引退したいオールマイト vs 自首したいAFO vs 何も知らない緑谷出久 作:バケギツネ
◇
『よお、俺は白霧。よろしくな、死柄木弔!」
「あ、ああ。よろしく。」
アッチの志村転孤が高校を卒業する頃。
敵連合のリーダーとして世界各地で動いていた僕の元に、ドクターからの遣いが送られてきた。
パッと見で人間じゃないと分かる奴は、明らかに改造人間の脳無。ドクターの話では、先生が10年以上前に救出していたヒーロー科の学生を、本人の許可を得た上で改造したらしい。
その調整がようやく終わったから試験運用がしたいとかで、僕の元に無理やり送りつけてきやがった。
「先生は、脳無の素体の感情を重視しとったからのぉ。白霧にもその特徴が色濃く出ている。面倒見の良い奴なら、お目付け役にはピッタリじゃろうと思ってな。ほら、お主はすぐに無茶をするから。」
「余計なお世話だ、クソジジイ。」
「かぁ〜。言うようになったのぉ。ちっちゃくて素直だった、志村転孤くんが懐かしいわい。」
「・・・ここにはもう、いねえよ。そんな奴。」
出会ってから10年以上経つが、ドクターは相変わらずドクターだった。
その技術力は増すばかり。連合の活動には役立っているものの、いつ暴走するか分からないから、コッチはずっとヒヤヒヤする。定期的に釘を刺しているので、一応、一線を越えてはいないだろうが。
で、そんなドクターが送り込んできたのが、この白霧だ。その時点で碌な奴じゃないだろう。
『いやぁ〜会えて嬉しいぜ弔!意外とちっちぇんだな〜。よしよし〜。』
「やめろっ、そのモヤモヤで頭触んな!感触がキモい!」
『あー悪い悪い。なんか弔が小猫みたいでさ〜。つい。』
「なんなんだテメエは、」
白霧はうざったい程にお節介な奴だった。だが、個性が便利なので、ドクターへのクーリングオフもできない。それが余計にタチが悪かった。
『なあなあこれから俺たち、一緒に仕事するわけだし、色々決めとこうぜ?お互いのあだ名とか、連携技とか。』
「そんなもんは必要ない。お前は送り迎えだけしてろ。」
連合の活動と個性の訓練に明け暮れていた僕に、あの白いモヤモヤは事あるごとにダル絡みをし、邪魔してくるのだ。
『なあ、弔っち〜。』
「やめろその呼び方。僕は一応、組織のトップだぞ。」
『あー悪い悪い。でさ、この近くに遊園地あるらしいぜ!せっかく今日は遠出したんだし、2人で寄ってかねえか?』
「行くか、んなとこ。っていうかお前、その面で入園できるとでも思ってんのか。」
『大丈夫。堂々としてればバレねえって。あ、その遊園地、カップル割りあるってよ。ラッキー。』
「何がカップル割だ。そんなくだらない・・・白霧、お前女だったりしねえよな?」
『ヘヘッ、バレちまったか♡』
「くだらねえ嘘はやめろ!」
白霧は本当に鬱陶しい奴だった。あんな奴に構っている時間などないというのに。魔王不在の穴を埋めるため、もっともっと僕は強くならなくちゃいけないんだ。
長年の修行と実戦経験のお陰で、多少は力もついてきた。だが実績は、せいぜい各国の犯罪組織を、2、3個潰した程度に過ぎない。
かつて、世界中の犯罪組織を根こそぎ刈り尽くしていた、先生の全盛期には到底及ばないのだ。だからこそ、更なる努力が必要だ。一分一秒が惜しい。日々の鍛錬をより徹底して、
『ほら弔っち、アイス買ってきたぞ!しかも10段重ねのやつ!これ凄くね!?』
「修行の邪魔すんなって、いつも言ってんだろうが!」
『なんだよ。アイス嫌いか?』
「・・・勿体ねえから寄越せ。」
白霧からブツを受け取り近くのベンチに腰掛け、装着していた仮面を外す。
奴の誘いに乗ったのはその日が初めてだった。ほんの気まぐれ。断じてアイスに釣られたわけではない。
なのに奴は、10段アイスをモヤモヤの中に押し込みながら、嬉しそうに話しかけてくる。
っていうかコイツ、あれで食事できてるのか?
『良かったよ、弔っちがコレを気に入ってくれて。やっぱあれだな。アイスが嫌いなガキなんていないわな!』
「誰がガキだ!」
『ガキはガキだろ。お前はまだ、15歳のお子ちゃまだ。少なくとも俺にとってはな。少しは休みと遊びを覚えろ。修行にしても効率悪いぞ、逆に。』
「・・・うっせえ。」
ソイツはいつも俺をガキ扱いしてきた。それが堪らなくうざかった。そして怖かった。
奴の眼には、敵連合のリーダーである死柄木弔でなく、僕が一度は捨てたはずの15歳の少年・志村転孤が、映っていた気がしたから。
「なあ白霧。1つ聞いていいか?」
『俺の好きなタイプか?』
「ちげえよ!お前、そうなる前はどんな奴だったんだ?」
『・・・まあ、明るい方ではあったけど、今ほど陽気ではなかった、かな?え、どう思う?』
「俺に聞くな。」
『そういうお前はどうなんだ?昔の話、全然しねえだろ。』
「・・・・・・僕は、泣き虫の役立たずだった。理想ばかりが先行して、まるで実力が伴わない。間違いだらけの黒歴史だよ。そんな自分を変えたくて、僕は死柄木弔になったんだ。」
いつの間にか溶けていたアイスが、グチャリと崩れて落ちていく。
「あ、」
『おっと危ねえ!』
しかし、アイスは地面に着く前に、割って入った白いモヤへと吸い込まれていくのだった。
「悪い。」
『おお、良いって事よ。それより、さっきの続きなんだけどさ。』
白霧はベンチへと座り直す。そこからの口調は、いつになく真剣なものだった。
『過去の自分を無理に捨てなくたって、いいんじゃねえの?』
「はぁ?」
『死柄木弔も志村転孤も、どっちも本当のお前なんだ。どっちが間違ってるとか、どっちかを消さなきゃいけないとか、そういう話でもない。』
「さっきからぺちゃくちゃと。何が言いてえんだお前は。」
『もう少し、自分の中の志村転孤に素直になれって言ってんだ。』
「・・・・・・」
こっちの僕は、先生と出会ったあの日以来、志村転孤の家族と顔を合わせていない。コピーの方に任せきりだ。
一応、2倍によるコピーを作り直すたびに、分身の体験は本体にもフィードバックされるのだが、それが何とも気持ち悪い。
あの家で、大好きな家族と幸せに暮らしている僕の笑顔は、僕のものであって僕のものではないのだから。
『本当は会いてえんじゃねえか?志村転孤として、自分の家族に。』
「・・・僕は、」
会いたいに決まっている。
皆んなの様子をこの目で見たいし、久々にお母さんの料理食べたいし、あの夜から今日までについて山ほど話したい事がある。
でも、それ以上に、
「ダメなんだ。今の僕じゃ、」
片手に持っていた仮面で、再び顔を覆う。
『・・・そうか。』
この手で触れて家族を消した、あの日の感覚が忘れられない。あの個性が僕の中から消え去っても、僕の過去まで消えるわけじゃないんだ。
家族の皆んなは優しすぎる。僕が事情を話せばきっと許してくれるだろう。
でも他の誰よりも、僕自身が志村転孤を許せずにいるんだ。少なくとも、今は。
そういう意味では、アッチの僕には中々酷な事をさせてしまっている。
『やれやれ。ウチの大将は想像以上に頑固者だったみてえだな。まあ、気が変わったらいつでも言え。どこへでも連れてってやるからよ。』
「余計なお世話だ。」
『ま、それをするのが俺の役目だからな。』
本当に余計なお世話だ。
奴といると自分が分からなくなるから。志村転孤が恋しくなってしまうから。
「それより今は、一月後に控えた計画に向けての調整だ。」
『次の標的はウォルフラムだったか。なかなかの大物だ。一筋縄じゃいかないだろうな〜。』
「ああ。だから確認は入念にしておく。僕とお前の連携もだ。」
『お、ちょっとは俺を信用してくれる気になったのか?』
「使えるもんは使わせてもらう。それだけだ。」
白霧の気遣いは、本当の本当に余計なお世話だった。
でも、誰かにここまで世話を焼かれるのも、打算の無い善意を向けられるのも、本当に久しぶりで、不思議と悪い気はしなかった。
だからその礼代わりに、ほんの少しくらいはこっちから歩み寄ってやろうと思う。
「・・・・・・ありがとな。その、白霧っち。」
『はぁ?あだ名のセンスねー。』
「ざけんな!!!!!!」