【完結】もしもどこぞの都市のカポがアクナイの世界に転生したら 作:しきょーかい
息吹が後ろに流れ、咲かぬ傷を綺麗に折り畳み、骨よりも古い音で扉を開け。
→いやなんて?
聖王西部大広間、その地下にある玉座の間。
テレシスがアナンナを持ち去り、レイホンの持つ通信機から放たれる端末の信号が発される場所。
不思議なほどに空気は熱されており、そして所々に見られる破壊痕から激闘が繰り広げられたということが分かる。
玉座の前には、一人のサルカズが立ち塞がっていた。
「マンフレッド、
「……。」
簡潔に、しかし有無を言わせない言葉を発するアスカロンに、マンフレッドは沈黙で答え
た。
ティカズの根という名のアーツユニットを握り締め、相対する覚悟を決めた彼に、アスカロンがもう一度声を発する。
「次はない、退け。」
「……君にも、譲れないものがあるように。私にも譲れないものがある。」
アスカロンが姿を消した瞬間、彼女は既にマンフレッドの背後を取っていた。
紫色の刃が首へと振るわれようとした瞬間———
「ッ!」
キィン!
「ドクターは私が!」
「Mon3tr、警戒しろ。」
玉座の影から何者かが飛び出し、致命の一撃を弾いた。
飛び退くアスカロン、同時にアーミヤが結界を織り始め、Mon3trが乱入者に向かって唸り声を上げる。
暗い中、その者の特徴的な武器は
「……レイホン。」
「おぉ、早かったなぁ。でももうちょい待ってくれや、そろそろ終わる頃やろうしな。」
朴刀を腰に納めた男は、片手にシガー、もう片手を柄にかけて話す。
それが当然かのように振る舞っているため、思わず流してしまいそうになる。
「アーミヤの嬢ちゃん、随分と吹っ切れた感じやな?雰囲気が大きくなったっちゅうか、成長したっちゅうか……まぁ、良い方に進んどる感じするわ。やけど、こっから先は通行止めやで。」
「理由を聞いても?」
その場から一歩前に出て問いかけた。Mon3trとアーミヤの織った結界が合わせて動く。
ベルトに装着されていたはずの弾丸は消えており、この熱さの原因が何なのかを理解した。
「いんやぁ、最後の最後で負けちまってな。命乞いしたら"ここ"守れっちゅう指示されたんや。」
「……テレシスは今の君の状況を把握する術を持たない。そこを退いて———」
「依頼内容に含んだのはそっちやで?命大事にやろ。あと、二枚舌は使わんって決めとってな。せやから、馬鹿正直に全部話しとるし、無理に進もうとせんなら手も出さんで。」
「君の行為は、このテラという大地から未来を奪うに等しいことを知っているのか?」
「知っとるし、アイツが成功すりゃ問題はないやろ。役目終わったら、次は見守らんといかんしな。」
ケルシーが咎める中で、アスカロンが一度目配せをする。
それを見て、勇気を持って更に進んで問いかけた。
「レイホン。マンフレッドの制圧については問題ないのか?」
「ん、まぁ、せや。とやかく言われとらんし、さっきのは顔見せのが目的やった……っと。」
ギィン!
レイホンの動きを封じるため、アーミヤの手元から放たれた黒い線が切り払われる。
弾丸が残り少ないのか、弱々しい炎を吹き出している朴刀だったが、アーツを切り払うには十分な力が残っているようだ。
かつて見たときより薄く、赤色に輝くこともない状態だったが、こちらも万全とは言い難い。
「このまま始めてもええんやけど、ぶっちゃけもう遅いで?」
「何?」
「聞こえんのか?石と石が擦れあう音。」
「アスカロン!マンフレッドを制圧しろ!」
攻めるべきか、それとも待つべきか。
レイホンの言葉を聞いた瞬間、考える事をやめて指示を出していた。
紫の霧となり、即座に消えるアスカロン。
ティカズの根が紫のナイフで弾き飛ばされ、そのまま彼女が関節を極めようとした瞬間。
暗闇より歩み出る、一人の男がいた。
剣の光の主が暗闇からゆるりと現れるその光景を、微弱な光が恐ろしさをより一層際立たせている。
男は何も言わず、剣を振るった。
「避け———」
「フンッ!」
ケルシーを切り裂いた、致命の一撃。
それはMon3trに防がれることもなく、アーミヤの結界に衝突することもなく、光の輪を一つ輝かせた朴刀に阻まれた。
男は———テレシスは表情を変えることなく、こちらを睥睨する。
「レイホン……そしてネツァレムは、私との約定を果たしたようだな。」
「二枚舌は使わんっちゅうたやろ。」
ほぅと息を吐き、そう言うテレシスの右腕にはあでやかな結晶で作られた剣が握られていた。
形が違くとも、それがアナンナであると理解する。
「この結晶の為に、サルカズがどれだけの犠牲を払ったのか……お前たちは知っているだろう。そして、サルカズがこれを持つことに驚いても無理はない。違うか、ケルシー士爵。」
「…少なくとも、今は君たちの成功を喜んでいる。」
「そうか。私が再起不能である事を喜んでいると、思ったのだがな。」
よく見れば、剣を握る手は源石の結晶でできていた。
結晶は手から腕へ、肩にまで上ろうとしている。表面上でこのレベルまで析出しているのなら、体内の源石感染レベルなど、聞く必要がないほどに高まっていることだろう。
「再起不能で、済むと思っているのか?君の体はもはや源石そのものに近い。どのような手段を用いたのかは分からないが、かつてのボジョカスティ……いや、それ以上の親和率だ。」
「この腕は、簒奪したもの故に。私には一切の影響を及ぼさず、また私の意のままに用いられる。だが……。」
その間にも、源石は彼の半身を侵食し続けていた。
「それも、かつての話であったようだ。余分な情報は、既に捨てることも能わぬ。」
玉座の前まで進み続けていたテレシスが膝をついた。
源石の剣は地面に突き刺さり、仄かに脈打っているように見える。
「殿下!」
「下がれ、マンフレッドよ。お前には処理すべきことがある。『アナンナ』を、カズデルへ持ち帰るのだ。」
地面に突き刺さった剣から、罅が走る。
黄金色の輝きを湛える罅からは源石が湧き出し、マンフレッドを外へと押し出していった。
紫の霧となったアスカロンは源石の波を超え、地下玉座の間に留まる。
「……愚かな。」
テレシスが、剣を杖代わりにして立ち上がった。
レイホンと同じ、いや、それよりも儚い、今にも消えそうな光が彼の全身を覆った。
地面から引き抜かれた剣の先には、一つの光の輪が輝いている。
「成すべきことを、成そう。」
彼の表情は苦悶に満ちていた。それでも、彼は剣を掲げた。
その構えは隙だらけで、しかし触れてはならないと思わせる威厳を持っている。
ほんの数人、ロドスの戦闘記録管理データベースの、機密データで数回見た軌跡を幻視する。
絶対的な"切断"を、空間を切る一撃を。
アーツなど意味はなく、またアナンナを止めたところで結末が変わることはないだろう。
レイホンはそれを玉座の隣で、静かに見ている。
ザクッ!
仕込み刀を持った紫の霧が、背後からテレシスの心臓を貫いた。
甲冑越しに貫かれた彼の体からは、突き刺された瞬間も、引き抜かれた瞬間も、無機質な音がした。
「師匠、心臓は———」
「とうに止まっている。お前たちが見えたとき、丁度だ。」
そこでレイホンが歩み寄り、テレシスに肩を貸して立ち上がらせた。
剣は既に握られておらず、無造作に転がっている。
そのまま歩いて、レイホンは背もたれの上部が吹き飛んだ玉座にテレシスを座らせる。
「去れ。あれを持ち、マンフレッドを見つけよ。……そして、家に、カズデルへ帰れ。」
「……。」
アスカロンは無言で剣を拾った。
その目には、涙があった。
「私の結末を知らせぬためにも……行け。決して振り返ることなく。」
彼女の心情を推し量ることはできないだろう。
そして、アナンナを握った彼女は身を翻した。
「行こう。これは私に応えてくれている。」
「……先に行っててくれ、後から追いつく。」
「———去れ。お前にも、言ったのだ、ドクター。」
玉座から、重々しく、掠れた声が響く。
死が目前に迫っているというのに、声からは一切読み取れない。
「貴様では、私の死を見届けるには分不相応だと、言ったのだ。」
「君は———」
「もう一度言うぞ、
有無を言わせない覇気が放たれ、話など出来そうに無かった。
自らの宿命を受け入れたサルカズと、一人の男を残して立ち去るしかなかった。
1098年の初頭、サルカズの傭兵たちは「バベル」と名乗る組織に率いられ、ロンディニウムから撤退した。
そして、この戦争を主導したカズデルの指導者、テレシスは行方不明とされている。