「……いててててて……ここは?」
目を覚ました勝利は、異常を訴える体をさすりながら、起き上がって辺りを見回す。
先ほどの中生代の様相とはまた変わった、静かな雰囲気の森の空気が、勝利の鼻孔をくすぐった。
(……この自然、この空気。やっぱり、リアルすぎる。これは本当に、ソリッドヴィジョンなのか?)
勝利は立ち上がり、あたりを見回す。
風になびく木々のざわめきが大きくなっていくが、人の気配は感じられない。
共に謎の空間に叩き落された仲間を探したいと思うところではあったが、探すあても見当たらなかった。
(……まあしょうがない。先手は打った。後は、この空間を抜け出すだけだ)
「みんな。いるかい?」
『ぴぃ!』
『くわぁ!』
『かぁ!』
勝利の問いかけに、デッキから飛び出て答えるBF。
いつもと変わらぬ友達のご機嫌な様子に、眉間の皺が解ける。
「わかったわかった。いつも通り、一緒に戦おう」
そういう勝利。
しかし、彼らが消えた後に一抹の不安が勝利の中に蘇る。
勝利が、自分の胸に手を当てる。
今の勝利にとって、何よりも強い心の支えとしているそれが、今はない。
(……ネックレスは、城之内君に預けている。そのせいなのか、この特殊な空間のせいなのか。"ブラックフェザー・ドラゴン"の力を感じない)
舞からもらった、勝利の宝。
このバトルシティで自分たちを救ってくれた新たな相棒。
その不在が、勝利の心を少しだけ揺らす。
そんな俯きざまの勝利の頭を、鋭い一撃が突く。
「いったぁ!!?」
『ぴぃ!』
再度勝利の元へ現れたブリザードが、その小さな体を大きくはためかせて全身で怒りを表現する。
それを受けて、勝利は自分の顔を軽くはたいた。
「……そうだね。僕が、自分で言ったんだ。『いつも通り』って」
勝利は、自分を恥じた。
"ブラックフェザー・ドラゴン"がいることが、当たり前になっていた自分に。
いつの間にか、"ブラックフェザー・ドラゴン"に頼り切る男になっていたことに。
シンクロという、特別な力に、縋っていたことに。
(こんなんじゃダメだ。僕は特別な力を使って、勝ちたいんじゃない。僕のために、僕と一緒に戦ってくれるみんなのために、楽しい決闘で勝ちたいんだ!)
勝利は、気合いを入れなおす。
闘志を新たに、自分の想いを再確認した。
(バトルシティで、勝ち上がるため……『BF』たちに……"ブラックフェザー・ドラゴン"に応えるために、僕はここで、また一歩強くなって見せる!)
勝利は、一歩を踏み進めた。
辺りを見回しながら歩く勝利だが、勝利の心機一転以上の進展はない。
その状況に、再び勝利の表情が曇っていった。
(消耗戦? いや、僕らの疲弊を待つにしたって、何かは仕掛けなきゃいけないはず。いったい、どこから……)
そうして、森を抜けて水辺へと出た勝利。
そのまま水辺の周りを歩き進めようとしたところで、気配に気が付き、水面に目を向ける。
(……来る)
「……フハハハハ。さすがは、黒羽勝利。よくぞ気が付くものだ」
嫌な笑い声と共に、それは水面から姿を現した。
青を基調とした人型ながらに人ならぬその姿は、勝利にも見覚えがあった。
「……お前は……"深海の戦士"か?」
「さよう。私は海馬コーポレーションの忠実なる部下にして、企業買収のスペシャリスト、大下幸之助。そしてこの姿は、その思慮深さをイメージして作られた、私の仮初めの姿。"深海の戦士"」
「……」
勝利が、息を飲む。
彼のディスクを見て、決闘の始まりを予感する。
その時、声が響いた。
「勝利君!」
「っ! 遊戯君!」
なじみの声に、思わず破顔する勝利。
しかし、目の前の"深海の戦士"もまた、遊戯の登場に不敵に笑った。
「おやおや……武藤遊戯も来たか。まあ、どちらだとしても構いはしない。体さえ奪うことができればな」
「っ……」
(どちらだとしても、構いはしない?)
少し思案の顔を作る勝利。
だが、状況を理解できていない遊戯の言葉が、勝利の意識を現実に引き戻す。
「勝利君。奴は……」
「っ! ああ。奴は、BIG5の一人。そして今の奴は……水属性モンスター、"深海の戦士"」
「武藤遊戯。私は貴様たちに敗北を喫したことによって実態を失った。これはお前たちに復讐するための姿なのだ。さあ、私はデッキマスターとして、私自身。"深海の戦士"を選択する」
「……そうか。実態を持たない奴らは、モンスターとしてしか存在できない」
「……デッキマスターシステムは、そのために……」
「ふっ。さあ、どちらが相手だ? どちらが先でもいいぞ。どうせ貴様らの体はすべて我々が手に入れる。お前らのお友達も直に、私の仲間がお相手することになっている」
「っ!!?」
『まずいぜ相棒。杏子や静香ちゃんが狙われたら……』
(うん。こんな決闘をする理由はないけど……)
「……わかった。この決闘は僕が……」
「いや、遊戯君。ここは、僕が行く」
一歩前に踏み出そうとした遊戯を諫めるように勝利が手を伸ばし、代わりに前に躍り出る。
「っ!? 勝利君……」
「奴らの狙いは、2つ。1つは、遊戯君たちへの復讐。そんなくだらない土俵に、君が上る必要はないよ」
勝利が冷静に、淡々と告げる。
「そしてもう一つ。奴らは、僕らの体も狙っている。決闘の素人である杏子ちゃんや、静香ちゃん。本田君たちも合わせて招き入れたのは、それが狙いだ。僕らがこんなところで二人そろって足止めを受けている場合じゃない」
「っ!!!?」
(そうか……勝利君はこの場で、逆にBIG5の一人の足止めを……)
「大丈夫。君の決闘スタイルより、僕のスタイルの方が短期決戦に強い。すぐ終わらせて、僕も行くよ。僕らの友達は、僕らで助けるんだ!」
『……相棒。勝利君を、信じるんだ』
「……わかった! 先にいくよ! 勝利君!」
森を駆けていく遊戯を笑顔で見送り、顔を切り替えて敵に向き直る。
「ふっ……黒羽勝利がこの場に残るパターンCか」
「……予想通りだったと?」
「事前の調査は重要だからね。『敵を知り、己を知れば百戦危うからず』というだろう? さあ、ゲームを始めようか」
そう大下が宣言した瞬間に、勝利の目の前をカードの映像が現れ、通過していく。
「っ……これは?」
「貴様らの実態を持つカードは、この世界では使えない。故に、今この場で、貴様のデッキを構築しなおしてもらう。安心したまえ。貴様の大切なカードたちも、海馬コーポレーションのデータベースに登録されている」
「……そりゃご丁寧にどうも」
眺めていると確かに、友のカードがちらほらと見える。
勝利は粛々とカードを選びながら、対戦相手の顔を睨む。
(……僕が対戦相手であるパターンも、計算に入れていた。間違いない。こいつらは、遊戯君たちだけじゃなく、僕のことも標的と認識している……だが、僕や竜崎君は、さっき上げたこいつらの目的からすればノイズ。想定外の障害のハズ……まだ、僕が知らない何かがあるんだ……おそらく、乃亜って少年の秘密に……)
この場に訪れてから幾度となく繰り返されてきた思案の時間だったが、やはり答えが出ることはなく、デッキの感性に至るまでその言い知れぬ嫌な予感が解消されることはなかった。
それを振り切るかのように、勝利が叫ぶ。
「さあ。デッキは組み終わったぜ!」
いつの間にか勝利の腕に具現化した決闘盤に、デッキがセットされる。
「フフフ。ではその中から、1枚デッキマスターを選びたまえ」
勝利は、セットされたデッキを抜き取り、中身を確認する。
(さて……奴のデッキマスター、"深海の戦士"がどんなデッキマスター能力を持っているのかがわからない以上、できる限り対応力の高いモンスター。それでいて、破壊されたらその場で敗北であるがゆえに、簡単に破壊されてしまうことのないモンスターを選ぶ必要がある……)
慎重に。
心の中でそう呟いたその瞬間に、デッキから、爆発するように皆が押し寄せる。
『ぴぃ!』
『くわぁ!』
『かぁ!』
「ちょっ!?」
「……デッキマスターに指定できるモンスターは、1体だけだ」
「わかってるよ!? ちょっと待ってろ!」
(みんな! ストップストップ! いつもと違って実体化できるからって、はしゃがないで! 戻って戻って!)
『……ぴ?』
状況を理解しているのかしていないのかわからないが、惚けた顔を浮かべるブリザードから順番に、皆をカードの中に押し込んでいく。
しかし、体が小さく素早いBFたちは勝利の周りをビュンビュンと飛び回り、なかなか思い通りに戻ってくれない。
(……ジェットがここにいなくて、助かったかもな)
「こら、早く戻りなさい! はぁ、はぁ……ほら、君が最後だ。フェーン」
『……?』
まだ決闘すら始まっていないというのに、息を切らす勝利に対しフェーンは、一体どうした? と言わんばかりの表情で首を傾げながら勝利の肩に乗る。
フェーンは勝利の肩を占領できているのが嬉しいのか、擦りより、疲れた勝利の頭を撫でる。
「ほう。そのモンスターに決めたのか」
「っ!? ちょ! ち、ちがう! フェーンが勝手に!」
「残念だが、一度決めたデッキマスターを変更することはできない。それがいかに貧弱なモンスターだとしてもだ」
「……貧弱だと?」
『っ!!? ~~~!!!』
勝利の目つきが変わり、それに同調するように、肩のフェーンが羽をはためかせる。
その言葉に、二人のやる気が燃え上がった。
「……どうやら事前の調査とやらは、たいした成果もなかったようだね。僕のデッキのその程度の尺度で判断するとは」
(……フフフ。子供は単純でいい。黒羽勝利は、カードをけなされることを極端に嫌う。こうやって煽れば……)
「……いいだろう。貴様に思い知らせてやる。僕のデッキの力を!」
「ふっ。では、準備は完了だ。私は見ての通り、"深海の戦士"をデッキマスターとする。さあ、見せてあげよう。大人の決闘を!」
「……僕の方こそ、お前に教えてやるよ! 燃え盛る、僕らの決闘を!」
深海の戦士 LP 4000
「デュエル!」
勝利 LP 4000
「私の先行、ドロー。私は手札から、"幻影の壁"を守備表示で召喚」
幻影の壁
闇属性 悪魔族 星4
攻撃力 1000
守備力 1850
このカードに攻撃したモンスターは、ダメージ計算終了後に手札に戻る
「さらにカードを1枚セットし、ターンエンド」
(フフフ……"幻影の壁"のモンスターを手札に戻す特殊能力を考えれば、低級モンスターで突破したいはず。この状況を突破するモンスターといえば……)
「僕のターン、ドロー! 僕は、"BF-疾風のゲイル"を召喚!」
BF-疾風のゲイル
闇属性 鳥獣族 星3
攻撃力 1300
守備力 400
BFがいるとき特殊召喚できる
攻撃を仕掛ける時、風で相手の勢いを半減させる
(疾風のゲイル。黒羽勝利のBFデッキの切り込み隊長。そしてこの状況なら……)
「さあ行くよ! ゲイルの効果発動! "幻影の壁"の攻撃力、守備力を半減する! 『ワールウィンド』!」
ゲイルが、風を"幻影の壁"にたたきつける。
その様子を見て、こらえきれないといわんばかりに大下が笑う。
「(全く……楽なものだ)伏せカードオープン! "暗闇を吸い込むマジック・ミラー"!」
「っ!?」
暗闇を吸い込むマジック・ミラー
永続罠
このカードが存在する限り、フィールド・墓地の闇属性モンスターの効果は鏡の中に吸収される
突如現れた禍々しい鏡に、ゲイルの風が吸い込まれていく。
「このカードによって、貴様の闇属性モンスターの効果は、全て鏡によって無効化される」
「闇属性対策か……」
(……僕のBFたちへの対策。いや……遊戯君のデッキにも、デーモンモンスターみたいな闇属性モンスターは少なくない。僕らとの対戦を見越しているのは、間違いない)
「……僕はカードを1枚セット。ターンエンド」
「フフフ。苦しんでいるようだな。さしずめそのカードは、マジック・ミラーを破壊するための罠カードといったところか?」
「っ! (こいつ……)」
「私のターン、ドロー! 私は、"ナイト・ショット"を発動!」
「っ!? そのカードは……」
ナイト・ショット
魔法カード
闇からカードを打ち抜く。カードの発動を許さない
「このカードによって、黒羽勝利の伏せカードを破壊する!」
「くっ……伏せカードは、"ゴッドバードアタック"」
ゴッドバードアタック
罠カード
鳥獣族モンスターに、1ターン限定で力を授ける
2回の即行動を可能にし、カードを破壊する
「フフフ。"ナイト・ショット"の効果は知っているな? 伏せカードの発動は、許しはしない」
「……破壊される」
「なかなかいい流れだ。かつてルネッサンス、イタリアの政治家は言った。勝ち続けるための条件は3つ。その1。『チャンスを身に着けること』。私は、"イピリア"を守備表示で召喚」
イピリア
地属性 爬虫類族 星2
攻撃力 500
守備力 500
このカードが召喚に成功した場合、自分はデッキから1枚ドローできる
「この効果により、私はカードを1枚ドロー。そして、カードを1枚セットし、ターンエンド」
深海の戦士 LP 4000 手札4枚
幻影の壁
守 1850
イピリア
守 500
暗闇を吸い込むマジック・ミラー
伏せカード1枚
勝利 LP 4000 手札4枚
BF-疾風のゲイル
攻 1300
伏せカードなし
「……僕のターン、ドロー」
(……低守備力の、効果なしでも十分破壊できる下級モンスター。どうにも、作為を感じる。多少無理をしてでも、ここは攻めたいところだ)
(黒羽勝利は自身の過去の経験から、用意された展開を嫌い、自身で切り開く未来を重んじる傾向にある。私のマジック・ミラーが存在し、"幻影の壁"の効果が無効になっているこの状況……攻めたくなる展開だろう?)
「……僕は、手札から"BF-白夜のグラディウス"を特殊召喚!」
BF-白夜のグラディウス
闇属性 鳥獣族 星3
攻撃力 800
守備力 1500
フィールドにBFが一体のみの場合、特殊召喚できる
このカードは1ターンに一度戦闘では破壊されない
「さらにグラディウスを生贄に捧げ、"BF-流離いのコガラシ"を召喚!」
BFー流離いのコガラシ
闇属性 鳥獣族 星6 (チューナー)
攻撃力 2300
守備力 1600
フィールドのBFが破壊された時、手札から特殊召喚できる
勢いよくフィールドに着地するコガラシ。
それを見て、大下がにやりと笑う。
「ククッ。勝ち続けるための条件その2、『技量を保有する事』。私は伏せカード、"毒蛇の供物"を発動!」
毒蛇の供物
罠カード
自分フィールドの爬虫類1体と、相手フィールドのカード2枚を選択し、全て破壊する
「私のフィールドの"イピリア"と、貴様のフィールドの2体のモンスターを選択する! このカードによって選択したモンスターすべてに爬虫類の毒が回り、全てを破壊する!」
「っ! させるか! 僕は手札から速攻魔法、"月の書"を発動!」
月の書
速攻魔法
モンスターを1体裏向きにする
「この効果によって、僕は"イピリア"を裏側表示に変更!」
瞬間、月光に照らされた"イピリア"がその光の力に耐えきれず、固まり沈黙する。
そして、そのまま3体を蝕んだ毒牙も、消えていった。
「……爬虫類族の存在を認識できなくなった時点で、"毒蛇の供物"の効果は不発に終わる」
深海の戦士 LP 4000 手札4枚
幻影の壁
守 1850
イピリア
守 500
暗闇を吸い込むマジック・ミラー
伏せカードなし
勝利 LP 4000 手札2枚
BF-疾風のゲイル
攻 1300
BFー流離いのコガラシ
攻 2300
伏せカードなし
勝利はふっと息を吐き、敵をまっすぐに見据える。
(罠は、いなした。伏せカードもない。ここが主導権を握る、絶好のチャンスだ!)
(フッフッフ。さあ、攻撃してくるがいい)
「バトルだ! まずはコガラシで、"幻影の壁"に攻撃! 『木枯らし荒らし』!」
BFー流離いのコガラシ
攻 2300
幻影の壁
守 1850
"幻影の壁"に、コガラシが弓を構える。
それを見た大下から、笑い声がこぼれた。
「ハッハッハ! 勝ち続けるための条件その3! 『敵を自滅の道に誘い込む事』! この瞬間を待っていた! デッキマスター能力、発動!」
「何っ!?」
その宣言と同時、敵のフィールドに謎の穴が開き、コガラシの弓矢が吸い込まれていく。
「くっ……コガラシの弓が!?」
「私の能力、『リフレクションホール』! モンスターの攻撃に対して発動! モンスター2体を生贄に捧げ、その攻撃を相手プレイヤーに返す!」
「なっ!?」
(しまった!? "幻影の壁"を出していたのは、高攻撃力モンスターを呼び込んで、戦闘をさせるための誘い!? こいつ……戦いをわかっている!)
「さあ、味わうがいい! このゲームの恐ろしさを!」
コガラシの放った弓が、勝利の肩を貫く。
その瞬間に、勝利が悲鳴を上げる。
「があああああああ!!!?」
勝利 LP 4000 ー 2300 = 1700
『っ!!?』
肩に乗るフェーンがとっさに飛び立ち、勝利の周りを飛び回り、心配する。
そんなフェーンに、勝利は必死に笑顔を返した。
「だ……大丈夫。誇れたもんじゃないけど……この手の決闘は経験済みだからね」
(この痛み……舞さんと戦った、闇のゲーム? いや、そんなわけはない……おそらくこの空間の……)
「痛いだろう? このバーチャル空間では、モンスターの攻撃によって発生するダメージを脳が現実と判断し、脳にダメージを与える。お前のお友達の決闘も、そろそろ始まる頃だろう。どうだ? 心配じゃないかね?」
「……バトル、続行! ゲイルで、貴様にダイレクトアタック! 『ブラックスクラッチ』!」
深海の戦士 LP 4000 ー 1300 = 2700
「ぐっ!?」
風の刃が切り裂いた個所を抑え込み、仮面の下で苦悶の表情を浮かべる大下。
それを見て、今度は勝利が笑う。
「くっくっく……安心したよ。どうやら、本当に条件自体は同じみたいだね」
「ちぃ……(計算が狂った……黒羽勝利は、このような決闘を嫌う性格のハズ。自らの仲間が危険な目にあっていると分かれば、少なからず動揺が走ると読んでいたが……今の奴に、その様子はない)」
(……遊戯君は、先に行かせた。静香ちゃんは、竜崎君がフォローしてくれている。舞さんが、こんな奴らに負けはしない。僕の仲間は、こんな奴らに負けはしない。それを信じて、僕は僕のできることをする!)
「カードを1枚セットし、ターンエンドだ!」
攻撃の勢いをそのままに、ターンを終える勝利。
その瞳には、未だ揺るがぬ闘志と覚悟が宿っている。
大下もまた、それを理解して息を呑んだ。
まだ、決闘の行く末はわからない。
深海の戦士 LP 2700 手札4枚
モンスターなし
暗闇を吸い込むマジック・ミラー
伏せカードなし
勝利 LP 1700 手札1枚
BF-疾風のゲイル
攻 1300
BFー流離いのコガラシ
攻 2300
伏せカード1枚
「……こ、ここは……?」
顔を上げた目の前に広がるのは……のどかな庭園。
その片隅で、舞は一人、目を覚ました。
辺りを見回し、状況を確認する舞。
だかそこにあるのは、広い敷地に、池や、松。景観のために敷き詰められた、小石や砂。
侘び寂びの雰囲気を残す、美しき庭。
上流の家の一角であろうということ以外は、何の変哲もない場所だった。
(ここは……乃亜っていうやつと、BIG5が作り出した、バーチャル空間のハズ……一体この景色に、何の意味があるっていうの?)
「ふざけるな!!!!」
立ち上がり、何かを見つけるために足を踏み出そうとした矢先に、強い怒号が舞の耳に届く。
何事かと舞が目線を向けると、この庭園を保有する家の正門らしき場所に人影が見える。
舞は、急いで駆け寄った。
急いで彼らのことが見える位置まで移動したが、こちらに注目する様子はない。
仕組み、絡繰り、意図は不明だが、姿が見えているのは、舞の方からだけのようだった。
「二度と……二度と、面を見せるな!! この、親不孝者が!!」
家の側に立つ白髪の混じった40~50歳ほどの男が、女を蹴りだすようにして門の外へとはじき出す。
女は、特にその言葉に何を返すこともなく、体の埃を払いながら立ち上がり、敷地の外へと歩いて行った。
(……あの人……どこかで)
謎の既視感に苛まれた舞は、門が閉まる前に女の後についていく。
すると舞が敷地を出たその瞬間に、塀の陰から、何者かが女性に近づいてくる。
それは……子供。
まだ、年端も行かぬ少年だった。
少年。
そして、その少年を抱きかかえる女性。
舞に、強烈な電流が走る。
(……嘘。そんな、わけない……これが……)
白髪に近い青の髪を靡かせ、少年を抱きしめる女性。
そして……その母から受け継いだであろう、水色の髪の少年が、その抱擁を何も言わずに受け入れる。
すぐに気づけても、おかしくはない。
だが、何度も舞はそれを否定する。
高級そうなシルクの服の裾が汚れていても気にせず、少年を抱きしめる女性は、自分の記憶にあるものよりもさらに顔色が悪く、今にも倒れて、起き上がれなくなりそうな表情で、しかし笑みを浮かべる。
そんな母親を見つめる少年の瞳が、見えていないであろう舞を貫く。
暗く、光無く、どんよりとした瞳。
齢いくつかもわからぬ少年の瞳は、腐り始めている。
しかし少年は、母親を抱きしめ、小さく呟いた。
「……お母さん。大好き」
「……ありがとう。勝利」
舞は、顔を顰める。
目の前にいるのは、勝利。
自分の最愛の人の、少年の姿だった。
唐突な伏線はオリ主の特権。
まあ、そんなに長持ちするもんでもないですが。
さて、乃亜編初決闘はやはり勝利の決闘になりました。
相手は深海の戦士。小ネタも挟みつつ開幕です。
聡明な決闘者の方々には、もう決闘のオチもバレているやもしれませんが。
お楽しみいただけると幸いです。