本作品はPokémon LEGENDS Z-Aのメインストーリーに絡む内容となっております。
必ず、本編をクリアしたあとにお読みください。
この作品は二次創作です。実在の人物・団体・事件などにはいっさい関係ありません。
◆◆◆
「新メンバー!?」
フロントから聞こえるバカでかい声に、少女は目を覚ました。
少女は驚いて目をぱちくりさせたあと、さきほどの大声の主を連想し、同居人であるハの字顔が頭に浮かんだ。
朝から騒がしい。一言文句を言ってやろうと、少女はベッドから起き上がり部屋の外へ出る。
ここはホテルZ。ミアレシティのベール8番地にひっそりと佇む、少し寂れた宿泊施設。
外壁は植物に覆われ、辺りは静けさに包まれる。
扉を開けば、暖かな照明と歴史を感じさせる優雅な空間が、旅に疲れるあなたを出迎える。
安らぎと癒しのひとときをお過ごしください――
そんな廊下をてくてく歩き、少女はエレベーターに乗り込むと1階ロビーへボタンを押す。
――だが、立地の悪さゆえか、このホテルに宿泊客はほとんど、というかぶっちゃけいない。
少なくとも現時点でここを利用しているのは、少し訳アリな子どもたち4人だけである。この少女も、その1人に含まれるわけだが……。
チン、とエレベーターから音が鳴り到着を知らせると、自動ドアがゆっくりと開かれる。
少女の目的の人物は、すぐ目の前にいた。
「デウロ、うるさい。AZさんも怒ってよ」
少女はそう言うと、受付に立つ老人へと振り向いた。
3メートルを超えるだろう高身長の老人は、このホテルのオーナー。名前は
少女はジト目でAZを見つめるが、本人は微笑ましい光景を見るように優しい表情を浮かべている。
「そのやりとり、さっきしたよ」
呆れた様子で少女に言葉を返したのは、同居人の1人であるタウニー。そして、彼女の横に見慣れない少年が立っていることに、少女はようやく気づいた。
「……お客様?」
「エムゼット団の新メンバーだよ。紹介するね。この子はミア。いつも部屋にひきこもってる」
タウニーは少年に少女の名前を教えるが、少女は一言余計だとタウニーに視線を送る。だが否定はできなかった。
ちなみに、エムゼット団というのは……これはタウニーが説明するだろうから省略。タウニーはエムゼット団のリーダーなのだ。そして、ミアを巻き込んだ張本人でもある。
ミアは軽く挨拶を交わすと、ジャケットを着た少年を見つめる。
(……見た感じ、街でタウニーに助けられてホテルに連れ込まれ、そのまま流れで加入といったところかな。前の2人と同じだ)
タウニーに目をつけられたら、もう逃げられないぞ。
ミアは同情するような目線を少年に向けるが、タウニーに連れられ少年は外へと出てしまった。 おそらくあのままタウニーのミアレシティ観光ツアーに振り回されるのだろう。
さきほどまでの騒がしさは一転、フロントに静寂が戻る。
「……私、部屋に戻るね」
ひとまず用件は済ませたので、ミアは二度寝することにした。
◆◆◆
時刻は過ぎ日が暮れるころ、ミアのスマホロトムに通知が入る。
エムゼット団の新メンバーがZAロワイヤルに挑戦するらしい。
ZAロワイヤルとは、ここミアレシティで行われるポケモンバトルの大会イベントのことだ。
開催時刻は日没から夜明けまで。開催場所は公式アプリを参照。なぜなら会場は毎日変わるから。見事バトルゾーンに選ばれた場所は最新技術の赤いホログラムで囲われ、参加者たちはそこで腕を競い合う。夜から朝まで続く催しは、近隣住民を普通に困らせた。多分苦情も殺到している。そんな地域住民の声を跳ね除けて、絶やさずイベントを敢行するのには当然理由がある。
ここからが本題。ZAロワイヤルは、最強のポケモントレーナーを決める大会だ。シティに実力を認められたトレーナーだけが招待され、参加者にはZからAまで存在するランクが与えられる。全ての参加者がランクZから始まり、約1名を除いたほとんどが最高ランクAを目指してポケモン勝負に明け暮れる。Aランクに到達すれば、最強の称号と名誉が与えられ、願いを1つだけ叶えられるという。まさにミアレシティ全体を盛り上げる一大イベントなのだ。
そんな大会に初挑戦する新人を応援しようと、通知が来たのだが……ミアはめんどくさそうに画面を閉じる。しかし、たまたま部屋の外にいたのをデウロに捕まり、やむなく同行することに。
ミアとデウロが集合場所に向かうと、1人の少年が暇そうにポツンと立っていた。
「遅いですよ」
少年は2人に気づくと、特徴のある長い前髪をいじりながら、少し不満そうに言った。
彼こそホテルZ最後の同居人であり、名前をピュールという。
「ごめんって。ミアを連れてきたの」
「……デウロにつかまった」
2人の様子を見て、ピュールは一連の流れを察したのか、これ以上追及しなかった。
3人が揃ってしばらくしてタウニーが、そしてエムゼット団の新メンバーが一同に姿を現す。
「アンタもZAロワイヤルに参加するというのですか?」
「エムゼット団の新メンバーだもん。そりゃあ参加するよね」
「はやく帰りたい……」
「そういうこと。あなたたちもバックアップしてね。特にミア。途中で帰らないでよ」
タウニーに目を向けられたミアは渋々、新人のチュートリアルに付き合うことに。タウニーがアレコレを教えているあいだに、ミアは指定の位置に着き、新入りの到着を待つ。
夜のミアレシティは危険だ。ZAロワイヤルのバトルゾーンに選ばれた場所は問答無用でポケモンバトルの戦場になる。一歩踏み入れれば、たとえ参加者じゃなくても襲い掛かってくる無法地帯。上位ランカーによる新人潰しだって、当然ある。
さすがにそのときはミアも助けに入るつもりでいた。これでも彼女はランクAに次ぐランクBに位置しており、現状トップといっても差し支えない。ミアにとって不当な輩を倒すくらい造作もないのである。とはいえ、ミアにも怖いものは存在する。それは……。
曲がり角から例の新入りが目に入る。少年もミアに気づいたようで、小走りで近づいてきた。
ミアは仕方ないとため息をつき、先輩として、とっておきのアドバイスを送ることにした。
「いいこと教えてあげる。相手と目を合わせる必要なんてない。背後から攻撃を当てれば先制攻撃をしかけられる。……え?さっき聞いた?」
どうやら、ついさっきデウロから同じことを言われたらしい。それを聞いたミアは小さく「がんばれ」とだけ声援を送ると、生暖かい目で走り去る少年の背中を見送った。
「……帰ろう」
役目を果たしたミア(本人はそう思っている)は、一足先にホテルZへと足を向ける。
用事がないなら、速やかに立ち去る。ミアレシティは危険がいっぱいだ。だってほら、
――
ミアは立ち止まり、周囲を見渡す。だが、人もポケモンの姿も見当たらない。それでも、突き刺すような視線が彼女に向けられていた。
自然と歩く足は速くなり、気づけば無我夢中で走り出していた。そのままバトルゾーンを一気に抜け出すが、視線は離れず彼女をどこまでも追いかける。息は上がり、走る体からは汗が噴き出す。目的地はすぐ目の前に。ミアは急いで建物の中に入り、扉をすぐに閉める。
「――――――――」
――少女を追う視線は闇の中へ消えた。
ひとたびホテルの中に入れば、暖かな照明と歴史を感じさせる優雅な空間が、彼女を出迎える。ミアが身を寄せる唯一の居場所。息を切らして帰る姿を見て、黒い花のフラエッテは心配して彼女のそばに寄る。AZは、胸を撫で下ろすミアを遠巻きに眺めて、小さく呟く。
「ジガルデ……因果は巡る……」
◆◆◆
しばらくして、MZ団の新メンバーのランクがZからYに昇格。歓迎会と併せた祝勝会が開かれていた。食卓にはタウニーの手料理が並び、その中でも圧倒的存在感を放つ食べ物が目の前にドンッと置かれる。
「食べて」
この料理を初見で出された人はまず疑問を口にする。少年もまた、タウニーに問いかけた。
「質問される意味がわからない」
その料理の名は、タウニー特製クロワッサンカレー。おいしいものとおいしいものを組み合わせればもっとおいしい理論により、この料理は考案された。当ホテルの人気メニューである。
タウニーはそう言うが、少年の言葉にミアは共感する。ミアもこれをはじめて出されたときは、「どうやって食べるの?」と聞いた。彼女は「紅茶と一緒に食べるとおいしいよ」と返した。
わけがわからなかった。
「ボクは認めませんよ」
ピュールはこの2つの組み合わせが気に入らないようで、1人だけ別メニューだ。ピュールの皿の上には大きなバゲットのサンドイッチがドスンと置かれている。
「そういいながらあたしの料理はいつも残さず食べてくれるじゃん」
「……そ、それはボクの育ちの良さがそうさせるのです」
「ピュールはミアレ出身だからかこだわりが強いもんね」
「他の料理は食べてもクロワッサンカレーは絶対に認めません」
「食わず嫌いはよくない。私の分けてあげる」
「結構です!」
「意外とおいしいのに……」
意外とおいしいのに……。ピュールがこの魅力に気づく日はくるだろうか。
エムゼット団に新たな仲間が加わり、ホテルZは賑やかに。新しい冒険の幕開けと、その1日が終わろうとしていた。
ネタバレ:ミアは転生者