遊戯王~黒き羽根は夢に舞う~   作:haruko

91 / 98
乃亜編特殊ルール④

デッキマスターを素材に融合モンスターを召喚した場合、デッキマスターの権利が融合モンスターに映る。
プレイヤーはその融合モンスターが破壊されると、ゲームに敗北する


戦う理由

 

 

ジャッジマン LP 3200 手札3枚

 

 

クリッター

 

攻 600(攻守反転中)

 

伏せカードなし

 

 

竜崎 LP 4000 手札4枚

 

 

セイバーザウルス

 

攻 1900

 

伏せカードなし

 

 

静香 2800 手札5枚

 

 

慈悲深き修道女

 

攻 2000(攻守反転中)

 

伏せカードなし

 

 

「さて、ワイのターン。ドローや」

 

手札にカードを加えながら、敵の場を見据える竜崎。

静香という守るべき存在によるものか、普段の力を圧倒的力を誇示するために戦うようなスタイルからは想像もできないほどに、慎重に、そして、冷静に場を見つめていた。

 

(……ワイの場には"セイバーザウルス"。相手の場には攻撃力600の"クリッター"のみで、大したカードもあらへん。普通に考えりゃ、攻めたもん勝ちの状況やが……)

 

 

 

「フフフフフ」

 

 

 

大岡こと、"ジャッジマン"の嫌な笑い声を耳にしたことで、竜崎はそこまでの思考を切って捨てる。

 

(……あまりにも無防備なフィールド。ただのアホやったらそれまでやが、この腐れ裁判官は決闘の腕は大したことなくても、ものを知らんアホやない。なんかある……手札に防御カードがあるんか、それとも……)

 

「……このまま、バトルや! "セイバーザウルス"で、"クリッター"に攻撃! 踏みつぶしたれ! 『ダイナスタンプ』!」

 

 

 

セイバーザウルス

 

攻 1900

 

クリッター

 

攻 600

 

 

 

「来ましたね。さあ、思い知らせてあげましょう!」

 

 

 

"セイバーザウルス"の足が"クリッター"の眼前へと迫ったその瞬間に、"ジャッジマン"が打ち鳴らすガベルの音が響き渡る。

 

 

 

「私のデッキマスター能力、『無期懲役』! 1000ポイントのLPを支払い、相手フィールド上のモンスターを、すべて除外する! そして除外したモンスターの数、敵プレイヤーに500ポイントのダメージを与える!」

 

「な、なんやと!?」

 

「当然、タッグで戦っている以上、この効果はあなたたち二人に作用します。食らうがいい! 『無期懲役』!」

 

 

LP 3200 ー 1000 = 2200

 

 

セイバーザウルス 除外

慈悲深き修道女 除外

 

「わ、ワイの"セイバーザウルス”が……」

 

「私の"慈悲深き修道女"も……」

 

眼前から、光となって消えていく自分たちのモンスターを見て、言葉を失う二人。

 

 

「そして、あなたたち2人に、500ポイントずつダメージです!」

 

 

竜崎 LP 4000 ー 500 = 3500

 

静香 LP 2800 ー 500 = 2300

 

 

 

「ぐおお!!?」

 

「きゃあ!!?」

 

 

その衝撃に、思わず腕を上げ防御の姿勢をとる二人。

 

「さて、どうですかな? 私のデッキマスター能力の味は?」

 

「クッソ……なんちゅうふざけた効果や……おい、大丈夫か?」

 

「は……はい……」

 

少々勢いは陰りつつあるその声色を心配しつつも、返ってきた言葉にひとまず安心した後、敵に向き直る。

 

(なんかあるとは持っとったが……こんなもん、シャレになってへん! モンスターを全除外やと? しかも、自分の好きなタイミングで、効果ダメージまでつけて!? ほしい効果詰め込んだみたいなインチキわざ使いおって……しかも……)

 

竜崎はちらと自軍を見る。

自分の後ろで、実におとなしく力を溜め、出番を待っている真紅眼の姿がある。

 

(……いくら真紅眼がおる言うても、ひとたびこいつを場に出した後、こいつがフィールドを離れたその瞬間にワイは負ける……あいつのデッキマスター能力は、こっちのデッキマスターの召喚まで封じてしもうとる……)

 

「……ワイは手札から、"ヘルカイドプテラ"を召喚や」

 

 

ヘルカイドプテラ

 

風属性 恐竜族 星4

 

攻撃力 1400

 

守備力 1000

 

相手フィールドに風属性モンスター以外のモンスターが2体存在する場合、そのモンスターはこのカードを攻撃できない。

デッキから「融合」1枚を手札に加える。

このカードが除外された場合、このカードを特殊召喚する。

 

 

 

「ワイはこのカードの効果で、"融合"を手札に加える。ほんで、カードを1枚セット。ターンエンドや」

 

 

 

「私のターン。グフフ、私は手札から、"黒き森のウィッチ"を召喚!」

 

 

 

黒き森のウィッチ

 

闇属性 魔法使い族 星4

 

攻撃力 1100

 

守備力 1200

 

墓地に送られた時、デッキから守備力1500以下のモンスターを手札に加える

 

 

 

 

「そして……手札から魔法カード、"置換融合"を発動!」

 

「っ!? あかん!」

 

「"置換融合"……?」

 

 

 

置換融合

 

魔法カード

 

フィールドのモンスターで融合を行う

墓地のこのカードを除外し、墓地の融合モンスターをデッキに戻してカードを1枚ドローする

 

 

 

「フィールドの"クリッター"と、"黒き森のウィッチ"を墓地に送り、"クリッチー"を融合召喚!」

 

 

 

クリッチー

 

闇属性 魔法使い族 星6

 

融合モンスター

 

「クリッター」 + 「黒き森のウィッチ」

 

攻撃力 2100

 

守備力 1800

 

 

「そして、融合に使われた"クリッター"と"黒き森のウィッチ"の効果発動! 墓地に送られたことにより、それぞれ、攻撃力1500以下のモンスターと、守備力1500以下のモンスターを手札に加える。私はこの効果で、"響女"と、"女王の影武者"を手札に加えます」

 

 

 

響女

 

地属性 戦士族 星4

 

攻 1450

 

守 1000

 

 

女王の影武者

 

地属性 戦士族 星1

 

攻 350

 

守 300

 

このカードは相手プレイヤーを直接攻撃する事ができる。

 

 

 

「"響女"に"女王の影武者"やと!? 全部融合素材モンスターやないか!?」

 

「なかなか察しがいいですね。その前に、墓地に行った"置換融合"の効果発動。"魔人 ダーク・バルター"をデッキに戻し、カードを1枚ドロー。そして……もう一枚、"融合"を発動!」

 

(あかん! こいつ……このターンで決める気や!?)

 

「"響女"と"女王の影武者"を融合! "裁きを下す女帝"を融合召喚!」

 

 

裁きを下す女帝

 

地属性 戦士族 星6

 

融合モンスター

 

「響女」 + 「女王の影武者」

 

攻撃力 2100

 

守備力 1700

 

 

 

ジャッジマン LP 2200 手札2枚

 

 

クリッチー

 

攻 2100

 

裁きを下す女帝

 

攻 2100

 

伏せカードなし

 

 

竜崎 LP 3500 手札4枚(融合)

 

ヘルカイドプテラ

 

守 1000

 

伏せカード1枚

 

 

静香 2300 手札5枚

 

モンスターなし

 

伏せカードなし

 

 

 

 

「連続融合召喚……しかも、手札もたいして減らさんと展開しよった」

 

(こいつ……いうだけのことはありよる。このままやとあかん!)

 

 

 

 

「グフフフフ。さて、どちらから先に葬って差し上げましょうか」

 

品定めするように二人を交互に見る"ジャッジマン”。

苦々しい顔でこちらを睨む竜崎。

不安げな表情で、こちらを祈るように見つめる静香。

 

「考えるべくもありませんね。バトル! "裁きを下す女帝"で、河合静香にダイレクトアタック! 『裁きの審判』!」

 

 

裁きを下す女帝

 

攻 2100

 

静香 2300

 

 

「っ!?」

 

モンスターの翳した宝石から伸びる光線が、静香に迫る。

静香が思わず、目を瞑った。

 

 

「……伏せカードオープン! "体力増強剤スーパーZ"や!」

 

 

「なんですって?」

 

 

 

体力増強剤スーパーZ

 

罠カード

 

2000ポイント以上のダメージを受けるその瞬間、ダメージを受ける前に、4000自分のLPを回復する

 

 

 

「このカードによって、その攻撃の前に、増強剤の効果が発動! LP回復や!」

 

 

静香 2300 + 4000 ー 2100 = 4200

 

 

 

「あああ!!?」

 

「っ!!? ちいっ!」

 

竜崎が駆け寄ろうとしたその瞬間に、間髪入れずに"ジャッジマン”大岡が叫ぶ。

 

 

 

「さらに"クリッチー”で、河合静香にダイレクトアタック! 『法の魔術』!」

 

 

 

「おいコラ、ちょお待て!」

 

 

(モンスターを盾に……いや、あかん! 今"ヘルカイドプテラ”を失ったら、ワイも次のターンを耐える手段がなくなって負ける! ここは……動けへん!!)

 

 

 

静香 4200 ー 2100 = 2100

 

 

 

「きゃあああああ!!!!」

 

「っ!!? やめろや!! このくそったれ!!」

 

 

「フフフ……いいですねえ。どうせ負けるのですから、早いうちにサレンダーしてもよいのですよ?」

 

 

ジャッジマン LP 2200 手札2枚

 

 

クリッチー

 

攻 2100

 

裁きを下す女帝

 

攻 2100

 

伏せカードなし

 

 

竜崎 LP 3500 手札4枚(融合)

 

ヘルカイドプテラ

 

守 1000

 

伏せカードなし

 

 

静香 2100 手札5枚

 

モンスターなし

 

伏せカードなし

 

 

 

(……クッソ。LP回復させたせいで、却って苦しむ量が増えとる……どうせ素人じゃあライフゲインカードなんぞ入れへんと思てサポート用に入れといたカードが、完全に裏目や)

 

竜崎が悔しそうに歯を食いしばる最中、"ジャッジマン”は愉快そうに顎に手を当てる。

 

(……このまま私自身を召喚し、追撃すればほぼ間違いなく彼女は葬れる。だが……竜崎が小賢しい手で私の手を妨害してくる可能性……それに、安易なデッキマスターを召喚して、次ターンの竜崎に私のデッキマスターがやられてしまっては私の負け。どうせ次はあの小娘のターンですし、このまま終わりでかまわないでしょう)

 

 

「私はこれで、ターンエンド」

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

本来の静けさを取り戻したような裁判所の中に、静香の健常とは思えない呼吸が響き渡る。

ダメージをそのまま受けるこの決闘はそれだけで、病み上がりの静香の体を勢いよく蝕んでいく。

 

 

そうでなくとも、初めての決闘でこの先の見えない危険な展開。

 

静香は肉体だけでなく、精神も大きくすり減らしていた。

 

「私のせいで……私が、決闘をやりたいなんて言ったから。よくわからないまま、竜崎さんを苦しめて、竜崎さんの迷惑になって……」

 

「……」

 

その静香の言葉に、竜崎は慰めを吐かなかった。

 

静香は、世の中を知る時間が足らなかったが故にものを知らないだけで、もともとそういった雰囲気から感じられる機微には聡い。

それはこれまでに交わした簡単な会話だけでも、十分に理解できた。

 

静香は、正しく理解していた。

自分が、お荷物になっていること。

 

自分が、竜崎の足手まといであるという現実を。

 

 

だからこそ、竜崎は何も言わない。

いや、何も言えない。

 

事実を理解している静香に、今の自分が優しく接することは何の価値もないことだとわかったからだった。

 

 

やがて静香は、膝を折る。

それを見た"ジャッジマン”、大岡は、予定通りと言わんばかりに声を出さずに笑った。

 

 

(……これで小娘の体はいただき。そして小娘を守るためにカードを使ったダイナソー竜崎など、私の敵ではない。どうやら、保険を使うまでもない。この勝負、私の勝ちですね)

 

 

 

「さあ……ターンを進める気がないのなら、決闘放棄とみなしますよ。まあその方が、痛みを感じる時間が少なくて済む分、利口かもしれませんがね」

 

「……」

 

 

 

大岡の言葉に顔を歪ませる竜崎。

そして、少し間を開けた後、静香に近づいていく。

 

 

 

「被告人! アドバイスは禁止だといったはずです!」

 

「わーっとるわ。ちょっと話すだけや」

 

 

 

そういって竜崎は、静香の傍に立つ。

万が一にも手札が見えたりしないよう最低限の距離をとっていることから、話すだけという言葉が口先だけではないということが伺える。

 

だが、静香はというと、未だピクリとも動かず、項垂れるだけだった。

それを見て、竜崎は静かに口を開く。

 

 

 

「静香」

 

「っ……」

 

 

初めて、竜崎に名前を呼ばれた。

思わず反応した静香は、上げた顔を竜崎に向けた。

 

「辛いか?」

 

「……はい」

 

静香は、零すように言葉を紡ぐ。

竜崎に迷惑をかけている。

自分は、余計なことをしてしまっただけで、何の役にも立っていない。

それが、静香の心を強く締め付けた。

 

 

「決闘は、おもんないか?」

 

 

続けて、竜崎が聞く。

少しだけ驚いたような不思議なような顔になった静香が、改めて竜崎を見る。

竜崎は、まだ、真っすぐ、静香を見ていた。

 

 

「……わからないです。私、何もできていないから……」

 

「ま、せやろな。いきなりこんな大舞台に立たされたんや。わけわからんくなってまうのが道理や」

 

 

竜崎は、軽くそういって笑う。

だが、すぐに表情を変えて、言葉を続けた。

 

 

 

「……やめたいか?」

 

 

 

「……」

 

 

静香は、その言葉に、一瞬黙りこくった。

そして無言で何かを考えこんだ後、また、吐き出すように言葉を吐いた。

 

 

「……これ以上、竜崎さんに、迷惑をかけるくらいなら……」

 

 

「ワイの事はどうでもええ。お前が、まだやりたいか。やめたいかどうかや」

 

 

静香が、その言葉にピクリと体を震わせる。

静香の逃げの言葉を撃ち落とすように、竜崎が言った。

しかし、心が折れかかる静香は、未だ立ち上がることができずにいた。

 

 

 

 

「でも……私がこれ以上戦っても、勝ち目が……」

 

 

 

 

「はっ」

 

 

 

 

静香が必死にひねり出した言葉を、竜崎は嘲るように笑った。

 

 

 

 

「勝ち目やと? ド素人のくせに、何を偉そうに言っとんねん。お前、ホンマにあの城之内の妹かいな?」

 

 

 

 

そのあまりにも鋭い言葉に、静香の瞳が揺れる。

竜崎は、そのまま続けた。

 

 

 

「言っとくがな。城之内は、どんなに勝ち目がない戦いだろうが、一回たりとも諦めへんかったで」

 

 

 

「っ!!? お兄ちゃん……」

 

 

 

 

その言葉で、静香の脳裏に蘇る忌まわしき光景。

辛い記憶であるが故に、蓋をしてしまった、兄の決闘の姿。

 

 

 

 

 

『……へっ。甘いぜ、マリクちゃんよお』

 

 

『"ギルフォード・ザ・ライトニング"、降臨!』

 

 

『……へへっ。心配すんな……俺は、勝つぜ!』

 

 

 

 

(お兄ちゃん……そうだ。お兄ちゃんは、一度もあきらめなかった……どんなにつらくても、苦しくても、最後まで戦い抜いた……)

 

 

蓋をした記憶の中から、一つずつ、一つずつ、最愛の兄の雄姿を取り出す。

その姿にほんの少しずつ勇気をもらった静香は、たたまれた足に力を込めた。

 

 

 

「……お前の兄貴はな。お前を助けるために、王国の決闘を戦いぬいた。それはお前も知っとる通りや。せやけどな……城之内は、勝てる戦いを勝ち抜いて勝ち残ったんとちゃう。勝てない試合でも諦めずに、戦い抜くことで生き残ったんや。あいつは何があっても、決闘を投げ出そうとはせんかった」

 

 

「……」

 

 

 

静香が、そっと立ち上がる。

その目は、まだ怯えが残る。しかし、今は真っすぐに、目の前の敵、"ジャッジマン”を見据えていた。

 

 

 

 

「おやおや……結局まだ戦うのですか……その程度の決闘者に発破をかけられ、やる気を出したところで結果は見えているでしょうに……」

 

 

「っ!!? また……竜崎さんを……」

 

 

(そうだ……私は、この人に、勝ちたかったんだ……お兄ちゃんや、竜崎さん。みんなを馬鹿にしたこの人が、許せなかったから……)

 

 

 

 

静香の心に、再び闘志の灯が灯ったその時。

静香のポケットが、光り輝いた。

 

 

 

「っ!? な、なんです! これは!?」

 

「静香……」

 

 

 

「こ、これって……」

 

 

 

静香が、ポケットからそれを取り出し、驚愕した。

光り輝くそれに、静香は見覚えがあった。

 

 

 

 

 

 

「……勝利さんが、お兄ちゃんに渡してくれたネックレス……」

 

 

 

 

 

 

なぜそこに。

いつの間に。

 

どうして、こんなにも光り輝いているのか。

 

疑問はいくつも沸いてくるが、その温かい光に包まれた静香の心にあるのは、たった一つ、たった一人の兄の姿だった。

 

 

 

(お兄ちゃん……)

 

 

 

静香はネックレスを握りしめ、目を閉じ、祈るように兄を想う。

 

 

 

 

(お兄ちゃん……助けて……竜崎さんを、助けて!)

 

 

 

 

 

 

 

 

『なっさけねえぞ! 静香!』

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、祈る静香に声が響いた。

 

 

 

 

 

 

(お、お兄ちゃん!?)

 

 

 

 

 

 

静香が、周りを見る。

しかし、目に映るのはきょとんとした竜崎と、訝しむ"ジャッジマン”大岡だけ。

 

静香の瞳には、何も映らない。

 

 

しかし、静香には聞こえている。

 

 

最愛の、誰よりも頼りになる、かっこいい兄の声が。

 

 

 

 

『そのディスクをつけて敵と向かい合った以上、お前も一人の決闘者だ。誇りをもって、竜崎と一緒に戦うんだ!』

 

 

 

 

(お兄ちゃん……でも、私の力じゃあ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『しっかりしろ静香! お前は、強い。俺が知っている俺の妹なら……絶対に最後まであきらめないはずだぜ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

(っ!! そうだ……竜崎さんのいう通り……お兄ちゃんは、どんなに苦しくて、どんなにつらい状況でも、最後までかっこよく戦った。それなのに私は……傷ついたお兄ちゃんから目を背けていただけ……こんなんじゃあ……お兄ちゃんに笑われちゃう!)

 

 

 

 

戦う。

自分の、決めた目標のために。

 

 

 

 

静香の決意を見届けたかのように、ネックレスの光が収まっていく。

 

 

 

 

静香は、そのネックレスをそっと自分の首に下げ、服の下にしまう。

そして、胸のあたりをそっと触れた。

 

 

 

(勝利さん……ごめんなさい。お借りします。お兄ちゃん……弱い私に、もう一度だけ、勇気をください……)

 

 

 

 

「竜崎さん……」

 

「……」

 

 

 

 

 

静香の言葉を、竜崎が黙ったまま聞く。

なにかはわからない。

だが、何かが間違いなく変わった。

 

それを、感じていた。

 

 

 

 

 

「私……あの人に、勝ちたい!」

 

 

 

 

 

「……へっ。なら、これが最後や。別に、やりたないことは、やらんでええ。逃げたくなったんやったら、逃げりゃええんや。でもな……自分のやりたいことは、最後まで投げだすな! 最後まで、諦めんなや! そうすれば、ワイが勝たせたる!」

 

 

「っ! はい! 私のターン、ドロー!!」

 

 

静香は、必死に手札を見る。

その姿は、明らかに数ターン前の姿とは違っていた。

 

(……考えよう。本田さんに教えてもらった決闘のやり方と、遊戯さんや勝利さんやお兄ちゃん……竜崎さんたちがやっていたことを、思い出して……まず、罠カードは、伏せないと使えないから……)

 

「私は、罠カードを2枚セット!」

 

その姿に、竜崎は少し苦笑いしつつも、僅かに頷く。

 

(ええで。『罠カード』って宣言してまうのはもうこの際しゃあない。これで奴が一個でも怯んでくれるんやったら、めっけもんや)

 

「ええと、後は、攻撃を受けるとまずいから……"黒き森のウィッチ”を、守備表示!」

 

 

 

黒き森のウィッチ

 

守 1200

 

 

 

「……あなたもそのカードを入れていましたか」

 

(悪ない。墓地に行ったら強力効果を発揮するモンスターや。こりゃ、はまったらいけるで!)

 

心でガッツポーズする竜崎。

しかし、静香はいまだ真剣な表情を崩さずに、自分の手札と向き合っていた。

 

(……なんでもいい。できることをやらなくちゃ。今の私に、できることを……)

 

穴が開きそうなほどに手札に視線を送っている中で、静香が1枚のカードに気が付く。

 

(……あれ? 見た目が可愛いと思って入れてみたカードだったけど……このカードってもしかして……)

 

 

静香のそんな思考に割り込むように、ガベルの強い音が鳴り響いた。

 

 

「いつまで考え込んでいるつもりですか? ターンが終わりなのであれば、早くエンドを宣言しなさい」

 

「……いえ、まだです!」

 

 

静香はそういうと、カードをディスクにセットする。

 

(できるかどうかはわからないけど……いや、竜崎さんが、勝たせるって言ってくれた。なら、私には私のできることを!)

 

「私は手札から、"ガラスの靴”を発動します!」

 

「な、なに!?」

 

「が、"ガラスの靴”やと?」

 

 

ガラスの靴

 

装備魔法

 

天使族に装備すると攻撃力1000アップ

それ以外だと攻撃できず、1000ダウン

このカードが破壊されると、シンデレラの元にこのカードは舞い戻る

 

 

「あのお伽話のテーマカード……なんちゅうカードや」

 

「……なにをするのかと思えば。そのカードは、天使族限定の装備カード。しかしあなたの場の"黒き森のウィッチ”は魔法使い族カード。そのカードを使いこなせるカードは、どこにもありはしません」

 

余裕の表情の"ジャッジマン”大岡。

しかし、その表情は、次の瞬間に大きく崩れ落ちる。

 

 

 

「私はこのカードを……あなたの"クリッチー”に装備します!」

 

 

 

 

「な、なにぃ!!?」

 

「っ!? なるほど! やるやないか!!」

 

 

 

クリッチー + ガラスの靴

 

攻 2100 ー 1000 = 1100

 

 

 

"ガラスの靴”を無理やりにはかされた"クリッチー"は、身動きが取れずにその場でコケる。

そして、倒れた状態のまま動けなくなった。

 

「やっぱり……このカードは、相手に装備することもできるんですね!」

 

「これであいつのモンスターは1体、攻撃できんくなった! ようやったで静香!」

 

「はい! 私はこれで、ターンエンドです!」

 

 

 

ジャッジマン LP 2200 手札2枚

 

 

クリッチー

 

攻 1100 (ガラスの靴)

 

裁きを下す女帝

 

攻 2100

 

伏せカードなし

 

 

竜崎 LP 3500 手札4枚(融合)

 

ヘルカイドプテラ

 

守 1000

 

伏せカードなし

 

 

静香 2100 手札2枚

 

黒き森のウィッチ

 

守 1200

 

伏せカード2枚

ガラスの靴

 

 

 

「……私のターン、ドロー。そして魔法カード、"強欲な壺”を発動!」

 

 

強欲な壺

 

魔法カード

 

デッキからカードを2枚ドローする

 

 

「カードを2枚ドロー」

 

手札を増やす大岡。しかしその表情は苦々しいままだった。

 

(おのれ……まさかあの小娘にしてやられるとは……このままでは、攻め手が足らなくなる。仕方ない……)

 

「私は"クリッチー”を生贄に、"ゲート・キーパー"を召喚」

 

 

ゲート・キーパー

 

闇属性 機械族 星5

 

攻撃力 1500

 

守備力 1800

 

 

「ああ……"ガラスの靴”が……」

 

「気にしなや。見てみぃ。相手の悔しそうな顔」

 

竜崎は、大岡を顎で指す。

決して優れているとは言えない"ジャッジマン"の表情が、竜崎に笑みを与える。

 

(あの装備カードのせいで、虎の子の融合モンスターが通常モンスターにすげ変わってしまいよった。これなら、まだ戦えんで!)

 

「っ……静粛に! 私は再び、"ジャッジマン”のデッキマスター能力を発動! 『無期懲役』!」

 

 

LP 2200 ー 1000 = 1200

 

 

ヘルカイドプテラ 除外

黒き森のウィッチ 除外

 

 

竜崎 LP 3500 ー 500 = 3000

 

静香 LP 2100 ー 500 = 1600

 

 

 

「ぐぅ!?」

 

「きゃあ!?」

 

再び場のモンスターが消え去り、とんできた衝撃に声を漏らす二人。

しかし、決意に満ちた瞳の静香と、ほくそ笑む竜崎。二人の表情は崩れなかった。

 

(……だが、多少やる気が出たところで、私の有利に変わりはない! 予定通り、小娘を狙って、さっさと体を一つ手に入れる!)

 

「バトル! あなたたちの場に、モンスターはいない! 今度こそ終わりです! "裁きを下す女帝"で、河合静香にダイレクトアタック! 『裁きの審判』!」

 

 

 

裁きを下す女帝

 

攻 2100

 

静香 LP 1600

 

 

 

再び静香のLPを削りとるべく、光線が迫る。

しかし今度の静香に、恐れの気配は欠片もなかった。

 

それを見た竜崎は、嬉しそうに笑う。

 

 

 

(目指すべき勝ちを、しっかり見据えとる。ええ顔や!)

 

 

 

竜崎が、腕を振り上げる。

その瞬間に、一つの影が静香の前に現れる。

 

 

 

裁きを下す女帝

 

攻 2100

 

ヘルカイドプテラ

 

守 1000

 

 

 

「なっ!!?」

 

驚愕の声と共に、爆発が起こる。

しかし、静香のLPは無傷だった。

 

「なぜ……どこからモンスターが……」

 

「"ヘルカイドプテラ”のモンスター効果や。このカードは、1ターンに1度、除外された時に場に舞い戻ってくることができんねん。せやから場に戻った"ヘルカイドプテラ"を、攻撃の盾にしたってわけや」

 

「あ、ありがとうございます! 竜崎さん!」

 

「な、なんですって!?」

 

(この男……最初から私のデッキマスター能力の発動を読んで、モンスターを用意していたのか……残るモンスターだけでは、どちらのLPも削り切れない。今度こそ、デッキマスター、"ジャッジマン”を召喚……いや、ダメだ!)

 

"ジャッジマン”大岡は、軽く上を見上げる。

竜崎の後ろに聳えたつ、"真紅眼の黒竜"が、静かに大岡を睨みつけていた。

 

(今だレッドアイズが奴には残っている。"ジャッジマン”を召喚しても、攻撃力も負けている。この状況では、片方を取り逃す……いや、川井静香の伏せカード次第では、デッキマスターを破壊され、逆転負けを喫する可能性すら……ここは……耐えるしかない)

 

 

「……いいでしょう! ですがこれで、あなたの判決は下ったようなもの。私は"ゲート・キーパー”で、川井静香にダイレクトアタック! 『守護の一撃』!」

 

 

 

静香 LP 1600 ー 1500 = 100

 

 

 

「きゃああああああ!!!」

 

「ぐっ! 静香!?」

 

尻もちをつく静香に竜崎が声を上げ、大岡を睨む。

 

「クッソ……しつこいほど静香ばっかり狙いおって!」

 

「グフフフ。これで川井静香のLPはたったの100。『無期懲役』で与えることができるダメージは、モンスター1体につき500。つまりこれで、川井静香はモンスターの召喚すらもままならない。正真正銘の役立たず」

 

「けっ……」

 

「もはや私の勝訴は確定。ですが、私は手など抜きません! 速攻魔法、"セベクの祝福”を発動!」

 

 

 

セベクの祝福

 

速攻魔法

 

直接攻撃によって相手に戦闘ダメージを与えた時、その数値分だけ自分のLPを回復する

 

 

 

「このカードによって、今のダイレクトアタックで与えた1500ポイントのLPを回復します!」

 

 

 

LP 1200 + 1500 = 2700

 

 

 

「っ! ちぃ……向こうも回復カード……」

 

(デッキマスター能力のコストを稼ぎにきよった。これで、奴の『無期懲役』はあと2回使える……このままじゃあ、静香のLPが持たん……)

 

「カードを2枚セット。これで、ターンエンドです」

 

 

(グフフ……手札がなくなり、大チャンスとでも思いましたかね? 私の実力を見せるのは、これからですよ)

 

(……ワイの次のターンの行動。ワイの選択で、この決闘の先が決まる……静香の、未来が)

 

(竜崎さんを……助けるんだ!)

 

 

大岡。

竜崎。

静香。

 

 

それぞれの想いが錯綜する決闘は、誰も予想しえない未来へと進んでいく。

 

 

 





勝ちたいならやれ。負けていいならやめろ。
勝ちたいのにやめる。そんな選択肢はねえ。 弱虫ペダル 寒咲通司

やりたくないならやらなくていい。
でも、僕たちはやりたいからここにいるんだ。 デジモンアドベンチャー ヤマト 丈


改めて見直した時に、竜崎のセリフと自分が大好きなこれらの名言がかぶりました。
作品を書いているときに好きな作品に影響を受けることなどあるあるなので気にしているわけではないですが、やはり自分の中には自分が感銘を受けた教訓や言葉が染みついているなと感じます。



さて、内容の話。

大岡のエミュがやや難しい。
けど大岡に解釈不一致起こす人もいないでしょうし大丈夫でしょうと楽観的に進めています。

ここでデッキマスターを出しておけば勝ってたじゃねえか
とならないように気を使って決闘を作っていますが、正直難しいですね。
自分がやったことのないルールである以上、最適解が不明なのが厳しいところです。



ですが、二人の決闘もいよいよ大詰め。
次回決着です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。