【完結】もしもどこぞの都市のカポがアクナイの世界に転生したら 作:しきょーかい
15章開始まで時間が有り余っている
つまり、やりたい放題ということです
「おはよう。」
「びっ……くりしたわぁ……。ドタマ割られたかと思うたわ。」
扉を開けた瞬間、天井からリアンが降ってきた。
リアンが目覚めたと聞いて、向かった先で一番に起こった出来事だ。
カズデルの外れに位置した洞窟から、わざわざロドスの目に入らないよう龍門に輸送して治療。
大きな見返りを目的としているわけではないが、その果てが自分の死なのは流石に御免被る。
今回の戦争における損害、収益の計算。更には先に待つヴィンダミアの統治に一枚噛む準備まで。
やらなくてはならない事は残っている。
「ちゅうか何で天井に張り付いとったんや。」
「ふむ、こうすると驚いて、喜んでくれていたんだが。」
「誰やそれ、ビビっとるやろ。……あぁ、一応聞いとくけど、俺っちのコト覚えとるか?」
「……残念だが、記憶にはない。ぐちゃぐちゃに切り刻まれたような感覚もあれば、そもそも初めから空白だったようにも思える。自分の名前すら分からず、ただ何か従っていたような気がするな。」
本人曰く、記憶喪失とのことだ。
ロドスを傍から見ていた際、
厄介なことに、記憶喪失は証明が難しい。
本人が記憶喪失だと言ってしまえば、怪しくとも前提に入れなければならない。
「まぁ、ええわ。戻るまで———いや、戻らんほうがええんか?……取り敢えず、まだ治っとらんから寝とけや。」
「……俺とお前は、あまり良い関係じゃなかったようだな。」
「良い関係っちゅうか、ちぃと複雑でな。……あと色々あってロドスっちゅうとこの記録チラ見しとるんやけど、何かお前っぽい奴がやらかしとるらしくて、協力が危うくなりそうなんよ。」
「それなら……何故俺を殺さないんだ?」
「……。」
レイホンの命令により、丁寧に巻かれた包帯を取っていくリアン。
顔の傷は阿頼耶識のないテラでも熱を持っているのか、焼けるように赤くなり、血が滲み出す。
袈裟状に斬られた傷は無理やり縫い合わせたが、次第に糸が抜けて血が垂れる。
心臓には細い棒状のもので貫かれた痕があった。
相手は手負いの状態。対してこちらは万全の状態。
相手の手に自由自在の武器はなく、予測じみた
たとえそこらのもので抵抗しようとも、殺すことは容易だろう。
だが……
「記憶無い奴斬っても、胸糞悪いだけやろ。ロドスんとこで裁くにも、記憶取り戻してからやろ。」
「……。」
「今んとこは連れてく気はないで。面倒な仕事の処理、ちょうど人手が足りんくてなぁ。」
「ありがとう。そう言うべきなのか?」
「おう、感謝せぇや。まずは傷隠せ、見る側の気分が悪ぅなるわ。」
「あぁ。」
===
更に2週間経った。
「リアンさん。この書類はどこに持っていけばいいでしょうか。」
「リアンさん。こいつ新しく入ってきたヤツなんですけど、色々教えてやってください。」
「リアンさん。
「リアンさん」「リアンさん」「リアンさん」「リアンさん」「リアンさん」…………
「いやクッソ馴染んどるやんけ。」
「皆が馴染ませようとした結果だ、俺の力じゃない。」
情報の処理能力だけを見れば、レイホンと然程変わらないと思っていた。実際、脳の処理速度では互角、なんなら勝っているという自信がある。流石に思考を停止した指令の犬には負けない。
だが、今のリアンは自らの意思で動き、周囲がその姿を見て支えている。
レイホンよりも勤勉で、更に周囲が味方をしているとくれば結果を残すのは道理でもあった。
そして結果を残した以上、見合った報酬と名誉が与えられる。信賞必罰の結果がこの現状だった。
「それにしても平和だな。裏の社会、その半分近くを取り締まる以上流血は避けられないと思っていたが。」
「初めはそうやったけど、今じゃ歯向かってくる奴は居らんなぁ。叩き潰して吸収の繰り返し。残りの半分は鼠王んとこで、表との繋がりも強いから手ぇ出す必要がないっちゅうわけや。」
「これまで積み立ててきた結果というわけだな。」
傷を覆い隠す仮面を被り、納得がいった表情をして書類をまとめ終わったリアンが立ち上がる。
その側に付いた部下たちは銃剣だけではなく、それぞれが武器を持っている。
手斧。レイピア。スティレット。ハンマー。大剣。ランス。鞭。バスタードソード。鎌。
褒賞として購入した、リアンに選ばせ、リアンが使いたいと望んだ武器。
一つだけとは言っていなかった為、複数用意することになった。いくつかは特殊な機構を組み入れた特注品だったりするので、値段は馬鹿にできず、全部壊れるか失うかすれば流石に気が滅入るだろう。
(ま、それでも味方につけるんなら安い方や)
別に自由自在に模るわけでもないため、本人が持つには多すぎるという欠点もある。
だとしても記憶を失い、蜘蛛の巣に落ちたとはいえ人差し指の代行者。
武器の切り替えを部下を用いるという力技で乗り越え、体に染み付いたセンスは十分に戦えるものだ。
「レイホン、今日も頼むとしよう。」
「よぉ飽きんな。俺っちとしても体を動かせるかい、問題はないんやけど。」
「武器を振るうたび、何かが掴めそうなんだ。何時までも甘んじて停滞するわけにはいかないからな。」
「……そんまま、敵にならんで進んでくれたら助かるわ。」
「記憶が戻ったとしても、受けた恩は忘れないさ。」
それはどうだか。
内心で呟いた。
都市に住んでいた者は何らか抱えているものが多い。それこそ
底に潜むものは分からず、皮を被り続けていたリアンの底を見通すことなど出来そうにもない。
残虐性を秘めていることが分かったが、欺くのが上手いことでレイホン以外に気付いている者は……少なくとも親指にはいない。
(定期的に発散、ついでに体を動かすっちゅう感じやな)
そして今日もまた、流石に手応えがないな……と、どうでもいいことを考えながら、
===
空白ができあがったというのに心は軽くならず、むしろ、失ったぶんだけ重くなったかのように感じられる。
だというのに俺は、その空白を埋めたいなどとはちっとも思えない。
こんなに複雑だったことは、今まで一度たりともなかっただろう。
心の中に風が吹きすさぶせいで、肉体を動かす力を捻出できないなんて、そんなことがあるだなんて、想像さえできない。
だが、それも昔の話。
罪と言うならいいだろう。恥と言うのもいいだろう。
だが、その言葉が俺の行動を阻むことができるほど、強固なものであるかは別問題だ。
「『むかしむかし、大きな大きな砂漠に立ち向かう、布で作られた小人がいました。小人は誓いました。いつかこの砂漠を抜け、伝説に語られる希望の平原を見つけるんだ……』」
「テレジアさんは、いつも結末を話してくれませんよね……。リアンさんも、私にだけ結末を教えてくれません。一緒に読み聞かせを聞く、他の人には最後まで読んであげるのに……。」
「リアンも……。そうね、本当に恐ろしい結末なら、眠れなくなるでしょうから。」
全ての出会いに、美しい結末があるわけじゃないんだ、テレジア。
物語の中には、唐突に終わりが訪れたり、聞けば夜も眠れなくなるようなものがある。
そして……最後にはただ、深いため息をつくしかないような話もある。
息が詰まるほど狭く残酷な都市で人々は出会い、それから別れる時がくる。
だが、互いにすれ違ったその瞬間に———はっ。
互いの目を見て、きちんと別れを告げるべきかどうかは、誰にも分からないだろう。
そろそろ、氷を溶かしに来る時間だろう。
記憶も、時間も、何一つ残らないよう洗い流すことは出来ない。
俺はお前を待っている。
———アスカロン。
おまけ故に、投稿頻度は落ちるのであしからず