TS娘「私で童貞捨てたくせに」英雄「えっ」   作:はたけのなすび

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続きました。

掲示板形式と小説形式が混ざります。


五千年後-1

 

 

 

 大切にしたい人間がいた。

 

 何回死んでも蘇って、何回人を助けても大した見返りなんかないのに、何度でも「助けられて良かった」と言う馬鹿だった。

 

 何も良くないんだよなぁ、とそいつの横で誰かを、或いは何かを斬り飛ばしながら自分は何度も思った。

 だから、たまーにそいつが致命傷を受けて終わった戦場に倒れてるとき、隣にしゃがみ込んで尋ねることが何度かあった。

 

「おまえ、そろそろ死ぬ気になったか?」

 

 と。

 

 凡そ仲間に掛ける言葉ではないが、理由はある。

 だって自分なら、不死を殺せたからだ。

 何の魔術も使えない代わりに、自分がつくる斬撃は『斬りたいものを斬れる』領域になっていた。

 終わりがないモノに終わりを与え。

 永遠に終焉を齎す、絶滅の一刀。

 

 要するに、死なないやつでも自分なら殺せたのだ。

 

 灰になっても人型に戻れてしまう不死であろうが、自分が『斬った』と認識して斬ればもう蘇らない。

 それほどに終わっている、死の一刀。

 生きるのに飽いた輩を自分はもう何回も斬って来たし、そいつらは例外なく安らかに死んでいった。

 なんなら、斬ってくれ終わらせてくれと追いかけて来た者までいた。

 

 だから、殺してくれとそいつが言ったなら、自分はいつでもそうしただろう。

 

 というのに。

 

「要らん」

 

 千切れかけの首を押さえながらだったり、心臓の位置に空いた穴を手で覆いながらだったり、またはどう見ても半死体の黒焦げのままだったりしながら、そいつはいつも不機嫌そうに同じ答えを返した。

 だから、こっちの返しもいつも同じだった。

 

「そうか。ならまだ戦えよ、不死王子」

「余計な気を回すな、一刀斎(いっとうさい)

 

 むかーしに、戯れのつもりで借りた剣客の名前は、その頃にはすっかり自分の本名擬きになっていた。

 刀を持った強い人間になりたくて覚えていた剣客の名前を使ってみたら、なんかほんとにそうなってしまって逃げられなくなったという情けなさである。

 

 伊藤一刀斎も、宮本武蔵も、佐々木小次郎もだぁれもいない世界だったから通ってしまった名前で、こいつは【俺】を呼ぶのだ。

 

 尚、不死王子は周りが勝手につけたこいつの二つ名だった。

 本名はアルカシャスルナ。

 姓は本人が捨て、自分含めた仲間からはカーシャで通っていた。

 だって本名が、亡国の悲劇の王子と同じ名前なので呼べたものではないからだ。

 

 本当の名前なんざ忘れたり捨てたりした自分たちの減らず口は、大概こんなふうに続いた。

 

「はいはい。でもカーシャ、おまえ、避け方雑なんだよ。無駄な怪我しやがって」

「俺の動きを毎回雑だ無駄だと言うのはおまえぐらいだ、変態機動の一刀斎が。避けなければ死ぬおまえと、当たろうが死なない俺の戦い方を同列に捉えるな」

「技能不足を指摘して何が悪い。致命傷食らったら動けなくなるのは不死でも避けるべきだろ」

 

 不死者と転生者。

 共に、この世界では唯一無二の異能者である自分たちの間には、変な連帯感があった。

 切っても切れない腐れ縁、とも言えるかもしれない。

 カーシャ以外の仲間だって大切だったが、腐れ縁の分だけ自分がカーシャを見ていたのは確かだ。

 

 自分はカーシャを殺せるが、カーシャには自分を殺せない微妙な力の差はあったが、こればかりは仕方ない。

 仕方ないまま、今の自分はあのときと変わらない容貌で地面に仰向けに倒れたカーシャを見ていた。

 

 今回の─────五千年ぶりの大喧嘩の終わりとなった死因は、斬首による失血死。

 

 とはいえ、ぽーんと綺麗な弧を描いて飛んだカーシャの首は、とうに拾われて胴体と既に繋がっている。

 首元を一周する薄く細い線だけになった怪我を見下ろしながら、あの頃と変わらず隣にしゃがみ込んで顔を覗き込んだ。

 

「結局、おまえに俺は殺せない。残念だよ、アルカシャスルナ」

「……黙れ。大人しく殺されていろ、一刀斎」

 

 呟いた途端、ばちんと目を見開いた青年は不機嫌そのものな顔とかすれ声で告げた。

 そのまま起き上がろうとするが、どうも首と体の繋がりは完璧でなかったらしい。ひっくり返された冬の虫のように動いて、諦めたように止まってしまった。

 

「一刀斎」

 

 かすれ声で、名を呼ばれた。

 

「ん」

「何故死なん」

「おまえが俺より弱くなるから」

「……」

()()()()()()()()()()、ってか?」

「……悪魔か、おまえは」

「引っかかるからだよ馬鹿め。俺にとっちゃ、体なんて衣だよ」

 

 頬杖ついて覗き込んだアルカシャスルナの顔は、記憶にある頃と何一つ変わっていなかった。

 肉体の全盛期のまま、固定されているのだ。

 それはこっちも同じである。

 不死ではないが半不老のようなもので、肉体年齢が全盛期のまま変わらない。戦う為に最適化されているのだ。

 

 生まれ変わりを繰り返した自分の死生観も倫理観も、原型だけ残して壊れている。

 魔王や大魔法使いに指摘された通り、ずれていく。

 

 肉体という檻から解放されないアルカシャスルナとも、違っていくのだ。

 

「おまえの足止めするためなら、俺は俺の処女でも何でも利用する。それがわからなかった、おまえの負けだよ。肉体関係仄めかされて戦場で動きを止めたら、殺されるのは自明の理だろ。古典的な罠にかかったな」

「……」

 

 いやほんとは、勝ち負けもないんだけどもな。

 昔の【敵】はもういないんだから、自分たちが戦う理由もない。武器を握る理由もない。

 

 言い訳させてもらうなら、こいつの首を落とすつもりだってなかった。

 

 ただ、刀を握って戦っていたら、戦場の空気に体が反応し、ひとりでに動いて首を落としていた。

 神楽でも舞うかのような無駄のない滑らかな動きで、カーシャの首を刎ねていた。

 誰よりも大切な人間の首すらも、何千回と斬り落としてきた他の首と同じように、熟した柿の実を突くように、落としてしまっただけだった。

 

 なんて人斬りだよ、ほんとに。

 骨の髄どころか、魂が芯まで斬撃の形になっている。

 

 謝り倒して仲直りしろ、だなんて三千世界に散っている同胞(転生者)たちには言われたのだけど、全然うまくいく気がしなかった。

 

 ひとまずは、カーシャの首と胴が繋がって動けるようになるまでは待つけれども。

 はーあ、と星々がきらめく夜空を見上げて思わずため息をついた。

 周囲は自分たちの争いの痕跡で穴だらけだが、会話するのに支障はない。

 

「なぁカーシャ、動けないけど喋れるならさ、俺の質問に答えてくれよ」

「……問いによる」

「真面目か」

 

 断るって選択肢ないのか、こいつには。

 ないんだろうな、うん。

 だったらその真面目さに、付け込むとしよう。

 カーシャの隣に胡坐をかいて頬杖を突き、口を開いた。

 

「【大鴉】のヴァルグルガはどうなった?」

「故郷の山村で孫に看取られて死んだ」

「そうか。【喰らわれ】のタールスは?」

「故郷で老人になるまで生きて、狩りで死んだ」

「……ふーん。【恥顕し】のアーリオームは?」

「結婚し、海を渡った。子孫を見かけたのはつい二年前だ」

「いいじゃん。【百智】のワンレンは?」

「故郷の雪山に向かった後行方知れずだったが、八百年前に木乃伊として掘り起こされて遺物になった」

「ま、あいつらしいか。じゃ、【軛】は?ザフィーナはどうなった?」

「死んだ。故郷で幼なじみの男と所帯を持って、平穏にな」

「ははっ。すげぇな」

 

 何が凄いって、物の見事に全員市井の人間として死んでいる。

 世界を救えと役目を押しつけられ、物の見事にその役目を果たした、七人の英雄たちが、だ。

 救世の英雄なんてものに祀り上げられたりせず、勿論どこぞの誰かみたいに刑死の憂き目にも遭わず、或いは戦場に再び立って散ることもなく。

 

 全員見事に、死んで行ったのだ!

 

「さーいこう!一人も戦死も刑死もしてないんなら、言うことないな!」

 

 手を叩いて思わず笑ってしまうと、仰向けのままごろりと動いたカーシャの眼に睨まれた。

 

「全員、おまえに対する恨み言と小言を俺に託して逝ったがな」

「え、おまえそれちゃんと覚えてるのか?」

「覚えていられるわけがないだろう。だから一言一句石板に彫り込んで封印した。俺の首が繋がったら取りに行く。最後まで読んでやるから耳を揃えて聞け、この、どうしようもない馬鹿が」

「えー……」

 

 それ多分恐らくきっと、現代人から見れば垂涎物の古代遺物(アーティファクト)になっていると思う。

 だって自分たち全員、五千年前の【英雄】で神話の存在だ。

 ちょいと調べただけでも、出るわ出るわ、【七英雄】を核にした数多の物語の数々。

 

 そんな伝説の存在の一人が直々に書き残した石板など、どれだけの価値がある代物になったことやら。

 魔術師なんかは目の色変えて掘り起こしに来そうである。

 その実態は、ひとりで封印に突っ込んで行って永遠にお別れとなった仲間への罵倒集なのだけれど。

 

「おまえさ、そんなタイムカプセル石板作ったりしてさ、俺がいなくなったあとどうやって生きたんだ?死ななかったのか?」

 

 五千年も経っていれば、自分のような【不死殺し】だっていないことはなかったはずだ。

 ……いや、どうだろうか。

 カーシャの不死は、位が高いのだ。

 挽肉からでも灰からでも蘇るし、斬首されても時間があれば新しい首ができあがる。

 四肢を引き裂かれ別の場所に封印されたとしても、ひとりでに動いて繋がり、復活する。

 

 これを完膚なきまでに殺せるのは、五千年の間で三人いればいいほうだろう。

 そのうちの一人が自分だとすると、どうだったろうか。

 カーシャは、霧の彼方を見透かすような遠い眼をした。

 

「殺せるか試してみたいと請われ、首を差し出したことはあった」

「まじか」

「だが、どうせ斬れんだろうと思っていた。案の定、首は落ちたが再び繋がった」

「うへ」

「俺を殺していいのは、おまえだけだ、一刀斎。おまえを殺していいのも、俺だけだ」

「そういうのは俺を一回だけでも殺せてから言おうな。おまえと出会ってから、俺は一回も転生してないぞ」

 

 事実である。

 戦場で裏切って背中から刺してこず、かつ肩を並べて戦えるくらいには強くて、でも、【俺】を殺せるほどには強くない。

 カーシャは、とても絶妙な位置にいるのだ。

 

 そいつと、再びこうして出会った。

 自分は生きていて、カーシャも生きている。

 仲間は皆、予想通りに俺たちを置いて先に行き、俺たちはまたしても取り残される。

 

 わかっていたことだ。

 わかりきっていたことだ。

 

 それでもやっぱり、何度経験しても別れは寂しいものだ。

 

「ならアルカシャスルナ、おまえが埋めたと言うその石板でも、掘り起こしに行くとするか?あいつらの言葉なら俺はちゃんと聞かないといけないからな」

「当たり前だ、馬鹿が。……あと一時間は待て。おまえのせいで全身の魔力がずたずただ。首がまた落ちては笑い話にもならん」

「へーへー。じゃあこっちは空でも見ながら待ってるさ」

 

 クレーターの底から見上げる空は、五千年前と何ら変わらないように見えた。

 

 

 

 

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