンクロの広告塔だと。貴様が持ち、貴様が使っているさまを見せつけなければ意味がない」
勝利は、その言葉に、歓喜に震える。
言葉を失くしている勝利に、海馬は愉快そうに宣言した。
「我が海馬コーポレーションはこれより、『シンクロモンスター』の開発を足掛かりとして、M&Wの業界を席巻する! そしてそれは、我が海馬ランドのプロモーションとなり、この俺が世界を席巻するための足掛かりとなるのだ! フハハハハハハ!」
「へへへっ! 兄サマの計画に乗っかれるんだ! 感謝しろよな、勝利!」
自分の道が覇道であることを信じてやまない海馬兄弟の尊大な振る舞いにもれそうになる声を抑えつつも、海馬の戦略に頭を巡らせる。
「……なるほど。僕が広告塔になるっていうのは、そういうこと……」
「勘と考察力は一線級であることを認めてやる」
「どーも」
海馬のやろうとしていること。それはつまり、勝利という存在を、海馬コーポレーションに取り込んでしまおうということだ。
時代と技術の最先端を行く海馬コーポレーションならば、誰も見たことのない新カードを先んじて取得しているということに、何ら違和感はない。
そもそも『勝利が海馬コーポレーションの回し者である』などという噂が立ち始めたのは、それが理由だ。
つまり裏を返せば、『海馬コーポレーションに所属している人間である』という事実さえあれば、勝利の立場に不自然はなくなるというわけだ。
バトルシティで勝利が率先して『シンクロモンスター』を、特別なモンスターを扱ってバトルシティを勝ち抜いたという不満が上がっている以上、勝利への疑念をすべて払えるわけではない。
だがそんなことは、勝利だって承知の上だ。そもそも自分だけのカードを扱って勝ち残ったというのは事実であり、覆しようのない事であると受け入れていた。
勝利が払いたいのは、バトルシティに対する偏見。
そして……BFたちの実力を認めさせること。
ゆくゆくは、勝利と、"ブラックフェザー・ドラゴン”を、世界の皆に受け入れてもらうこと。
となれば、『シンクロモンスター』の広告塔になるという案は、勝利にとっても渡りに船だ。
いや、むしろ『勝利はバトルシティという舞台でシンクロモンスターをお披露目するための任を担っていた』と触れ回ってしまえば、勝利のバトルシティは正当化される。
元より、海馬が参加する、海馬のための大会の側面があったバトルシティだ。
海馬がイベントを通じて社のプロモーションを行っているという事実には、何の不都合もない。
当然、それを卑怯だと呼ぶものは出るだろう。
真の実力ではないと、出会いがしらを討っただけと。
嘲るものがいるだろう。
だが、そんなものはどうでもいい。
(雑音は、これから僕が、黙らせるんだ。僕の力で。僕の実力で!)
竜崎。
海馬。
遊戯。
城之内。
そして、舞。
バトルシティで彼らは、自分が使ったシンクロという技術に、不満の一つも漏らすことはなかった。
勝利を一人の決闘者として認め、正面からぶつかってくれた。
その想いに、勝利は報いたかった。
受け取ったカードを胸に、勝利は闘志を燃やす。
勝利は、変わった。
バトルシティを戦い抜き、勝ちの価値を知り、共に戦う友を尊ぶ。
そして勝利は、初めて自己を誇示する。
(僕たちのバトルシティの凄さを。僕たちの決闘の素晴らしさを。この僕が伝えて見せる!)
勝利は、自分の胸を強くたたく。
その心を、誓いを、見せつけるように。
「海馬君。その役目、担わせてくれ」
「……フン。もとより貴様に拒否権などない」
海馬はぶつけるようにものを投げつける。
勝利がとっさに受け止める。
それは、決闘盤だった。
「……海馬君」
「さあ、シンクロ使いとしての実力。見せてみるがいい。我が、ブルーアイズに向けてな!」
そういいながら、海馬はいつの間にか装着していた決闘盤を見せつける。
それだけで、勝利はすべてを理解した。
(……やるってことだ。新しい友達たちと、決闘を。海馬君と、全力の決闘を!)
「……海馬君。最高だね」
「フン。先に行くぞ」
海馬は、その部屋の隅の扉から、ガラス張りで中が見える、決闘ルームへ入っていく。
その気高き後ろ姿に感動する勝利は、気づけない。
海馬の、愉快そうなその笑みに。
(……フッフッフ。強化されたのが、貴様のデッキだけだと思わないことだな。勝利!)
「決闘フィールド準備完了! 瀬人様! いつでも開始できます!」
研究室のマイクを通して響き渡る声をBGMに、モクバは興奮し昂っていた。
モクバもまた、バトルシティの激闘をその目で間近に感じていた一人であり、バトルシティというもののレベルを知る一人なのだ。
(す、すげぇ……あのバトルシティで実現しなかった、兄サマの『青眼』と、勝利の『BF』の決闘……)
モクバは当然のように、海馬を応援している。
否、応援、などという生半可なものではない。
モクバは施設にいた自分たちをここまで引き上げてくれた兄を崇拝し、兄の行動こそが絶対の正であると信じている。
故に、決闘の相手に限らず、いつも当たり前に思っている。
兄サマが、勝つ。
海馬が勝つに、決まっているのだと。
しかし、そんなモクバが、今は食い入るような眼をガラス越しのフィールドに向ける。
その瞳は、片方の勝ちを確信している、予定調和の決闘に向ける視線ではなかった。
(……兄サマが、負けるわけがない。そう思っているはずなのに……)
そして、目線を海馬から勝利に移す。
勝利は、笑っていた。ワクワクがあふれ出るような渾身の笑顔を、海馬に向ける。
「さあ、行くぜ! 海馬君!」
「フン」
勝利 LP 4000
「デュエル!」
海馬 LP 4000
「僕のターン! ドロー!」
勝利は手札を眺める。
表情は笑顔のままだが、瞳に真剣さが宿っている。
(……罠はなし、か。本来なら、モンスターをセットして様子を見るところだけど……)
海馬を見る。
不敵に笑う海馬の笑みが、勝利の闘争心を掻き立てる。
(……海馬君相手に、そんなことをしている時間はない、か)
そして勝利は、ふっと息を吐き、覚悟を決める。
「……よし! 僕は、"BF-陽炎のカーム”を召喚!」
BF-陽炎のカーム
闇属性 鳥獣族 星4
攻撃力 600
守備力 1800
墓地に存在するとき、相手のバトルフェイズ中に墓地のシンクロモンスターの陽炎を生み出す
陽炎はバトル終了後に消滅する
「さらに、場にBFモンスターが存在するとき、このカードは特殊召喚できる! 来い! "BF-疾風のゲイル”!」
『かぁ!』
BF-疾風のゲイル
闇属性 鳥獣族 星3 チューナー
攻撃力 1300
守備力 400
BFがいるとき特殊召喚できる
攻撃を仕掛ける時、風で相手の勢いを半減させる
その展開に、海馬の表情がピクリとだけ動く。
「ゲイルはチューナー……来るか」
「ああ……君を相手に出し惜しみなんてしない! 全力で行かせてもらうよ! レベル4、"BF-陽炎のカーム"に、レベル3、チューナーモンスター、"BF-疾風のゲイル”をチューニング!」
光輝く2体の体が重なり、黒羽が舞う。
その羽が、黒い風によって巻き上がり、一本の柱を作る。
「黒き旋風よ! 天空へ駆け上がる、翼となれ!」
そして、それは舞い降りる。
「シンクロ召喚! 新たな友達! "BF-アーマード・ウィング”!!」
BF-アーマード・ウィング
闇属性 鳥獣族 星7
攻撃力 2500
守備力 1500
シンクロモンスター
BFチューナー+チューナー以外のモンスター1体以
戦闘で破壊されず、ダメージを受けない
戦闘後に、相手に楔の羽を刺す
楔の羽を巻き上げ、相手の攻撃力を0にする
「……」
フィールドに顕現した新たな友の姿。
勝利は満足げな表情で、話しかける。
「……僕の元に来てくれて、ありがとう。僕と一緒に、戦ってくれ」
「あ、あれが……勝利に新たに与えられた、シンクロモンスター……」
モクバが、そのモンスターを見て思わず息を漏らす。
自分たちが与えたとはいえ、場に出るだけで威圧感を与えるその力に、驚愕しているようだった。
「"BF-アーマード・ウィング”の効果は……」
「俺にカードの説明など不要だ」
勝利の言葉を切って捨てる海馬。
その言葉に、勝利はやれやれと反応した。
「戦闘では破壊されず、ダメージも受けぬ無敵のモンスター。まずはそいつを突破することが、貴様の攻略の第一歩というわけだ」
「ま、そういうことになるね。やれるものなら、やってみなよ。僕はこれで、ターンエンド」
「フン。俺のターン、ドロー! 俺はまず、"トレード・イン”を発動!」
トレード・イン
魔法カード
手札のレベル8モンスターを捨てて、2枚ドローする
「俺は手札から、"青眼の白龍”を捨て、2枚ドロー。そして、"復活の福音”を発動!」
「っ! 早速……」
復活の福音
魔法カード
墓地の星7,8のドラゴン族モンスターを蘇生する
「俺は墓地から、ドラゴン族を蘇生することができる!」
海馬の宣言に、勝利が冷や汗を垂らす。
何度も見てきた。
幾度となく感じてきた。
それでも、対峙した今、その圧力に体が震える。
そのモンスターを初めて見た王国の時を、勝利は昨日のことのように思い出していた。
(……ずっと、ずっと思っていたんだ。君と……そのカードと、戦ってみたいって!)
「現れるがいい! 俺の誇り! そして俺の魂! "青眼の白龍”!!!」
光属性 ドラゴン族 星8
攻撃力 3000
守備力 2500
ブルーアイズの咆哮が、全身を突き抜けていく。
勝利は、全身が震えている。
それは、武者震いだった。
勝利 LP 4000 手札4枚
BF-アーマード・ウィング
攻 2500
伏せカードなし
海馬 LP 4000 手札5枚
青眼の白龍
攻 3000
伏せカードなし
「……さすがだね。海馬君。だけど、たとえブルーアイズでも、アーマード・ウィングの装甲を打ち崩すことはできないよ!」
勝利の宣言。
しかし海馬は意に返していないかのように、笑顔を崩さすにカードを発動した。
「フン! その程度のモンスターに、我がブルーアイズの覇道を遮ることなどできはしない! 俺は手札から、"滅びの
「っ!? なるほど……魔法攻撃カード!」
滅びの
魔法カード
ブルーアイズがフィールドにいる場合、爆裂疾風弾が敵を吹き飛ばす
「このカードによって、貴様のフィールドのモンスターは一掃される! たとえ、シンクロモンスターでもだ! 吹き飛べ、アーマード・ウィング! 『滅びの
「ぐおっ!!!?」
勝利 LP 4000 手札4枚
モンスターなし
伏せカードなし
海馬 LP 4000 手札4枚
青眼の白龍
攻 3000
伏せカードなし
「す、すげぇ……兄サマ! 勝利の新たなシンクロモンスターを、一撃で吹き飛ばしちまったぜ!」
「……ごめんね。アーマードウィング。でもっ! 君は役目を果たしたぜ!」
勝利は、海馬の場を指さす。
その先で、ブルーアイズが力なく首を下げていた。
「"滅びの
そのセリフに、モクバが誇らしげに兄に向けていた表情を崩す。
「まさか勝利の奴……新たなシンクロモンスターを、さっそく囮にしやがったのか……信じらんねえ……」
「……フン。さすがはバトルシティを勝ち抜いただけのことはある……と言いたいところだが、甘いぞ! 勝利!」
「っ!?」
「俺は手札から、"天使の施し"を発動!」
天使の施し
魔法カード
3枚ドローし、その後手札を2枚捨てる
「デッキからカードを、3枚ドロー! その後手札を2枚捨てる!」
「……? このタイミングで?」
勝利は、訝しみながら海馬を見る。
海馬に、ミスをした憂いの様子は欠片もない。
(……ドローカードは本来、最初の動きを見せる前に発動して、準備に使うのがセオリーのはず……それこそ、"トレード・イン”と同じタイミングで打てばよかったのに……まるで、ドローカードには興味がないみたいに)
「そして俺は、今墓地に捨てた2枚のカード! "
「っ!? "
光属性 ドラゴン族 星1 チューナー
攻撃力 300
守備力 250
墓地に送られた時、卵がかえり、ブルーアイズを呼び寄せる
「まさか海馬君、君も新カードの開発を……」
「あいにくと、シンクロモンスターの開発着手は間に合わなかったがな。俺はこのカードの効果で、2体のブルーアイズをデッキから手札に加えることができる!」
「な、なんだって!?」
勝利の背中に、ぶわっと汗がにじむ。
勝利だけではない。
モクバも、研究員も全員、事態を正しく理解し、戦慄していた。
「これで兄サマの場と手札には、ブルーアイズが3体……」
「まさか……」
「1ターン目で……」
「覚悟しろ勝利! 俺は手札から、"融合"を発動!」
融合
魔法カード
決められたモンスター2体以上を融合させる
場のブルーアイズ。
そして、手札のブルーアイズ2体が、天に昇っていく。
その輝かしい姿に、勝利は思わず目を逸らす。
そして場に、絶望の光が舞い降りた。
「さあ、俺に勝利をもたらせ! 究極の僕! "青眼の究極竜《ブルーアイズ・アルティメットドラゴン》”!!」
『『『グギャア――――――!!!!』』』
青眼の究極竜《ブルーアイズ・アルティメットドラゴン》
光属性 ドラゴン族 星12
攻撃力 4500
守備力 3800
「……これが、君の全力なんだね」
「フッフッフッフッフ! アーッハッハッハッハッハ!」
海馬の高笑いが、部屋に木霊する。
絶望のフィールドと裏腹に、決闘はまだ始まったばかりだった。
というわけで、タイトル通り、勝利vs海馬戦です。
なぜこの戦いを書こうとしたかというと、理由は二つ。
・シンクロを出す良い言い訳がほしかったから
・バトルシティを描く中で、勝利vs海馬を書くタイミングがなくなってしまったから
デス。
特に2個目は遊戯王の二次創作を作るにあたり、あまりにももったいなく思ったので、ここで書くことにしました。
ということで、再び予想アンケート。
この決闘、勝つのはどっちだと思いますか?
勝つのは……
-
BF 勝利
-
青眼 海馬