引退したいオールマイト vs 自首したいAFO vs 何も知らない緑谷出久   作:バケギツネ

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死柄木弔:オリジン。その3。

 

 

「先生、すまんのぉ。」

 

 重傷を負った先生は、ワシの応急処置によって、何とか一命を取り留めた。

 

 とはいっても、首の皮一枚を何とか繋げているような状態。目が覚めるのがいつになるかも分からんし、このまま死んでもおかしくは無い。

 

 己の無力さをこれ程呪った事は無い。

 

「待たせてすまなかったのぉ。えっと、転孤くんじゃったか。何があったのか、詳しく聞かせてくれるか?」

 

「うん。えっと、」

 

 現場に居合わせた少年から話を聞く。リストにあった顔だ。かつて先生が打ち倒した志村菜奈の孫である。

 

「なるほどのぉ。そんな事が。」

 

 彼の話で今回の全体像が見えてきた。

 

 やはりと言うか、先生を追い詰めた下手人はオールマイトだった。あの先生がたった1人のヒーロー相手に敗れるなど、いまだに信じられん。

 

 だが、事実は事実。ありのままに受け止めて、先に進まなくてはならない。

 

 先生自身も敗北を予期していたのだろう。だからこそ、後継者として志村転孤に目を付けたのだ。

 

「先生は、何も悪く無いんだ。全部僕の、僕のせいで、」

 

 ヒーローの孫であるはずの彼は、魔王である先生にすっかり心酔していた。

 

 そうなるまでの経緯を、転孤自身から聞いたが、余りにも出来すぎている。志村一家に起こった一連の悲劇は、全て先生の入念な仕込みによる自作自演なのだろう。

 

 血筋、才覚、ヒーローへの不信感、力への渇望、オールマイトへの憎しみ、先生への忠誠心。

 

 彼は余りにも、“次の先生”になるために必要な要素で満ちていた。たった1日でこれ程の器を仕上げてしまうのは、流石の手腕というべきか。

 

 どうせなら、取り残されたワシらの思いも少しは考えて欲しかったものだ。

 

「僕、どうすれば、」

 

「・・・志村転孤くん。」

 

 これでもワシは、先生の部下の中で仕えている歴がダントツだ。あの人の考えそうな事なら、手に取るように分かる。

 

 きっと先生ならば、この幼い少年の純粋な憧憬すらも野望の贄とするはずだ。

 

「君は先生に選ばれたんじゃよ。次の魔王としてのぉ。」

 

「次の魔王?」

 

「君にはあるか?先生の意思を受け継ぐ覚悟が。」

 

 志村転孤には選択肢を提示する。選ぶ余地などない事を分かった上で。

 

「・・・そんなの、決まってる。」

 

 

 

 

 

 ドクターというおじさんから話を聞いて、僕は“魔王”と彼の率いる“敵連合”の正体を知った。

 

 数多の反社会勢力を纏め上げ、その勢力を拡大させている割には、市民やヒーローに危害を加えたという記録は無い。

 

 むしろ首領たるAFOの鶴の一声で、そういったカタギへの手出しは全面的に禁止されていた。

 

 ドクターは、『先生はアレでも慎重な男だ。決起の時が来るまでは、目立つ事を嫌っておるんじゃろうなぁ。』などと分析してたが、ヴィランにしては余りにも不自然。

 

 おまけに、ヴィラン連合以外の反社会組織に対しては、ガンガン喧嘩を売って潰しているのだ。その際も、殺しはなるべく避けるように徹底されている。

 

 これらの情報から僕は悟った。

 

 AFOとは、恐怖の魔王を演じて凶悪な部下達を騙し、法と職業ヒーローでは裁けぬ悪と戦って、個性社会を陰ながら守ってきたダークヒーロー的な存在なんだと。

 

 そう考えれば、ヴィランとしてはチグハグな先生の行動にも合点がいく。僕の家が襲撃される事を察知して事前に警告してくれたのも、その活動の一環だったのだろう。

 

「君にはあるか?先生の意思を受け継ぐ覚悟が。」

 

「・・・そんなの、決まってる。」

 

 魔王の不在を理由に、彼が押さえつけていた極悪人の部下達や、他の犯罪組織が何をしでかすか分からない。

 

 先生を終わらせてしまった者として、彼が目を覚ますまで、僕は次の魔王を務める責任があるのだ。

 

「僕は必ずなってみせるよ。先生のような魔王に。」

 

 そう。必ずなってみせる。汚名を背負い、どんな人にも手を差し伸べて救い出す、先生のような真のヒーローに。

 

「ほっほっほ、やる気があって結構じゃ。お主がどんな成長を遂げるかが楽しみじゃわい。いずれ目を覚ます先生を、せいぜいビックリさせてやるといい。ところで君の身体は、どこまで改造していいかのう?」

 

「ん?」

 

「え?」

 

「んん?」

 

 とりあえず、敵連合で1番ヤバいのはこのジジイだ。

 

 個性複製、改造人間、組織の指揮権限に独自の人脈、極め付けに危険な思想。

 

 僕が手綱を握ってないと、このジジイは世界を3回くらい滅ぼす気がする。でも、味方にさえつければ、これ程心強い存在もいない。

 

 先生もそれが分かっていたからこそ、ドクターの前では敢えて極悪人を演じて、自分の指揮下に置こうとしたんだろう。

 

「ところで、オールマイトへの報復はどうする?ギガントマキアに、ヒーロー事務所でも襲わせるか?」

 

「い、いや、オールマイトは先生を倒す程の強さだし、その巨人さんを今失うわけにはいかない。山とかに隠しておいたら?」

 

「ほぉ。先生に似て慎重派じゃのう。大局が見えている。良かろう。マキアは先生の言う事しか聞かんが、それはワシの方で何とかしておこう。」

 

 本当に、本当に危なっかしいな、このジジイ!今僕は止めてなかったら、どれだけの大惨事になっていたか。

 

 僕だって、オールマイトを恨む気持ちが無いわけじゃない。でもその憎しみに、関係のない人を巻き込むのは気が引ける。

 

「さあ、次はカモフラージュじゃな。着いてきなさい志村転孤。」

 

「カモフラージュ?」

 

「明日から君は、次期魔王としてミッチリ鍛えさせて貰う。当然家には帰れなくなるが、それだと騒ぎになるんでな。カモフラージュ用に、君を“2倍”にしておく。」

 

「はぁ?」

 

 次に僕が連れて行かれたのは、オフィスビルの一角。

 

「えっと、俺、分倍河原仁っつーんだ。よろしくな、坊主。」

 

 対面したのは、金髪をかきあげたちょっと強面のお兄さんだった。

 

「あ、どうも。志村転孤です。」

 

「こらこら。本名を名乗ってどうするんじゃ。さて、時間もないし早速始めよう。」

 

 ドクターに嗜められながら、まず僕は服を脱がされる。そのまま身体中のサイズを、仁さんにメジャーで測られ始めた。

 

 何だこの、何?

 

「悪いな坊主。いい気分はしねえだろ。ただ、俺の個性のためには、正確な数値が必要なんだ。」

 

 ドクターが言っていた。仁さんの個性は2倍。測ったものを増やせるんだとか。

 

「仁さんはさ、どうしてここで働いてるの?」

 

「まー、色々あってな。測られてる間は暇だろうし、話してやるよ。」

 

 仁さんはヴィラン犯罪で親を亡くし、16歳にして働き始めた偉い人だった。

 

 ある日彼は、その仕事中の運転で先生を撥ねたらしい。

 

『うぎゃっ!!!!』

 

 当時、仁さんが勤めていた会社の代表取締役を担っていたのが、先生だったのだ。当然、仁さんの上司は大激怒。

 

「おい分倍河原!おまっ、何て事をしてくれたんだ!AFOをっ、車で撥ねっ、撥ねっ撥ねっ撥ね撥ね撥ね撥ねぇ!?俺たちはおしまいだ!明日には一家浪党皆殺しにされて、」

 

『ハハッ、そんなひどい事はしないさ。ゲホッ、それに魔王が車に轢かれたくらいで、ゴホッ、死ぬわけないだろう?カハッ、ただ、ここだと目撃者も多いし、カモフラージュのために、救急車を呼んでくれるかな?なるべく早く。』

 

 なのに先生は自分を轢いた仁さんを笑って許した。その後も、仁さんが会社から冷遇されないように、裏から手を回していたという。

 

「それだけじゃねえんだ。AFOは、ドクターっていう偉いお医者さんともども、俺の個性の相談にも乗ってくれてよ。今の俺があるのはあの人のお陰なんだ。だからその恩返しにこうやって協力させて貰うんだよ。」

 

 彼もまた先生に救われた1人だったのだろう。

 

「よし。終わったぞ、坊主!」

 

 話と同時に作業の方も終わったらしい。目を開けると、僕と瓜二つの少年が形を成していた。

 

「「す、すげ〜!」」

 

 双子のようにコピーは僕と同じ反応をしてくれる。双子のように本体は僕と同じ反応をしてくれた。

 

「さて。コピーの方は志村家に戻しておこう。定期的に新たなコピーと入れ替えながら、志村転孤として生活させる。」

 

「・・・そっか。家族を頼んだよ、僕。」

「うん、任せてよ。僕。」

 

 僕は僕に家族を託す。僕は僕から家族を託された。

 

 今更ながら実感が湧いてくる。今更ながら実感が湧いてきたんだろう。僕はこれから志村転孤でない何者かとして生きていくんだと。アッチの僕は志村転孤でない何者かとして生きていくんだろうと。

 

「・・・なあ、坊主。人生の先輩として。アドバイスっつーか。いや、サイズ測っただけだし、お前がどう言う奴かもよく分かんねえんだけどさ、その、アレだ。」

 

 考え込んでいた僕に仁さんが声をかけてくれる。考え込んでいたアッチの僕に仁さんが声をかけてくれた。

 

「“自分”っつーのだけは、見失わねえようにしろよ。」

 

 

 

 

 

 

「コピーの君は、家に着いたようだ。家族の方もヴィランの記憶を失っていたらしいから、大した騒ぎにはならんじゃろうて。」

 

「そっか。」

 

「さて。今日からはここで暮らして貰うとしよう。」

 

「うん、分かった。」

 

 本体の僕が案内されたのは、ドクターが経営する病院の地下。そこに隠されていた秘密のラボだった。

 

 家族と離れて迎える夜は、ひょっとしたら生まれて初めてかもしれない。

 

 コピーの僕はうまくやっているだろうか。アッチも僕には変わりないんだし、バレる事もないと思うけど。

 

 やっぱり寂しいな。

 

「1人で眠るのは寂しいか?ぬいぐるみ代わりに、ジョニーちゃんとユカちゃんでも抱いて寝るかのぉ?」

 

「いや結構です。」

 

 その2体が何なのかは分からなかったが、人間ではなさそうだったのでお断りしておく。

 

「意外と抱き心地がいいというのに。そうじゃ、寝る前に1つ聞いておこう。君の名前じゃ。」

 

「名前って。僕は志村転孤で、」

 

「魔王として本名を名乗るわけにもいかんじゃろう。人は何事も形から入るもの。君のヴィランネームを決めておこうと思ってのう。」

 

「名前を決める、か。」

 

 ずっと前から名前なら幾らでも考えていた。

 

 サイクロン、エアロスター、旋風騎、ヒュルリラ、風神、ブリーズ。

 

 将来の自分を夢想して、幾つも幾つも考えた。でも、それはヒーローとしての名前だ。

 

「さあ教えてくれ。君がなりたい悪の姿を。」

 

 僕だって、志村転孤という名前に、大好きな家族との日々に、愛着がないわけじゃない。

 

 でも、前の僕は失敗した。志村転孤のままでは大切な物を守れなかったんだ。

 

 だから変わりたい。

 

 その手をどこまでも伸ばすことができて、大切な物を絶対に手放さない、そんな存在へと変身したい。

 

 僕を助けてくれた先生みたいな。

 

「ねえドクター。先生の本名って知ってる?」

 

「・・・ほう。いいじゃろう。彼の名前は死柄木全。そう聞いておる。」

 

「そっか。じゃあ決まったよ、僕の名前。」

 

 志村転孤の人生と僕の家族はアッチの僕へと託してある。だからこっちの僕からは志村転孤を抹消しよう。

 

 何もできなかったあの時の弱い僕は、今日、ここで殺して弔んだ。

 

「僕の名前は、死柄木弔。」

 

 お父さんに個性を披露する際に、先生がくれた耐空用の防護服と呼吸器を兼ねた黒いマスク。その装備で全身を覆って、志村転孤を塗り潰した。

 

「先生。僕を見ていてくれ。」

 

 そう。これは僕が最高最悪の悪役(ヒール)を目指す物語である。

 

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