【完結】もしもどこぞの都市のカポがアクナイの世界に転生したら 作:しきょーかい
メリークルシメマス
俺は夜遅くまで労働だしボッチだし普通に辛いです。
この聖なる夜に外に出て働くあんたたちにも、私にも…祝福とかがありますように。
あ、自職員、司書補が出ます。そういうの苦手な人は飛ばした方が良いかもしれません。
ほんの少しだから大丈夫…大丈夫…?
目の前には星が輝いている。
蒼白、赤、黒の一番星。輝いているというのに、黒というのはおかしいが、とにかく黒色の星だった。
熱を放ちながらチカチカと明滅するそれらに、思わず手を伸ばした。
ふと、自分の周りを、白い星が回っているのに気付く。
白い星に触れると、凍てつくような寒さがやってくると、おぼろげな記憶が教えてくれる。
しかし、それは二度と失ってはならない、暖かいものだということも同時に教えてくれた。
両手を広げ、白い星を迎え入れる。
目が覚めた。
———
「父さん!」
「お、おぉ…?え、れーな?」
気がつくと、死んだはずの娘が腕の中にいた。
その体が放っていた寒さはそのままで、周囲を確認すると様々な服装をした知らない人々がこちらを見ている。
娘を抱きしめる腕と自分の体を見れば、破壊されたはずの装甲を纏っている。
これは夢だ、幻想だ。あのコータスの娘が与えた幻覚だと思った。しかし、目の前にいる、触れる事もできる娘の姿は確かにそこにあった。
装甲に顔をうずめ、涙を流す娘の背中を撫でる。雪のように溶けることはなく、ただそこにあった。
「ようやく目覚めたのね。おはようございます…いえ、それよりもまず初めましてかしら。」
チンッ!
不思議な軽い音が響くと同時に、背後から声が聞こえる。
その声は甘言を囁くあの声に似ていながらも、それとは違う、別の芯が通った声だった。
振り返り、声の主を見る。
蒼白の髪を短く切った女性がいた。
「初めまして、私は図書館長のアンジェラです。まずは…今の貴方の状況を説明しましょうか。」
アンジェラと名乗った女性に名乗り返そうとしたが、喉が掠れてうまく声が出せない。
それを困惑によるものだと受け取ったのか、アンジェラは説明を始める。
小さな口から紡がれる言葉は、にわかには信じられないものばかりだった。まだロドスが自分を蘇らせたと言われた方が信じられるほどだ。
都市、図書館、光の種、外郭…。自分のような老骨には、少々難しいものが多すぎた。
「……自分の状況は、理解できましたか?」
「説明、感謝する。」
本を片手に抱え、頭を下げずに堂々と話をしたアンジェラに感謝を返すため、倒れた姿勢から起き上がろうとする。
何故か周囲の人から「おぉ…。」とどよめきが上がった。
「エレーナ、少し離れたほうが良いかもね。貴方のお父さん、上手く立てないみたいだから。」
「……あぁ。」
抱える
なら、私が名乗る名前は決まっている。
「私の名は…ボジョカスティ。」
「ボジョカスティ。エレーナもだけれど…いい名前ね。」
目を閉じたアンジェラは、大きく一度頷くと私の目を見た。
立ち上がり、拳を握り、開く行為を何度か繰り返す。体はしっかり動くようだ。
「…図書館はあなた達を歓迎します。そして、貴方にもこの言葉を贈りましょう。」
アンジェラは微笑み、右手を差し出した。
「どうか、貴方の生きる道が見つけられますように。」
その細い手に向かって、右手を伸ばした。
輝く未来は、自分の手で掴むものと言われているような気がして。この腕の中で生きる娘を、今度は失わないように抱きながら、その手をとった。
その手は、娘よりも冷たかったが、彼女の持つ熱は何よりも熱かった。
———
アンジェラや指定司書との自己紹介が終わり、エレーナと私は言語の階なる場所に住むことになった。
「…父さん。」
「…何だ。」
「父さんが
「…あぁ。」
ねじれた本棚や、広がる都市、得体のしれない緑色の怪物。それらを眺めながら上がっていく。
娘からの問いに、短く答える。
「レイホン、ロドス…彼らは、私を打破した。」
「そうか…。そうか。」
何処か悔しそうに、それでいて何処か嬉しそうに返事をする娘の頭を撫でる。
少し前なら「子供扱いするな」と手を跳ね除けただろうが、今は大人しく受け入れている。
その姿に、欠けたものが埋まるような感覚を覚えた。
失ったものは大きい。今まで失ったものが全て返ってくるわけではない。何も言わずに去ってしまい、遺してしまった者達が、未来を掴むため歩き続けるかどうかも分からない。
それでも、この暖かさを得る一時を、求める事をどうか許してほしいと、何かに許しを請うた。
———
「……なんだか暑くないか?」
「あぁ、確かに、暑い。」
言語の階にたどり着いた頃、異常な熱気が漂っていた。
その理由は明確で、巨大な溶鉱炉から溶けた金属が流れ落ちているからだ。
ただ流れ続ける金属を見ていると、自分の首を落としたあの男の武器を思い出す。恐らく彼は"都市”の人間であり、何かが起こって
そのような事を考えつつ歩いていると、何やら声が聞こえる。どうやら言い争っているようだ。
「ゲブラーだけずるいよ!腕相撲で勝てるわけ無いじゃん!!」
「基礎スペックは全員同じだと思うが。」
「私知ってるから!全盛期には及ばないけど、E.G.O.も使えるってアンジェラから聞いたよ!」
「流石に俺もそれはどうかと思うね〜…」
「勝負前にに酒を入れて酔い潰させようとした姑息なやつがいるらしいが。」
「…何の事だろうね〜。」
「おや…其の様な卑怯者がいるとは…。」
「机の下から鎖で妨害してきた奴もいたな。」
「……此処は暑いな。」
指定司書が勢揃いしていた。
盗み聞く気はなかったが、どうやら自分と私を引き受ける階層で揉めていたらしい。
その隅で武器を振って鍛錬している司書2名以外の表情が引きつっているのは、気の所為ではないだろう。
「あっ!こんにちはボジョカスティさん、エレーナも!」
「来たか。」
マルクトが元気よく挨拶をし、ゲブラーがこちらを見て軽く体を動かす。辺りには酒瓶が何本か転がっており、ゲブラーの顔が赤らんでいる事から飲んでいたことが分かる。
「親睦を深めたいと思ってな、どうだ、飲まないか?」
「いや、適当な理由を見つけて飲みたいだけでしょ…。」
転がる瓶を1つ取り、こちらに差し出すゲブラー。ティファレトがツッコミを入れるが、ゲブラーは更に一歩近づいて差し出してくる。
「…断る、理由が、ないな。」
「私も参加しよう。」
急遽、指定司書たちとの飲み会が始まった。
———
「…私は、負けたのだ。身に纏う、漆黒の鎧に、結晶の槍と盾。負けるとは、一度も考えなかった。」
「ほう。鎧に槍、盾か。興味深いな。私は鎧だけだからな…。」
「貴方も、あの力を使えるのか?」
「ゲブラーでいい。E.G.O.…エクス…何だったか。正式名称は忘れた。」
「あの力は、何なのだ?」
「自我の殻、それを纏うとか何とか…あぁ、詳しいことは他のやつに聞け。」
階層の端でゲブラーと
ネツァクは完全に出来上がっており、それでも片手に酒の入った瓶を持っている。
ネツァクを担いで来たローランは何かから逃げてきたような顔をしている。
「よっ、ボジョカスティだっけ?隣失礼するよ。…よいしょっと。」
「あれ〜…?あぁ、ボジョカスティさんでしたか、こんな姿で失礼します……。」
ネツァクを地面に下ろすと、そのまま重力に逆らうことなくぐでーっと寝転がる。その状態で「失礼します」と言い、一切姿勢を正そうとしないネツァクを見て、ゲブラーが顔を顰めた。
「おい、コイツを退けろ。話の邪魔だ。」
「そうは言うけど…あの中にネツァクを置いてきたら折角の酔いも冷めちまうよ。」
ローランが指差した方向を見れば、開けた場所にポツンとティーテーブルが置かれていた。
そこではビナーが紅茶を、ケセドがコーヒーを、ホドがなぜか牛乳を飲んでおり、それぞれ一切言葉を発さない異様な光景が広がっていた。
「あれは…何をしている?」
「
「そう、か。」
理解できないが、取り敢えずそういうものだと納得する。
エレーナの姿を探すと、酒を飲むわけでもなく司書補たちと戦闘訓練をしていた。
素早く短剣を突き出すエレーナの攻撃を、全て避ける司書補。
司書補は足を刈り、そのまま体勢を崩したエレーナが地面と衝突する前に体を支える。
他の3名の立ち振る舞い、放たれる気迫を見る限り、エレーナを倒した司書補は二番目くらいの強さだ。よく見れば、眺めている3人の内2人はエレーナに負けたのか、すぐに酔いつぶれることが明白な程の勢いで酒を飲んでいた。
司書補が手を差し伸べ、軽く握手をするとエレーナがこちらに向かってくる。
「自分の力が何処まで通用するか試してみたが…どうやら、私はそこまで強くないらしい。」
軽く笑いながらゲブラーの隣りに座り、乱雑に置かれた酒瓶を手に取る。
「オーウェン相手にあそこまで
途中から共に眺めていたゲブラーが口を開く。
コップをどこからともなく取り出し、エレーナへ渡す。
「ありがとう。…しかし、私も相手も、本気じゃないだろう。」
「そうだな、本気で戦うなら、武器も防具もアンジェラに用意してもらわないといけないが…。」
「ゲブラー、お前も、用意して、もらうの、か?」
「いや、私のは例外だな。光の種の実験で生まれた武器は、何故か消えなかった。」
武器が体の何処かに隠されているのではないかと、ゲブラーを見つめるが見当たらない。
その視線で聞きたい事が分かったのか、ゲブラーは苦笑しながら言った。
「武器は置いてきた。酒を飲むのに武器は必要ないからな。」
コップに注いだ酒を、ぐいっと一口で飲み干す。
それを見て、自分の体に合う程の巨大な杯を持ち、同じように一口で飲み干した。
「おや、随分と仲が深まった様だな? 酒の魔力というものは、実に恐ろしい。」
「…お前か、ケセドは……潰されたか。」
「あのような物を至高と言い張る者に、
突然声をかけられる。その相手は先程まで異様な光景を築いていた者の一人であり、ティーテーブルがあった方向を見ると、ケセドの頭がテーブルに突き刺さっているのが見えた。
それでも黒いマグカップを離さないケセドに、過去何があったのか気になる。
「何の用だ。」
「其処まで嫌わなくて云いだろう。私は只、彼を一目見に来ただけだからね。」
ビナーはそう言い、自分と少しづつ酒を飲むエレーナを眺めると、何も言わずに去っていった。
「ふぃ〜。一体急にやってきて何だったんだ?」
「知るか、私に聞くな。」
いつの間にか後ろに隠れていたローランが現れ、コップに酒を注ぎながら問う。それに答えられる者はいないのだろう。ゲブラーが少し怒りを滲ませて酒瓶に口を付けた。
「…父さん。」
「どうした、エレーナ。」
ローランとゲブラーがどちらが先に酔い潰れるかの勝負を始めた時、エレーナがこちらに酒の入ったコップを差し出してきた。
「父さんは、今どんな気持ちだ?」
「私は———。」
「んむぅ…僕は、幸せとは言えまへんあ…こお時間あ続けばいいと思ってますよ。」
寝ていたはずのネツァクがムクリと起き上がり、転がる酒瓶を掴んで言った。
酔っ払っているのは明白で、呂律も回っていない。それでもこちらを見て話す男から目を背けれなかった。
「君たいあ何を背負ってうか分ありませんあ…僕達は今、確かに生きてるんですから。」
にへらと笑うネツァクは、ぐいっと一口で残った酒を飲み干した。
それに続くようにエレーナも酒瓶に口を付けた。
「…向こうでは問題の一つも解決してないだろう、失ったものは戻ってこない。これは変わらない事実だ。私の兄弟姉妹の死も、父さんが今まで背負い続けてきた思いも、全て無駄になったのかもしれない。」
「……。」
「でも、私は…父さんと酒を飲む事ができて、幸せだ。これが夢じゃないと、そう思いたいくらい。」
「…エレーナ。」
「そうそう、生きてれば、幸せと思える日は来るんですよ〜…。」
目覚めたときと同じ様に、顔をうずめてくる娘の体を抱きしめる。
これが現実かどうか…自分には分からない。死ぬ前に見る都合の良い夢かもしれない。
それでも、胸の中で泣いて、眠る娘の体は…現実のものであってほしいと、そう願わずにはいられなかった。
===
アンジェラが指を鳴らすと、一瞬で光景が変化する。
ねじれた本棚が立つ場所から、延々と溶けた金属が流れる場所へ。
そこでは指定司書も、一人を除いた司書補も酔いつぶれている。
「パーカー、親子はどこにいる?」
「……ゲブラー様と一緒に飲んでいたので…あちらの方かと。」
ずっと武器を振り、鍛えていたのだろう司書補に聞き、ある程度の場所を把握する。
大量の空の酒瓶に、スナック菓子のゴミ、壊れたティーテーブルに頭を突っ込んだままのケセド。
機械の体だというのに、思わず頭に当たる部分が痛む気がした。
ゴミと酔いつぶれた司書補の山を掻き分け、二人を探す。
「あら、ここに———二人を起こすのは、もうちょっと先でも良いかもね。」
エレーナ曰く、二人に血の繋がりはないらしいが…。
仲良く並んで寝るその姿と、エレーナの浮かべる安らかな
「私も、次は参加してみようかしら。」
シャンパンの味は分からない、酔うこともできない体だけれど…。
同じ場にいれば、雰囲気ぐらいは楽しめるだろうから。そう思い、再び指を鳴らした。
===
「二人は、アンジェラにとって
今も尚、気絶した侭の
「
安らかに眠る、禁忌に属する二人。
「…気になるな?」
実に興味深い。笑みを浮かべている事を自覚しながら、紅茶を啜る。
いつも読んでくださりありがとうございます。
皆さんの感想、評価のお陰で書き続けることができています。これは紛れもない事実です。
これからもよろしくお願いします。いい夜を、メリークルシミマス(死んだ魚の目)
あ、強さランキングは
アンジェラ|超えれられない壁|ビナー>=ゲブラー|超えれられない事もないが高い壁|ボジョカスティ>>>>>>パーカー>オーウェン>=エレーナ>>>ニコラス>アラン
となっております。
司書補に関しては活動報告をどうぞ。
ボジョカスティとエレーナが
光で構築しているだけに過ぎない、一種の偽り。それでも彼らにとっては本物であるから…。