遊戯王~黒き羽根は夢に舞う~   作:haruko

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遊戯王シリーズで一番エミュが難しいのは、海馬かもしれませんね。


欲した決着

 

 

 

勝利 LP 0

 

海馬 LP 0

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

「ハァ……ハァ……」

 

 

空間が切り取られ、時が止まったのかとすら思える静寂の最中に、激闘の末に肩を上下に動かす二人の決闘者の息遣いだけが響き渡る。

 

片膝をつく海馬。

尻もちをつく勝利。

 

両者、疲労困憊。

 

そしてそれを見届けてか、静かに消えていく、ブルーアイズたち。

 

 

力の全てを出し切った末の両者ライフアウト。

引き分けという結末。

 

文句のつけようのない、互角の両者がたどり着くべくしたたどり着いた結果だった。

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 

しかし、どれだけ苦しくままならぬ状態であっても、途切れさせない闘志を燃やし、真っすぐに互いを見据える二人。

 

誰よりもこの結末を受け入れがたく、そして、口惜しく思っているのは、外ならぬ勝利と海馬だった。

 

 

 

((……あのとき……))

 

 

 

 

『魔法カード、"スタンピング・クラッシュ"を発動! このカードによって、魔法・罠カードを破壊! そして貴様に、500ポイントのダメージを与える! 破壊の対象は、その真ん中のカードだ! アルティメットよ! 伏せカードを踏みつぶせ!』

 

『……伏せカードは、"時の機械-タイム・マシーン”だ。破壊される』

 

 

 

(あの時伏せていたカードは、"時の機械-タイム・マシーン”。"あまのじゃくの呪い"。"ヘル・ブラスト"の3枚)

 

(俺はそのうちの、1枚を破壊できた)

 

 

 

 

 

((……あのときに……))

 

 

 

 

 

(選ばれていたのが、"あまのじゃくの呪い"だったら……)

 

(破壊していたのが、"ヘル・ブラスト"だったなら……)

 

 

 

 

("あまのじゃくの呪い"を破壊される前に発動し、"ブラックフェザー・ドラゴン"の攻撃力を上昇。そして、戦闘破壊された瞬間に、"ヘル・ブラスト"と同時に"時の機械-タイム・マシーン”で"ブラックフェザー・ドラゴン"を蘇生して、僕の"ヘル・ブラスト"のダメージだけを無効化できていれば……)

 

("ブラックフェザー・ドラゴン"を"時の機械-タイム・マシーン”で蘇生したとしても、ブルーアイズたちには攻撃力は届かない。"ヘル・ブラスト"を破壊できていれば……)

 

 

 

 

 

「「……勝っていたのは、()だった」」

 

 

 

 

 

(だからこそ、歯がゆい……)

 

(だからこそ、悔しいんだ……)

 

 

 

 

(後半歩……)

 

(後一手……)

 

 

 

 

 

 

 

(俺の力が、届かなかった……!)

 

(僕の心が、足りなかった……!)

 

 

 

 

 

 

しばらく項垂れた後、勝利が立ち上がる。

周りを飛び回り、勝利を励ます友達を宥め、デッキをしまいながら歩き出し、海馬の前へと立つ。

 

「……」

 

「海馬君……」

 

勝利は、そっと右手を差し出す。

海馬はその手に目もくれずに、じっと勝利を見つめていた。

奥歯を噛みしめ、必死に笑顔を作っているのが、よくわかった。

 

 

「……いい決闘だった。僕と戦ってくれて、ありがとう」

 

 

ほんの一瞬の空白の後、海馬がその手を払い、立ち上がる。

その行動を想定していた勝利は驚きもせず、ひりつく手をひっこめた。

 

 

「……今日のところは、この屈辱の結果を受け入れてやる。だが、この借りはすぐに3倍にして返してやる! 遊戯よりも先に、まずは貴様だ。勝利!」

 

 

海馬のその宣言に、勝利は軽く喉を鳴らしながら笑う。

 

 

「望むところさ。そして僕だって、このままにはさせないよ。海馬君」

 

 

一歩踏み出し、笑顔のまま海馬を睨み返す。

数センチで頭がぶつかりそうな距離で、交差する視線が火花を散らしていた。

 

 

 

「貴公子だの、王子(プリンス)だの、二番手(セカンド)だの。外野に何を言われようが、そんなことはどうでもいい。でもね……」

 

 

 

勝利は、そっと海馬から離れ、胸に手を当て目を瞑る。

 

その瞳の奥に過ぎるのは、目指すべき、頂点に君臨する友の姿。

 

 

 

「決闘者における、2位という場所。それは、遊戯君に次ぐ決闘者であることの証明。そして、遊戯君へと挑み続ける戦士の証。そう簡単に譲るわけにはいかないんだ」

 

「……フン」

 

 

 

 

回答に満足したのか、海馬が勝利の横を通り抜け、灰色の空間から脱出しようとドアに向かい歩き出す。

 

そして思い出したかのように振り返り、懐から取り出した何かを、勝利に投げつけた。

 

「うおっと……これは……」

 

勝利は受け取ったものを見る。

それは……カード、のような見た目をしていたが、厚みも、質感も自身が所有している者とはかけ離れている。

裏面の模様も、自分の知るものよりも色鮮やかに光って見えた。

 

「……なに、これ……っ!?」

 

疑問を浮かべたままそのカードを裏返した勝利。

その瞬間に、言葉を失くした。

 

 

 

「次からは、俺が呼んだら自分でここまで来い」

 

 

 

海馬の言葉に、そのカードの意図を完全に理解する。

様はこれは、カードを模した入館証だということだ。

 

だが、勝利の焦燥は消えない。

理由はそのカードの、表面にあった。

 

 

 

 

 

「いやいやいや! だったら臨時入館証とか、そういうのを作ってくれればいいだけでしょ!? これ……社員証(・・・)じゃないか!?」

 

 

 

 

そう。

それは、勝利の顔写真と名前入り。

そしてその下に、『海馬コーポレーション』の名前とロゴマークが刻まれた、身分証明書として十分な代物。

 

 

 

明らかに、この会社に勝利が所属しているという事実を証明するための1枚だった。

 

 

 

「フン。この海馬コーポレーションという、栄えある時代の勝馬に乗ることができた幸運を喜ぶがいい」

 

「……」

 

 

 

話が通じているのかすら疑いたくなる海馬の傍若無人っぷりに、勝利は思わず顔を伏せる。

 

「普通、僕と僕の保護者の同意が無きゃ、こんなことができるわけないでしょ……」

 

「お前の方で書類はまとめておけ」

 

「後追いじゃダメだろ……そもそも僕、まだ受け入れられてないんだけど」

 

「貴様は先刻ぬかしたはずだ。『広告塔の任を、担わせてもらう』と」

 

「……」

 

 

 

就職となると、それとこれとは話が別だろ。とか。

そもそも今社員証があるということは、僕の返事を待たずに計画を進めていたんじゃないか。とか。

 

詳しくはわかっていないが何かしらの法に引っかかっているのでは。とか。

 

 

 

まだまだいえることなど山ほどあったが、それらを勝利はすべて噤んだ。

 

 

 

 

(唯我独尊とか……そんなレベルの言葉じゃあ言い表せない。この人は、自分以外のこの世のルールが、自分に合わせて動くべきだと、本気で思っているんだ……)

 

 

 

 

「今後俺から呼び出した時は、デッキをもってこの部屋で待機しておけ。今日の貴様の役目は終わった。とっとと失せろ」

 

「……」

 

 

 

 

君に連絡先を教えた覚えもない。

などと、言ってもろくな答えは返ってこないだろう。

 

 

 

 

勝利は大きくため息を吐き、海馬を追う形で部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あのワンマン社長が、よく会社を崩壊させずに成立させられているものだ……社員の中で、不満とかないんですか?」

 

「いえ。瀬人様は、わが社になくてはならないお方ですから」

 

「……実力で黙らせているってことか。それはまた、海馬君らしい。とはいえ、文句を言えと言われれば、出てくるのは一つや二つじゃないんでしょう? 磯野さん」

 

「……あはははは」

 

帰りの車の中で、運転手である磯野の引きつった表情から漏れ出た乾いた笑いが響き渡る。

 

「お家事情はある程度聞いているから、本人に言うことはないですけどね」

 

「お心遣い感謝します」

 

海馬への文句がひと段落したのか、その言葉を最後に少し勝利が窓の外を見ながら、黙りこくる。

そうしている中で、勝利がふと、海馬から投げ渡された社員証を目の前に翳す。

磯野はミラー越しにその姿を横目に見ながら、勝利の様子を伺っていた。

 

 

(……まさか僕が、形式上だけとはいえ、海馬コーポレーションに所属することになるとはな)

 

 

成り行きとはいえ、世間的に言えば超一流企業に分類されるであろう海馬コーポレーションの社員証。

自らを振り返りながらその社員証を見つめ、それが手元にある現実が自分の生い立ちとどうにも合わずに、何とも言えない気持ちになる。

 

 

(……BFに出会い、遊戯君に出会い、海馬君に出会い、竜崎君たちに出会い……そして、舞さんに出会い。僕は、ここまで来れた。ここまで変えてもらえた)

 

 

数年前の自分に言ったって、まるで信用してもらえないだろうな。

そう思い、自嘲するように笑う。

 

 

「まっ。今回は海馬君の気まぐれに、素直に感謝しておこうかな」

 

 

 

 

「……僭越ながら。瀬人様は決して、気まぐれでそれを勝利様に託したわけではないと思います」

 

 

 

 

勝利の呟きに、磯野の声が割り込む。

磯野はまっすぐ前を向きながら、真剣な、かつ柔らかな笑顔で話を続ける。

 

「決して口には出しませんが、瀬人様は、勝利様を高く評価なさっています。おそらく、武藤遊戯様と、同等のレベルまで」

 

「……それはどうかな。少なくとも、遊戯君ほど僕の事を絶対視しているようには見えないね。彼にとっての好敵手は、遊戯君たった一人でしょう?」

 

「それはおっしゃる通りです。ですが人として、そして決闘者としては、勝利様に対する評価は、遊戯様とそう遠くないと、瀬人様の振る舞いから私は感じました」

 

「その磯野さんの目と言葉は、信じたいですけど」

 

「恐縮です」

 

磯野の言葉に、勝利は何とも言えない表情で頭を掻く。

嬉しさ半分。そして、困惑が半分。といった様子だった。

そんな勝利を見て、磯野は続ける。

 

「瀬人様は誇り高く、その大切な誇りを自身で守る力があるお方です。それ故に、他者からすれば突飛で、咎められるべき行動をとることもあります」

 

「これとかね」

 

勝利がひらひらと社員証をバックミラーに移して見せつける。

それに磯野は、苦笑いを返す。

 

「まさしく……ですか、決して浅慮な判断をする方ではありません。その行動理念には必ず、瀬人様の譲れない想いが、信念があります」

 

「……信念か」

 

まだ半信半疑、といった様子の勝利。

 

 

わからなくはない。

でも、身勝手ではあるだろ?

 

 

そんな、認めるところと認めないところがせめぎ合い、どちらにも触れないような状態が、勝利の心を支配していた。

 

 

 

 

 

「……大変な無礼を承知の上で、先にお詫び申し上げますが……勝利様をお迎えするにあたり、勝利様の身辺について、事前に調査をさせていただきました」

 

 

 

 

 

「……側近の方の仕事も、大変ですね」

 

「すみません」

 

「いえいえ。僕はもう気にしてませんから。所詮は過去の話です。嫌な話だったでしょう? こちらこそ、御目汚しを」

 

「そんなことは」

 

運転に支障が出ない程度に、それでいて丁寧にこちらに頭を下げる磯野。

そんな振る舞いに、勝利は笑いながら返した。

 

「おっしゃる通り、それに伴い、勝利様のお辛い過去の話を聞くこととなりました。瀬人様はおそらくその情報で、勝利様を自社に迎え入れることを決断なされたのだと思います」

 

「……僕の過去に同情して? それは何というか……あまり、海馬君のイメージには合わないなあ」

 

「いえ、そうではありません」

 

勝利の言葉を、磯野は確信をもって否定する。

 

「勝利様は今現在、黒羽真黒様の庇護下で生活をなさっていますね。そして真黒様から頂いている生活費を、ご自身のカードによって得た賞金と、バイトのお金で少しずつ返却している最中という状態でいらっしゃる」

 

「……よく調べましたね。最近は時間が取れないから、バイトをしていたのはほんの一時期だったのに……って、まさか海馬君……」

 

 

 

「ハイ。瀬人様は、勝利様に正式な給料という形で謝礼を渡すべく、このような形式をとったのだと思われます。勝利様が今後に、生活費で苦労することが起こらぬように」

 

 

 

少し固まる勝利。

それを見て磯野は、そっと車のコンソールから、封筒を取り出して後ろ手に勝利に渡す。

無言で受けとった勝利は、まさか、と零して不躾と思いながらも中身を確認する。

数枚の万札。

それだけで察し、数えるのをやめた。

だが、数えなければわからない程度の枚数が入っていたことは、しっかりとその目で確認した。

 

もう一度、何とも言えない表情を作り、頬を掻いた。

 

 

 

「……『実は全部商品券でした』。なんていうお茶目は、海馬君にはないだろうな」

 

「はい。れっきとした、勝利様への給金になります。明細は、また別途郵送します」

 

 

 

淡々と仕事の話をする磯野に、勝利は諦めたかのような、深い深いため息を吐いた。

 

 

「……これも、同情ではないんですよね?」

 

「ハイ。おそらく、勝利様ほどの決闘者が、そういった事情で一線から退いていくようなことなどあってはならないという、瀬人様なりの、勝利様へとリスペクトの念によるものかと」

 

「……伝わらないよ。それは」

 

「もとより瀬人様に、想いを理解してもらおうなどという考えは存在しないものと愚考します。私の言葉はあまり気にせず、受け取っていただけると幸いです」

 

「……海馬君に言っといてください。『任された仕事は、全力でやる』って」

 

「確かに」

 

 

 

それからそう長くない時間で、車が停車する。

そこは、勝利のアパートだった。

 

「……誘導もしてないのに僕のアパートに……いや、もういいか。いまさら」

 

「そうおっしゃっていただけると幸いです」

 

磯野が外を回り、勝利の傍のドアを開ける。

降りる勝利が歩き出しても、下げた頭を上げることはない。

 

これが、大人で。

これが、成り行きとはいえ自分が所属する組織の、上に立つ人間の振る舞いなのかと、感動を覚えた。

 

「ねえ、磯野さん」

 

「はい?」

 

問いかけに、磯野がそっと顔を上げる。

勝利の視線が、真っすぐに磯野を捉える。

 

「社員ってことはさ。次回から磯野さんたちの、後輩として扱われるってことかな?」

 

「っ!? いえ、そのようなことは。雇用の形態をとったとはいっても、業務をお願いするわけではありませんし、瀬人様からもそのような指示は……依然、お客様として対応をさせていただく想定です」

 

「ふーん……依然、お客様か。なら、多少のわがままは、言っても許されるかな」

 

そういった勝利は、悪戯な笑みを磯野に浮かべる。

磯野は引き続き困惑の表情を、勝利に向けた。

 

 

 

「これからも、送り迎えは磯野さんにお願いしたい。って、海馬君に伝えてもらえますか? もう少し磯野さんに、海馬君の話を聞いてみたいからさ」

 

 

 

「っ! ハハハ……どのような結果になるかはわかりませんが、お伝えさせていただきます」

 

 

 

その返答に一つ笑った後、勝利はアパートに戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、後日……。

ある日の、童実野高校の一幕。

 

 

 

「よっしゃ、終わった終わった! 帰ろうぜ!」

 

「あいつ……結局昼以外の全部の授業で寝てやがったな……」

 

「今度こそ落第すんじゃないの?」

 

「ま、まってよ! 城之内君!」

 

放課後の城之内たちのいつもの一幕。

しかし、本来そこに加わっているはずの一人がいない。

 

その当人はというとがやがやと騒ぐ遊戯たちの脇を、申し訳なさそうな表情で、出来れば声を掛けられまいという様子で教室を出ようとしていた。

 

「……勝利君」

 

「っ……やあ、遊戯君」

 

「なんだよ勝利? 今日も無理なのか?」

 

「うん……僕としても、そちらに行きたいのはやまやまなんだけどね」

 

「お前。本当にいったい何やってんだよ?」

 

「ごめんね。こればっかりは、僕の一存じゃしゃべれないんだ。それじゃ……」

 

 

 

「おい! 校門にめっちゃマブい女が来てるぜ!?」

 

「マジ!? 見に行こうぜ!」

 

「馬鹿。お前ら知らねえのかよ。あの人は……」

 

 

 

 

勝利が立ち去ろうとしたその瞬間、窓際にいた同級生たちが騒ぎ立て、駆け足で勝利たちの横を抜けて外に駆けていく。

その台詞に遊戯たちが顔を見合わせる。

 

「……校門で、美人が待ってるって……」

 

「あのひとよね?」

 

「ああ……おい勝利。お待ちかねだぜ?」

 

からかうような調子で勝利にそういう城之内だったが、当の勝利を見ると、そんな感情は消え失せた。

勝利はというと、顔をこれでもかというほど青くして、その場で項垂れている。

それは、遊戯たちに捕まった時の、比ではなかった。

 

「しょ、勝利君……?」

 

「……そうだね。お待ちかねだ。そして……逃げられようハズもない」

 

行こうか。

そう言って、ゆらゆらと歩き出す勝利は、まるで死刑宣告を受けたかのような、消え入りそうな姿だった。

遊戯たちは顔を見合わせ、勝利の後をついていった。

 

 

 

 

 

 

「……黒羽勝利は、いるかしら?」

 

「は、ハイ! まだ学校にいるかと思います!」

 

「そう。良かったわ。ありがとうね」

 

「う、うわ……く、孔雀舞としゃべっちゃったぜ!」

 

校門の隅に身体を預け、腕を組みながら通りすがる学生に笑顔を振りまく舞。

しかし、勝利には遠目からでも、その笑顔の裏に青筋立てた怒りの表情が見えていた。

 

「……おい、勝利」

 

「呼ばないで」

 

「……俺らの後ろにいたって、隠れらんねーだろ……」

 

「やましいことしたわけじゃないんでしょ? 堂々と行きなさいよ」

 

「他人事だろうけど、そんなこと言わないでくれ……」

 

言いながらも歩みを止めない城之内たち。

徐々に皆と校門の距離。ひいては舞との距離が詰まっていく。

 

程なくして、舞がこちらに気づく。

そして、ずんずんと近寄ってくる。

 

「はーい。久しぶりね、あんたたち」

 

「舞さん。元気そうだね」

 

「ええ……とーっても元気よ。おかげさまでね」

 

言葉の裏に何かを含みながら、舞はそういう。

そして、城之内の後ろに隠れた勝利を、首根っこを掴んで引きずりだした。

 

 

 

「……や、やあ。舞さん。久しぶり……」

 

「久しぶり……ねえ? ええ、とっても久しぶりよ。あんたが、あたしを無視し続けるもんだからね」

 

 

 

「む、無視じゃないよ!? ただ、予定が埋まっちゃってて、会える時間が作れないって話で……」

 

「へぇ? こんなかわいい彼女のデートの連絡を3回もほっぽって、一体どんな予定があったのか。じーっくりと聞いてみたいところねえ?」

 

「……」

 

借りてきた猫のように黙りこくる勝利。

舞の言葉が正論である以上、言えることが何もない。といったところだろう。

 

「……勝利の奴、どうすんだ?」

 

「どうすんだって……そりゃ、浮気とかしてるわけじゃないんでしょうけど……」

 

「どうせ舞にも俺たちと同じように、『言えない用事がある』って言ってんだろ? じゃあもう詰みじゃねえか」

 

本田のその言葉を、遊戯たちは無言で肯定する。

 

 

 

彼らはすでに勝利から、

 

何かしらの用事により、ある程度の期間の拘束が余儀なくされていること。

その内容は、皆に告げることができないこと。

 

それらを聞いている。

当然、同じ内容を舞にも話していることだろう。

 

勝利が悪事に手を染めている。等ということは、彼らにとって考慮にも値しない戯言だ。

 

だが、疑わないのであれば、それで終わり。

勝利の事情が、勝利から話せない事情である以上、そこから進む方向はない。

彼らにできることは、勝利を信じることしかないのだ。

 

 

 

だが、それに納得いくのかどうかは、まったくもって別の話。

 

 

 

「さあ。今日こそ、教えてもらうわよ! あんたは、一体どこで、何をしてんのよ!?」

 

「だから、それはいえないんだってばぁ!!」

 

 

 

 

「あーあ……どうすんだよ。これ?」

 

「舞さんの気持ちは、わからなくもないんだけどね……」

 

 

 

 

 

「烏合の衆がぎゃあぎゃあと。やかましいものだ」

 

 

 

 

 

その時、場に聞き覚えのある傲慢な声が響き渡る。

衝撃の助け舟に、一番驚いていたのは勝利だった。

 

「か、海馬君!?」

 

「んだよ海馬? 学校なんかほとんど来てねえくせに、何の用だ?」

 

「貴様に用はない。引っ込んでいろ凡骨」

 

「な、なにお~~!? バトルシティベスト8のこの俺を、コケにしやがってぇ!?」

 

城之内の怒りに端から取り合う気などないといった様子で無視を決め込み、舞に詰め寄られる勝利に近づく。

 

「……まさか。海馬君が迎えに来てくれたの?」

 

「勘違いするな。別件の用事が近くにあっただけだ。ついでに拾いに来てやったに過ぎない」

 

その言い分に、舞はすべてを理解する。

 

「……何よ? あんたの用事って、海馬との話だったの?」

 

「……うん。実は、KCとの契約があってね。まだ秘密のプロジェクトだから、みだりに話せないんだ。ごめんね」

 

素直な謝罪の言葉を吐く勝利。

納得のいく理由と謝罪が聞けた以上勝利を詰めても意味がないと、そっと襟をつかんでいた手を離す。

 

「ありがとう。舞さん」

 

「……いいえ。悪かったわね」

 

 

 

「くだらん内輪もめは終わったか。なら、行くぞ。決着をつけてやる」

 

「……ああ、そうだね。僕もそろそろ、終わらせたいと思っていた。舞さんとのデートの時間も、作りたいからね」

 

 

 

そういう二人の間に、火花が散った。

それを聞いて、決闘者たちは、一つの事実を理解した。

 

 

 

 

「……なんでぇあいつら。極秘プロジェクトとかなんとか言って、決闘してるだけじゃねえか」

 

「あはは。でも、気になるね。勝利君と、海馬君の決闘」

 

「ごめんよ。二人とも。そこが一番重要なところだから、内容は話せないんだ」

 

「なるほどな。でも、結果くらいは聞いてもいいんだろ? どっちが勝ってんだよ?」

 

本田の言葉に、勝利はほんの少しだけ眉間に皺をよせて、答えた。

 

「……3戦やって、引き分けさ」

 

「……3戦やって、引き分け? ってことは、1戦は引き分けたってこと?」

 

言われて、遊戯は驚く。

ターン制で進んでいくM&Wのゲーム性的に、引き分けはめったなことでは発生しない。

 

(やっぱり、海馬君と勝利君の実力は、伯仲している。ということは、もう一人の僕とも、ほぼ互角ってことだ……これは、うかうかしてられないぞ)

 

そんなことを考えている遊戯の思考を、勝利の言葉が切り裂いた。

 

 

 

 

 

「……違うよ。遊戯君。3戦やって、3戦とも引き分け(・・・・・・・・)。3分けさ」

 

 

 

 

 

「……は?」

 

「……え?」

 

「なんだって!?」

 

決闘者たちが、思わず驚愕の声を口から零す。

 

1戦発生しても珍しい引き分けが、連続で3回。

それは、偶然で発生する範疇を大きく外れている。

 

「な、なにがどうなって、そうなるの?」

 

「……当然、僕らも真剣に勝つためにやってるんだけど。僕の"ヘル・ブラスト”とか、海馬君が"ラストバトル!”で"異次元竜 トワイライトゾーンドラゴン"を選んだり、"メタモルポット"で同時にライブラリアウトしたり……いろいろね」

 

「……フン」

 

その瞬間に遊戯たちは、理解した……海馬と、勝利の言葉の意図。

 

 

 

『行くぞ。決着をつけてやる』

 

『……ああ、そうだね。僕もそろそろ、終わらせたいと思っていた』

 

 

 

(……予定が空かないわけだ)

 

(結局こいつらも、決闘馬鹿じゃねえか)

 

 

 

 

(……結局、あたしのことないがしろにして、決闘してるだけじゃないのよ……)

 

 

 

 

 

「……無駄に時間を浪費したな」

 

「関係ないよ。今日は、すぐに終わらせて見せる」

 

 

 

 

 

そういった二人は、車へと乗り込んでいく。

 

その背中は、弾んでみえる。

 

 

 

 

 

海馬。

勝利。

 

二人の決闘には。憧れも、怨嗟も、目標も、上下もない。

 

 

 

ただ、戦いたい。

あと一歩。後半歩。上に行きたい。

 

目の前の決闘者に、勝ちたい。

 

 

 

 

それだけの、二人だった。




第3のヒロイン爆誕。

というわけで、バトルシティでは描ききれていなかった勝利と海馬という組み合わせ。関係性に触れることができて、自分としては満足です。
ついでに、勝利の実力の格付けもほぼ完了。

私の中の決闘者の強さランクは
遊戯≧勝利=海馬≧マリク≧城之内とか舞とか竜崎とか

といったところでしょうか。

いろいろな補正込みなら、城之内が竜崎、舞、マリクの上にいくのでしょうが、基本的には城之内は舞たちより下に来そうなイメージ




海馬にとっての勝利は、遊戯と違って思い入れも、強い感情もない。
それが故に、実力の近い者同士、まっすぐに戦いあう、純粋なライバルという立ち位置になりました。

彼らにはこれからも、関わってもらうつもりです。




さて、改めてご報告。
次話より、乃亜編に入ります。

そして同時に、私の帰省による、ネット接続できない期間が始まります。

なのでこの期間に、乃亜編の書き溜めを行っていこうと思っています。
具体的には、24日まで、投稿をお待ちいただくことになるかと思います。

皆さんにいただいたアイデアをもとに、最高の乃亜編を描けるよう頑張りますので、応援の想いをそのままにお待ちいただけると幸いです。


では、8/24にまたお会いしましょう。
お楽しみに。
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