引退したいオールマイト vs 自首したいAFO vs 何も知らない緑谷出久   作:バケギツネ

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死柄木弔は従えたい。

 

 

 

『よお、俺は白霧。よろしくな、死柄木弔!」

 

「あ、ああ。よろしく。」

 

 アッチの志村転孤が高校を卒業する頃。

 

 敵連合のリーダーとして世界各地で動いていた僕の元に、ドクターからの遣いが送られてきた。

 

 パッと見で人間じゃないと分かる奴は、明らかに改造人間の脳無。ドクターの話では、先生が10年以上前に救出していたヒーロー科の学生を、本人の許可を得た上で改造したらしい。

 

 その調整がようやく終わったから試験運用がしたいとかで、僕の元に無理やり送りつけてきやがった。

 

「先生は、脳無の素体の感情を重視しとったからのぉ。白霧にもその特徴が色濃く出ている。面倒見の良い奴なら、お目付け役にはピッタリじゃろうと思ってな。ほら、お主はすぐに無茶をするから。」

 

「余計なお世話だ、クソジジイ。」

 

「かぁ〜。言うようになったのぉ。ちっちゃくて素直だった、志村転孤くんが懐かしいわい。」

 

「・・・ここにはもう、いねえよ。そんな奴。」

 

 出会ってから10年以上経つが、ドクターは相変わらずドクターだった。

 

 その技術力は増すばかり。連合の活動には役立っているものの、いつ暴走するか分からないから、コッチはずっとヒヤヒヤする。定期的に釘を刺しているので、一応、一線を越えてはいないだろうが。

 

 で、そんなドクターが送り込んできたのが、この白霧だ。その時点で碌な奴じゃないだろう。

 

『いやぁ〜会えて嬉しいぜ弔!意外とちっちぇんだな〜。よしよし〜。』

 

「やめろっ、そのモヤモヤで頭触んな!感触がキモい!」

 

『あー悪い悪い。なんか弔が小猫みたいでさ〜。つい。』

 

「なんなんだテメエは、」

 

 白霧はうざったい程にお節介な奴だった。だが、個性が便利なので、ドクターへのクーリングオフもできない。それが余計にタチが悪かった。

 

『なあなあこれから俺たち、一緒に仕事するわけだし、色々決めとこうぜ?お互いのあだ名とか、連携技とか。』

 

「そんなもんは必要ない。お前は送り迎えだけしてろ。」

 

 連合の活動と個性の訓練に明け暮れていた僕に、あの白いモヤモヤは事あるごとにダル絡みをし、邪魔してくるのだ。

 

『なあ、弔っち〜。』

 

「やめろその呼び方。僕は一応、組織のトップだぞ。」

 

『あー悪い悪い。でさ、この近くに遊園地あるらしいぜ!せっかく今日は遠出したんだし、2人で寄ってかねえか?』

 

「行くか、んなとこ。っていうかお前、その面で入園できるとでも思ってんのか。」

 

『大丈夫。堂々としてればバレねえって。あ、その遊園地、カップル割りあるってよ。ラッキー。』

 

「何がカップル割だ。そんなくだらない・・・白霧、お前女だったりしねえよな?」

 

『ヘヘッ、バレちまったか♡』

 

「くだらねえ嘘はやめろ!」

 

 白霧は本当に鬱陶しい奴だった。あんな奴に構っている時間などないというのに。魔王不在の穴を埋めるため、もっともっと僕は強くならなくちゃいけないんだ。

 

 長年の修行と実戦経験のお陰で、多少は力もついてきた。だが実績は、せいぜい各国の犯罪組織を、2、3個潰した程度に過ぎない。

 

 かつて、世界中の犯罪組織を根こそぎ刈り尽くしていた、先生の全盛期には到底及ばないのだ。だからこそ、更なる努力が必要だ。一分一秒が惜しい。日々の鍛錬をより徹底して、

 

『ほら弔っち、アイス買ってきたぞ!しかも10段重ねのやつ!これ凄くね!?』

 

「修行の邪魔すんなって、いつも言ってんだろうが!」

 

『なんだよ。アイス嫌いか?』

 

「・・・勿体ねえから寄越せ。」

 

 白霧からブツを受け取り近くのベンチに腰掛け、装着していた仮面を外す。

 

 奴の誘いに乗ったのはその日が初めてだった。ほんの気まぐれ。断じてアイスに釣られたわけではない。

 

 なのに奴は、10段アイスをモヤモヤの中に押し込みながら、嬉しそうに話しかけてくる。

 

 っていうかコイツ、あれで食事できてるのか?

 

『良かったよ、弔っちがコレを気に入ってくれて。やっぱあれだな。アイスが嫌いなガキなんていないわな!』

 

「誰がガキだ!」

 

『ガキはガキだろ。お前はまだ、15歳のお子ちゃまだ。少なくとも俺にとってはな。少しは休みと遊びを覚えろ。修行にしても効率悪いぞ、逆に。』

 

「・・・うっせえ。」

 

 ソイツはいつも俺をガキ扱いしてきた。それが堪らなくうざかった。そして怖かった。

 

 奴の眼には、敵連合のリーダーである死柄木弔でなく、僕が一度は捨てたはずの15歳の少年・志村転孤が、映っていた気がしたから。

 

「なあ白霧。1つ聞いていいか?」

 

『俺の好きなタイプか?』

 

「ちげえよ!お前、そうなる前はどんな奴だったんだ?」

 

『・・・まあ、明るい方ではあったけど、今ほど陽気ではなかった、かな?え、どう思う?』

 

「俺に聞くな。」

 

『そういうお前はどうなんだ?昔の話、全然しねえだろ。』

 

「・・・・・・僕は、泣き虫の役立たずだった。理想ばかりが先行して、まるで実力が伴わない。間違いだらけの黒歴史だよ。そんな自分を変えたくて、僕は死柄木弔になったんだ。」

 

 いつの間にか溶けていたアイスが、グチャリと崩れて落ちていく。

 

「あ、」

 

『おっと危ねえ!』

 

 しかし、アイスは地面に着く前に、割って入った白いモヤへと吸い込まれていくのだった。

 

「悪い。」

 

『おお、良いって事よ。それより、さっきの続きなんだけどさ。』

 

 白霧はベンチへと座り直す。そこからの口調は、いつになく真剣なものだった。

 

『過去の自分を無理に捨てなくたって、いいんじゃねえの?』

 

「はぁ?」

 

『死柄木弔も志村転孤も、どっちも本当のお前なんだ。どっちが間違ってるとか、どっちかを消さなきゃいけないとか、そういう話でもない。』

 

「さっきからぺちゃくちゃと。何が言いてえんだお前は。」

 

『もう少し、自分の中の志村転孤に素直になれって言ってんだ。』

 

「・・・・・・」

 

 こっちの僕は、先生と出会ったあの日以来、志村転孤の家族と顔を合わせていない。コピーの方に任せきりだ。

 

 一応、2倍によるコピーを作り直すたびに、分身の体験は本体にもフィードバックされるのだが、それが何とも気持ち悪い。

 

 あの家で、大好きな家族と幸せに暮らしている僕の笑顔は、僕のものであって僕のものではないのだから。

 

『本当は会いてえんじゃねえか?志村転孤として、自分の家族に。』

 

「・・・僕は、」

 

 会いたいに決まっている。

 

 皆んなの様子をこの目で見たいし、久々にお母さんの料理食べたいし、あの夜から今日までについて山ほど話したい事がある。

 

 でも、それ以上に、

 

「ダメなんだ。今の僕じゃ、」

 

 片手に持っていた仮面で、再び顔を覆う。

 

『・・・そうか。』

 

 この手で触れて家族を消した、あの日の感覚が忘れられない。あの個性が僕の中から消え去っても、僕の過去まで消えるわけじゃないんだ。

 

 家族の皆んなは優しすぎる。僕が事情を話せばきっと許してくれるだろう。

 

 でも他の誰よりも、僕自身が志村転孤を許せずにいるんだ。少なくとも、今は。

 

 そういう意味では、アッチの僕には中々酷な事をさせてしまっている。

 

『やれやれ。ウチの大将は想像以上に頑固者だったみてえだな。まあ、気が変わったらいつでも言え。どこへでも連れてってやるからよ。』

 

「余計なお世話だ。」

 

『ま、それをするのが俺の役目だからな。』

 

 本当に余計なお世話だ。

 

 奴といると自分が分からなくなるから。志村転孤が恋しくなってしまうから。

 

「それより今は、一月後に控えた計画に向けての調整だ。」

 

『次の標的はウォルフラムだったか。なかなかの大物だ。一筋縄じゃいかないだろうな〜。』

 

「ああ。だから確認は入念にしておく。僕とお前の連携もだ。」

 

『お、ちょっとは俺を信用してくれる気になったのか?』

 

「使えるもんは使わせてもらう。それだけだ。」

 

 白霧の気遣いは、本当の本当に余計なお世話だった。

 

 でも、誰かにここまで世話を焼かれるのも、打算の無い善意を向けられるのも、本当に久しぶりで、不思議と悪い気はしなかった。

 

 だからその礼代わりに、ほんの少しくらいはこっちから歩み寄ってやろうと思う。

 

「・・・・・・ありがとな。その、白霧っち。」

 

『はぁ?あだ名のセンスねー。』

 

「ざけんな!!!!!!」

 

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