遊戯王~黒き羽根は夢に舞う~   作:haruko

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前回が久しぶりにかなりの好評をいただけて嬉しかったです。
これからも皆さんが楽しめるように尽力します。


再会と、別れ 走れ、勝利!

 

 

 

 

しばらく移動してまた場面が変わり、工業地帯の倉庫が立ち並ぶ一角を、遊戯たちは歩いていた。

 

その先頭を歩くのは、勝利。

次いで遊戯と杏子。竜崎と静香。そしてその後ろを、足取り重く本田と御伽が歩いていた。

 

 

「……」

 

「……ね、ねえ、遊戯。舞さん、大丈夫かしら……」

 

「うん。BIG5の狙いは、海馬君への復讐と、僕たちの体を奪うことだ。だからこそ、舞さんは必ず、どこかで無事でいるはずだよ」

 

「……多分。舞さんもそう判断して、自己犠牲の道を選択したんだろうね」

 

遊戯たちに反応した勝利の言葉で、空気が再びどんよりと落ち込む。

勝利はそれを感じ、心の中で自分の行いに舌打ちをする。

 

(……自分の心に、整理をつけたはずなのに。本田君や御伽君を責めることも、遊戯君たちを必要以上に気落ちさせるようなこともしたくないって。するべきじゃないって……頭の中では、わかっているのに……)

 

自分の苛立ちが制御できていないという事実に、また苛立つ。

今独りだったのなら、自分はどうなってしまっていたかわからない、と勝利は思う。

 

勝利が、勝利の思う以上に荒れている理由。

それに勝利は、心当たりがあった。それもまた、勝利の苛立ちを加速させる要因の一つだった。

 

 

 

 

 

勝利も、同じ選択をしたことがある。

それも、舞の目の前で。

 

 

自分の命を放棄し、舞の未来を選んだ。

 

 

 

 

(……あの倉庫で、マリクに追い詰められて僕は……)

 

 

 

 

勝利は、思い出す。

 

 

その時の舞の、悲痛な表情を。

 

 

絶望の声を。伝う涙を。

 

 

 

 

 

 

そして勝利は、苛立った。

 

 

 

 

(僕は……自分の身勝手な選択で、こんな想いを舞さんに押し付けて、こんな想いを抱え続けさせるつもりだったのか……)

 

 

 

 

 

割り切ったはずだった。

舞の言葉を、『必ず戻る』という言葉を、信じると決めたはずだった。

 

だというのに、勝利の心は、すでに限界だった。

 

 

 

 

(……駄目だ。僕は、君のいない世界だなんて……もう耐えられない……)

 

 

 

謝りたいことがある。

言いたいことがある。

 

共に、行きたい場所がある。

 

 

 

 

 

(……舞さん)

 

 

 

 

 

勝利の足が、少し早まる。

 

しかし、皆は何も言わず、勝利のそれについていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ! あれって……」

 

「海馬君! モクバ君!」

 

「っ! 遊戯! 勝利! みんな!」

 

「フッ……生き残っていたか。遊戯」

 

勝利の早足についていき、数分工業団地を闊歩していた一行が出会ったのは、同じくこの世界に落ちた海馬兄弟だった。

ひとまず再びの仲間との合流に、一行は思わず空気を緩める。

 

「海馬君……無事だったんだね」

 

「フン。無事も何もない。薄気味悪い映像を見せられただけで、俺はまだ何も仕掛けられてはいないからな」

 

いつもの調子でぶっきら棒に返す海馬を見て、安心と呆れが入り混じったような表情で笑うみんな。

少しだけ、落ち着いた空気が回りだす。

 

「油断しないほうがいい。海馬君。僕らが倒すことができたBIG5は、4人。敵はあと1人残っている。それに……あの乃亜っていう子供も……」

 

「ほう……BIG5を4人葬ったか。碌に決闘もできん参加者を抱えて大したものだ。と言ってやりたいところだが……完勝とはいかなかったようだな」

 

「っ!!? 海馬君!」

 

「……」

 

海馬の、その歯に衣着せぬ物言いに、場の空気が一気に冷え込む。

海馬を睨む者、下を向き伏せるもの、歯を食いしばる者。

 

様々な感情が交差する最中、状況を掴み切れていないモクバだけが、残酷に思った言葉を口にした。

 

「……あれ? 舞の奴は……」

 

 

 

 

 

「フッフッフッフッフ……」

 

 

 

 

 

だが、幸か不幸か。

モクバの言葉は、不気味な笑い声によって遮られ、重い空気は強制的に切り替えられることになる。

 

「っ! 誰だ!?」

 

「いったい、どこから……」

 

 

 

「あ、ああ……勝利さん! 皆さん! 上に!」

 

 

 

辺りを見回す勝利たちに、静香の震え声が響く。

 

 

 

言われるがままに上を見ると、そこには……なによりも待ち望んだ者の姿があった。

 

 

 

 

「舞さん!?」

 

「舞!!?」

 

「舞の姉御!? 無事だったのか!?」

 

 

 

 

歓喜に沸く遊戯たちが、嬉しそうに彼女の名を呼ぶ。

 

しかし……この場で、一番大きな声を上げるはずだった勝利はというと、低い声で、見定めるように舞を見て震えていた。

 

 

 

 

「……ふざけるなよ」

 

 

 

 

「……? おい、いったんなんなんだよ? 遊戯たちも、勝利も。なんだって舞は、あんなところに……」

 

 

 

 

そして再び、モクバの問いは遮られた。

 

 

 

 

 

「海馬瀬人! かくごおおおおおお!!!!」

 

 

 

 

「っ!? くっ!」

 

「な、なんだぁ!?」

 

「ま、舞さん!?」

 

 

 

「みんな、散れ!!!」

 

 

 

建物の上から飛び降りたかと思えば、腰に据えた木刀を振りかざし海馬へと振り下ろす舞。

 

それをいち早く察知した勝利が、手を振り上げて指示を飛ばす。

 

結果的に地面へと打ち付けることになった木刀だったが、返す刀で再び海馬へと振りかざされる。

 

 

 

「貴様、一体何の真似だ!?」

 

 

 

 

 

「フフフ……海馬瀬人。お前には、言い尽くせぬほどの恨みがあるのだぁ!」

 

 

 

 

 

舞は不敵に笑い、再び木刀を構える。

 

「何の話だ!?」

 

怒る海馬。

だが、そんな言葉を聞くはずもない。

 

海馬の頭を狙い、木刀は三度振るわれる。

 

 

 

 

 

「くらえええ!」

 

 

 

 

 

「ぜりゃあ!!」

 

 

 

 

 

だが、その木刀は側面からの蹴りによって弾き飛ばされた。

 

 

 

「何っ!?」

 

「驚くなよ……舞さんには、言ってあるぜ。『好きじゃないけど、荒事は自信ある』ってな!」

 

 

 

横から割り込み手首を蹴り飛ばすことで得物をはじいた勝利は、そのまま突き出された腕をとり、背負い投げの要領で舞の体を投げ飛ばす。

舞は必死に受け身を取り、できうる限りの早さで立ち上がる。距離を開けられた海馬や勝利と改めて相対し、擦った顔から滲む血を拭った。

 

 

 

「……フン。あれは貴様の女ではなかったのか、勝利」

 

「……冗談。あんな得体のしれない、舞さんの姿してるだけの塊を愛した記憶はないよ」

 

 

 

海馬の軽口を軽く返しつつも、警戒を解かずに拳を構える勝利。

それはおよそ、恋人に向けるような瞳ではない。殺気のこもった、強い目だった。

 

 

 

「勝利君! 海馬君!」

 

「ちょっと二人とも、どうしたのよ! なんで舞さんと二人が争わなきゃいけないの!?」

 

 

 

「ちぃ……邪魔者が増えよったか……」

 

 

 

「……舞?」

 

「舞の姉御? いったい、どうしたんだ……」

 

 

 

 

 

 

「気をつけろみんな! こいつは、舞さんじゃない!」

 

 

 

 

 

 

「……フン。さすがに貴様は誤魔化しきれんか。黒羽勝利」

 

 

 

 

 

 

「っ!? これは!?」

 

「……嘘……」

 

「お前……まさか!?」

 

 

 

 

 

「フフフ……そう。ワシはBIG5の一人。鬼軍曹、大田宗一郎! この女の体は、ワシがもらった!」

 

 

 

 

 

「馬鹿な!?」

 

「デッキマスターとなったお前は、舞の姉御のモンスターによって次元の彼方に連れ去られたはずだ!」

 

 

御伽の叫びが、場に響き渡る。

 

こいつが無事に、生きている。

すなわち、舞の行動が、舞の渾身の刃が奴らに届き得なかった。

 

そんなことは、認められなかった。

 

 

「フッ。孔雀舞の覚悟は想定外だった。まさかあの場面で相打ちを選ぶとはな……だが、その方法に穴があることを、奴は見逃していた……ワシもな」

 

「……穴だと?」

 

 

そう言うと大田は自身の両腕を目一杯に広げて、大袈裟な振りで話した。

 

 

 

「まあ、穴と呼ぶのもはばかられるような小さな隙間だ。奴は、"異次元の女戦士”による戦闘によって、ワシの除外を試みた。だが……"異次元の女戦士”の効果の成立よりも先に、ワシ、ボムフェネクスと女戦士の戦闘が発生し、孔雀舞のLPが0になった」

 

 

 

 

言われて、本田と御伽は、思い返す。

確かに、除外の効果処理よりも先に、舞へのダメージが発生していた。

 

 

「だが、それがいったい何の……」

 

 

 

 

 

「ああ。これについては、ワシも想定はしていなかった。だが先にダメージが発生したことにより、ボムフェネクスの除外よりも先に、孔雀舞の敗北が成立した。つまり……ワシは時空の彼方に消えるよりもほんの一瞬先に、孔雀舞の体を手に入れていたというわけだ……」

 

「っ! まさかお前! 消える前に、自分の精神を"機械軍曹”の体から、舞の姉御の体に移したっていうのか!?」

 

 

 

 

 

御伽の言葉に、舞の体で、大田が愉快そうに笑った。

 

 

 

 

「ククク……その通り! おかげでワシは生身の肉体を手に入れた! さあ、今度はこの体を使い、お前に復讐をする番だ! 海馬瀬人!」

 

 

 

 

 

「……楽しそうにはしゃいでいるとこ悪いけどね……もうこれ以上、お前に好き勝手はさせないよ」

 

叫ぶ大田を冷たい目で見ながら落ちた木刀を拾い上げた勝利は、それを両手で持ち、思い切り力を入れて圧し折る。

その姿に、先ほどまでとはまた別の、冷たい空気が場に流れた。

 

「……返してもらうぞ。舞さんの体を。その体は、お前みたいな薄汚いコソ泥が、使っていい体じゃないんだよ!」

 

「フッ……望むところ、と言いたいところだが。得物を奪われ、この人数差ではさすがに分が悪いか。ならば……」

 

そういって大田は、腕を前に出す。

するとその腕が輝きだし、決闘盤が装着された。

 

それを見て今度は、海馬が鼻で笑う。

 

「フン。そちらの方がもっと望みがないと思うがな。正面から挑んでくる蛮勇だけは認めて、この俺自ら引導を渡してやろう」

 

海馬が、大田に合わせるように腕を構える。

しかし、それを無視するように、大田はディスクにカードをたたきつける。

 

 

 

「フフフフフ! 現れよ! "魔法の操り人形(マジカル・マリオネット)”!」

 

 

 

「な、なにっ!?」

 

 

 

 

突如フィールドに現れたモンスターに、動揺が走る。

だがその同様に付け込むかのように、大田が高らかに指示を飛ばした。

 

 

「ゆけえ! "魔法の操り人形(マジカル・マリオネット)”! 『人形戦線ー武闘の会ー』!」

 

 

『けへへへへへへへへへ!!!』

 

 

声に合わせ、人形師が手を翳す。その指先には光る糸のようなものが見え、その先の地面に漆黒の穴がぽっかりと開く。

 

 

「な……なにこれ……?」

 

「竜崎さん、これ……」

 

「下がっとけ」

 

 

皆が何かを警戒し、身構える。

そしてその警戒が正しいものであることは、すぐに証明された。

 

 

漆黒の穴がじんわりと横に広がり、遊戯たちを取り囲む。

その状況に、勝利がふっと息を吐き、それに相対するように立つ。

 

 

「遊戯君、杏子ちゃんとモクバ君を。竜崎君はそのまま静香ちゃんをお願い」

 

 

言いながら勝利が拳を構える。

そしてその横に立つ海馬が、指を鳴らした。

 

 

「海馬君、行ける?」

 

「フン。誰にものを言ってる」

 

 

そして闇から、得体のしれない白い体が浮き上がってくる。

それを見た杏子と静香から、「ひっ!」という悲鳴が零れる。

 

 

「な、なんじゃこりゃあ!?」

 

「に、人形だ……あのモンスターが、人形を操ってるんだ!」

 

 

 

『けひゃひゃひゃひゃ!!』

 

 

 

真っ白い体に人体ではありえない方向を向いた手足がじたばたと動く、線で顔を描いているだけの人形が踊り狂った声を上げる。

否。実際は糸の先の動きに合わせて人形師が声を上げているのだが、不気味なことに変わりはなかった。

 

その人形たちがこれまた不気味なほどに動きを揃え、勝利たちを円で囲みにじり寄ってくる。

 

 

 

「……やるしかないな」

 

勝利の覚悟の言葉に、それぞれの決意を見せる。

 

「ふん」

 

「本田君、僕たちも行くぜ」

 

「あ、あたりめえよ。ここでやらなきゃ、舞に助けてもらった意味がねえぜ!」

 

 

 

 

「さあ! やってしまえ!」

 

『けーっ!』

 

 

 

 

 

大田の声を皮切りに、人形たちがとびかかる。

 

 

 

「フン!」

 

「せやあ!」

 

「とう!」

 

「おりゃあ!」

 

 

 

 

それを男四人の拳で、蹴りで、必死にさばいていく。

 

 

『けー!?』

 

 

勝利たちが突き出した拳や足が触れた瞬間に、操り人形は跡形もなく砕けていく。

 

 

「なんだ! 大したことねえぜ!」

 

「でも、キリがないよ!」

 

「モクバ! お前も下がっていろ!」

 

「気を付けて! 奴の狙いがわかるまでは、うかつに動いちゃだめだ!」

 

 

戦いながら声を荒らげる勝利に皆が頷く。

 

 

しかしこんな状況など想定通りと言わんばかりに笑う大田が、次なるカードをたたきつける。

 

 

 

「フッフッフ。こんなカードでは、危機とは言わんか? ならば、こういうのはどうかね? 罠カード発動! "仕込み爆弾”!」

 

 

 

「なっ!!?」

 

 

『ケケケケケケ!』

 

 

カードの発動と同時に、人形師が腕を振るう。

すると人形たちが一斉にその身を翻し、1周する。

 

そして再び勝利たちと対面した人形たちは、先ほどまでよりもいっそう笑みを深めているように見えた。

 

「な、なんだ!?」

 

「お、脅かしやがって……さっきまでとなんも変わってねえじゃねえか、こんなもん……」

 

 

 

 

 

「ダメだ!!」

 

 

 

 

 

再び拳を突き出そうとした本田の腕を、横から勝利が掴んで止める。

 

「しょ、勝利? 何を……」

 

 

 

「おそらく……こいつらに、爆弾がついている!!」

 

 

 

「なっ!!?」

 

「ばっ!?」

 

「爆弾!!?」

 

 

 

「フハハハハ! これも察すか、さすがの勘だな! その通り! そいつらには、破壊された瞬間に爆発する罠カードを仕込んだ! さあ、"魔法の操り人形(マジカル・マリオネット)”よ! 攻撃のできぬそいつらを全員、捕まえてしまえ!」

 

 

 

その掛け声で、人形たちがさらににじり寄る。

反撃の手を失った勝利たちは後ずさりし、背後の遊戯たちとぶつかるまで下がる。

 

「おのれぇ……こんな下らぬ手で俺を捉えて、勝ったつもりか!」

 

「なんとでもいうがいい。もはや、なりふり構っている時間はない。我々には、貴様の命、そして、貴様らの体が必要なのだよ」

 

「ちぃ!」

 

(……追い詰めたことが、裏目に出たか。おそらく、爆弾の威力は、そう大したものじゃない。奴らの目的は飽くまで僕らの体なんだから、万が一にも殺したり、大けがをされたりしたら困るのは奴らだ。それを踏まえれば、僕や海馬君で強行突破するのは一つの手だけど……)

 

勝利は海馬を横目でちらと見る。

その海馬もまた、横目で自分の脇にしがみつくモクバを見て、舌打ちを鳴らしていた。

 

(……モクバ君が危険にさらされる以上、海馬君はその選択をしないだろう……しょうがない、ここは一か八か。僕が行くしかない)

 

 

 

 

ほんの数mという位置まで迫ってきた人形と、大田の脇でそれらを操作する"魔法の操り人形(マジカル・マリオネット)”を視野に収める。

円を無理やり突破して、"魔法の操り人形(マジカル・マリオネット)”に攻撃を入れる。

 

倒せるものなのかどうかは定かではないが、少なくとも陣形を崩す足掛かりくらいにはなるはずだ。

 

 

 

 

 

覚悟を決め、足に力を籠める。

 

 

 

 

あと一歩。人形たちが迫ってきたその瞬間に、一気に駆け出す。

 

心の中でそう決めて、人形の動き、周りの状況に、全神経を集中させた。

 

 

 

 

 

 

だからだろうか。

 

 

突然の乱入者に、何の反応もできずに、固まってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

視界の隅。

 

建物と建物の隙間の空間から突如飛び出したそれは、音もなくその現場へと走りこんでくる。

 

 

 

 

そして……"魔法の操り人形(マジカル・マリオネット)”の顔面に、とりついた。

 

 

 

 

 

『けっ!!? けぇーーーーー!!!!』

 

「な、なんだ!!?」

 

 

 

 

大田たちのその反応を見て、その存在が、大田たちにとってもイレギュラーであるということを悟る。

しかし、ならばなぜと、新たな混乱が遊戯たちの頭を支配した。

 

 

「な、なんだありゃ?」

 

「ま、また人形!?」

 

「でも、あれって……操り人形っていうより……」

 

 

 

 

 

 

 

「……ビスクドール(着せ替え人形)。女の子用の、ごっこ遊び人形だ」

 

 

 

 

 

 

(あれは……あれは……!)

 

勝利の、小さく震える声が誰かの耳に届く前に、状況が動く。

 

 

視界を塞がれた"魔法の操り人形(マジカル・マリオネット)”がその着せ替え人形を振り払うべく、反射的に自身の手を人形へ伸ばす。

だがその瞬間に、その指先から伸びる糸につながる爆弾人形たちが手の動きにつられて一斉に動きだす。

 

 

先ほどまでの統率が取れた動きではない。明らかに乱れたそれによって、人形同士がぶつかり合い、ガチャリガチャリと音を鳴らす。

 

 

そして……その拍子に、1体の人形の腕が取れ。その瞬間に、その人形が光輝く。

 

 

 

 

「っ!? あかん! 人形が破壊されたことで、"仕込み爆弾"が起動しよった!?」

 

「っ! みんな、伏せろ!」

 

 

 

 

竜崎、御伽がすぐに判断し、叫び声をあげる。

判断が遅れた杏子や静香の頭を、男たちが無理やり抑え込む形で地面に伏せる。

 

 

 

 

しかし……勝利はというと。

茫然と立ち尽くしたまま、未だそのビスクドール(着せ替え人形)を見つめていた。

 

 

 

 

「っ!? 勝利君!?」

 

 

 

 

遊戯が手を伸ばす。

が、もう遅く。

 

 

 

 

 

『けぇ! きええええええええ!!!?』

 

 

 

 

 

"仕込み爆弾”は連鎖爆破し、大きな爆風と共に、"魔法の操り人形(マジカル・マリオネット)”の断末魔と思しき声が響き渡る。

 

 

 

 

 

そして、そのビスクドール(着せ替え人形)は、爆風に巻き込まれ宙を舞った。

 

 

 

 

 

「っ!!?」

 

 

 

 

そしてなんと勝利は、爆破による逆風を完全に無視して駆け出す。

 

 

 

 

「っ! 勝利君!?」

 

「なっ!!?」

 

「あ、危ない!!!!」

 

 

 

 

「こんのお!!」

 

 

 

 

反射的に漏れる警告の声すらも無視し、勝利は飛ぶ。

 

 

 

そして……渾身のジャンプによってビスクドール(着せ替え人形)を空中でキャッチし。

そのまま爆風に煽られる形で、地面を数回転がっていく。

 

 

 

 

「「「勝利君!!?」」」

 

 

 

 

煙によって視界を遮られている遊戯たちは、不安の心を押し殺しながら地面に伏せ、大事が起こってないことをひたすらに祈る。

そして爆破の気配が消え、煙の色が薄まってきたころにあたりを見回し、勝利を必死に探す。

 

 

 

勝利は……すぐ近くの壁に体を預ける形で、倒れていた。

その腕の中には……先ほどのビスクドール(着せ替え人形)が、大事そうに抱えられている。

 

 

 

 

 

「お、おい……勝利!!?」

 

「大丈夫!? 勝利君!」

 

 

 

 

 

皆が、全力で駆け寄る。

 

あの、強烈な爆発。

最悪の事態が脳を過ぎることは、あまりにも自然な話だった。

 

 

 

もう一度名前を呼ぶ。

しかし、勝利に反応はない。

 

 

 

 

「……おい! なんとかいえや! こんなところでくたばりおったら、承知せえへんで!」

 

 

 

 

竜崎が、怒りと悲痛が入り混じった声を響かせながら、俯いたままの勝利の体を乱暴に揺らす。

 

 

 

すると、一言。けほっ。っと音を鳴らして、口が開く。

 

 

 

 

 

「……うん。大丈夫。ちょっと、痛かっただけ」

 

 

 

 

 

勝利がそういって、笑顔の表情で顔を上げる。

その様子に安堵した皆が、大きなため息を吐いた。

 

 

「……もう、ほんとに無茶するんだから。勝利君は!」

 

「心配かけやがって!」

 

 

 

 

「うん、ごめん。でもほら、無事だよ。僕も……彼女もね」

 

 

 

 

そういって、勝利は抱えていたビスクドール(着せ替え人形)を持ち上げた。

 

その瞬間、ビスクドール(着せ替え人形)から音が鳴る。

 

 

 

 

『あたし、ミカちゃん! よろしくね!』

 

 

 

 

 

「な、なんや? その人形?」

 

「おいおい……それ、さっきの操り人形の残骸ってわけじゃないよな?」

 

「ええっと……さっき、私たちを助けてくれたみたいに見えましたけど……」

 

「危ないよ、勝利君! さっさと捨てちまった方がいい!」

 

 

 

『……あたし、ミカちゃん! よろしくね!』

 

 

 

変わらぬ表情で同じ言葉を繰り返すその人形に、再び不気味さを覚えた本田や御伽がそんな言葉を口から零す。

それに勝利は、やれやれ、といった表情で、ビスクドール(着せ替え人形)の表情を自分に向ける。

 

 

 

 

『…………あたし……は……ミカちゃん! よろしくね!』

 

 

 

 

どこか、物悲しい表情を浮かべているような気がするその人形を……勝利は、そっと抱きしめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お帰り。舞さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優しい声で。優しい表情で。はっきりと、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

「なんやと!?」

 

「この人形が!!?」

 

「ま、舞さんだって!!?」

 

「本当かよ!!?」

 

 

 

 

 

 

誰もが、信じられないという表情を作る。

脇で聞いていた海馬でさえも、言葉に出さないものの、目を見開いて2人を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

「しょ……勝利君……舞の姉御は体を奪われちまったわけだから、確かに今どうなっちまってるのかなんて想像はつかないけど……さすがに……」

 

 

明確に口にはしないが、他の皆も概ね御伽と同意見だった。

 

突然現れた人形。

それが、孔雀舞のかりそめの器だった。

 

 

言いたいことはわかるが、都合がよすぎるという考えが離れてくれない。

 

 

 

 

 

舞の事を想い、求めるうちに歪んだ現実に囚われてしまっているのではないか。

 

 

 

 

 

絶対に口に出さないが、この場の誰もがそう思った。

 

 

 

 

 

 

しかし、勝利は確信の表情で、笑いながら首を振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たとえ……どんな姿になろうとも、僕が舞さんを見紛うはずがない。仕草も、振る舞いも、そして……心も。君は、舞さん。僕の元に、帰ってきてくれた」

 

 

 

 

 

 

 

お帰り。舞さん。

そういって、もう一度抱きしめる。

 

 

 

 

その時。

人形の体の後ろで、勝利の手が触れ何かがかちりと音が鳴る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……勝利! 勝利! 勝利!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然の、勝利の名を連呼する声。

 

 

先ほどまでの定型文を話していた声と同じ、電子音のような、機械的な音声で。

だが、震えているような、歓喜が伝わってきそうな、『人』を感じる、矛盾した声。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ありがとう……勝利……こんなあたしを、見つけてくれて……』

 

 

 

 

 

 

 

 

涙している。

人形に仕込まれた機械から聞こえているはずの、その声でしかし、はっきりと分かった。

 

 

 

そして、全員が、勝利に倣い、確信した。

 

これは……舞だ。

舞が、憎きBIG5たちによって封じ込められてしまった姿なのだ。

 

 

 

 

 

 

「当然さ。世界のどこに消えたって、僕はあなたを見つけてみせる。僕の方こそ、ありがとう。約束を、守ってくれて。そして……僕らを、助けてくれて」

 

 

 

 

 

 

愛しき人との、再会。

見た目でも、他の何でもない、心でつながる二人の、愛。

 

 

 

 

 

 

その美しき時間。

 

 

 

 

 

 

だがその時間は、長くは続かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼らの耳に突如響いた、全身に響き渡る重低音が彼らの意識を現実に引き戻す。

 

 

 

 

 

「こ、今度はなんだあ!!?」

 

「この音……」

 

「……エンジン音だ」

 

 

 

 

 

「っ!!? おい! 何か来るぞ!?」

 

 

 

 

 

本田が指を刺した方向に、視線が集まる。

 

 

 

 

 

遠くから徐々に迫りくるその姿に、不安で固まる杏子と静香。

そしてその二人を守るように前に立つ、本田と御伽。

 

「あれは……バイクか?」

 

「だね……こっちに、向かってくる!」

 

 

 

そしてそのほかの……決闘者たちはというと、近づいてくるごとに輪郭がはっきりと見えてくるその存在に、息を飲んだ。

 

 

 

「……あれって……っ!? まずい、みんな! 気を付けて!」

 

「えっ? 遊戯?」

 

「あいつは……ただのバイク乗りとちゃう!」

 

「竜崎さん……?」

 

 

 

 

「……あいつは……"スカルライダー”だ!!」

 

 

 

 

そう。

骸骨のヘルメット。

骨でできてるかのような猟奇的デザインのフレームに、人を傷つけるためであろう強烈なスパイクを装着したタイヤ。

 

 

アンデットモンスター。"スカルライダー”そのものだった。

 

 

 

「っことは……またあの野郎が召喚したモンスターってことか!?」

 

「だが、なら問題ない! また僕らの力で、追い払ってやればいいだけだ!」

 

 

そういって構える2人。

 

 

だがその後ろで、勝利は言い知れぬ感覚に襲われ、顔を歪めていた。

 

 

 

(なんだ……あいつ……さっきの人形師に比べて、何か違和感が……)

 

 

 

自分の勘が、警報を鳴らしている。

その直感に従い、それをじっと見る。

 

 

 

すると、向かってくる骸骨の口元が、ほんの少しだけ湾曲する。

その瞬間に、勝利の背中から、汗が噴き出た。

 

 

 

 

「っ!? 違う!! 本田君、御伽君! そいつは……モンスターじゃない! 人間だ!」

 

 

 

 

「なっ!?」

 

「なんだって!?」

 

 

 

 

 

 

 

「キヒヒヒヒヒ!! よこしなあ! その人形を!!!」

 

 

 

 

 

 

「っ!!? (しまった!!? 狙いは……舞さん!? まずい……まだ体が!)」

 

『勝利!!?』

 

2人を引き裂く新たな闇が、音を立てて迫る。

本田や御伽も狙いに気付き立ち塞がろうとするが、バイク相手にはどうしようもない。

軽く切り返されるだけで振り切られてしまう。

 

 

「勝利君!」

 

『勝利! 逃げて!』

 

 

 

遊戯と舞の叫びが重なる。

しかし勝利は動かず、自分の体で隠すように、舞の人形を抱きしめる。

 

「ちぃ! なら!」

 

人形を狙う"スカルライダー"は、そのまま舞を抱えた勝利に手を伸ばし、勝利ごと持ち上げバイクに抱え込む。

 

「よこせ!」

 

「ぐっ!」

 

「勝利君!?」

 

「危ない!?」

 

バイクに抱え上げられた勝利を振り落とすように蛇行する"スカルライダー"。だが勝利は、舞を掴んだ手を離しはしない。

 

 

「くっ! かくなる上は!」

 

 

そういうと人形に手を伸ばし、無理やりに勝利から引き剥がそうとする。

人形の体を、男と勝利で引き合う形になる。

 

 

『いたっ!?』

 

「っ! (しまった! このまま人形が壊れようものなら、舞さんが!!)」

 

 

その一瞬の迷いを感じ取った"スカルライダー"が、にぃと笑った。

 

バイクの速度を落とし、隙の出来た勝利の腹に蹴りを入れる。

そして停車したのち、うまく勝利から舞を引き剥がし、勝利の胸ぐらを掴み上げた。

 

 

「勝利君!?」

 

「てめぇ! 勝利を離しやがれ!」

 

「か、返せ……舞さんを……」

 

 

「……ふん!」

 

 

うまく勝利を煩わしそうに見た"スカルライダー"は、勝利を投げ捨てる。

宙を舞った勝利は近くのガレージに投げ込まれ、薄い壁を突き破って消えていく。

 

 

「勝利君!!」

 

 

『勝利!? 勝利!!? 無事よね! 勝利!?』

 

 

 

ばたつき出す舞を煩わしそうに抱えた"スカルライダー"が、高らかに宣言し、再びエンジンを鳴らす。

 

 

 

「孔雀舞は、いただいたぞ!」

 

 

 

「こんのやろう!」

 

「遊戯君! 僕と本田君で舞の姉御を取り戻すから、君たちは勝利君を……」

 

御伽がそう言いかけたところで、さらに事態が動く。

しかも……悪い方向に。

 

 

 

「うわぁ!?」

 

「ははは! 陽動ご苦労! 海馬瀬人! 貴様の1番大切なものは頂いたぞ!」

 

「も、モクバァ!!?」

 

「し、しまった!?」

 

いつのまにか、バイクに乗ってきた大田が"スカルライダー"に気を取られる皆の好きを狙い、モクバを攫う。

腹部に一撃をくらったモクバはそのまま気絶し、大田の腕に収まった。

 

「互いの目的は達成だな」

 

「ああ。すでに体を奪った孔雀舞など、ワシらには関係ない話。好きにするがいい」

 

そう言葉を交わした2人は、逆向きにバイクを向けて走り出す。

まさか体で止められようはずもなく、そいつらを見送ることしか出来ない悔しさがそれぞれの口からこぼれ落ちる。

 

「チキショウ! 舞とモクバが!?」

 

「ど、どうしましょう……」

 

「どうしようやあらへん。追うしかないやろ!」

 

「でも、どうやって……」

 

 

やらなきゃ行けない。

しかし、できることがない。

 

もどかしさと、絶望感が場を支配し始めた。

 

 

 

そんな空気を切り裂くように、黒い塊が宙を舞った。

 

 

 

 

それは……漆黒に塗装されたバイクだった。

 

 

 

「っ!? な、なんだぁ!?」

 

どこからか飛び出してきたそれを理解する前に、皆が警戒の姿勢をとる。

 

新手か?

 

これまでの流れを鑑みればそれは至極真っ当な反応だった。

 

 

だが、そのバイクの乗り手を理解した瞬間に皆の警戒はとけ、その代わりに、驚愕と衝撃で感情が埋め尽くされる。

 

 

 

「っ!? しょ、勝利!?」

 

 

 

壁に地面に叩きつけられて、傷だらけの体。

石で切ったのか、口を伝う血。

そして……それら全てがどうでも良くなるほどに、感情を爆発させた表情。

 

怒り狂う勝利が、そこにいた。

 

 

「海馬君! そこの倉庫に、まだバイクがある! モクバ君を!」

 

「っ! ふん、借りにしておいてやる!」

 

「みんなは、海馬君についていって! 僕は舞さんを!」

 

有無を言わさぬ勝利の圧に、返事もできずに皆が固まる。

そんな中、1人動き出す者がいた。

 

「へっ……カッコつけよって……静香!」

 

「っ! そっか! はい、竜崎さん!」

 

差し出した竜崎の手に、胸ポケットから取り出したものを預ける静香。

受け取った竜崎が駆け出し、勝利の後ろに飛び乗る。

 

「竜崎君!? 何を……」

 

「遊戯と海馬がおるんや。向こうは大丈夫やろ。それに……」

 

言いながら、静香から受け取ったネックレスを勝利の首にかける。

驚く勝利の背中を笑いながら、腹に腕を回す。

 

「ワイはモクバや舞より、今のお前の方が危なっかしく見えるわ」

 

「……安全運転は、保証できないよ」

 

そう言って勝利は、ハンドルを回す。

重いエンジン音が、腹に響く。

 

 

 

 

「運転経験は?」

 

 

 

 

「……本田君に借りて、敷地内を何回か。路上はなし。あとは……長年の憧れ、妄想のシミュレーション!」

 

 

 

 

「……へっ。ええやろ。乗ったるわ。せやけど、1つだけ言っとく」

 

「……」

 

 

 

 

 

「ビビってアクセル緩めよったら……ぶっ殺すで!」

 

「…クックック。上等!」

 

 

 

 

 

瞬間、バイクは凄まじい速度ですっ飛んでいく。

エンジン音が次第に小さく、低く遠ざかっていくのを、遊戯たちはただ呆然と眺めていた。

 

 

「……勝利君、大丈夫かしら?」

 

「舞の姉御を奪われて、頭に血が登ってなきゃいいけど……」

 

「大丈夫ですよ。竜崎さんがついていってくれましたから」

 

「静香ちゃんのいうとおりだよ。僕らは2人を信じて、海馬君を追おう!」

 

「っ! ああ! そうだな!」

 

 

(頑張って……勝利君)

 

 

 

そして皆もまた、モクバを追うために駆け出した。




というわけで、まさかのオリキャラと、遊戯たちとの分岐。
決闘もないのにちょいと長くなっちゃったのは反省。

どんな姿になろうともの〜
の下りと
アクセル緩めよったら〜
は、乃亜編を書くと決めてから必ずやりたいと思い続けていたので、ひとまず満足です。


さあて、このスカルライダーはどのように戦うのでしょうか。

前回、今節が私が描く展開の中で一番やりたい放題だという話をしました。



さて、いったい私が次に何をしようとしているのか。わかったのでしょうか。



次回をお楽しみに。
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