引退したいオールマイト vs 自首したいAFO vs 何も知らない緑谷出久 作:バケギツネ
◇
AFO。そう名乗った僕の先生は、僕が消してしまった家族と家を元通りにしてくれた。
たとえ魔王でも、誰が何と言おうとも、あの人は僕にとってのヒーロだったんだ。
なのに、
『と、とにかく、悪いのは全部僕!君は何にも悪くない!はい論破!』
先生は僕の罪を全て被ろうとしていた。多分、僕の心を守るためだ。
流石に僕もあんなお粗末な演技には騙されないのに。
「待ってよ、先生!僕っ、」
竜巻の個性で追おうとするけど、こんな時に限って調子が悪い。
『ふっふっふ。残年だったね転孤くん!僕はこのまま、オールマイト事務所に乗り込む!そして洗いざらい真実を喋るつもりさ!君は利用された哀れな被害者!僕が全ての元凶だってね!ふっふっふ!』
このままじゃ先生は、謂れのない罪を背負ってしまう。そんなのは嫌だ。あの人にはまだ、言いたい事が沢山あるのに。
「はぁはぁ、先生、クッソ。」
先生の姿はすっかり見えなくなってしまった。でも、その行き先がオールマイトのヒーロー事務所だというのは分かっている。
僕もそこに向かえばいいんだ。
『私が来てないー!私が来てないー!私が来てないー!私が来てないー!』
「あーもう!」
持ってきた携帯でオールマイトの事務所に電話をかけたけど、相変わらず聞こえてくるのはウザい留守電音声。予め事情を話しておこうと思ったのに、これじゃあそれも無理そうだ。
オールマイトの事務所には、世界各地から仕事の依頼が届いているという。そのせいで彼が忙しいのは分かっている。
でも、僕がこんなにも助けを求めているのに、ヒーローはその手を取ってくれない。家がヴィランに襲われるって、近所のヒーローに助けを求めた時もそうだった。それが何だかもどかしい。
先生は僕を助けに来てくれたのに。
「えっと、オールマイトの事務所、この辺りのはずなんだけど、っ!?」
オールマイト事務所から、少し外れた所にある広い空き地。その場所で大爆発が巻き起こった。
「なんだよ、あれ?」
ゆっくりと飛行したまま、恐る恐る爆心地へと近付いて行く。
『はぁはぁ、はぁはぁ!』
爆発で起きた煙の中から、大きな人影が飛び出してきた。
「アレは、オールマイト?」
そう言えば、オールマイトのパンチ一発はダイナマイト数千個分に匹敵するみたいな噂を、どこかで聞いた事がある。
だとすれば、さっきの大爆発はオールマイトの攻撃によって起きたものと考えていいだろう。
「あの、オールマイト!オールマイト!」
必死に呼びかけたけど、彼は僕の声など耳に入っていない様子で、走り去ってしまった。
明らかに様子がおかしい。そういえば先生はどこだろう?あの人はオールマイトを探していたはずで、
「まさか...!」
嫌な予感がした。
「先生、先生!どこにいるの!?先生!」
そこに居て欲しくない。そんな願いとと共に、瓦礫の中を探し回る。結論から言うと、僕の願いは叶わなかった。
「先生っ!!!」
爆心地の中心で先生は倒れ込んでいて、その姿は見るも無惨なものだった。顔の半分以上が完全に消し飛んでいる。
「一体、誰がこんな、」
いや、そんなの考えるまでもない。先程現場から逃げ去った平和の象徴・オールマイトがやったんだ。
多分先生は、僕の罪を被るために、自分が志村家で暗躍した事をオールマイトに話したんだろう。おばあちゃんと親交のあったらしいオールマイトはそれを聞いて激昂、
『覚悟しろAFO!貴様の薄汚い命でその罪を贖え!!!』
とばかりに、先生の顔をSMASHで抉り取ったんだ。
「なんでっ、なんでだよっ、オールマイトォ...!」
ヒーローとしてヴィランに立ち向かうのは当然だ。師匠の家族への仕打ちに腹が立つ事も、その発端が僕である事も、理解はしている。
でもこれは、明らかに度が過ぎていた。
恐らくは無抵抗だったであろう先生を一方的に攻撃して重傷を負わせ、救護を要請する事もなく、放置する。
明らかにオールマイトには殺意があった。
ヒーローとしての懲戒どころか、犯罪として立件されてもおかしくない所業だ。
それが分かっていたからこそ、オールマイトは逃げるように、現場から立ち去ったんだろう。
彼ほどのヒーローが、爆発にビビった挙句、倒れている先生にも気付かないで無我夢中で逃げ出した、なんて事もないだろうし。
「これがっ、ヒーローのする事かよ!」
憧れが崩れていく。
オールマイトは沢山の命を救ってきたNo.1ヒーロー。
先生は世界に恐れられる最悪の魔王。
多くの人たちにとっては、それが真実なんだろう。でも、僕にとってはそうじゃない。
先生こそが僕の大切なものを守った正義で、オールマイトこそが僕の大切な人を奪った悪だった。
「クッソ、なんでっ、こんなっ!」
先生の傷口に手を触れる。しかし時間は巻き戻らない。先生が僕の安全のために、回復の個性を取り上げたんだから、当然だ。
一度は家族を消したあの力が、今更になって惜しくなる。
「先生っ、目を覚ましてよ!先生!」
「なんじゃ、これは?」
背後から聞こえてきた、しわがれた声。振り返ると、白髭を蓄えた小柄な白衣の老人が、呆然とそこに立っていた。
「先生...?バカな。一体、何が起きて、」
それこそが、僕と“ドクター”の初めての出会いだった。