がしゃあん。
どさり。ばたばた。ぐしゃ。
自分の体が鳴らす音を遠くの他人事のように聞きながら、勝利は床に体を打ち付けて転がる。
起き上がろうとしても、痛みがそれを勝手に制する。倉庫の天井を眺めながら、勝利は動かなくなった。
(……馬鹿が……またこれかよ……)
思い出すのは、あの日の倉庫。
自分の命を軽々と投げ出して。無責任に死ぬはずだった、あの日の天井。
あの時は、舞が助けてくれた。
舞がいなければ、自分は生きられなかった。
今は……舞はそばにいない。
(……だから?)
怒りを自分にぶつけるように、勝利は自問自答する。
痛みが走る腕を、足を無視するように、全身に力を籠める。
半身起こした後は、近くのものに手をかけて、無理矢理二足で立ち上がる。
まだ痛む。
だがそんなことが些末に思えるほどに、勝利の瞳は、頭は、全身は燃えていた。
(舞さんがいないと……立てない? 馬鹿か。そんなことじゃあ……舞さんとともにいる資格はない。僕は舞さんに寄りかかりたいんじゃない……舞さんと……一緒に歩きたいんだ!)
勝利はあの決闘艇の一室で誓った。
舞との未来を目指して、バトルシティを戦い抜くと。
その未来は……舞とともに……生きる未来。
舞とともに、遊戯たちと向き合い、笑いあう最高の未来。
そんな未来が、こんなくだらない悪意に塗りつぶされていい道理はない。
己を無理矢理奮い立たせ、立ち上がった勝利が倉庫の外へと足を向ける。
(やつを……追わなきゃ……舞さんを、助けなきゃ)
だが、そこで勝利の足が止まる。
燃やしたエネルギーが落ち着いたころに、ようやく勝利の頭も冷える。
そして、どうやって、が頭を過る。
(……"スカルライダー"はその名の通り、バイクで走るモンスター。アンデット族であるが故の命知らずのハンドリングでアクセルを踏むことができる高速アタッカー。あの"スカルライダー"が、それの具現化であるとするなら、僕がいくら走ったって追いつけない。よしんば、ジェットたちを飛ばして追いついたとしても、僕の足がなければ意味がない……)
せめて……僕にもあれば。
奴に追いつくことができる、力があれば。
すると、勝利が立ち上がるために手をかけていたものに覆いかぶさっていた、シートがはらりと音を立てて落ちる。
そしてその下から出てきたものを見て、勝利は目を丸くした。
「こっ、これは……」
突如現れたそれに、勝利は息をのむ。
漆黒のカウルがその姿を、闇のように覆う。
まるですべての光を飲み込まんとするような、深い深い黒。
触れるものすべてを弾き、壊す。そんな
巨大なタイヤが、車体を支えている。
その力強い体を支えるに十分すぎるほどの安定感を持つそのタイヤにすら、触れたものを吹き飛ばすのではないかと思わせる力を感じた。
勝利は、そっとサドルに触れる。
ほんの少しの埃と、「試作機」と書かれた薄い紙が貼りつけられているのを見た。
そして、一つ息を吐き、天を仰ぐ。
そこには、この出会いを祝福するがごとく、宙をぐるぐると旋回しながらはしゃぐ友の姿が見えた。
『ぴー!』
「……乗れって事か? まったく……」
口だけは、軽く悪態をつく。
だが、その表情は自信に満ちていた。
(……触れるだけで、わかる。こいつは……初めて出会うこの子は……僕の、力になってくれる!)
迷いも残らぬ表情でその新たなともに跨った勝利は、エンジンをかけてハンドルを握る。
動く。走れる。
その根拠のない確信が、勝利にはあった。
「……舞さんを助けるため……僕に、力を貸してくれ!」
そして勝利は、カウルに刻まれた、その名を叫ぶ。
「行こう!! 『B.B type.origin』!」
『……んで? バイクに乗ってみてえって?』
『うん……僕らの中で、バイク持ってるのって、本田君だけでしょ? 遊戯君が乗るわけないし、城之内君に聞いたら、「運転はできるけどもってねえ」って、意味不明なこと言ってたし』
『あんのばか……適当なことを……まあ、いいぜ。好きに乗んな』
『ありがとう! 時間できたら免許は取りに行こうと思ってるんだけどね。いかんせん、大会が近くて』
『まあ、それは構わねえけどよ。じゃあなんだって、今乗りてえって言いだしたんだよ?』
『……笑わない?』
『笑わねえよ。なんだ?』
『僕も男だからね。ツーリングとかの憧れは、昔からあったんだ。それに……』
『それに?』
『……いつまでも助手席に座ってるだけじゃ、カッコつかないでしょ』
『……? いったい何の……あっ! そうかそうか! なるほどな、そういうわけか! くくくくく……』
『笑うなっていっただろ!!!』
『ハハハハハ! わりぃわりぃ……いいじゃねえか。応援するぜ』
『もう……』
『笑っちまった詫びじゃねえけどよ、道路出ない分には、好きに運転しな。別に倒したってかまわねえからよ』
「……ありがとう。本田君」
快調に飛んでいくバイクの様子を眺めながら、勝利は友に聞こえぬ感謝を零す。
そしてメーターと正面の景色を見て、表情を引き締める。
勝利たちが走り出してすぐのこと。
工業地帯から抜け出した勝利たちは一転、岩場だけが突き出る荒野を走り続けていた。
「おい、勝利。ホンマにこっちであっとるんか?」
出発が出遅れてしまったが故に、すでに舞を連れ去った"スカルライダー”は姿を消している。
だというのに果てのない荒野を迷いなく突き進む勝利に対して、後部にいる竜崎が怪訝な声を上げる。
だが勝利は自信を持ち、即座に答える。
「うん。こっちに、舞さんがいる」
「……それも、勘か?」
「いや、確信」
「……ま、ワイにあてがない以上従うしかないから、かまへんのやけどな」
「悪いね。助かるよ」
(ジェットを飛ばした方向を追ってるんだ。なんて、言ってもしょうがないからね)
許可を得た、と言わんばかりに、アクセルを捻ってさらに加速する。
もはや道路交通法があればどこの道でも違反になるであろう速度を弾き出しながらも、勝利たちは静かに荒野を行く。
「……舞さん……」
勝利が苦しそうに呟く。
早く。より早く。
その言葉から、勝利の心象が手に取るように分かった竜崎は、ため息交じりに勝利の背を叩く。
「……おい、勝利」
「っ! ご、ごめん。竜崎君」
注意されるより先に、勝利が謝罪の言葉を吐く。
それを聞いた竜崎が、今度こそはっきりとため息を吐いた。
「先に、はっきりと言うとくで。あの骨野郎に追いついて、舞を助けるってなったときの話や」
「……」
「お前の怒る気持ちは、わかっとる。せやから……」
「……ああ、わかってる。冷静に、落ち着いて、自分を見失わないように。じゃないと、舞さんは助けられない」
「違う。思いっきりやれ。なんも考えんと、お前はやりたいようにやりゃええんや」
「っ!!?」
竜崎の言葉に激しく狼狽えた勝利は、思わずハンドルを切りそうになって必死に自分を落ち着かせる。
「な、何を、竜崎君!?」
「舞を、助けたいんやろ? なら、その感情のまんま戦いきれ。その方が、小賢しい戦略で戦うより今のお前にはあっとるやろ」
「……駄目だよ」
竜崎の信頼の言葉。
しかし勝利は、首を振る。
「そんな器用な戦い方は、僕にはできない。怒りのための決闘をしたことは、ある。でも、怒りのままに決闘をしたことなんて一度もない。僕はいつだって、友達と一緒に、全力で決闘に向かい合う。それしかできないから……」
「……」
「だから……感情のままに戦いなんてしたら、すぐに崩れて、おかしくなる。どれだけ悔しくても、どれだけ舞さんを助けたくとも。僕にできるのは、感情を抑えて、向かい合うことだけ……」
「アホ。なんのためにワイがついてきたとおもっとんねん」
竜崎が、もう一度勝利の背中を叩く。
竜崎に見えない勝利の顔は、目を丸くした驚愕の顔だった。
「ワイが、お前の頭になったる。せやから……お前はなんも考えんと、舞の事を助けに行け」
「……竜崎君……」
「どのみち、舞を助けるのはお前の役目や。ワイにゃ、荷が重いわ」
からっと笑う竜崎の言葉に、勝利の心が一気に軽くなる。
「……ありがとう、竜崎君」
「……礼の言葉は、早いで。奴さんのお出ましや」
そして続く竜崎の言葉に、再び空気が引き締まる。
左奥の岩場の先、と竜崎が呟く。
その先に視線を移すと、何もない荒野の真ん中に立ち上る土煙。
そして……勝利にしか聞こえぬ、ぴぃという鳴き声が響いた。
「っ!! 見つけたぞ! "スカルライダー”!」
思い切りハンドルを切り、さらにアクセルを吹かす勝利。
その手に、瞳に、迷いはなかった。
「っ! キヒヒ……奴ら、追い付いてきやがったか。しかもあのバイク……こりゃおもしれえ」
『っ!!? 勝利!? それに……竜崎!?』
「助けに来たよ!」
「愛しの王子様だけやのうて、悪かったのう!」
「キヒヒヒヒヒ! なら改めて、俺が直々にお前らを葬ってやるよ!」
そういうと、"スカルライダー”がバイクに備え付けられたボタンを押す。
するとスカルライダーの目の前に、盤面が展開される。
「あ、あれは!?」
「ちょおまて!!? まさか!?」
『バイクに……決闘盤!?』
「さあ、いけ! "ソニックバード”! "スカイ・ハンター”!」
"スカルライダー”の決闘盤から飛び出したモンスターたちが宙を舞う。
そしてその行く末を眺めながら、勝利と竜崎は顔を歪めた。
「おいおい……これってさっきの操り人形がやってたのと同じ……」
「竜崎君! しっかりつかまってて!」
察知した勝利が、改めてハンドルを強く握る。
それに合わせるように、竜崎も勝利にしがみつく腕の力を強める。
『ぎゃーーー!!』
『ひゃおーー!!』
"ソニックバード”が羽をはためかせると、風の塊が刃となって降り注ぐ。
それを勝利は、ハンドルを左に切って躱す。
続いて、"スカイ・ハンター”が羽を広げる。
すると"スカイ・ハンター”の羽の一部が、ナイフとなって勝利たちに降り注ぐ。
続けて勝利はハンドルを右に、右に、左にと何度も切り返して、それを必死に避けていく。
『勝利!!?』
「大丈夫……待ってて!」
「クッソ! このままやあかん! かわすのに精いっぱいで、骨野郎との距離が広がるだけや! 奴らの事を何とかせんことには、舞には届かん!」
竜崎が空を見て、にやつく"スカイ・ハンター”たちを睨む。
それに倣うように勝利が空を見ると、勝利ははっと表情を変える。
『ぴぃ!!』
『かあ!!』
『くわぁ!!』
(……みんな! そうか! 目には目を!)
友の声に呼応するように、勝利はハンドルを握る手元に念じる。
(……BIG5たちの戦いで、念じるだけでディスクを召喚し、装着することができた。決闘においては、ある程度対等で、僕らの融通が利く世界だとするなら……できるはずだ。君たちの召喚も!)
『ぴぃ!』
念じた勝利の手元に、飛んできた皆が集まっていく。
そして……勝利の手元で光輝き、数枚のカードが誕生した。
「っ! よし! って、うお!!?」
『ぎゃーす!!』
手に入れたカードにほくそ笑む勝利だったが、再び降り注ぐ風と羽の刃に余裕を奪われる。
何とか回避はしたものの、勝利の頬を汗が伝った。
(駄目だ……これじゃ戦えない。こうなったら……)
勝利は、真っすぐに前を見据える。
そして……後ろ手に、カードを差し出す。
「竜崎君! これを!」
「なんや、いきなり……って、これは、お前の!!?」
竜崎が思わず、動揺する。
それは……BF。
彼を知るものならだれもが知っている。勝利の何よりも大切な、友達たち。
「僕は今戦えない! だから君を、信じる! 君がその子たちで、奴らを!」
言って勝利は、落ちてしまったスピードを取り戻すべく再びアクセルを吹かす。
竜崎は託されたそのカードを片手に、振り向かぬ勝利の背中を見て、ふっと息を零す。
(……けっ。好きにやれって、言うてもうたからな。それに……こいつが、自分のカードを、人に託すやと? くそ……柄にもなく、アガっとるわ)
竜崎は腕の決闘盤を構え、カードを置く。
そしてそのディスクから、光り輝くモンスターたちが生み出される。
「……行けっ! "BF-黒槍のブラスト”! "BF-疾風のゲイル”!」
『かあ!』
『くわあ!』
「頼むぜ! 二人とも! 竜崎君とともに、奴らを倒すんだ!」
召喚されたゲイルとブラストが、息を合わせて上昇していき、勝利たちの妨害をするために振り落とした"スカイ・ハンター”たちの刃を叩き落とす。
『ぎゃ!?』
『ひゃあ!?』
『かあ!』
『くわあ!』
続けて、ブラストが槍を構え、"スカイ・ハンター”の羽目掛けてつく。
それをフォローするために、"ソニックバード”がブラストを風で妨害する。
「させんな! ゲイル! 効果発動や!」
『かあ!』
『ぎゃお!?』
ゲイルがぶつけた風で、フォローに回った"ソニックバード”が体制を崩す。
それを見て、ゲイルとブラストがにやりと笑う!
「いまや! ゲイル! 『ブラックスクラッチ』! ブラスト! 『デス・スパイラル』や!」
『かあ!』
『くわあ!』
竜崎の声に合わせ、ゲイルが羽を、ブラストが槍を振るう。
抵抗する力を失った2体が、その攻撃に直撃する。
『ぎゃーーす!!』
『ひゃおーる!!』
断末魔とともに、2体のモンスターが消えていく。
それを見て、竜崎と勝利が同時に笑う。
「どうや! 見たか!」
「さすがだぜ竜崎君。妬けるほどに、息ぴったりじゃないか」
「へっ。こちとらお前のデッキ倒すために、何十回とシミュレートしてきとるんや。これくらい朝飯前やで!」
『かあ!』
『くわあ!』
「2人も、ありがとうね。さあ、捕まえたぜ!」
『勝利!』
「キヒヒ。あの程度では、時間稼ぎにしかならねえってか?」
激しい攻防の末に、勝利のバイクがようやく"スカルライダー”に並ぶ。
勝利の肩には、満足そうな顔のジェットが停まっていた。
「さあ、舞さんを返してもらうぜ!」
「お前らのモンスターの妨害行為はもう効かへん! 年貢の納め時や!」
「……キヒヒヒヒ。お笑いだぜ。俺の思い通りに、罠にはまったとも知らずによお!」
「……なに?」
「罠やと?」
"スカルライダー”の言葉に、勝利と竜崎が揃って声を上げる。
(……はったりか?)
(いや……あの妙な自信。何かあるのは間違いない)
警戒を引き上げる2人。
しかし、次の"スカルライダー”の行動は、いかに2人が警戒しようとも、防げるような代物ではなかった。
「さっきの2体のモンスターの役割はな……お前らへの攻撃でもなけりゃ、時間稼ぎでもねえ……お前らの迎撃を引き出して、ディスクを開かせることだ! 舞台に引きずりこむためにな!」
「なっ!?」
「なんやと!?」
『いったい、何を……』
「さあ、見せてやるぜ! 死と隣り合わせの極限のスピードの世界での決闘をな! フィールド魔法、"スピード・ワールド”発動!」
スピード・ワールド
フィールド魔法
このカードはカードの効果を受けず、
フィールド魔法カードをセット及び発動できない。
お互いのスタンバイフェイズ時に自分用スピードカウンターを1つ置く(最大12個まで)。
「Sp(スピードスペル)」魔法カード以外の魔法カードをセット及び発動した場合、
そのコントローラーは2000ポイントのダメージを受ける。
お互いがダメージを受ける時、1000ポイント単位にスピードカウンターを1つ取り除く。
「な、なんや!?」
突如発動された魔法カード。
その効果により、勝利と"スカルライダー”。厳密には、竜崎の開くディスクと"スカルライダー"のディスクを起点に、フィールドが広がっていく。
ソリッドヴィジョンによって作られるコースが誕生し、勝利たちと"スカルライダー”がそのコースを並んで駆けていく。
「な、なんだこれ!? 突然ハンドルが、思うようにきれなくなった!? コースを、外れられない!」
「なんやて!?」
「キヒヒヒ! まさか貴様がそのバイクに乗ってここに来るとはなあ。嬉しい誤算ってやつだぜ!」
「バイク? いったい何のことだ!? 貴様は、一体何をした!?」
勝利が吠える。
それに対して"スカルライダー”は、楽しそうに言葉を返す。
「この"スピード・ワールド”っつうカードはなあ、KCが開発しようとした新たな決闘スタイルの試作品さ。そのバイクもな」
言われて、勝利は目を落とす。
「……このバイクが、KCが生み出した決闘用のバイク……」
「そう。危険すぎて、今のままじゃあ安全配慮ができねえっつうことで、お蔵入りした幻の決闘だがよお……俺がこの世界に来た時に、試作カードと、試作機のデータを引きずり出して入れておいたのさ。決闘の中で、スピードに命と魂をかけて戦う、究極の決闘。その名も……」
ライディングデュエル。
「……ライディング、デュエル……」
「まさか……バイクで走りながら決闘せえっちゅうんか!?」
「その通り! そして……それだけじゃあねえぜ!」
そして、"スカルライダー"が手を翳すと、奴の目の前、そして、竜崎の目の前にカードが浮かび上がる。
2人もすでに経験した、この世界での自身のデッキ構築の手段。
だがしかし、その内容の様相は、これまでとはまるで違う。
「っ!? な、なんやこれ!? 魔法カードが……見たこともないカードばっかや!」
「なんだって!?」
「キヒヒヒ。そう。それこそが、ライディングデュエルの真骨頂! 『Sp(スピードスペル)』さ!」
『す、Sp(スピードスペル)……』
"スカルライダー”はそのうちの一枚を選択し、具現化して勝利たちに見せつける。
魔法カード
スピードカウンターが2つ以上ある場合に発動する事ができる
自分のデッキからカードを2枚ドローし、その後手札を1枚捨てる
「
「なっ!?」
「なんやと!?」
「キヒヒ。ライディングデュエルは、速度を愛し、速度に愛されたものだけが勝利を手にすることができる。それ以外の不純物など、不要なのさ。そして速度を愛する者には、その恩恵を与えられる。"スピード・ワールド”は速度を出すもののターンの開始時に、スピードカウンターを授ける。スピードカウンターを大量に抱えることができれば、強力な
「……まさに、速度を制したものが、制する決闘……」
「その通り。そしてその逆に決闘の女神が微笑まぬものに、速度の女神は微笑まない。プレイヤーが1000ポイントのダメージを受けるごとに、スピードカウンターは1つ消滅する!」
「……決闘に勝ちたきゃスピードカウンターを溜めて
言葉と裏腹に、気合いの入った顔で"スカルライダー”を睨む竜崎。
まるで自分の得意のお遊びに巻き込みたい子供のようにはしゃぐその様に、嫌悪感をむき出しにする。
「呑み込みが早くていいねえ。それじゃあ、最後のルールだぜ」
そして"スカルライダー”は、そんな竜崎を面白そうに見ながら親指を下に向け、首をかっ切るように横に切る。
「LPが0になったとき、もしくは……決闘の途中でバイクがコケるようなことがあったとき、そいつの敗北。当然お前らの体は、もらうことになるぜ!」
「なっ!!?」
その発言に、勝利は言葉を失う。
命の危機に怯えたから、などではない。
そのルールの凶悪さに、気づいていたからだった。
(バイクが横転したら、その時点で一発負け……まずい。勢いで運転しているだけの僕と奴の運転の技術は、すでに差が歴然。しかもこの空間の決闘では、モンスターの攻撃が痛みとなって、僕らの体にダメージを負わせる。もし、ダメージを受けた反動で手元が狂ったりしたら……)
勝利が、息を飲む。
その緊張感が伝わったのか、竜崎も無言で、唇を嚙む。
「ちゃんと伝わったようで、何よりだ。じゃあ、開始しようか。命と誇りを駆けた、最高の決闘をよお!」
そして"スカルライダー”が、デッキを選び始める。
だが竜崎と勝利は、流れていくカードを確認しながら未だ動かずに固まっていた。
『勝利……竜崎……』
"スカルライダー”の腕の中で、舞が電子音の声を鳴らす。
その抑揚のない声だったが、不安気な感情は、よく感じ取れた。
だからこそ、勝利は舞に微笑む。
「……大丈夫だよ、舞さん。待ってて。必ず助けるから」
そう言った後、勝利は前を向いて走り続けたまま、竜崎に声をかける。
「……竜崎君」
「……なんや?」
「……君に、託させてくれ」
「……」
ほんの少しの静寂。
そして勝利が続ける。
「速度と魂を駆けた決闘。レースと、決闘。どちらが欠けても、奴に勝つことはできない」
「……ああ」
「でも、僕の腕じゃあ、決闘しながら奴と戦うなんて言う芸当は、できない」
震える勝利の声を聴く。
見えてはいない。だが、勝利が今どんな表情をしているのか、竜崎にはありありと想像できた。
(……今にも泣きそうなくせしよって)
「君の言う通り。僕は感情をレースにぶつけて、奴に迫って見せる。だから……頼む。君の力で、舞さんを救ってくれ」
「……いいんか?」
短く聞いた竜崎の問いに、勝利は一も二もなく頷く。
「僕は、僕の頭になってくれるといった、君を信じてる」
そして勝利は、強くハンドルを握る。
前だけを見て、戦う。
背中は、任せる。
その意思表示のように。
「……わかったわ。ただし」
竜崎は、手に残ったカードたちを、そのまま決闘盤にセットする。
それは……先ほど勝利が手渡した、勝利のカードたち。
「ワイ1人に押し付けさせはせえへんで! お前も……お前の仲間も、一緒に戦うんや! 全員で、舞を助けんで!」
『っ! ぴぃ!』
『かあかあ!!』
「っ!!? クックック……ありがとよ、竜崎君!」
「さあ! デッキは完成や!」
「キヒヒ。俺も完成だよ」
その声に反応するように、フィールド魔法、"スピード・ワールド”のコースが伸びる。
「あの第1コーナーを曲がった方が、先行だ」
「いいだろう!」
アクセルの音が、同時に鳴り響く。
そして目の前に、ソリッドヴィジョンのシグナルが灯る。
「行くぞ!」
「来いや!」
「舞さん。僕たちが、今行くよ!」
『……勝利! 竜崎!』
「「「ライディングデュエル! アクセラレーション!」」」
速度の世界での苛烈な戦いの火ぶたが、切って落とされた。
一応自分なりに確認して、
『ライディングデュエルのひな形が初代DM世界に存在するという事実が不自然ではないか』
というのは確認したのですが、ライディングデュエルがいつ誕生したのか。誰が作ったのか。その辺の時代考証は明確にはわからないままでした。
まあ、決まってないなら好きにやってしまうか、と判断して、このような展開に相成った次第でございます。
どうせなら、好きなキャラを好きに使った方がいいでしょう。
ちなみに、個人的にはスピードワールド2でやりたかったのですが、さすがに2から出てくるのはおかしいので、今回は1でやることにしました。
……今回は。
レースは勝利。
決闘は竜崎とBFたちで行う、超変則タッグ。
果たして、どのような展開になるのか。
ご期待ください。