今作の問題回。
サブタイはインパクト重視です。特に意味はありません。
◆◆◆
「タウニー!」
ホテルZにデウロの声が響き渡る。せっかくの朝が台無しだ。
デウロは帰ってくるなり、険しい表情でロビーを見回した。
「タウニーは?」
「いませんよ。なんでも朝から人助けだとか」
ピュールが言う。タウニーがどうかしたのだろうか。ピュールと主人公は顔を見合わせる。
「あのおバカさん! ホテルZの宣伝動画を撮るためにお金を借りていたんだよ。しかもサビ組って怖い人たちにっ!!」
驚愕の事実。タウニーはなんと、お金を借りていたのだ。
主人公は目を丸くし、ピュールは言葉を失う。
『サビ組』。
ミアレシティブルー地区4番地に事務所を置く、通称”なんでも屋さん”。
独自の解釈で建てられた異国情緒あふれる建物はひときわ異彩を放ち、周囲を寄せつけない。
組員は同じサングラス、同じダークスーツを着込み、道行く人々に睨みを利かせる。
泣く子も黙り、暴れるポケモンも一瞬にして静まるとさえいわれる、あのサビ組。
ざっくり言うと、YAKUZAだった。
デウロがそう説明していると、突然主人公のスマホロトムが鳴った。発信者は不明。デウロは嫌な予感がしたが、主人公は構わず電話に出る。
『もしもし、主人公さんですよね。ホテルZで住み込みでお働きだという』
聞き覚えのない声に、そうですと答える。この主人公、素直すぎる。
相手は、やはりというかサビ組の者だった。用件は必然、タウニーの借金について。話があるから事務所まで来てほしいと一方的に伝えられる。主人公の返事を待たずに、電話は切られてしまう。
「ええ……あたしだけじゃなくて主人公の連絡先までサビ組に把握されているんだ……」
デウロは困惑している。思っていたよりも事態は深刻なのかもしれない。
聞くに、タウニーの借りた金額自体はたいした額ではないらしいが、利子がとんでもなかった。
「サビ組といえば利子を払えなくして、いつまでもタダ働きさせると噂の……」
ピュールが不穏なことを言う。一緒に話を聞いていた黒い花のフラエッテも「きゅるる」と唸る。
いずれにせよ、呼ばれた以上、話を聞いてみないことには事が始まらない。そもそも、タウニーが本当に借金したのか、どうして借金する羽目になったのか、経緯がまるでわからない状況なのだ。
「理不尽な利子を条件にタダ働きをさせるというのであれば、まずは話だけで済むだろう。それをもとに解決法を探ることがいますべきことではないか」
AZの助言もあり、デウロは意を決する。一人で行くのは不安だからと主人公にも同行を求める。快諾する主人公。万が一のため、後のことをピュールに託す。サビ組はよくない噂こそあるが、警察の世話にはなっていないそうだ。
タウニーの借金の真相を確かめるべく、デウロと主人公はサビ組のアジトへ向かうのだった……。
――というのが、今回のあらまし。
まだ起きたばかりのミアは、作戦会議室でその話を聞かされてぽかんとしていた。ミアもタウニーの借金のことは何も知らなかったようだ。
その後どうなったかというと、噂通りのタダ働き。2人の帰りが遅いので、もう少しでフラエッテが”はめつのひかり”を放ちに行くところだったという。あぶない。それをしてしまえば、血を血で洗う、終わりなき抗争のはじまりである。生きた心地がしなかったと、デウロは振り返っている。
利子取消のタダ働きも、いつ終わるのか不透明。ひとつで終わるかもしれないし、いつまでも終わらないかもしれない。完全にあちらの胸先三寸。サビ組の要求にどう応えるべきか。サビ組とどう関わるべきか。
かくして、緊急の作戦会議が開かれていた。肝心のタウニーは不在。
ミアはタウニーに連絡を取ろうとするが繋がらない。いったい、どこをほっつき歩いているのか。
「いずれホテルに戻ってくると思いますけど」
ピュールが言った、直後だった。
「作戦会議? でもマスカットさんからの連絡はなかったはずだけど」
件の人物、タウニーが姿を現した。ミアは席を立ち、そのまま彼女へ近づく。とりあえず、言えることはひとつ。
「タウニーのバカ」
そう言って、げしっとひと蹴り。
ミアはというと、タウニーが借金をしたことよりも自分に何も相談してくれなかったことに腹を立てていた。ミアはタウニーにやつあたりするが、当然その威力は低い。事情を知らないタウニーはなんのことかさっぱりな様子。
「タウニー! なにお金を借りているのよ! そのせいであたしたちタダ働きだよ」
「あ……でもそれはホテルZの宣伝動画を撮るためだし」
借金のことを聞くと、ばつの悪そうな顔をするタウニー。しかしすぐに元の顔に戻る。
「でも借りたのってちょっとだけだよ。そんなに怒ることないでしょ」
事の重大さを知らないタウニーに、デウロは腕を組んだ。
「利子が100万円になってるんだけど」
「はあ、そんなわけないって。借りるときにちゃんと確認したよ。……ウソ? 拡大してようやく読める大きさの文字で利子のことが書いてある……」
ミアはジト目でタウニーを見つめる。
「ほとんどだまされたようなものですが、書いてあるなら文句はいえませんね」
「ちょっと待って。マスカットさんから連絡。……暴走メガシンカのことですよね。いつものように詳細情報を送ってください」
ミアの目つきが鋭くなる。マジかコイツ、それどころじゃないだろと言いたげな顔だ。
「はい作戦会議の議題追加」
デウロは突っ込むのも諦めたようで、送られてきたデータを確認している。いつものように、暴走メガシンカは全員で請け負うことに。当然主人公は全部を回る。デウロがミッションを発令する。
「
ひとつ! ローズ地区6番地でクチートの暴走をくいとめる! 向かうのはタウニー。
ふたつ! ブルー地区5番地の水路でガメノデスの暴走をくいとめる! 担当はあたし。
みっつ! ルージュ地区6番地のビル屋上でデンリュウの暴走をくいとめる! 対応するのはピュール。
よっつ! ベール地区9番地でサメハダーの暴走をくいとめる! 一任するのはミア
」
ひとまず、暴走メガシンカを解決してから、タウニーの、サビ組の利子をどうにかしよう。
そう会議を締めくくろうとしたときだった。
「サビ組だけど、わたしは協力できない」
ミアが言いづらそうに口を開く。
「マチエールさんのところに行く。ストーカーのことで」
「ストーカー!?」
耳に手を当てて頷く。
昨夜、ミアがAZに相談したのがこの件だった。
最近、誰かにつけられている。そんな気がしてならない。脳裏によぎるのはあのポケモン。けど、それはいつものこと。思い返すに、あれが付いてこない日は一度もない。ただ、自分を追う視線がひとつ、増えた気がする。
そのことをAZに話すと、探偵のマチエールを紹介してくれた。
「借金にストーカー……嫌な話ばかりですね。サビ組となにか関係が?」
「わからない」
ミアは首を横に振る。それを調べてもらうために行くのだから。
「それ、大丈夫なの?」
「心配しなくても暴走メガシンカはとめるから、気にしないで」
「そういう話じゃないと思うけど……」
暴走メガシンカ、サビ組、そしてストーカー。ミアの思わぬ一言は、MZ団に暗い影を落とした。
◆◆◆
ミアは、ハンサムハウスの前に立っていた。変な名前をしているが、立派な探偵事務所。AZのお墨付きもあり、いざというときはここを頼りなさいと言われていた。けれど少し落ち着かない。入口の前でそわそわしていると、小さなポケモンが目に留まる。ニャスパーだ。
ニャスパーはぴょんぴょんと跳ねると、ねんりきで扉を小さく開けた。お出迎えなのだろうか。ニャスパーの後をついて、ミアは事務所の中に入る。
ちなみに、暴走メガシンカはすでに片付けている。案の定、いつものごとく主人公がやってきたのでサメハダナイトを渡しておいた。彼は心配しているというよりも、単にメガストーンが欲しくて来ているだけかもしれない。
中は、いかにも事務所といった内装だった。部屋の奥では、マチエールが両肘をついてミアの到着を待っていた。しかし、その目は閉じられている。ニャスパーが彼女のもとへ駆け寄る。
「…………」
「…………」
なんともいえない沈黙が流れる。
「……あの」
「…………スゥ」
呼びかけてみるが、マチエールの反応はない。というか今、寝息を立てた気がする。
「……マチエールさん?」
「ミア、ようこそハンサムハウスへ!」
(……寝てたよね?)
彼女こそ、ハンサムハウスの二代目所長、マチエール。どう見ても寝ていた彼女だが、いざというとき100%で動けるように、休めるときに休むのも探偵の務めらしい。なるほど?
それにしても、とミアはマチエールを見る。ハンサムハウスという名前から、ミアはてっきりマチエールを男性だと思っていた。しかし、予想に反して、マチエールは女性。それも、その細身な体からは想像もつかないほど、女性らしい見事な曲線美を描いている。彼女の着ているボディスーツも相まって、身体のラインがよりくっきりと際立たせていた。その恵まれたスタイルと、まるで成長していない自身の体を見比べて、ミアは若干の悔しさを覚えた。
「AZさんから話は聞いているよ。ストーカーに遭ったんだって?」
マチエールが本題を切り出す。ミアははっとして、事情を説明する。とはいえ、証拠がない。ストーカーといっても、なんとなくつけられている気がする、というあやふやなものだ。相手の姿をはっきりと見たわけでもない。そうだというのに、マチエールは真剣にミアの話を聞いていた。不思議と、彼女の前ならどんな悩みでも話せる気がした。
「マチエールさん、その……」
「どうしたの?」
「人を追いかけるポケモンって、調べられる?」
「人を追いかけるポケモン……特徴はわかる?」
黒くて、すばしっこくて、なにを考えているのかわからない、ポケモン……?
「それってもしかして、ジガルデのこと?」
「じがるで?」
ミアはようやく、自分を追うポケモンの名前を知る。
「うん。でも、どうして?」
「実は――」
ミアは、ずっと抱えていた悩みを吐露した。この話は、恩人のAZにも打ち明けたことはない。
・
・
・
ミアを見送り、所長専用の椅子に腰を下ろす。ホテルまで送り届けようとしたけれど、やんわりと断られてしまった。まだ少し、警戒されているのかもしれない。
小さく息をついて、壁に掛けられた写真を眺める。写真には、もこおと、あたしが尊敬する人物が一緒に映っていた。
おじさんがいたころ、ミアとは何度か顔を合わせていた。本人はあまり覚えていないようだったけど。あの頃のミアはずっとなにかに怯えていて、会話どころじゃなかったから仕方ないのかもしれない。
ミアは身寄りのない、身元不明の女の子だ。今はAZさんが身を預かっているけれど、彼女の過去を知る人は誰もいない。記憶喪失と、おじさんは言っていたっけ。
それだけなら、ここではあまりめずらしい話じゃなかった。親に捨てられた子、行き場のない子をこれまでに何度も見てきた。ミアレシティの影の部分をあたしは知っている。でも、あの子の場合それだけじゃないとなんとなく感じ取っていた。
その証拠に、彼女に関する情報は調べてみてもなにも出てこない。まるで、意図的に隠されているかのような。それでも、おじさんはミアのことを調べようと必死に捜査を続けていた。だけど、おじさんは別の任務で急きょ、カロスを離れることに。……。
ミアの相談を思い返す。彼女の話は驚くものだった。ストーカーのこともそうだけど、それとは別で、ジガルデに追いかけられているという話。ジガルデは突如としてミアレシティに姿を現した、
謎に包まれたポケモン。その目的を探るために、あたしも独自にジガルデを調査していた。
(まさかあたしが追いかけているポケモンが、人を追いかけていたなんて考えもしなかったな)
ジガルデのことを話すミアは震えていて、とても怯えた顔をしていた。よほど怖い目にあったんだろう。その様子は初めて会ったときと同じ……。
「あれ?」と手を止める。まさか、そんなはずはないと振り払うも、ひとつの考えが頭に浮かぶ。
(もしかして、本当にずっと? あの日から? そんなことは……)
不意に、入口の扉が叩かれた。ビクリと肩を震わせ、扉へと目を向ける。
(忘れ物でもしたのかな? 好きに入ってくれていいのに)
そう思いながら、扉を開けると――
「失礼。ハンサムハウスはここで合っていますかね」
――Fと名乗る、調査中の不審者がいた。
◆◆◆
主人公がCランクになった。
ランクアップの相手はなんと、サビ組のボス。タウニーの借金相手。
高すぎる利子は、なんとかなったらしい。なんでも、そのボスが主人公のことをえらく気に入ったとかそんな感じで。
「カラスバに勝てばサビ組ももう関わってこないでしょうね」
一人だけ別メニューのピュールが言う。
「そのためにはタウニーが借りたお金を返さないと」
デウロの言う通りだった。利子はなくなったが、借金がなくなったわけではない。早くお金を返さないと、また利子を増やされるかもしれない。というわけで、MZ団みんなでお金を出しあって、タウニーの借金を返済することに。せっかく貯めたお金を使うことになり、ピュールは肩を落とす。謝るタウニー。「いいチームだね」と主人公が言う。
「ミアは大丈夫なの? その……」
デウロが言いよどむ。直接言葉にしないあたり、彼女の心配が見て取れる。ミアはなんともない顔で頷いてみせる。
「平気。マチエールさんが調べてくれるから」
「マチエールさんなら安心だし」
呑気なことを言うタウニー。タウニーはもっと反省してほしい。
「それでタウニー。あなたの人助けはどうなったの?」
デウロが訊く。タウニーはタウニーで、人助けで大変だったらしい。自分の借金はそっちのけで。
話を聞くと、クエーサー社付近で『ミアレを守る会』が抗議活動を行っていたらしく、タウニーが社長の護衛をしたそうだ。昨晩、タウニーがスマホロトムを見て顔を変えたのは、このことだったらしい。
「無事に解決ってところ。ただ、社長を守るためにカラスバさんに助けてもらったんだよね。あれ……助けてもらったということはサビ組にまた借りをつくったってこと?」
なにしてんのタウニー。ミアは呆れている。
「だとしたらまたタダ働きですね……」
「きゅるる」
ピュールはうんざりしている。フラエッテはむしろ、サビ組に対して徹底抗戦の構えを見せているような気がする。
「おじゃましますわ!」
突然、ロビーから声が聞こえた。久しぶりのお客さんの声に、MZ団は慌ててロビーへ向かう。
そこに立っていたのは、ひとりの男性。いかにも高級そうなスーツを身に纏い、ストラップのついた丸眼鏡をかけている。やや低めの身長、反してその鋭い目つきは彼が人の上の立場にあることを雄弁に物語っていた。
「ふうん、なかなかよさそうなホテルやん」
「えっ、どうして!? もしかしてサビ組みんなでポケモン大会ですか? それは許してくださいタウニーが借りたお金は明日返しに行きますから」
その人物を見るや否や、素っ頓狂な声をあげて、デウロが怯む。彼こそ、サビ組のボス、カラスバだった。
ポケモン大会という言葉を聞いて、ミアの持つモンスターボールがひとつ、大きく揺れた。ミアは慌ててボールを押さえる。
「オマエ、警戒しすぎやで。ホテルに来たら普通は宿泊やろ。それともなんか、ホテルZさんは客を選り好みするんか」
至極当然なことを言うと、カラスバはミアに目を向ける。
「…………」
「…………?」
不思議な間があったが、カラスバはフロントに向かい宿泊者名簿に記入。その文字は達筆だった。
「ほな、みなさんいい夢を」
カラスバは案内されるまま、エレベーターで客室へと上がっていった。
「ど、どういうこと?」
「わかりませんよ」
思わぬ来客に、一同に困惑が走る。
夜が更けていく……。
――翌日。
タウニーの借金がなくなった。なんで?
「サビ組ってなにー!?」
ホテルZにデウロの声が響き渡る。いつも通りの朝だった。
カラスバはミアの事情をそれとなく知っています。ある意味対照的な2人です。
ZAが発売されてから、もう少しで1年が経とうとしています。が、忙しくなるのでまた遅れるかもしれないです。完結だけならあと数話くらいなのにね。コンナハズジャナカッタノニ……。