これまでのあらすじ
ミアはホテルZのひきこもり。
◆◆◆
「では作戦会議をはじめます」
デウロの張り切った声を皮切りに、暴走メガシンカ対策会議が幕を開ける。
いつも食事に使っていた一室は、ピュール制作の団旗によって作戦会議室へと早変わり。
テーブルの中央にはミアレシティの全体地図が広がり、そこには本題の暴走メガシンカの出現位置を示すピンが4つ刺さっていた――
……この流れ、前にも見た? それもそのはず。対策会議、まさかの2回目となる。また新たに暴走メガシンカが現れたらしい。数は前回と同じく4体。いい加減にしてほしい。
ただでさえ朝早いというのに、ロビーに降りれば待ち受けていたのはマスカットからの要請だった。メールではなく電話で用件を伝えるのは、彼が会社員だからか、彼の性格によるものか。誰だって、朝一番から仕事の連絡が来ればうんざりするというもの。24時間戦えるとかなんの自慢にもならない。
まさかとは思うが、この先この流れがずっと続くのだろうか。
聞けば、暴走メガシンカが発生するメカニズムについては何もわかってないとのこと。進展なし。暴走メガシンカにはメガシンカしたポケモンやワザプラスが有効だが、どうして有効なのかもよくわかっていないらしい。大丈夫なのだろうかあの会社。
野生ポケモンも日に日に増える一方で、今日もまた、ワイルドゾーンが新たに設置されたらしい。これでは、『ミアレを守る会』という団体に抗議されても無理はないというもの。そればかりか野生ポケモンがやってくるのはクエーサー社の仕業とまで言われている始末。本当に大丈夫だろうかあの会社。
ここまでくると、実は、暴走メガシンカはクエーサー社が生み出しており、野に放り出していると言われても最早驚かない。暴走メガシンカはクエーサー社の陰謀、MZ団はその実験のための駒にすぎない、とか言い出しそうなサングラスである。やはり黒幕か。
――そんな感じのことを考えながら、ミアは静かに会議を聞いていた。決して寝てなどいない。
気づけば会議は、今回確認されたうちの1匹、メガスピアーについて話し合っていた。スピアーはとても暴れ者で危険なポケモンだが、問題なのはその出現場所。
「ベール地区ってこれ、ホテルZの近くだよね」
「ホテルZの宣伝に使うか、それとも客が来ない言い訳にしますか」
「ピュール。やるなら宣伝にしないと」
デウロの言葉にミアが頷く。さきほどまで明らかにテンションの低かったミアだったが、集客となれば話は別。目指すはホテルZの大繁盛。ミアが話に加わる。
「野生のメガスピアーをゲットできるチャンス、とか……?」
「なら、暴走メガシンカがみえる部屋をお勧めしちゃう?」
「そうすると、暴走メガシンカを鎮めるわけにはいきませんね……。主人公、どうします?」
ホテルZのためだね、と主人公も同意。すっかり馴染んでいる。
ついには部屋中をスピアーグッズで埋め尽くすという、驚異の案まで飛び出した。
――ホテルZ期間限定宿泊プラン、スピアールーム。
スピアールームは、壁や天井、客室全体に広がるスピアーグッズがみなさんをお出迎え。
窓の向こうには、世にもめずらしい野生のメガスピアーが!? 今ならゲットできるチャンス!?
スピアーに囲まれた空間で、思い思い時間をお過ごしください。
「……いいかもしれない」
「いいかも!」
ミアとデウロの意見が重なる。実際に暴走メガシンカポケモンを捕まえられるかはさておき、宣伝としては十分。念のため※印で、捕獲に関しましては自己責任でお願いしますと書いておけば問題ない。これでホテルZにお客さんが来るのも時間の問題。完璧なマーケティングだった。
しかし、冗談はここまでにしよう、という主人公の声により計画は断念。デウロは眉を下げる。
「デウロさんは話が脱線しがちですから」
「…………」
ミアは顔を逸らす。彼女も割と残念そうな様子だったのは言うまでもない。
気を取り直して、デウロがミッションを発令する。
「
ひとつ! ベール地区5番地のスピアーの暴走メガシンカを鎮める! 向かうのはタウニー。
ふたつ! ローズ地区3番地のビル屋上にいるルチャブルの暴走を鎮める! 担当はあたし。
みっつ! ジョーヌ地区9番地でジュペッタの暴走をくいとめる! 対応するのはピュール。
よっつ! ルージュ地区ドールビアン墓地でヤミラミの暴走をとめる! 一任するのはミア
」
「デウロのそういうビシッとするとこ、あたしは好きだよ」
タウニーの言うように、デウロのそういうところは見習わなければと思いつつ、ミアは席を立つ。途中、ピュールがジュペッタを怖がっている様子をみせたが、彼なら問題ないだろう。
ミアが担当するのはメガヤミラミ。ヤミラミはいたずらごころで悪戯が好きなポケモンだが、問題なのはその出現場所。
(ジョーヌ地区ってこれ、わたしが一番遠い……)
ホテルZのすぐ近くに現われたスピアーとは違って、ヤミラミはホテルZから一番遠く離れた場所で確認された。よりにもよって担当するのが自分ということで、ミアは若干不満げだった。
ちなみに、主人公は今回も切り札として4か所全てを回ることになっている。正気とは思えない。そのことを思い出したミアは主人公に振り向く。
「わたしのところには来なくていいから」
それだけ言い残して、ミアは一足先に出て行った。
「ミア、機嫌わるい?」
「変な夢でも見たんでしょ。朝早かったし」
「暴走メガシンカをひとりで……ミアさんなら可能でしょうね」
3人は思い思いに言う。ミアが会議室を出ていくと、デウロはふと疑問を口にした。
「そういえば、ミアっていつから
「え? そうだけど……」
「ミアはここで暮らしている。わたしがあの子を引き取ったがゆえに」
その声に全員が振り向く。会話に入ってきたのは、なんとAZだった。フロントにいたはずの彼だがいつの間にか部屋に入ってきていた。
「AZさん! 引き取ったって、どういうこと?」
「あたしもはじめて聞いた。ミア、自分のこと話さないから」
「……あの子は帰る場所をなくしたのだ」
「帰る場所、ですか?」
AZの言葉にピュールが反応する。
「タウニーは知っているだろうが、ミアは長い間部屋に閉じこもっていた。外へ出るのも、わたしに付いてくるときくらいだったか」
「うん。はじめて会ったときのミア、ひどい顔してた」
タウニーは当時のミアの様子を思い浮かべる。今でこそ普通に接しているミアだが、最初のころはそれはもうひどい有様だった。表情は暗く、まるでなにかに取り憑かれているような、そんな顔をしていた。
ミアについてなにか事情を知っているはずのAZはこれ以上何も言わなかった。あまり触れたくない話なのだろう。
「そうだったんだ。ミアのこと、あまり聞かないほうがいいのかな」
「デウロさんは人のことすぐに知りたがりますよね」
「だってもっと仲良くなりたいんだもん」
AZは小さく微笑むと、ゆっくりと頷いた。
「ミアが外の世界へ踏み出すようになったのは、きみたちのおかげだ。これからも、彼女のことをよろしく頼む」
「ボクたちのおかげなんて……困ったときはお互い様ですよ」
「MZ団の仲間だもん。当然だよね」
「ミアなら大丈夫だよ。AZさんもいるし」
その言葉に、AZは目を閉じていた。
◆◆◆
「うわでた」
主人公がドールビアン墓地に向かうと、そこにはミアと、ヤミラミ……ではなくジガルデがいた。
ミアは嫌そうな顔を浮かべて一歩後ずさり、ジガルデは無機質な瞳で一歩距離を詰める。案外、似た者同士なのかもしれない。両者はしばらくにらみ合いを続けるが、このままでは埒が明かない。どうしたものかと困ったところで、ミアが主人公に気づく。
「あ……来たんだ……」
助けを求めるような、呆れているような、そんな声でミアが言う。ジガルデも主人公に気がつくがたいして気にしていない様子。少なくとも襲ってくるようには見えなかった。
目の前のジガルデは一旦置いといて、ヤミラミはどうしたのかと、主人公はミアに聞く。
「ヤミラミ……? うん、もう終わった」
倒した証明とでもいうように、ミアは主人公に近づきヤミラミナイトを手渡した。そしてそのまま主人公の後ろに隠れた。けれどなんだか落ち着かない様子。ミアはきょろきょろと視線を巡らせている。
ヤミラミはすでに姿を消しており、ここにいるのはミアと主人公、そしてジガルデだけだった。
「やっぱり、ちがう……」
ミアが小さく呟く。そして、何かを決心したように頷く。
「ごめん。あとお願い」
ミアは申し訳なさそうに主人公に言うと、そのまま走り去ってしまった。押しつけられた主人公と置いていかれたジガルデは、ミアの突然の行動に呆気にとられる。
我に返ったジガルデは、離れていくミアと立ち止まっている主人公を交互に見ると、姿を消した。
「行ってしまいましたか」
背後で男性の声がした。主人公が振り向くと、自身を
「どうやら、わたしは彼女に避けられているようですね」
男はそのまま主人公へと話しかける。
「……もっとも、避けているのはわたしのほうかもしれませんが。今さら、どんな顔をして彼女に会えばいいのか」
主人公を横目に、ひとりで話を続けるF。どうしてこうも彼女の周りには、暴走メガシンカとは無関係のイベントが発生するのか、全くもって謎だった。
「失礼。わたしと、勝負していただきたい」
Fの話を聞き流していると、突然勝負を持ちかけられた主人公。メインミッション発生である。
主人公の前にFが立つ。話しかければ戦闘開始。主人公は準備をしてバトルに応じる。
「ジガルデが選んだ君の実力。みせてもらいます」
ポケモントレーナーのFが勝負をしかけてきた!
ポケモントレーナーのFはカエンジシをくりだした!
・
・
・
「彼女は、ジガルデの候補者ではありません」
バトルを終えたあと、Fは静かに語った。彼女というのは、ミアを指しているのだろう。
「しかし、彼女はZAロワイヤルに参加し、驚くほどの成長をみせた。その姿を見て、ジガルデは考えを変えたのでしょう。……彼女がジガルデを怖れているように見えるのは、わたしの気のせいですかね」
ミアの強さは主人公も痛感していた。主人公はその理由を聞いてみるが、Fは首を横に振る。
「彼女がなぜそこまで強いのかは……おそらく、生まれ持っての才能があったのでしょうね」
Fはどこか遠い目をして、困ったように言った。
「ジガルデは彼女を気にしていますが、同時に君を見定めようとしている。君は示さなければならない。その覚悟が本物かどうかを」
そう言葉を残して、Fはその場を離れる。あとには主人公だけが残り、辺りは静まり返っている。
ドールビアン墓地、人もポケモンも眠る場所。暖かな陽射しの下で、風だけが優しく吹いていた。
◆◆◆
主人公がDランクになった。
いつもの夜の食事会で、ミアは主人公の話を聞いていた。ランクアップの相手と戦うまで、かなり苦労したようだ。主人公がオーダイルを褒めている。れいとうビームが役に立ったと言っている。なにがあったんだろう。
というのも、ランクアップの相手には妹がいて、行方不明になったので一緒に探していたらしい。妹の捜索には探偵も協力し、無事に見つけられたとのこと。XYZ軸の交わらない場所が手がかりになったそう。
「推理の決め手がX軸とY軸だったのって、なんだかおもしろーい!」
デウロが楽しそうに言う。
あと、探す途中で野生のクレッフィの助けも得たらしい。だが、結局は力。力こそパワー、力こそジャスティス、と主人公は言っている。なにがあったんだろう。
「XとYのこと、昔聞いたことがあるよ」
タウニーが言葉を返す。
「XとYはそれぞれ違う方向に伸びるけど、どこかで交わるポイントがあるから、それを見つけるのが大事みたいな話」
「なにそれ? よくわからないよ」
デウロは首を傾げる。
「人とポケモンは全然違うけれど、どこかで交わるってこと?」
「あたしたちが出会って、いま一緒にいることだったりして」
ミアとタウニーの目が合う。ミアは目を逸らす。
相変わらず変なことを言う。ミアはそう思いながら、クロワッサンカレーを口に運ぶ。
すると突然、タウニーのスマホロトムに通知が入る。画面を見たタウニーが顔を変える。
「……どうかしたの?」
「たいしたことないよ。それより、ピュールおかしくない? 今夜もクロワッサンカレーじゃないし」
確かにピュールだけ別メニューだが、それはいつものこと。話を変えたタウニーに、ミアは疑いの目を向ける。
「ありえないですね。たしかにおいしそうですが、美的感覚が足りていないのです」
「完全拒否からちょっとは歩み寄ってきてるよね」
デウロはそう言うと、なにかに気づいたように目を見開いた。
「そうか! これがXとYの話ってこと?」
………………?
「きゅるる!」
・
・
・
食器を片付けたあと、ミアはひとりロビーに残っていた。ソファに座り、何かを考え込んでいる。
「どうかしたのか」
浮かない顔をしているミアにAZが話しかける。AZの横には、黒い花のフラエッテもいた。
「……AZさん」
「なにかあったのなら話してみるといい。話すだけでも、いくらか楽になるものだ」
ミアは視線を落とし、やがてAZに向き直る。
「AZさん。相談があるんだけど」
快進撃を続けるMZ団に、不穏な空気が忍び寄る。
カット、カット、カットォ!!!!