引退したいオールマイト vs 自首したいAFO vs 何も知らない緑谷出久   作:バケギツネ

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AFOは回想したい。その2。

 

 

 僕が転孤くんへと送ったアドバイス。それは至って、シンプルなものだった。

 

『転孤くん。君は自分の個性を怖がらなくていい。』

 

 彼が個性をコントロールできない理由。それは自身の個性そのものへの恐れだ。

 

 これは間違いない。彼の個性因子にそう聞いたからだ。

 

 AFOで一時的に転孤くんの個性を奪い、必要な事を知れた後に、元通りにしておいた。

 

 プライバシーもへったくれもないやり方だが、僕は魔王。手段を選びはしないのだ。

 

『転孤くん。君は恐れているんだろう?自分の個性で家族を傷付けてしまうのが。』

 

「・・・うん。」

 

 個性因子からは彼の記憶も読み取る事ができた。

 

 4歳の頃。転孤くんが初めて“竜巻”の個性を発現した時、自身と近くにいたお父さんに傷を負わせてしまったらしい。

 

 幸い、どちらも軽い切り傷で済んだのだが、その出来事は転孤くんと孤太郎さんの心に、深い傷跡を残してしまったのだ。

 

 それ以来、孤太郎さんは自分の目の届かない所での、転孤くんの個性使用を禁じた。

 

 彼なりに息子を思っての行動だったのだが、それは転孤くんにとってのプレッシャーになっていたのだ。

 

 個性を使う時には、いつもお父さんが近くにいる。万が一にも傷付けるわけにはいかない。自分が傷付いてもお父さんを悲しませてしまう。

 

 そんな重圧が転孤くんを押し潰していたのだ。

 

 個性は身体機能だ。使う本人の感情に大きく左右される。そんな状態では、竜巻が不安定になるのも当然の話だ。

 

 ならばどうするか。必要なのは、目的と成功体験だ。

 

『だったら転孤くん。君の個性で、お父さんをとびっきりの笑顔にしてみないか?』

 

「え?」

 

 個性による飛行を身につけ、お父さんに夕焼け空を見せる。それを中期目標に設定した。

 

 個性の練習に目的を与え、最終的にそれを成功させる事で、転孤くんの力への恐れを払拭する。それが大いなる最終目標だ。

 

『お父さんに、そして転孤くん自身にも、証明してみせるんだよ。君の個性は人を笑顔にできる素晴らしい力なんだって。』

 

「僕の、個性・・・」

 

『君ならできるはずだ。少なくとも僕はそう信じてる。』

 

「うん、やってみるよ。僕、絶対!お父さんを笑顔にしてみせる!」

 

 転孤くんの素質と意思は相当なものだった。驚異的なスピードで個性を上達させていく。いや、元々できていたはずの事を、緩やかに思い出しているだけなのかもしれない。

 

「ねえ先生!これ、どうかな?」

 

『うん。竜巻も安定してきたじゃないか。乗り心地もいい。これならお父さんも喜んでくれるさ。』

 

「ほんと!?後は・・・」

 

 転孤くんは足元に視線を落とす。コントロールが上達しても尚、竜巻の発生源にいる彼の足には、幾つかの切り傷ができていた。こればっかりはどうしようもないものなんだろう。

 

『痛むかい?』

 

「全然。でもお父さん、これ見たら心配するだろうな〜。泣き虫だし。」

 

 今の彼にとって、唯一の懸念はお父さんが心配するであろう個性による自傷だった。

 

 だが。そうなる事を見越して既に手を打ってある。

 

『転孤くん。一つ聞きたいんだが、君の個性は本当にその竜巻だけかい?』

 

「え?」

 

『僕も長年、まお、いや、プロヒーローをやっているからね。たまにあるんだ。本人も気付かない二つ目の個性が宿っているケースが。』

 

「それ、ほんとぉ?」

 

『本当さ。ごく稀だがあり得ない話じゃない。君にもその可能性があるんじゃないか?例えば、そう。手で触れたものの時間を巻き戻し、傷を治す個性みたいな。』

 

「そんな都合いい個性があるわけ、え、治っちゃった!?」

 

 半信半疑で自分の足に触れた転孤くんは、傷がたちどころに治ったのを見て、驚きの声をあげる。

 

 うむ。良いリアクションだ。

 

『やっぱり転孤くんにはー、隠された力が眠っていたんだー(棒)。』

 

「すっげえ!先生の言う通りだ!どうして分かったの!?」

 

『まあ、これもプロヒーローの勘ってやつかな。』

 

 嘘である。僕がコッソリと、彼に個性をプレゼントしておいたのだ。

 

 ドクターが運営している孤児院に、“分解・修復・融合を兼ね備えたクソチート個性”を持つ子供が引き取られた事がある。

 

 ドクターは早速その個性を複製し、要素ごとに新たな個性として再構成したのだ。

 

 分解、破壊、壊す事に特化した超攻撃的な個性。

 

 修復、治癒、戻す事に特化した超回復系の個性。

 

 融合、親和、取り込む事に特化した超吸収を可能にする個性。

 

 この3つの内、転孤くんには回復特化の個性のみを与えたのだ。

 

 その優しい個性と、人を心から思いやれる彼との相性は、予想以上に抜群だったらしい。

 

「先生見て!この個性なら、傷ができてもすぐに治せる!これならお父さんも俺を心配しないよね?」

 

『ああ。でも、いくら回復できるからって、自分の身体を大事にしないのはダメだからね?』

 

「分かってるよ。僕だって痛いの嫌だし。」

 

 さて。これで個性の問題はクリアだ。後やる事があるとすれば、そうだ。

 

 計画の本番では、転孤くんと孤太郎さんはかなりの高度まで上昇する事になる。それに耐えられるように、彼らの装備でも整えておくか。

 

 よし。困った時のドクターだ。早速電話をかけてみよう。

 

「おお先生か。志村菜奈の家族の方はどうなったんじゃ?」

 

『ん?ああ。彼女の息子の孤太郎と孫の転孤がいただろう?彼らには、空を飛んで貰う事になったよ。ハハハッ。』

 

「っ!?一般人相手にそこまでするか。」

 

 あれ?なんでドクターはドン引きしてるんだ?

 

『そこまでするか、だって?彼らは志村菜奈菜奈の家族だ。理由はそれで十分だろう?』

 

「あ、ああ。そうじゃな。」

 

 そう。あの2人は、僕が散々迷惑をかけた志村菜奈の家族。理由はそれで十分だ。

 

 罪滅ぼしとして、彼らの抱えた問題の解決に少しでも貢献したい。

 

『それでドクター。用意して欲しいものがあるんだが、』

 

 かくして装備の問題もクリア。

 

「それじゃあ先生。僕、行ってくるね。」

 

『ああ。リラックスして、練習通りにやるだけさ。大丈夫。いざという時は僕がいる。』

 

 こうして迎えた本番は、驚くほどあっさりと成功してしまった。これも全て転孤くんの努力の賜物だ。

 

 少し後ろからエアウォークで着いて行った僕の心配も、取り越し苦労で終わったらしい。

 

 まあ、完全に気配を殺していたから、誰も僕には気付いていないだろうが。

 

「ありがとうございます、グラントリノ。ずっと、後ろから見守っていてくれたでしょ?」

 

『え、あ、はい。』

 

 孤太郎さんには普通にバレていた。恥ずかしい。

 

「それにあなたのお陰で、転孤は夢を見つけられた。私も、前に進む事ができました。」

 

『僕は背中を押しただけだ。一歩を踏み出したのは、あなた達自身の勇気ですよ。』

 

 上空から戻ってきた孤太郎さん達の顔は、実に晴れやかなものだった。離れて追っていた僕には、2人の詳しい話はよく聞こえなかったが、彼らなりに答えを出せたのは確からしい。

 

 良かった良かった。これで僕もお役御免だな。さて帰ろう。

 

 ・・・ん?僕って、何しに志村家へ来たんだっけ?

 

 そうだ手紙!オールマイトを僕のアジトへと誘き寄せるための手紙!それを渡しに僕はここまで来たんだった。今、今すぐ渡しちゃうか?

 

 でもそれやっちゃうと、感動的なこの雰囲気がぶち壊しじゃないか?僕がすげー、空気読めない奴みたいになってしまう。

 

 だが、このままだと完全に機会を逃して、

 

「もしもし志村です。ああ。え?本当か!?それは。」

 

 僕がクヨクヨ考えているうちに、孤太郎さんの元へは一本の電話が掛かってくる。それを取った彼の顔は、見る見るうちに青褪めていった。

 

「あ、ああ。分かった。私も今すぐそっちへ向かう。」

 

『どうしました?孤太郎さん。』

 

「あのグラントリノ。もう一つお願いがあるのですが、」

 

 この時の僕は全く気付いていなかったんだ。志村家に一歩ずつ近づいていた、ドス黒い悪の影に。

 

 

 

 

 

 

 個性のお披露目を成功させた転孤くんの手を引いて、僕は志村家を目指していた。

 

『転孤くん。今日はお疲れ様。かっこよかったぜ、流石は未来のスーパーヒーローだ。』

 

「えへへ、僕カッコよかった?オールマイトより?」

 

『流石に相手が悪いよ。』

 

「先生。そこは嘘でも『うん』っていうべきなんじゃないかな?」

 

『だって、君もヒーローファンなら知ってるだろう?オールマイトの強さ!頭脳!カリスマ性!僕も長生きしている方だが、彼ほどカッコいいヒーローはそういない!』

 

「いやまあ、気持ちはわかるけどさ〜。」

 

 推しへの想いを語る僕に、転孤くんはジト目を向ける。

 

『だが君も諦める事はない。少なくとも僕は、オールマイトよりカッコいいヒーローを1人知っている。』

 

「え?ホントに?誰?」

 

『いやまあ、これは唯の身内贔屓というやつさ。』

 

 脳裏に浮かぶのは、無個性ながらもヒーローを目指していた、自慢の弟の姿。僕にとっては与一だけが永遠のNo.1だ。

 

「っていうか、お父さん大丈夫かな?なんだかすっごく焦ってたけど。」

 

『・・・大丈夫さ。急な仕事でも入っちゃったんじゃないかな?』

 

 僕にも詳しい事は分からないが、孤太郎さんが経営する会社に泥棒が入ったらしい。

 

 事務所は荒らされていて、何が無くなったかも分からないんだとか。それを確認するために、孤太郎さんは警察に呼ばれたんだろう。

 

 急いで会社へ向かった彼からの頼みで、僕が転孤くんを家まで送る事になったというわけだ。

 

「ねえ先生。僕さ、もっともっと強くなりたいんだ。お父さんをもっと安心させられるように。」

 

『うんうん。いい目標と目的だ。』

 

「だからさ。また僕の先生をしに来てくれる?」

 

『・・・・・・』

 

 純粋な瞳が僕を真っ直ぐに射抜いていた。

 

『すまない転孤くん。それはできないんだ。多分会うのはこれが最後になると思う。』

 

 僕は魔王。

 

 転孤くんのような未来ある少年と、長く一緒にいるわけにはいかない。そもそも近いうちに、僕がグラントリノでない事はバレるだろう。

 

 そして今回の計画が上手くいけば、僕は連合ごとオールマイトに叩き潰され、タルタロスへまっしぐら。

 

 どのみち転孤くんとはこれでお別れだ。

 

「何で?何でもう会えないの?やっぱりお仕事が忙しいから?じゃあ、たまにでもいいからさ、また僕の先生になって、」

 

『僕の役目はもう終わったんだ。君ならもう、自分1人の力でやっていける。』

 

 彼の頭をそっと撫でる。

 

『君の未来を信じているよ。転孤くんなら、どんな人も笑顔にできる、そんな真のヒーローになれる。必ずね。』

 

 そう言い残し、魔王はクールに去るとしよう。おっといけない。一番大事な事を忘れていた。

 

『転孤くん。この手紙を君に託そう。』

 

「え、なにこれ?」

 

『本当なら別の相手に渡すつもりだったんだがね。』

 

 そう。本来ならポストにでも投函し、志村菜奈に直接渡るようにしたかったのだが、彼女は今日、本物のグラントリノと外出中。

 

『今日のことでプランを変えた。君になら安心して託せそうだ。』

 

 今日一日で、転孤くんはかなりしっかりした子だと分かった。彼ならば僕の脅迫文の意味を理解し、然るべき所に届け出てくれる事だろう。

 

 師匠の孫にちょっかいをかけていたと知れば、オールマイトの怒りも倍プッシュ。

 

 きっとやる気満々で、敵連合を潰してくれるに違いない。

 

『頼んだよ転孤くん。』

 

「うん。任せてよ先生。」

 

 決意に満ちた表情で、転孤くんは手紙を受け取る。正直ただのお使いにそこまで気合を入れなくてもいいのだが、やる気があるのはいい事だ。

 

『さらばだ。若きヒーローよ。』

 

 さて。これでミッションコンプリート。後はアジトに戻って、オールマイトの歓迎準備でもしておくか!

 

 エアウォークのスキップで、僕は意気揚々と志村家を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

『楽しみだな〜。そろそろかな〜。』

 

「年甲斐もなくウキウキじゃな。先生。」

 

『ああ。仕込みがようやく終わったんでね。今はこうして結果を待っているところなんだ。』

 

「仕込み?例の志村家の件か?まあ、先生のことじゃ。どうせ碌でもないことを考えているんじゃろうなぁ。」

 

 何かをブツブツと言いながら、ドクターは何処かへ歩いて行きそうになる。

 

『待ってくれドクター。今日一日。このアジトからは絶対に出ないと約束して欲しいんだ。』

 

「ん?一体どうしてじゃ?」

 

『と、とにかく。僕の命令には従ってもらうよ。』

 

「あ、ああ。先生がそこまで言うからには、何か考えがあるんじゃろう。分かったよ。」

 

 これで良し!

 

 ドクターがこのアジトから出ないように、しっかり見張っておかないとな。折角オールマイトを呼び込めても、彼に逃げられたんじゃ意味がない。

 

 今日こそ必ず、全てに決着をつけてやろう。

 

『さあ来い!平和の象徴!君に倒すべき魔王はここにいるぞー!』

 

 

 

 

 

 

 

『どうしたー、オールマイトー!僕はずっと待ってるぞー!おーーーい!まだなのかー!オールマイト!』

 

 オールマイトがー、来ないー!

 

 来ない。全然来ない。2時間ほど待っているのに、オールマイトの姿は影も形もない。

 

 転孤くん。ちゃんと手紙を渡せてないのか?いくらしっかりしてたって、彼はまだ5歳。ちょっとしたミスがあってもおかしくない。

 

 よし。もういっそ、現地へ確認しに行っちゃおう〜!

 

『ドクター、僕ちょっと行ってくる〜!』

 

「なっ、先生!?」

 

 エアウォークで、急いで志村家へと戻った僕は、すぐに異変に気が付いた。

 

 ベランダの窓が割れている。

 

『えっと〜、お邪魔しまーす。魔王のAFOです〜。』

 

 名乗りながら不法侵入を果たした僕は、静まり返った志村家を練り歩く。

 

 外側からは分からなかったが、家の中は見るも無惨に荒らされていた。壁や床には無数の傷跡ができ、家具は壊れてチリチリと火花を立てている。

 

 一体、何があったんだ。平和なはずのこの場所で。

 

『あ、転孤くん?』

 

 荒れ果てた家の中に、1つの見知った人影。僕に気づいてすらいない彼の表情は、絶望で塗りつぶされていた。

 

「僕、僕、僕っ!」

 

 転孤くんはボリボリと自分の目元を掻いていく。血が噴き出るほどに激しい手つきで。

 

「どうしよう。っ、ど、どうしたらっ、」

 

 転孤くんの引っ掻き傷は、できた側から癒えていく。アレは確か、僕の与えた回復の個性か?

 

「誰か、助けてっ!」

 

 僕はあの日の後悔を一生忘れる事は無い。

 

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