ホテルZのひきこもり   作:ひまながし

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ひとりでいい

◆◆◆

 

「ではただいまより、作戦会議をはじめます」

 

デウロの張り切った声を皮切りに、暴走メガシンカ対策会議が幕を開ける。

いつも食事に使っていた一室は、ピュール制作の団旗によって会議室へと早変わり。

テーブルの中央にはミアレシティの全体地図が広がり、そこには本題の暴走メガシンカの出現位置を示すピンが4つ刺さっていた。

 

……4つ刺さっていた。多すぎではないだろうか。3つだとしても十分多いというのに、目撃されたのはまさかの4箇所。それも1匹ではなく、4匹がそれぞれ別々の場所で確認されたらしい。

 

本来、暴走メガシンカはクエーサー社が対応すべき案件。なのだが、同社は日々のクレーム処理やワイルドゾーンの対応に追われ、手が回らない状況。さらに数も以前より増しており、野放しにすることもできないので、代わりにMZ団が引き受けることになった。タウニーと主人公のランクが急に上がったのも、MZ団とクエーサー社の間に協力体制を敷くためだろう。

 

今さらながら、MZ団の目的はミアレシティの平和を守ること。暴走メガシンカはMZ団にとっても見過ごせない問題。むしろ向こうから情報が入ってくるのはありがたい話だった。

 

ここでおさらい。暴走メガシンカは野生ポケモンがメガシンカしてしまう現象のこと。原因不明。クエーサー社も調査を続けているが、手がかりはまだ何一つとして掴めていない。今回確認された4匹のポケモンも離れた場所で、タイプはみず、ほのお、くさ、でんきと関連性もみられない。

 

「ミアはなにか気になるところある?」

 

そうこうしているうちに会議は意見交換に移り、司会のデウロが彼女に意見を求めた。だが反応はない。ミアは静かに耳を傾けている。

 

「……ミア?」

 

ミアは静かに耳を傾けている。

 

(クイッ)

 

ミアは静かに耳を傾けてい――ぺち。

 

タウニーは指をはじいて、ミアの額にデコピンを放つ。それを喰らった彼女は「ぁぅ」とのけぞり額を両手で押さえてタウニーを訴えるように見つめた。力は全く入れていないが痛いものは痛い。良い子は真似しないでね。

 

「寝てたでしょ。作戦会議だよ」

 

「寝てない。目を瞑っていただけ。……私から提案がある」

 

目を瞑っていただけ。それはもう寝ているのではと思いながら、提案があるの一言で彼女に視線が向けられる。

 

「確認された暴走メガシンカは4体。私たちがそれぞれの場所に向かったとして、1人残る。残った1人はなにかあったときのために待機したほうがいい。……そういうわけだから、私が残るね」

 

「ミア、サボりたいだけでしょ。あなたも向かわせるから」

 

「どうして」

 

「日頃の行い」

 

「……ぐぅ」

 

ぐうの音も出ない。ミアの素晴らしい提案はあっさりと却下されてしまう。

 

「あっ!」

 

ピュールが声を上げる。何かと思えば、彼は会議中にもかかわらずスマホロトムを取り出して動画アプリを開いた。彼の推しがゲーム配信を始めたらしい。

寝るのは駄目で、スマホで配信を見るのはいいのだろうか。あとでアーカイブを見ればいいのに。

 

「わかっていませんね。リアルタイムでみるからこそ、ベストなチャットができるのですよ」

 

とのこと。ピュールは主人公に同意を求めている。さすがだね。ピュールは熱狂的ファンなのだ。

 

配信に夢中なピュールはさておき、会議は進む。次に意見を挙げたのは、我らがリーダー。

 

タウニーは、MZ団メンバーがそれぞれの場所に向かい、主人公と力を合わせて暴走メガシンカを鎮めようと提案した。主人公の才能はヤバい、一緒に戦えば安心だからとのこと。結果、主人公は4箇所すべてを巡ることになる。正気か?

 

デウロは責任重大だと心配するが、本人はやってみるという。

人が良すぎないかきみ。一体何がきみをそうさせるのだ。一宿一飯の恩にしては働きすぎだろう。

 

「あっ!」

 

ピュールが再び声を上げる。何かと思えば、自分のチャットに反応があったらしい。すごい。

推しから反応があって嬉しい気持ちはわからなくもないが仮にも会議中。あとで見ればいいのに。

 

「もう一度いいますよ。リアルタイムでみるからこそ、ベストなチャットができるのです!」

 

とのこと。そういうものなのだろうか。ピュールは思っていた以上に熱烈なファンのようだ。

 

結局、主人公はすべての場所を巡るということで決定。デウロがミッションを発令する。

 

ひとつ!ブルー地区ボンヤーリ公園でヤドランの暴走メガシンカを鎮める!向かうのはタウニー。

ふたつ!ジョーヌ地区3番地ビルの屋上でバクーダの暴走メガシンカを鎮める!担当はあたし。

みっつ!ローズ地区9番地でウツボットの暴走メガシンカを鎮める!対応するのはピュール。

よっつ!ベール地区1番地でライボルトの暴走メガシンカを鎮める!一任するのはミア

 

「暴走メガシンカしたポケモンは苦しむことになる。周りの人やポケモンも被害を受けるかもしれないし、これは人助け。そしてポケモン助けだからね」

 

最後はタウニーの言葉で締めくくられ、作戦会議は終わりを迎える。デウロはピュールと一緒に配信を見ようとするが、彼はひとりで見るのがポリシーらしい。なんともぐだぐだな会議だったが、MZ団らしいといえばらしかった。

 

「ちょっといい?」

 

会議も終わり3人が一足先に現場に向かうなか、ミアは主人公に声をかける。

 

「本当に4つ全部回る気なの? 私はひとりでいいから、他の3人を見に行ってあげて」

 

流石に主人公の負担が大きすぎると判断したのだろう。彼女の言葉はただ心配で満ちていた。

確かに彼女の実力ならひとりでも問題なさそうだが、ひとりにしていいものだろうか。

返事を待たずに彼女も外に出てしまい、主人公はひとりロビーに取り残される。

 

「主人公よ。マスカットより知らせがあった。暴走メガシンカに苦しむポケモンを救ってくれるのだな。であればこれを持っていくがいい」

 

AZから受け取ったのは、オーダイルナイト。オーダイルに持たせることで戦いのときにメガシンカできるアイテムだ。

 

また、AZは主人公がホテルに来てからみんなの笑顔が増えたことを伝える。その中には当然、彼女も含まれていた。

 

「最後にミアのことだが、できれば様子を見に行ってくれないだろうか。相手は暴走メガシンカ。万一のこともあり得る。あの子はもう、ひとりではないのだからな」

 

ミアを気にかけるAZの様子は、まるで孫を心配する祖父のようだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

「え、来たの?」

 

AZに頼まれ、颯爽と駆けつけた主人公への第一声がそれだった。

 

「来なくていいって言ったのに……」

 

ミアは呆れたように首を横に振る。対象のライボルトの姿はどこにも見当たらない。

 

「もう終わった。はい、これ」

 

そう言って、ライボルトナイトをポンと手渡す。

 

「私には必要ないから」

 

ミアは、主人公がくるころにはすでに、暴走メガシンカをひとりで片づけていた。明らかにフラグを立てていた彼女だったが、杞憂に終わったようだ。

 

事件は無事に解決。帰路につこうと足を向け――

 

「ゼドッ!」

 

――圧迫するような声が響き渡った。

 

ミアは肩を震わせて、背後を振り向く。そして、その姿を見た途端、主人公の背中に隠れるように回り込んだ。現れたのは、謎のポケモン。

 

それは、獲物を狩る猟犬のような姿をしていた。全身は黒曜石のように深い光沢を帯び、点在する緑色はそれぞれが別の意志を持っているかのように明滅して蠢いている。世界を凍てつかせるような六角形の両眼は、2人を捕らえて離さない。

 

「……ほっといてほしいのに……いつも……」

 

主人公の背中に隠れてそう呟く彼女の顔は、心底嫌そうで、見るからにうんざりしていた。

ミアはジト目で、謎のポケモンはじっと見つめ返している。案外、似た者同士なのかもしれない。

お互いなにも言わず、主人公を間に挟んでにらみ合いを続けるが、このままでは埒が明かない。

どうしたものかと考えて、両者は主人公に目を向けた。

 

「……この子と戦ってくれない? 満足したら帰ってくれると思うから」

 

ミアは、主人公に謎のポケモンを押しつけた。メインミッション発生である。

彼女の言葉を聞いた黒いポケモンも、良い機会だから主人公を見定めようと戦闘態勢に入る。

今作の主人公はとにかく振り回されることに定評がある。その比は歴代でも断トツだ。

 

主人公がくりだしたのは、オーダイル。

 

ミアとのバトルではアリゲイツだったが、いつの間にかオーダイルに進化していた。多分進化し忘れていただけだと思う。今作はレベルを上げても自動で進化はせず、メニュー画面から進化させる必要があるので、進化のし忘れには要注意。そして――

 

主人公のメガリングとオーダイルのメガストーンが光り輝き、周囲を明るく照らす。

あの光を、ミアは知っていた。そして、気づく。彼はメガシンカさせようとしていることに。

 

メガシンカは進化を超えた進化現象。メガシンカしたポケモンは、一時的だが強い力を発揮する。しかし、メガシンカするには特殊な条件を満たす必要がある。ひとつは、特定のアイテムを必要とすること。今見たように、主人公はその条件をクリアしている。問題は次。

 

メガシンカするには、トレーナーとポケモンの間に強い絆が必要ということ。この条件を満たせずに、メガシンカができないトレーナーは数多い。また、メガシンカはポケモンに強い負荷をかけるので、失敗すれば反動としてダメージを受ける可能性もある。

 

オーダイルは光に包まれ、誰もがその変貌を見届ける。やがて、殻を破り捨て、その姿を現した。暴走メガシンカと違う、正真正銘のメガシンカ。メガオーダイル、爆誕。

謎のポケモンとメガオーダイルが対峙する。大きな力のぶつかり合いに、空気が震えた。

 

――ピシッ

 

突然、ミアの視界にノイズが走る。激痛に頭を抱えた瞬間、映像が脳内に映し出される。

頭の中に広がるのは白黒の世界、響く轟音、腕の中で小刻みに震える姿。

どれも彼女の記憶にないものだ。苦しげに息を吐いて、激しく脈打つ心臓を押さえる。

 

――気づけば、勝負は終わっていた。

主人公は実力を示し、対峙したポケモンは頷いて姿を瞬時に消す。

 

主人公が声をかけるころには頭痛は治まり、何事もなかったかのようにミアは顔を上げる。一呼吸置いて気持ちを落ち着けると、彼女はある違和感を覚えた。

 

「…………?」

 

ミアと主人公がいるのはベール地区の1番地。建物の中庭に、暴走メガシンカが確認された。対象のポケモンは彼女の手により鎮圧され、謎のポケモンもすでに立ち去っている。

 

しかし、それとは別の、もうひとつの視線のようなものを彼女は感じ取っていた。今まで感じたことがない新しい気配に、彼女は周囲を見回すが、視線の先には誰もいない。主人公は不思議そうに首を傾げる。

 

「……なんでもない。先に帰るね。……その、ありがとう。来てくれて」

 

主人公に感謝を告げると、ミアはホテルに向かって走り出した。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

(つかれた……)

 

部屋の電気を消して、くたくたな身体をベッドに預ける。普段外に出ないせいか、ミアの体力はかなり低い。暴走メガシンカの一件を終わらせたあと、彼女はいつものように部屋で過ごしていた。

 

目を瞑り、一日を振り返る。

 

思い浮かべたのは、あの謎の黒いポケモン。

突然現れては突然消える。どこに行っても、どこまでも付いてくる迷惑な存在。用件があるなら、テレパシーかなにかで話してほしい。なぜここまで付きまとうのか、思い当たる節は……ひとつだけあった。あの件を怒っているのだろうか。いやでも……それ以前に。

 

あと、主人公のランクがEになった。ランクアップの相手は人気ネットアイドルと聞いていたが、無事戦えたらしい。そういえば、ピュールが主人公からぬいぐるみをもらって嬉しそうにしていた。彼の助力があったのだろう。美しき友情かな。

 

主人公の活躍は目まぐるしい。急にFランクに上がったときは驚いたが、彼ならこの先も問題ないだろう。Bランク、いやAランクに辿り着くのもそう遠くないかもしれない。

 

(……私はもういらないのかな)

 

主人公とのバトルを思い出す。結果はお察しの通りだが、それでも魅せるものはあった。そして、あの元凶ポケモンと戦うときには、見事にメガシンカを使いこなしてみせた。

 

「………………」

 

部屋は暗いが、ミアはスマホロトムを取り出す。ブルーライトを浴びて開いたのはZAロワイヤルの公式アプリ。ログインをすませて表示されたのは彼女のプロフィール写真。MZ団のジャケットを着せられて、しぶしぶ写真に写る自身の姿がそこにあった。

 

ミアは現在Bランク。あと1回、ランクアップ戦に勝てば彼女はAランクになる。

 

――相手は、一向に現れない。

 

すでにチャレンジチケットは獲得している。だが、Bランクに上がってからというもの、肝心の対戦相手はいつになっても空白のままだった。変わらない画面を眺めて、時間は過ぎていく。

 

「………………スゥ」

 

少女は眠りにつく。いつか自分に並び立つ、ライバルの到着を待って。

 

 

 

 

 




話の都合上、本来あるはずのネームドキャラ2人の出番はなくなりました。
1人は出番が先送りに(主人公とは会いました)、もう1人は人気キャラなのに全カットです。
ただのひきこもりがアイドルと接点なんかあるわけないだろ!

【おまけ】
《非公開シーン①》
ホテル前、主人公は謎のポケモンと再エンカ。石ころを渡される。これには主人公も苦笑い。
ジガルデに選ばれたなど語る、謎の人物が登場。

「彼女とも近いうち、話をしなければ」


《非公開シーン②》
「カナリィ? 私、知ってるよ」

「呼び捨て! ……意外ですね。カナリィさんを知っているなんて」

「エレキネットの人」

「それ違う人!!」

今日のピュールは元気だね。
 
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