【完結】もしもどこぞの都市のカポがアクナイの世界に転生したら 作:しきょーかい
エンドフィールドはロッシで爆死しました。すり抜けェ……。
久しぶりのロドス本艦。
本当に増設された喫煙所で一服し、スッキリしたレイホンはドクターの元へ向かっていた。
背後には、大きなフードとマスクで全身を隠したファウストとメフィストがいる。
レユニオンとの大きな衝突は終わったが、それで失ったものが返ってくるわけではない。
チェルノボーグでロドスが喪った者たちは、戦闘の規模と比べるとかなり少ないと言えるだろう。それでもかけがえの無い存在だったのなら、恨みを買って面倒事に発展するのは避けたい。
有り難いことに、ファウストもメフィストも大人しく従ってくれた。
これならタルラに会わせる交渉くらいはして良いだろう。
「邪魔するで。」
「あぁ、レイホン。呼び出してすまないね。」
「一応立場的にはドクターの下やし、もっと大きな態度でええやろ。謙虚すぎると舐められるで?」
「敵が私のことを過小評価してくれるなら、やりやすい事この上ないよ。それと話だけど……」
ドクターの執務室に入る。
相変わらず積み上げられた書類は片付いていないままで、バイザー越しに薄っすら見えるドクターの目の下には隈が残っている。今は3徹目といった所だろうか、手伝うつもりは全くないが。
ボスッとソファーに思い切り体を預け、腰にかけている朴刀を壁に立て掛ける。まぁまぁの居心地だ。
それも換気口や窓に気配がありさえしなければの話だが。
「そことそこに隠れとる奴らの話か?」
「えっ?」
「……なんでもあらへん、続けてや。」
どうやら違うらしい。
よく感覚を研ぎ澄ませてみれば、隠れている者たちの矛先はドクターに向かっていることが分かった。
そして込められている感情は殺意ではなく、明らかに好意だということも。
これ以上踏み込めば碌な事にならないと判断し、話の続きを促す。
「えっと…一つは新しいオペレーターが数人来るっていう報告。もう一つは訓練場で暴れてた映像を見たオペレーターが、レイホンに稽古をつけてもらいたいって……。」
「……。」
「私からしても、オペレーター達が強くなって被害を減らせるからお願いしたいんだけど、いいかな?」
朴刀の柄を撫でる。
稽古。何処までやって良いのだろうか。
都市ならどれだけ酷い怪我を負っても生きてさえいれば回復できた。
テラにはアーツという、魔法のようなものが存在しているが万能ではない。
「何処までやっていいんや?」
「明日に支障がない程度かな。ただ、挑むオペレーターも相当強いよ。」
「はっ、お前の見立てで俺っちに勝てるんか?」
「……うーん、三割かな。」
本気で悩んだであろう末に、ドクターはそう答えた。
これまで複数の作戦に参加してきたが、ドクターの読みが外れることはそうそうない。徹夜明けだとしても変わりないことも、知っている。
ならば、
「……血が騒いでくるわぁ。」
「ここで滾っても仕方ないし、訓練室に行ってね。あとさっきの隠れてる人って———」
「じゃ、行って来るで。期待外れやったら酒奢ってや。」
「まぁ酒は良いけどちょっと、おーい?……行っちゃった。 気になるなぁ」
レイホンが去り、独りごちるドクター。
結局、
———
ドクター争奪戦に巻き込まれないように早歩きで訓練室へと向かう。
必要以上に近付くだけで殺気を放たれたことさえあるのだ、天然の人誑しとは実に恐ろしい。
ウィーン……。
自動で開くドアの先。まだ昼過ぎだというのに、訓練室には一人しかいなかった。
いつもなら行動予備隊と教官達が模擬戦か訓練をしている時間だが、と思っていると声を掛けられる。
「遅かったな。」
「ん?来とるんはお前だけか?俺っちを楽しませるんなら、てっきり複数やと思ったんやけどな。」
「仲間がいても邪魔になるだけだ。」
一人立つ、赤髪のサルカズはそう言い切った。
大きな一本の大剣を携えており、軽々しく振り回している所から力はありそうだ。
「早速だけど、試させてもらうよ。———レーヴァテインッ!!!」
ゴウッ!
少女を中心に熱気が放たれる。周囲の空気が揺らぎ、炎が生まれて異形の怪物を象る。
その火力は
それこそ、力を振るう自身すらも焼き尽くさんとしている。
(炎を操るやつと戦ってばっかやな。弾が熱でイカれるとアカンし、相性悪いんやけど)
「来ないのか?なら、こっちから行くぞ!」
ガァン、ジュウッ。
力任せに、
修理費は流石に向こうかドクター持ちだろう。切り上げを逸らしながら弾丸を込める。
「余裕だなッ!」
「ま、力だけで勝たれたらカポは名乗れんやろ。」
切り上げから、袈裟斬り、再び一文字斬り。
我武者羅に振るわれる大剣から放たれる熱気と、込められた一撃必殺の威力は確かに体力を削っている。
しかし少女の肌は異常な速度で紅潮しており、今にも熱で倒れそうだ。
「ジァッ!」
弾丸を放ち、放たれた突きと正面からぶつかり合う。
炎の大剣と触れた天退星刀が一瞬で赤熱するのを見て、打ち落としを諦めて逸らす。
「はッ、こんだけの力、何のリスクもなしに使えんやろ。寿命でも削っとるんか?」
「避けるなっ!」
オーバーヒートには程遠いが、何度も馬鹿正直に打ち合っていれば武器がイカれてしまう。
代用品などない唯一無二の愛刀を稽古で失うわけにはいかないため、さっさと終わらせるとしよう。
「本気で相手したるわ。」
「死ねっ!」
軽々しく大剣を振るっているとはいえ、大剣という武器はどうしても隙が大きくなる。
上昇し続ける火力と比例するかのように乱雑になる攻撃の隙間。その瞬間を狙い、炎を吹き出す朴刀の推進力と全力の跳躍で距離を詰め、そのまま背後に回る。
「そこかっ!」
「もう遅いわ。」
若干崩れた姿勢になったが、背後に回ったレイホンへと大剣が振るわれる。
熱がレイホンを融かすよりも早く、腰を低く落とし、無防備な腹を狙い前方へと切り抜けた。
即座に左足を軸にして向き直り、右足の踏み込みで足の甲を踏みつけ、小手を打ってから大きく頭が吹き飛ばない程度に朴刀の側面で打つ。
勿論、この場から動けないように足は踏みつけたままだ。
「ぐっ……。」
ジュウウウ……。
手応えあり。少女も動きを止め、放たれていた熱は次第に収まっていく。
蒸気を立ち昇らせる朴刀を下げつつ、レイホンも退がる。
稽古というより試合、決闘と言った方が正しい結果になってしまったが、問題はないだろう。
足の甲はもしかしたら砕けているかもしれないが、骨折程度なら医療オペレーターが何とかしてくれる。
「……チッ。」
「どや、今の見えとったやろ?ボーっと突っ立っとって返せんかったけどな。」
不貞腐れた様子で頷く少女。
背後に回り、切り抜けから即座に切り返し。その一連の動作を、確かに少女は目で追っていた。
「俺っちが教えられるのは銃剣とかガンブレードとかや、大剣は専門外やし…立ち回りなら教えたるわ。」
「…それで、強くなれるのか?」
使用しなかった弾丸をつまみ、ベルトに戻す。
少女の目には闘志が宿っており、強靭な意思は消えていない。
「生き残る確率は上がるやろ。適当に獲物ブン回すのも予測出来んからええけど、技があってこその力や。絶妙なタイミング見極められる目はあるんやから、さっさ師匠見つけて腕磨いとけや。」
「分かった。」
こうしてレイホンと炎の大剣を持つサルカズの少女は出会った。
「レイホン、稽古つけてほしい人呼んできたよ———って、あれ?スルト?というか暑っ。」
「げっ。」
熱を冷ますため一休みしていると、ドクターがオペレーターを数人連れてきた。途端に嫌そうな声を出した少女。
ドクターの声からは困惑が滲み出ており、まるでスルトと呼ばれた少女がここに居るとは思っていなかったようだ。
「スルトも参加するんだっけ?ドーベルマン、リストに載ってるかい?」
「……載ってないな。」
ペラリ。
ドーベルマンが書類を取り出し、数枚捲りつつ書かれているであろう物を眺める。
端的な答えが発されるよりも早く、スルトはこっそりとレイホンの横を通り過ぎ、訓練室を出ようとしていた。
勿論、出入り口を塞いでいるドクターと複数名のオペレーターの壁を超えることは出来ず捕まる。
「稽古したいなら素直に言ってくれればいいのに。」
「……邪魔になる。」
「スルトが参加するなら、君が思う存分動けるような計画を立てるよ。」
「本当か?」
「今まで、私が嘘をついた事があったかい?」
その言葉に、スルトは首を傾げた。
レイホンの知る限り、嘘をついたことはない。
嘘と気付けていない可能性も、ない。
「こっそりオリジムシのジャーキーとグラタンを食べてた事、アーミヤに隠してた事はあった。」
「え"っ?なんでそれ知って———」
「ドクター、話をする必要がありそうだな。」
「いや待って、これについてはブレイズもAceも同罪だから!」
「説教される人数が増えるだけだ。ケルシー先生への言い訳を考えておくんだな。」
ドーベルマンがドクターの首根っこを掴み、引きずっていく。ついでにスルトも。
ドクターは引きずられつつ本気で言い訳を考えているようだった。
スルトは少々抵抗したが、特に問題なく連行されていった。この後執務室に行けば、書類の山に呑まれたドクターたちが見られるだろう。そんな確信がある。
教官とドクターが急に居なくなって不安そうに立ち尽くしているオペレーター達に、笑顔を浮かべて声をかけた。
「どれ、ちっと掛かってこいや。明日に支障がない程度にぶちのめしたるかい、本気で来てみぃ。」
ひゅっ。息を呑む音が聞こえた。
———
数時間後、ケルシーからの説教を終えて戻ってきたドクターが見たものは、様々な場所が壊れた訓練室と、気を失ったオペレーターの姿だった。
本当に医療のアーツを用いれば明日に支障がない程度の怪我であり、感心すると同時に訓練室の修理費を全て押し付けられたことに気付いたドクターが気を失ったのはまた別の話。
なお、その頃スルトは食堂でアイスクリームを食べていた。
「無音、無形、無念…剣を扱う道で有名なのはそっちやけど、お前には合っとらん。」
「なんでだ?」
「明らかに集中できとらんやろ、何かに邪魔されとるみたいやな。」
「……。」
「図星か?勘は鈍っとらんかったか。……あ、事情は知らんで、知る気もないわ。」
「……その話はもういい。」
「そか、俺っちの知っとる奴は無我を唱えるわ。せやけど、そら剣鬼たちなんかが往く修羅の道。余計なもん全部断ち切れるんやったら出来るかもしれんけど、無理やろ?俺っちも無理やし。」
「……じゃあどうすればいい。」
「ひたすら叩いたるわ。俺っちも一応、一本の刀鍛えた"親方"やからな。」