極限の金獅子   作:アーっr

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夢の続きを聴いた者

 

 

 ”あなた“は夢を見ている。

 何故あなたが看破できたかと言えば、今まで何度も同じ夢を見ているからだ。

 

 ホロウが広がり、エーテリアスが暴れ、都市が壊れたあの時を、あなたはいつも夢に見る。

 

 

 

 

 

 

 

 あの日、あなたは吉凶を感じた。決して避けられぬ死を予感した。

 あなたは最愛の妹の未来のため、命を散らすはずだった。

 

 11年前、零号ホロウの活性が短時間で急速に上昇。規模も急激に拡大し、都市はホロウに呑まれた。

 あの時のあなたに退路を考える暇など無かった。

 

 大波のように押し寄せるエーテリアス達を相手に、あなたは一歩も引くわけにはいかなかった。

 あなたが退けば、妹にまで被害が及ぶのだ。

 

 

 途中何人かの生存者を見つけ、その度に救った。

 中には防衛軍の兵士も居たが、かなりの重症だった。戦闘どころか、日常生活にすら支障が出るだろう大怪我だった。

 

 それでも、防衛軍の彼女はまだマシな方だった。

 この時は風に舞う砂漠の砂のような軽さで生命が飛んでいった。

 

 ただ死ぬだけではない。勇敢に戦うもホロウに呑まれ、エーテリアスと成り果てた者が大勢居た。

 彼等は生前を忘れ、襲いかかってきた。生命だけではなく、尊厳すらホロウに奪われたのだ。

 

 ──────。少し、揺れた気がする。

 

 

 あなたの心中に、冷たく鋭い思考が入り込む。

 ───もし、敗れたら。あなたもこのように成り果てるのだ、と。

 

 あなたがエーテリアスとなった時。それを打倒しうるのは、あなたの妹以外に無いだろう。

 あなたは強者であり、あなたの妹はあなたを超えうるほどの才があった。

 

 つまり、あなたは。あなたの妹に、自分を殺させることになる。

 それは避けなければならない。あの子にそんな真似をさせるくらいならあなたは自死を選ぶ。

 

 あなたは妹を愛している。自分の命をかけて、妹を守らなければならない。

 少なくとも、あなたはそう思っている。それは今も変わらない。

 

 

 ──────。やはり揺れている。

 あなたが居る地点から遠く離れた場所でも、戦いは起きているのだ。

 

 戦いは更に激化し、多くの仲間を失った。あなたという灯火(いのち)も消える瞬間が迫ってきた。

 代々受け継がれる魔剣を振るう度、あなたは記憶や五感を失っていった。

 

 天才的な感性(センス)故か、あなたの欠落はほんの少しずつのものであった。

 しかし、塵も積もれば山となる。あなたは腕の感覚を限りなく失い、自分が立っているのかも分からなかった。

 

 (ねつ)が滴る。あなたは掠れ、消えそうだ。

 妹は、無事だろうか。泣いてはいないだろうか。震えてはいないだろうか。

 

 寒さに震えたあの頃を。生きるために盗んでいた孤児の頃をあなたは思い出す。

 あなたは命の終わりに際してなお、妹のことを想っていた。

 

 「GYOOOOOOOO!!!」

 

 そうして、別れの時がやってくる。吉凶はあなたの死を指し示している。

 視界は狭まり、呼吸は浅くなり、あなたは剣を取り落としてしまった。

 

 (エーテリアス)は待たない。瞬きの間にあなたの命は摘み取られる。

 あなたは、その一撃を待たずして意識が途絶えかけ───

 

 「──────!!!」

 

 「───っ、!?」

 

 雷鳴のような爆音と、途轍もなくやばい邪気の衝撃(インパクト)で、あなたの意識は現世に帰ってきた。

 

 

 

 

 角。人ならざるものの象徴。黒い毛並みは闇を想わせる。

 絵巻物の中から飛び出したかのような巨体に纏う、貧相なボロ切れ(マント)

 

 あなたの胴ほどの太さにまで発達した丸太の如き前腕を見て、その怪力を疑う者はいないだろう。

 

 その前腕を支えてみせる極厚の肩や背中も眼を惹く。シリオンには筋肉自慢も多いが、あなたが今まで見た何よりも彼は筋骨隆々だった。

 

 しかし最も注視すべき点はやはり、彼がその身に抱える邪気(エーテル)だろう。

 纏っているのではない。身体の裡に溜め込まれているのだ。

 

 エーテルを操る技術を持つあなたには、彼の中で怨念のように渦巻き暴れる邪気(エーテル)がわかった。

 

 

 

 彼はエーテリアスを掴んで投げ、擲って消し、踏んで潰した。胸のすく蹂躙だった。

 彼はその剛力にて、あなたの死の凶を覆して見せたのだ。

 

 「───」

 

 彼があなたを向く。正確には、あなたの足元に落ちた剣を見ている。

 

 あなたの直観(・・)が囁いた。彼こそが吉。あなたの妹を助ける最高の一手であり、凶を塗り替える者。

 彼が妹の側にいるなら、あの子が命を失うことも無いだろう。

 

 「ぁ……これ、を………」

 

 だから、剣を渡した。鬼神乱舞の怪力に青溟剣が合わされば何者にも勝る。

 あなたは妹のために剣を差し出した。

 初めて会っただけの彼に、あなたが消えた後の全てを託そうとしたのだ。

 

 あなたは偉大ではなく、高潔ではない。それでも、姉として正しい行動をした。

 

 「妹を………あの子を、頼みま───」

 

 バキッ

 

 「────ぇ?」

 

 あなたが差し出した剣を、彼は噛み砕いた。

 ただの剣ではない。金属であり、エーテリアスに近い存在になった剣である。

 

 「は、吐き出して!食べちゃダメよ!」

 

 あなたの心配ももっともだ。剣を噛み砕くなど、エーテル侵蝕で頭がおかしくなったのか。

 

 見ず知らずの他人に背負わせようとした罰が降ったのか、とあなたが後悔をした時だった。

 

 

 『────オ』

 

 ───稲妻(オウゴン)が奔った。

 

 『オオ』『オオッ!』

 

 ───躯に蠢く邪気(オウゴン)が顕れた。

 

 『オオオオオオオオオッッ!!』『オオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!』

 

 ───金色(オウゴン)毛並み(しゅくふく)が彼を包んだ。

 

 「あ───きゃぁっ」

 

 黄金の彼は雄叫びを上げた。(おと)は重さを持ち、物理的な圧力を放った。

 あまりの威に、こちらを狙っていたエーテリアスは慄き逃げた。あなたも思わず尻餅をついた。

 

 

 

 

 頑強(つよ)かった両腕は赤黒く変色し、更に頑強(つよ)く。

 黒い毛並みは気を纏い、金色(オウゴン)に逆立ち。

 (オウゴン)が服のように絡みつく。

 

 厳かで、美しく、強い獅子。

 あなたは、金獅子(オウゴン)の誕生を見届けたのだ。

 

 「姉様────!」

 

 あなたの愛しい妹があなたを見つけた。黄金の彼の声に導かれたのだろう。

 彼はこちらを一瞥し、何処かへ跳び去った。

 

 「帰りましょう、姉様。一緒に生き延びて、それで、饅頭でも食べて、もっと────」

 「──もっと、一緒に居たい!」

 

 泣いている。あなたの最愛の妹が、あなたとの別れを拒んで泣いている。

 本来ならあなたは既に死んでいる。しかし黄金が凶を覆し、吉を呼び寄せた。

 

 ならば、良いのだろうか。

 あなたが────私が、生き延びても。

 

 「………泣かないで、儀玄(イーシェン)。もう大丈夫。離れたりしないわ」

 

 

 

 

 

 

 あなたは目を覚ます。未だ天に月が満ち、夜の帷は開けていない。

 どうやら、早く起き過ぎたようだ。

 

 外に出て散歩をする。

 あなたはあの戦いの後遺症で身体の感覚や視力に悪影響が出たが、寝たきりも体に悪い。

 

 あなたは無断外出を知った時の妹の反応を恐れながらも、涼しい月夜を歩いた。

 

 ──────。

 

 遠く離れたところから、空気を震わす雄叫びが上がる。黄金の彼は叫び続けている。

 

 あなたは月を見上げながら、勝利を叫ぶ黄金(かれ)(こえ)を聴いた。

 それはまさしく、夢の続きであった。

 




“あなた”/儀降(イーシャン)
 雲嶽山十二代目宗主。儀玄(イーシェン)の姉。
 旧都陥落の際、妹を守るために命を散らした
………はずだった。

 エーテル侵蝕を克服した黒ゴリラが横からぶっ飛んで来て薙ぎ払い、命は失わずに済んだ。
 後遺症として感覚の鈍化、視力の低下などがあるが、それでもかなり強い。

 雲嶽山に伝わる魔剣「青溟剣」を失った(食べられた)事について謝ったが、妹は危険物が無くなったと喜んだ。
 青溟剣を失った責任を取って宗主の座を降り、現在は妹が十三代目を継いでいる。

 この後妹が騒音で起き、勝手に外出したことがバレて怒られた。


妹/儀玄(イーシェン)
 雲嶽山十三代目宗主。儀降(イーシャン)の妹。

 自分より優秀で優しい姉が命を削って戦う事を黙って見ていられなかったが、姉は自分を置いて戦いに行った。
 必死に姉を探していたらとんでも無い声量を聴き、その元に辿り着けば姉がいた。

 最近の悩みは姉が自由に動く事。怪我人が勝手に動いてたら心配して当然。



 死者の胸に「×」の印をつけ、邪悪な霊が入り込むのを防ぐための呪術的な行為に由来する漢字。


 神のお告げを意味する「口」と、祭祀を執り行う「士(刃物)」が合わさることが由来の漢字。


黄金の彼/喇張(ラージャン)
 キリンの角の代わりに剣を食べたゴリラ。極限化済み。
 咆哮【特大】*1を出せる。

 旧都陥落の時はエーテリアスをぶちのめしながら叫んでいた。

 今も叫んでいる。騒音の原因。

*1
MHFに登場した咆吼の強化版。あまりの刺激に耳を塞ぐばかりかその場で倒れこんでしまう

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