遊戯王~黒き羽根は夢に舞う~   作:haruko

87 / 93
というわけで、お久しぶりです。
いよいよ、乃亜編が開始します。
といっても、今回は導入だけですが。

ちなみに、どれだけ書き貯めで来たかというと……本話含め、2.5話といったところでしょうか……

実家はとても心地よく休めたのですが、ネットがつながらない故に、カードも調べられず、アニメも見れないという致命的欠陥がありました。

まあ、何とかなるでしょうの精神で、開始します。



アニメオリジナル〜乃亜編〜
新たな戦い! 新たな決闘者たち!


 

 

「……ううん……舞、さん……」

 

「……ばかね……しょう……り……」

 

 

時はバトルシティの決勝前の明け方。場所は決闘艇の自室の中。

勝利の部屋で、安らかに眠る二人の寝息が、優しい空間を作り上げる。

 

二人仲良く一つのベッドで……というのは当然というか勝利が拒否したため、舞にベッドを明け渡し勝利は一人ソファで眠っていた。

 

飛行船内、といっても、そこは海馬コーポレーションの技術の結晶であるその船。

安定飛行で空の旅とは思えぬ快適さに、おそらく5桁では買えないであろう高級なソファ。

勝利は何の苦も感じることなく、熟睡していた。

 

 

 

 

だが、その優しさと安眠ゆえに防ぎようのなかったトラブルが、勝利を襲う。

 

 

 

 

どん、という、およそ飛行船で宙を行く現状では感じるはずのない爆音と衝撃で、勝利はソファからたたき落とされ、眠りからはじき出された。

 

 

「どわぁ!!? いったぁ……な、なんだなんだ!?」

 

「……ううん。なに、何事?」

 

 

勝利の声か、それとも爆音によってか目を覚ました舞も、現状の把握のためにあたりを見回す。

 

しかし二人で見渡した限りの景色に、音の発生源は見受けられない。

 

 

「おい! どうなってんだ!?」

 

 

そしてその二人の行動に反応するように、飛行船内がどたばたと騒がしく動き出した。

廊下から、モクバや遊戯、本田たちの声が響き渡る。

 

「……どうやら、大事みたいだね。嫌な予感がしてきた」

 

「全く……決勝までの時間くらい、ゆっくりしたかったんだけどね」

 

 

叶わず消えた舞の願いを噛みしめながら、二人は壁に掛けた上着に手を伸ばす。

 

 

 

 

 

「やあ。一体何事かな?」

 

「しょ、勝利君! それに舞さん!」

 

遅れてコックピットに足を踏み入れた勝利と舞を、すでに集まっていた遊戯たち、そして海馬兄弟が出迎える。

顔を見合わせ困惑する遊戯たちを代表して、竜崎が声を上げる。

 

「……進行方向が、バグっとるみたいや。決勝の舞台に行く前に、飛行船の行き先を捻じ曲げられとるんやと」

 

「飛行船の行き先を? 誰によ?」

 

「ワイが知るかいな」

 

ぶっきらぼうにそう返す竜崎にも、苛立ちが見える。

竜崎だけではない。遊戯も、杏子たちも、当然勝利たちも。そして、海馬やモクバも。飛行船のコントロールが乱れているという状況に、焦りを隠せない。

 

「な、何者かに、飛行船のコントロールをジャックされています! アルカトラズに、進めません!」

 

「そ、そんな馬鹿な!?」

 

「マニュアルモードへの変更も不可能! 目的地から、遠ざかっていきます!?」

 

「おいおい……何とかなんねえのかよ?」

 

本田の心中をそのまま吐き出したような言葉は、全員の心の代弁だった。

言っても仕方のないことだとはわかっている者の、不安故に言葉にしなければ気がおかしくなりそうだった。

 

「……怖い」

 

「大丈夫よ。静香ちゃん」

 

体を震わせる静香を、舞がそっと抱き寄せる。

 

(……城之内君がいない今、一番心が不安定なのは静香ちゃんだろうな。舞さん、フォローありがとう)

 

(任せなさいっての)

 

舞と目線を交わすことで会話を行い、同時に信頼できるものを感じることで、落ち着きを取り戻す二人。

勝利もまた、深呼吸をして、状況の整理を行う。

 

「……いったん、最悪の事態を想定して脱出を考えよう。海馬君、避難経路を教えてもらえる?」

 

「……フン」

 

海馬は顔も見ずに手元の端末を勝利に向かって放り投げる。

そこには、決闘艇の全体図が示されていた。

 

「……ありがとう」

 

その内容を見ながら、海馬たちのやり取りを聞く。

だが、状況は好転してはいなかった。

 

「何者かが、コンピュータに不正にアクセスしているようです! コントロールに介入し、進路を変更しようとしているようです!」

 

「そんな馬鹿なことがあるか!? さっさと排除しろ!」

 

「無理です! 進路が変更されます!」

 

「っ! みんな! 何かにつかまって!」

 

経路確認のために窓際で外を見た勝利が、不意に叫ぶ。

その瞬間に、轟音を立てながら着水した決闘艇が大きく揺れる。

 

「どわあああ!?」

 

「きゃああああ!?」

 

「こ、殺す気か!?」

 

「何とかなんねえのかよ海馬!?」

 

「だ、ダメです! コンピュータ奪還できません! 完全にジャックされています!」

 

「んなあほなことあるかい! 仮にもお前ら、天下の海馬コーポレーションやろ!? 何を簡単にサイバー攻撃通しとんねん!」

 

「ちっ……」

 

竜崎の言い分が図星だったのか、海馬が黙りこくり、忌々しそうに景色から離れていくアルカトラズを見つめる。

 

(……まさか、剛三郎の亡霊が、俺たちがあの島に行くことを拒んでいるとでも言うのか!?)

 

ひとまず揺れが落ち着いた頃合いに、勝利がそっと口を開く。

 

「……文句はあとにしよう。竜崎君の言う通り、海馬コーポレーションの独立コンピュータをジャックするだなんて、ただ事じゃないよ。危険かもしれないけど、飛行船から逃げる準備を……」

 

 

 

 

 

『その必要はないよ』

 

 

 

 

 

勝利の声を遮ったのは、決闘艇の上部に備え付けられたモニターから響く声だった。

 

「っ!? なんだ!?」

 

全員が、モニターを見上げる。

 

そこにいるのは……少年。

ここにいる誰よりも幼く見える、まさに少年と呼ぶに相応しい風体の男が、移っている。

緑がかった髪色に、あどけなさが残る笑顔。

 

どの情報をとっても、誰なのかという問いの答えは見当たらない。

 

しかし、その鋭い目つきや、独特の雰囲気からは、誰かのことを髣髴とさせた。

 

 

 

「何者だ、貴様は!?」

 

 

 

『待っていたよ、瀬人。そして、ようこそ。決闘者の皆さん』

 

海馬の問いに答えているのか、いないのかよくわからない回答が戻ってくる。

 

しかし、遊戯たちはその答えから、少しずつ情報を集める。

 

 

「……海馬君の事を、呼び捨てにした……」

 

「ああ……海馬君の事を、よく知っている。それに……海馬コーポレーションの事も。じゃなきゃこんなに簡単に海馬コーポレーションの飛行船を乗っ取るなんて、できるわけがない」

 

 

『ふーん。鋭いね。案外、瀬人より君たちと遊ぶ方が面白いのかもしれないな』

 

 

 

「っ! 答えろ! 貴様は何者だ!?」

 

 

 

限界が近いといった様子の海馬が、怒りに任せて問いを放つ。

それをどこ吹く風といった様子で笑う彼が、飄々と答える。

 

 

 

『僕の名は『乃亜』。そうだね。すべてにおいて君を超えた存在だよ。瀬人』

 

 

 

「……ふざけた真似を」

 

『さあ。皆さんを僕の元へ招待してあげるよ。飛行船が到着したら、順番に降りてきてね』

 

 

 

その宣言と共に、モニターが消える。

それと同時に、決闘艇が大きく進路を曲げる。

 

何が起きているのかはまるで分らない。

しかし、あの乃亜という少年がこの事態を引き起こしているということだけは、疑いようもない事実だった。

 

「……いったい、何が起こるの?」

 

杏子が不安の声を漏らす。

飛行船を停止しようと必死に動き回るKC社員の声と、思い通りに動く気配のない船の行方が、心をさらにかき乱した。

 

そして、十数秒もしたころに、事態が動く。

 

 

 

「お、おい! なんだあれ!?」

 

 

 

窓から外を見ていた御伽が、声を上げる。

全員が、御伽が指を刺した方向を見て、驚愕する。

 

 

海が、割れた。

 

 

 

「な、何!?」

 

「こ、これは!?」

 

 

 

海面を割り、中から出てきたのは、大海原のど真ん中に鎮座するには似つかわしくない、鉄の塊。

一瞬、潜水艦でも上がってきたのかと考えるが、その規模はそんなレベルのサイズではないことに、すぐに気づく。

 

巨大なそれは、まさに、要塞。

 

海中より現れた、人工的な移動要塞だった。

 

 

 

「……なんだかわかんねえけど、やばそうだな」

 

「……お土産持たせて帰してくれるようには、見えないね」

 

勝利の軽口に、笑いは返ってこない。

代わりに返ってくるのは、決闘艇がせわしなく動く轟音と、それに焦るKCの皆々様の焦る姿。

 

「決闘艇、着陸態勢! 依然、コントロール不能!」

 

「何とかしろ!」

 

モクバが叫ぶ。

しかし、すでに決闘艇は、要塞の真上にゆっくりと腰を下ろそうとしていた。

その下の要塞は、大口を開けるかのように、天井を開いて決闘艇を受け入れる。

 

「う、嘘だろ……」

 

「で、でけぇ……」

 

「ダメです! 拿捕されます!」

 

 

 

 

 

「……舞さん」

 

「……」

 

舞が、怖がる静香の体を抱き寄せる。

しかし、舞の手もまた、僅かながら震えていた。

それに気づいた勝利は、空いている舞の左手を、そっと握り占めた。

 

「……大丈夫。だよね、舞さん?」

 

「……ええ。当然よ」

 

 

互いの手を、強く握る。

やがて外の光が入らなくなり、飛行船の確保を確認した要塞の天井が、ゆっくりと閉じていった。

 

 

 

 

「あの乃亜という餓鬼が、これほどの仕掛けを……」

 

「海馬君。一応聞くけど、こんなことをされる心あたりは?」

 

「……フン。海馬コーポレーションという会社に対する逆恨みという線ならば、ごまんとあるがな」

 

言外に、「乃亜という者も知らなければ、こんなところに幽閉されるいわれもない」と勝利の言葉を弾きかえす海馬。

勝利もそうだろうなと思っていたため、そのまま言葉をひっこめる。

 

(しかし、この技術力……あの乃亜という少年がどういう人物かはさておいても、こんな大掛かりな仕掛けを一人で動かし管理しているとは思えない……何かがあるんだ。海馬君を狙う、裏に潜む強大な何かが)

 

 

突然起こったこのトラブルを必死に理解しようと頭を回す勝利だったが、整理がつくよりも先に船の着陸が先に来た。

ゆっくりと、中の者たちに衝撃を与えるまいと丁寧に着陸したのが、逆に不気味だった。

 

ほどなくして、再びモニターが勝手に起動する。

そして再び、乃亜の顔がモニターに映し出される。

 

 

 

『さあ、瀬人。降りてもらおう。もちろん決闘者の皆さんもね』

 

 

 

(っ! やはり狙いは海馬君……でも、『決闘者の皆さん』……彼の標的には、僕らも含まれている……?)

 

「断る。と言ったら?」

 

『選択の余地はないよ』

 

乃亜のその声と同時に、飛行船の外で、機械音と共に壁から何かが飛び出る。

光り輝くその体と、鋼鉄の口をこちらに向ける。

 

一目でわかる。銃だ。

脅しか、本物かの区別などできない。

しかし、勝利は直感した。

 

 

(……本物だ。あの乃亜ってやつから……脅しじゃない、本物の殺意を感じる)

 

 

 

「……フン。奴の狙いはこの俺だ。貴様らは、ここで仲良く固まっていろ」

 

「っ!? 兄サマ!」

 

一応、遊戯たちを慮っているのか。はたまた、自分一人で十分だという傲慢さゆえか。海馬は一人先行して船を降りようとする。

それに反応して、モクバも追従する。

 

「モクバ……お前もここで待っていろ」

 

「兄サマ……」

 

大切な弟の体をそっと押し返し、目を鋭く変えてモニターを睨みなおす。

 

「乃亜。貴様の目的はなんだ。要件を聞こう」

 

 

 

瞬間、発砲音が場に響き渡る。

 

 

 

「きゃあ!!?」

 

「うわあ!!?」

 

 

 

『僕は決闘者の皆さんも、といったはずだよ』

 

 

 

したり顔でそういう乃亜に、勝利は、やはり……と静かに零した。

 

そして見計らったように、いや、実際に、乃亜がタイミングを見計らって操作しているのだろう。

タラップが自動で降りて、下船を促される。

 

「……海馬君。どうやら思ったより、敵さんは僕らの事も重要視しているみたいだよ」

 

「うん。海馬君。僕らも関係ないなんて言えない。ひとまず、奴の言う通りにするしかないよ」

 

「……せやな。ここで引きこもっても、なんも進まへん。ハチの巣にされるのもごめんや」

 

「……ちっ」

 

 

海馬の舌打ちを合図に、みんなで慎重にタラップを降りる。

無防備の自分たちに、弾丸の雨を浴びせることなど容易であっただろうが、その悲惨な未来は現実にはならなかった。

 

 

「……どうやら、ただただ僕らの命を狙っているわけではなさそうだね」

 

「……ひとまず安心……していいのか、わからないけどね」

 

「道理が通ってないアホか、なんや目的を持った気狂いか。どっちにしても面倒やな」

 

 

そんな言葉をぶつぶつと垂らしながら、全員が要塞へと降り立つ。

そしてまたしてもタイミングよく、要塞の壁の一部が、横開きに開く。

そこに進め。という、圧力をひしひしと感じる。

 

 

「「せ、瀬人様!」」

 

 

そんな圧力を感じ耐えかねたのか、KC社員の二人が海馬たちを追うように下船しようとする。

が、今度はそんな二人を、容赦なく弾丸の雨が襲う。

 

 

「「う、うわあ!?」」

 

 

 

『次は当てるよ。お前たちに用はない。飛行船の中で待機してな』

 

 

 

乃亜の言葉に息を飲み、海馬に目線を送る。

海馬は無言のまま、態度で二人に、下がれを言い放つ。

 

二人はそれを見届けて、不安そうに引き下がった。

 

 

そんなやり取りを眺めながら、勝利は推測を進めた。

 

 

(……社員の皆さんは、下がらせた。ってことは……逆を言えば彼にとって僕たちは、必要な人間ってことだ。僕や舞さん竜崎君はさておき、本田君や御伽君、静香ちゃんまで……)

 

突如現れた要塞。

並外れた技術力。

 

海馬の全てを超えると豪語する、乃亜の行動。

 

 

得る情報は増えていくのに、謎は深まるばかりだった。

 

 

 

「……」

 

やがて海馬が、無言で歩を進める。

このままここにいても何も始まらないと判断したのだろう。

 

同意見と考え、進もうとしたその時、舞が足を止めて静香を引き留める。

 

「静香ちゃん。あなたは、飛行船に残っていなさい。この先は、危険よ」

 

「……舞さん」

 

しかし静香は、舞の制止を振り払い、海馬を追うように歩を進める。

その姿に、皆が目を丸くした。

 

「皆さんだけを危険な目に合わせて、じっと待っているなんてできません。それに……このままじっとしてたら、脱出できないまま、お兄ちゃんが……」

 

「……静香ちゃん」

 

勝利たちの言葉を待つより先に、静香が駆け出す。

それを追うように、遊戯たちもまた走りだした。

 

「し、静香ちゃん!」

 

「待って!!」

 

それを見送った勝利と舞は、その後ろの竜崎のため息を聞く。

 

「……お前が進むのが、一番危険やろがい」

 

「あの行動力。さすがは、城之内君の妹さん。ってとこかな」

 

「……かえって、焦らせちゃったかしら」

 

「じっとしていられないんだよ。こんな危険なところで、問題を僕たちに任せて、自分は起きてくれない兄の傍で待ち続ける。これが彼女にとってどれだけ酷なことかっていうことを、僕たちは理解していなかった」

 

「……そうね。今のは、あたしのミスよ」

 

肩を落として反省する舞。

その背中にそっと手を添えて、勝利が言う。

 

「うん。僕たちのミスだ。だからこそ、彼女は守ってあげなきゃいけない。ここにいない、城之内君のためにも」

 

「……うん。そうね」

 

舞は自分の顔を両手で打って、少し息を吐いた後、奥に消えていった遊戯たちを追う。

その後ろから、勝利、竜崎の順に舞の後ろ姿を追っていく。

 

「……ったく。しゃあないのう」

 

「迷惑かけるね。竜崎君」

 

「しゃあなしやろ。ここを出たいと思っとるんは全員一緒。一蓮托生や」

 

竜崎が、勝利の背中を強くたたく。

 

 

「……こんなしょうもないところで、終わってたまるかっちゅうねん。バトルシティは、まだ終わってへんねや」

 

 

「ああ。そうだね」

 

 

 

 

 

 

「……いったい、僕たちをどうするつもりなんだ!」

 

遊戯の怒りの声が、無機質な金属に囲まれた廊下に響き渡る。

その後を追うように響く乃亜の笑い声が、遊戯たちの不安と怒りを逆なでする。

 

『実は君たちに会いたいという者たちが、一日千秋の想いで君たちを待っていてね。ここから先は、彼らが状況を説明してくれるよ』

 

「……君たち、っていうのは?」

 

『武藤遊戯たちの事だね。厳密にいうと、復讐の相手が一人足りないらしいけど、まあ、僕の知ったことじゃあない』

 

「……」

 

(復讐。遊戯君たちに……おそらく足りないって言っているのは、城之内君のこと……)

 

何にせよ、待っている者たちというのは、碌な奴らではなさそうだ。

元々予想していたが、厄介ごとが確定してしまった事実に、勝利は深くため息を吐いた。

 

 

 

 

 

やがて、長く息苦しい廊下を抜けたのちに、真っ暗な部屋へと突き当たる。

音の反響でやたら大きな部屋であることだけは把握できるが、それ以外は何も把握できないほどの漆黒だった。

 

「なんだ? このだだっ広いだけの部屋は?」

 

「ちょっと……いったい、何をやらせるつもりなのよ!」

 

不信感が怒号となって部屋に木霊する。

しかしその怒りは誰に届くこともなく溶けていく。それがどうにももどかしく、苛立ちを加速させた。

 

 

もう一つ文句の言葉を吐き捨てようとしたところだったが、その瞬間に、当てつけかのようにはやが眩く照らされる。

 

 

「な、なんだぁ!?」

 

「誰だ!?」

 

 

海馬の声が、場に響く。

その言葉に、不敵な笑い声がいくつか重なって帰ってきた。

 

 

 

「「「「「フフフフフ……」」」」」

 

 

 

 

 

「海馬瀬人。そしてそのオトモダチ諸君。久しぶりだな」

 

 

 

 

 

 

「き、貴様らは……BIG5!?」

 

 

 

 

「び、BIG5!?」

 

「BIG5ですって!?」

 

「っ!? 遊戯君に、舞さんも!? 知っているの!?」

 

 

海馬たちの、そして舞の反応に驚く勝利。

てっきり、先刻の乃亜の『武藤遊戯』たちという言葉を遊戯と城之内、それに杏子たちを加えたメンバーであると認識していた勝利は、予想外の展開に動揺を露わにした。

 

「こいつらは、海馬コーポレーションの元重役連中だ。王国の時にペガサスと一緒になって海馬の事を蹴落として、海馬コーポレーションを自分たちの手にしようとしていた、汚い奴らなんだ」

 

「……そうか。そんなことあったね。王国の時にペガサスが海馬君を狙っていたのは、こいつらと結託して、海馬コーポレーションのシステムを手に入れようとしていたからってことか」

 

「そう。そして、王国の後日、あたしと遊戯と海馬とモクバ、それに城之内は、こいつらの仕掛けた汚いゲームに参加することになった……最終的に遊戯と海馬が奴らに打ち勝ってくれたから、あたしたちは無事にゲームの世界から脱出することができたんだ。そして奴らは……自分たちが作ったゲームの世界で、彷徨い続けることとなった……」

 

「……なるほど」

 

見知らぬところで最愛の女性がとんでもない危険な目にあっていたという事実を知り、目の前の5人の男に対する警戒と不信感を引き上げる勝利。

舞の一歩前に躍り出て、万が一の事態に備える。

 

 

 

 

「薄汚いゲームに敗北し、データとなって彷徨っていた亡霊が、いまさら何の用だ!」

 

 

 

 

海馬の余りに口汚い言葉にしかし、BIG5はうすら笑いを浮かべるだけで、まるで響きはしなかった。

やがて一人一人が、ぽつりぽつりと話始める。

 

 

 

 

 

「確かに我々は貴様と武藤遊戯とのゲームに敗北し、電脳世界を彷徨うこととなった。自分が自分であるという意識さえも希薄な場所で、ただ貴様らに復讐せんという一念のみで生き残っていた」

 

「我々が恨みを抱いているのは、海馬瀬人だけではない」

 

「私共に苦々しい経験をさせてくれた武藤遊戯と、その仲間たちの同罪です」

 

 

 

 

 

「何よそれ! 逆恨みじゃない!」

 

「本当だぜ!」

 

「……まあ、そんな正論で納得してくれる人たちじゃあなさそうだね」

 

 

目の前の卑しき敵たちの目的を把握した勝利が、嫌悪感を隠しもせずに吐き捨てるように言う。

するとそのリアクションをどうとったのか、BIG5がさらに機嫌をよくして笑う。

それに反比例するが如く、海馬の感情は怒りに触れていた。

 

「のこのこと性懲りもなく……貴様らいったいどうやって甦った!?」

 

「我々が電脳世界で彷徨っていた時……手を差し伸べて下すった方がいたのだよ」

 

「それが……さっきの乃亜っていう少年ってことか」

 

 

 

「乃亜様は我々に条件を出された」

 

「BIG5として我々が海馬コーポレーションに返り咲くためには、お前たちを正当な決闘で倒さねばならんとな」

 

「……」

 

 

 

 

怒れる海馬の後ろでそれを聞いていた勝利が、再び顔をしかめる。

そしてその後ろから、竜崎が小声で話しかける。

 

 

「……どう思う、勝利?」

 

「……BIG5とやらの行動理念は大体わかった。でも、肝心の乃亜ってやつの目的が、謎になっていくばかりだ」

 

「乃亜には、あたしたちを倒す力もあるし、あたしたちを無理やり拘束することだって容易のはず。BIG5とあたしたちを戦わせる意味も、正当なゲームで戦おうとしている意味も、まるでわかんない」

 

舞がまとめたその情報がすべてであり、乃亜の不気味さを加速させる。

しかし、今はそれに悩んでいる時間すらもなかった。

 

 

 

 

 

「では、これより扱うゲームのルールを説明しよう!」

 

 

 

 

 

そう宣言した瞬間、再び辺りが見えなくなるまで光輝く。

 

 

 

「くっ!? 今度はなんだあ!?」

 

「っ……こ、これは!?」

 

勝利たちが目を開けるとそこは……およそ日本では見たことのない自然の最中だった。

 

「……ジャングル?」

 

「……なんやこれ? 中生代か?」

 

「中生代って、恐竜の時代の?」

 

「ああ。ワイの使うフィールド魔法の景色にそっくりや」

 

恐竜使いとして一家言のある竜崎が、すぐに気づく。

その言葉に、勝利も少し考え込むような表情で俯く。

 

(……確かに、竜崎君が発動していた、"ジュラシックワールド"の景色にそっくりだ……もしかしてこれは、たまたま似ているだけじゃあないとしたら……)

 

そんな勝利の思考に沿うような影が、ジャングルの中から飛び出してくる。

 

 

 

 

 

「くわぁーーーーーーー!!」

 

 

「きゃあ!?」

 

 

 

 

 

静香が思わず舞に抱き着き、頭を伏せた。

そんな中竜崎は、目を丸くして叫ぶ。

 

「へ、"ヘルカイドプテラ"や!」

 

それは自身が操る翼竜モンスター。

そしてその姿に、勝利は確信する。

 

「っ!? やっぱりこれは、M&Wの世界観で作られた映像なのか……」

 

舞がそれを聞きながら、静香の背中を優しくなでる。

 

「大丈夫よ、静香ちゃん。これは、バーチャル。こちらに干渉してくることはないわ」

 

「でも……匂いも、感覚も、まるで現実みたい」

 

「……確かに。何も言われなければ、現実と間違えるほどの再限度……すごい技術だよ。これ」

 

勝利と杏子は動き回り、草や土に触れ、感触を確かめるように持ち上げる。

しかしそれらは、彼らの手をすり抜けるように消えていった。

 

「ふん。所詮はこの俺が作った、ソリッドヴィジョンシステムの真似事……否、猿真似にすぎんな」

 

そんな素直な感想を述べる勝利たちに対し、海馬が、海馬節を炸裂させながら痛烈に言い放つ。

 

 

「それで。いったい、ここで何をやらせるというのだ!?」

 

 

するとその声に答えるように、杏子が持ち上げようと近づいた草木の間から、影が飛び出してくる。

 

その姿は……全員に、見覚えのありすぎる男の姿だった。

 

 

「か、海馬君!?」

 

「落ち着いて。おそらく彼らが持っている王国の時の海馬君を再現して作られた、偽物だよ。服装とかが、ずいぶんと懐かしいものだ」

 

 

『さよう』

 

 

肯定の言葉が、天から降りそそぐ。

 

 

 

『そして、もう一人』

 

 

 

そうして前に出た偽海馬のソリッドヴィジョンに相対するように、また別の何かが現れる。

その姿にも、決闘者たちには見覚えがあった。

 

 

 

「あれは……"絶対防御将軍"? あれも、モンスターカードだ」

 

「おいおい。まさか……モンスターと決闘しろって言うんじゃねえだろうな?」

 

 

『なかなか察しがいいではないか。だが、まだこのゲームの奥深さを表すには足りんな。これより、我々とのゲームの特別ルール。『デッキマスター』について説明する』

 

 

 

「デッキマスター?」

 

 

 

『海馬瀬人のデッキマスターは、"青眼の白龍"。対する相手は、"絶対防御将軍"をデッキマスターとする』

 

 

 

 

すると、偽海馬と、"絶対防御将軍"の決闘が開始される。

 

 

 

「俺は、"ロードオブドラゴンードラゴンの支配者"を召喚! そして、"ドラゴンを呼ぶ笛"を発動!」

 

「いっ、いきなりドラゴンコンボ!?」

 

「模擬決闘とはいえ、海馬君を想定したデッキなだけはあるね」

 

「デッキまでも猿真似か。下らん」

 

海馬の罵倒をかき消すように、笛の音が場に響き渡る。

 

「このカードの効果で、2体の"青眼の白龍"を召喚!」

 

 

 

「「ギャー―ス!!」」

 

 

 

早々に2体のブルーアイズが場に降臨したことに驚愕する遊戯たち。

しかし、真に驚愕するのはこの後だった。

 

 

「そして俺は、デッキマスター、ブルーアイズを召喚!」

 

 

「何っ!?」

 

「ブルーアイズを、生贄も魔法もなしに召喚ですって!?」

 

「そうか! デッキマスターに指定したモンスターは、通常の召喚とは別に召喚を行うことができるんだ!」

 

「……M&Wのモンスター召喚のルールを、根底から覆すルールだ……」

 

その特殊ルールに、皆が息を飲む。

そんな中、竜崎が一つ気づく。

 

「せやけど、このルールやったら強力モンスターや召喚に難しいモンスターをデッキマスターに据えたもん勝ちになってまう。まだ、なんかあんで」

 

「……竜崎君。何かって?」

 

「わからんけどな。このルールやったら、ブルーアイズを従えとる海馬が一番有利や。奴らの作ったルールで、そうはならんやろ」

 

「……確かに」

 

竜崎の言葉を証明するかの如く、ゲームが進んでいく。

 

「そして手札から、"置換融合"の魔法を発動! ブルーアイズ3体を、融合する!」

 

「げっ!? 1ターンで!?」

 

「模擬戦とは言え、なんちゅう……」

 

「現れるがいい……"青眼の究極龍"!!」

 

 

 

 

「「「ギャーーオ!!」」」

 

 

 

 

先行1ターン目での、アルティメットの召喚。

そして偽海馬が、勝利を確信した笑みを浮かべる。

 

「この瞬間、ブルーアイズの、デッキマスター能力を発動!」

 

「っ!? デッキマスター能力やと!?」

 

「……なるほど。これが、デッキマスターにモンスターを選ぶ意味……デッキマスターごとに設定されている能力が、決闘中に発動する。しかも、カードを発動する必要もなく起動する効果だから、止めるのが極めて難しい」

 

「この能力を有効活用するのが、決闘を有利にするための重要なファクターになるわけね」

 

 

 

「フフフ。ブルーアイスのデッキマスター能力! それは、ブルーアイズ、および融合素材として召喚したモンスターに、そのターンの攻撃権にかかわらず直接攻撃する権利を与える!」

 

 

 

「はっ!?」

 

「そのまま直接攻撃!?」

 

「先行1ターン目やろ!?」

 

「なんて強力無比な……」

 

 

 

 

「くたばれ! 『アルティメットバースト』!!!!」

 

 

 

 

「フフフフフ……"絶対防御将軍"のデッキマスター能力発動!」

 

 

 

 

完全に決まったと思われたその瞬間に、"絶対防御将軍"の周りの、透明なバリアが覆いつくす。

そのバリアに、アルティメットの攻撃が炸裂し、跳ね返っていく。

 

「なっ!?」

 

「アルティメットの攻撃が!?」

 

「フフ……"絶対防御将軍"のデッキマスター能力。それは決闘中に一度、相手モンスターに攻撃を跳ね返す能力です!」

 

 

跳ね返された攻撃をその身に受けたアルティメットは、悲鳴を上げて消えていく。

それと同時に、海馬と"絶対防御将軍"のソリッドヴィジョンも、ゆっくりと消えていった。

 

「え? お、終わり!?」

 

「モンスターを破壊されただけで、LPは削られていないのに……」

 

「なるほど……これが、デッキマスターを召喚するデメリットってわけか……」

 

 

「さよう。一度召喚したデッキマスターのモンスターが消滅した場合、それまでの内容にかかわらず、そのプレイヤーは敗北する」

 

 

「序盤から強力なデッキマスターを召喚して責め立てようとしたら、すぐやられてまうってわけやな」

 

「それが、デッキマスターのデメリット。さらにそれは、融合召喚した先のモンスターにも引き継がれる。逆を言えば、今みたいにデッキマスターを利用して速攻融合償還で仕掛けることも可能かもしれない。見た目以上に、奥が深いよ。このゲームは」

 

「フン……対等になゲームでと言っておきながらこんな下らんゲームを強要してくるとは……貴様らのやり方には、とことん反吐が出るわ!」

 

 

 

 

「ふっ……これにて、デモンストレーションは終了と行きましょう」

 

 

 

大下がそう宣言すると、ジャングルは一瞬にして消滅し、元のだだっ広い空間に戻る。

 

 

「さて、今一度ルールを確認しよう。我々と貴様らは、これから今の世界に行き、デッキマスター能力を利用した決闘を行うこととなる。そして我々の誰かに敗北したものは、その体を我々に明け渡すこととなる!」

 

「……はなから、それが目的ってわけだ」

 

「勝手な……!」

 

「ちょっと待って! あんたたちの相手はあたしたちで十分でしょう!? 本田や御伽や杏子、静香ちゃんは無関係よ!」

 

舞が一歩前に出て、抗議する。

しかし、奴らは聞く耳を持ちはしない。

 

「そうはいかない。手軽に手に入る体は、いくつあっても無駄にはならないからな」

 

「ちっ……外道どもめ」

 

 

 

「フン……御託はいい。貴様ら全員、この俺の手で今一度葬ってやればいいというだけの話だ! さっさとゲームとやらを始めろ! BIG5!」

 

 

 

「……今のは、ゲームを了承したと判断しましたよ。瀬人様」

 

 

 

 

「うわぁ!?」

 

「な、なんだあ!?」

 

 

 

「っ!? 本田君!? 御伽君!?」

 

 

BIG5の宣言と同時、御伽と本田の足元に、大きな穴が開き、本田たちはその中に消えていく。

 

「くっ!? モクバ!」

 

「兄サマ!」

 

「海馬君! モクバ君!」

 

続いて、海馬とモクバが消えていく。

 

「っやばい! 僕らを分断する気だ! みんな!」

 

固まれ。

そう言おうとしたその瞬間に、舞と杏子の足元に穴が広がる。

 

「っ!? 杏子!?」

 

「舞さん!」

 

 

 

「遊戯!?」

 

杏子が、遊戯の伸ばした手を掴もうとする。

だが、遊戯の必死の行動空しく、杏子の手は空を切り、穴へと消えていく。

 

 

 

「勝利!」

 

一瞬早く状況を理解し、動き出した勝利は、先に舞の手を掴む。

然し、引き上げようとしたその瞬間に、勝利の腕に電流が走ったような痛みが駆け抜ける。

握力を奪われた勝利は、数秒粘るものの、空間に舞をはぎ取られる。

 

 

 

「があっ!? ま、舞さん!」

 

「あたしは大丈夫! あたしより、静香ちゃんを!」

 

 

 

 

消えゆく舞の叫び声にはっとして、周りを見回す。

だが、舞を失った絶望に沈んだ一瞬が命取り。

静香の足元にも、すでに穴が広がっていた。

 

「くそっ!?」

 

「静香ちゃん!」

 

 

 

「ええい!」

 

 

 

そんな時一人、竜崎が駆け出し静香の体を掴んで、同じ穴に飛び込んでいく。

 

 

「っ!!? 竜崎君!!」

 

「一蓮托生や言うたやろ! 任せとけ!」

 

 

穴に消えゆく声。

それを聞いて、勝利も少し落ち着く。

 

(そうだ……今は、できることを!)

 

 

「ジェット!」

 

 

勝利が叫び、勝利の懐から飛び出した影が、竜崎たちが消えゆく穴に飛び込む。

 

(……たのんだよ)

 

『ぴぃ!』

 

 

 

そして、勝利たちの足元にも、穴が広がる。

 

 

「ちぃ!?」

 

「勝利君!?」

 

「遊戯君! 生きて……みんなで行くぞ! バトルシティの決勝に!」

 

 

「っ!!! うん!」

 

 

 

 

 

 

その言葉を最後に、勝利たちは分断される。

 

 

 

 

 

 

 

そして……ゲームは始まった。

 

 

 

 

 




というわけで、分断されました。
今更デュエルクエスト編を書く気も起きないので、バッサリカット。
バイトとして勝利も参加していた。という設定でもいいかと思ったんですが、思い描いてもいない風呂敷を広げるのはやめておきました。

さて、どのような戦いの組み合わせになるか予想できるでしょうか。

皆さんにいただいたアイデアも見ながら、進めていけたらと思っています。

どうか、完結までよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。