引退したいオールマイト vs 自首したいAFO vs 何も知らない緑谷出久   作:バケギツネ

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AFOは回想したい。その3。

 

 

『もう大丈夫だ、転孤くん。何故って?僕が君のそばにいる。』

 

「せん、せい...?」

 

 ひょんな事から志村家に戻ってきた僕を待っていたのは、絶望顔の転孤くんだった。

 

 ベランダの窓は割れていたし、家の中はズタボロだし、これはちょっとヤバそうだ。

 

 ひとまず転孤くんへのフォロー。泣き喚いている彼をそっと抱き寄せる。

 

「あのっ、あのねっ、先生。まず、ヴィランが、先生の言ってた怖いヴィランがうちに居て、」

 

 マジ?

 

 あの手紙の内容は口から出まかせというかなんというか。嘘から出た誠とはこの事か。

 

 幸い、転孤くんに怪我は無いようだ。他のご家族は見当たらないし、たまたま外出していて難を逃れたとかだろう。

 

 犠牲者が居なかったのは喜ばしいが、転孤くんのメンタルダメージは深刻そうだ。

 

「僕っ、僕っ、戦おうとして、」

 

『無理に喋らなくていい。ここであった事は全部分かってる。来るのが遅れてすまなかったね。』

 

 大体の状況は理解できた。

 

 志村一家に襲来したヴィランと転孤くんが戦闘になり、彼は見事にソイツを追い払ったんだろう。流石は転孤くんだ。 

 

「どうしよう先生、家族の皆んなが。僕、」

 

 だが転孤くんの顔からは不安が消えていない。それも当然か。自分の家を襲撃したヴィランが野放しなんだから。

 

 これでは、いつまた襲撃されるか分からない。そうなれば今度こそは、自分の家族に危害を加えられるかもしれないのだ。

 

 家族思いの転孤くんの事だ。もし仮に、不謹慎な仮定での話だが、姉の華ちゃん達に被害でも及ぼうものなら、闇堕ちもんのショックを受ける事だろう。

 

 返す返すも犠牲者が出なくて良かった。いやまあ、転孤くんがショックを受けてるのはアレだが、不幸中の幸いというやつだ。

 

『大丈夫。僕がこの手で取り戻してみせるさ。君たち家族が以前のように幸せに暮らせる、この家を。』

 

 僕が裏からちょいちょいっと手を回せば、志村家から逃亡したヴィランをとっ捕まえる事もできるはずだ。

 

 僕はともかく、僕の部下達は優秀だし。何とかなるか。うん。

 

「無理だよそんな事、叶いっこない!」

 

 しかし転孤くんは、僕の言葉を信じてはくれない。傷だらけの床に手をつき、そう叫んでいた。

 

 もしかして彼は、僕が偽グラントリノだと気付いてしまったのかもしれない。そりゃそうだ。あんなガバガバな嘘、寧ろ今までよくバレなかったなって感じだし。

 

 だとすると、今の転孤くんの態度も納得だ。どこの馬の骨かも分からんオッサンの言葉なんて、そりゃあ信じられるわけもない。

 

 よし、僕の正体を全部言うか。

 

『いいや。そんな事は無いさ。僕の力ならそれができる。魔王・AFOの力を信じてはくれないか?』

 

「魔王?AFO?っ、はぁ...?」

 

 肩書きが肩書きだし、転孤くんもドン引きしてるかもしれない。だが信用度なら、

 

 正体不明 < 魔王

 

 って感じになるはずだ。多分。きっと。

 

「こ、こんな時に、何冗談言ってんだよ先生!」

 

『いいや本気だ。ついでに僕は君のおばあちゃんを引退に追い込んだ張本人だ。』

 

「は、はぁ?」

 

 やばい口が滑った。でも、隠し事してた方が心象が悪いはず。だからコレは結果all right 、なのか?

 

 と、とにかく、説得説得ぅ!

 

『混乱する気持ちは分かる。だが、ひとまずこれだけは信じて欲しい。僕には、君の願いを叶えるだけの力があるんだ。』

 

「もう手遅れなんだよ!そりゃ僕だって取り戻したい!またこの家で華ちゃん達と、仲良く一緒に暮らしたいよ!でも、もうっ、」

 

 おや?何か転孤くんの個性が発動してないか?

 

 彼本人も気付いていないようだが、彼の手を中心に“回復”の個性が家中に伝播しているっぽい。

 

 あの個性は転孤くんにピッタリだと思っていたが、僕の目に狂いは無かったようだ。手に入れたばかりの個性をここまで拡張させているとは。

 

 ところで、回復の個性を家に使ったらどうなっちゃうんだ?

 

「え?」

 

 転孤くんと僕が一緒になって戸惑う中で、家中の傷跡がみるみるうちに癒えていく。“回復”の個性でそんな事もできるのか!?

 

 アレは元々、治す・戻す・巻き戻すみたいな概念を内包した個性。転孤くんという相性バッチリな器を見つけた事で、フルスペックを発揮しているのかもしれない。

 

 流石に今の転孤くんじゃ上手く制御はできていない。だが、将来使いこなせるようになれば、雄英のリカバリーガールを越える、最高の“ヒール”役になる事だって、

 

 あれ?

 

『て、天狐くん。顔をあげてくれないか?』

 

 僕に確認を求められ、転孤くんはゆっくりと顔をあげる。

 

「え、え?」

 

 完全修復されたリビングに、スヤスヤと寝息をたてる志村一家の4人組が、突然現れていたのだ。

 

 えっと、これも回復の個性の一環、なのか?

 

 とりあえずひと通り診てみよう。

 

『だ、大丈夫そうだ。君の家族はちゃんと息がある。目立った傷も無い。今は眠っているようだが、じきに目を覚ますだろう。』

 

「ありがとう...!」

 

『え?』

 

 何か転孤くんにめっちゃ感謝されてる。僕はただ、簡単に彼の家族の生存確認しただけだ。

 

 そこまでお礼を言われる程の事はしていない。

 

「ありがとう!ありがとうっ!」

 

『え、あ、』

 

「ありがとう!ありがとぉ、ありがとぉ!ありがとおおお!」

 

『う、うん。ん?』

 

 何だか転孤くんの様子がおかしい。ありがとうbotになってしまった。

 

 なんで?

 

「僕っ、僕っ、回復の個性が暴走して、華ちゃん達を消しちゃって、先生が助けに来てくれなかったら、どうなってたかっ、ありがとう!本当に、ありがとう!!」

 

 ・・・ん、んん〜?

 

 何か凄い事言ったぞ。転孤くん。回復の暴走?消しちゃった?

 

 なるほどなるほど。これまでの情報を総合的に判断して、僕もようやく真相へと辿り着けた。

 

 結論を言うと全部僕が悪い!!!!!

 

 回復の個性は転孤くんとの相性が良すぎたのだ。この家で起こったのは大体こんな流れだろう。

 

①ヴィランの襲撃

 

②回復の個性暴走でヴィランと志村一家が消滅

 

③僕が来た

 

④転孤くんの回復が再び発動し、家と家族を復活させる。

 

⑤転孤くんは、家と家族を復活させたのは僕だと勘違い。

 

 どうしてこんなややこしい事に。うん。1億万%僕のせいだ。僕が彼にあんな個性を渡さなければ。そもそも志村一家に近づかなければ。

 

 あれ?でも、僕に関係なく、志村一家はヴィランに襲撃されてたわけで、もし回復の個性がなければ志村一家は皆殺しにされてたわけで、

 

 いや言い訳はよそう。

 

 やっぱり僕のような悪党は、とっととタルタロスにぶち込まれるべきらしい。

 

『と、とりあえず転孤くん。君は家族のそばにいてあげて、』

 

「いや、でも、」

 

『あ、あれ?転孤くん?』

 

 家族に近づこうとした転孤くんだったが、ピタリと動きを止めて震え始める。

 

 彼はジッと自分の掌を見つめていた。

 

『あ、あの、転孤くん。説明するとややこしいんだが、君はちっとも悪くなくて、』

 

「いや、僕がっ、僕が悪いんだよ!僕がこの手で華ちゃん達に触れて、個性を使っちゃったから!」

 

『いやっ、だからその個性も、元を辿ると僕が与えたもので、』

 

「与えた?確かに先生は僕に眠ってたこの個性を見つけてくれたけど、悪いのは、上手く制御できなかった僕で、」

 

『いや、与えたっていうのはその、文字通りの意味というか、』

 

 マズイぞ。転孤くんは優しいからこそ、自分が大好きな家族を傷つけたという勘違いに、途轍もなく苦しめられている。

 

 このままでは、彼がその手で大好きな家族に触れる事すらできなくなってしまうかもしれない。

 

 それだけはダメだ。

 

 全ての元凶として僕にできる事は何だ?無い頭を捻って考えろ!

 

 事実をそのままに伝えても、転孤くんの心には、僅かな罪悪感が残ってしまうだろう。それはきっと、優しい転孤くんの心を内側からズタズタに傷付ける。

 

 それもダメだ。

 

 彼の心からは、罪悪感を完全に拭い去る必要がある。そのためには別の感情が必要だ。心を染め上げてしまうくらいのもっと強い感情が。

 

 例えばそう、全ての元凶であるこの僕への憎悪とか。

 

『ふふふっ、ふははははは!』

 

「せ、先生?」

 

 いきなり高笑いし出した僕に、転孤くんはギョッとしている。

 

 僕にも存外、演技の才能があるのかもしれない。今はただ全力で演じよう。あの日、与一と一緒にコミックで読んだ、極悪非道な魔王の姿を。

 

『いやぁ〜すまない。最後まで黙っているつもりだったんだがね。君が余りにも素直に騙されるものだから、ついつい笑いを抑えられなくてwww』

 

「騙す?先生は、何を言って、」

 

『全て自分が悪いだって?貴様程度が悪を騙るな。身の程と恥を知れ、愚かな志村転孤よwww』

 

「っ、分かんないよ!先生が何を言ってるのか、僕、全然分かんない!」

 

『君はただ僕に導かれただけさ。何一つ、自分の意思で選んでなどいない。君に取り入り近付いて“回復”の個性を無理やり与え、それを遠隔で暴走させた。そう、全ては僕の壮大な陰謀だったんだよ!ふふふふふwww』

 

「・・・・・・」

 

 転孤くんは絶句している。僕への怒りでその心は煮えたぎっている事だろう。これで彼も自分には一切非がないと分かってくれたはずだ。

 

 さて、この後僕は転孤くんにボコボコにされて、警察へと引き渡されればいい。そうなれば転孤くんも、この事件を乗り越えて、前へと進めるはずだ。

 

 僕の迫真の演技がバレる事もないだろう。今回ばかりは完璧な計画だ。

 

「先生、なんでそんな嘘つくの?」

 

『えっ...!?』

 

 マズイ、僕の完璧な計画が崩れた!

 

『う、嘘ぉ?な、ななな、何を言っているんだ君は。どうしてそんな事を、』

 

「勘。先生が悪い人だなんて、どうしても思えないんだ。」

 

 君の目は節穴か転孤くん!?僕は魔王。極悪人の中の極悪人だぞ!

 

『こ、これだから、おバカなお子様は。今日、君に優しくしてたのだって、信用させるための演技で、そ、そうだ!』

 

 僕は忘れないうちに、転孤くんの頭に手を触れ、回復の個性を回収する。

 

『危ないから、いや違う。えっと、君に持たせると戦力として危険だから、回復の個性は没収させて貰うよ。』

 

「あ、個性取れるの“は”本当なんだ。」

 

『いや、全部ホントだから!!!』

 

 ダメだ転孤くん、全然僕の話を信用してくれない!

 

『そ、そうだ。当たり前の話だが、個性というのは本来の持ち主が使った方がその真価を発揮する!』

 

 僕は早速、回収したての“回復”の個性を使用する。

 

『見せてあげよう!君のような仮初の器とは違う、真の持ち主が発揮する“回復”の圧倒的な性能を!』

 

 僕は肌年齢が1歳若返った。

 

『・・・・・・・』

 

「先生、もうやめてよ。」

 

『いや、これは違くて!!!!』

 

 そもそも僕だって、本当の持ち主じゃないし、他人の個性を上手く使える程に器用でもない。それをすっかり失念していた。勢いでイケるかもとか思ってしまった。

 

 今の失敗のせいで、“回復は元々転孤くんに眠ってた力“、みたいになってしまったかな?本当は違うのに!

 

「そもそも、さっきの先生の話、なんかガバガバだし、」

 

『な、なんだってぇ!?』

 

 僕が30秒で考えたあの筋書きがガバガバだって?そんなはずは無い。多分、きっと、おそらくだ!

 

「そもそも何で、こんな陰謀なんて?」

 

『え?それはー、あー、そう!オールマイトへの嫌がらせだよ!君のおばあちゃんは、オールマイトと親交があるから!』

 

「じゃあ、もっといいやり方あったでしょ。回りくどすぎるって。」

 

『そこを突かれるとちょっと痛い、あ、いや。で、でも、なんか魔王ってそんな感じだろう?回りくどい手を使った方が魔王らしい?っていうか、』

 

 どんどん雲行きが怪しくなってきた。僕への憎悪で満ちるはずだった転孤くんの瞳には、何故だか僕への憐憫の色が浮かんでいる。

 

 このままではマズイ。憎め!もっと僕を憎むんだ転孤くん!

 

『わ、忘れたのかい?僕は君のおばあちゃんを、引退に追い込んで、』

 

「それだって、何か深い事情があったんじゃないの!?」

 

『いや、ないってそんなの!』

 

 そうだ。志村家を襲ったっていう謎のヴィラン。奴の存在を利用させてもらおう。

 

『じ、実はね、君の家を襲撃したヴィラン。アレも僕の差金だったのさ!』

 

「それ、本当?」

 

『ほ、本当だよ!実はそのヴィラン、20年以上僕に仕えている、右腕みたいな存在でね!』

 

「じゃあ、どんなヴィラン?」

 

『・・・え?』

 

「先生が送り込んだんだよね?右腕みたいな存在なんでしょ?じゃあ言えるよね。ソイツがどんな特徴か。」

 

 やばい。僕は結局、志村家を襲撃したヴィランの素性が分かっていない!もうおしまいだ!うわーーん!

 

 と、並の魔王なら慌てふためいていた事だろう。だが僕は芸歴だけは長いベテラン魔王。

 

 こういう時の切り抜け方くらい心得ている。

 

 どんなヴィランにも当てはまるような曖昧な特徴を挙げればいいのだ。占い師なんかが使っているバーナム効果というやつだ。

 

『えっと、眼つきが悪くて、』

 

「アイツの眼、隠れてたよ。」

 

『・・・・・・』

 

「・・・・・・」

 

 もうおしまいだー!うわーん!

 

「先生もういいよ。僕を庇うために、わざと悪役してるんでしょ?」

 

『いや、その、』

 

「本当のことを話してよ!お願い!」

 

『あ、だから、』

 

「先生が僕を信じてくれたみたいに、僕の事も信じてよ!先生!」

 

『と、とにかく、悪いのは全部僕!君は何にも悪くない!はい論破!』

 

 5歳児相手に言い合いで勝てないと判断した僕は、戦略的撤退を決意する。そして、玄関を目指す途中で、何かヤバそうなヴィランが転がっているの見つけた。あ、コイツか。志村一家を襲撃したのは。うん。確かに着ている拘束具で目隠れてるわ。もっと早く気づいていれば。

 

 転孤くんの回復が家に伝播した影響で、ついでに甦ってしまったのだろう。個性を没収した上で、抱えて一緒に外に出る。気絶していてくれて良かった。僕じゃちょっと勝てそうにないし。

 

「待ってよ、先生!僕っ、」

 

 転孤くんの声を振り切り、エアウォークで逃亡を図った。

 

 竜巻の個性で僕を追おうとする転孤くんだったが、流石に疲労が溜まっているのか、精神が不安定で制御が効きづらいのか、スピードが遅い。

 

 これなら、何とかギリギリで振り切れそうだ。

 

『ふっふっふ。残年だったね転孤くん!僕はこのまま、オールマイト事務所に乗り込む!そして洗いざらい真実を喋るつもりさ!君は利用された哀れな被害者!僕が全ての元凶だってね!ふっふっふ!』

 

 勝利宣言と共に僕は志村家を後にする。振り返るまでもない。これで転孤君を完全に撒けたはずだ。

 

 これから僕は宣言通りに、オールマイトの事務所へと直行し、悪逆の限りを自供しよう。オールマイトにそれを信じ込ませ、転孤くんへと説明させれば、いくら頑固な彼でも真実に気付いてくれるだろう。

 

 それで志村一家の一連の騒動も、無事に終息するはずだ。

 

 

 ・・・当時の僕はそんな風に呑気な事を考えていた。

 

 この後に起こった事はすでに語った通り。

 

 オールマイト事務所に辿り着いたものの、運悪くそこには誰も常駐していなかった。仕方がないので、ヴィランをそこに置き去りにし、第二候補のエンデヴァー事務所にでも乗り込もうかと考えていたら、近くの空き地でばったりとオールマイトに遭遇。

 

 僕は、彼が恐ろしい復讐鬼だと知って、ビビって自滅。

 

 そのまま13年間を眠り続けた。

 

 だが僕も目覚めてから、志村一家の事はちゃんと調べたのだ。

 

 見つかったのは、グラントリノを名乗る不審者について、警察へと相談した記録だけ。ヴィランによる一家襲撃や魔王・AFOの暗躍については、一切表沙汰になっていなかった。

 

 それは少し気になったが、転孤くんが蘇生した4人にも後遺症はなく、転孤くん自身も元気で、数年前に士傑高校の普通課に受かった事も調べがついている。

 

 あの家族はもう大丈夫、そんな風に思って、僕は自分の自首計画に着手したはずだったのに。

 

「僕の名は死柄木弔。敵役(ヒール)だ。」

 

 USJで再開する事になったのは、変わり果てた姿となった転孤くんだった。

 

 

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