遊戯vs腹話術士戦にて
海馬の心を以て消滅した青眼の白竜に対し、BFたちを重ね思いを馳せる勝利
「僕には見える……青眼の白竜に宿る、海馬君の心が」
没理由
突然舞のそばを離れて遊戯のデュエルを観戦している勝利の状況にどうしても説明がつかなかったため
また、そこまでしても特に原作と展開が変わらなかったため。
今回はちょっと長いです。
「おらおら城之内! ワイの恐竜カード、倒せるもんなら倒してみろや! "メガザウラー”召喚!」
メガザウラー
地属性 恐竜族 星6
攻撃力 1800+ 30% = 2340
守備力 2000 + 30% = 2600
「"岩窟魔人オーガロック"粉砕や!」
「っくそ!」
序盤……と言っていいかわからないほどすでに城之内は劣勢、竜崎の独壇場だった。
竜崎
攻撃力 2275
メガザウラー
攻撃力 2340
LP 1870
城之内
伏せカード1枚
LP 1605
(竜崎君の場には、強力な恐竜モンスターがすでに2体。救いなのはLPがそれほど離れていないことか。そして城之内君の場は、竜崎くんにもバレバレの"時の魔術師”と思しきセットカードが一枚だけ。"時の魔術師”の性能に気づいているのだとしたら、とっくに発動していていいタイミングだから、多分単体発動時の効果を詳しく把握していないんだろうな。となると、ここからの逆転の手は何枚あるのか……)
「遊戯! 城之内が竜崎に勝てる方法はないの!?」
「……あるとすれば、一つだけ」
遊戯が杏子の呼びかけにそうつぶやく。
当然遊戯は"時の魔術師”による可能性に気づいていた。
「お願い……その方法を城之内に教えてあげて……」
「そうだぜ、遊戯! このままじゃあのバカ、意地はってこのまま負けちまう!」
「遊戯君!」
「やめといたほうがいいと思うよ」
「……勝利君」
思わず口をはさんだ勝利に、遊戯は複雑な表情を向ける。
城之内を信じたい、しかし負けてほしくもない。そんな感情の狭間で揺れていることがよくわかる表情だった。
「何よ勝利君! やっぱりあなた、舞さんや竜崎の味方なの!?」
「そうだぜ勝利! お前は城之内が負けても構わねえってのかよ!?」
杏子と本田が怒りのまま勝利に抗議する。
獏良も後ろから不安そうな表情を向けるあたり、二人と同じ意見なのだろう。
「僕は少なくともデュエルについては中立だよ。どちらに肩入れしたいわけでもない。助言をしたけりゃすればいいとも思う。実際、舞さんは竜崎君にしゃべりかけまくってるし、卑怯だとも思ってないよ」
「だったら!」
「でも、城之内君の友達として、やめといたほうがいいと思う。って言っているだけさ。彼を、決闘者として殺したくなければね」
「っ! 決闘者として……」
不満そうな表情を浮かべる杏子たちに対して、何かに気づいたような表情を浮かべるのは遊戯だった。
「僕も城之内君の事情は聞いている。そのうえで、城之内君はこの負けられない試合を、自分一人の力で勝ちたいと考えた。それは、彼の目標。魂をかけてでもこのデュエルに勝つ必要がある。それを彼の決闘者としての本能が感じ取った結果だろう。それを遊戯君たちの判断で踏みにじってしまえば、彼はこのデュエルの勝利と引き換えに、決闘者として死んでしまうだけなんだよ」
『俺も勝利君に同意見だぜ』
(っ! もう一人の僕!?)
『これは城之内君にとっての、自分との闘い。俺たちにできることは、一人で戦うと決めた城之内君を信じて見守ってやることだぜ』
(……うん……)
遊戯が再び黙り込む。しかし、その表情は、だんだんと前向きなものへと変わっていった。
「それに、見てみなよ」
『それに……見てみな』
「『城之内君の目は、勝負を捨てた目じゃない!』」
心のもう一人の自分の声と、勝利の声が重なる。
「……俺はこのカードだ。行くぜ、"炎の剣士”! 草原のフィールドでパワーアップ!」
炎の剣士
炎属性 戦士族 星5
攻撃力 1800 + 30% = 2340
守備力 1600 + 30% = 2080
「"炎の剣士”やとっ!? シロートの癖に厄介なモンスターを……!」
「行くぜっ! "メガザウラー"に攻撃! 『闘気炎斬剣』!」
竜崎 LP 1330
「くっ! "メガザウラー"が」
「どんどん行くぜ! 次のカードを出しな、竜崎!」
大逆転、とは言いすぎだが、そこから城之内の反撃は始まった。
竜崎の恐竜カードに対して特効を持つ炎属性モンスターである"炎の剣士”の力によって、状況を少しずつ押し返していった。
「おらっ! どうした、恐竜野郎! 形勢逆転だぜ。俺は"バーバリアン2号”を追加で召喚!」
バーバリアン2号
地属性 戦士族 星5
攻撃力 1800 + 30% = 2340
守備力 1500 + 30% = 1950
竜崎 LP 1330
モンスター 伏せなし
城之内 LP 1605
炎の剣士
攻撃力 2340
バーバリアン2号
攻撃力 2340
伏せカード一枚
「けっ……今に見とれよ」
「こらー
「いいぞ! 城之内!」
「そんな恐竜野郎、ぶっ飛ばしてやれー!」
遊戯たちが盛り上がる最中、勝利は静かに竜崎を見据えていた。
("炎の剣士”を召喚されてから、竜崎君はきっちり守備に意識を切り替えている。力押ししか考えていなかった僕とのデュエルの時とは、明らかに立ち回りが変わっている。竜崎くんは……逆転の道筋がつかめている)
「そら、いくで! "エビルナイト・ドラゴン”召喚! 攻撃表示や!」
エビルナイト・ドラゴン
闇属性 ドラゴン族 星7
攻撃力 2350
守備力 2400
(きた……竜崎君のエースカード)
「な、なんだ!? そのカードは?」
「ワイが全国大会を勝ち抜いたときに手に入れたカードや。ドラゴン族やから荒野のフィールドパワーソースは得られんが、恐竜モンスターと違うて、炎属性の弱点は存在せえへんで!」
「まずい! 攻撃力は"炎の剣士”より"エビルナイト・ドラゴン”のほうが上だ!」
「いけぇ、"エビルナイト・ドラゴン”! 『ナイトメア・シャドウ・ソニック』!」
エビルナイト・ドラゴン
攻撃力 2350
炎の剣士
攻撃力 2340
「"炎の剣士”撃破や!」
「くっ! 俺の最強モンスターが!」
城之内 LP 1055
「城之内!」
「まずいよ……ここまで唯一、竜崎君を責めていた城之内君のモンスターが……」
「やっぱり……無理なのか。俺一人で勝つのは……」
「……」
"炎の剣士”がやられたことにより、城之内の士気が目に見えて落ちる。
その様子を見る舞は、軽く勝利に目線を送る。
「勝利……あんたは、どう思うの? もうこのデュエルは、終わると思う?」
「さあね。それは、城之内君次第……いや、城之内君の心を、支えるもの次第じゃないかな?」
「心……」
「くそっ! 俺のターン、ドローっ! このカードは!?」
半ば自分を鼓舞するように声を張ってドローした城之内の表情が、ドローカードによって変わる。
その表情を見て、遊戯たち、そして勝利の表情に疑問が浮かぶ。
(僕の知っている限りの城之内君のデッキに、この状況を一枚ひっくり返すようなカードはもうデッキには存在しないはず……)
「……本田。俺と一緒に戦ってくれ!」
「っ! あのカードは俺の!?」
バーバリアン1号
地属性 戦士族 星5
攻撃力 1550 + 30% = 2015
守備力 1800 + 30% = 2340
「バーバリアン……? なるほど、本田君から分けてもらったカードってことか」
だが、まだ攻撃力は竜崎の"エビルナイト・ドラゴン”には及んでいない。
「なら、一体ずつ葬っていったるわ。"エビルナイト・ドラゴン”、目標、"バーバリアン2号"! 『ナイトメア・シャドウ・ソニック』!」
竜崎の攻撃が、バーバリアンへと襲い掛かる。
城之内に罠カードの用意はない。
この攻撃は、止められない!
そう考えた勝利や舞の隣から、声が飛ぶ。
「頼む! "バーバリアン1号"! 城之内を助けてやってくれ!」
その声に呼応するように、"バーバリアン1号"が"2号"の前に躍り出る。
「なにっ!?」
フィールドが爆炎に包まれる。
その爆発が起こったのは、竜崎のフィールドのほうだった。
「なんや!? 『ナイトメア・シャドウ・ソニック』が、はじき返された!?」
竜崎
LP 840
「ほ、本田のカードが……」
「城之内を助けてくれた……」
「そうか!? あのカードには、二人そろったときにお互いを助け合う効果があったんだ! それによって強化された城之内君のカードが、"エビルナイト・ドラゴン”を返り討ちにしたんだよ!」
「すごーい! 城之内、やっちゃいなさーい!」
「本田……感謝するぜ!」
「おう! いけぇ! 城之内! 恐竜野郎に、俺たちの友情パワーをあいつらにみせてやれぇ!」
盛り上がる遊戯陣営。
LPも逆転し、城之内のジャイアントキリングはもはや奇跡と呼ばない場所まで迫っていた。
「"友情パワー”……そんなもので、本当に……」
そんなはしゃぐ遊戯たちに聞こえない声量で呟いた舞の言葉を、勝利は聞き逃してはいなかった。
『見えるんだけど、見えないもの』
城之内が語るそれの正体に、舞は気づき始めていた。
そして……
「……友情パワー、カードとの絆」
竜崎もまた、何かを思うように、そう呟いた。
「……ええわ、ならその力で、ワイのデッキのパワーに敵うんかどうか、見せてもらおうやないか!」
「ああ! 今見せてやるぜ竜崎!」
竜崎が吠え、城之内がそれに返す。
その姿は実に……
(楽しそうだな、竜崎君)
この後の勝利との決闘のための、前哨戦を戦う男の姿とは違う。
対等、互角のデュエルを楽しむ、本能のままに戦う決闘者の姿そのもの。
勝利が追い求める、『全力を尽くす楽しいデュエル』の体現だった。
「でも言っておくがな、城之内。ワイのデッキの最強モンスターは、"エビルナイト・ドラゴン”とちゃうねんで。ワイのデッキにはまだ、最強のモンスターが眠っとるんや!」
「なにっ!」
「なんだと!?」
「嘘……?」
「……なんだって!?」
城之内や遊戯、舞や勝利までもが思わず驚きの声を上げる。
「"エビルナイト・ドラゴン”でさえ、相当プレミアのついたレアカードだってのに……」
「まさか、本当にそれ以上のカードを……」
「いまみせたるわ。行くで、城之内! ワイのターン、"
闇属性 ドラゴン族 星7
攻撃力 2400
守備力 2000
「なっ、なんだそのカード。めちゃくちゃつよそーだぜ!?」
「れ、"真紅眼"!? 海馬君の青眼の白竜にも匹敵する、超幻の激レアカードだよ!?」
「ワイがこの決闘者王国で戦うために全財産はたいて買うたカードや。当然、パワーも一流。ワイのデッキの最強カードや!」
遊戯は驚愕のあまりに声を上げ、それ以外の面子はあまりの衝撃に絶句していた。
(これが、竜崎君の全力……)
「さらに"
攻撃力 2400 + 600 = 3000
「こ、攻撃力3000!?」
「いくで、城之内! "真紅眼の黒竜"の攻撃! 『黒炎弾』!」
攻撃力 3000
バーバリアン2号
攻撃力 2340 + 500(バーバリアン1号の補助) = 2840
城之内 LP 1055 ー (3000 ー 2300(フィールドパワーソースを抜いた攻撃力)) = 355
「お、おれのバーバリアンが……」
「城之内のカードが、やられちまった」
(これは……さすがに決まったかな。もう城之内君のカードで、"真紅眼"の攻撃力を超えるモンスターは存在しない……唯一あるとすれば、"時の魔術師"のタイムマジックだけど……)
「……ここまでか」
自分のターンが回ってきたというのに、城之内はカードを引くこともなく、うなだれている。
心が折れた。決まりだ。
「……終わりね」
「ああ。残念だけど、ゲームエンドだ」
舞の言葉に同意する。二人の言葉は城之内を嘲るような意図は存在せず、ただ淡々と事実を述べているようだった。
「ちょっと、勝利君!?」
「もちろん、城之内君があきらめない限り僕だって応援するつもりだ。でも、彼のデッキを理解している遊戯君ならわかっているだろう。城之内君の逆転のカードは、すでにデッキには存在しない」
「……」
「遊戯……」
「外野が教えてあげることは簡単だ。遊戯君じゃなくても、『伏せカードを開けば勝機はある』。そう一言声を上げればいい。その瞬間、城之内君の勝率は0%から50%に跳ね上がる。だが、その瞬間にこのデュエルの勝者は消える。城之内君は、二度と決闘者として立ち上がることはできなくなってしまうよ」
「そんな……」
「城之内は、『仲間とともに戦うことによる強さ』をもっていた。それは認めるわ。正直、"エビルナイト・ドラゴン”が出てきた時点で、このデュエルの勝者は決まったと思った。そこから竜崎の"真紅眼"を引きずり出したことはあのシロートボーヤとしては値千金の結果。ただ、それだけで勝てるほど決闘の世界は甘くなかった」
辛そうな遊戯、悲しそうな杏子に、勝利と舞は現実を突きつけた。
心は城之内、だがデュエルに対しては中立。そう宣言した立場を、勝利は貫いた。
「もう一言付け加えるのであれば、この決闘で竜崎君に負けることは、決して恥じることじゃあない。城之内君は多少のミスはあれど、素晴らしい決闘を見せてくれた。『友情』という力を武器に、竜崎君の力にあらがった。それを、竜崎君のパワーを生かした戦術が上回った。僕はこのデュエルを見て、M&Wの奥深さを再確認できた。この決闘が終わったら、僕は城之内君を心からたたえ、竜崎君の挑戦を受けることにするよ」
勝利の一言により、遊戯たちはとうとう抗議の言葉を噤んだ。
彼らに残された、城之内の逆転を最後まで信じ、応援の声を上げることだけ。
しかし、その応援の声すらも、上がらなかった。
その理由は、城之内本人にあった。
「……」
城之内は、顔を上げなかった。
力なくカードを引くが、表情は晴れない。
(確かに、『見えるんだけど、見えないもの』はあったわ。それだけは認めてあげる、城之内。でもね……)
(いくら仲間の思い……そして、妹さんへの思いを力に変えていたとしても、それを力に走るのは城之内君自身だ。城之内君のエンジンが止まってしまっては、いくら応援のエネルギーがあっても走り出せない。それでも、サレンダーをしないのは城之内君の強さだけど……)
勝利は一戦目に竜崎と戦っていた際に彼が伏せていたリバースカードが、"守備封じ"のカードであったことを覚えている。
彼がそれを引いたその瞬間に、ゲームが終わる。
痛々しくも足掻く城之内の姿から背けるように皆は目をつむった。
そんな皆の耳に、怒号が届いた。
「おい、城之内! お前、ふざけるんやないで!」
「っ! 竜崎?」
驚いた表情の城之内が、思わず顔を上げる。
だが、その城之内以上に驚いたのは遊戯たちで、それ以上に驚愕したのは舞と勝利だった。
「竜崎? あんた……」
「竜崎君……君は、いったい何を……?」
「ワイはな……全力の勝負をしたいんや! 全力を尽くしたお前に勝ってこそ、この決闘に意味があるんや!」
「竜崎……俺は……」
「勝手に腐るなや! 全部をぶつけてこいや! まだ、お前のカードは残っとるやろうが! お前のすべてのカードを使って、挑んで来い! ワイが全部、ぶっ潰したる!」
「すべてのカード……」
その竜崎の言葉に、城之内ははっとした表情で自分の場を見つめる。
その様子に、勝利も衝撃を受ける。
「まさか竜崎君、自分から"時の魔術師”を……」
「なによ……一体、何をやってんのよ。竜崎は?」
「ゆ、遊戯。何が起こってるの?」
「ぼ、僕にもわからない……けど、これは……」
「……竜崎、わかったぜ。俺は、カード全部使って、全力で戦う! もしこの賭けが失敗しても、デッキのカード全部使いきるまで、お前に挑み続けてやる! 俺は、絶対諦めねぇ!」
「こいや! 城之内! お前の全力を踏み越えて、ワイが勝つ!」
「行くぞ! 竜崎! "時の魔術師”!!!」
城之内の伏せカードが開き、
運命の時計の針は、回り始めた。
「き、きた!」
「"時の魔術師”の『タイム・ルーレット』!」
「当たりは『タイムマジック』、外れは逆噴射による自滅……」
「まさに運命の大博打だ……」
回る針に、全員が息をのむ。
全員が"時の魔術師”に目をくぎ付けにされる中、勝利は、竜崎の表情に目を奪われていた。
「……ふんっ」
竜崎は、『タイムマジック』の結果を待たずして、自嘲するかのように鼻を鳴らし、少しだけ笑った。
「っ! 竜崎君!」
勝利が次の言葉を紡ぎだすよりも先に、"時の魔術師”がうなりを上げた。
『タイム・マジック!』
フィールドに雷が降り注ぎ、かと思えば日照りが地を焼き、嵐で砂が宙を舞い。
そんな数百、数千年の時がフィールドを駆け巡り……
轟音が消えた後のフィールドを見つめなおすと、
「……」
「れ、"真紅眼"が……」
「化石化した……?」
その身を保てず、体が崩れ落ちていく、見るも無残な
「フィールド上で何千年もの時が過ぎ去り……最強のドラゴンは、化石となって消滅したんだ……」
遊戯が起こったことを解説するが、そんな言葉を聞かずとも素人の本田や杏子でさえ、先ほどまで城之内に絶望を与えていた"真紅眼"の脅威が消え去ったことを理解していた。
竜崎
LP 840 ⇒ 0
城之内
LP 355
「じょ、城之内が勝っちゃった……」
「し、信じられねえ……」
「うん……大逆転勝利だよ……」
杏子たちが口々に驚愕の声を上げる。
当然、遊戯や舞、勝利も同じ思いだった。
ただ、それ以上に、圧倒的衝撃を受けている張本人は、いまだ自分の席からピクリとも動けずにいた。
「……お、俺……勝ったのか?」
「……けっ、負けてもうたわ」
デッキを懐にしまい、星をおいたままボックスを出ていこうとする対戦相手の姿を見てようやく我に返った城之内は、必死に声を上げた。
「りゅ、竜崎! お前、なんで……」
「なんや、城之内。もっと喜べや。お前みたいなドシロート決闘者が、運任せとはいえ全国大会三位のワイに勝ったんやろが」
「竜崎!」
言いながらもう一度ボックスを去ろうとする竜崎を、城之内がもう一度声を上げて止める。
「なんで、なんで"時の魔術師”のことを俺に教えてくれたんだ!? お前が俺に伏せカードのことを教えてなかったら、お前の"
「……別に、そんな大層な理由ないわ」
「いや。差し支えなければ、僕にも教えてほしいな」
三度ボックスを出ていこうとする竜崎を、今度は出口に張り付いた勝利が止めた。
その後ろには険しい顔をした舞がおり、さらにその後ろには遊戯たちが構えていた。
「僕も僕なりに君との決闘を楽しみにしていた。城之内君との決闘を見て、その思いは強まっていった。その僕とのデュエルを捨てて、敗北をとったんだ。僕にも、説明を聞く権利があると思うな」
「……敗北をとったわけとちゃうわ。『タイムマジック』が外れてワイが勝つなら、予定通り勝利と決闘するつもりやった」
「でも、あんたが何も言わなければ確定していたであろう勝利の未来をあんたは放棄して、"時の魔術師”との勝負に出た。数時間前まであれだけ待ち望んでいたリベンジマッチの未来を放棄して……それはなぜ?」
勝利の強い瞳、舞の鋭い視線が竜崎を射抜く。
遊戯たちも言葉にはしないが、同じことを思っているのは自明だった。
ほんの少し静寂が走った後、竜崎は一つため息をつき、観念やあきらめが混ざったような口調で語りだす。
「……何度も言うが、ワイは別に、勝利と戦いたくなくなったわけとちゃう。ただ……
今のまま、勝利ともう一度向かい合うことはできひんと思たんや」
「……どういう意味よ」
言いようもない表情で固まっている勝利の代弁と言わんばかりに舞が問うた。
「ワイは、この王国にきて最初に、勝利に負けた。完膚なきまでの敗北やった」
少し顔を上にあげ、振り返るように話した。それは、嫌な思い出を語るという様子ではなかった。
「大したパワーもないと侮っとったカードに、ワイのデッキが負けた。ワイはこれまで、決闘っちゅうんは力で押し切るもんやと信じとった。負けたんやったらカードのパワーが足りひんかったんや。せやから、今までで一番の
「竜崎君……」
「最初は、お前との再戦のために、闇雲に星を集めなおしとった。せやけど、お前との再戦が近づくにつれて、お前に勝てるビジョンが見えんくなってきた。ほんまにワイのデュエルで、勝利に勝てるんか。わからんくなってきた」
「……竜崎、あんた……」
舞には、その思いに覚えがあった。
勝てると思ったのに、勝てなかった相手。
勝てるはずなのに、勝てなかった相手。
その強さが、自分には見えない。
舞の城之内に対する思いと、竜崎の勝利に対する思いは、近からずも遠からずだった。
(……竜崎君が城之内君との決闘で、何を思っていたのか。今わかった)
「それでも戦いたかったんや。もはや、星失ってこの王国を追い出されることなんかどうでもええ。ワイのデュエルが、勝利に通用するんか、せえへんのかが知りたかった。だから出会ったときに、再戦を挑んだんや。でもその一方で、ワイにホンマに勝利と戦う力があるんか、信じきれんかった。だから、孔雀舞の口車にのったったんや。せめて星の数だけでも対等に並んで勝負したいっちゅうのは、ワイも考えとったからの」
「……でも城之内君とのデュエルで、君は……」
「ああ、あろうことかこのシロート決闘者と、大接戦してもうた。あと一歩のところまで、ライフも削られた。"
「竜崎……」
「安心せえ、城之内。この決闘は、まぎれもなくお前の勝ちや。
一つ笑い、竜崎が続ける。
「……ところで城之内。お前、"時の魔術師”の効果以外でデュエルに勝ったことあるんか?」
「そっ! それは……」
「……さすが、全国三位の実力者」
「すぐ見抜いたね」
「う、うるせえぞてめえら!」
本田と獏良の呟きに城之内が顔を赤くして反応する。
そのセリフに、勝利も思い出す。
(……そういえば城之内君、デュエルの特訓はほぼ全部遊戯君とやって全敗してるって言ってたっけ。そして、星の数的に、舞さんとやって、そのあとに竜崎君……ほんとだ。"時の魔術師"でしか勝ってないや)
「しゃあないのう。おい、城之内。お前にこのカードやるわ」
「はっ? いったい何を……って、これは!?」
そういって渡されたカードを見て、城之内は驚愕する。
そして、次に城之内が発した言葉を聞き、全員が声を上げた。
「おい、竜崎! これ、"
「はっ?」
「えっ?」
「「えええええええええ~~~~~~~~!?」」
「おい、何やってんだ竜崎!? そのカード超プレミアカードなんだろ!? もったいない真似してんじゃねえ!」
「そうよ! そんなの城之内に渡すなんて、捨てるようなものだわ!」
「おい! てめえら! 外野が言いたい放題いってんじゃねえ!」
「……でも、杏子ちゃんたちのいうことももっともだよ。竜崎君」
暴れだしそうな城之内をよそに、勝利は冷静に竜崎に告げる。
「"真紅眼"……いや、"真紅眼"じゃなくったって、この王国でカードを人にあげる、なんて行動は論外だ。僕たち参加者は、船を降りるときにデッキ四十枚以外のカードは預けてしまっている。"真紅眼"を上げてしまったら、君のデッキは四十枚に満たなくなる。君はこの
「ええねん」
勝利の心配の言葉に、竜崎は一も二もなく返した。
「ワイはもう、お前と再戦する気も、この先勝ち残る気もあらへん。ワイには、どっちも早すぎたんや」
「……城之内のほうがよっぽど早すぎだけどな」
「そうよ。そもそも誘われてもないんだから」
「だからお前らうっせえんだよ!」
「……"
「……いや、城之内のほうが絶対に実力たんねーって」
「宝の持ち腐れだわ」
「おめーらはもう黙ってやがれ! このシロートどもが!」
「なんだよ。本当のことだろうが」
「そうよそうよ」
「どうどう」
本格的にもめそうだった城之内と本田たちのやり取りを、間の勝利がなだめる。
そんな光景に竜崎はまた軽く笑い、城之内に向き合う。
「ええか、城之内。今まではまぐれで勝てとったかもしれんが、二日目にもなれば猛者が残ってる。"時の魔術師"一枚じゃひっくり返せへんこともあるし、知ってるやつには対策もされる。だからワイがやったみたいに、切り札を二枚用意しておくんや。片方が失敗しても立て直しできるようにな」
「っ! 竜崎……」
(そうか……竜崎君にとって、"真紅眼"は、力を信じる自分のデュエルの象徴たる『強いカード』だった……だからこそ、力以外の強さを知ってたうえでさらなる強さを目指すために、力の象徴たる"真紅眼"を手放して前に進もうとしているんだ……そして……)
「ワイに勝ったんや。どうせならそのカード使うて、
(自分とは違う強さを持つ城之内君に、『新たな可能性の象徴』として、"真紅眼"を託したんだ……)
そういって竜崎は、今度こそボックスを出ていく。
勝利は、今度は止めはせず、出口を開けるように退く。
城之内はバタンっと音を立てながら追うようにボックスをでて、叫ぶ。
「竜崎、約束すんぜ! このカードは、俺の宝にする! そんで、この
「……せいぜい頑張りや。ワイはもうこの島出るで。アホなことしたせいで、デッキが足らなくなってしもたからな」
竜崎は身を翻し、軽く手を振りながら歩き出す。
その背中には、未練や後悔は欠片も感じられない。
「竜崎君!」
今度は、勝利が竜崎に叫ぶ。
竜崎は振り返り、勝利の次の言葉を待たずに話し出す。
「勝利……一個だけ言い忘れとったわ」
「竜崎君……」
「確かに"真紅眼"手放したし、この王国からは消えるけどな。別にワイは、お前へのリベンジは諦めとらへんで」
「!!!」
「今は、お前と戦う資格がなかった。だから退くだけや。ワイは絶対、ワイの力で、お前に勝つことをあきらめへん。覚悟しとくんやな」
そういうと、竜崎は再び歩いていく。
その背中に、勝利はもう一度叫ぶ。
「……必ずもう一度、決闘しよう。僕たちのすべてを賭けた、最高に楽しい決闘を!!!!」
竜崎は、振り返らず手を振る。
勝利は、竜崎が見えなくなるまで、手を振り続けた。
「竜崎君……すごい決闘者だったね。城之内君」
「ああ……竜崎に恥じねえ決闘者になるためにも、俺はやるぜ遊戯! 絶対に、勝ち残ってやる!」
「……あーあ。あほくさ。何が資格よ。結局自分で賞金手に入れるチャンスも勝利との再戦のチャンスも不意にしちゃって、バッカみたい」
「……言霊が宿っちゃうからね。本当に思ってないことは、言わないほうがいいと思うよ」
「……どういう意味よ」
「そのままの意味さ。君が、今の竜崎君の強さを、理解できないはずがない。だろ?」
「……ふんっ!」
怒涛の一日目は、夜へと舞台を変える。
武藤遊戯 星 六個
城之内克也 星 四個
孔雀舞 星 八個
黒羽勝利 星 六個
お察しの方は多いと思いますが、アニオリの展開を混ぜさせていただいています。
俺と本田のバーバリアン、熱いですよね。